2014/12/22 本日の日本経済新聞より「経済教室 原油急落の分析(上) サウジ、目標下げ覇権争い 須藤繁 帝京平成大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「原油急落の分析(上) サウジ、目標下げ覇権争い 須藤繁 帝京平成大学教授」です。





 10月以降、国際石油情勢では様々な出来事が相次いだ。10月2日にサウジアラビアが11月積みの原油価格設定で調整額を引き下げ、原油価格を一層下落させた。価格下支えの観点からは石油輸出国機構(OPEC)の減産が求められたが、11月27日の総会では減産を見送った。この措置は油価の下落を加速した。

 今、何が起きているのか。第一に、米国の原油生産量が3年間で日量300万バレル(毎年日量100万バレルずつ)増えている。第二に、ナイジェリアの対米石油輸出量が3年間で日量100万バレル強から30万バレル以下に急落し、本年8月には5万バレル以下になった。このため、同国はインドなどアジア市場に販路を求めている。第三に、ウクライナ介入に伴う負担増に対応するため、ロシアが原油を増産している。

 こうした状況下、サウジアラビアは11月の原油価格設定における調整額を引き下げたのである。サウジの代表原油のアラビアンライトでは9月に1バレルプラス1.65ドルであったが、11月はマイナス1.05ドルとした。実際の11月価格は76.01ドルになり、6月との比較では33.69ドル下げた。

 サウジアラビアは、ここ数年目標としてきた1バレル100ドルの価格水準を放棄し、80ドル水準を甘受する決断を下したとみられる。だが実際の相場は80ドルを大きく下回る。サウジにとって厄介なのは、自らの価格の絶対水準を自分で決められないことである。

 今日の原油価格設定の特徴は、1980年代までのように、産油国は公式販売価格の絶対額を提示しないことである。例えばサウジアラビアのアジア向けは、エネルギー価格情報の配信会社が公表するドバイ原油とオマーン原油の当該月のスポット価格の平均に、油種別の調整額を足し引きすることで5つの原油銘柄の販売価格が算出される。

 11月に積み取られた原油の決済価格が確定するのは11月のスポット価格データがそろう12月1日になる。つまり、調整額を決定した時点では、自らの決済価格を把握できないのである。80ドルを目標に置いたとしても、スポットが予想以上に安くなれば、自動的に安くならざるを得ない。

 サウジアラビアの決断の背景には米国のシェール層の開発がある。2007年平均で日量508万バレルに低落した米国の原油生産量は、本年1~10月平均で849万バレルに回復した。米国の石油輸入依存度は58%から27%に低下した。

 米国の輸入量を国別にみるとナイジェリアの落ち込みが大きい。シェール革命で増加した米国の原油は軽質原油であり、性状の似るナイジェリア産と競合するからである。サウジアラビアやクウェートなど、重質原油生産国の対米輸出は減少していない。

 それでもサウジアラビアへの影響は免れない。米国市場からはじき出されたナイジェリアが主に昨年以降、アジアに販路を求め始めたからである。アジアでは、中東原油とアフリカ原油の競合が一層顕著になろう。サウジの調整額引き下げは、そうした競合も視野に入れたものである。

 サウジアラビアも対米関係が基本的に重要であると認識しており、武装組織「イスラム国」との戦いではイラク、シリアで連携しているが、石油政策では一線を画す決断をした。100ドル体制が続く限り、米国の原油増産のペースは加速し、国際的な石油需給バランスの大きな撹乱(かくらん)要因になるからだ。

 石油産業史をひもとくと、今回のサウジアラビアの対応は、02年初めにとった戦略と似ている。当時、同国を中心とする協調減産が成立したなかで産油量を増やしたロシアとベネズエラに一矢報いるために、サウジは減産を取りやめたことがあった。国際外交誌は、エネルギー覇権を巡るサウジとロシアの戦いと分析した。今回は、さながらサウジと米国の間の覇権争いという様相を呈している。

