働きかたNEXT 古き慣習は打ち破れ 2015/08/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「働きかたNEXT 古き慣習は打ち破れ」です。





 グローバル化や人口減、定年延長など、日本人の働き方を巡る環境が様変わりしている。これからの日本を支える若者が活躍し、成長できる社会にするにはどうすべきか。経営者や教育者、識者など各界の専門家に聞いた。(1面参照)

生産性向上はトップ次第 ダイキン工業会長 井上礼之氏

 日本には資質のある優秀な若者がたくさんいる。だがモノカルチャーの日本企業に就職すると、5年ほどで組織の風土に染まってしまう。先輩の思考や行動パターンが知らず知らずのうちに身につく。好奇心が旺盛で行動力のある若い人材が失敗を恐れ、新しいことに挑戦しなくなるのは20代後半ぐらいからだ。

 20代はキャリア形成で重要な時期だ。責任ある仕事を徐々に任され、失敗しながら成長していく。仕事の面白さも覚え、自信をつけていく。発想が柔軟な20代に企業側がどんな仕事を与えられるか。世界で日本企業が勝ち抜くには、20代の育て方を変えなければならない。

 ダイキンは入社2~5年目ぐらいの若手から資質があると見込んだ社員を年10人前後選び、幹部候補者として育成するプログラムを導入した。

 一人ひとりに「ミャンマーに進出する。どんな販売網を構築すべきか」などの課題を与え、海外に派遣して戦略を提出させる。指揮命令は配属先の上司ではなく、会長と社長だ。資格や賃金は同期入社の社員と差を付けず、修羅場で経験を積ませる。賛否両論あったが、育成は30代になってからでは遅いと判断した。

 経済社会がこれだけ構造変化しているのに、従来のように一律の人事マネジメントで人材を育てるのは限界がある。かといって年功色が濃い人事制度を廃止し、成果型の人事制度に移行してもうまくいかない。既存の人事制度を残し、必要に応じて特定の人材だけを「例外管理」で育てる複数の道を用意する。この方が日本ではうまくいく。

 日本企業が世界で戦うには労働生産性を高めねばならない。ダイキンはいち早く裁量労働制を導入してきた。狙いは社員を職場から開放し考えてもらうためだ。外に出たほうが新しいことを思いつく。裁量労働でも深夜や休日に働いた場合はちゃんと手当を出す。裁量労働制を経費削減の手段にしては絶対にダメだ。

 ホワイトカラーの生産性を上げられるかはリーダー次第だ。欧米では仕事の割り切りが徹底している。経営陣が「今会社に必要だ」というものにだけ時間と労力をかける。

 日本は何でもやらせすぎる。一流の戦略を作っても時間がかかりすぎ、商機を逃しては意味がない。「二流の戦略、一流の実行力」でいい。これを徹底すれば間接部門は減らせるし、生産性も上がる。走りながら柔軟な発想で戦略を修正していく。それぐらいの勢いで挑まなければ、世界の戦いには勝てない。

 いのうえ・のりゆき 1957年同志社大卒、大阪金属工業(現ダイキン工業)入社。94年社長。2002年会長兼CEO、14年から現職。人材の力を引き出す「人を基軸」にした経営を貫く。80歳。

「上司の都合」押しつけるな 一橋大大学院教授 クリスティーナ・アメージャン氏

 大学時代の師、エズラ・ボーゲル氏(「ジャパン・アズ・ナンバーワン」著者)の勧めで1981年に来日して以来、様々な日本企業の働き方を見てきたが、外国人には異様に映るものが多々ある。いずれも日本の労働生産性が低い要因だと考えている。

 例えば、「PDCA(計画・実行・評価・改善)」や「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」。日本企業はこの2つが大好きだ。重要な内容ならわかるが、重要でないものまで同じ労力や時間をかける職場が多い。上司が安心のため部下にそれを求め、こまめにやる部下を評価しがちだ。

 討論会などで経営者が使うパワーポイント資料にも驚く。こんな情報満載で緻密な資料を作るのに、一体何人の社員の労力と時間を費やしたのか。新製品発表会のプレゼンテーションさながらに動画付きの凝ったものもある。

 強弱をつけず、すべて念入りに取り組むのは日本企業の弱い点だ。欧米では手掛ける案件に応じて、強弱をつけて働く。強弱をつけずに仕事をする社員も、部下にそうさせる上司も評価されない。

 管理職の責任領域も曖昧だ。象徴が電子メールの「cc(カーボン・コピー)」送信。日本では同じメールを複数の人に同時に送るccメール愛用者が多い。「その話、聞いていない」と後で責められないための責任回避策か。大量に届くccメールを読むだけでも時間がかかる。

 社内で許可を取るために複数の管理職に判子をもらう社員の姿も目にする。外国人の目には「スタンプ・ラリーか?」と映る。管理職の責任領域を明確にすれば、状況は改善するはずだ。

 日本企業は幹部候補の選抜が欧米に比べて遅い。高度成長期は同じ価値観の社員が一丸となって長時間労働すれば競争力を高められた。だが今は違う。ナレッジ・ワーカーが異なるアイデアを出し、イノベーションを起こす組織でないと競争に勝てない。資質のある若者が日本特有の企業風土や働き方に染まらないうちに次代を担うリーダーに育てていかなければならない。

