こころの健康学 精神的な不調 企業の経済損失は膨大 2015/05/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「こころの健康学 精神的な不調 企業の経済損失は膨大」です。





 先週に引き続き、12月から導入のストレスチェック制度について考えたい。この制度は精神的不調の予防が目的だ。ストレスに早く気づいて手立てを講じるきっかけにしたい。

イラスト・大塚 いちお

 職場での精神的不調の予防は、働いている人たちの心身の健康を守るために重要だ。同時に企業の生産性を高めるためにも必要だといわれている。2010年度障害者総合福祉推進事業の研究班の報告書に、精神的な不調を抱えながら無理やり出社している人と、精神的な不調で欠勤せざるを得なくなっている人による生産性の低下を経済損失として換算した試算結果が掲載されている。

 それぞれ、プレゼンティーズムとアブセンティーズムといわれる。プレゼンティーズムの人は精神的な不調のために仕事への集中力や決断力が低下していて本来の能力を発揮することができない。その経済損失は年間で4兆3千億円以上になる。アブセンティーズムの場合の460億円の百倍近くなる。

 プレゼンティーズムの経済損失がこれだけ高い値になるのは、精神的不調を抱えている人が多いことが影響しているのだろう。精神疾患のために医療機関を受診している人が、全従業員の1割以上にのぼる企業は少なくないと聞く。受診するほどではない精神的疲れを体験している人を含めると2割~3割近くになるといわれている。

 企業の中で、これだけ多くの人が精神的不調を抱えていて、経済損失が膨大な額にのぼっている。ストレスチェック制度を適切に運用することが極めて大切だ。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)

けいざい解読 中国、揺らぐ健全財政目標 景気にらみ歳出増も 2015/05/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・経済面にある「けいざい解読 中国、揺らぐ健全財政目標 景気にらみ歳出増も」です。

事実上のドルペッグ政策の中国、財政赤字のGDP比率を3%以内に抑える目標は、為替政策とのバランスが難しいのではないかと思われます。





 「財政赤字の国内総生産(GDP)に対する比率は3%以内に抑える」。中国がこんな目標を掲げていることはあまり知られていない。

 もともと、おおっぴらにはしてこなかった。その存在が明らかになったのは、2008年秋のリーマン・ショックに対応して4兆元(現レートで約80兆円)の景気刺激策を打ち出したあとだ。

 世界をあっと驚かせた巨額の支出がたたり、08年に1%弱だった財政赤字のGDP比は09年に3%近くまで上昇した。

 このころから、当時の温家宝首相らは「3%」の天井を口にするようになる。10年の財政報告には「赤字率を3%以内に抑えなければならない」と書き込んだ。

 むだな歳出をできるだけ削った成果だろう。赤字率は12年に1%台半ばまで下がった。12年秋に発足した習近平指導部も、この目標を捨てていない。景気の減速にもかかわらず、大規模な財政出動を控えてきた。

 日本に比べればはるかにお金に余裕のある中国が、歳出増にここまで慎重なのはなぜか。

 いちばん恐れているのはインフレだ。軍が民主化運動を鎮圧した1989年の天安門事件は、年率で20%近いインフレに民衆の不満が爆発したのがきっかけだった。

 放漫財政が物価高を招けば、社会が不安定になって共産党政権の足元がぐらつく。「インフレの芽は何としてでも摘み取る」。中国共産党の幹部がそう話すのを、何度も耳にした。

 もう一つ見すごせないのは安全保障の観点だ。中国は毎年10%を超す勢いで国防費を増やしている。当然、財政には大きな負担がかかる。

 財政学が専門の土居丈朗慶大教授は「中国は国防費が増えてもなお3%の目標を達成できるように財政運営している」とみる。国防費を十分にひねり出せなくなる事態を避けるために、規律ある財政を心がけているというわけだ。

 高成長を続けていれば、財政赤字のGDP比を低く保つのはそれほど難しくない。分母の名目GDPがどんどん膨らんでいくからだ。

 しかし、成長率が落ちるとそうはいかない。税収の伸びが鈍るうえ、GDPはかつてのような勢いで増えない。

 いまの中国はまさにそんな局面にある。

 高成長の時代が終わり「新常態(ニューノーマル)」と呼ばれる巡航速度の経済をめざす。その一方で高齢化が進み、社会保障費など歳出の増加は避けられない。「3%目標の維持はだんだん難しくなる」(みずほ総合研究所中国室の三浦祐介主任研究員)

