2014/06/01 本日の日本経済新聞より 「日曜に考える 技術の海外流出 防ぐには 新法制定 国の保護必要 キヤノン取締役 長沢健一氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の9面(日曜に考える)にある「技術の海外流出 防ぐには 新法制定 国の保護必要 キヤノン取締役 長沢健一氏」です。





 日本企業の技術情報が海外に流出する事件が相次ぎ、産業界で厳しい罰則などを盛り込んだ「企業秘密保護法」の制定を求める声が高まっている。知的財産の保護に熱心なキヤノンの長沢健一取締役と、内閣府知的財産戦略本部・営業秘密タスクフォース議長の渡部俊也東京大学教授に対策などを聞いた。

(聞き手は編集委員 渋谷高弘、瀬川奈都子)

 ――新日鉄住金や東芝が技術を盗まれたとしてライバルの韓国企業を訴えました。技術流出は深刻ですか。

 「極めて深刻だ。実は当社でも2年ほど前、未遂事件があった。キヤノンの中国子会社に長期間出向していた社員が、中国のある部品会社に転職することが決まった。その社員は転職の直前、部下に命じて当社の部品の図面やコストなどの情報を調べさせ、転職先に情報を電子メールで送ろうとしたことが発覚した」

 「その中国の会社はキヤノンとの取引を望んでおり、情報を渡して便宜を図ろうとしたようだ。当社のシステム部門が電子メールをチェックしていたため、情報漏れは未然に防いだが、もし紙に情報を印刷して社外に持ち出そうとしていたら、防げたかどうか分からない」

 ――日本企業の秘密が狙われるのはなぜですか。

 「企業が自社技術をライバル社から守るには、特許で守る方法、秘密にして守る方法の2つがある。カメラなど一般に流通する製品は特許で守るのが普通だ。特許出願すれば、その情報は1年半後に公開されるし、どうせライバル社が商品を買って分解すればどんな技術を使っているか分かる。秘密にしても意味が小さい」

 「長年、新興国のライバル企業は日本企業が自国で特許出願した公開情報を徹底的に調べ、(日本特許の効力が及ばない)他国で模倣製品を売って稼いだとされる。以前は日本企業も海外への特許出願が手薄で、それを逆手にとられた。しかし最近はさすがに海外へも特許出願し、特許出願すべきではない技術は秘密にして守るようになった。そこで新興国企業は日本企業の秘密を入手するために、技術者の引き抜きなどを盛んに仕掛けているといわれる」

 ――秘密にして守るべき技術とはどんなものですか。

 「たとえば半導体製造装置や航空機など一般市場では入手できない製品だ。工場の製造ラインやプラントのノウハウなど、外部者の目に触れることがない技術もそうだ。こうした技術を企業が生み出すには、何人もの研究者によって10年近い歳月がかかる。それを特許出願すれば、1年半で公開され、まねされるリスクが高まる。仮にまねされたことに気付いても、相手の工場などを調べるのは難しく、訴えることができない」

 「日本企業にとって、かつては秘密より特許の方が重要だった。多くの特許を持てば、それを交渉材料に欧米の先行企業と特許を使い合うクロスライセンス契約を結べる。互いに競合製品を作っても価格の安い日本製品は優位を保てた。だが現在では特許のクロスライセンスで有利なのは新興国企業。日本企業は独自の技術を秘密にして守る割合を高め、外国企業がまねできないようにする必要が高まっている。今では秘密の保護は特許と同じくらい大切だ」

 ――経団連は2月、不正な技術流出への対策を急ぐよう提言しました。

 「企業の技術情報は競争力に直結し、国の財産ともいえる。流出を防ぐために、分かりやすい新法の制定を来年の通常国会で目指すべきだ。現在、技術情報を含む営業秘密は不正競争防止法(不競法)で保護されている。ただ、この法律は国内で公正な競争を確保することが主目的で、保護対象には顧客名簿や秘伝のタレといった様々な情報が含まれている。法改正という手もあるが、新法が望ましい」

 ――新法に、どんな規定を設けることを期待しますか。

 「米国や韓国のように、海外に秘密を流出させた者には特に重い罰金を科すべきだ。現在の不競法では被害企業が情報を集めて損害を立証する責任があり、有力な証拠が見つからないと提訴は難しい。企業の負担を減らすために、深刻な事件の場合には警察や司法が捜査に踏み切る仕組みも入れるべきだ」

 ――企業の工夫で技術流出を防ぐことは無理ですか。

 「秘密を法的に保護するためには、社内の情報を重要性によってランク付けし、その情報にアクセスできる人も制限するなど情報管理しなければならない。当社ではそうした管理も行い、全社員に講習会やeラーニングでの教育も実施している。重要な秘密に接した社員が退職するときには、具体的な内容を示して秘密を守るよう誓約書も提出してもらっている。しかし、意図的な情報の持ち出しを完全に防ぐことは難しい。新法による抑止効果が必要だ」

ながさわ・けんいち 81年キヤノン入社。欧米での勤務を経て10年4月執行役員知的財産法務本部長。12年3月から現職。55歳。

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