 語学力にたけ、多様な文化的背景を持つ外国人を新卒採用する日本企業が増えているが、3年ほどで辞める例も多い。昇進が遅く「先が読めない」という声が多い。せっかく採用した人材を失うのは企業にとって損失だ。キャリア形成の早い段階に醍醐味を味わえる仕事を与え、経験を積ませる取り組みが必要だ。

(井上、アメージャン両氏の聞き手は編集委員 阿部奈美)

 Christina Ahmadjian 1981年米ハーバード大卒。米コロンビア大経営大学院助教授などを経て2012年4月から現職。三菱重工業、日本取引所グループの社外取締役を兼務。56歳。

「出る杭」伸ばす目利き必要 開成中学・高校校長 柳沢幸雄氏

 米ハーバード大でも東大でも新入生を見てきたが、日本の高校生は世界一優秀だ。それが大学入学以降、成長の勾配が米国より緩やかになり、40歳の頃には逆転されてしまう。原因は「出る杭(くい)」を打つ日本の企業文化だ。

 米国は加点主義だから何も発言しないと0点。だから自分の立場を鮮明にして主張する訓練を受ける。発言して行動を起こせば間違うことも多いが、そこから学ぶ。それが米国の若者の行動原理だ。

 一方、日本企業の評価は減点法。一流大学を出て一流企業に入った時は百点満点だが、失敗をする度に減点されていく。新入社員は3年間は会議で口を利かないのが不文律といった話も聞く。就職を控えた大学生にはそうした企業の文化が伝わり、「空気を読む」ことを覚えてしまう。

 開成でも最近は海外の大学に進学する卒業生が増えているが、日本での就職活動は勧めない。加点主義の行動形態を身につけた若者は日本で「浮く」。日系なら、現地で直接求人するような企業でないとミスマッチが起きる。

 彼らが十数年後、経験を買われて日本企業に迎えられれば、「日本語と異文化に精通した専門家」として活躍できるだろう。見方を変えれば、日本企業はグローバルな競争力を持つ若手人材を育成できていないということだ。

 学歴主義、終身雇用、年功序列の三位一体モデルはかつて大成功を収めたが、すでに崩壊しつつある。過去の成功体験を持つ上の世代から若手に取って代わっていかなければ、企業はつぶれていく。

 今必要なのは「目利き」の存在ではないか。かつては松下幸之助氏などの名経営者が若手にチャレンジさせ、駄目だったときには止める勇気があった。佐治敬三氏の「やってみなはれ」の精神だ。最近はリスク管理が厳しすぎる。

 開成の卒業生を含め、若者の中には三位一体モデルに見切りを付けて起業に挑む人も多いから、日本の将来には絶望していない。だが、上の世代の目利きが応援し、こうした若者の動きを速めていかなければならない。

(聞き手は木寺もも子)

 やなぎさわ・ゆきお 米ハーバード大准教授・併任教授、東大教授などを経て、2011年から母校の開成中学・高校校長。専門は環境工学。68歳。

「キャリア形成」自分で描く NPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹氏

 若い人の働き方は二極化している。安定のため大企業の正社員志向が根強い一方、私のように起業をする人が10年前に比べて一般的になった。

 私が在学中、優秀な学生は米大手投資銀行など給与が高い人気企業を目指した。最近は大企業からNPOに転職する人が多く、社会問題に取り組むソーシャルビジネスが人気だ。フローレンスは本部に約80人の従業員がいるが、採用コストはほぼゼロ。処遇は下がるが、大企業で夜中まで働くより定時に帰ってやりがいがあるほうがいいと、若者の価値観が変わっている。

 ワークライフバランスへの意識も高まった。「ブラック企業」という言葉が広がり、大手居酒屋チェーンは業績が悪化した。かつて労働環境の悪さは乗り越えるべき労働者側の問題だったが、今は企業側が悪いというパラダイムシフトが起きた。労働人口が減る中で、貴重な働き手を食い潰す企業は採用競争に負け、市場から退出を迫られる。

 男性はもっと家族と過ごすべきだ。自殺や非行といった問題は、子どもが発するシグナルに大人が気付かないから。平日に子どもの寝顔しか見ないような人は家庭内の問題を放置しているとしか思えない。長時間労働で会社に尽くして出世をするけれど、家庭は崩壊している。漫画「課長島耕作」のような昭和の価値観は終わらせるべきだ。

 小学校に入学した子どもの65%が、今は存在していない職業に就くという米国の研究結果がある。日本でも多くの仕事は20年後には無くなるだろう。公認会計士になっても人工知能(AI)に取って代わるかもしれない。キャリア形成は従来の「○○になる」ではだめだ。学び続けることが大事で、時代のニーズに合わせて自らの技能をアップデートしなくてはならない。

 これまでは会社が求める働き方に従っていれば良かった。だが企業は自分より短命の可能性がある。定時に帰って毎日プログラミングの勉強をするなど個人の責任に委ねられる。これからは自分のワークスタイルを自らデザインしていく時代となる。

(聞き手は阿曽村雄太)

 こまざき・ひろき 2004年慶応義塾大総合政策卒。在学中にITベンチャーの経営に携わる。04年病児保育事業のNPO法人設立。35歳。



こころの健康学 「どのように」と問いかけ 解決法を探す 2015/08/30 本日の日本経済新聞より

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 コミュニケーションの基本的姿勢として、「なぜ=Why」と尋ねるのではなく、「どのように=How」と問いかけることが大事だといわれている。