 想定以上に景気が減速すれば、目標を守れなくなる日は意外に早く訪れるかもしれない。「投資の重要な役割を発揮する」。習指導部は4月末の政治局会議で、公共投資の拡大に言及した。

 中国は今後も目標を死守するのか。それとも目標にこだわらずに歳出を増やすのか。その決断は世界経済だけでなく、東アジアの安全保障にも大きな影響を及ぼす。

(国際アジア部次長 高橋哲史)

真相深層 米、中国に仕掛ける消耗戦 南シナ海の人工島に危機感 偵察写真を公表/東南ア諸国支援 2015/05/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「真相深層 米、中国に仕掛ける消耗戦 南シナ海の人工島に危機感 偵察写真を公表/東南ア諸国支援」です。

米国の態度がこれまでの腫れ物に触る対応から、毅然としたトーンに変化しつつあります。今後の動きから目が離せない内容となっています。





 日本が中東から輸入する石油のほとんどが通る南シナ海。人工島の造成をやめない中国に、米軍が監視を強め、緊張が高まってきた。オバマ政権はどこまで本気で、中国の行動を阻むつもりなのか。

南沙諸島で活動する中国のしゅんせつ船を映した米海軍偵察機撮影の映像=ロイター

 沖合の艦船から放たれた大きなホーバークラフトが、ものすごい勢いで海岸に近づき、砂浜に上陸した。精鋭部隊がそこから飛び出し、すばやく前進する……。

 米海兵隊は19日、ハワイで上陸作戦の演習を実施した。これだけならふつうの光景だが、違ったのは、約20カ国の軍幹部がじっと見守っていたことだ。

 17~21日、米海兵隊が日本や東南アジアの指揮官を招き、島しょ防衛に関する初の研修会を開いた。この中での一幕だ。米軍によると、目的は「各国の島しょ防衛力を高めること」。岩礁を埋め立てる中国をけん制するねらいは明白だ。

激しい議論の末

 米軍は今月に入り、偵察機や新型戦闘艦を南シナ海に送り、中国への圧力を強めだした。中国が工事をやめなければ、人工島の12カイリ(約22キロ)以内に、軍艦船などを派遣することもあり得るとも警告した。

 背景にあるのは、このままでは南シナ海に中国が軍事拠点を築いてしまうという、オバマ大統領自身の焦りと危機感だ。

 4月28日の日米首脳会談。日本側は、オバマ氏の対中認識が昨年の会談よりずっと険しいのに驚いた。「中国をめぐるオバマ氏の発言はかなり、厳しい。日米の対中認識のズレは埋まった」

 では、米側がどこまで、軍事圧力をかけるつもりなのか。実は、中国が南シナ海で埋め立てを始めた昨年以来、国防総省や米軍内では、激しい議論が交わされてきたという。内情を知る元米政府高官は明かす。

 「軍艦や軍用機を(中国の人工島近くに)送り、けん制すべきだとの意見が海軍首脳から出ていた。ただ、米軍が介入すれば、衝突の危険が高まってしまうとの声が根強く、結局、実行には移されずにきた」

 構図が変わったのは今春。猛烈な勢いで埋め立てが進み、周辺国が懸念を深めるなか、オバマ政権も直接関与に転じざるを得なくなった。

 ただ、中国との衝突を避けたいのは言うまでもない。そこで米政権が採用しようとしているのが、コスト賦課(Cost Imposing)と呼ばれる中長期戦略だという。政権に近い新米国安全保障研究所(CNAS)などが提唱している。

 どんな内容なのか。CNASのパトリック・クローニン上級顧問によると、軍事、外交、宣伝などさまざまな手段を使って、中国の行動に重い代償を払わせ、時間をかけて、強硬策を断念させていくというものだ。いわば、消耗戦略といえる。

日本の安保左右

 米政府筋によると、すでに一部で実施されつつある。たとえば、(1)埋め立て状況を映した衛星写真などをひんぱんに公表し、国際圧力を強める(2)東南アジア諸国などへの支援を強め、島しょ防衛力を底上げする(3)同盟国と協力し、中国の監視活動を広げる――などが、その具体例だ。

 すでに写真の公表は増やしている。今月、ハワイで開いたアジア太平洋諸国向けの島しょ防衛研修会は、(2)に当たる。米軍が最近、自衛隊による南シナ海での監視活動に期待感を示しているのは、(3)への布石だ。

 もっとも、どこまで効果があるかは分からない。中国が大規模演習で台湾を威嚇した1996年。米国は空母2隻を台湾海峡に送り込むだけで、中国の挑発をやめさせることができた。

