2015/02/24 本日の日本経済新聞より「経済教室 長期金利が示すもの(中) 国債、流動性失い乱高下も バブル招く懸念併存 倉都康行 RPテック代表取締役」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「長期金利が示すもの(中) 国債、流動性失い乱高下も バブル招く懸念併存 倉都康行 RPテック代表取締役」です。





 日本では5年物国債利回りが先月、一時的にマイナス金利となった。低金利の嵐は欧米にも吹き荒れ、いまや先進国共通の現象といえる。

 欧州では長期金利が1%を割り込む国が続出し、ドイツやデンマークの10年債利回りは日本を下回る。欧州10カ国では中短期債利回りがマイナスに落ち込み、スイスでは10年債すら一時マイナスとなった。今年の利上げが濃厚とみられている米国でも10年債は最近まで1%台で推移した。

 世界的な長期金利の低下は、台頭し始めたディスインフレ(インフレ率の低下)やデフレへの懸念の反映であるが、その低下スピードを、原油安とともに主要な中央銀行による金融緩和が加速していることも明らかだ。

 米連邦準備理事会(FRB)や英イングランド銀行(BOE)は既に量的緩和を終了したが、低金利政策は維持している。物価上昇目標の達成に苦しむ日銀は、巨額の国債購入を継続中である。デフレにおびえる欧州中央銀行(ECB)も1月にドイツ勢の猛反対を押し切って量的緩和の導入を決定したばかりだ。

 日欧国債の最大の買い手は中銀となり、最終的には中銀が買うから不合理な価格でも(つまり金利がどんなに低くても)買うという行動が起きる。冷静な経済分析や投資判断が入り込む隙はない。

 日本では異次元緩和の効果がなかなかみえないことも超低金利定着の背景にある。当初は円安が輸入物価を押し上げ消費者物価指数は上向いたが、円安一服に原油安が加わり足元では一転してインフレ率が低下し始めている。エネルギーを除く指数も昨年初めから鈍化傾向がみられており、必ずしも原油安だけが原因とは言い切れないところもある。賃金も実質ベースでは低下傾向が止まっていない。

 巨額の国債購入が財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)に近似するリスクへの警戒感もあるが、現時点での注目はむしろデフレとの戦いに注がれており、「日銀は追加緩和に踏み切らざるを得ない」との思惑が一段の金利低下を促してきた。恐らくユーロ圏市場も同じ軌道をたどり始めることになるだろう。

 一方で、米国は量的緩和による景気回復に成功した、といわれる。確かに米国経済はいまや「独り勝ち」の状態で、今年も3%前後の成長を遂げそうだ。だが物価や賃金の上昇力は鈍く、FRBの目標とする2%のインフレ率の早期達成を阻んでいる。

 FRBは6月利上げの路線を堅持しているが、債券市場にはディスインフレ構造からの早期脱却は困難との見方が根強く、30年債利回りは年初に過去最低水準を更新した。日本やユーロ圏の金利水準があまりに低いため、投資先に悩む世界のマネーがより高い利回りを求めて米国債市場へ流入し、長期金利が合理的と思われる水準を割り込んでいる、という側面もある。

 また、FRBと同様に量的緩和を終了したBOEも、昨今の物価上昇率の低迷を背景に利上げ先送りの姿勢をみせており、同国の長期金利は一時1.5%前後へ低下した。

 量的緩和が生み出す長期金利の押し下げ圧力は、住宅ローン金利引き下げや低利融資など様々なルートで景気を刺激する。だが、実体経済に見合わない水準にまで金利が低下すれば、様々な副作用を通じて「市場金利が実体経済との整合性を失うリスク」を高めてしまうことにもなる。

 懸念材料として、第一に、投資に見合わない金利水準の市場から投資家が去り、取引量が大幅に減ることが挙げられよう。国債が量的緩和を通じて市場流通分が中銀に吸い込まれた結果、市場の流動性が枯渇して円滑な売買ができなくなれば、何らかの原因で大量の売買ニーズが発生した場合に深刻な問題が生じる。