 何かよくないことが起きたときに、なぜそれが起きたのか、原因を探って解決を図ることは大切だ。しかし、原因がわからないケースも多い。とくに動揺している場合、冷静に状況を分析して原因を探ることができなくなる。

 その際、なぜと問いかけても答えは見つからない。それどころか、なぜと問いかけられると、責められているように感じてしまう。子どもの頃、「なぜそんなことをしたのか」「どうしてこうしないのか」と親に叱られたときのことを思い出す人も多いだろう。

 同じようなこころの動きは、自分に対しても起こることがある。ある行動をして思うような成果が得られなかった場合、なぜそのような行動をしたのか、無意識のうちに自分に問いかけていることがある。その結果、無意識に自分を責めて、追いつめてしまう。

 もちろん、気持ちが揺れ動くのは悪いことではない。うまくいっていないことがあるというこころのメッセージだ。そうしたときは、気持ちの動きをきちんと受け止める必要がある。

 そのうえで、どのようにすればよいかを考えてみる。人間関係でも、こころの中でも、いま直面している課題にどのように対処すればよいか、問いかけてみるのだ。それができれば、感情からうまく距離をとれるようになるし、感情の波に巻き込まれないで、解決の手がかりを探せるようにもなる。

(認知行動療法研修開発センター

大野裕)



時論 リスマ経営、後継者の条件は 実績重視、リスク取る人 永守重信氏 日本電産会長兼社長 2015/08/30 本日の日本経済新聞より

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 創業者や実力経営者といわれるトップの世代交代が相次ぐなか、経営権を巡ってお家騒動に陥ってしまう事例も増えている。企業の存続に影響が大きい創業者や実力経営者は事業承継にいつ、どのように備えるべきか。一代で1兆円企業を育て、「世襲はしない」などと明言する日本電産の永守重信会長兼社長に、後継者問題や持続成長のカギを聞いた。

 ――事業承継で苦労する企業が多いようです。

 「どこも悩んでいる。僕の場合も試行錯誤だ。創業当初は零細だったから自分で育てようとした。仕事が終わると毎日弁当を食べながら永守経営塾を開いて」

 「だが10年くらい前か、会社も大きくなって『育成するには時間がかかる。外には優秀な人もいるだろうから、そういう人を入れれば楽になる』と思った。で、そういう人を入れだした。灘高→東大→ハーバード大みたいなエリート人材だ。小さい頃、お金持ちが高級ホテルで食べてるフランス料理、さぞかしおいしいだろうなとうらやましかっただろう。あれと同じだ」

 「結論をいうと錯覚だった。そういう経歴の人が経営がうまいとは限らない。外資に3年いたとか、それだけでは難しい。やらせてみたら『これだったら自分が育てた生え抜きの方が上だ』と最近わかった。10年かかってようやくだ。それでもう一回経営塾を始めて育成にエネルギーを使おうと考えた。時間はかかるが仕方がない。世の中、そんなに人材はいないよ」

 ――「プロ経営者」は難しいということですか。

 「信じられないとかじゃないが、そんなに務まる人はいないだろう。いくつかヘッドハンティング会社に相談したことがある。僕が思うスペックを言って『こういう人いないか』と聞いた。だが『そんな人いません』ということだった」

 「僕はね、『3T経営』と『3K経営』と言う。3Tは低成長、低収益、低株価の意味。営業利益率がせいぜい5%の会社。まあ日本の平均だ。そういう経営ができるからといって僕が目指す3K経営(高成長、高収益、高株価)ができるとは限らない。営業利益率は10%、15%だ。求めるものが違う。利益率10%は5%の2倍じゃない。率の差は2乗で効くから経営の力というのは4倍の差だ」

 ――後継は結局、今いる人に落ち着いたのですか。

 「もともとは、創業40周年の2013年に連結売上高を1兆円規模にして僕は会長になろうと考えていた。そのために内部から上げるか外部から連れてこようとしたが、残念ながら僕はまだ会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)だ。少なくとも社長を早く決めないとと思う。だが誰でもいいというわけにはいかない。実績主義だから利益貢献が大きい人。最も売上高と利益をあげる事業部から上がってくるのが普通だ」

 ――シャープ元社長の片山幹雄副会長を今年、代表取締役にしました。

 「片山君はうちに来てまだ1年だ。もう少し時間がかかる。だが、今やってることをちゃんとまとめ、成果を上げたら、候補であることは事実だろう。あくまで実績が全て。うちでぽっと社長になれるかといったらそういうもんじゃない」

 ――ソフトバンクグループの社外取締役です。

 「後継者の悩みは同じだ。でも孫(正義)さんのところは完全にウエスタンカンパニーだね。一般的な日本の企業とは違う。だけど共通するのは彼も実績主義なこと。やっぱり誰に継がせるとかでなく、だれが実績を上げてくれるか、で考えている。子どもに継がせる場合は少し違うと思うが、僕などはそういう気持ちはないからね。他人に渡す以上はこの会社をよくしてくれる人に渡したい」

 ――社外取締役はなぜ引き受けたのですか。

 「経営者は井の中の蛙になっちゃいかん。創業者は特にそうだ。社内では怖いものはない。恐らく、孫さんも一緒。社内の人は何も言えなくなる。嫌なことを言うのは僕とか(同じく社外取締役でファーストリテイリング会長兼社長の)柳井(正)君だ。一度孫さんに言ったんだ。『僕みたいなややこしい人間入れたら困るよ』と。そしたら『それを望んでいる』と言っていた。実際、耳の痛いこと言うけど非常によく話を聞く。勉強になりますよ」

