2015/03/27 本日の日本経済新聞より「経済教室 中国 習近平体制の行方(下) 環境対策、後発利益生かせ 周●(たまへんに韋)生 立命館大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「中国 習近平体制の行方(下) 環境対策、後発利益生かせ 周●(たまへんに韋)生 立命館大学教授」です。





 過去30年に及ぶ2桁ペースでの経済成長は、中国を名目上、米国に次ぐ第2の経済大国に変貌させた。しかし、成長至上主義の姿勢は、国内の大気、水、土壌、生態系に甚大な被害をもたらした。

 2015年の全国人民代表大会(全人代)では、これまでの高速成長から脱却し、持続可能な安定成長への転換を図ろうとする新常態(ニューノーマル)化が提起された。潜在的には様々な「内憂外患」を抱えるなかでも、「小康社会(ややゆとりのある社会)」の全面実現には環境問題が大きなボトルネックとなる。

 今回の全人代は、環境政策(あるいは経済の持続可能性)という観点からみた場合、2つの特徴が挙げられる。

 第一に、全面的に法制(法治)強化による環境保全効果の向上を打ち出したことである。今年1月、25年ぶりに改定された新「環境保護法」が施行された。李克強首相は全人代で「関連法規に違反する企業に対しては、どんな企業であろうと法に基づき責任を追及していく」と明言している。

 同法は中国史上最も厳しい環境法制といわれる。違反企業(汚染者)への罰金の上限をなくし、当局に工場閉鎖など法執行の権限を持たせた。監督管理を逃れて汚染物質を排出した場合には行政罰として拘留される。地方政府には深刻な大気・水質汚染が発生した際に警報を発令するなどの緊急措置を義務付けた。

 第二に、成長減速を容認する中国経済の「新常態」の下で、環境保護自体も経済成長をけん引する重要な推進力にすることである。環境規制と環境投資を両輪に、環境改善を図りつつ、経済発展をけん引することを期待している。

 第12次5カ年計画(11~15年)の環境分野への投資額は3.1兆元(約59兆円)と見込み、第11次計画(06~10年)の1.54兆元から急拡大した。清華大学学長から抜てきされた新環境保護相の陳吉寧氏は今後数年で環境分野への投資必要額が8兆~10兆元(約150兆~190兆円)に上るとの見方を示した。

 日本を含めた先進国は、経済発展、公害問題、そして地球温暖化といった環境問題を順番に経験してきた。中国の難しさは、3つの課題に同時に直面していることである。大気汚染だけでなく、もっと深刻な問題も抱える。水質汚濁、土壌汚染(重金属汚染など)、生態系破壊(黄砂、砂漠化など)といった、中国、ひいては人類の生存の根幹に関わる問題であり、回復には膨大な資金や人力、資源と時間がかかるとみられる。

 しかし、公害問題への対処は、すでに多くの先進国の失敗と成功の経験を参考にできる。例えば、60年前のロンドンは先発者として技術と政策的ノウハウが皆無の状態にあった一方、現在の中国は、多くの後発者利益を活用できるはずである。

 環境産業は「農業」「福祉」と並び21世紀の成長産業といわれる。日本企業の中国市場への進出を考える場合、現在最も有望と思われるのが、環境ビジネスである。

 例えば、07年の中国の年間火力発電量は2兆7229億キロワット時。05年の日本と中国の石炭火力発電の平均発電効率はそれぞれ43%と32%である。中国の石炭火力の発電効率を日本並みの効率まで向上できれば、二酸化炭素(CO2)削減量は7.1億トンに及ぶ。これは、日本のCO2排出量(11年度に11.7億トン)の約6割分に相当する。

 すなわち、火力発電分野での技術向上だけで中国の潜在的なCO2削減量は日本全体の排出量の半分を超える。実現すれば、中国の石炭消費量や大気汚染物質の削減、経済性の向上だけでなく、技術協力を通じて日本の産業振興と経済成長などに大いに寄与できるものと考えられる。

