2015/03/01 本日の日本経済新聞より「花粉症、コメを食べて抑制 抗原組み込み体が慣れる」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のサイエンス面にある「花粉症、コメを食べて抑制 抗原組み込み体が慣れる」です。

スギ花粉症治療米、シダトレンよりも劇的に楽な治療法として期待されますし、農業が治療の一端を担うのは非常に画期的な話です。





 コメを食べ続けるだけでスギ花粉症が治る時代がくるかもしれない。遺伝子組み換え技術を駆使して「スギ花粉症治療米」が開発され、動物実験で効果が確かめられたからだ。体がスギ花粉の抗原を異物とは認識しないようになり、アレルギー反応が起きなくなる。医薬品としてのコメの実現が近づいてきている。

 東京慈恵会医科大学で2月から花粉症治療米の臨床研究が始まった。まず、健康な人で安全性を確認する。その後、製薬会社などと組んで、治療効果を調べる臨床試験(治験)に移りたい考えだ。慈恵医大総合医科学研究センターの斎藤三郎部長らは、マウスを使った実験で安全性と有効性をすでに確認済みだ。

 治療米と普通の米を3週間食べさせた後、スギ花粉を与えた。治療米を食べたマウスはアレルギー反応を引き起こすヒスタミンという物質の量が半分以下に減り、くしゃみの回数も4分の1に減っていた。スギ花粉症を発症して苦しむサルでも実験した。花粉に対してアレルギー反応を起こす免疫反応が大幅に抑えられることを確かめた。

 この治療米を開発したのは農業生物資源研究所(生物研)の高野誠遺伝子組換え研究センター長らのグループだ。治療米の見た目は普通のコメと変わらない。スギ花粉症の原因となる抗原(アレルゲン)と呼ぶたんぱく質の構造を変えた遺伝子をコシヒカリに組み込んだ。コメの中にできるペプチドと呼ぶたんぱく質の断片は胃で分解されずに腸で吸収されるよう工夫している。構造を変えているため、アレルギー反応は起こらないとみられる。

 患者の体内に花粉が入り込むと、抗原の情報がヘルパーT細胞という免疫細胞に伝わる。さらにB細胞と呼ぶ別の免疫細胞に働きかけて、抗原にくっつくIgE抗体と呼ぶ物質をどんどん作らせる。IgE抗体は肥満細胞に結合する。その状態の肥満細胞に抗原がくっつくと、細胞の中にあるヒスタミンが放出され、くしゃみや鼻水、鼻づまりといったアレルギー反応を引き起こす。

 現在の花粉症治療はヒスタミンの働きを止める薬を服用するという対症療法が主流だ。治療米は一定期間食べ続けると、体が徐々にスギ花粉に慣れ、アレルギー反応が起きなくなるという。花粉が体内に入ってきても、異物と認識しなくなるからだ。

 生物研は以前、慈恵医大や日本製紙、サタケと共同で、スギ花粉症の症状を和らげる「緩和米」を開発していた。慈恵医大がこの緩和米を使って2013年12月から14年5月にかけて人で臨床研究を実施し、効果を確かめている。

 当初、緩和米を電子レンジで温めるだけのパックご飯にし、健康食品として実用化する計画だった。ところが、厚生労働省が07年に「治療を目的としており、薬事法に定める薬にあたる」と指摘し、プロジェクトは一時中断した。そこで、09年にさらに効果を高めた治療米として開発を再スタートした。

 治療米と緩和米の違いはコメに組み込んだペプチドにある。緩和米は抗原の主要な部分を7つつなぎ合わせたペプチドを使っているのに対し、治療米はスギ花粉症を引き起こす全ての抗原を含んでいる。このため、より多くの患者に効果が期待できる。

 パックご飯では、薬局などに置くときにかさばるという問題がある。このため、研究グループは治療米から有効成分だけを抽出したカプセルを作り、医薬品として製品化を目指すことも検討している。

 生物研はスギ花粉症だけでなく、様々な花粉やダニ、食物のアレルギーに効果が期待されるコメも開発した。このほか血液中のコレステロールや中性脂肪を減らしたり、血圧を下げたりするコメも手がけている。いずれも動物実験では、一定の効果があることを確かめた。

 医薬品として承認されるためには、人への臨床試験を実施し、副作用や効果を厳しく見極めなければならない。高野センター長は「コメを食べるだけで病気を治すことができれば、有効成分を抽出する精製コストがいらない分、安くできる。農業の活性化にも役立つだろう」と期待している。

(編集委員 西山彰彦)

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