大腸がん予防にアスピリン 効果を調査 国立がんセンターなど 22施設、7000人対象 2015/12/01 本日の日本経済新聞より

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 解熱鎮痛剤として使用されているアスピリンに大腸がんの発症や、がんになる可能性の高い大腸ポリープの再発を予防する効果があるかを確かめる臨床研究を、国立がん研究センターや京都府立医大などのチームが30日までに始めた。

 日本人約300人を対象にした同様の臨床研究で、ポリープの再発率が4割減少したとする研究成果が昨年2月に発表されており、今回は22施設の患者7千人で効果をより詳しく調べ、大腸がんの予防法確立を目指す。

 研究は大腸がんになる恐れのあるポリープを切除した40~69歳が対象。アスピリンの一種で医師が処方する錠剤「バイアスピリン」(バイエル薬品)を4年間、毎日1錠(100ミリグラム)飲んでもらい、別の大腸がん臨床研究に参加し同薬を飲んでいなかった3千人のデータと、がん発症やポリープ再発率を比べる。

 使用するアスピリンは血栓を作りにくくする薬で市販薬とは有効成分が異なる。臓器の炎症を抑える作用が予防につながる可能性が指摘されているが、詳しい仕組みは不明。脳出血などの副作用の恐れもあり、研究代表者の石川秀樹京都府立医大特任教授は「将来的な予防法確立と仕組みの解明につなげたい。自己判断で飲むのは絶対に避けてほしい」と話した。

 大腸がんは近年増加傾向にある。国立がん研究センターの推計では、2015年の新規患者は約13万6千人で、がんの中で最も多い。死亡者数では肺がんに次いで2位。食生活の欧米化などが背景にあるとされる。



経営書を読む ナシーム・ニコラス・タレブ著「ブラック・スワン」(3) 予測するということ 人間の限界を知る 2015/12/01 本日の日本経済新聞より

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 私たちは日々の意思決定において、少し先の未来を読みます。企業は中期計画策定と銘打って3~5年の計画を一定の環境予測の下で行います。しかしタレブは、予測という行為は私たちの手に入る道具を全て使っても複雑すぎると言います。

 タイムマシンで中世の時代に戻り未来(今の世紀)を予測するとします。予測を的中させるには蒸気機関車、電気、インターネットといった主要な技術革新を全て当てないといけない。将来発見される重要な科学技術がわかっていなければ、将来の予測は本質的にはできないのです。

 しかし、それがわかっているなら科学技術の開発をその時点で始められます。加えて、技術進歩の予測には社会(消費者)への波及を左右する要素の予測も含みます。しかし、社会への波及の可能性は、実際には技術の優劣とは関係なく決まることが多いのです。

 では、私たちは何故予測をし計画を立てようとするのか。答えは人間の性分にあるとタレブは言います。計画性は人間の人間たる部分、つまり意識に組み込まれていると。将来を予測し、その予測を通じて危機を回避することができる。例えば、目の前の人に悪口を言った結果を頭の中でシミュレーションすると、その人から仕返しを受けることが想定できます。

 このような思考により、私たちは自然淘汰の働きから逃れることができるのです。それができない原始的な生物はいつも死の危険と隣り合わせで、一番優れたものが生き残ることによる遺伝子の改善によってしか進歩できません。予測する性向を持ったおかげで、私たちは進化の基本法則から逃れることができるとタレブは分析します。

 私たちの脳はいわば「予測する機械」。不確実性が増大する「果ての世界」で生き残るためには、予測する機械の限界をしっかり理解し、知識と経験を超えた創造的な思考力を高めることが求められるのです。



インド、7~9月7.4%成長 旺盛な個人消費がけん引 2015/12/01 本日の日本経済新聞より

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 【ニューデリー=黒沼勇史】インド統計局が30日に発表した2015年7~9月期の実質国内総生産(GDP)の成長率は、前年同期比で7.4%だった。個人消費と設備投資がともにけん引役となり、4~6月期の7.0%から加速した。内需の成長率は7%を超え、過去3年半で最大の伸びを記録した。中国など新興国の鈍化が世界経済に減速感をもたらすなか、インド経済は“独歩高”の様相だ。

