2015/03/26 本日の日本経済新聞より「経済教室 中国 習近平体制の行方(中) 資本の「純輸出国」に定着へ 梶谷懐 神戸大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「中国 習近平体制の行方(中) 資本の「純輸出国」に定着へ 梶谷懐 神戸大学教授」です。





 中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の第3回会議が今月、北京で開かれた。李克強首相の政府活動報告では経済が「新常態」と表現される安定的成長段階に入ったことが強調され、成長率目標を前年までの年率7.5%前後から7%前後に引き下げることが表明された。

 では「新常態」を迎えた中国経済は具体的にどのような構造変化を遂げつつあるのだろうか。ここでは、中国が「資本の純輸出国」に変化しつつあることを示す一連の動きに注目しつつ、経済の中長期的な変化の方向性とその影響について考えたい。

 まず、外貨管理局が公表した国際収支勘定で、2014年10~12月期の直接投資を含む資本収支が912億ドルの赤字を示した(図参照)。同時期の直接投資は610億ドルの黒字なので、より投機性の高い証券投資などの形で1500億ドル以上の資本流出が生じたことになる。これは統計開始以降で最大規模である。こうした資本収支の赤字化を映し、外貨準備も14年全体で1188億ドルの減少をみせた。

 15年以降も、その流れが続いていることを示唆するのが、人民元の対ドル相場の下落である。3月3日の上海外国為替市場では一時1ドル=6.276元まで下落し、約2年5カ月ぶりの安値となった。

 ただし、これは市場ではすでに織り込み済みであった。元の1年物の対ドル先物レートは昨年12月に急落し、1ドル=6.35元から6.4元前後の水準で推移していたからである。このような元の対ドルレートの急落は、元を売ってドルを買う、すなわち資本の対外流出が大規模に起きていることと対応している。

 このような資本収支の動きとセットで理解すべきなのが、2月末に中国人民銀行(中央銀行)が昨年11月に次ぐ利下げを公表したことである。政策金利である預金基準金利(1年物)を0.25%引き下げ2.5%、貸出基準金利も0.25%下げ5.35%にすると発表した。同時に預金金利の上限が基準金利の1.2倍から1.3倍に引き上げられるなど、金利の自由化に向けた方向性が明らかにされた。

 利下げは不動産価格の下落に象徴される景気の下支えを狙ったものだが、同時に人民元の対ドルレートの下落に対し過度の介入はしないという人民銀の姿勢を示したものでもある。もし人民銀が元の下落を食い止めるために元買い介入を行ったとすると、市中から元を引き揚げる引き締め効果を持ってしまうため、利下げや準備率引き下げの効果が相殺されてしまうからだ。

 さて、このような中国からの急速な資本の流出、それに伴う資本収支の赤字化の背景は、一時的な現象ではなく、以下のような中国国内およびそれを取り巻く世界経済の中長期的な変化を反映したものだと考えられる。

 まず指摘しておきたいのが、対外資本投資および外貨取引を行う主体に変化がみられる点だ。それまで、人民元と外貨との取引は、QFII(適格外国機関投資家=政府の認可を経た海外の金融機関)によるものか、外貨を日常的に取り扱う貿易会社が為替動向をにらみ、決済時期を早めたり遅らせたりして手持ちの外貨と人民元の比率を調整する「リーズ・アンド・ラグズ」が主流であった。

 しかし、人民銀が2月15日に公表した「2014年中国クロスボーダー資金流動観測報告」は、「蔵匯於民(外貨が民間に保有される)」との言葉で表現される国内の外貨保有主体の多様化が、急速に進んでいると指摘する。

 背景には、中国政府が上海自由貿易試験区の創設などを通じて進めてきた人民元のクロスボーダー取引および資本投資に関する規制緩和の影響がある。この流れの延長線上に、昨年11月に始まった、上海と香港の株式市場を相互乗り入れする「滬港通(『滬』は上海を意味する)」が位置づけられる。また、深圳と香港の株式市場の相互乗り入れを行う「深港通」も検討段階に入っている。

 「滬港通」や「深港通」を通じた取引に参加するのにあたり、事前審査は不要である。制度が整備されることによって、今後ますます多様な民間企業や個人が対外証券投資や外貨取引の主体になっていくと考えられる。

 次に指摘できるのが、グローバル経済での資金の流れの変化である。リーマン・ショック以降、3回にわたって行われた米国の量的金融緩和(QE)の影響を受け、中国などには、投資資金の国内流入が生じていた。その米国のQEも昨年10月に終了したことで、米国内への資金の還流が急速に進みつつある。

 3つ目の大きな変化は、海外への積極的な資本投資と、それに伴う輸出の拡大を新たな成長エンジンにするという政府の発展戦略の転換である。それを象徴するのが、中国から中央アジアを経由して欧州に至る地域でのインフラ建設を掲げた「シルクロード経済ベルト」構想や、それを資金面で支える「中国版マーシャルプラン」である。

 今回の全人代における政府活動報告でも、「シルクロード経済ベルト」に「海のシルクロード」を合わせた「一帯一路」戦略の推進が強調された。これに合わせて、中国企業の海外進出(「走出去」)を促進させるための手続きを簡素化するという方針も明らかにされた。

 これら3つの動きはいずれも一時的な動きとは考えにくく、中国から海外への資本投資の流れは今後も拡大していくものと考えられる。また中国政府も、これまで米国債がほとんどを占め、収益率の低かった外貨準備が減少することを、基本的に歓迎していると考えられる。

 もっとも、海外への資金の流れは、中国国内の金融改革の動向にも大きく左右される。その意味で、3月12日に人民銀の周小川総裁が、預金保険制度を15年の上半期には正式に発足させ、年内に預金金利の上限規制を撤廃すると明言したことは非常に重要な意味を持つ。

 預金金利の自由化は、13年の中国共産党中央委員会第3回全体会議(3中全会)当時から重要課題として挙げられていたが、これまで具体的な進展がみられなかった。中国主導のアジアインフラ投資銀行に欧州諸国が相次いで参加を表明し、国際金融機関として本格的な始動が予想される現状からみても、政府は投資資金の移動の自由化を促進する金利の自由化に本気で取り組む公算が大きい。

 ただし、懸念材料もある。現在中国政府が取り組んでいる「新型都市化」の推進は、国内のインフラなどへの投資拡大を必要とする。したがって、海外に資本を輸出し、国内財の輸出拡大を図るものである「一帯一路」戦略との間に、「資金の奪い合い」が生じる可能性がある。また、国内の過剰な生産能力の「はけ口」を海外に求めることで、本来淘汰されるべき企業が延命し、生産効率性の低下をもたらすと警告する声もある。

 いずれにせよ、これまで外国からの投資を受け入れて成長してきた中国が資本の純輸出国へと転じることは世界、とりわけ東アジアの経済情勢に少なからぬインパクトを与えることが予想される。例えば昨年の後半から米国の不動産市場に中国人投資家の資金が流れ込んでいる、という報道が目に付くようになった。今後も、中国国内からあふれ出た投機的な資金が日本を含む世界の不動産・資本市場のかく乱要因となることは十分考えられる。

 必ずしも透明性の高くないチャイナマネーの動向を見極めるためには、今後の中国国内の金融改革の進捗状況に加え、都市化政策の進展など成長戦略との兼ね合いにも、絶えず目を配っておく必要があるだろう。

〈ポイント〉○国際収支は資本の大規模な海外流出示す○輸出拡大を軸とする発展戦略転換も背景○国内投資の財源や安易な輸出傾斜に不安

 かじたに・かい 70年生まれ。神戸大博士(経済学)。専門は現代中国経済

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