 それから約20年。中国軍は強大になり、もはや力ずくでは抑え込むのは難しい。米政権内で「コスト賦課戦略」が浮上するのは、そんな厳しい現実の裏返しでもある。

 9月には中国の習近平国家主席が訪米する。米中関係筋によると、ホワイトハウス内では、温暖化対策やイラン問題で成果を残すため、「南シナ海で対立しても対中関係全体を損なうべきではない」との意見もある。

 勝算がないまま、南シナ海への関与に動くオバマ政権。その成否は、日本の安全保障にも跳ね返ってくる。

(編集委員 秋田浩之)

2万円時代の投資家群像(3) 冷静に、着実に 我ら「草食系」 2015/05/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「2万円時代の投資家群像(3) 冷静に、着実に 我ら「草食系」」です。





 「投資は日々の相場から離れてください」。4月下旬、独立系運用会社セゾン投信が日本郵便と都内で開いたセミナー。社長の中野晴啓(51)は急上昇する日本株にはほとんど触れず、長期運用の利点などの説明に終始した。熱心に聞き入った約200人の参加者は、いわゆる「草食系」と呼ばれる投資家たちだ。

「草食系」でセゾン投信のセミナーは満席になった(東京都千代田区)

 ネットや書籍で金融知識を豊富に蓄え、長期目線でこつこつと投資していく――。これが彼らの典型的なスタイル。なじみの証券マンに「早耳情報」をねだり、日々の株価の上げ下げに一喜一憂しながら一獲千金を狙うのが普通だったバブル期には存在しなかったタイプの投資家だ。

 「今後も淡々と積み立てていくだけ」。日経平均株価が19日に再び2万円に乗せたとのニュースを聞き流しながら、埼玉県在住で医療関連企業に勤める岩崎勇樹(28)は自分の投資手法を改めて確認していた。

 3人の子どもの将来も考え、2014年の秋に投資を思い立った。個別株投資は十分に割安と思える銘柄が見つからずに断念。投資信託を購入しようと訪ねた銀行では「希望と異なる商品ばかり薦められた」。

 たどりついたのは投信の定額積み立て。国内外の株式・債券に分散投資する2本の投信を毎月、合計7000円買い増している。どちらも販売手数料はゼロ。金融機関には頼らず、自力で探し出した。

 「ドルコスト平均法」と呼ばれる草食系が好む投資手法だ。定期・定額なら、投資対象が割高なときは少なく、割安になった局面でたくさん買うことになるので運用成績を長期で底上げできるとされる。売買のタイミングで悩む必要もない。

 埼玉県所沢市の自営業、上野俊則(仮名、40)もそんなひとり。12年から東証株価指数(TOPIX)に連動する投信など2本を毎月、計3万円買っている。すでに運用資産は約100万円にのぼり、30万円ほど含み益が出ているという。

 運用成績は上々。それでも新しい投信を調べる作業は欠かさない。「コストを抑え、より効率的に運用できる商品を探したい」。冷静・沈着な草食系だが、運用にかける気持ちは熱い。

 少額投資非課税制度(NISA)を使った積み立て投資(14年末の契約件数)の内訳をみると、20~50代の現役世代が全体の6割弱を占める。1700兆円に迫る個人金融資産のうち60歳以上が6割強を保有しているのを考えると、かなり高い数字だ。NISAがもたらす節税メリットが、現役世代の草食系の背中を押す構図がそこにある。

 神奈川県在住の元証券ウーマン、山平久美子(39)は14年にNISAが始まったのを機に株式投資を再開した。配当や株主優待などを堅実に狙い、みずほフィナンシャルグループやビックカメラなど複数の銘柄を保有している。

 さほど大きな額を運用にまわせるわけではないだけに、売買単位のくくり直しで最低投資金額が小さくなった銘柄が増えているのが助かるという。「昔なら株式投資は富裕層のものだった。でもいまは違う」。こんなふうに感じている。

 日経平均株価は28日、27年ぶりに10日続伸した。ゆっくりと、しかし着実に流入し続ける「草食系マネー」もその原動力になっている。

(敬称略)



大機小機 人口減対策に戦略的発想を 2015/05/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「大機小機 人口減対策に戦略的発想を」です。





 希有の外交評論家だった岡崎久彦さんは、名著「戦略的思考とは何か」で、「日本人は戦略的視点で考えるべきことがらを、具体的に目に見える目先の事実で判断してしまう」と指摘している。