 7~9月期の成長率はほぼ市場予想(7.3%)通りだった。統計局は公表していないが、個人消費や設備投資など官民の支出を合わせた「内需の成長率」を試算すると、7~9月期は前年同期比で7.1%伸びた。現在の統計基準で比較可能な12年4~6月期以降では初めて7%の大台に乗せた。個人消費と設備投資の伸び率はいずれも6.8%増だった。

 個人消費の旺盛さはミクロ統計にも表れている。年初来の利下げやガソリン安が追い風となり、乗用車販売は7~9月期に2四半期連続で6%増えた。エアコン販売が「15年度(15年4月~16年3月)も前年度比で15%伸びる」(地場系エアコンメーカー)と予想されるなど、家電需要も堅調だ。鉱工業生産指数の項目である耐久消費財は7~9月期に、4年半ぶりに2桁増を記録した。

 中国の景気減速が響き、成長鈍化に直面するアジア新興国が多い中で、インド経済は異例の拡大を続ける。同国は「中国の生産・流通ネットワークに加わっていない」(ジャイトリー印財務相)のに加え、足元の資源安も原油の純輸入国であるインドには追い風だ。

 国際通貨基金(IMF)は10月に公表した最新の「世界経済見通し」で、インドの経済規模(名目ドル建てGDP)が15年に2兆1825億ドル(約268兆円)となり、世界7位の経済大国に浮上すると予想した。14年は9位だったが、失速するブラジルとイタリアを追い越すとみる。

 ただ民間企業の設備投資は回復途上だ。インフラ企業や建設会社には過去に積み上げた債務負担が足かせとなり、新規投資に踏み切れない企業が残る。停滞気味の経済改革の行方も、インドが8~9%とされる潜在成長率を取り戻す上でのカギとなりそうだ。



経営の視点 出口みえない原油安 資源ビジネスは終わらず 編集委員 松尾博文 2015/11/30 本日の日本経済新聞より

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 「5、6年前には想像できなかった」。エネルギー情勢分析の第一人者、ダニエル・ヤーギン氏が言う。原油市場の「シェアをめぐる戦い」(同)のことだ。

 勝者はまだ見えない。シェールオイルは採掘コストを下げ、低価格への耐性を高めている。サウジアラビアなど石油輸出国機構(OPEC)は原油収入を優先し、高水準の生産を続ける。はっきりしているのは1バレル100ドルを超える高値には当分、戻らないことだ。

 2014年半ばに価格が急落してから原油安は2年目に入った。価格の低迷は当初の予想に反して長引くとの見方が強まっている。石油・ガス開発企業の収益を圧迫し、投資にブレーキがかかり始めた。

 16年3月期の純利益で伊藤忠商事が三菱商事を抜き、初めて総合商社トップになる見通しになった。資源関連事業の比率が高い三菱商事や三井物産に対し、シェール開発に早々に見切りをつけ、非資源に経営資源を集中した伊藤忠。この判断が逆転に導いた。

 「油田やガス田の売り物はあるが、今は動く時ではない」。都市ガス大手の首脳は冷ややかだ。資源高を謳歌したわずか数年前が遠い昔のように資源関連事業に逆風が吹く。

 資源ビジネスは終わったのだろうか。

 07年、インドネシア・スラウェシ島を歩き回る三菱商事と日揮の社員がいた。目的は液化天然ガス(LNG)の生産プラントの建設地を探すこと。輸送船が接岸できる水深はあるか。確認するため海にも潜った。

 それから8年。赤道直下のこの島で8月からLNGの生産・出荷が始まった。欧米メジャーが主導するLNGビジネスの世界で、初めて日本企業が操業に責任を持つプロジェクトだ。

 「今、必要なのはエネルギービジネスの勝ち残りに入ること。そのためには人任せでなく、自らプロジェクトを進める力を持たねばならない。知見を積み、(事業の)目利き力を高めることが不可欠だ」。三菱商事の柳井準副社長は言う。

