2014/10/13 本日の日本経済新聞より 「経済教室 消費税再増税の論点(下)大幅な法人減税が大前提 浜田宏一 エール大学名誉教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の17面(経済教室)にある「費税再増税の論点(下)大幅な法人減税が大前提」です。

世界的に経済が減速傾向である。そして、今後、日本のみならず、ドイツ、中国、韓国など、人口減に悩む国々が増える。そんな中で、次世代の需要を担う新興国の成長の足取りが鈍っているのは、将来の世界経済に暗い影を落とす。つまり、今や法人減税による諸外国からの企業誘致は必須であり、分捕り合戦ぐらいの覚悟で臨まなければならない。ただし、移民政策は、それが引き起こす負の面が大き過ぎるゆえ、導入すべきでない。

 総需要に働きかけるアベノミクスの第1の矢(金融緩和)と第2の矢(財政政策)は予想以上の効果を発揮し、失業率や国内総生産(GDP)ギャップなど実質指標が全国的に改善している。政府の歳入も上向き、日本経済の将来に希望が戻りつつある。

 「失われた20年」から日本経済を救ったのは、それまで行われなかった金融緩和策を大胆に試みた安倍晋三首相の英断である。黒田東彦総裁のもとで適切な金融政策を続けた日銀も高く評価される。

 他方、本田悦朗・内閣官房参与や筆者が心配したように、4月の消費増税は消費抑制をもたらし、民間エコノミストには在庫動向や家計調査などから、景気の先行きに不安感を持つ者もかなりある。

 景気は今や強気と弱気の交錯する潮目の時期にある。次の消費税率の10%への引き上げの是非を巡る判断は、第1次増税後の反動というノイズの多い4~6月期のGDPによらず、7~9月期をみてからにするという首相の方針は正しい。もし結果が思わしくないならば、増税を延期することも考えられる。

 景気が潮目を迎えた理由はほかにもある。つまり第1、第2の矢である需要喚起策は、その成功ゆえに供給のネックを生み次第に効果が弱まる。実際、部分的には人手不足も目立ち、いずれはデフレの解消だけでなくインフレ再燃にも注意が必要となろう。そこで今後は政策の軸足を第3の矢の成長戦略に移す必要が生まれているのである。

 日本企業がすでに世界の技術の先端にいる現在、政府が有望企業を選び「租税特別措置」などで助成する旧来型の産業政策は有効でない。官僚には民間の創意工夫以上に、将来の成長産業を選び技術革新を導ける能力はないからである。したがって規制緩和と法人税改革が、第3の矢で重要な位置を占めるのである。

 昨年春、ある外国人向けの説明会で「法人税減税」をアベノミクスの一つの手段に挙げようとしたら、主催者である内閣府から「投資減税」に変えてくれといわれた。何とはなしに従ってしまったが、その裏に、第3の矢を旧産業政策のレベルに矮小(わいしょう)化しようとする意図が隠れていたのかもしれない。

 小泉純一郎政権下で経済財政相などを務めた竹中平蔵氏はその著書で、財務省は法人税率引き下げに反対し、代わりに投資減税などの企業活性化税制を提案したと振り返る。そのうえで「多くの政治家はこれに乗った。(中略)恒久的に税率が引き下げられると、後々の政治介入の余地がなくなる」と明かしている。この指摘からも、今でも規制改革や法人減税でなく投資減税、つまるところ旧産業政策が、政治家、官僚に人気を保っている理由がわかる。

 日本の法人税の実効税率は35.64%(国税と地方税の合計、東京)と米国に次いで高い。ここに掲げた国際比較の図は、日本が1~2%など細かい減税をしても対日投資にはそう影響がないが、大胆に、例えば20%に近いところまで引き下げれば、日本企業の投資を国内に引き留めるだけでなく、外国の投資を日本に呼び込めることを示唆する。同じ条件ならフィリピンや中国、韓国への対外投資を日本に誘致できるのである。

 経済産業省は、1998~2007年に欧州諸国の法人税率が平均36.9%から28.7%に下げられたのに、名目GDPに占める法人税収は2.7%から3.2%に高まったと指摘する。