 それから30年あまり。コトはほとんど変化していない。よい例は、日本経済の将来を決定づける人口減少問題への対応である。

 日銀の黒田東彦総裁が、つい先日、欧州中央銀行主催のフォーラムでの講演で「労働力人口の減少が日本の成長力の大きな脅威となる」という趣旨の発言をした、として話題になった。

 労働力減少対策はアベノミクスの中心テーマだが、金融政策を担当する日銀総裁の発言だから注目されたのだろう。それはともかく日本の人口が21世紀初頭に減少に転じ、それが経済成長の制約要因となる可能性があることは、30年も前にわかっていた。

 ところが出生力回復策はまったく議論されてこなかった。「20年デフレ」のもとで、過剰雇用という目先の事実に目を奪われていたのだ。まさに長期を見通した戦略的思考が欠如していたのである。

 人口減に悩んだフランスは2006年に合計特殊出生率が2.0に回復し、その後もこの水準を維持している。出生率の回復には100年かかったとされる。

 フランスは、対ドイツ戦に絞ると敗北を重ねた。フランスの指導層はその原因を青壮年人口の不足だと考えた。第1次大戦当時、兵役の中心の20歳代人口はドイツの60%未満だったという。この痛恨の事実を前にフランスは一貫して出生力回復を国家戦力の中核に据え続けたのだ。

 人口減少が始まって昨年で4年目、さまざまな分野で人手不足が現実になった。これを踏まえて安倍政権は昨年、「50年後に人口1億人を維持する」とする方針を打ち出した。

 さらに重要なのは、日本創成会議がこのままでは多くの市町村が消滅する可能性があるとする報告書をまとめたことだ。

 このように人口減少の実態が、地域の人々に肌感覚で理解できるようなかたちで明らかにされたことの意味は大きい。大事なのは、フランスのように人口減対策を国家の長期の最重要戦略に位置づけ、それに向けてあらゆる資源を投入し続けることである。

(一直)

領土・経済…そして歴史争う時代 国際大学学長 北岡伸一氏 2015/05/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の視点・焦点面にある「領土・経済…そして歴史争う時代 国際大学学長 北岡伸一氏」です。

安倍首相が70年談話を出すにあたって、その内容の鍵を握っているとされる人物がこの北岡氏です。どういう思考の持ち主か、垣間見える記事です。





 戦後70年は戦後50年、60年と何が違うのか。何よりも、日米関係さえみていればよい時代でなくなったことだ。今の世界秩序の起源は、1944年7月のブレトンウッズ会議で、国際金融秩序をつくったことだ。この世界銀行・国際通貨基金(IMF)体制に、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立で挑戦している。米国に拮抗する存在感を示しつつある中国の近くにいて国益を守るのは容易なことではない。

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 戦前日本は東の米国、北のソ連、西の中国という大国に挟まれ、自らも大国になろうとして失敗した。資源のない国がやっていくには通商しかない。その点で戦後、米国中心の秩序の枠内で生きると決めたのは正しい選択だった。今の課題はそれに挑む中国やロシアに抗して国際協調システムがきちんと働くようにし、自由主義や市場経済など普遍的価値をどう守るかだ。これこそが平和と繁栄の礎であり、憲法9条が変われば日本の平和主義が変わるということはあり得ない。

 日本国憲法を作ったのはGHQ(連合国軍総司令部)だ。占領国が被占領国の憲法を作るのは国際法違反だ。ただ、それから70年近くたち、国民にそれなりに定着したのも事実だ。全部無効にすることなどいまさらできるわけがない。だから不便なところだけ変えればよい。「戦争を禁じた9条を変えるな」という人がいる。戦争を禁じたのは9条1項だが、そこを変えろという人はほとんどいない。問題になっているのは戦力の不保持などを定めた9条2項だ。

 満州事変以後の戦争が、全体としては侵略だったのは間違いない。韓国とは戦っていないが、戦争が深まるにつれ、植民地統治も過酷になっていった。太平洋戦争では、アジアを白人支配から解放するつもりで参画した日本人もいたが、当時の日本政府のさまざまな決定をみると、基本は自存自衛、つまり日本のためだった。本当にアジアのために一肌脱いだわけではない。

 東京裁判は勝者による一方的な裁きであり、証拠も不十分だ。とはいえ、日本は国際社会に復帰するために講和条約を結び、裁判を受け入れた。いまさら覆すことはできない。一方で、裁判で出た解釈などを全て正しいと思う必要もない。