 ――孫社長は外国人を後継者に指名しました。

 「うちとは違う手法だ。指名された(ニケシュ・)アローラ副社長は立派だと思うよ。600億円の私財を投じてソフトバンクの株を買うだろ。ああいうことは信頼感を増す。経営から絶対逃げないぞと退路を断つわけだ。僕も三協精機製作所(現日本電産サンキョー)などを買収した時は銀行からお金を借りて株を買い、個人筆頭株主になった。リスクを取って経営する。いい加減な経営をしたら株は下がり、頑張ったら上がる。そういうことだ」

 ――カリスマと呼ばれるような実力者の後の経営は難しそうです。

 「うちの場合は基本的に集団指導体制にすると決めてある。経営体制の基本方針も最近決めて、社長4年、会長4年、相談役2年の10年制ということにした。グループ会社も同じだ。で、トップは必ず最も利益貢献した人がなる」

 ――こんど、国内外のグループ幹部向けにリーダー養成機関をつくります。

 「企業内大学校だ。創業者が長年培った経営の知識を植え付けていく。僕も時間をどんどん使う。一番伝えたいこと? 会社経営の神髄だな。経営者というのは犠牲と奉仕の精神がないといかん。日曜日にゴルフしようとか、そんな気持ちを持ったらだめだ。単に働けということではなく、経営という仕事が天職であり、かつエンジョイしている。そういう人がやるべき仕事だ。それを教える」

 ――経営者はやっぱり社内で育てるものですか。

 「この10年でそう思い出したよ。だが準プロパーでもいい。うちは10年勤続すると準プロパーと言っている。それだけ一緒に働くとよくも悪くも全部わかる。この会社に10年いたらすごいことだ。幹部としてストレステストにもなる。ものの考え方や職業観が違うと一緒に仕事はできない」

 ――事業承継に失敗する企業も最近目立ちます。

 「まあ、同族でもめるのはいかんな。次はこうするとしっかり決めておかなかったのがいけない。トップの条件や任期とか、変えてはいけない原則をね」

 「みんな経営者は苦悩している。孫さんだって絶好調のように見えるが、大変だと思う。期待が高いからね。株が上がると、もっと上がるはずだと。ちょっとでも構造改革しようものなら『神話は消えた』とか書かれる。宿命? そう、そういう仕事なんですよ。しんどいなあとか思っている人に渡したら会社はつぶれるよ。外資を渡り歩いて2、3年たったらヘッドハンターから電話かかってきて次の会社に移ってまた次、と。そりゃ楽ですよ。責任ないもん」

 「僕には息子が2人いるが、最初から世襲はしないと公言してきた。両方とも親の姿を見てきたから『親父はエンジョイしてる』と感じてくれたらしく、会社を作って社長をしている。彼らもエンジョイしてる。不思議なもので音楽家の子は音楽家に、というのが正しい。『最近どうだ』と聞くと愚痴は言わない。夢を語る。そういう人が経営者をやらないといけない」

 ――会計不祥事があった東芝の問題では経営者の資質が問われました。

 「社員にプレッシャーをかけたのがおかしいと、そんなことが言われているがそれはおかしい。どこでもプレッシャーはある。それがなく、計画未達でいいぞと言ったら会社はつぶれる。どんなに名馬でもムチで尻をたたかれないと馬は走らないだろう。勝つにはやっぱりばしっとやる。問題はどこでたたくかだ。たたかれすぎて血が流れているとかそれではいけない。相手の力をみたり、現場に行ったりしてよく社員を見ないと。不正が起きるときはトップが相手の力以上に要求している場合が多い」

 ――日本電産をこれからどんな会社にしますか。

 「2030年に10兆円を目指すと言っている。やり方は基本的に変わらない。今までに50社ほど買収したが、今後も50%がM&A(合併・買収)、50%がオーガニックな成長だ。企業買収は規模が大きくなる」

 「僕か? あと15年、第一線にいると思うよ。肩書は多分変わる。会長になったりな。10兆円成し遂げたら、リタイアだ」



風見鶏 米外交の日本回帰3年説 2015/08/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 米外交の日本回帰3年説」です。





 「フミオ」。ケリー米国務長官は満面の笑みを浮かべながら岸田文雄外相を迎えた。今月6日のクアラルンプールの国際会議場の別室。岸田氏の地元、広島で70回目となる「原爆の日」式典があったこの日の日米外相会談で、ケリー氏は伝えたいことがあった。

 岸田氏が米CNN(電子版)で世界の指導者の被爆地訪問を訴えた寄稿にも目を通していた。ケリー氏は同式典での安倍晋三首相の演説を映像でみたと説明し、続けた。「来年4月に広島で開く主要国(G7)外相会合に出席する際は平和記念公園を訪れたい」

 米閣僚として初めて平和公園を訪問するという歴史的な意義もケリー氏の自尊心をくすぐった。岸田氏への伝達構想は会談の数週間前から温めていた。平和公園を訪れたいというケリー氏の希望を伝え聞いた菅義偉官房長官は即座に「訪問するのであれば、歓迎すべきことだ」と呼応した。

