2015/02/02 本日の日本経済新聞より「核心 原油安とサウジの行方 王位継承、安定重視で 本社コラムニスト 脇祐三」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「原油安とサウジの行方 王位継承、安定重視で 本社コラムニスト 脇祐三」です。

ここでまた明らかになったサウジの原油価格戦略、「非OPECの高コストの生産者が増産して供給過剰になっているときに、低コストの生産者が減産するのは合理的でない」という観点は、なるほど、と思わせる一言でした。





 世界最大級の産油国で、中東情勢に大きな影響を及ぼすサウジアラビアのアブドラ国王が亡くなり、サルマン皇太子が新国王となった。石油収入が激減する中での経済運営、イスラム過激派との戦いなど、サウジは大きな課題に直面している。新国王がまず優先するのは国内の安定確保だ。

 サルマン新国王はこれまでの政策を引き継ぐと強調した。皇太子時代から国王の代理として閣議を主宰し政策決定の責任を負ってきたので、国王交代に伴う政策の転換は基本的にない。

 サウジでは初代国王の子どもたちが王位を継いできた。前国王は享年90歳、異母弟の新国王は79歳、別の異母弟であるムクリン新皇太子は69歳とされる。指導層が高齢化し、初代国王の孫にあたる世代への交代が懸案になっていた。

 新国王は即位後すぐ、おいにあたる55歳のムハンマド内相を第2皇太子に指名して、世代交代の道を開いた。王家の中には、この人事に異論があったかもしれない。だが、中東流動化への危機感から、王家は団結を示す必要があった。王家の中の思惑の違いは表面化せず、王位継承と今後の道筋づくりは迅速に進んだ。

 サウジを取り巻く地政学リスクは数多い。スンニ派のサウジはシーア派の大国イランと冷戦を続けている。シリアではサウジが反体制勢力を支援する一方、イランがアサド政権を支援し、代理戦争の様相も帯びていた。シリア内戦の過程で過激派「イスラム国」がイラクとシリアにまたがって勢力を広げ、その同調者はサウジ国内にもいる。

 イエメンでは「フーシ」と呼ばれるシーア派勢力が首都を占拠、サウジが支援してきた暫定政権が崩壊した。サウジの目にはイランの影響力がイエメンまで広がったように見える。統治の空白状態が生じ、イエメンに拠点を置くアルカイダ系の過激派が勢いづく懸念も強まっている。

 1月27日、弔問のためリヤドを訪れたオバマ米大統領とサルマン国王の会談では、過激派や混迷するイエメン情勢への対応が焦点になった。イランやシリアへの対応を巡ってきしみがちだった米国との同盟関係の再強化は、サウジの安定確保に欠かせない。

 首脳会談では石油市場安定の重要性を確認したが、原油価格の水準については話し合わなかったという。

 サウジのヌアイミ石油相は、サウジを中心とする石油輸出国機構(OPEC)が減産しない理由として、(1)非OPECの高コストの生産者が増産して供給過剰になっているときに、低コストの生産者が減産するのは合理的ではない(2)価格を決めるのは市場だ――と強調し、シェアの確保を優先する考えを示してきた。

 ただし、米国のシェールオイルなど高コストの原油生産がすぐに減るわけではない。サウジは、原油価格低迷がかなりの期間続く前提で経済運営を考えなければならなくなった。

 昨年12月に発表した2015年予算は、386億ドル(約4兆5500億円)規模の財政赤字を見込んでいる。石油収入の大幅減で財政収支が赤字になるのは当たり前の話。注目すべきは、歳出を前年の当初予算よりもわずかながら増やしたことだ。緊縮政策はとらないという宣言である。

 サウジの名目国内総生産(GDP)は、過去15年で4倍近くに増えた。原油高が続いていた間に国の借金は減り、1990年代末にGDPより大きかった政府債務の規模は、昨年末時点でGDPのわずか1.6%まで縮小したとサウジ財務省は説明している。

 これまで積み上げた準備資産を温存し、借り入れや国債発行で当面の赤字を埋めることも可能だ。

 原油相場とドル相場はおおむね反対に上下する。今はドル高局面で、これが原油安の打撃をある程度は和らげる。

 ロシアのように通貨価値が暴落し、金利引き上げを余儀なくされた産油国と異なり、ドルと連動するサウジ通貨の価値は強くなっている。07~08年の原油急騰・ドル安局面では物価高騰に苦しんだが、足元のサウジのインフレ率は2%台と安定しており、低金利のメリットも続く。

 緊縮政策をとらないのは、主要なインフラ整備事業などを続けるから、民間も投資を増やしてほしいというシグナルだ。自国民の多くが職に就いている役所の給与は減らせず、膨張する若年層の雇用につながる教育改革や、住宅取得の支援、ヘルスケア拡充などの予算は、国内安定のために維持しなければならないという理由もありそうだ。

 向こう数年を乗り切るくらいの財政の余力はある。しかし、「原油高を前提に財政支出を増やす成長モデルは終わった」と国際通貨基金(IMF)は指摘している。石油以外の分野で国家収入と雇用機会を増やしていく経済構造改革が、これまで以上に重要になる。

 アブドラ前国王は「われわれも変わらなければならない」と訴え、女性の地位の向上などを徐々に進めてきた。社会制度の改革の行方にも、注目が集まる。

 「国民の支持と独自の宗教的、文化的なニーズを保ちつつ、進化が退化に変わったり、革命に転じたりしないよう、改革を推進できるか」(米国の中東専門家アンソニー・コーデスマン博士)。サウジ王制の将来は、この成否にかかる。

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