2014/12/21 本日の日本経済新聞より「がん社会を診る ストレスは免疫の大敵 中川恵一」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の健康面にある「ストレスは免疫の大敵 中川恵一」です。





 東京電力福島第1原子力発電所の事故から4年近くになる今も、福島では12万人以上の県民が不自由な避難生活を強いられています。そして、地震や津波などの直接的な影響ではなく、避難生活による体調不良や過労、自殺などで亡くなる「震災関連死」が増え続けています。

 避難の長期化によるストレスが、背景にあるとみられています。ストレスは、人体内で毎日発生するがん細胞を監視する免疫の働きを抑えてしまいますから、がん予防の観点からも重要です。人間社会ではストレスを定量化することは困難ですが、ネズミを広々とした環境で飼育した場合、狭いカゴの中で飼うより、がんの成長が抑制されるという実験結果も出ています。

 全村避難を続ける飯舘村でも、高齢者が外出をしなくなって狭い室内に閉じこもる傾向が顕著です。とくに、同じ避難者でも、仮設住宅より住環境が恵まれている借り上げ住宅に暮らす避難者に健康状態の悪化が目立ちます。

 自治体が借り上げるマンションやアパートの部屋は、仮設住宅に比べて住環境はよいと思います。しかし、孤立しがちで外出しなくなり、ストレスを抱え込む避難者が多いのが問題です。

 飯舘村の村民約1000人を対象にした健康診断の結果でも、震災前後で、健康状態は明らかに悪化していました。高血圧、肥満症、糖尿病といった生活習慣病がはっきりと増加していました。

 がんの原因の約3分の2は生活習慣です。たとえば糖尿病になると、膵臓(すいぞう)がんや肝臓がんでは発症リスクが約2倍、がん全体でも2割程度上昇します。今後、がんの増加も危惧されます。

 幸い、福島県民の被曝(ひばく)量は当初の予想より少なく、とくに、食物を通した内部被曝はほぼゼロに近くなっています。国連などの国際機関も、被曝によるがんの増加は見られないだろうとの見解を示しています。それにもかかわらず、皮肉にも、がんを避けるための避難が、がんを増やす原因になってしまう可能性があると思います。

 今回の原発事故は許せるものではありませんし、国や東電の責任は甚大です。しかし、今、避難民の健康をいかに守るかを総合的に考える時期にきていると思います。

(東京大学病院准教授)

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