2014/09/10 本日の日本経済新聞より「(強まる地政学リスク(上))中間層の台頭「混乱」生む チャールズ・キング ジョージタウン大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「(強まる地政学リスク(上))中間層の台頭「混乱」生む チャールズ・キング ジョージタウン大学教授」です。





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 オバマ米大統領は最近、「世界はこれまでも常に混乱していた」と発言し、こう続けた。「人々が現在直面している困難には、ソーシャルメディアとわれわれの洞察力のおかげで、ようやく気づいたところだ」

 これは、大統領というよりも大学の先生の発言である。たしかに世界は常に混乱していたし、おそらくは今日以上に混乱していただろう。それに、ツイッターやフェイスブックやユーチューブのおかげで、人々が世界の混乱を自分の目で確認できるようになったこともまちがいない。たとえば、(過激派武装組織「イスラム国」による)米国人ジャーナリストの殺害から、パキスタンでの激しい反政府デモ、ガザでの徹底的な破壊に至るまで、直接見ることができる。

 だがオバマ大統領のこの発言に認められる政治感覚は、ガリ元国連事務総長が1993年に示したものと変わらない。ガリ氏は、包囲攻撃されたボスニア人聴衆に向かって、サラエボより悲惨な状況はいくらでもあると述べたのだ。なるほど事実としてはその通りだろう。だが政治的にはあまりに不用意な発言である。

 オバマ大統領の発言も、悲惨だが対処可能な問題と、国際関係の必然の結果としての「混乱」とを区別できていないことを示す。今日の世界は、多くの点から、国際秩序の通常の複雑さをはるかに上回る困難な問題に直面していると考えられる。これらの問題は国内外の3つの共通した要因から生じ、急激に制御不能に陥るのである。

 第1に、世界では多くの国がきわめて特殊な政治的不安定性を抱えている。新たに力を持つようになった中間層の価値観、利害、思想が、伝統的なエリートの特権的地位を脅かしていることだ。

 トルコを例にとると、公正発展党(AKP)が2002年以来、単独政権を維持してきたのは、主にエーゲ海沿岸の伝統的な都市以外から出てきた、保守的なエリートの台頭によるところが大きい。

 エルドアン前首相は憲法改正を行い、今年8月に初の直接選挙による大統領に就任した。新政府は体制派を利する大規模建設プロジェクトを推進する一方、少数党の政治家を締め出し、1923年からトルコ共和国の国是だった世俗主義に疑義を呈している。

 世界の多くの国、とりわけ急成長中の社会は、同様の変化を経験してきた。トルコと同じく、一般市民の統治能力を信用しない一握りの政治・経済エリートに長年支配されてきたこれらの「成長途上国家」は、猛烈な勢いで改革を進め、国家主導で経済成長をめざす体制を整え、独自の近代世界の型に社会をはめ込もうとした。

 だがこのタイプの国には、近代化の実現には1つの型しかないという思い込みがあった。しかしトルコであれどこであれ、新たに力を持った中間層は、その地位を享受しつつ支配エリート層に対抗できることに気づいている。

 米国の共和党系ティーパーティー運動、エジプトのムスリム同胞団、タイの赤シャツ隊(反独裁民主前線)などは「混乱」の具体例といえよう。このように、新しい社会階層の急増は、右派左派を問わず政治に声を上げる集団の出現につながっている。

 第2に、おそらく冷戦終結以降で初めて、欧米の自由主義モデルの支配に挑戦状を突きつける論理的に一貫した国家モデルが出現した。この新しいモデルを最も声高に主張してきたのはロシアのプーチン大統領だが、決して彼一人ではない。

 プーチン大統領が今年3月に行ったクリミアの強制編入の承認を求める議会演説は、過去四半世紀の米国の外交政策に対する最も一貫性のある批判といえるだろう。この演説は、米国が国際関係において当然の前提としてきた原則を暗に否定した。

 新しい国家モデルの特徴は5つの「S」で表せる。主権(sovereignty)、影響圏(spheres of influence)、安全保障(security)、国家主義(statism)、そして社会保守主義(social conservatism)である。

 このモデルを支持する人々は、自国の国境を絶対不可侵とみなす一方で、自国の影響力は国境を越えて拡散すると信じており、他国はこの影響力を認めるべきだとする。地域大国が治安維持を担う相互排他地域がモザイク状に組み合わされた状況こそ、世界の平和が最大限に保証されるというのだ。

 そして安全保障を重視し、国防を最優先するが、その安全保障の定義は極端に広く、ジャーナリスト、野党の政治家、異教徒、さらには無遠慮なミュージシャンまで、敵とみなす。外国人と手を組んでいればなおさらだ。

 このモデルが掲げるのは、支配的な強い国家、市民の忠誠、国内の不安要素の排除である。国家は法を作っても、その対象にはまずならないという認識だ。この国家中心主義的な理念は、国家が認める独占企業や支配エリート層と利害の一致する企業が金融・貿易・産業を主導する限りにおいて、市場主義とも完全に両立する。また、欧米が理想とする寛容や多文化主義を退廃的で弱腰とみなし、これに対抗しうるものとして社会保守主義を擁護する。

 5つのSは、外見や程度の違いはあれ、ロシア、中国、ナイジェリア、北朝鮮などに容易に見つかる。かつて自由主義・民主主義モデルの勝利は「歴史の終わり」として高らかに宣言されたことがあった。だがこの新しい5Sモデルの台頭は、自由主義モデルにとって次第に重大な思想的脅威となっている。

 第3に、もともと力を持たなかった国際機関が、オバマ大統領の言う「混乱」を助長したと非難されている。最近ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が指摘したように、近年思い出せる限りにおいて、国家を超えた話し合いの場がこれほど必要とされながら実現しないことは、かつてなかった。

 国連安全保障理事会は、重要な問題の多くについて絶望的に機能していない。欧州連合(EU)は、コソボ独立、ユーロ危機、ウクライナ問題のたびに結束が揺らぐ。東アジアにおける米国の同盟国関係は領有権問題に脅かされ、一触即発の状況だ。そして中東では、緊張をはらむとはいえ十分予測可能だったはずのイスラエル、イラン、アラブ諸国による互いの反目が深刻になり、同盟関係の不安定化・複雑化や宗派・民族・領土の紛争につながっている。

 金融に関する限り、2008年のグローバル金融危機は「システムが機能した」ことを実証するものだったと、政治学者のダニエル・ドレズナー氏は語った。だが他のほとんどの領域では、システム自体が存在しない。

 ここに挙げた問題は、どれも一国で解決できるものではない。また、オバマ批判派が主張するように、米国が強力な指導力を発揮すれば済むような話でもない。多くの国にみられる動向は、国際政治における重大な構造変化の表れであり、この構造変化の大半は、各国の国内政治の変化に根ざしている。

 グローバルなコミュニケーションが瞬時にとれる時代にあっても、政治が基本的にローカルなものであるというのは、いまなお真実である。たとえ、それが国際政治に及ぼす影響が、途方もなく大きいとしてもである。

<ポイント>○力つけた中間層が支配層揺らし不安定に○新たな国家モデルが欧米自由主義に挑戦○米国が強い指導力を発揮しても解決困難

 Charles King オックスフォード大博士(政治学)。専門は国家主義、民族政治

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