アジア投資銀の行方(上) 拙速な参加見送りは妥当 伊藤隆敏 コロンビア大学教授 2015/04/30 本日の日本経済新聞より

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AIIBへの参加判断には賛否の両論がありますが、この記事はその反対論です。麻生副総理と同じような見解で、より詳細に反対見解を論述しており、非常に参考になります。蛍光ペンでマークしている部分を踏まえると、AIIBに入って対抗軸を作るよりも、そもそもこのAIIBという枠組みを認めず、参加しないことの方が明らかに優っていることが理解できます。

このような明確な論理を元に判断、行動するのが政治のリーダーシップであり、現在のところ、安倍首相が下した決断は正しいと思われます。





 4月にワシントンで開かれた国際通貨基金(IMF)・世界銀行の春季総会では、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を巡るメディアの関心が高かった。IMFも世銀も公式には、アジアにおけるインフラ投資の資金が増えるのは歓迎だが、既存の国際機関と連携することを期待すると答えている。

 今のところ表立った批判は聞かれない。18年前のIMF・世銀の秋季総会で、日本が提唱していた「アジア通貨基金」構想が米国や中国の反対で頓挫したのとは対照的だ。

 中国は、国際金融体制の中で世界第2の経済大国にふさわしい地位を確立したいという国家戦略からAIIBを提唱している。IMFや世銀など既存の国際金融機関では議決権配分や首脳人事で欧米が有利になっていることや、アジア開発銀行(ADB)では日本が出資比率トップでこれまで歴代総裁ポストを独占していることに対する不満の表明といってもよい。

 さらにAIIBの必要性について中国は、アジアのインフラ需要が大きいので世銀やADBだけでは対応しきれないことや、IMFの出資比率改定が、米議会の反対で頓挫していることを挙げている。特に後者の指摘は、米国の弱点を突いている。

 中国が設立を最初に提唱した当時(2013年10月)、本部は北京、総裁は中国人、規模は1千億ドルで、中国が出資比率50%まで出す用意があるという構想を示していた。これでは「中国による、中国のための、中国の銀行だ」として、先進国を中心に、国際金融機関とは認められないだろうという懐疑論が大勢であった。

 その後、中国は自国の出資比率を引き下げることも含めて、構想内容を改定しつつ、あの手この手で参加国を募ってきた。それでも今年2月までは参加国は発展途上国・新興国を中心に限定的だった。

 ところが創設メンバーの参加期限とされていた3月末まであと半月という時点で、急きょ英国が交渉参加を表明。その直後、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、韓国も交渉参加を表明した。主要国では日本、米国、カナダだけが取り残される形で、創設メンバーが固まった。結局、創設メンバーとして設立交渉に参加するのは50カ国を超え、6月末の定款調印、年内発足の計画に勢いがついた格好だ。表で示したように、ADBと比べても遜色ない。

 日米両政府にとって、英国や独仏伊の参加表明時期は驚きだった。米政府をもってしても中国のAIIB構想自体を止めたり、英国の参加を抑えたりできなかったことは、米国の経済外交力の低下を表している。国際金融システムは大きな転換点を迎えたといえるかもしれない。

 日米だけが取り残されたとか、日本の外交上の敗北だという意見すら聞かれる。しかし、AIIBの組織運営の制度設計に重大な疑問がある中で、参加すべきではない。3月時点の選択肢は、「参加のための改革条件」を中から働きかけるか、外から働きかけるか、という戦術の違いだった。結果は後者を選択したが、戦略は一貫している。

 参加しないとAIIB案件への入札で日本企業が不利になるのではないか、という意見もある。入札については、メンバー国以外の国の企業にもオープンであるべきだと主張することが望ましいが、そもそもADBでの入札でも日本企業の落札率は極めて低いというのが実情である。

 AIIBの組織制度設計を巡っては3つの問題がある。

 第1の問題は、出資比率で中国が断トツになることだ。出資比率については、域内国群、域外国群の出資比率をあらかじめ3対1に固定することで、域外国(欧米)の影響力を最初から薄めている。一方、域内国群の中の各国の出資比率は国内総生産(GDP)比例で決めるとしている。アジア域内ではGDPが最大である中国が最大出資(投票権)国になる。GDP規模では日本は中国の半分であり、日豪韓・インドの4カ国を合計しても中国に及ばない。

 GDP比だけならば、中国は、出資比率全体の25%近くを確保してもおかしくない。域内と域外の比率をあらかじめ固定することで、圧倒的な出資比率の1位を確保して、欧米の影響力を抑えている。

 また中国は、融資案件を最終決定する「理事会」を本部に常設しない方針である。理事に情報が届かなければ、総裁、幹部、スタッフの意向が強く反映する。理事会を本部に常設して運営のチェックを常に受けるというのは、当然のガバナンス(統治)体制である。こうした問題は、AIIBの影響を真剣に考える国としては譲れない点だ。

 第2の問題は、融資案件・条件に対する懸念である。まず、中国国内のプロジェクトにも融資するかどうかだ。最大の出資国が、自国の公共事業に国際金融機関の資金を動員するよう影響力を発揮するとなると、利益相反の問題が発生する。もう一つ懸念されるのは、中国が重要もしくは友好的と考える国に対して、融資条件を緩くするというような「政治的な利用」である。