 米国務長官の動きには、ひとつの周期があるといわれる。最初に中東問題に取り組む。うまくいかず、次に中国にシフトする。やはり勝手が違い、引き下がる。そして3年目にして日本に戻ってくるという「日本回帰3年説」だ。

 実際、2013年に国務長官に就任したケリー氏がまず突っ込んだのは、イスラエルとパレスチナ自治政府の中東和平交渉だった。米国の国益に直結する中東への米国民の関心は高い。国務長官が和平交渉に挑みたくなるのは、国内事情でもある。ケリー氏の仲介で中東和平交渉は再開したが、首都と定める聖地エルサレムの帰属などでまとまらず頓挫した。

 次に興味を示したのが軍事、経済で影響力を増す中国だ。オバマ米大統領と中国の習近平国家主席との米カリフォルニア州南部の避暑地サニーランドでの会談も実現した。その後、中国は東シナ海上空に防空識別圏を設定。いまでは南シナ海で人工島を造成して領有権を主張する始末だ。

 中東や中国に傾倒するケリー氏の姿勢は当初、「日本軽視」とみられた。今年に入ると事務方の頭越しに、日本訪問を口にするなど一変した。ケリー氏の足跡は日本に回帰するまでに3年かかるという説を裏書きしているようにも映る。

 イランとの核合意はケリー氏が主導したが、米野党・共和党は強硬に反対しており、評価が定まるには、時間がかかる。ほかの外交懸案を見渡しても北朝鮮の核問題や過激派組織「イスラム国」掃討など得点に結びつきそうにない。日本回帰は自然な流れでもある。

 3年目で回帰したあと、4年目はどうなるのか。オバマ氏の2期目の最終年に当たる来年は5月末に三重県志摩市で開くG7首脳会議の前後に広島を訪れるかが焦点のひとつだ。

 「核兵器なき世界」を掲げるオバマ氏の「レガシー(政治的な遺産)」づくりを踏まえ、米国務省はG7首脳会議について広島開催の検討を求めた。日本は警備の問題などを理由に志摩市に決めた。G7首脳会議というお膳立てをした中でのオバマ氏の広島訪問に複雑な気持ちもあった。

 オバマ氏に訪れる意思があるなら、志摩市からでも来てほしいというのが日本の本音だ。米政府はそんな日本の微妙な空気を察知し、ケリー氏の平和公園訪問に切り替えた。

 ケリー氏の1カ月半後にオバマ氏が訪れることに米政府内では慎重論が多い。ケリー氏は岸田氏との会談でオバマ氏の広島訪問に一言も触れなかった。米国の3年目の日本回帰で深化する日米関係が4年目にどこに向かうのか。その明確なシナリオは、まだない。

(ワシントン=吉野直也)



市場変調 こう読む 国の内需は底堅い 工場新設、成長投資緩めず 信越化学工業会長 金川千尋氏 2015/08/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「市場変調 こう読む 国の内需は底堅い 工場新設、成長投資緩めず 信越化学工業会長 金川千尋氏」です。





 ――最近の株式市場をどうみていますか。

信越化学工業会長金川 千尋氏

 「50年以上相場をみているが、日経平均株価が1日に500円とか700円上げ下げして、めちゃくちゃな相場だ。セミプロの個人など投資家の裾野が広がっているだけに、昔より値動きが荒くなるのかもしれない。ドタンバタンする値動きが今後も当たり前のように起こるのではないか」

 ――実体経済を反映しているのでしょうか。

 「世界経済全体ではわからないところもあるが、信越化学工業の事業についていえば、足元も米国の塩化ビニール(塩ビ)樹脂や半導体ウエハーは順調だ。需要が底堅いなかで原油が下がっているので、利幅も取りやすくなるだろう」

 「塩ビは主に米子会社のシンテックで生産している。住宅やインフラ投資を背景に米国の内需は底堅く、中南米や中東、ロシア向けの輸出も着実に伸びている。例えば、牧場の柵はかつて木製だったが今では塩ビも使う。使い道が広がるなか、様々なインフラに対応できるように競争力のある製品を作っている。今後はグローバルで塩ビが不足する可能性があるため、今年末までに生産能力を1割強増やす」

 ――直近1年間で累計2000億円以上の投資計画を公表しています。変更はありませんか。

 「大きな案件では約1700億円を投じて、米国に塩ビの原料に使うエチレンの工場を造る。今のところ計画に変更はない。ただ必要なら見直して、より良い物を作ればいい。前言にこだわるのは愚の骨頂。朝令暮改は大いに結構だ」

 「市場や事業環境が大きく変わっても安定的に収益を伸ばしてこれたのは、景気が悪かろうと良かろうと必要な成長投資を緩めなかったからだ。2004年に半導体ウエハーの増産投資を決めたが、社内では反対の声が多かった。最終的に私が『やれ』と指示して、うまくいった。やっていなかったら、今ごろ業績が大変なことになっていた。16年3月期の連結経常利益は2100億円と前期比6%増える見通しを出している。達成できるだろう」

 ――今期は7年ぶりに増配します。

 「前期まで100円だった年間配当を110円に増やす。従来通りで十分だと思っていたが、株価が上がり、100円に慣れてしまった投資家もいたのではないか。心理的な影響がだいぶ違うので、社内で『110円にしよう』と言ったら皆、賛成してくれた」

