2015/02/22 本日の日本経済新聞より「中外時評 激しさ増すサイバー「熱戦」 米中ロの攻防が交錯 論説副委員長 飯野克彦」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「激しさ増すサイバー「熱戦」 米中ロの攻防が交錯 論説副委員長 飯野克彦」です。





 中国政府がVPN(仮想私設網)を遮断した。そんな情報が世界をかけめぐったのは、1月下旬のことだった。

 VPNとは、開かれた通信ネットワークの上にあたかも専用線のように閉じたルートを設ける仕組みだ。

 周知のように中国では、共産党政権に都合の悪い情報を載せている海外サイトを見たり、フェイスブックやツイッターといったサービスを利用したりすることが、政府の規制のため難しい。VPNはこの規制をかいくぐる手段の一つだ。

 主に外資系企業が用いてきたが、最近は個人の利用も増えていた。情報統制が尻抜けになりかねない。そう共産党政権が心配したとしても不思議ではない。「環球時報」という新聞は「デジタル空間における主権を守らねばならない」と訴えた。

 もっとも、今のところ全面的な遮断ではない。中国でVPNを用いている人によれば、なお使えるルートは少なくない。

 言うまでもないが、サイバー空間での中国政府の活動は防御的なものにとどまらない。

 軍のサイバー部隊として有名な61398部隊。「プッター・パンダ」と名付けられたハッカー集団に関与しているとされる61486部隊。国家安全省も関与しているとされ「アクシオム(公理)」と名付けられたグループ。

 こうした組織やグループによるサイバースパイ活動が、米国のIT企業によって相次いで報告されてきた。オバマ政権は危機感を深めている。

 61398部隊に属するとされる軍人5人を訴追したのは、昨年5月。今月はじめに打ち出した2016米会計年度(15年10月~16年9月)の予算教書では、サイバー攻撃対策の強化に140億ドル(約1兆7千億円)を計上した。

 13日にはカリフォルニアのスタンフォード大学に民間企業の経営者らを招いて「サイバーセキュリティー・サミット」と銘打った集まりを主催。その場でオバマ大統領は、政府と民間企業の協力による対策強化を訴え、官民の情報共有を進めるための大統領令に署名した。

 背景には、政府だけではサイバー空間の安全を守れないとの思いがある。きっかけの一つは、北朝鮮当局が関与したとみられるハッカー攻撃でソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)の情報が大量に流出した事件だ。

 ただ、本当に警戒しているのは北朝鮮ではない。先週、ITニュースサイト「Re/code」とのインタビューで大統領は次のように述べた。

 「北朝鮮(の攻撃)はとりたてて上手なわけではない」「中国とロシアのサイバー攻撃はとても力がある」。神経をとがらせているのは、やはり中国発のサイバースパイだろう。

 もちろん、米政府の取り組みも防御だけではない。ロシアのサイバーセキュリティー大手カスペルスキーは最近、米政府の攻撃的な活動の一端に迫る報告を発表した。

 それによると、英語で「イクウェーション(方程式)」と名付けられたグループが「知られているどの組織をも上回る複雑さと精巧さ」で、世界30カ国以上の政府機関や企業にサイバー攻撃を仕掛けている。

 被害が深刻な国として挙げられたのは、ロシアのほか中国やインド、パキスタン、イラン、シリアなど。そしてこのグループには、米国家安全保障局(NSA)が関与している形跡があるという。

 「サイバー攻撃に対する十分な防御の能力を生み出したら、潜在的には同じ精巧さで攻撃に転じることができる」。Re/codeとのインタビューでオバマ大統領はこう語った。

 サイバー空間では「攻撃と防御の境界がはっきりしない」。だから「(攻守がはっきり分かれる)野球よりは(攻守が入り乱れる)バスケットボールのようだ」とも述べた。

 含みのある表現だが、大国の指導者にしては率直とさえいえるかもしれない。いずれにしろ、サイバー空間で米中ロが熱い攻防を繰り広げていることは、うかがえる。

 中東やウクライナのように流血をともなう戦いではないけれど、つぎこまれている資金や人材は決して見劣りしないのではないか。その「熱戦」に距離を置いて涼しい顔をしていられる国は、少ない。残念ながら日本も例外ではない。

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