 国際エネルギー機関(IEA)は一昨年の見通しで、米国で起きたシェール層開発に伴う非在来型石油・ガスの増産によって世界のエネルギー地図が塗り替えられるとの見方を示した。米国は天然ガスで15年にロシアを、石油では17年にサウジアラビアを抜き、世界最大の生産国になるという分析である。米国の石油純輸入量は35年には11年の約3分の1(日量340万バレル)に減少すると予測された。

 その後の展開は、こうした予測の妥当性を裏付けるものであり、サウジアラビアは米国の増産ペースが石油市場を大きく撹乱する要素になると考えたのだと指摘できる。その点からは、同国の戦略は生産量の維持、市場シェアの防衛という側面が大きい。

 80ドルの目標価格は、産油国グループにとって痛み分けの水準である。ここには、米国の石油増産ペースを鈍らせ、価格下落をテコに石油需要を浮揚させることで、対OPEC石油需要を増大させようとするサウジアラビアのバランス感覚が隠されている。

 一方、原油安がロシアの通貨安を導くのは、経済活動が石油・天然ガス操業に大きく依存するロシア経済にとって当然の帰結である。この点に関しては米国とサウジアラビアの利害は一致している。

 さて、OPECは11月の総会で、生産目標を現状の日量3000万バレルに据え置いた。15年の対OPEC石油需要は2920万バレルと予想され、生産目標の段階で既に80万バレルの供給過剰、実生産量ベースでは、それ以上の供給過剰が見込まれる。目下の生産量は、設定された上限を日量60万バレルほど上回っており、対OPEC石油需要を140万バレル上回るバランスとなる。

 大幅減産を見送ったのは、供給過剰はシェールオイルの増産が主因であり、OPECの増産を主因とするものではないという判断がある。

 総会後、原油相場は一時1バレル65ドルを割り、約5年4カ月ぶりの安値をつけた。その後はいったん70ドルに戻したものの、再度下落に転じ、足元でも底値はみえない。経済的には、80ドル前後の価格が産油国・消費国双方に受容可能な水準と考えられるが、当面は60ドル前後の底値を探る展開が続き、15年の春から夏にかけては新たな均衡価格水準を模索すると予想される。

 米シェール開発への影響に関しては、高コストの油田と低・中コストの油田で分けて考えるべきである。IEAによれば、13年の米国のシェールオイルは生産コストが60ドル以下のものが生産量ベースで82%に達し、60~80ドルが16%、80ドル以上が2%であった。それが19年には60ドル以下が68%へと下がり、60~80ドルが24%、80ドル以上が8%に上昇する見通しとなっている。

 こうした高コストのシェール開発を抑制するのが、サウジアラビアの第一の目的である。仮に60ドル以上の高コストのシェール油田の閉鎖を目標としているとすれば、15年では22%、日量約70万バレルの油田閉鎖を目指していることになる。目標水準を20ドル引き下げることにより、高コスト油田開発を遅らせ、同時に石油需要増を喚起するという二正面作戦を今回サウジは立案したと考えるべきである。

 総合的に考えれば、既存の油田のうち、よほどの高コストの油田は操業停止を余儀なくされようが、大きな影響としては、コストが80ドルを超える新規プロジェクトの開発時期が繰り延べられるということになるだろう。

 OPEC加盟国の原油生産が生産上限を上回ることを織り込み済みとすれば、現下の供給過剰の解消にはシェールの減産がより重要である。市場はOPEC加盟国の生産動向よりも、よりきめ細かく米国シェールオイルの生産動向を注視する必要がある。

〈ポイント〉○サウジが目標価格を100ドルから80ドルに○市場シェアの防衛と石油需要の喚起狙う○米国の高コスト油田計画の今後が注目点

 すどう・しげる 50年生まれ。中央大法卒。専門は石油産業論

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