 このため「投資ルール」の確立と、最初2~3年の実績が重要になってくる。その意味でも、第1の問題である制度設計が非常に重要になる。

 第3の問題は、既存の国際金融機関との関係である。中国は世銀やADBの借り入れ国である一方で、AIIBでは出資比率でトップになる。国内の資金需要は世銀やADBを通じて先進国から低利で借り入れながら、他方ではAIIBを使って中国がリーダーシップをとった融資をアジアのインフラ案件に貸し出すというのは、違和感がある。

 さらに、世銀やADBが既に活発に活動しているアジアでAIIBが案件を獲得しようとして、世銀やADBよりも魅力的(借り手に有利)な条件を提示する誘惑がある。あるいはリスクの高い案件に貸し込んで融資の焦げ付きを発生させるかもしれない。

 国際金融機関同士の融資条件の緩和競争というのは避けなくてはならない。世銀やADBは、開発金融には環境への影響の配慮、少数民族や低所得層への配慮など世界のスタンダード(ベストプラクティス)があるとしている。これに対して中国は「何が『ベスト』かは分からない。『グッド』があるだけだ」といっている。ノウハウ吸収に数年かかるとして、その後は次第に世銀やADBとは異なる独自路線をとる可能性もある。

 創設メンバー国にはならないことを選択した日本は、今後どう対処すればよいのか。基本的には、創立メンバーになるとした欧州諸国、豪州と緊密に情報交換して、組織の内部、外部から懸念事項の解消に努めることだろう。6月の協定署名までに納得できる改革案が示されれば、その時点で日本が参加する選択肢を持ち続けることが重要だ。

 日本政府はこれまで透明性やガバナンスに懸念があるので状況を見極めるといってきた。基本的に正しいが、いくつかの譲れない具体的条件を明示して改革を迫るべきだ。例えば(1)最大出資国の上限を20%に抑え、重要案件に関する可決要件は75%とする(2)本部に常設する理事会を置き、そこで融資案件の審査をする(3)運用開始前に「投資ルール」を明確化する(4)既存の国際金融機関と補完関係を保ち、融資条件の緩和競争をしないなど、ベストプラクティスの順守を明記する――などだ。

 日本がこれから6月までの間にどのようにAIIBに向き合うのかという問題は、対中戦略からも、国際金融体制における日本の役割を考えるうえでも重要な課題である。

<ポイント>○国際金融システムは大きな転換点迎えた○理事会の非常設や政治的な利用など懸念○改革案次第で参加の選択肢も持ち続けよ

 いとう・たかとし 50年生まれ。ハーバード大博士。専門は国際金融。兼政策研究大学院大教授

株、信用売り残膨らむ 4年3カ月ぶり水準に メガ銀・ソニーの上値抑制 2015/04/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「株、信用売り残膨らむ 4年3カ月ぶり水準に メガ銀・ソニーの上値抑制」です。





 株式市場で信用取引の売り注文が積み上がっている。東京証券取引所が28日発表した24日申し込み時点の信用売り残高は、約4年3カ月ぶりの大きさだった。メガバンクやソニーなど4月に相場上昇をけん引していた銘柄で売り残が増え、上値を抑えている。ただ、信用売り残は決済する際に買い戻されるため、株式の需給面では先行きの株価を支える要因になる可能性もある。

 24日時点の信用取引の売り残高(東京・名古屋2市場、制度信用と一般信用の合計)は8556億円と前の週から561億円増えた。ギリシャ危機による世界同時株安から相場が戻り歩調にあった2011年1月14日時点以来の大きさだ。信用売り残の増加は、目先の調整局面入りを織り込む投資家が増えてきたことを意味する。

 個別銘柄を信用売り残高(金額ベース、24日時点)でランキングすると、ソニーが202億円と東証1部で2位に入った。メガバンクも売り残高が多く、三菱UFJフィナンシャル・グループは166億円と前月末の2倍に膨らんだ。ソフトバンクも増加が目立った。

 こうした銘柄は4月に株価が急ピッチで上昇してきた。ソニーは構造改革の効果や画像センサーの増産などを好感し、株価は4月に入り2割近く値上がりした。メガバンク株も日銀の追加金融緩和の期待を支えに1割前後上昇した。

 日経平均株価が2万円台を回復し、相場全体には達成感が出ている。上昇が目立った銘柄ほど下げに転じやすいとの見方が強まり、信用売りの拡大につながった。

 5月相場への警戒感もある。株式市場の経験則として、5月は株価が調整しやすい時期とされる。「その前に高値圏にある銘柄を売りたい個人が多く、営業マンも信用売りを勧めている」(国内証券の支店営業担当者)という。3月期企業の決算発表が本格化し、今期予想が慎重だとして売られるケースも多い。

 ただ信用売り残を決済するには、投資家は売り建てた株式を買い戻す必要がある。このため株式需給面では先行きの強材料になる面もある。

 相場が上値を試す展開になれば「損失拡大を抑えたい売り方の買い戻しが相場を押し上げる」(松井証券の窪田朋一郎氏)との期待も大きい。相場が下落に転じた場合も、信用売りの利益を確定する買い戻しが相場を支える可能性もある。

2015/04/28 本日の日本経済新聞より「経営書を読む 「ファスト&スロー」(3) 変われない理由 プラスよりマイナスを意識」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のキャリアアップ面にある「「ファスト&スロー」(3) 変われない理由 プラスよりマイナスを意識」です。