 靖国神社の問題でいえば、(東条英機ら)昭和殉難者と呼ばれる人々がまつられていることには違和感を覚える。彼らが間違った判断をしたことで、日本は勝てるはずがない戦争に突き進んだ。太平洋で亡くなった兵士の多くは餓死や病死だった。そんな無謀なことをした人々と犠牲者が同じというのはどうかと思う。

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 安倍晋三首相を歴史修正主義者という人がいるが、日本がすべて正しかったというつもりではないだろう。米国も原爆投下など非人道的なことをしてきた。連合国にもいろいろひどいことはあった。それを指摘するくらいは、あってもよいのではないか。

 日本は歴史問題で何度も謝罪をした。さらに謝罪することよりも、過去を直視し、その延長上によりよい未来をつくることの方が重要だ。よく引き合いに出されるドイツのワイツゼッカー元大統領の演説は「ひどいことがあったことを忘れないようにしよう」という内容だ。戦争当時に生まれていなかった人にまで責任を負わせるものではない。

 歴史を巡る和解というのは当事国双方が和解しようと思わなければできない。中国は歴史カードがまだまだ役立つと思っている。日本を非難し、孤立させ、米国中心の秩序を切り崩す狙いだ。相手が納得するまで謝り続けろというのは国際政治の現実を知らない議論だ。南京で何人亡くなったか、従軍慰安婦は何人いたかなどは歴史家に任せるしかない。歴史的事実と矛盾する和解はすべきでない。

 かつての戦争は領土を奪い合った。次に来たのが経済摩擦。今は世界のあちこちで歴史が争いの要因になっている。そういう時代だということは知っておく必要がある。

(聞き手は編集委員 大石格)

 きたおか・しんいち 1976年(昭51年)東大院修了。東大教授や国連次席大使を務め、戦前の軍部の動きや日米関係に詳しい。「21世紀構想懇談会」の座長代理として安倍晋三首相の戦後70年談話づくりのキーマンとみられている。67歳

もしものホーム法務 離婚と争い 元夫が養育費を不払い 家裁が履行勧告や命令 2015/05/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマネー&インベストメント面にある「もしものホーム法務 離婚と争い 元夫が養育費を不払い 家裁が履行勧告や命令」です。

離婚件数が増えている中で、離婚した夫婦間に生まれてきた子の尊厳や幸せに直結しているのが養育費、そのトラブル時の対処法として男女ともに知っておく必要がある内容です。





 Aさんは1年前、家庭裁判所の調停により当時の夫と離婚し、親権者として2人の子供を育てている。養育費については元夫と「毎月10万円をAさんの銀行口座に振り込む」ことで合意した。元夫は当初は約束を守っていたが、最近は支払いを滞らせている。どう対応すればいいだろうか。

 子供が未成年の場合、両親は離婚した後もどちらが親権(子供を保護する権利・義務)を持つかにかかわらず、子供を扶養する義務があります。親は子供に「自分と同じ程度の生活水準を維持させる義務がある」と弁護士の上柳敏郎さんは言います。

 そのために養育費が必要です。子供が社会人として自立するまで、衣食住や教育、医療などの費用を負担しなければなりません。「収入がない」ことを理由にその義務を免れることはできません。養育費は通常、子供を引き取って一緒に暮らす親に対して、もう一方の親が毎月一定日に、一定額を支払います。

 金額は両親それぞれの年収や子供の年齢、人数などにより変わってきます。おおよその基準として家裁の調停などで広く用いられているのが「養育費算定表」です。表は、14歳までの子供が2人おり、両親がともに会社員という想定で東京、大阪の家庭裁判所が活用している例です。

 例えば養育費を支払う側の年収が700万円、受け取る側に300万円の収入があるとします。養育費の金額は1カ月に6万~8万円となります。もし受け取る側の親の収入がゼロなら、養育費は10万~12万円と高くなります。

 養育費を支払うべき側の親がそれを滞った場合、子供を養育する側の親はどう対応すればいいでしょうか。まずAさんのように家裁の調停などを受けて離婚した場合は、調停調書などに養育費の金額や支払い方法について書かれているはずです。そこで家裁に依頼して、相手方にきちんと支払うよう「履行勧告」を出してもらいます。

 それでも支払わない場合は「履行命令」を下してもらいます。従わなければ過料の制裁があります。さらに拒むなら、「強制執行」で相手方の財産から養育費を取り立てたり、財産を差し押さえたりすることもできます。いずれにせよAさんは家裁に申し立てるのが最善の道でしょう。