 ――1990年に社長になり、10年からは会長として四半世紀も経営の最前線にいます。役回りを見直す考えはありますか。

 「(現在89歳で)自分の体のことは自分が一番わかっており、まだ元気だ。塩ビや半導体ウエハーだけでなく、化粧品に使うシリコーンや、自動車向け磁石など地道に育ててきた事業が全て伸びるように努力していく」

(随時掲載)



マネー異変 きしむ世界経済(4)日本、踊り場脱却に影 2015/08/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「マネー異変 きしむ世界経済(4)日本、踊り場脱却に影」です。





 「中国では稼ぐより損失を出すなという状況です」。住友建機の井手幹雄社長はこんな風に打ち明ける。同社は2015年度の中国工場での生産を1000台程度にとどめ、中期経営計画と比べ4割減とする。

黒田日銀総裁は強気(26日、ニューヨーク)=ロイター

追い風やんだか

 今回の市場の動揺は米利上げ観測に中国景気の減速が重なったことが発端だ。対岸の火事にみえるが成長を外需に頼る日本経済に重い意味を持つ。安倍政権発足を機に円安株高が始まってから約3年。マネーの異変は回復の実力とリスクを見つめ直すよい機会だ。

 15年4~6月期の上場企業の連結経常利益は前年同期比24%増え過去最高だった。SMBC日興証券は1年前に比べ20円の円安・ドル高が経常利益を8ポイント押し上げたと試算する。財政出動や法人減税も加えると「過去3年の増益分の4割は自助努力だが6割は追い風だろう」(野村証券の海津政信シニア・リサーチ・フェロー)という。

 追い風はやみつつある。市場の動揺で為替相場は一時1ドル=116円台をつけ、115円前後の企業の平均想定為替レートに近づいた。第一生命経済研究所によると中国の実質経済成長率が1ポイント下がると、日本の成長率も0.2ポイント低下する。

 日本経済が今向き合っているのは、リーマン・ショック後の各国の財政出動と金融緩和でかさ上げされてきた世界の総需要の減退だ。オランダ経済政策分析局の「世界貿易モニター」によると、世界の貿易量は昨年12月をピークに頭打ちとなった。米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の調査では、15年に前年比1%減る世界の主要事業会社の設備投資は16年に4%減る。

 4~6月に実質経済成長率が1.6%減だった日本。回復の踊り場からの脱却を探るが、頼みの外需が揺らげば「企業収益の改善が賃上げと消費の底上げにつながる」(甘利明経済財政・再生相)という好循環が揺らぐ。「7~9月もマイナス成長になり得る」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)との声もある。

 政策余地は乏しい。黒田東彦日銀総裁は26日の講演で必要があれば「ちゅうちょなく調整を行う」と追加緩和に含みを持たせた。だが、緩和の副作用である必需品の値上がりは消費者心理に水を差し個人消費の重荷だ。

 「それなりの財政措置を」(二階俊博総務会長)。自民党内では早期の補正予算で公共事業などの追加を求める声が出ているが、財政悪化を招くうえ人手不足でなかなか工事が進まない。

 カギはやはり企業部門の対応だ。資源安で業績が落ち込む三井物産は採掘コストの削減に取り組む。オーストラリアのローブ・リバー鉱山では機械補修の内製化を進め点検の頻度も見直した。15年4~6月に90億円だったコスト削減額を積み増し価格下落に対応する。逆風の中、17年3月期の目標に掲げる自己資本利益率(ROE)10~12%達成に知恵を絞る。

成長戦略点検を

 政府も停滞気味の成長戦略の再点検を迫られる。鳴り物入りで始まった農地バンクの賃貸実績は目標の2割弱にとどまる。「若い人が農業を始めても土地が借りられない」。農業に詳しいエム・スクエアラボの加藤百合子社長は嘆く。

 世界経済の未来を誰もが信じていた06年、日本の物価も上昇に転じたが、金融危機後の景気後退で日本経済はデフレに逆戻りした。米国はいずれ利上げに動く。新興国の需要回復も時間がかかる。市場の乱気流の深度を読み影響を抑える手腕が試されている。

(石川潤、松崎雄典)



中国成長率、実は5%? 日経センター4~6月試算 公式「7%」と開き 2015/09/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合2面にある「中国成長率、実は5%? 日経センター4~6月試算 公式「7%」と開き」です。





 日本経済研究センターは今年4~6月の中国の実質国内総生産(GDP)成長率が、中国政府の発表を大幅に下回る5%前後にとどまっていた可能性が高いとの試算結果をまとめた。7%成長を保ったとする習近平指導部の主張とは、食い違う内容になっている。(関連記事国際面に)

 試算は中国の「鉄道貨物輸送量」と「発電量」「銀行貸し出しの伸び」を使って実施した。

 いずれも中国の李克強首相が遼寧省トップを務めていたときに、経済分析の材料に用いたとされる指標で、公式統計よりも中国の実体経済の動きを正確に表しているとの見方が多い。

 日経センターはこの3指標を組み合わせた指数を用い、中国の4~6月の実質GDP成長率が4.8~6.5%の範囲内だったと試算した。中国国家統計局が発表した7.0%より低い数字だ。

 4~6月期に鉄道貨物輸送量が前年同期比で約1割減となり、発電量の伸びも緩やかだったことが成長率の試算値を押し下げた。2013年前半までは試算値と政府公表の成長率に大きな差はみられなかったが、13年夏ごろから試算値が公表値を下回るようになり、その差が広がりつつある。

