2015/03/02 本日の日本経済新聞より「核心 ピケティさん、それはどうかな 日本への処方箋に違和感 本社コラムニスト 平田育夫」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「ピケティさん、それはどうかな 日本への処方箋に違和感 本社コラムニスト 平田育夫」です。





 日ごろ割り切れない思いを抱く人々の琴線に触れたのだろう。所得や資産の格差拡大をめぐる仏経済学者トマ・ピケティ教授の言説が関心を集めている。

 富める者はさらに富み、資本主義に任せれば格差が開く――。300年の統計に基づく分析は衝撃的だ。

 しかし格差是正へ教授が示す処方箋には、日本の実情にそぐわないものも少なくない。今後、この国でも影響力を増しそうな人だけにここはひと言あるべし。

 日本でも格差は広がり、軽視できない問題だ。だがひどい状態にある財政を再建しながら格差を縮める難しさがある。格差の原因も欧米と同じではない。日本の事情を踏まえつつピケティ説に耳を傾けたい。

 その著書「21世紀の資本」によれば、株式や貸家などへの投資の収益率は賃金の伸びより高い。だから資産家は勤労者を上回る速さで豊かになり格差が開く。また米国などで高い報酬を得る大企業経営者が台頭し格差をさらに広げている。

 そんな見立てに基づいて教授が標的とするのは「資産」と「高所得層」だ。

 ▼事業用を含む各種個人資産に毎年課税する「世界的な資本税」を導入する。

 これは各国の同意がないと困難。日本の経済成長のため極めて大切な投資に水を差す恐れもあろう。

 ▼所得税の最高税率を先進国は80%以上にするなど累進制(所得に応じ高い税率を適用)を強める。

 30年ほど前、米国や英国は経済活性化のため高所得層の所得税率を下げた。また米国では株式の売却で所得の大半を稼ぐ人もいるがその税率は富裕層で23.8%と低い。大富豪のウォーレン・バフェット氏が「私の税率は秘書より低い」と述べ話題を呼んだ。

 米国では上位1%の高所得層が今や国民所得の約2割を稼ぐ。その税負担を増やすのは格差是正に意味があるかもしれない。

 ひるがえって日本では1%の富裕層の取り分は1割弱だ。所得格差が開いた原因としては富裕層の増加よりも、長期不況や中国・韓国との競争、非正規社員の増加などで低所得者の割合が増えた影響が大きい。

 だから高所得層だけを増税しても税収の増加は限られ、貧困対策や社会保障に回す余裕もあまり出ない。

 むしろ日本では「中間層の人々を含めた負担増が欠かせない」と国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩氏は指摘する(本紙2月12日付「経済教室」)。この問題の核心だろう。

 日本の所得課税は給与年収が1千万円強までは欧米より軽いので、中間層の所得税増税も一案。だが所得把握の難しさも考えれば、まずは低所得者への本格的な負担緩和策を前提にした消費税の10%超への増税を考えるべきだ。中間層以上の負担を増し、財政再建と格差緩和につながる。

 一方、格差拡大で重みが増す社会保障を、財政難のなかでどう維持するのか。教授は4年前、自国の制度についてこう提案した。

 ▼社会保険税と所得税を統合し新税を創設する。

 そのミソは資産が生む所得からも効率的に財源を得られる点らしい。収入増を軸にした考え方のようだ。

 日本の場合は働き手が減って保険料収入は伸びないのに社会保障給付は年3兆~4兆円も増える。このため消費増税だけでは賄えず中高所得層中心に給付の抑制が重要になる。年金については所得が多めの受給者の所得税負担を増やし、増収分を年金財政に戻す手も。実質的な給付抑制だ。

 「所得の低い勤労者が社会保障を通じ豊かな高齢者をも支えているのは問題」と森信茂樹・中央大学教授。中間層を含め比較的余裕がある人すべてに、給付抑制中心の負担を求めざるを得ない。

 ピケティ氏はまた、賃上げによる成長促進を安倍政権に説く。だが……。

 ▼「政府は率先して公務員の賃金を上げるべきだ」(本紙2月1日付)

 これは驚きのご託宣。日本では人事院が民間給与を参考に公務員給与を勧告する。参考にするのは従業員50人以上の企業だけ。このため「公務員給与は高すぎる」との批判が根強い。

 フランスの学者に日本の人事院のやり方を知れというのも酷だが、財政難の折に進んで公務員の賃上げをという意見には戸惑う。

 氏は財政赤字や公的債務の膨張を我々ほど深刻にみていないようにも思える。

 ▼「物価上昇なしに公的債務を減らすのは難しい。(日本は)2~4%程度の物価上昇を恐れるべきではない。(昨年)4月の消費増税はいい決断とはいえず景気後退につながった」(本紙昨年12月22日付)

 著書によれば、一定規模以上の資産への一時的課税も債務軽減に有効という。反対に歳出の削減については、英国が19世紀に歳出削減を続けた結果、教育費が減り衰退につながった例をあげ、その弊害を説く。

 勤労者への影響を少なくという意図は分かるが、重い資産課税ともなれば資本は海外に逃げる。厳しい歳出削減や消費増税なしに債務問題は解決しない。

 日本は狭い道を進むしかない。税財政に頼らず、同一労働・同一賃金や、地方企業の経営改善、教育改革など所得の底上げにつながる政策も急ぐべきだ。

 格差拡大の原因をめぐる教授の研究は目新しいが、その是正策ではピケティ先生の教えをうのみにせず、国情を踏まえて考えたい。

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