 原油高は資源開発への参入のハードルを下げた。電力・ガス会社やファンドなど様々な新顔が殺到した。一転の原油安でそのふるい落としが始まっている。

 資源開発は軌道に乗るまでに時間がかかるビジネスだ。その間、国際商品の宿命である価格変動からは逃れられない。価格は下がることもあれば、開発投資の減少は需給を引き締め、いずれ価格を押し上げる。

 短期の得失で判断し、やめてしまえば将来の果実は得られない。資源ビジネスが新興国の成長や日本の資源確保に果たす役割は増している。手を引くだけが選択肢ではない。重要なことは10年先をにらんだ戦略を描けるかどうかだ。

 日揮の重久吉弘代表は今月中旬、サウジに飛んだ。国営石油会社サウジアラムコの新トップに会うためだ。世界最大級の原油埋蔵量を持つサウジはどう動くのか。そのアンテナが経営の判断を左右する。

 資源ビジネスは選別の時代に入った。勝ち残るには商品の価格変動を吸収し、市場の変化を先取りする永続的なビジネスモデルへの進化が不可欠だ。資源安はその決意を問うている。



月曜経済観測 鈍い設備投資の行方 1~3月から持ち直しへ 2015/11/30 本日の日本経済新聞より

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 日本企業の収益は過去最高水準にあるにもかかわらず、設備投資は減り続けている。日本政策投資銀行の柳正憲社長に現状と見通しを聞いた。

下方修正少なく

 ――国内総生産(GDP)の設備投資が、7~9月期まで2四半期連続で減ったのはなぜでしょう。

 「8月以降、企業トップのヒアリングをしているが、海外の景況が悪いから設備投資を落とすという企業はほとんどなかった。中国の景気減速懸念から経営者の心理が一時的に少し弱気になったのではないか」

 「設備投資計画を下方修正しているのは、中国経済の影響を受けた企業とみている。ただ、多数ではない。全般的に計画を下方修正しようという雪崩現象は起きていない」

 ――設備投資はいつ点火するのですか。

 「先行指標の機械受注は10~12月期にプラスの見通しだ。実際の設備投資も来年1~3月期から持ち直すとみる。人手不足や資材の調達難を理由に、工事をやろうとしても止まってしまうことはある」

 ――具体的にどんな動きがありますか。

 「日立製作所は英国の鉄道事業の受注に成功し、国内も強化しようとしている。非製造業では、10年間で年間の設備投資額を2倍にするという野村不動産グループのような元気なところもある」

航空機がけん引

 ――大企業は投資意欲が旺盛でも、中堅・中小企業にも広がりますか。

 「期待しているのは航空機関連だ。川崎重工業は各務原を中心とした岐阜県、三菱重工業は小牧を中心とした愛知県などで、周辺の中堅・中小企業を巻き込みながら投資をしようという動きが出ている」

 「航空機の部品づくりは自動車よりも精緻で、非常に高度な技術が要る。一般的に部品点数は自動車の100倍だ。中堅・中小の人材育成もしていくといっているので、これからの日本を引っ張るのではないか」

 ――過度の円高が是正された結果、工場の国内回帰は進んでいますか。

 「海外での設備投資は引き続き高水準だが、一服感もある。昔は海外ばかりという時期もあったが、海外も国内もちゃんと投資するというのが今の流れ。だが、企業経営者からは『国内回帰はない』という回答が大半を占めている」

 「わずかな例外はアイリスオーヤマだ。中国の工場でつくっていた製品を輸入して日本で売っていたが、円安になったので日本でつくるという。中国向けは中国でつくるので、海外の工場を閉めて日本に移すという単純な置き換えはない」

 ――あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」投資の現状は。

 「経営者に『IoTをどうするか』と聞くと、NECなど一部を除くと反応が悪い。第4次産業革命も米国やドイツが先行しており、日本企業の課題だ」

 ――政府は官民対話の場で、企業に設備投資と賃上げを強く求める考えです。

 「官と民がシェアード・ゴール(共有目標)を持つべきだ。官は官でやるべきことをやり、民はそれにあわせてリスクをとるのが大事だ。いまは何となく官と民がギクシャクしている」

(聞き手は編集委員

瀬能繁)