 中国政府は今年の成長率目標を「7%前後」と定めている。しかし市場では中国経済が想定を上回るペースで減速しているとの見方が強まっており「中国政府は統計数字を操作しているのではないか」との疑念が絶えない。



大機小機 「時」が中国を追い越した 2015/08/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「大機小機 「時」が中国を追い越した」です。





 「時は中国の味方なのか」と題し本欄に書いたのは4年前だ。当時、リーマン危機後の低迷にもがく先進国を尻目に、4兆元の景気対策で素早く立ち直った中国は、称賛の的だった。

 経済規模で米国を抜く日も近い、軍事力でも追い上げ、「やがて中国が世界をリードする」という論者も現れた。そんな「中国は前途洋々」説に異を唱えた。人口構造の変化や、世の趨勢である情報化と共産党一党独裁体制の相性の悪さなどを、理由にあげた。

 中国の人口構成は、生産年齢人口がピークアウトし人口ボーナスが人口オーナス(重荷)に転じた。農村部の余剰労働力が底をつく「ルイスの転換点」を過ぎたことも、急な賃金上昇=国際競争力の低下を招く。

 フェイスブックも、ツイッターも、ユーチューブもブロックされる情報鎖国体制は、習近平政権下で、むしろひどくなった。最近では、有害と認定された若者に人気の楽曲120曲がネットから消え、天津の化学爆発事故でも厳しい検閲が行われた。

 経済のバージョンアップに不可欠な技術革新は、情報化・ネット化を抜きに語れない。開放性が命の情報化を邪魔すれば、イノベーションは損なわれる。

 「社会主義市場経済」体制の“護持”が情報統制の目的だろうが、共産党独裁と同義の「社会主義」と、自由・開放を指向する「市場経済」の継ぎ目の亀裂は時とともに深まる。

 「時は中国の味方ではなく、時が中国を追い立てているのが実相だろう」と4年前のコラムを結んだが、上海株や人民元相場の異変は「時」が中国を追い越した証左ではないか。

 改革の指針はあった。例えば3年前、世界銀行と国務院発展研究センターが共同でまとめた「中国2030」リポート。「中所得国のワナ」を避ける手立てを示した同報告が、第一に勧めたのは「市場経済への移行の完遂」だった。

 政府はモノを提供するのではなく、システムやルールの提供者に役割を変え、重要産業を牛耳る非効率な国有企業(銀行も)のリストラを急ぎ、競争領域を広げて、市場化を貫けと。

 ところが、習政権下で国有セクターの改革は遅々として進まず、しびれを切らした「市場」が反乱を起こした。責任はひとえに「政治」にある。

(手毬)



市場変調 こう読む 日本株、中国減速の影響大 米利上げ、先延ばしの公算 米メル・キャピタル・グループCEO グル・ラマクリシュナン氏 2015/08/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「市場変調 こう読む 日本株、中国減速の影響大 米利上げ、先延ばしの公算 米メル・キャピタル・グループCEO グル・ラマクリシュナン氏」です。





 ――世界的な株安の背景をどう見ていますか。

グル・ラマクリシュナン氏

米メル・キャピタル・グループCEOグル・ラマクリシュナン氏

 「新興国が先進国市場を激しく揺さぶっている。株安は中国とブラジルから始まり、日米欧に波及した」

 「資源安などを受けて、新興国の企業の収益性が悪化し、自己資本利益率(ROE)も低下した。そこへ米連邦準備理事会(FRB)による年内利上げ観測が強まり、世界の投資マネーが新興国から引き揚げた。これが株安の連鎖が始まった背景とみている」

 ――新興国の経済は危機的な状況なのでしょうか。

 「そうは思わない。過去の危機に比べて政府の打つ手は多い。通貨が下落しているが、外貨準備はまだ豊富にある。通貨安は通常インフレを招くが、現在は原油安もあり物価は安定している。むしろ低インフレの問題に悩んでいる。中国人民銀行が株安や景気減速に対応して追加金融緩和を打ち出せたのはそのためだ」

 「もっとも新興国市場に世界の投資マネーが戻るには、企業が利益率を高めなければならない。さらにFRBの利上げ時期も焦点となる。いつ利上げに踏み切るのか、はっきりしてくる必要がある」

 ――FRBは年内利上げに踏み切るとみていますか。

 「2016年以降に先延ばしする可能性が高まっている。米国は15年、2.5%の経済成長率を達成できないだろう。為替のドル高傾向や世界的な資源需要の低迷は、低インフレを招き、経済成長にも悪影響を及ぼすからだ」

 ――日本株への投資スタンスを教えてください。

 「日本株については数カ月前からショート(売り)ポジションを取っている。年初から株価が大きく上昇していたので、調整が必要だとみていた」

 「世界的な低成長の影響から日本経済も逃れられない。年内の米利上げがなくなれば、為替は円高方向に傾く。日本株には調整圧力がかかるだろう。中国景気減速の影響も大きい。中国の人民元切り下げで、日本企業は困難に直面するだろう。一部の日本の輸出企業は競争力が落ちる」

 「中国からの訪日観光客は日本国内の消費を支えていた。しかし、人民元安と景気低迷で、中国人観光客の消費も増加ペースが鈍化するとみている」

 ――日本の経済政策についてはどう見ますか。

 「日銀が政策判断を間違えるリスクを気にしている。例えば、物価上昇目標の達成にメドが立たないのに、早まって量的・質的金融緩和の『出口戦略』の議論を始めることだ。日本の株式市場には悪影響を及ぼすだろう」

