2014/12/21 本日の日本経済新聞より「創論 成長戦略、進む道は」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「創論 成長戦略、進む道は」です。





競争条件、不利解消を 三菱ケミカルホールディングス社長 小林喜光氏

 衆院選の勝利から1週間。安倍晋三首相は経済政策「アベノミクス」の根幹となる成長戦略の補強を今後も進める構えだ。大企業と中堅中小企業がバランスよく成長していくにはどんな見直しや補強が必要なのか。経済同友会代表幹事に内定した三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長と中小企業に詳しい明星大・関満博教授に聞いた。

 ――衆院選ではアベノミクスの問題点として、「中小企業と地方に恩恵が少ない」との声が目立ちました。

 「中小企業への政策は重要だが、順番としたらまず大企業だろう。金融緩和を通じた円高の修正。その判断は正しかった。大企業が潤えば、中小にそれが下りていく。下りないという人もいるが、やはり下りていってトリクルダウン(浸透)は起きる。『浸透』まで、もう少しの辛抱ではないか」

 ――その大企業は、国内の設備投資があまり増えていません。

 「あれだけ円高が続いたから、自動車や電機でかなりの国内生産が海外に流出した。簡単には回帰しない。だが、海外で稼いだ利益を円に戻す時の換算益が円安によって増加し、海外事業からの配当金、知財収入も増えているから国内投資は徐々に戻る」

 「経営者は今、日本が長期的に投資に値するかどうかを見定めている段階だ。例えば、日本の財政は健全性が課題だ。基礎的財政収支の黒字化が厳しくなってきたが、それでも黒字にするストーリーを描くと言っている。そこを見極めないといけない。法人税率も2015年度に2%強下げるというが、研究開発減税の見直しも含め実効的にどうなるかだ」

 ――首相は「世界で一番ビジネスしやすい環境を整える」と言っています。成長戦略は今後、どこをどう補強すべきですか。

 「法人税について言えば、ロードマップだ。日本は最終的に、シンガポールや韓国と比較しつつどこまで法人税率を下げる覚悟があるかだ。目標を明確にし、前に進んでほしい。イコールフッティング(競争条件の均等化)だ。円高は修正されたが、労働法制や自由貿易協定への取り組みも含めて、日本企業のハンディは大きい」

 「政策的に、どうにもならないものが日本には2つある。エネルギーコストの高さと資源の外部依存だ。だが、それでさえもイコールに近づける道はある。電気料金や石油価格の影響を受けにくい産業領域に、国家を挙げてトランスフォーム(産業構造転換)することだ。そういう方向性というか、覚悟が政府から出てこないと本格的にはなかなか投資が日本に向かわない」

 「為替は見事に円高修正してくれたが、全体としてはまだ『六重苦』問題をクライテリア(起点)に考えざるを得ないのが経営者心理だ。それにこたえるには大胆な制度設計が要る」

 ――具体的には、どんな分野でそれが必要ですか。

 「例えば健康・医療だ。日本が高齢化し、人口も減っていくなかで、毎年1兆円ずつ社会保障費の支出が増えていく。そういうなかで、健康や予防医療産業のイノベーション(技術革新)は国内でやるしかない。軽量化部材、有機太陽電池、発光ダイオード(LED)など省資源、省エネ的な分野もそうだ。この2つは確実に日本で投資できる。規制を緩和してくれさえすれば、海外企業とのハンディキャップは小さい」

 ――首相は「(規制の)岩盤を崩す」とも言っています。どの辺りに注目しますか。

 「既に実施された規制の『グレーゾーン解消』の例で言えば、血を自分で採れば、医者に行かなくてもドラッグストアで13種類の血液検査をしてくれる。そんなサービスは新しいビジネスになる。そういうところで一つ一つ規制緩和を進めて、事業してよい領域を増やしていってほしい」

 ――中小企業にはどんな成長戦略が必要ですか。

 「中小企業や地方が疲弊したのは、大企業が海外に生産を移転し、空洞化が進んだ影響もある。そういう意味では大企業と課題は同じだ。国内にどんな新産業をつくり、事業をどうシフトしていくかが問われている。やはりトランスフォームだ」

 「受け皿は医療、介護、観光、6次化された農業などが考えられる。雇用維持のためのばらまきをやっても一時しのぎだ。大企業にも言えることだが、弱っている企業があっても、補助金を出すより法人税など税負担を減らして、公平公正な競争を可能にする土俵づくりをめざすべきだ」