 当事者間の協議により離婚した場合はどうでしょう。前述した調停による離婚とは異なり、協議離婚では養育費についての取り決めを文書の形に残していないこともあります。

 相手が養育費を払ってくれなくなったら、「再度話し合う必要がある。まとまらなければ、家裁に養育費請求の調停の申し立てをするのが通常」と弁護士の北野俊光さんは話します。「協議でまとまればその内容を公証人に公正証書にしてもらうのがいい」と北野さんは助言します。

一目均衡 幸之助の株式立国論 編集委員 梶原誠 2015/05/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「一目均衡 幸之助の株式立国論 編集委員 梶原誠」です。

世界観が大きくなると、本質を見失いがちです。松下幸之助さんの着眼は非常に参考になります。





 「国民のすべてがどこかの会社の株主であるというようなところまでもってゆければ……」。パナソニックの創業者である松下幸之助は1967年、「国民総株主化」を求める論文を公表した。

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 その先にある国のかたちはこうだ。株主は産業を発展させる使命感を持ち、見込んだ企業の株を永久投資のつもりで持つ。経営者は株主の叱咤(しった)激励を受け入れる。政府はそれらの環境を作る。産業が興隆し社会が繁栄すれば国民全体が豊かになる――。

 企業と株主の対話を軸とする壮大な構想だが、経営者が多様な衆知に触れるためにも、発展の恩恵が人々に行き渡るためにも株主の裾野を広げる必要がある。戦後22年。財閥解体で株が分散された後だけに、幸之助には「株式立国」へのチャンスと映った。

 48年後の今、日本がそんな姿になっていると言い切れる人はいないだろう。幸之助自身も論文発表の6年後、理想から遠ざかったことへのいらだちを表明している。「個人大衆株主が優遇されていない」と。

 企業の配当姿勢も、少数株主への税制面の配慮も物足りない。実質的な配当利回りが低ければ、目先の株価変動でもうけようとする投機家しか株を買わない。つまり、企業も政府も長く保有する株主に喜んでもらう発想を欠き、企業と株主の健全な対話ができていないと批判したのだ。

 長期的視点を失う落とし穴には、「株の国」を自認する米国ですら何度も陥っている。2001年に露呈したエンロン事件は、株式市場の短期的な収益圧力に追われて経営者が不正会計に手を染めた結果だ。

 米国は04年、産学協同で国の競争力を高めるための提言書「イノベート・アメリカ(通称パルミサーノ・リポート)」をまとめた。同書は株式市場発の短期主義が、企業や国の長期的成長の障害になりかねないと警告している。

 それでもウォール街の金融機関は、目先の株価や収益の競争に集中して住宅バブルを膨らませた。その末路が08年のリーマン危機だ。市場を舞台に長期的な視点を堅持するのは、必要と分かっていても難しい。

 67年の幸之助論文「株式の大衆化で新たな繁栄を」は今、市場関係者や政策当局者の間で静かに読み直されている。論文が株主、経営者、政府に求めた内容と最近導入した措置が、重なるように見えるからだ。

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 投資家が企業に物を言うための「スチュワードシップコード」、企業に株主の声を聞くよう求める「企業統治指針」、そして幅広い個人に投資を促す少額投資非課税制度(NISA)。株の持ち合いが減り、株が分散する条件も整った。

 焦点は、これらが生かされて幸之助が目指した株式立国への道を進むのかどうかだ。成功すれば世界的な注目を集めるだろうし、再び挫折すれば次の機会はいつ来るのか分からない。半世紀ぶりに訪れた日本経済の岐路である。

(敬称略)



経営書を読む ルメルト著「良い戦略、悪い戦略」(3) まねされない仕組み ウォルマート、強さの源泉 2015/05/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のキャリアアップ面にある「経営書を読む ルメルト著「良い戦略、悪い戦略」(3) まねされない仕組み ウォルマート、強さの源泉」です。





 MBA(経営学修士)や企業研修でよく使われる興味深いケースの一つに米ウォルマートがあります。今でこそ巨大企業ですが、創業当時はKマートなどの大きな競争相手に立ち向かう小さなチャレンジャーでした。なぜ競争相手に打ち勝ち、売り上げ世界一の企業に成長したのでしょうか。

 まず、商圏が小さ過ぎディスカウントストアの出店は無理だと思われる小さな町に出ていきました。業界の常識を破ったのです。しかも、店舗の定義を覆して、それを強みに変えていきました。1店舗ごとでの戦いをやめて、複数の店舗をネットワーク化し、それを1つの店舗と見なした戦い方を仕掛けたのです。