 これは「法人税の逆説」と呼ばれ経済財政諮問会議で取り上げられたが、実は租税競争下の世界では「逆説」でなくて理論通りの「正論」なのである。そこでは各国とも相手国よりも税率を下げて国際投資を呼び込もうとする。「あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ」という童謡「ほたるこい」の世界である。

 財務省が主張するように、確かに企業の国際投資先の決定は法人税率だけに依存するわけではない。しかし、一国が大幅に減税すれば、外国との租税戦争に対抗でき、投資の呼び込みを通じて課税ベースが大幅に広がることは明らかである。その影響は消費増税のそれとはけた違いに大きい。これが「正論」の理論的な裏付けである。

 このような議論が正しければ、法人税を思い切って減税すれば、財源問題はかえって解消し、消費税のさらなる引き上げは必要なくなるかもしれない。そこまでの効果はないと思うなら、景気回復を待って消費増税をするということでもよい。

 もっとも筆者は、中期的にみれば、法人減税を主軸にした直間比率の調整、つまり直接税引き下げと消費税など間接税引き上げを通じ、日本の成長基盤を拡充すべきだと考える。ちなみに、欧州諸国の消費税に類する付加価値税率は20%を超える国が多い。

 分配の公正のために、消費税を引き上げず、法人税も今のままにしておくべきだという反論がある。「浜田は庶民の味方でなくなったのか」といわれるかもしれない。日本が世界から孤立した経済であるなら、この批判は成り立ちうる。しかし、このまま法人税の高止まりを許しておけば、世界からの投資を逃し、自国の対外投資を促し、日本経済の取り分、パイ全体がしぼんでしまう。国内や地方の空洞化を促す政策となる。

 アベノミクスにも同様に「円安で輸出大企業を優遇し、株高で金持ちを豊かにするだけで、庶民には利益が回らない」との批判もあった。しかし今多数の国民は長期の沈滞から日本経済に明るさがみえているのを喜んでいないのであろうか。当初金持ち優遇にみえる法人税引き下げは、結局は日本に内外の投資を呼び込み、アベノミクスの成果を国民がより継続的に享受するために必要なのである。

 同時に、租税特別措置の優遇によって一部の大企業や重厚長大型産業などが受けている利益は還元すべきである。空気をきれいにしながら税収を得る炭素税などによる環境保全の税制を業界が甘受することも必要になる。消費者はすでに消費税で犠牲を払っている。ほかのグループも犠牲を分かち合い、今こそ日本経済全体のパイを大きくすることに向かうときではないか。

 増税派の人々は、もし消費税率を上げられなかったら、財政再建の国際公約がほごになり、日本に対する国際信頼が揺らぐと説く。

 そうだとすると昨年秋に消費増税が確定したとき、日本の株価は上がるはずであった。しかし当日の米シカゴ市場の日本の株価指数先物は、各国の株価がおおむね上昇するなかで、むしろ下落した。このことからも、以上のような意見は、財務省の内外に対する情報操作や、特定の考えを刷り込む「認識捕囚」の手段であることがわかる。増税はあくまで国内問題として検討すべきなのである。

 さらに、日本の税当局が海外で言い回る「政府債務残高がGDPの200%超」という数字は、粗債務、つまり総債務の額である。例えば円売り介入の際、政府が調達する円は債務に入るのに、それで得た資産である外貨は考慮されない。債務から資産を引いた純債務が問題なのに、往々にして総債務で議論される。純債務比率でみると日本は120%台と米国との間に総債務ほどの差はない。

 もちろん、それでも決して威張れた数字ではない。歳入だけでなく支出を見直して基礎的財政収支(プライマリーバランス)を改善していく取り組みは、国民にとっても重要なことである。

〈ポイント〉
○景気は潮目にあり再増税の判断は慎重に
○大胆な法人減税は成長にも財政にも効果
○直間比率の調整を通じた消費増税は妥当

はまだ・こういち 36年生まれ。エール大博士。12年から内閣官房参与

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