 「結果的に『ゾンビ企業』を生き残らせる政策は適切でない。中小企業の多い地方の再生を進めるうえでも、既存産業の生産性を上げたり、付加価値の高い新産業に置き換えたりしていく取り組みに政府も民間も知恵を絞りたい」

 こばやし・よしみつ 71年(昭46年)東大院修了。74年三菱化成工業(現三菱化学)入社、07年から現職。68歳。

産業育成、腰を据えて 明星大学教授 関満博氏

 ――中小企業はそもそもアベノミクスに期待していますか。

 「希望を抱こうとのメッセージは届いているが、恩恵が本当に来るかどうかは疑わしいとみている。安倍首相は選挙戦で『中小企業で汗を流す人に景気回復の風を受け取ってほしい』と話していたが、地方を歩くと現実は厳しい」

 「心配なのは廃業の動きが多いことだ。人口が減り始めるとまず高齢化が進むが、次第に高齢者も減り、人口の減り方が加速する。それとともに商店や事業所が一気に減る。地方の山間地や東日本大震災の被災地で起きつつある現実があと何年かで日本全体の風景になると考えると怖い」

 ――成長戦略で足りないものは何でしょう。

 「産業育成だろう。中小企業の減少は1980年代から始まっている。死語になったが、70年代は『過小過多』といわれ、『小さい企業が多いから大規模化して減らせ』というのが中小企業政策の基本だった。企業の数はその後、急激に減り続けたが、それは減らしたのではなくて国の力がなくなったため。構造変化に気づかずに、効果的な対策がなされなかった」

 「現在、国内に企業は約385万社ある。9割前後は中堅中小で大半が内需型だ。1割弱の輸出型大企業と同時に議論するのは難しい。地方の経営者は60代が多く、10年もすれば地域の生活を支える商店やサービス業が急激に減る。それをどう考えるか。アベノミクスは上澄みの企業の議論にとどまりがちだ。非効率な企業は廃業させよとの声もあるが、それが現実的かどうか」

 ――具体的にどんな対応が必要ですか。

 「地方自治体がもっと責任を持ちたい。政策の停滞には原因がある。国の補助金が出ると自治体は『当たった』と喜ぶ。2つ当てると『よくやった』と担当者がほめられる。だが担当者はすぐに代わり、方針が継続しない。箱ものをつくって終わることも多い」

 「産業政策は最低10年かかる。将来をどうすべきか、腰を据えて考えたい。選挙後も補助金がまかれるだろうが、国も『あげたら終わり』ではだめだ」

 ――上手にやっている例はありますか。

 「岩手県北上市は工場誘致が順調に進み、半導体や自動車メーカーなど40年間に260社近くを誘致し、人口も維持している。市長から現場までが『自分たちは地域に責任を持った経営者だ』との意識を強く持ち、産業政策担当者の人材育成もする」

 「中小企業経営者も意識を変えないとだめだ。現在、全国20カ所で2代目経営者を集めて私塾を開いている。必ず言うのは『会社はお父さんの代にできたから、毎日、事業が縮んでいるはず。30年社長をやるとしたら社会構造が変わるから、新たに生まれる需要が何かを考えなさい』ということだ。先代が蓄えた資産で、会社を新しくつくり替えていくべきだ」

 ――リーマン・ショック後に施行された「中小企業金融円滑化法」が生産性の低い企業の延命につながったとの批判も出ました。

 「場合によっては支援が必要な時もあるから一概に否定できない。だが、重要なのは起業や承継の循環を太くし、産業構造転換を進めることだ。まずは自治体、国、経営者の各段階で人材育成だ。即効薬はない」

 ――海外で中小企業対策がうまくいった例は。

 「40年ほど前に、日本に似た状況だったスウェーデンが面白いことをした。他国は所得政策に力を入れたが、労働市場転換を目指したのだ。産業構造を変えるには人の職種間移動を促さないといけない。だから、職業訓練に3年かけた。その間、所得と住宅を保障した」

 ――日本にできますか。

 「人口が10倍だから難しい。だが、手をこまぬかず、付加価値の高い産業を興して人の移動をやらないといけない。中小経営者は息子が継げるような仕事に会社を変える。やめる時は、Iターンで別の人が受け継げる仕組みも考える」

 「地方に優秀な人材が集まる施策は特に大事だ。昔のように汗を流せば成功する時代ではないが、難しい『連立方程式』の向こうには次の時代のヒントがあることを若い世代に理解してもらう。そんな取り組みもアベノミクスに期待したい」

 せき・みつひろ 76年(昭51年)成城大院修了。一橋大教授などを経て11年から現職。岩手県、福島県浪江町の復興会議委員。66歳。

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