 第1回は「正しいことを言っても分かってもらえない」という組織人なら必ず経験する悩みから始めました。今回はこの問題に正面から取り組んでみたいと思います。

 カーネマン教授のノーベル経済学賞受賞の原動力は、同僚の故テフレスキー教授と提唱した「プロスペクト理論」です。同理論で特に重要なのは(1)人間の損得に対する反応は対称ではない(2)そもそも損得を決める基準(reference point)がカギ、の2点です。

 「良い意思決定」をすることは重要ですが、「良い」「悪い」の「基準」に関して深く考える機会がないのではないでしょうか?実はこの「基準=reference point」がくせ者なのです。

 システム1のおかげで、私たちは「無意識」にこの「基準」を設定しています。その「無意識の基準」で最も多いのが「すぐ目に見える現状」、つまりデフォルトです。一度決めたことは変えたくないというのがその代表例です。現状維持は低リスクで、何だかんだ言って楽なのです。

 損得の非対称性ということで、コイン投げを考えてみましょう。「裏が出たら100ドル支払う、表が出たら150ドルもらえます。やりますか?」というものです。筆者のクラスでも時々聞くのですが、やるという人は多くて1割程度です。

 カーネマン教授は多くのテストを通じてこの「損失は利得より強く感じられる」ことを立証したのです。このギャンブルの期待値はプラスなので、「合理的」に考えればやる価値はありますが、多くの人は損の2倍の得が見込めない限りギャンブルに乗りません。

 そう考えると、じり貧の企業で改革ができないのも納得がいきます。現状ではダメだと分かっているが、今は大丈夫だし給料も出ている。もし、新戦略を打ち出して、大失敗したらどうするの……と、偉い人達は思うわけです。デフォルトの魔力を解かない限り、新たな一歩は望めません。

2015/04/28 本日の日本経済新聞より「日経平均2万円は実力か(下) 企業の「稼ぐ力」回復は途上 小林慶一郎 慶応義塾大学教授 統治改革、投資家カギ 従業員の参加意識も重要」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「企業の「稼ぐ力」回復は途上 小林慶一郎 慶応義塾大学教授 統治改革、投資家カギ 従業員の参加意識も重要」です。





 日経平均株価が4月22日、2000年4月14日以来15年ぶりに、終値で2万円の大台を回復した。日本経済は長期のデフレから脱却し、企業社会が構造的に変わったのだろうか。株価の回復は日本企業が「稼ぐ力」を取り戻したことを示しているのだろうか。

 筆者は、マクロでは将来リスクの懸念があり、企業レベルのミクロでは構造変化の希望があると考える。

 まずマクロの問題である。円安が進んだことで、輸出企業は数量ベースの業績が変化しなくても円建ての収益は大きく改善した。ただ、円安の反映として株価が上昇している分を差し引いてみれば、必ずしも2万円の株価が日本企業の実力を表しているとは言い切れない。ドル建てでは日経平均の上昇幅はかなり割り引かれてしまう(図参照)。

 また、長期的には日本の財政の持続性とマクロ的な経済の安定性が不確実である点は引き続き大きな懸念材料である。財政危機(高いインフレによる物価調整)が起きれば、個々の企業努力は吹き飛ぶ。

 1990年代末の銀行危機や2008年のリーマン・ショックの教訓もあるので、日本企業には今でも手元流動性を積み上げようとする強い志向がある。強いリスク回避はそれぞれの企業にとっては合理的でも、マクロでは成長を阻害する。典型的な「合成の誤謬(ごびゅう)」である。

 しかし、財政の将来不安がなくならなければリスク回避は根本的には解消しない。消費税率を10%に引き上げても、財政を安定化させるには全く足りない。その一方で、歳出削減や消費増税をすれば景気が悪化する。マクロ経済と財政は八方ふさがりで出口なしだ。

 その中で企業にリスクをとって成長しろというだけでは無理がある。将来不安を払拭するために、政府は40年程度先までの試算を公表して、財政再建の合理的な選択肢を国民に示すべきである。

 一方、ミクロの動きには希望が持てる。

 昨年2月には機関投資家の株主としての行動規範を示した「日本版スチュワードシップ・コード」が制定された。今年6月には「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」の制定も予定されている。企業統治が変わりつつある。その特徴は、投資家から事業会社への投資資金の流れ(インベストメントチェーン)の全体を変えようとする動きがあることだ。企業統治改革といえば、事業会社の内部組織の改革が中心だったが、今回は事業会社に投資する側の機関投資家を改革することも視野に入っている。

 日本株の投資家と企業の関係に問題があることを示唆するのが自己資本利益率(ROE)の推移だ。日本のROEの10年平均(2000年代)は約6%であり、グローバルな平均値の半分程度である。

 今回、日経平均2万円超えの原動力は高ROE企業だともてはやされているが、ROEの短期的な実現値を経営目標と考えるべきではない。ROEはあくまで生産性の代理変数であり、長期的な実現値で評価すべきものだ。

 問題の本質は日本企業の生産性である。90年代からの二十数年間、日本の生産性(全要素生産性、TFP)はゼロ成長に近く、ROEの低さは生産性の低迷を反映していた。株主資本コストをROEから差し引いたエクイティスプレッドを使うと、日本企業の低生産性はさらに際立つ。

 日本の企業統治の弱さを変えて、日本全体の生産性と経済成長を高めようとしているのが、政府の日本再興戦略に位置づけられた企業統治指針などの動きである。

 日本の企業統治の問題点は銀行による統治(バンクガバナンス)から、株主による統治(エクイティガバナンス)への転換がうまくいっていないことであろう。70年代までの資金不足時代には大きな力を発揮したバンクガバナンスがバブル崩壊後の資金余剰で弱体化したのに、代わるべきエクイティガバナンスが有効に機能していない。