 では、日本も含めた国際的な環境協力には何が重要なのか。ここでは、モデル事業の構築について論じたい。

 対中環境協力を、すべての地域や分野で展開するのは不可能である。拠点となるような地域、施設を設け、そこに資源を集中して確固たる「点」をつくり、そこから「面」へと展開するような協力が効果的と考える。目に見える、手で触れる、模倣できる環境モデル事業である。環境協力効果の「見える化」は、今後の国際協力のポイントの一つになると考える。

 具体的には「東アジア低炭素共同体」構想の実現を提言したい。日本はすでに世界最高の省エネ・高効率化を達成しており、CO2を一層削減するにはコストが高く、劇的削減は不可能である。一方、CO2排出大国である中国は潜在的な削減可能量が大きく、費用対効果が高いが、自助努力に限界がある。

 そこで、革新的な技術の開発と適正な技術の移転、経済と社会システムの変革及び戦略的革新による、国境を越えた広域低炭素社会の実現が課題となる。筆者は、日中韓3カ国の協力を中心とする「東アジア低炭素共同体」に向け、中長期的に協力を進めていくべきだと考えている。

 広域循環経済圏の形成、すなわち、日中韓による循環経済モデル基地事業の推進も重要である。グローバルな規模で資源利用の最大化と廃棄物排出の最小化を実現するため、小循環(企業レベル)、中循環(地域レベル)、大循環(広域社会・国際レベル)という3つの循環経済の理念を念頭に置く必要がある。

 同モデル基地は、グリーン経済や気候変動などへの対応の必要性が増すなかにあって日中韓サミットで提案された連携事業であり、エコ、循環、低炭素などを主要な内容とする国際レベルの互恵補完型広域循環モデルの構築を目的とする。候補地は大連・庄河市が指定されている。

 経済と環境を統合する国際互恵補完型モデルのデザインにあたり重要なのは、まずローカル環境対策とグローバル環境対策の統合である。

 環境問題はグローバル対応の一方で、ローカルな生活の場から取り組まなければ実が上がらない。地道で着実な積み重ねが大事になる。特に低炭素社会実現にあたり、途上国に参加を促すには、生活に密着したローカル対策への支援が重要な視点となる。

 次に、市場メカニズムの技術移転への活用である。グローバル化された経済体制の下では、国際競争力こそが、企業存続の基本条件である。技術は民間企業が所有しているため、技術移転は移転国側の国際競争力の低下、産業・技術の空洞化を招きかねないと危惧されている。

 途上国の知的財産権の適切な保護の欠如、技術移転を促進する制度と資金メカニズムの欠如、技術移転・消化を促進するシステムの不備など、技術移転を阻害する要因が多くあり、進展を妨げているといわれる。したがって、技術移転を促進し、また移転された技術を効率よく活用するためには、市場経済メカニズムをより活用すべきである。

 さらに、先進国と途上国の利益の共有化である。CO2や硫黄酸化物(SOx)など環境汚染物質の削減効果のほかに、市場ニーズと双方の経済的な収益を踏まえ、プロジェクトを選定し、そこで得られた経済利益と環境利益を双方で共有化する。

 この方式では、先進国の技術移転によるリスクと、途上国側の技術移転のための資金負担がともに軽減されるため、旧型・老朽化した火力発電所などエネルギー多消費分野の効率的な改造が可能となる。結果として先進国側にも多くのビジネスチャンスを与えることになる。日中は技術移転を促すための人材確保や資金面での促進措置など、一定の政策インセンティブを推進する必要があるだろう。

〈ポイント〉

○「新常態」へ環境対策も経済のけん引役に

○環境モデル事業を国際協力の柱に据えよ

○技術移転の促進や利益の共有化がカギに

 しゅう・いせい 60年、中国生まれ。京都大工学博士。専門はエネルギー環境政策学

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