2015/03/15 本日の日本経済新聞より「創論 物価目標2%を問い直す」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「物価目標2%を問い直す」です。





追加緩和で達成めざせ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員 片岡剛士氏

 日銀の異次元緩和(量的・質的金融緩和)開始から、もうすぐ2年。当初約束した「2年で2%の物価上昇」の実現はなお遠い。日本経済は再生へ歩みを進めているのか。緩和積極派の論客、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員、片岡剛士氏と、元日銀審議委員のキヤノングローバル戦略研究所特別顧問、須田美矢子氏に聞いた。

 ――物価上昇が遅れています。そもそもマネーの供給を増やせば物価が上がる、という効果は存在するのですか。

 「2013年は物価が順調に上昇し、予想どおりの効果が出た。金融機関の資産構成を変えるポートフォリオリバランス(資産組み替え)効果が円安・株高をもたらした。2%のインフレ目標をコミット(約束)し、マネーの増加ペースをその達成に見合うものに一気に引き上げたことで、期待インフレ率(先行きの物価見通し)も高まり、相乗効果を生んだ」

 「14年の消費増税が第一の誤算だ。デフレの罠(わな)から抜けきっていない状況では賃金もあまり上がらず、増税による物価の上昇や駆け込み需要の反動減が、経済に悪影響をもたらした。危機からの回復途上であるため、財政緊縮のダメージは非常に大きなものになってしまう。昨年10月に追加緩和をせざるを得ない状況に追い込まれた」

 ――原油安もインフレ目標の達成に強い逆風です。

 「第二の誤算だ。政権側からインフレ目標は1%でもよい、といった声も出ているが、物価が再び下がりそうな局面で、2%目標を見直すことには反対だ。黒田東彦総裁の責任問題に波及しないよう配慮している面があるのかもしれないが、逆に日銀の信用を毀損させてしまう」

 ――そもそも、2年程度という達成期限に無理があったのでないですか。

 「インフレ目標では中長期での達成を目指すのが通常だが、日本はまだ予想インフレ率が2%で安定しておらず、強いコミットメントで期待感を醸成するため、期限を2年程度に区切ったのだろう。重要なのは目標を決めたら、安定して達成するまでやりきること。達成は1年程度、遅れるかもしれない。しかし原油価格は一国の中央銀行に制御できるものではなく、かつ一時的な現象であるならば、2%目標は堅持すべきだ。その点の説明責任が求められる」

 ――追加的な金融緩和は必要になりますか。

 「一時的にせよ、物価がマイナスになるのであれば、実績に照らしてインフレ予想が形成される面も考えると、マイナスの影響が出る可能性はある。4月末といったタイミングで追加緩和に踏み切ることを期待している。株価指数連動型上場投資信託(ETF)の購入拡大など、質的な緩和の側面を強く打ち出すことが効果的だろう」

 ――緩和が長引くと政府と日銀の距離感が問われます。

 「政府と日銀は連携をさらに強めるべきだ。物価安定に向けた双方の責任を明確にするため、日銀法を改正し、共同宣言に法的根拠を持たせる。日銀法上の物価安定の定義を明確にし、雇用最大化の義務を明記する必要もある」

 「政府が問われるのは、財政健全化に向けた日程だ。17年4月に次の消費増税をすると宣言しており、いわば時限を決めた財政緊縮のコミットメントだ。日銀にとって、それまでに財政緊縮が可能な環境、そして緩和が出口に進めるような環境を整える必要があることを意味する。今の状況だとギリギリではないか。本来なら時限を定めず経済の改善を見極めるべきだろう」

 ――連携が強すぎると財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)が懸念されませんか。

 「実態的にはすでに財政ファイナンスになっている。禁じ手といわれるが、国の資源が十分に使われていないデフレ下なら、政府の財政赤字も、中銀による国債の買い入れを通じた通貨供給も許容される。インフレ下では禁じ手なのだ。その境目が、2%のインフレ目標を達成できるか否かになる」

 「いざ物価が上昇し始めると止まらなくなり、ハイパーインフレになるという批判もある。量的緩和の懐疑論者の最後の砦(とりで)ともいえる主張だが、精緻に検証された議論ではない。日銀は2%目標の達成後、かなり長い時間をかけて出口に向かうだろうから、長期金利は数年単位で徐々に上昇していく流れが想定される。金融システム不安が起きたり、金融政策運営に支障を来したりするような事態になるとは思えない

 ――黒田総裁は出口論に口を閉ざしたままです。

 「これからは真剣に議論する機会があってもいい。とくに財政・金融政策の連携を考えたとき、どんな日程で財政の健全化と日銀の緩和規模の縮小を進めていくべきか、政府と共同して議論する必要は出てくるだろう」

