2015/03/23 本日の日本経済新聞より「低金利で世界の債務膨張 新興国中心に波乱の芽 本社コラムニスト 脇祐三」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「低金利で世界の債務膨張 新興国中心に波乱の芽 本社コラムニスト 脇祐三」です。





 世界の借金が増え続けている。空前の超低金利が当たり前になり、利払いの負担が少ないうちに資金を調達しようとする借り手が多いから、借金の増加にブレーキがかからない。

 欧州中央銀行(ECB)はユーロ圏がデフレに陥るのを避けるため、量的緩和政策に踏み切った。これに伴って、ドイツなど一部の国では、償還までの期間が短い国債の利回りがマイナスになっている。残存期間10年の国債の利回りも、日本、ドイツ、フランスなどで1%をはるかに下回る。

 こうした状況下で投資家は信用力の低い国や企業の債券にも資金を振り向け、投資収益を確保しようとする。だから、低格付けの債券の利率も下がる。利回りを追求する投資家の需要も借金膨張の背景にある。

 国際的なコンサルタント会社、マッキンゼーの調査部門が2月に発表したリポートによると、2000年に世界の国内総生産(GDP)の2.46倍、リーマン・ショックの前年の07年に2.69倍だった債務は、昨年2.86倍の規模まで拡大した。07年から57兆ドル規模で借金が増えたという。

 リーマン・ショック後に多くの国が財政出動を迫られた。低金利で足元の利払い負担は比較的小さいものの、先進国の政府の借金の規模は拡大し、財政健全化が共通の課題になった。

 財政破綻後のギリシャのように、緊縮政策の徹底に政治が耐えられず、反緊縮を叫ぶポピュリズム政党が政権を握った国もある。国の借金が、地政学リスクにもつながる。そんな時代の到来だろうか。

 アジアでは、経済成長が減速する中で企業や家計の債務が膨張していることに注目すべきだ。

 今月、タイと韓国は相次いで政策金利を引き下げた。両国に共通するのは、家計の借金の重圧が深刻で、構造的な消費低迷につながっていることだ。

 タイではタクシン、インラック政権時代に農村の所得拡大策を進めた。初めて自動車を買う際の税金割り戻しなどで消費が盛り上がった半面、ローンが急増し借金漬けの人も増えた。家計の支出が収入を上回り、高利貸しに頼る例も多い。

 昨年のクーデターで政権に就いたプラユット暫定首相は「借金を控えよう。過大な借金は経済発展を鈍らせる」と国民に訴えている。

 韓国では、住宅ローンと教育費の負担が重い。リーマン・ショック後には賃金の抑制が目立つ中で住宅価格が下落に転じ、担保率の関係でローンの元本の繰り上げ返済を迫られるなど家計の債務の重圧が増した。

 今回の利下げで韓国の政策金利は1.75%まで下がった。一部で住宅価格が回復する兆しも見えるが、高齢化が急進展する一方で年金給付が乏しいといった問題もあり、借金は簡単には軽くならない。

 タイ、韓国、マレーシアなどの家計では、所得に対する債務の比率が高いだけでなく、07年以降にこの比率が一段と上昇している。持続可能か要注意だ――。マッキンゼーのリポートはそう指摘している。

 中国の場合、大きな問題は企業の借金急増と簿外も含めた地方政府の債務だ。

 米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズによると、中国企業の債務は13年に14兆ドル規模を超え、米企業の債務を上回って国別で世界最大になった。不動産、建設、建設資材の企業の債務が銀行以外の上場企業の債務の約3割を占め、鉄鋼・金属など素材産業も大きな借り手だ。

 住宅価格の下落が続き、不動産バブル崩壊の兆しが広がる。素材産業では過剰設備の問題が深刻だ。リーマン・ショック後に中国は巨額の開発投資と設備投資によって景気を支えたが、それは債務の膨張と表裏一体だった。2桁成長の時代が終わって顕在化したのは、過大な借金である。

 李克強首相は、債務を適切に管理し、企業の借金依存を引き下げ、金融危機の発生を防ぐと強調する。

 中国ではこれまで、金利を規制し低コストで集めた預金を事実上の補助金として非効率な国有企業に投じ続け、過剰設備と過大な債務の問題を生んできた。

 中央銀行である中国人民銀行が今月打ち出した金利自由化の方針は、地方政府の財政の透明性を高める地方債発行制度の拡充とあわせ、改革の重要な一歩と位置づけられる。

 ただし、足元では雇用の問題もからみ、投資主導の景気下支えへの期待も根強い。構造転換は一朝一夕には進まないだろう。

 中国をはじめ新興国企業のドル建て債務が急増していることにも、注目する必要がある。大口の借り手として特に目立つのは、石油・ガス関連企業だ。量的緩和政策を終えた米国が利上げに向かう一方、原油など資源価格が大幅に下落した影響は無視できない。

 アジア開発銀行は、ドル高・自国通貨安による返済コストの増加、借金依存度の大きい資源開発企業の財務の悪化などのリスクを指摘している。

 米国でも石油開発関連を中心に高利回り債券への警戒感が広がったが、今年に入って発行は持ち直している。その一因は、欧州の社債の利回りが極端に下がってきたので、投資資金が米国の社債に向かうという読みだ。利回り追求のニーズがある限り借金は可能という市場の空気は、ある種の危うさもはらむ。

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