 これを支えたのは複数店舗をまとめ上げる情報システムと物流でした。Kマートも同じような情報システムを持っていましたが、店舗ごとの商品展開、仕入れ、値決めといった過去のやり方を変えず、衰退しました。

 この事例からは、良い戦略における幾つかの重要なポイントが読み取れます。第1に、同じ業界にいながら違うルールでゲームを仕掛け、新たな顧客価値を生み出したことです。次に、そのための入念なビジネスモデルがあったことです。

 ルメルトはそのビジネスモデルを鎖構造と呼びます。鎖構造を前提とすると、すべてをうまく行わなければ効果が期待できないことになります。Kマートは単に情報システムをまねしただけでは意味がないことに気付くべきだったのです。なぜならシステムは鎖構造全体の中にあってはじめて意味を持つからです。

 巧みに作られた鎖構造はなかなかまねされません。まねされない仕組みを、ルメルトは「隔離メカニズム」と名付けました。ブランドや暗黙知、熟練技能や独自のイノベーション等も隔離メカニズムの源泉になります。

 まねされないということは、他社との差別化を持続できることを意味します。自社の競争優位を持続できるわけです。

経済教室 ドル基軸は消去法の選択 エスワー・プラサド コーネル大学教授 2014/05/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「経済教室 ドル基軸は消去法の選択 エスワー・プラサド コーネル大学教授」です。





 米国のドルは20世紀の大半を通じ、世界の準備通貨として圧倒的な地位を維持してきた。だが今日では、その優位性を脅かす要因が存在する。米国に端を発した世界的な金融危機を契機に、ドルの没落はそう遠くないと予想する声が高まってきた。

 米国の政府債務は増え続けており、今や国内総生産(GDP)に匹敵する水準に達した。米連邦準備理事会(FRB)が非伝統的な金融緩和策を積極的に導入した結果、ドルの供給量は増大している。

 さらに野党との協調がうまくいかずに政策立案が非効率に陥り、景気回復の足を引っ張っている。このため医療や社会保障支出の増大につながるような長期的な財政問題になかなか取り組めない状況だ。一方で短期的な財政緊縮により教育やインフラ関連支出は縮小しており、長期的な生産性に悪影響をおよぼしている。これらの要因は経済の弱体化、ひいてはドルの地位低下を招くと考えられる。

 この論理は説得力があるが、現実には全く逆のことが起きている。準備通貨としてのドルの地位は金融危機以降、強まっているのだ。米国外の投資家は2007年以降に3.5兆ドルの米国債を買い込んだ。国際通貨基金(IMF)によれば、世界の外貨準備に占めるドルの比率は、危機があったにもかかわらず安定的に6割強を保っている。

 なぜこうなったのか。また、この状態は維持できるのか。

 理由の一部は金融のグローバル化で説明できる。金融の自由化が進んだ新興市場国では、資本フローの変動の影響を遮断するため、外貨準備を十分に積み上げておきたいと考えるようになった。さらにこれらの国の多くは自国通貨の上昇を抑える目的で為替介入を実施する。日本やスイスなど先進国の一部もそうだ。為替介入で積み上がった外貨は安全かつ流動性の高い資産で運用する必要が出てくる。

 こうして、安全な金融資産に対する需要は高まっている。銀行などの金融機関に、金融ショックに備える緩衝材として安全資産の保有を義務づける規制改革がなされたことも、需要増大を後押しした。新自己資本規制(バーゼル3)のもと、国際業務を展開する銀行は安全資産を追加で2.5兆~3兆ドル保有しなければならず、大半が先進国の国債になる見通しだ。

 こうした需要の増大にもかかわらず安全資産の供給は減っている。危機後には安全とみなしうる民間部門の証券はほとんどない。ユーロ圏と日本の国債は高齢化や低成長が予想される点を考慮すると、磐石とは言いがたい。となれば、政府債務が膨張中とはいえ厚みのある金融市場を備えた米国が、安全資産の第一の供給源ということになる。

 しかし、安全資産は本当に「安全」なのだろうか。米国にしてみれば、インフレを誘導して債務の目減りを図るのは、魅力的なアイデアである。より大きな損害を被るのは外国人投資家だからだ。

