2014/09/22 本日の日本経済新聞より 「核心 金も人も 英国の吸引力 「外資」狙う日本にヒント」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の4面(オピニオン)にある「核心 金も人も 英国の吸引力 「外資」狙う日本にヒント」です。





 錦織圭選手の全米オープンでの躍進は、日本のニュースをめったに流さない英国のメディアも熱心に報じていた。日本人にとっては来夏のウィンブルドン選手権をみる楽しみが広がる。

 ウィンブルドン現象という言い方がある。国内の市場を対外開放した結果、海外勢が市場を席巻してしまう現象だ。19世紀、アマチュアの試合だったウィンブルドンが、いつしかテニス大会の世界最高峰になり、英国人が優勝から遠ざかるようになった。そこから取った比喩である。

 ウィンブルドン現象の元祖はロンドンの金融の核、シティーだ。1980年代にサッチャー首相がビッグバン(大爆発)と形容された規制改革を推し進め、英金融機関の多くが海外資本に買収された。

 英国は産業革命の発祥国だが、今や製造業はほとんどみる影がない。金融、不動産、交通、小売り、エネルギーなどサービス業が経済の先導役だ。それらはロンドン一極に集中する。

 かつて炭鉱や造船で栄えたスコットランド最大の都市グラスゴーの衰退は、サッチャー改革が重厚長大産業の淘汰を加速させたのが一因だ。富が集まるロンドンへの反発心が、スコットランドの人びとを独立運動に駆り立てた面もある。

 住民投票をめぐっては、独立なら英国の人口が530万人減り国土が3割削られ、国力を弱めるという論を展開したメディアがあった。だが、これは単純にすぎる。サービス産業化の進展は都市国家のようなロンドンの優位性を際立たせるからだ。独立という結果が出ていたとしても、外資の流入が滞るとは考えにくい。

 たとえばロンドンの公共交通を代表する、市内を縦横に走る2階建てバス。経営するのは市のロンドン交通局だが、運行は民間企業が分担している。交通局が入札で決める委託先には英企業に交じって独、仏、オランダ、シンガポール系の企業が入っている。

 国際線の利用客数が世界トップ級のヒースロー空港を保有・運営する会社にはカタール、シンガポール、中国などのファンドが出資した。公設でも運営は民に任せるのがサッチャー改革の肝。加えて国内に適当な企業が見つからなければ、外資にどんどん入ってもらうのを旨とする。

 不動産業はもっと先をゆく。シティーに林立する金融機関の建物の所有者は、英企業より外資系のほうが多いというデータを、あるコンサルタント会社が見せてくれた。マレーシア、シンガポール、中国系などアジア勢が主体だ。

 都心のホテルやマンションにも中東やロシアを含めて海外から資金が流れ込んでくる。ハイドパークのすぐ南、ブランド店が並ぶ一角に建つ最高級マンションには、夜も灯がつかない空き部屋が目立つ。家主が売り時を逃さぬよう入居者を募集しないからだ。

 直接投資の受け入れは英国が断トツ。経済協力開発機構(OECD)、国際通貨基金(IMF)などの調べ(2012年)によると、国内総生産(GDP)に対する投資残高はOECD平均の30%強に対し、英国は50%を超す。リーマン危機のときは40%弱に落ち込んだが、ふたたび隆盛を極めている。ちなみに日本は最低の3%台。この10年間、ひとり底をはい続けている。

 成長のための資金を海外に頼る英経済は、一面でもろさを抱える。今春、ウクライナ・クリミア半島に介入したロシアに対して欧米主要国が最初の経済制裁を決めようというとき、キャメロン英首相の安全保障担当補佐官が手にした機密文書をパパラッチのカメラがとらえた。それには「ロシアの投資家はシティーから締め出されるのを望んでいない」などの文言。不動産バブルの破裂を恐れる政権ならではだ。

 ウィンブルドン現象を英国民はどう受け止めているのか。ロンドンには「不動産バブルが平均的な所得層を中心部から締め出した」と嘆きつつも「ビジネスはビジネス」と割り切る市民が多い印象を受ける。

 翻って日本が受け入れた直接投資の残高は12年末で17兆8千億円。安倍政権は東京五輪を開く20年に35兆円へ倍増させると、6月の日本再興戦略でうたった。民主党政権を含めて歴代政権は成長戦略の要として直接投資の拡大を訴えたが、ことごとく失敗した。「6年で倍増」は成就するか。

 英国に暮らしていて痛感させられるのは、金とともに人を貪欲に受け入れていることだ。戦後の移民政策は大戦で激減した若者の補充から始まった。まず旧植民地のインドやパキスタンから、50年代はカリブ海の島国から。経済の再建には若くて安い労働力をふんだんに確保する「人口ボーナス」が不可欠だった。

 さらに欧州連合(EU)の結成に向けた市場統合のうねりが、中東欧からの受け入れを加速させた。最近の送り出し国の主役はポーランド、ルーマニア、ブルガリア。流れ込む金が人を惹(ひ)きつけ、集まり住む人びとが金を引き寄せる循環である。5月の欧州議会選でのEU懐疑派の躍進は、移民政策がそれだけ根付いていることの証左だ。

 日本は移民政策をもたない。採用するか否かは国家百年の選択になる。直接投資を倍増させるには、金のことだけを考えていても確たる結果は残せまい。それは、はっきりしている。

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