 やなぎ・まさのり 6月に就任、企業トップとの出会いが財産。65歳。



中国高齢化、巨大市場に ニチイ学館など積極投資 2015/11/30 本日の日本経済新聞より

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 日本企業が中国の急速な高齢化をにらみ、現地向けの製品・サービスに積極投資する。介護最大手のニチイ学館は中国企業を十数社買収し、2016年度にも訪問介護サービスを中国全土に展開する。エーザイは認知症薬を拡販する。すでに高齢化が進んでいる日本で培った事業ノウハウを活用し、巨大市場の変化を商機としてつかむ。

 中国の国家衛生計画出産委員会によると、60歳以上の人口は現在約2億1200万人と全体の15.5%を占める。15年までの5年間は毎年860万人ペースで増加し、その後も増える見込みだ。

 介護最大手のニチイ学館は中国の主要地域で家事代行企業の買収を進め、介護サービスを広域で展開する。6社を買収済みで、さらに10社の買収を決めた。

 中国では家政婦が家事代行と兼ねて介護サービスをこなすケースが多い。ニチイ学館は買収企業に専門的な介護ノウハウを教え、介護中心でも収益を伸ばせるようにする。北京や沿岸部に加え、16年度にかけて重慶など内陸部もカバーする。

 同社によると中国の要介護者は約3500万人おり、市場も黎明(れいめい)期で「少なくとも2兆3千億円規模」(寺田明彦会長兼社長)という。

 高齢化に伴い、認知症患者の増加も見込まれる。エーザイは中国で認知症の治療薬「アリセプト」の販売を拡大する。15年4~9月期の中国売上高は27億円と前年同期比23%伸びた。各地の医療機関と連携して外来診療所を今夏までに140カ所以上設置。認知症の進み具合を的確に診断できる医療体制を広める。16年度には、江蘇省の工場に新棟を建設して中国での本格生産に乗り出す。

 10月に明らかになった中国の「一人っ子政策」見直しも、巨大な人口の年齢構成を変える可能性がある。新たに9千万人超の女性が2人目の子供を持てるようになり、子供向けの消費が伸びる公算が大きい。

 花王は乳幼児向け紙おむつなどの増産に今後2~3年で最大900億円を投じる。中国向けや訪日中国人のまとめ買いに対応し、国内外の6工場で紙おむつや生理用品の生産能力を高める。山形県や栃木県の工場に新棟を建設し、17年以降に順次稼働する。中国でも合肥工場(安徽省)や上海工場で増産する。

 花王は当面、年800億円規模の投資額(販促費を含む)を計画し、増産投資が最大300億円程度を占める。肌に優しい日本メーカーの紙おむつは、訪日中国人の大量購入などで日本でも品薄が続いている。

 大王製紙は中国で今年から大人用紙おむつの販売を始めた。乳幼児向けでは、16年にも江蘇省の工場設備を増強する方針だ。



こころの健康学 感覚を大事に対処する 困ったときの一手 2015/11/29 本日の日本経済新聞より

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 私は、毎年この時期に知人が関わる財団で開かれる講演会を、楽しみにしている。今回は、トップ級の将棋のプロ棋士が登場した。

 優れた棋士は何手も先を読むといわれる。その棋士も、何手先を読むのかと聞かれるという。棋士は頭の回転が速く、ずいぶん先の手を読んで最適の手を見つけ出すのだろう、と私のような素人は思っている。

 実際、最近はコンピューターソフトが発達して、将棋の対局で人間に勝つ場面が増えてきた。将棋ソフトが手を読む速度は、驚くほど進歩している。それでも、プロ棋士にソフトがかなわない場面は少なくない。どうやらそれは、考える脳と感じる脳の協働的な働きにヒントがあるようだ。

 棋士の話では、優れた人は理性的に手を読むだけでなく、自分の感覚を大事にしながら将棋を指しているという。少なくとも私が理解した限りでは、将棋の指し手を判断する際は、理性よりも感覚の方が大切になる場面が多いようだ。言葉を換えれば、将棋では考える脳も大切だが、それ以上に感じる脳が大切なのだ。

 ある局面で長考に入り、いろいろ考えた末に駒を置く。しかし、その手がよくないときは、全身が不愉快な感じになるという。感じる脳が働いて、体が反応するのだ。逆によい手だと、幸せに感じるという。

