2015/03/20 本日の日本経済新聞より「企業の賃上げ広がる 好循環へ政府は改革を」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「企業の賃上げ広がる 好循環へ政府は改革を」です。





 2015年春の労使交渉では、政府からの強い要請を背景に、賃上げに踏み切る企業が大幅に増えた。ただ賃上げを持続させて景気の好循環を生み出すには、規制改革や貿易自由化など企業の生産性を高める環境づくりが欠かせない。宿題は政府側にもある。

 フラット化する実質賃金――。世界の先進各国で、名目賃金から物価上昇率を差し引いた実質賃金が伸び悩んでいる。

 国際労働機関(ILO)によると、13年の先進国の実質賃金(36カ国の加重平均)の上昇率は前年比でわずか0.2%。12年の0.1%より高まったものの、リーマン危機前に1%程度だった06~07年の水準から大きく下振れした。

 ユーロ危機で緊縮策を余儀なくされたギリシャやイタリア、スペインに加え、英国でも危機の後遺症が残る。「今こそ賃上げを」と産業界に協力を求めるキャメロン英首相の姿は、安倍晋三首相と重なる。

 日本はデフレに陥った1998年以降の過半の年で、賃金は名目、実質ともにマイナスだった。先進国で最も深刻な賃金デフレを経験してきたといえる。14年の1人当たりの名目賃金の水準は91年と同程度、実質賃金の水準は87年以来の低さだ。大げさに言えば、日本人は貧しくなった。

 しかしバブル崩壊からほぼ四半世紀を経て日本はようやく「過剰雇用と過剰設備を完全に解消して迎える初めての景気回復局面」(シティグループ証券の飯塚尚己氏)にある。完全失業率は3%台半ばと、需要不足が原因の失業がゼロという「完全雇用」に近い。

 労働需給の引き締まりが賃金上昇に点火すれば、家計の所得増を通じ個人消費が増え、需給ギャップが改善する。個人や企業が予想する物価上昇率も高まり、物価も持続的に上がりやすくなる。

 エコノミストが予測する15年度の名目経済成長率は2.8%と、24年ぶりの伸びだ。賃金デフレを脱却する先に、もう2度とデフレに後戻りしないところまで前進できるか。日本経済はそんな正常化への岐路に立つ。

 昨年を上回る今年の春季労使交渉の結果に胸をなで下ろしているのは、日銀の黒田東彦総裁ではないか。原油安で「2年で2%」という物価安定目標の達成が絶望視される中、賃金は脱デフレへの数少ない原動力だ。

 実質賃金は労働生産性、労働分配率、交易条件の3つに分解できる。原油安で交易条件が改善しているなか、仮に日銀が追加の金融緩和を実施して円安がさらに加速すれば、輸入物価が上昇して原油安の利点を相殺してしまうリスクがある。

 一方で、日銀が消費者物価の鈍化を放置していると金融市場で受け止められると、期待物価上昇率の低下を招きかねない。こんなジレンマを抱える日銀には慎重な手綱さばきが求められる。

 14年10~12月期の労働分配率は1990年代初頭以来の低水準にある。ただ、景気しだいで上下するのが労働分配率の常。持続的な賃金上昇には、労働生産性を高める不断の努力が要る。

 規制改革や貿易自由化の加速、法人実効税率のさらなる引き下げ。政府はこうした宿題を着実にこなし、日銀と力をあわせてデフレ脱却への仕上げをするときだ。

(編集委員 瀬能繁)

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