2014/12/14 本日の日本経済新聞より「創論 ROE重視と日本経済 企業価値高め成長促す 一橋大学大学院教授 伊藤邦雄氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「創論 ROE重視と日本経済」です。





 株主から託されたお金を企業がどの程度効率的に使って利益を稼いでいるのかを表すROE(自己資本利益率)への注目が高まっている。海外に比べ低かったROEを引き上げようとする企業の動きは、日本経済全体にプラスに働くのか。一橋大学大学院教授の伊藤邦雄氏と、バークレイズ証券で日本株チーフ・ストラテジストを務める北野一氏に聞いた。

 ――なぜこれまで日本企業のROEは海外企業に比べて低かったのでしょうか。

 「日本では直接金融よりも間接金融が強かったからだ。銀行にとって融資先企業の資本効率性は関係なく、利払い能力こそが重要。このため企業側も売上高や利払いの原資になる営業利益ばかりに目が向かっていた。一方、ROEは銀行ではなく株主の利益に着目した経営指標。日本企業は株主にはあまり目を向けておらず、株主のお金である自己資本をいかに効率的に回すのかという意識が薄かった

 「企業も株式市場からお金を調達し、投資家向け広報(IR)で海外投資家などに経営方針を説明する必要が出てくる。しかし、経営者が話す言葉が社内と社外とでダブルスタンダードになっていた。投資家にはROEの目標を伝えても、社内向けには一切使わないような状況が日本企業の中で広がっていた」

 ――企業経営者や市場関係者を集めて議論した経済産業省のプロジェクトで座長を務め、「日本企業は最低8%以上のROEを目指すべき」という報告書をまとめました。

 「投資家からは歓迎の声ばかりだが、意外なことに企業からも今のところ反発するような声は聞こえてこない。以前はROEというと特に企業側から米国型経営の直輸入と批判されたものだが、今回はそういう反論はなかった。日本もROEという考え方を本当に受け入れる雰囲気が醸成されていたのだろう」

 ――なぜ8%の数値目標を盛り込んだのでしょうか。

 「国内外の機関投資家に日本企業の資本コスト(株式の期待収益率)はどのくらいを想定しているのかを聞いたところ、国内が6.3%、海外が7.2%だった。資本コストを上回るROEを上げれば企業価値を創造できるわけだから、目標を8%以上とした。プロジェクトの議論では数字の一人歩きを心配する声もあったが、日本の不退転の決意を国際的に示すためにも数値目標を入れることにした」

 ――ROEは純利益を自己資本で割った値だから、自己資本を削れば改善します。これは企業の健全な成長を阻害するのではないですか。

 「最後の計算式だけを見ればそういう誤った行動を誘発するわけで、ROEに対する皮相的な理解だ。ROEは売上高純利益率、総資産回転率、財務レバレッジ(負債比率)の3つの指標のかけ算。経営にとってそれぞれ重要な3つの要素を1つに凝縮した指標と考えるべきだ。この3つの指標を改善に取り組んだ結果としてROEが上昇するというのが正しい使い方。ROEを分解することで企業の現場に浸透する効果もある

 「負債比率を高めてROEを引き上げている一部の米国企業の例を挙げ、日本にはROE経営はなじまないとする批判があるのも確か。だが、ROE経営で日本は米国に比べて1~2周は周回遅れの状況だ。大きく遅れているうえに米国の極端な例を出してROEを批判しても意味はない。投資家やアナリストも、たとえ負債比率を高めて一時的にROEを上げたとしても、そういう経営に持続性はないことを見抜くはずだ」

 ――機械メーカーのアマダのように、ROEを引き上げるために増配や自社株買いで余った資本を株主に返す動きが広がっています。

 「安易に内部留保をため込むのは論外だ。(純利益に対する配当と自社株買いの合計額の比率である)総還元性向を100%にするアマダの姿勢は結構なことだ。市場も株主を重視するアマダの経営のメッセージを歓迎したのだろう。ただすべての利益を株主に返すということは、企業自身が事業努力では資本コストを上回るROEを上げにくいと認めているともとれる。内部留保を使った事業投資で資本コストを上回るROEを実現し、企業価値を持続的に高めていくのが経営の本道だ」

 ――個々の企業がROEを正しく使っていけば、マクロの経済全体も縮小均衡には陥らないということですか。

 「ROEは日本経済全体の成長のためにこそ重要だ。分母の自己資本を削るのではなく、企業が正しくROEを使いながら自己資本を積み上げていけば、新たなイノベーションを生むための原資も生まれる。実際にROEが高い企業は持続的に成長しているという事実もある。ROEを正しく使って個々の企業が成長していけば、マクロ的には金融資産を含めた国富が積み上がっていくと考えている

 いとう・くにお 75年一橋大商卒、92年から現職。専門は会計学、企業経営論。三菱商事など複数企業の社外取締役も務める。63歳。

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