 こうした感覚は、将棋のような勝負事だけでなく、私たちの生活でも大切だ。感覚を大事にしながら生活すると、いろいろな問題に直感的に対処できて、こころが健康になっていく。私たちのこころと体が持っている力の可能性を感じられる講演だった。

(認知行動療法研修開発センター

大野裕)



地球回覧 ロシアにらむ改革請負人 2015/11/29 本日の日本経済新聞より

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 黒海に面するウクライナ南部オデッサの港。巨大なコンテナ施設を背に会見したオデッサ州のミハイル・サーカシビリ知事の怒号が響いた。賄賂を受け取った役人や議員が荷物の通関を差し止めさせた証拠とされる書類を示したうえで放り投げ、宣言した。「腐敗のシステムを壊す」

汚職の実態に怒るオデッサ州のサーカシビリ知事(11月4日、オデッサ)

 ウクライナと同じく旧ソ連の構成国だったジョージア(グルジア)の前大統領だ。親欧米を掲げ改革を推進した実績を買われ、ウクライナのポロシェンコ大統領が国籍を与えて州知事に任命した。同国東部でロシアが支援する武装勢力との紛争が続く一方、オデッサは汚職との戦いの最前線に浮上した。

 派手な言動が注目を集める。「ここでは何をするにも賄賂が必要だ。汚職撲滅が命題なのに君らは動いていない」。就任後すぐの州政府の会議ではテレビの前で役人20人を辞めさせた。

 ジョージアでは若い人材を登用し汚職と官僚主義を排するため、多数の公務員を解雇し、1000件以上の規制を撤廃した。急進的な改革は海外からの投資を呼び、世界銀行は「反汚職改革の手本」とはやした。

 オデッサでも同じ手法を貫く。まず警察組織の改革に取り組んだ。公募した人材を訓練して増員。汚職のイメージが強い旧ソ連時代からの制服も一新し、改革をアピールした。通関管理などは電子化を計画し、汚職封じ込めを目指す。「オデッサをウクライナの改革の見本にしたい」とサーカシビリ氏は語る。

 18世紀から貿易都市として栄えた人口100万のオデッサはユダヤ人やギリシャ人など多様な人種が住む特異な地域だ。その3割がロシア系で、親欧米路線への反発もある。住民はサーカシビリ氏に懐疑的な目を向けながら「改革は誰もが望む」と口をそろえる。行政の中枢は親ロ派の前政権残党が牛耳り、抵抗勢力として立ちはだかる。

 「だからPRが必要なのだ」とサーカシビリ氏は話す。公務を随時フェイスブック上で公開し、閲覧件数は毎回、数十万件に達する。「口先だけの人気取り」と批判も受けるが、ウクライナ全土では政治家の支持率でトップに浮上した。

 これは中央政府への不満の裏返しでもある。世論調査によると、「改革ペースに満足している」との答えは3%にすぎない。中央政府とのあつれきも増すなかで、「変革を求める国民の力だけが頼りだ」と語る。

 民衆デモが政権を倒した2014年のウクライナ政変では親ロと親欧米の対立に焦点が当たったが、人々を突き動かしたのは腐敗への怒りだ。旧ソ連崩壊の混乱で国有資産を得た新興財閥が政治を動かし、汚職がまん延する。改革が進まなければ再び政情が不安定化しかねない。

 汚職問題は旧ソ連諸国に共通する。調査機関の透明度ランクでは、欧州連合(EU)に加盟したバルト3国とジョージアを除き軒並み下位に沈む。ロシアではプーチン大統領に近い勢力がビジネスを独占し、強権体制下で汚職がはびこる。

 「ウクライナで改革が成功すれば、ロシア人もなぜ自国でできないのかと思うようになる」。サーカシビリ氏は旧ソ連諸国を力で勢力圏に引き戻そうとするプーチン氏に反発する。

 ジョージアの大統領としては、08年に親ロ派が実効支配する地域を巡りロシアの侵攻を招いた。選挙で政敵の財閥出身者率いる野党に敗れ、14年に職権乱用罪などで国を追われた。次第に独善性を強め、民意が離反した結果でもある。