 かたおか・ごうし 慶大院修了。大規模な金融緩和によるデフレ脱却を主張し続けてきた。早大非常勤講師も務める。42歳。

導入2年 賞味期限切れ キヤノングローバル戦略研究所特別顧問 須田美矢子氏 実体経済への波及は疑問

 ――2年間の異次元緩和の効果をどう評価しますか。

 「円安と株高が起きたことは認める。1年目は円安の効果でコストプッシュ型の物価上昇が起きた。だが次のステップである実体経済への波及効果は疑問だ。物価上昇を強く宣言することによって期待インフレ率を制御できるとは思えない。マネーの量を拡大する効果も乏しい」

 ――消費増税がなければ、もっと実体経済への効果が出ていた、との声もあります。

 「消費の弱さは増税も一因だが、円安で生活にかかわるモノの値段が継続的に上がったことも、消費者心理を大きく悪化させたと考えている。さらに消費だけでなく、輸出も設備投資も停滞していた」

 「今回、マネーによる物価押し上げを主張する論者らが唱えた必要量を上回るマネーが供給されたのに、物価は十分に上がらなかった。海外では金融政策は万能薬ではないとの見方が広がり、中央銀行の間で財政刺激を求める声も上がっている。うまくいかなかった原因を消費増税に求めることは、海外と同様、金融政策の限界を認め、財政も大事だと言っているに等しい」

 ――20年デフレを打破するには思い切った措置も必要ではありませんか。

 「今の日本経済が『デフレ均衡』の状態なら必要だが、そうは思わない。デフレ均衡は人々がデフレになると思い、それが自己実現している状態だ。だが中長期の物価見通しを示すサーベイデータからは、物価の下落時でも、ならせば1%前後の上昇率で安定してきた様子もうかがえる」

 「問題は、潜在成長率が低いため、需給ギャップが縮小するのは早い半面、何かショックがあると、すぐに景気が失速してしまう点にある。物価の持続的な上昇を伴うような景気の良い状態は長続きしにくい。消費者も企業も、将来が見通せない不安感を抱えているからだろう」

 ――2年という期間を区切り、2%の物価上昇を目指す手法はどうみますか。

 「期限を区切って強硬なコミットメントで政策を進めると、物価至上主義になり、金融政策がそれに振り回されてしまう。その場合、コストプッシュ型の物価上昇しかないのだから、最終的な目標である物価安定のもとでの持続的な成長とは相いれない」

 「結果主義が極めて強い現状では、期待に働きかけるため、政策のコストを無視し、市場を驚かせるような大規模な政策を打ち続けなければならない。これでは市場との対話も成り立たない。将来の出口を見据えたときに、これでよいわけがない」

 ――対案はありますか。

 「導入から2年たち異次元緩和の賞味期限は切れたと思う。金融政策も漸進主義でいい。通常の先進国のように、超長期での実現を目指す柔軟なインフレ目標に変更すべきではないか。多くの国民は物価上昇を困ったことだと感じている。経済の体温が適度に上昇すれば、物価も上向いていく。賃金も上がるなかで、少しずつ物価の上昇を受け入れられるようになるよう時間をかけるべきだろう」

 「最大の懸念は、財政の節度が失われるなかで、日銀の国債購入が財政ファイナンスにつながり、物価上昇に弾みがついてしまう可能性だ。残念ながら、政府の財政健全化に向けた姿勢には疑念を持たざるを得ない。夏には財政健全化の計画をまとめるというが、現時点ではきちんとした内容になるとは思えない」

 ――2%のインフレ目標があれば、物価上昇もそこで止まるのではないですか。

 「本当に物価上昇を止められるかは分からない。マネーの量の効果は、インフレ率が高いほど出てくる。とくに財政の節度が失われると、将来の増税も想定されなくなり、人々はお金をどんどん使おうとする。物価上昇が2%を超えても、国債価格が急落していたら金融システムの安定のために国債を買い続けなければならない事態もありうる。円安、高金利、物価高の悪循環になるおそれは消えない」

 「一刻も早く出口に備えた議論を始めるべきだ。2%の物価上昇がみえてからでは遅すぎる。市場が先を織り込み、混乱を招く。まず2%のインフレ目標が達成したらゆっくりとでも出口に向かうことを確認する。財政ファイナンスはしないことをはっきりさせておき、財政健全化を促す意味もある。出口とは別に、様々なリスクに応じ、緩和の規模を縮小できることを明確にしておくのも重要だ」

 すだ・みやこ 東大院博士課程単位取得退学。学習院大教授を経て2001年から2期10年にわたり日銀審議委員に。66歳。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です