 ただし、インフレ率の上昇は米経済にも痛みを与えずにはおかない。米国債の国内保有者には、年金生活者、年金ファンド、金融機関、保険会社などが含まれる。彼らは強い政治的な影響力を持っており、インフレ率が急上昇する事態となれば、現政権に自分たちの力を思い知らせることだろう。このことは外国人投資家にとって、対米投資がインフレから守られるという一種の保険になっている。

 価値の保存機能の面ではドルが優位だとしても、必ずしもほかの面での優位が維持されるとは限らない。交換媒体や価値の尺度としての重要性は薄れる可能性がある。金融市場の発展と技術の進歩により、他通貨を使ったクロスボーダー(国境越え)の金融取引は容易になっており、ドルの必要性は低下している。石油のような商品取引契約をドル建てで表示し決済する理由はもはや見当たらない。

 対照的に、ドル建ての金融資産、とくに米国債は、安全への逃避をめざす投資家にとって依然として好ましい投資対象である。

 グローバルな金融市場で米国がこれほどの特別待遇を受けているのは、単に経済規模が大きいだけでなく、民主的な政府、公的機関、金融市場、法的枠組みなど、さまざまな制度を整えてきた歴史があるからだ。いろいろと不備はあるとしても、これらは今なお世界の標準となっている。

 中国の人民元が主要準備通貨としてドルに対抗しうるかという問題は、大いに議論を呼んできた。現在の成長路線を継続できるなら、中国経済が米国に匹敵する規模になる日は近いだろう。世界のGDPと貿易における中国の存在感の拡大を背景に、人民元はすでに重要な国際通貨となり、貿易や金融取引で広く使われている。

 人民元が準備通貨となるためには、中国は資本取引を完全に自由化するほか、通貨の交換制限を撤廃し、金融市場を整備する必要がある。これらの改革は徐々にではあるが進行中だ。したがって、今後10~20年以内に人民元が準備通貨となる可能性はある。

 だが人民元が、外国人投資家から信頼される安全通貨になる可能性は低い。現在の政治的・法的な枠組みを考えると、中国を安全な逃避先とみなすようになるとは考えにくい。中国の指導層は経済・金融市場の改革に力を入れると明言してきたが、幅広く政治、法律、制度改革に取り組む意志は示してこなかった。したがって、人民元は主要準備通貨としてのドルの優位を多少は侵食しても、揺るがすにはいたるまい。

 ドルの優位は、必ずしも強い米国の政策を反映するものではない。むしろ、他国の政策や金融市場が信頼感に乏しく、また国際通貨制度がうまく機能していないがゆえの優位だと言える。

 このことから、日本の非常に高い政府債務比率にもかかわらず、円は今後も重要な安全通貨であり続けると考えられる。日本には堅固な制度と厚みのある金融市場が備わっている。

 したがってグローバル市場で混乱が生じた際には、投資家は引き続き日本を安全な逃避先とみなし、保有資産の多様化を図るために、ドル一辺倒から少なくとも部分的に円資産に切り替えるだろう。こうした安全への逃避を理由とする資本流入を考えると、日銀としては輸出促進のための円安誘導はしにくくなる。

 

 ドル中心のシステムは脆弱で、ドルが急落すれば無秩序になり崩壊するのだろうか。実際には現状は最適とは言えないものの、安定した均衡状態にある。海外の中央銀行を含む外国人投資家の米国債保有残高は、いまや6兆ドル近くに達し、このほかに国債以外のドル資産が数兆ドルあると見込まれる。

 となれば、他国にはドルを支える強い誘因が存在することになる。ドルの大幅な下落は、外国人投資家にとって自国通貨に換算した保有資産の大幅な目減りを意味し、巨額のキャピタルロス(値下がり損)につながるからだ。つまり、世界は「ドルの罠(わな)」にとらわれている。

 このドルの罠を脱するには、結局は各国が抜本的な金融・制度・政治改革に取り組み、ドルの優位に対抗しうる強い自国通貨を育てるほかない。外貨準備を積み上げて自己防衛するといった手段に各国が頼らなくてすむよう、グローバルな改革を通じて信頼性の高い金融の安全網を整備し、安全資産への依存を減らすことも必要である。

 結論として、ドルは今後当分の間、準備通貨として君臨するだろう。その最大の理由は、よりよい選択肢がほかにないからである。

〈ポイント〉
○米政治経済は弱さ抱えるが基軸通貨は堅持
○米債保有国は売るに売れない「ドルの罠」に
○対抗する「強い通貨」育成へ各国は改革急げ

 Eswar Prasad シカゴ大博士。IMFを経て07年から現職。専門は国際金融