 それは、市場で売りたくても売れない、買いたくても買えない状況になり、価格が急激に変動してしまう懸念だ。実務的には、流動性は月間売買量で計るものではなく、希望する売買金額が納得しうる価格で取引できるかどうかで判断されるものなのである。

 流動性の蒸発現象の代表例として、1987年に起きた日本国債での「タテホ・ショック」が思い出される。タテホ化学工業が債券の財テクで失敗して多額の損失を出したことを機に、長期金利は当時、真空地帯を抜けるように半年足らずの間に2%台から6%台へと急騰した。パニックが起きた時に緩衝材として働く流動性が無ければ、こうした状況が再び国債市場を襲う可能性は否定できない。

 第二に、超低金利の長期化で投資資金がより高いリターンを求め、ハイリスク商品へ流れやすくなることが挙げられる。不動産や株価が活気づくのは良いことだが、合理的水準を超えた価格上昇やリスク管理が甘い商品の増殖といった「資産バブル」は、過去に何度も痛い目に遭ったはずなのに絶えず繰り返される。

 市場流動性の欠如と資産バブルという二層構造は、市場の脆弱性を増幅する。米国では量的緩和の副作用として投資不適格のジャンク債やレバレッジドローン(信用力の低い企業向けの融資)市場でバブル気味の状況が生まれたが、昨年来の原油安でエネルギー関連企業への経営不安が強まり、一部社債やローンの投げ売りが出て価格が急落するという現象が起きている。

 米国では、金融規制強化の観点から投資銀行の自己ポジションに大きな制約がかかっていることも、流動性問題を深刻化させている。国債の低金利に引きずられるように他のリスク資産の利回りも低下しており、急激な反動が起きれば、リーマン・ショックほどではないにしても、資本市場の大混乱を呼び込み、好調な実体経済にまでその影響が及ぶことは否定できない。

 第三の問題は、長期金利が合理的水準から外れることで「市場シグナル」としての機能が低下し、政府の財政規律の緩みに対してブレーキが利かなくなったり、資本の適正配分ができなくなったりすることだ。市場機能の低下が商品開発や資産運用あるいは金融工学など「金融力」の衰退に拍車を掛ける恐れもある。

 第四に、銀行経営への悪影響が挙げられる。日本では、本業である貸し出しで総資金利ざやがマイナスとなる銀行が散見されるが、今3月期決算では恐らくその数はかなり増えるだろう。多くの邦銀は、国債などの証券運用でも内外で長短金利差が急縮小したために期間収益を満足にとれなくなっているはずだ。そんな逆風のなかで、経営基盤の脆弱な地銀が貸し出し意欲を失い始めている、との指摘もある。それは地方創生への大きな打撃となりかねない。

 もっとも、昨年来の原油価格の急低下が長期金利を混乱させていることは否定できない。日米欧中銀は、原油安の物価への影響は一時的で、むしろ長期的には経済成長にプラス材料となり、物価もいずれ上向くとの見方をとる。

 だが機関投資家の間では、米ハーバード大学のローレンス・サマーズ教授が指摘するような「世界経済は長期停滞の状態にある」との仮説を支持し、ディスインフレが長期化するシナリオを採用し始めたところも少なくない。昨今の世界的な景気減速感でそうした投資方針が広範囲に波及すれば、各国の長期金利が一層低下することもありうる。

 その将来像の最悪なパターンは、流動性を失った超低金利の国債が「リスクフリー資産」ではなく「リターンフリーのリスク資産」とみなされ、投機筋の売買対象に転落してしまうことだ。長期金利の急騰は為替や株価も乱高下させ、我々の日常生活を大きく揺さぶることになる。財政赤字の拡大だけが「国債リスク」の源泉ではないのである。

<ポイント>○日欧中心に中銀緩和が低金利の嵐を呼ぶ○取引減少で価格が振れやすくなる可能性○リスク資産に資金流れ市場が不安定化も

 くらつ・やすゆき 55年生まれ。東大経卒。旧東銀、チェース・マンハッタンを経て現職

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