 そこには株式を発行する事業会社の問題だけでなく、株主(資産運用会社などの機関投資家)が統治主体として必ずしも有効に機能できないという投資家側の問題がある。わが国の資産運用業界は、投資先の経営改善に関与(エンゲージメント)しない短期売買型の投資の割合が高い。彼らの一定割合が長期のエンゲージメント投資志向の投資家に変わらなければならない。すなわち発行体の経営改善に深く関与して長期の企業価値向上から収益を得る投資モデルを普及させる必要がある。

 それには運用会社に運用委託している最終投資家(年金基金、生命保険会社など)も長期エンゲージメント志向になることが求められる。さらに、同様の志向を持つ運用会社の新規参入が増えることも必要であろう。インベストメントチェーンに関わるすべてのプレーヤー(発行体、運用会社、最終投資家)が変わる必要があり、様々な政策的な後押しも重要である。詳しくは、3年前に筆者らが立ち上げた『山を動かす』研究会編「ROE最貧国 日本を変える」を参照していただきたい。

 ROEを高める経営改革は、労働者の取り分を減らして株主の取り分を増やすゼロサムゲームとみられがちだ。労働市場改革も一体的に進め、ゼロサムでなく雇用や賃金も増えるプラスサムゲームを実現しなければならない。

 プラスサムの例は意外なところにある。高ROE企業の代表格であるトヨタ自動車の幹部から、トヨタ生産方式の本質は「人間性の尊重」と聞いたことがある。現場の従業員一人ひとりの参加意識を高め、彼らからの主体的な職場改善の提案を実行することで生産性を向上させるのがトヨタ生産方式である。

 この哲学は、人類の歴史を通じて受け継がれた「積極的自由」の概念に通じるものがある。政治学や政治思想の分野とは異なり、経済の議論ではほとんど意識されないのが「積極的自由」と「消極的自由」の違いである。与えられた選択肢の中で欲しいものを選ぶ自由が「消極的自由(または選択の自由)」である。経済学者が使う自由の概念は例外なく消極的自由だ。

 一方、政治学者のマイケル・サンデル米ハーバード大教授によると、古典的政治思想における自由(積極的自由)は、ギリシャ時代から「自己統治に参加できる自由」であった。自分が住むポリスの政治に参加し、自己決定できるということが市民にとっての本質的な自由であり、かけがえのない価値であった。同じことは現代の様々な組織やチーム(自治体、企業、市民団体など)についても成立する。

 企業でいえば、従業員一人ひとりが自分の職場のあり方を自己決定できる自由を持つことは、従業員に満足感をもたらすだけでなく、チーム全体に対する強い責任感を必然的に生み出す。それは結果としてチームの生産性を顕著に高める。こうした積極的自由の作用を最大限に生かして生産性を上げたのがトヨタ生産方式だといえそうである。

 このように長期的に強い企業とは、ステークホルダー(利害関係者)の全員が当事者意識を持って意思決定に参加できる「積極的自由」のある組織ではないか。日本企業が長期のROEを上げられるかどうかは、そうした経営ができるかどうか、にかかっている。企業統治指針でも、価値向上のためにステークホルダーに配慮することが求められている。投資家も含めたインベストメントチェーン全体が変わることが必要だ。今回の株式市場の活況がその変化を促進することを期待したい。

〈ポイント〉○将来の財政不安が企業努力に影を落とす○雇用や賃金を増やしながらROE向上を○所属チームへの責任感が生産性を高める

 こばやし・けいいちろう 66年生まれ。シカゴ大博士。専門は経済政策、マクロ経済学

2015/04/27 本日の日本経済新聞より「経済教室 日経平均2万円は実力か(上) 「出遅れ」解消、割安感薄まる 川北英隆 京都大学教授」

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 日経平均株価が2万円を回復した。2000年4月以来15年ぶりである。とはいえ、日経平均の史上最高値は1989年末の3万8915円である。一方で米国やドイツは史上最高値水準にある。80年代後半の日本がバブルの状況にあったとはいえ、日本の株価水準は取り残されている。この意味で、日経平均2万円は株価上昇過程の一里塚でしかない。

 本稿では、2万円回復をどう評価すべきなのか、株価上昇が続くには企業経営に何が求められるのかを検討する。

 中長期的な株価水準は企業の収益力に左右される。では、何をもって企業の収益力を測ればよいのか。筆者は営業利益が最も適当だと考える。経常利益や税引き後利益の場合、負債に対する利払いが短中期的には固定費として働くので、好況と不況の波を増幅してしまう。いわゆる財務レバレッジ(テコの原理)効果が生じるため、あまり適切な指標ではない。これに対して、営業利益は企業の財務体質に左右されず、企業の収益力を端的に表す。

 図は、各年度の営業利益ベースでの増減益率と、各年度末時点において営業利益(確定値)の何倍まで上場企業が買われたのかを示す値について推移を示している。図から判明するのは、12年度以降の増益基調が株価上昇を支えてきたことである。増益基調を背景に、時価総額・営業利益倍率も高まってきた。

 増益基調が株価水準を高めたことは、中長期的な株価水準が企業実態を反映していることを意味する。「株価とは、将来において企業が株主のために生み出すであろうキャッシュフロー額を、現時点での価値(現在価値)に換算したものである」との理論に則している。日本の株式市場が中長期的には正常に機能してきたことにほかならない。