 本人も「多くの誤りを犯した」と認めるが「総合的に見れば大成功だった」と譲らない。オデッサでの「敗者復活戦」の成否はウクライナの行方も左右する。

(オデッサで、古川英治)



中外時評 かみ合わない官民対話 投資の輪つなぐ土壌作れ 論説副委員長 実哲也 2015/11/29 本日の日本経済新聞より

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 大企業はもうけるばかりで国や国民に何の恩恵ももたらしていない――。世界的な金融危機以降、そんないらだちが米欧の社会や政治に広がっている。

 その日本版というべきか。大企業に対して「利益をためこまずにもっと設備投資や賃金を増やして国に貢献せよ」と求める圧力が日増しに高まっている。積み上がった内部留保に課税せよという声すら聞こえてくるようになった。

 大企業は防戦に追われ、26日の「未来投資に向けた官民対話」では、経団連の榊原定征会長が「設備投資は2018年度に今年度比で10兆円増える」との「見通し」表明まで迫られる状況になった。

 マクロ経済的に見れば、企業への投資要請はわからないでもない。金融危機後は世界的に企業がおカネをためる流れが強まったが、統計上、日本企業はその度合いが大きい。7~9月期まで2期連続のマイナス成長になった背景には設備投資の減少がある。

 だが、企業から見れば、縮む国内市場でむやみに設備投資を増やしてどれだけ利益があがるか、という話になる。最近は、世界の活力を取り込むため海外企業のM&A(合併・買収)に積極的に資金を活用しており、無駄におカネを遊ばせているという認識も薄い。統計的にはこうした海外投資は「貯蓄」の一部にカウントされる。

 こうしたすれ違いを放置したまま、政治が民間企業に圧力をかけて設備投資を迫っても「対話」はかみあわなくなるばかりだ。重要なのは、今後の日本で増やすべき投資とは何かについて、政府と企業が認識を共有することだ。

 「即効性や将来の競争力確保の観点から今は設備投資より、先端分野における研究開発投資に注力すべきだ」(トヨタ自動車の豊田章男社長)

 「われわれにとっての未来投資は研究投資と人工知能(AI)分野などのM&A」(ディー・エヌ・エーの南場智子会長)

 官民対話では企業経営者から、設備投資拡大に目が向きがちな政治にやんわりとくぎをさす声が相次いで出た。

 業種の垣根を越えた競争が世界的に激しくなる中で、企業の関心は新たな技術を取り込み、新市場を開拓することに向く。そこでは設備投資や研究開発のほか、専門分野の人材の獲得やマーケティングなどを含めた広い意味での投資が重要になる。

 そうした現実を踏まえたうえで、将来につながる投資を増やすにはどうすればいいかを探るべきだ。

 「新技術を使った様々な新しい試みが、社会実験的に素早くできる仕組みをつくっていくことが大事」と強調するのは、官民対話のメンバーでもある経営共創基盤の冨山和彦・最高経営責任者だ。

 AI、ロボットなどの分野では、新技術を実際に使って得た知見からイノベーションがうまれ、それをまた現場で試して進化させるという相乗作用が働く。その中で新たな投資機会もうまれるという。

 だが、これまでは様々な規制や法制度がそうした実験を阻み、イノベーションを遅らせてきた。筑波大発のベンチャー、サイバーダインが開発した装着型ロボット「HAL」。25日に医療機器として承認されたが、ドイツでは2年前に承認済み。同国では公的労災保険に続き医療保険の適用対象になるメドもつきつつある。

 同社の山海嘉之社長は「市場投入まで何年もかかると革新技術の意味が失われる。技術が足止めを食らわない環境をつくることが新産業創出への道になる」と語る。

 投資を促すもう一つのポイントは、企業の壁を越えた「協業」を後押しすることだ。自前の投資だけで急激な市場や技術の変化に対応し、競争力を高めるのは難しくなっている。

 大企業に「圧力」をかけるなら、海外企業とだけではなく、国内の大学やベンチャー企業と一緒になったオープン・イノベーションにもっと踏み込むよう促すべきだ。潜在的な力を秘めながら資金不足に苦しむベンチャーは多い。 技術系の公的研究機関には、企業、大学との協業を橋渡しする役割を積極的に果たすことが求められる。

