2015/02/17 本日の日本経済新聞より「迫真 金利異変(1)家計の味方か」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「金利異変(1)家計の味方か」です。





 東京湾を一望する東京・晴海の49階建てタワーマンション。高層の3LDKを昨年暮れに購入した立川和夫(53、仮名)は全額を手元資金で賄う当初計画をやめ、あえて3000万円の住宅ローンを組んだ。

住宅ローンは減税制度も使えば事実上のマイナス金利も

 立川の借り入れ条件は変動金利で年0.775%。初年度の利息は23万円だが、住宅ローン減税を使えば約30万円の税金還付がある。差し引きの7万円は借り手がお金をもらえる事実上のマイナス金利だ。資産運用が趣味の立川は考えた。「手元に残った3千万円で内外の株や債券に分散して投資すれば年100万円の利益も夢ではない」

□  □

 低金利の円資金を調達して高金利通貨で運用するキャリートレード。機関投資家の常とう手段だが、マイナス金利も味方につけた立川の手法はまさに住宅ローン版キャリートレード。ファイナンシャルプランナー(FP)の藤川太(46)は「繰り上げ返済をやめて資産運用に回す人が増えている」と言う。

 お金の値段を示す金利が異常な低水準でさまよっている。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは今年1月、一時史上最低の0.195%まで下げた。起点となった異次元緩和を主導する日銀総裁の黒田東彦(70)は「名目金利が下がっていくことは政策の効果だ」と言い切る。

 奈良県大和高田市に住む中本幸秀(45)は10年前に借りた住宅ローンの借り換え手続き中だ。残債は約1680万円。新しい借入金利は1%を切り、返済額は月1万円強減る。「消費税も上がったしね。高校に進学する子どもの学費に充てたい」と中本は言う。

 日銀によると、住宅ローン残高は約115兆円。借入金利が1%下がれば家計が使えるお金は1兆円以上増える。「浮いたお金でハイブリッド車を買ったわ」。この7年で2度住宅ローンを借り換えた千葉市の主婦はこう言う。金利低下が家計の活動を刺激すれば日本経済の歯車は回りやすくなる。

 だが、金利低下が進むほど危うさも目立ってきた。長期金利は2月に入り反発。わずか3週間で2倍の0.4%に上がった。「頭金ゼロで変動金利の住宅ローンをめいっぱい借りる個人が心配だ」と語るのはFPの紀平正幸(73)だ。

 金利0.775%なら、毎月10万円台の返済がぎりぎりの人でも35年返済で4千万円借りられる。しかし、3年後から金利が段階的に2%上がれば返済額は15万円弱に膨らむ。なんとか返済を続けても、老後のお金が足りなくなる恐れもある。

 「住宅ローン業務に関する調査」。1月下旬、全国の銀行に金融庁からこんなペーパーが送られてきた。ローン実行額や平均金利、返済遅延率に加え、2030年度までの長期収益の予想を示すよう求める緊急調査だ。

 四半世紀前のバブル期。貸出先に困った銀行は不動産担保の価値を甘めに見積もり大企業向けの低利融資を競った結果、不良債権の山をつくった。「今、家計向け融資で同じようなことが起きていないだろうか」(金融庁幹部)。借り手の収入に対する住宅ローン残高の倍率はこの10年で最高水準になっている。

 真実は細部に宿るのかもしれない。「わずか半年でこんなに条件が緩くなるとは……」。都内の会社員、狩山誠(仮名、57)は1月、無担保個人ローンを勧める銀行の条件に驚いた。

 個人ローン市場は融資残高で8兆円ほどの小さな市場だが、12年6月に増加に転じ年10%近い伸びを示している。海外出張が頻繁な狩山は自由に出し入れできる口座が必要で、ある銀行から700万円を金利9%で借りていた。昨年後半からメガバンクを含む3つの銀行から勧誘が相次ぎ、金利は半年で3.5%まで下がった。

□  □

 「複数の部署から電話をかけてくる銀行もある」と狩山。集めたお金の運用先に悩む銀行が、他行だけでなく自行内でも貸出先を奪い合う。それが金利の低下に拍車をかける構図だ。

 変動金利で3000万円を借りた立川はこんな計算もしている。「金利上昇時には株価も上がるはず。もし金利が上がれば資産を売って完済できる」。シナリオ通りに進むだろうか。危うさをはらみながら、金利の異変が家計に本格的に及ぼうとしている。

 経済の体温を示す長期金利は1619年のイタリアのジェノバでつけた1.125%が世界史に残る最低記録とされてきた。1998年に日本が379年ぶりに最低を更新してから17年。短期金利のマイナスが日常となった日本では、金利の振れも日を追って激しくなってきた。未踏の領域をさまよう金利の異変を追う。

(敬称略)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です