 一方、増益基調にともなって時価総額・営業利益倍率が高まっていることは、利益に対する投資家の期待の高まりでもある。この投資家の期待に反して利益水準が落ち込めば、08年度や11年度のようにこの倍率が低下し、株価が下落してしまう。

 もう一点、図からいえることがある。現時点での時価総額・営業利益倍率が13倍台にあり、06年度ごろの水準にまで高まっていることである。当時を思い起こすと、07年の半ばにサブプライムローン問題が表面化したことから日本の株価は下落基調に転じ、翌08年のリーマン・ショックが追い打ちをかけた。

 株式市場の代表的な指標であるPER(株価収益率=株価/1株あたり当期純利益、利益は確定値)も20倍近くにあり、07年当時の水準が射程に入っている。また、米国やドイツに比べて日本のPERが低かったことから「日本の株価は出遅れており、買い余地がある」とされてきたわけだが、現状の日本はドイツとほぼ並び、米国にも接近してきている。「出遅れ状態」もほぼ解消されたことになる。

 以上から、日経平均2万円回復は経済の実態を反映したものである一方、株価の割安感は消えつつあるのではなかろうか。今後の株価は企業の収益力の高まり次第である。

 企業の収益力に対する投資家の期待の高まりを象徴するのが公的年金の動きだろう。昨秋から今春にかけて、公的年金は資金運用の指針である基本ポートフォリオ(資産構成割合)を見直した。国債の比率を引き下げ、代わりに日本株を含むリスク資産の組み入れ比率を大幅に引き上げたのである。この動きを決定づけたのが、137兆円もの年金資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)である。

 GPIFは昨年10月末、基本ポートフォリオにおける日本株の組み入れ比率を12%から25%へと引き上げた。これに追随するように、国家公務員共済と地方公務員共済も日本株組み入れ比率をGPIFと同じ水準に引き上げた。

 公的年金が日本株の組み入れ比率を引き上げた背景には日本企業への期待がある。

 公的年金が基本ポートフォリオを見直す契機となった「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」報告書(13年11月)には以下の記述がある。「公的年金の運用については……日本経済に貢献することになり……経済成長と資金運用との好循環が期待される」「国内債券を中心とする現在の各資金のポートフォリオについては……見直しが必要である」「海外資産運用比率を高めることは……国内運用資産の減少が国内経済に影響を与える可能性がある」などと、日本株での運用に対して高い期待を表明している。

 いずれにせよ公的年金が日本株式の組み入れ比率を引き上げたことは、他の投資家にとっての安心材料である。新たな組み入れ比率に近づけるため、公的年金が日本株の追加購入を続ければ、需給が引き締まる。加えて、日銀が上場投資信託(ETF)の購入を通じて株式の購入を継続している。これらの動きが止まらない限り、下値を切り下げないという安心感がある。

 懸念があるとすれば、企業の収益力が期待に反して向上せず、需給要因だけで株価が上がることだ。図でいえば、時価総額・営業利益倍率が一段と高まることになる。そうした状況は、日本の株価がバブルの領域に一歩足を踏み入れてしまうことに等しい。

 日経平均が2万円を超えた後も上昇を続ける条件は、企業の収益力が今以上に高まることである。「欧米に出遅れた日本」という追い風は2万円までだろう。ここから先は日本企業の真価が問われる。

 日本企業の収益力はどの程度にまで高まったのか。筆者が注目するのは、売上高に占める付加価値の比率である。ここでの付加価値とは、営業利益、人件費、減価償却費の合計としている。日本企業の売上高付加価値率を観察すると、低下傾向がうかがえる。12年以降、景気の自律的回復とアベノミクス効果により、この比率は若干上昇した。しかし、足元では再び頭打ちとなっている。日本企業の収益力の回復が弱いといえる。

 こうした状態の中で経営努力は人件費の抑制に向けられてきた。また、古い設備を使い続け、減価償却費の負担軽減効果も得てきた。デフレが完全に払拭されずに売上高の伸び率が低く、また売上高付加価値率がさえないにもかかわらず、営業利益だけが堅調なのは、これらの経費抑制が大きい。見方を変えると、これまでの方針を転換し、賃上げを実施しつつ増益基調を維持していくには、経営の重点を見直す必要がある。すなわち、国内で積極的に高付加価値製品・サービスを生産するための仕組みづくりである。

 日本経済の低成長は企業間格差を拡大させた。経済全体の成長率が高いと、どのような経営でも一定の成果が出せるのに対して、低成長では経営陣の目の付け所や統率力が収益力を左右してしまう。守りの経営だけでは彼我の差が拡大する。守りは適切なガバナンス(統治)体制に委ねたうえで、執行そのものは収益力の向上に向けてかじを切ることが望まれる。

 経営として、もう一つ工夫が必要なのは海外での事業展開である。日本の高齢化と人口減少に直面し、従来型の国内需要に多くを期待できず、人手に頼る生産にも限界があるため、企業の目は海外に向いている。すでに東証1部の製造業の海外での売上高比率は50%に達している。しかしながら、海外事業が成功するかは経営手腕に依存する部分が大きく、これが新たな企業間格差の要因となるだろう。

 実際、企業間格差は株価の差を生み出している。日経平均と東証株価指数を比較すれば一目瞭然だが、日経平均の上昇率が継続的に高い。経営力のある企業が日経平均に多い証拠である。優れた企業が高い株価をもたらす典型だろう。これが日本企業と市場が目指す方向である。