 ――日本株に「強気」になる条件は。

 「ミクロに目を向ければ、良い材料はある。企業の業績の伸び率は高い。コーポレートガバナンス(企業統治)改革を通じて、経営陣がROEの改善に力を入れ始めた。配当や自社株買いも増えている。公的年金による日本株投資の拡大も株価にとってはプラスだ。ただマクロ経済のデータや、中国減速が企業業績に与える影響などを見極めたい」



真相深層 安倍首相に賭けた朴氏 戦後70年談話、韓国が一定評価 慰安婦解決狙い不満封印 2015/08/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「真相深層 安倍首相に賭けた朴氏 戦後70年談話、韓国が一定評価 慰安婦解決狙い不満封印」です。





 「ここまで抑えるとは……」。日本政府内に驚きの声があがった。韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が15日の演説で、安倍晋三首相の戦後70年談話を前向きに評価したからだ。韓国政府の背中を押したのは何か。

朴大統領は15日の演説で、式典直前まで原稿に手を入れた(ソウル)=共同

3つの着目点

 14日深夜のソウル。ハングルに翻訳された「安倍談話」を前に、韓国政府の分析作業は難航した。「植民地支配や侵略の主体が明確でない」「自分の言葉で謝罪していない」。物足りないと誰もが感じた。中国と比べても書きぶりが冷淡だ。談話を批判的に伝える韓国メディアの速報がテロップやネットに流れる。それでも関係を壊すほどではなかった。着目したのは3つのポイントだ。

 韓国政府が求めてきた「植民地支配」「侵略」「反省」「謝罪」の4つのキーワードが曲がりなりにもすべて使われている。歴代内閣の立場を「揺るぎなく」継承するとも明言した。直接の言及は避けながらも、朴政権が最優先課題とする従軍慰安婦問題を、歴代内閣の談話で初めて盛りこんだのが隠れた好材料になった。韓国メディアの落ち着いた論調も届き始めた。

 談話への評価を韓国外務省が青瓦台(大統領府)に報告したのは15日未明になっていた。対日修復路線にカジを切っていた青瓦台も受け入れた。外交筋によると、同日朝に尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が朴氏に電話で説明。青瓦台は戦後70年談話に「未来志向のメッセージを発信する」ことを最終決定した。韓国政府の「第一声」に重みをもたせるため、まず大統領演説、次に公式見解を発表する段取りとした。

 戦後70年談話をどう評価するか。それは日本の要人に会うたびに歴代談話の「確実な継承」を求めてきた朴氏自身にもはね返ってくる。

 15日午前、朴氏は日本からの解放70年を祝い韓国国旗の太極旗が街中に掲げられたソウル中心部の世宗文化会館の演壇に立った。「物足りない部分が少なからずあるのも事実だ」。こう前置きしたうえで、日本の戦後70年談話が「歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」と表明したことに「注目している」と語った。

米国に配慮

 難しい選択だった。10月の訪米を前に「米国に韓日関係を心配させるべきではないと考えた」と韓国政府関係者は話す。安倍政権を擁護する米国は歴史問題で日韓双方に歩み寄りを迫る。中国の習近平国家主席は安倍首相と2度会談した。韓国政府は、今春の安倍首相の米国演説などの前に国内外で激しい対日攻撃を展開し、後に「無策」と批判された記憶が残る。

 経済の低迷が続くなかで朴氏は外交に政権浮揚の突破口を見いだそうとしているようにみえる。9月2日に北京で習主席と会談し、3日に軍事パレードを含む抗日戦勝70周年式典に参加する。これを手始めに同下旬の国連総会を経て、10月16日にワシントンでオバマ米大統領と会う。その前後に議長として韓国で日中韓首脳会談を仕切り、安倍首相との初の日韓首脳会談も実現する。日米中3カ国との関係を一気に強化するシナリオだ。

 25日から5年の大統領任期の後半期に入った。韓国の歴代政権がそうであったように、政治家や官僚が「ポスト朴」や来春の総選挙に向けて動きだせば、大統領の求心力は低下する。韓国が日本批判を控えたのは、朴氏が年内解決をめざす従軍慰安婦問題は安倍首相の決断にかかっているとみるためだ。

 韓国内には朴政権への不満もくすぶる。15日の演説に野党は「日本に免罪符を与えた」と批判し、保守系メディアからも「対日外交のブレを国民に説明すべきだ」(朝鮮日報)と矛先が向けられる。「日本の対応次第で火種がいつボッと燃え上がるかわからない」(韓国政府関係者)状況だ。

 朴氏は式典直前まで原稿に手を入れた。安倍首相が「歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」と表明した部分に「日本の侵略と植民地支配がアジアの様々な国の国民や慰安婦の被害者らに苦痛を与えたことに謝罪と反省を根幹にした歴代内閣の立場」と補い、そのうえで前向きに受け止めた。

 「慰安婦問題を早期に適切な形で解決してほしい」と安倍首相に決断を促す。北朝鮮の挑発に厳しい姿勢を貫き、最後は対話で決着させた朴氏。対日外交は依然、「安倍官邸は我々に冷ややかだ」と韓国政府内からため息が漏れる。賭けの成算は立っていない。

(ソウル支局長 峯岸博)