2015/03/25 本日の日本経済新聞より「中国習近平体制の行方(上) 協調・強硬外交方針に矛盾 宮本雄二 元駐中国大使」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「中国習近平体制の行方(上) 協調・強硬外交方針に矛盾 宮本雄二 元駐中国大使」です。





 中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)の全体会議が15日に閉会した。全人代の位置づけは日本の国会とは根本的に異なる。中国は「共産党が(すべてを)指導する国」である(図参照)。党が方針を決め、立法、司法、行政などの国家機関が実施する仕組みとなっている。しかも各機関には党組織があり、指導者は原則、全員が党員である。全人代での討議も、あくまでもその仕組みに沿ったものとならざるを得ない。

 この仕組みでは党のトップに権力が集中しないと、ものごとは決められないし、決めても前に進まない。2012年11月に成立した習近平政権は、まずトップへの権力集中(腐敗問題の処理)と党の方針確定にエネルギーを集中させざるを得なかった。その間、国務院(行政)と全人代(立法)はあまり大きな役割を果たさなかった。

 腐敗問題を利用した習主席への権力集中も進み、政権はこの2年でかなり力をつけてきた。いよいよ立法府と行政府による党の方針の具体化の段階に入る。つまり構造改革であり、李克強首相の今年の政府活動報告は経済体制改革に重点を置き改革を全面的に深化させるとうたった。それを法治国家の建設、すなわち法律で制度と仕組みを作り、その実施も法律で縛り、監督も法律に従うことにした。

 報告は「発展」の重要性を昨年以上に強く打ち出した。発展の速度は合理的なものであるべきだと断った上で「中進国の罠(わな)」を克服するには発展に頼るしかないと明記している。そこには本年の経済成長は昨年よりも難しくなったという判断がある。成長率見込みも昨年の7.5%前後から7%前後に引き下げた。それ故に改革をもっと進め、持続的な成長を確実なものにしなければならないという報告の結論になる。

 この基本認識は重要である。グローバル経済の下での経済成長、つまり発展をはかろうとすれば、安定した協調的な国際関係が不可欠になるからだ。李首相は、記者会見では「中国は発展を第一の重要な任務としており、平和な国際環境を必要とする」と、明確に述べている。

 筆者は13年12月26日付の本欄で、中国の改革派は、ほぼ国際協調派と重なり、日本は改革派と連携し、中国の国際協調路線を定着させるべきだと論じた。同年10月の周辺国外交座談会における習講話を踏まえての結論であった。昨年11月開催の対外工作会議での習講話により、この路線は再確認され、補強された。

 1つ目のポイントは、協力・ウィンウィンを中核とする新しい型の国際関係の構築である。これは経済発展を強く意識した方針でもある。

 2点目は、中国式価値観の提起である。「義利観」(『大学』には「国、利を以=もっ=て利と為さずして、義を以て利と為す」とある)外交を唱えており、これは周辺国外交の理念として打ち出された親善、誠実、互恵、包容の理念とも重なる。中国外交が価値観、それも伝統的価値観を口にし始めたということであり、注目される。

 問題は、中国のやることと言うことが違うではないかという点である。孟子は「力を以て仁を仮る者は覇なり」と言った。口で立派なことを言っても力で自分の意思を押しつけるのは覇道なのだ。

 3点目が新しい型の大国関係の推進と構築である。もともと既存の覇権国である米国と台頭する中国との不可避的な衝突を避けるために考え出され、現時点の内容は互いの核心的利益は尊重し合うという段階にとどまる。そして最後に、領土、主権、発展の利益を断固として擁護するという、おなじみとなった核心的利益外交がある。そして平和を強調し、紛争や問題を適切に処理することにも言及している。

 こうしたなかで軍事費の増大は続き、15年の軍事予算は前年比10.1%増となった。確かに国内総生産(GDP)比では米国やロシアよりは低い。予算全体の増加率と同じというのも、そうであろう。だが、何のためにその軍事力を使うかについては、依然としてはっきりしない。

 現代軍事理論は、脅威認識があり、それに対処するための戦略と戦術があり、それを支える兵器体系と部隊構成がある。民主主義国家では、まず国民にそのことを説明している。ところが中国ではここが曖昧なままなのだ。すでに日本の2倍をはるかに超えた軍事費の急速な増大と半ば無意識に顔を出す米国への対抗意識を考慮すれば、中国脅威論が消えることはない。そして強い軍隊は、ナショナリズムの象徴であり、対外強硬姿勢の強い支援者となるのだ。

 これらの総体が現時点における習外交である。まだ生成の途上にあるとみておいた方がよいであろう。特に価値観外交においては、そうだ。基本は、経済に重点を置いて協調的な姿勢に転じるが、必要な場合には強い姿勢をとることにちゅうちょしないし、そのために軍事力も増やしていくということになる。

 この図式では、経済の下振れが強まれば強まるほど、協調的な対外姿勢が求められる。だが経済が想定以上に下振れすれば、国民の不満は増大し、ナショナリズムは高まりやすく、それは対外強硬姿勢となる。中国外交の抱える根本的な矛盾は残されたままなのだ。

 中国の対日方針の基本もこの大きな枠組みのなかで、ほぼ固まった。基本は、日本との関係を改善するということだ。だが、日本の中国外交における位置づけは低下し、経済的な重要性も下がってきていることは、冷静に認識しておく必要がある。中国においても対日関係改善の動機づけは弱まっているのだ。

 このような状況のなかで、昨年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際、日中首脳会談が実現した。その後、日中関係は前に進むはずだったのだが、戦後70周年の首相談話が出されることになり、中国側は警戒心を強めている。

 同時に中国を戦後世界秩序の擁護者として売り込み、日本を秩序への挑戦者として描き、安倍晋三首相への圧力を強めている。中国が、わざわざ世界反ファシズム戦争勝利70周年と銘打って国際的に大々的にやろうとしているのも、そのためだろう。

 だが、どうもピンとこない。反ファシズム戦争の本質は、全体主義に対する民主主義と普遍的価値の擁護であった。戦後秩序の根幹をなすものはこの理念にあるのであり、これを一貫して支持してきたのは日本であって中国ではない。この関連で軍事パレードまで登場させるのは、国威の発揚と習体制の安定ぶりを内外に誇示すること以外の理由を見いだせない。中国が本気で対日関係を改善させようとしているのか、日本側にも疑念はあるのだ。

 このように双方の疑心暗鬼はまだ続いている。だから両国政府は、自信を持って前に進めないでいるように感じられる。だが安定した日中の協力関係が世界の平和と発展に欠かせないことは、ますますはっきりしてきた。両国首脳は、まず相手の信頼を得るように行動すべきだ。そして、できるだけ早く再度会談し、昨年の4項目の了解事項を踏まえ日中関係を前に進める明確な意思を示すべきである。

〈ポイント〉○成長鈍化踏まえ基本戦略は対外協調路線○一方で下振れ時には強硬姿勢強まる矛盾○日中はなお疑心暗鬼続き相互信頼が急務

 みやもと・ゆうじ 46年生まれ。京大法卒。外務省に入り06~10年駐中国大使

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