〈ポイント〉○期待に反して利益落ち込めば株価下落も○需給要因だけで株価上がる状況は危うい○国内で高付加価値製品を生産する体制を

 かわきた・ひでたか 50年生まれ。京都大経済学博士。専門は証券投資論、証券市場論

2015/04/27 本日の日本経済新聞より「グローバルオピニオン 訪米機に近隣関係改善を 米ハーバード大名誉教授 エズラ・ボーゲル氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「訪米機に近隣関係改善を 米ハーバード大名誉教授 エズラ・ボーゲル氏」です。

安倍首相の今回の訪米に関して、右派、左派の両派から、さまざまな意見が付されています。その中で、中韓から疑念を招かぬような配慮を行うよう求めるケースが多く見受けられます。中韓はプロパガンダとして日本を歴史修正主義と決めつけている節がありますので、中韓向けのメッセージは別に発し、国際社会に対しては未来志向での発言を堅持していただきたいものです。





 安倍晋三首相の今回の訪米は、戦後70年間の日本の歩みを誇らかに示す歴史的な機会であるとともに、周辺国との関係改善の布石を打つ機会でもある。来るべき東アジア新時代に向けて自らの構想を披露する機会にもなるだろう。

 戦後、日本が世界の平和と発展に貢献する苦難の道を歩む中で、国民が払った努力を安倍首相が誇らしく思うのはもっともである。筆者が1950年代後半に日本で研究を始めた頃、世界の中で新しい平和的な役割を担うとともに経済再建に取り組む日本の人々の決意に感嘆を禁じ得なかった。近隣諸国の復興への日本の尽力や、国際機関への多大な貢献にも、感嘆を禁じ得ない。安倍首相は、こうした貢献を誇ってよいであろう。

 筆者は79年の著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の中で、日本が欧米に勝る点を米国の人々に理解させようとした。その後、日本は成長の鈍化とともに問題を抱えるようになったものの、当時の優位性はいまなお損なわれていない。平均寿命や医療技術は世界で最上位グループに、犯罪率は世界で最も低いグループに、平均的な教育水準、製造技術と品質管理はいずれも最も高いグループに属す。

 どんな国の指導者も、自国に誇りを持ち、国のために命をささげた人々に敬意を払うことを国民に奨励すべきである。他国から度々謝罪を要求され、また愛国心をあおる狙いから日本軍の残虐行為を言い立てられて、多くの日本人が動転したのは理解できる。

 だが、近隣国との良好な関係は日本の利益にもかなう。被侵略国の人々に思いやりを示すことが大切だ。日本兵が与えたとされる痛手を「根拠のない非難」だと否定したら、欧米諸国の指導者や著名人も、日本は痛手を被った人々の苦しみを小さく見せかけようとしていると非難するだろう。逆に安倍首相が勇気をもって戦争中に一部の日本兵が犯した行為を認め、侵略された苦しみに思いやりを示し続けるなら、近隣国との関係改善に大きく寄与すると同時に、欧米諸国からも評価されよう。

 中国経済は成長を続けている。中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)構想に世界各国が好意的に反応したのも、中国がグローバル経済で果たす役割の拡大を確信しているからだ。安倍首相は、中国の武力による威嚇にはけっして引かない決意を示すとともに、対中・対韓関係の改善に取り組む姿勢を見せるべきだ。

 安倍首相の訪米は、民主主義の価値観に対する強い信頼を改めて表明する好機でもある。そこには、国内外で首相の政策や見解を批判する自由を認めることも含まれる。首相の訪米は、アジア各国および米国との関係強化に向けた大きな一歩となるだろう。

Ezra Feivel Vogel ハーバード大大学院で社会学を学び、博士号取得。中国と日本の専門家として同大教授、東アジア研究所長などを務めた。84歳。

2015/04/27 本日の日本経済新聞より「月曜経済観測 増える訪日外国人、2000万人目標前倒し視野 成田国際空港会社社長 夏目誠氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・経済面にある「月曜経済観測 増える訪日外国人、2000万人目標前倒し視野 成田国際空港会社社長 夏目誠氏」です。

外国人観光客が増えているのは時間しますが、まさか、2020年までに2000万人という政府目標のペースを大幅に上回っているとは思いませんでした。その中で、安心や安全といった日本ならではの特長が支持されていると思われ、日本を代表する国際空港の一つ、成田空港が活況に沸くのはよく理解できます。




 東京の街を歩くと、外国人旅行者が目に見えて増えたのを実感できる。観光客誘致は日本の成長戦略の柱の一つでもある。成田国際空港会社の夏目誠社長に現状と展望を聞いた。

ビザ緩和が効果

 ――訪日客の動向は。

 「去年は1341万人の外国人が来日し、史上最高を記録したが、今年はさらに勢いが強い。日本政府観光局によると、1~3月の訪日客は前年同期比で43%増だった。このペースが続けば、今年の訪日客は1900万人を超える。政府は2020年までに訪日客を2000万人に増やす計画を掲げているが、よほどのことがない限り、前倒しで達成できるだろう」

 「好調の要因の一つは、円安で外国人にとって日本旅行が割安になったこと。東南アジアや中国向けに訪日ビザの発行条件を緩和したのも、大きな効果があったと思う。今年3月には152万人が日本を訪れ、単月としての最高記録を塗り替えたが、日本的な『お花見』の魅力が外国人にもアピールしたのだろう」

