2014/09/07 本日の日本経済新聞より「がん社会を診る 全体の5%が遺伝性 中川恵一」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の健康面にある「全体の5%が遺伝性 中川恵一」です。





 がんは遺伝子が主に加齢によって傷つくことでできる病気です。基本的に遺伝しません。ただし、遺伝性のがんも全体の5%あり、「家族性腫瘍」と呼ばれます。

イラスト・中村久美

 昨年5月、米ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、家族性腫瘍の予防のために両方の乳腺組織を切除したと発表しました。彼女は実際に乳がんを発症したわけではありません。

 BRCA1と呼ばれる「がん抑制遺伝子」に生まれつき異常があることが分かったため、健康な乳腺組織を予防的に取り除いてシリコーンで置き換えたのです。彼女のようにBRCA1に変異がある場合、発がんリスクは非常に高くなり、とくに、乳がんと卵巣がんの発生確率はそれぞれ約65%、40%に上ります。

 がん抑制遺伝子には細胞のがん化を防ぐ働きがあります。遺伝子は両親から1つずつ受け継ぎますが、家族性腫瘍の患者では、片方のがん抑制遺伝子に生まれつき異常があるのです。ジョリーさんの場合、母親も若くして卵巣がんと乳がんを発症していますから、母方の家系から異常なBRCA1遺伝子を受け継いだと思われます。

 なお、彼女にはパートナーのブラッド・ピットさんとの間に3人の実子がいますが、異常な遺伝子は子供にも50%の確率で遺伝することになります。男性に変異型のBRCA1遺伝子が受け継がれると、若年性前立腺がんや男性乳がんを発症しやすくなるため、欧米では予防的な前立腺全摘まで実施されています。

 がん抑制遺伝子の片方が生まれつき働かなくなっていると、残るもう一方の遺伝子に傷がつくだけでがんが発生しやすくなります。これは、坂道を下る自転車の前輪のブレーキが最初から壊れているようなものです。後輪のブレーキが利いているうちは何の問題もないように見えますが、もし、後輪のブレーキも壊れれば大けがにつながります。

 両方のブレーキが壊れるまでには時間がかかりますが、ジョリーさんのように片方がもともと壊れているケースでは発症までの時間が短くなります。家族性腫瘍が若い人に多いのはこのためです。

 ただし、遺伝はがんの原因の5%ですから、家族性腫瘍はあくまで例外的です。生活習慣の方がずっと大事です。

(東京大学病院准教授)

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