2014/12/16 本日の日本経済新聞より「経済教室 エコノミックス トレンド サービスの本質、研究進む 若林直樹 京都大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「サービスの本質、研究進む 若林直樹 京都大学教授」です。

サービスが組織内部と外部のクリエイションによって構築されることを分かりやすく説いた記事です。製造小売業という形体が急速に浸透したのはこうした考え方が堅持され、事業推進されているが故の事象と考えられます。

 日本企業のビジネスにおけるサービスの比重はますます高くなっている。内閣府統計によれば日本経済において、国内総生産(GDP)に占める広義のサービス産業の比率は75%にも達する。それだけではなく日本の製造業も、製品競争力において新興国企業との低価格競争と差別化するために、アフターサービスをはじめとした製品関連サービスの比重を高めて、独自の競争力を持とうとしている。

 英ケンブリッジ大学のアンディ・ニーリー教授は、製造業におけるサービス化の進展(サービタイゼーション)について、製品を単に生産・販売することから、製品を活用するサービスを含めたシステムを創造・販売するように会社全体の能力と仕組みを変換することと特徴づける。例えばコマツは、販売するブルドーザーなどに全地球測位システム(GPS)を付け稼働情報を収集する情報ネットワークを国際的に構築し、ユーザーの保守活動を支援するアフターサービスの事業化を推進している。

 サービスとは、顧客の価値を創造する活動である。日本企業の持つサービスの強みは顧客への「おもてなし」にあるという議論がある。だが、近藤隆雄・明治大学教授が指摘するように、日本のサービスにおけるおもてなしは、確かに従業員の奉仕的態度と品質の高さが特徴であるものの、ともすれば海外顧客にとっては、一方的で過剰そして高コストな内容となる。

 企業のサービス活動の本質を理解するために、現代サービス経営学での代表的な考え方から、顧客の経験内容、顧客との関係、従業員の役割について考えたい。

 サービスへの評価を考える際には、それを体験する顧客からの評価は重要な視点である。顧客からの評価は一般的に「顧客満足度」で測る。近年、国際的に企業サービスの顧客満足度の比較評価がなされている。さらに、近年の評価は、サービスに関して外見的な特徴や利便性への満足だけではなく、そこから得られる「顧客経験」、すなわちサービスから得られる経験や、企業と顧客の関係の質と内容への評価が重視されつつある。

 英ウォーリック大学教授を務めた故ロバート・ジョンストン氏の研究整理によれば、顧客が質の高いサービス経験をすると、感情的なこだわりを見せてくれ、高い顧客のロイヤルティー(愛着・忠誠)につながるとしている。

 そして「サービスの開発とは顧客経験をデザインすること」と考えるサービスデザインという研究領域も生まれている。個々の顧客をめぐる状況やその関係を配慮し、サービスへの期待内容を理解しながら、求めるサービス体験をデザインすることは、おもてなしの本質だろう。<

 例えば10分1080円のヘアカット専門店QBハウスのような新たなビジネスモデルは、逆説的に、多忙なサラリーマンの理容ニーズに応えるサービス経験を提供する。つまり短時間でコンパクトな顧客経験を、容易なアクセス、店外から瞬時に分かる混雑状況、洗髪なしでカットに特化するコアサービスというデザインで提案している。

 むろん、顧客の経験を彼らからの評価抜きに一方的にデザインできない。むしろサービスデザインは、企業が一方的に提供するものでなく、顧客との相互作用のもとで、顧客の価値を共同で創造する特徴を持っている。

 サービスマーケティングの泰斗、米ハワイ大学のステファン・ヴァルゴ教授は、サービスのこうした特性を理論化して、顧客に新たな価値をもたらす有形の製品も無形のサービスも、その共同価値創造のツールであるという見方を示した。そしてサービスこそが経済の中心活動とみる「サービス・ドミナント・ロジック理論」を提唱した。

 この理論に基づく藤川佳則・一橋大学准教授らの良品計画の事例分析は、こうした共同創出の面を明らかにしている。良品計画の製品はそのシンプルさを基調として「余白を残した」ものである。その製品の開発に最初から消費者が関わるだけではなく、事後的にも消費者が新たにその製品の使用価値を創出し、提案する仕組みとなっている。顧客との相互作用が優れたサービス経験を作るだろう。

 そして企業がサービス志向の企業文化を持ち、従業員がそれに高い従業員満足度を示すと、顧客満足度が上がる面がある。なぜならサービスは、従業員達の毎日の顧客との接触における相互作用の中で実現される。そのために、彼らのサービスに関する企業文化への理解、評価が高まり、そしてその行動モデルの実践を進めると、会社組織として供給するサービスの品質や経験内容を高める。

 さらに、その行動モデルの上に、自らの創意工夫でサービスのイノベーション(革新)も進む。そうした動きは顧客の満足度を高める。米ノースウエスタン大学のフィリップ・コトラー教授の代表的モデルによると、サービスはヒトが作る面が強いので、企業、顧客だけではなく、従業員も含めた3者の相互作用から作り上げられる(図参照)。コトラー教授は、企業がサービスモデルとそれを支える行動文化を、内部従業員に対して共有を進める「内部マーケティング」活動を重要な要因としてモデル化している。

 オーストラリア・クイーンズランド工科大学のイアン・リングス教授は、英国流通業マネジャー調査において、そうした活動の効果を実証した。つまり、顧客に向けてのマーケティングだけではなく、内部従業員への自社のサービスの内容とそれに求められる行動モデルの普及活動が、マネジャー達のやる気を高めたので、顧客満足度の高さにつながっていた。

 例えば、東京ディズニーリゾートは、サンクスデーや表彰プログラムを通じ、アルバイトや契約社員も含めて従業員全体に対して、顧客の新たな感動を創造し続けるための文化の共有を進めている。そして、彼らの文化への高い支持を得るだけではなく、日本版顧客満足度指数の連続日本一につなげている。

 日本企業にとって、サービスが顧客との相互作用において共同で価値創造することを意識することが必要である。サービスにおける「おもてなし」は、確かに顧客との関係やその個々のニーズを大事にしようとする考え方では優れているものの、一方的となっては意味がない。むしろ、顧客のサービスを通じた経験内容を従業員と共同でデザインする取り組みが重要である。

 例えば、京都のワタベウェディングは、顧客の声やプランナーの反省を組織的に共有しながら新たなウエディング(婚礼)サービスの開発を進める仕組みを作り、常に現在の顧客が求めるサービス内容へと革新している。京都大学経営管理大学院では、こうした観点からおもてなしをクリエーティブなサービスとして科学的な研究を進めている。

 サービス事業において、企業文化に対する国民文化の影響が強いことも考慮する必要がある。米ミシシッピ州立大学のシンシア・ウェンディ教授は、日米の流通業の比較調査を基に、日本は消費者の保守性が高いためか、安定したサービス企業文化が高い消費者満足度につながっていることを示した。他方、米国では革新性や積極性を持つ企業文化が効果的であった。さらに、出身国のサービス文化を強く保持している企業は、他国で苦戦する傾向を示した。サービス事業独自の文化的な現地化の必要性がある。こうした面で、ファミリーマートが食品事業で進めている現地化の取り組みは興味深い。

〈ポイント〉○製造業でもサービスの経済的比重高まる○サービスの価値は顧客の経験内容が決定○従業員の企業文化理解が顧客満足高める

 4人の筆者が交代で執筆、原則、月1回掲載します。

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