2014/12/29 本日の日本経済新聞より「成長戦略を問う(4)日本の価値世界で磨け」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「成長戦略を問う(4)日本の価値世界で磨け」です。





 熊本市の中心にある会場に、ひょっこり「くまモン」が姿を現すと、会場を埋めた観客から歓声が上がった。「どちらから来ました?」。司会者の問いかけに片言の日本語が返ってくる。台湾、香港、ベトナム……。

アジアの有名人

 同県の外国人宿泊客は2013年に42万人を超えた。4年前の2倍に伸びたのはくまモンの人気が大きい。毎日のショーで本物に会おうと来訪が絶えない。日本人が気づかない間に、地方発のキャラクターがアジアの“有名人”に育っていた。

 「県のイメージを左右するくまモンの著作権を海外でも守らなくては」(成尾雅貴くまもとブランド推進課長)。県庁が期待するのは、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で最大の焦点になっている知的財産権の国際ルールの確立だ。

 関連商品の輸出や、著作権料で稼ぐのが狙いではない。アジアで横行する模倣品や海賊版の拡散を防ぐことで、くまモンの磁力を保ち、人とカネを県内に呼び込みたい。目指すのは、外国人による消費と、海外からの対内直接投資である。

 政府の成長戦略に足りない視点が、ここにある。元気な中間層や新興企業を抱えるアジア各国の活力を、どう日本の国内経済に取り込むか。工業製品や農産物など、モノの輸出入ばかりに目を奪われると、日本の成長に必要な経済外交の柱が見えてこない。

 「雇用千人の大工場を1つではなく、10人規模の旅行会社や販売店を100件誘致すべきだ」。日本貿易振興機構(ジェトロ)の石毛博行理事長は、輸出を前提とするモノづくりから、サービスへの戦略シフトを唱える。

 観光やビジネスで外国人が来日すれば、経常収支では日本からのサービスの「輸出」となる。国内で製造業の設備投資は伸び悩むが、観光、医療介護、研究開発などサービス分野には海外の投資家や企業も注目する。

 サービス貿易と対内投資を高める方策は何か。内では規制改革で障壁を取り除き、外では共通の約束で取引ができる仲間づくりを進める。外国で投資する日系企業の権利を守り、利益を日本に還元する制度を整える。

 こうした次世代型ルールづくりの試金石になるのが、安倍晋三首相が参加を決めたTPP交渉の成否だ。これまでの論点は、コメや牛・豚肉など農産品5項目での日米の攻防に矮小(わいしょう)化され、日本人と企業の活躍の舞台を広げる大きな絵が描けていない。

円安には頼れぬ

 ふと振り向けば、日本のドル換算の名目国内総生産(GDP)は中国の半分以下になっている。金融緩和で円安が進んだが、輸出は期待ほど伸びない。むしろ輸入原材料やエネルギーの価格が上昇し、特に中小企業や地方経済を圧迫している。

 円安と輸出増を足がかりに成長軌道に戻るシナリオは、もう効かない。12年前の小泉改革の当時と比べ、国内の産業構造が変質しているからだ。製造業を育てて日本をしのぐ貿易大国となり、外貨を稼ぎまくる中国との実力の差は、これでは開くばかりではないか。

 「どれほど開放的な経済を築けるのか、日本の視座が問われている」。日本経済研究センターの岩田一政理事長は、国内で咲かない技術の芽や人材を生かし、世界の消費者や企業とともに日本が成長する道を説く。秘蔵された知識資産を解き放ち日本の価値をグローバル市場で磨く考え方だ。

 熊本のくまモンも日本が生んだソフト価値の一例だろう。外国から技術を取り込み、旺盛な設備投資とハードの輸出で高成長を遂げる中国の政策は、開放経済からほど遠い。同じ次元で競っても日本に勝ち目はない。

(編集委員 太田泰彦)

=おわり

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