 ――中国観光客のいわゆる「爆買い」も話題です。

 「おかげさまで成田空港のショップも非常に好調だ。『ロイズ』のチョコレートは人気が高く、1人30箱までと購入制限している店もある。2月にオープンしたバッグの『バオバオ イッセイミヤケ』の店をのぞくと、1つの棚は全部売り切れで商品がなかった。海外の高級ブランドや日本のセイコーの腕時計、1台6万円前後の高級炊飯器も相変わらずよく売れる」

安全・安心が魅力

 ――いつまで続くのでしょう。

 「爆買いの背景には、人民元高・円安で日本での買い物が割安という事情もあるが、中国の人にとって日本で売っているものは『安全・安心』という一種のブランドができあがったことも大きい。前者は為替次第で変わるが、後者は持続性が高い。売れ筋商品や価格帯は時代につれて変遷するだろうが、中国人の買い物ブームが一過性で終わるとは思わない」

 ――観光振興のためにも空港の機能強化は重要です。

 「新規路線の開設に力を入れており、1年間は着陸料をタダにするなどの誘致策を始めた。手応えはかなりあり、例えば今月から成田―アディスアベバの直行便をエチオピア航空が飛ばすことになった」

 「韓国の仁川など近隣ハブ空港と比べた成田の強みは北米路線の充実だ。週間の出発便数は314便で、仁川の1.6倍、上海浦東の3倍に達する。一方で中国など近隣アジアとのネットワークがやや弱い。格安航空会社(LCC)の就航を増やして、アジアと北米をつなぐ結節点としての存在感を高めたい。そうすれば乗り継ぎ需要も取り込めるだろう」

 ――成田の発着枠は年間30万回ですが。

 「成田も羽田も近年、能力拡張を繰り返してきたが、これ以上の手を打たなければ20年代前半に満杯になるというのが国土交通省の見方だ。私たちとしても地元の同意を前提に、能力拡張を進めたい。既存滑走路の拡充のほか、3本目の滑走路の新設も必要になってくると思う」

(聞き手は編集委員 西條都夫)

 なつめ・まこと JR東日本出身で、駅併設の商業施設の運営に手腕。67歳。




2015/04/26 本日の日本経済新聞より「がん社会を診る 進行度で違う治癒率 中川恵一」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の健康面にある「進行度で違う治癒率 中川恵一」です。





 現在、がん全体の6割近くが完治しますが、がんの治りやすさの指標である5年生存率はがんができる臓器によって大きく違ってきます。乳がん、前立腺がん、甲状腺がん、皮膚がんで9割近くになりますが、食道がん、肺がん、肝臓がんで3割程度、膵臓(すいぞう)がんでは7%にすぎません。

イラスト・中村久美

 同じ臓器のがんでも、がんの病巣がまだ小さく、臓器にとどまっている段階なら、完治の可能性は高くなります。がんの増殖が進むと、臓器の外に出てリンパ節などへ転移します。この段階になると進行がんと呼ばれますが、まだ完治の望みはあります。しかし、他の臓器に転移してしまえば、治癒は非常に難しくなります。

 一般的にがんは、できたもとの臓器である原発巣からリンパ節へ広がり、さらに遠隔臓器へ転移します。がんの進行の度合いは、もとの臓器にあるがんの大きさ、リンパ節への転移の程度、離れた臓器への転移の有無によって表現します。それぞれの英語表記の頭文字であるT、N、MをとってTNM分類と呼ぶ方式をもっとも使います。

 一般的にはT1~T4と数字が大きくなるほど病巣が大きくなります。N0~N3は数字が大きくなるほど、遠くのリンパ節に転移していることを指します。M0は遠隔転移なしで、M1の遠隔転移ありと区別します。たとえばT2N1M0のように表記します。T1N0M0はステージ1で最も早期ですが、遠隔転移のあるM1となるとTやNの数字にかかわらず、ステージ4の進行した状態ということになります。同じ胃がんであっても、ステージ1の5年生存率は98%に達するのに対して、ステージ4では同8%で、12倍の差があります。

 肺がんでもステージ1と同4の5年生存率はそれぞれ80%と5%で17倍近い差があります。ただ、肺がんの2割弱を占める小細胞性肺がんと呼ばれるがんの組織のタイプはとくに難治性で、完治は例外的になってしまいます。

 同じ臓器のがんであっても、TNM分類に基づく進行度の違いやがんの組織型によって、治療方法も治癒率も大きく変わってきます。がんと診断された際には、TNM分類や組織型まで医師に確認しておくとよいと思います。

(東京大学病院准教授)

2015/04/26 本日の日本経済新聞より「けいざい解読 迫る米利上げ、新興国に試練 投資マネー選別強まる」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・経済面にある「迫る米利上げ、新興国に試練 投資マネー選別強まる」です。

市場で米国の利上げが6月ないしは9月に予想されています。昨年、緩和終了観測が表面化した際に、マーケットがかなり揺らぎました。この度、利上げ発表された場合に市場がどのような反応を示すか、注目されています。

このような状況の中、インドの通貨ルピーとブラジルの通貨レアルが対照的な動きをしている点についてこの記事では触れられています。レアルは、利上げ発表時にかなりの衝撃が生じる恐れがあり、ブラジル発の経済危機が生じてもおかしくないように思われます。2014年1月にアルゼンチンペソが暴落しましたが、それを上回る衝撃が走る可能性があり、留意が必要と考えられます。