 経団連加盟企業に「古くなった設備を新しいものに変えたらどうか」とせっついても意味のある投資は増えまい。それよりも自前主義を超えた協業を促し、政府は新しい技術を使った製品やサービスがいち早く実現できる環境を整える。産官学の連携で投資の輪がつながるような土壌をうみだすほうが、日本の将来にとってはより重要である。



風見鶏 米、2つの対中政策 2015/11/29 本日の日本経済新聞より

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 首都ワシントンに駐在する各国の大使に会わないことで有名なスーザン・ライス米大統領補佐官(51)がホワイトハウスの自室で定期的に懇談する人物がいる。ニクソン政権時代に大統領補佐官として米中の国交正常化に道筋をつけたへンリー・キッシンジャー氏(92)だ。

 ライス氏と同じ国家安全保障を担当していたキッシンジャー氏はその後、国務長官を兼務し、フォード政権でも外交全般を掌握した。ライス氏は、ヒラリー・クリントン氏(68)が国務長官から外れた2期目のオバマ政権の外交を仕切る。そのライス氏が対中政策の薫陶を受けているのがキッシンジャー氏なのだ。

 ライス氏もそれを隠していない。9月下旬の米中首脳会談直前の講演では「米中の歴史から話を始めたい」と断ったうえで1971年のキッシンジャー氏の極秘訪中に時間を割いた。補佐官就任後の3回の中国訪問に触れ「いまや中国を訪れることが秘密でも何でもなくなった」と米中関係の進展をたたえた。

 ライス氏の外交について「冷戦下のパワーポリティクスに考え方が近い」という評価がある。冷戦下は、旧ソ連とどう対峙するかが米外交を組み立てる際の起点だった。今であれば、中国との間合いが、米外交のそれに当たる。

 冷戦下の旧ソ連には封じ込め政策を取ることができた。経済を中心に相互依存が深まる現在の米中関係でそれは難しい。ライス氏が主導権を握った2期目のオバマ政権が中国との協調に傾いたのは、キッシンジャー氏との関係と併せ自然な流れだった。

 その対中協調路線は東シナ海上空の防空識別圏の設定や南シナ海の岩礁埋め立てという中国の増長を招いた。政権内外の批判にさらされたオバマ米大統領は先月下旬、「航行の自由」のために中国の人工島12カイリ(約22キロ)以内に米駆逐艦を出さざるを得なくなった。

 米国の対中政策のもうひとつの潮流は、1期目のオバマ政権でクリントン氏を支えたカート・キャンベル前国務次官補(58)らだ。キャンベル氏に連なるのはリチャード・アーミテージ元国務副長官(70)やマイケル・グリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長(54)。

 キャンベル氏らに共通するのは目の前の脅威に対処しようという姿勢だ。「いかなる一方的な行為にも反対する」。クリントン氏が長官退任間近に打ち出した沖縄県尖閣諸島付近で挑発を繰り返す中国に対する米国の統一見解は、キャンベル氏らがつくった。

 ある外交官はライス氏を「理念派」、キャンベル氏らを「実務派」と整理する。ライス氏が、中国が唱える米中で世界を動かす「新しい形の大国関係」に理解を示し、同盟国や友好国に関する発言が少ないのも、そうした分析と重なる。

 次期米大統領が対中政策を「理念派」と「実務派」のどちらに軸足を置くかは、日本にも影響する。民主党の本命候補、クリントン氏が大統領になれば、「実務派」台頭の可能性がある。混戦の共和党は、有力候補がまだみえないが、安倍晋三首相(61)と会談したことがあるマルコ・ルビオ上院議員(44)は「尖閣は日本の領土」と明言する。

 ワシントンの中国専門家から、こんな話を聞いた。「中国共産党関係者がブッシュ家のお膝元、米テキサス州に頻繁に出向き、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(62)の周辺に近づこうとしている」。来年11月の米大統領選まで残り1年を切った。大統領選に向けて水面下の中国の動きも慌ただしくなっている。

(ワシントン=吉野直也)