2014/11/30 本日の日本経済新聞より「地球回覧 マレーシア、補助金の代償 国民も財政赤字も「肥満」」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「マレーシア、補助金の代償 国民も財政赤字も「肥満」」です。





 マレーシアの首都クアラルンプールで婦人服店をのぞいてみた。入り口近くのハンガーには紫や緑のブラウスがぶら下がる。華やかな色彩に圧倒される一方で違和感も覚えた。洋服のサイズが日本より一回り以上大きい。この店の売れ筋はLサイズよりはるかに大きい「2XL」だ。

マレーシアの成人女性の2人に1人が「体重過多」の問題を抱える(クアラルンプール)

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 英医学誌ランセットの調査から「肥満大国マレーシア」の実態が浮かび上がる。肥満度を測る尺度BMIが25以上の「体重過多」の割合は2013年に成人女性の約49%に達し、東南アジアで最も高い水準だ。成人男性はシンガポールに次いで2位だが、それでも44%を数える。

 なぜ肥満が多いのか。一般的に2つの要因が語られる。一つは「食べ過ぎ」だ。

 同国の1人当たり国内総生産(GDP)は1万ドルを超え、先進国入りを目前に控える。日々の食事に困窮する貧困層はほとんどいない。しかも人気は揚げ物やカレーなど油を大量に使う料理だ。甘い紅茶を飲みながら山盛りのおかずとコメを平らげる人をよく見かける。こうした食習慣が肥満を招いていることは間違いない。

 もう一つの理由が「運動不足」だ。英調査会社ユーロモニターの調べによると、同国の乗用車所有率は79%に達する。隣国のタイ(17%)やインドネシア(7.5%)に比べて極めて高い。早くから自動車が普及し、短距離でも歩いて移動する国民は少ない。こうした生活習慣も肥満を招いている。

 実はこの2つの要因の背後には別の“真犯人”がいる。政府が提供する補助金だ。マレーシア政府は家計の負担を抑えるため、生活必需品の価格を補助金で負担している。対象商品はコメや食用油、小麦粉、ガソリンなど幅広い。

 同国大手銀行CIMBが昨年6月にまとめた調査では、同国の食用油小売価格は1キロ2.5リンギ(約88円)と東南アジアで断トツに安い。フィリピンの4分の1以下だ。小麦粉やガソリンの価格も東南アジアで最も安い水準だ。

 マレーシアは東南アジアで最も豊かな国の一つだが、補助金の恩恵で消費者は食品やガソリンを実勢より安く購入できる。油を多用する料理、深刻な渋滞を引き起こすほどの自動車購入熱の遠因となっているのは確かだ。

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 ナジブ首相が率いる与党連合は人気が高くなく、昨年の総選挙でも得票率で野党に後れを取った。支持をつなぎ留めるために補助金ばらまきに頼らざるを得なかった。

 行き過ぎた補助金は国の財政にも影響を与えている。同国の財政収支は世界的な金融危機が発生した08年以降、GDP比で3%を超す赤字だ。政府債務残高はGDPの55%を超える水準に膨らんだ。大手格付け機関からは「財政が悪化すれば国債の格付けを引き下げる」と警告を受け続けている。

 「02年のガソリン補助金は年間で16億リンギだったが、14年は毎月20億リンギだ。この仕組みはもう続かない」。ナジブ氏は10月、2015年予算案発表にあたり、補助金を段階的に削減する方針を強調した。砂糖への補助金は昨年廃止し、今年12月1日からはガソリンへの補助金もなくす。

 マレーシアは20年の先進国入りを掲げるが、地下鉄など都市インフラ整備はまだ不十分だ。過剰な補助金が邪魔をして、次の成長を支える分野にお金が流れ込まないジレンマを抱える。国民の健康と財政をいためる“補助金頼み”の甘いわなから脱却できるか――。健全な成長に向けて突きつけられた課題だ。

(クアラルンプールで、吉田渉)

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