 米連邦準備理事会(FRB)が2015年中に金融引き締めに転じる方向を示し、新興国経済が試練を迎えている。米利上げをきっかけに投資家が新興国から資金を引きあげたり、選別を強める恐れがあるためだ。有力新興国それぞれの耐久力が改めて試される。

 「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5人組)」。米投資銀行モルガン・スタンレーのリポートにこんな表現が登場したのは13年夏のことだった。

 当時の焦点は巨額のマネーを市場に流してきたFRBの量的緩和第3弾(QE3)の縮小開始だ。経常赤字などファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に弱点を抱え、QE縮小で通貨が売り圧力にさらされるインド、ブラジル、インドネシア、南アフリカ、トルコの5カ国を列挙した。

 01年にゴールドマン・サックスが命名した「BRICS」以来の、新興市場国を取り巻く環境を端的に示すキーワードとして定着した。しかし当のモルガンはこの呼び名をすでに封印している。5カ国をまとめてくくれなくなってきたからだ。

 今月16日、ワシントン。「FRBもいつまでも利上げを先送りすることはできないだろう」。インド準備銀行(中央銀行)のラジャン総裁はシンポジウムでこう発言した。同総裁は他国への影響を考慮しない「自分勝手な」FRBの金融政策を批判し、けん制してきたがトーンを変えた。

 13年夏の急落がうそのようにインド・ルピーの安定ぶりが目立っている。資源安で経常収支の改善が進む追い風に加えて昨年就任したモディ首相による改革路線への海外投資家の期待感が強い。一級の経済学者として評価が高いラジャン総裁との「二人三脚」が安心感を与えている。

 対照的なのがブラジルとトルコの変調だ。ブラジルではばらまき政策で海外投資家に不評だったルセフ大統領が昨年、僅差で再選した。資金の逃避はおさまらず通貨レアルは下落。輸入物価の上昇がインフレを引き起こし中銀は不況下で利上げを迫られている。国際通貨基金(IMF)によるとブラジルの国内総生産(GDP)は今年インドに抜かれる。

 トルコをめぐる市場の警戒感はエルドアン大統領と中銀の緊張関係にある。通貨リラが下落基調にもかかわらず「絶対的な権力者」である大統領が景気てこ入れへ利下げ圧力をかけているとされ、バシュチュ中銀総裁の退任観測がくすぶる。

 モルガンは市場の混乱に耐えられる改革の進捗度について、インドネシアのジョコ政権に65%とインド(85%)につぐ及第点を与える一方、資源依存の経済構造が変わらない南アフリカには「ほぼゼロ%」と手厳しい。

 FRBは1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明から「国際情勢の進展」という文言を新たに盛り込んだ。金融政策を動かすに際して新興国を含む国際金融市場の動きを注視する方針をあえて強調した。11年ぶりとなる利上げ開始のXデーに向けて緊張感が高まる裏返しだ。

(ニューヨーク=佐藤大和)

2015/04/25 本日の日本経済新聞より「数字で知る日本経済2(4)法人税率「20%台」なら 給料増、企業の活力に」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「数字で知る日本経済2(4)法人税率「20%台」なら 給料増、企業の活力に」です。




 あなたの会社はどれだけ税金を払っているだろうか。企業が納める税金を減らし、その分、社員の給料に回そう。政府は今年度からそんな取り組みを始めた。

 サラリーマンが収入に見合う所得税を払うように、企業は商品やサービスで稼いだもうけに応じ、国と地方自治体に法人税を払う。

 国と自治体に納める分を合算した実質的な負担割合を法人実効税率と呼ぶ。企業のもうけにかかる税率と考えていい。14年度は34.62%。もうけのうちこれだけを法人税として納めていた。

 政府は15年度、この税率を32.11%と2.51%下げた。税金が減れば手元のお金に余裕ができ、給料や新規雇用を増やしたり、国内外に新しい工場を建てたりできる。減税で企業の成長を後押しし、経済の好循環を生もうというのが政府の腹づもりだ。

 数年以内に20%台にまで下げるのが政府の目標だ。狙い目はフランスの33.33%を下回り、ドイツの29.66%と肩を並べる程度か。甘利明経済財政・再生相は「企業が魅力を感じるのは20%台に入ってから」とみる。日本から海外へ企業が逃げ出さず、海外企業の日本進出も妨げない水準を探る。

 だが、税率を大きく引き下げるようだと、財政当局が黙っていない。国と地方をあわせたもうけにかかる法人税の税収額は13年度で約17兆円。国と自治体に納める法人税の税率を1%下げると一気に約5千億円も収入が減る計算だ。

 業績で納税額が決まる法人税は不況になれば自然に減る。あまり税率を下げたくないというのが財務省や自治体の本音だ。

 そこで減税する場合には、増税と同時に実施し、税収をほぼ同水準にとどめる手立てをとることがよくある。15年度も2.51%下げるかわりにもうけの出ていない赤字企業の税金を重くしたり、赤字から立ち直った黒字企業への減税を縮めたりした。

 政府目標の20%台まであと2%強。減税を補う財源を確保するため、政府内では設備投資や研究開発にお金を使った企業の負担を減らす「政策減税」を縮小する案などが浮上している。

 法人減税は景気を刺激し、企業の活力を引き出す効果が期待できるが、行政サービスの提供に必要な税収も減ってしまう。さじ加減が難しい。