2015/03/29 本日の日本経済新聞より「風見鶏 握手が示す外交と内政 編集委員 佐藤賢」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「握手が示す外交と内政 編集委員 佐藤賢」です。

外交の場での握手は内政を見据えた上で行うかどうか判断される、そういう記事です。





 人と会った時や別れ際に握手をする習慣はいつからあったのだろう。紀元前5世紀ころとみられる古代ギリシャ時代の彫刻には、握手する姿が描かれている。中国でも「握手」の漢字を使う。後漢(西暦25~220年)の歴史を記した『東観漢記』に「握手」の文言が出てくる。握手の起源には諸説あるが、武器を持っていないことを示すためだったとされる。

 政治家や外交官を取材するようになって感じたのは、やたらと握手を交わす人たちだな、ということだ。政治家は自分を売り込み、選挙の票集めにつなげる効果を見込む。外交官は相手に親近感を抱いてもらい、率直に話し合える人間関係をつくる狙いがある。

 21日、ソウルで開いた日本、中国、韓国3カ国の外相会談をテレビで見ていてあれっと思ったのは、冒頭で握手する場面だった。

 3カ国の代表が握手する場合、みんなで両手を重ね合わせるのが普通だ。しかし今回は、真ん中に立った議長国、韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が左手は岸田文雄外相、右手は中国の王毅外相とそれぞれ握手したが、岸田外相と王外相は手を重ねていない。王外相は尹外相の手を握るとすぐに報道陣の方を向き、岸田外相は一瞬、戸惑いの表情を見せた。

 王外相は会談の帰り際には岸田外相と握手した。なぜ冒頭のカメラの前では握手しなかったのか。

 歴史問題などの火種を抱える日本と和やかなムードを醸し出すと、中国内から「弱腰」との批判が相次ぐため握手する姿を見せなかった、と外交筋は解説する。対日関係は改善に向かうが、世論を刺激しやすい敏感で内政に直結するテーマだ。「大国」を標榜する中国なのに、あえて握手しなかったのなら大人げない。

 2014年11月の安倍晋三首相と中国の習近平国家主席の会談を思い出した。「首脳会談に応じるのはいいが、安倍首相と握手すべきでない」。あの時も中国の多くのシンクタンクなどが内部報告で習主席側にこんな提言を出した。握手はしたものの、笑みのない仏頂面を貫いた習主席の視線は国内に向いていた。

 中国外務省の幹部は「外交官だけで外交ができる時代は終わり、世論を見ないといけない」と語る。いま最も気掛かりなのは、安倍首相が夏に発表する戦後70年談話で「かつての戦争でそれぞれの家族に被害者がいる。安倍首相が『侵略』を認めて謝罪しないと、国民感情は反発する」とけん制する。

 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は慰安婦問題で日本ともめている。大統領になってから安倍首相と初めて直接会話したのは、13年9月にロシアのサンクトペテルブルクで開いた20カ国・地域(G20)首脳会議での立ち話だった。実は2人は握手を交わしたが、韓国側の要請で握手した事実は公にされなかった。

 14年3月、朴大統領はオランダでの日米韓首脳会談の冒頭の写真撮影で、カメラマンから「握手をしてください」と言われたが、応じなかった。会談が終わった後に安倍首相と握手した写真を見ると、仲を取り持ったオバマ米大統領が笑いもせず、黙って朴大統領を見つめている。

 「外交は内政の延長」とよく言われる。共産党の一党支配体制の維持が最重要課題の中国は外交より内政の論理を優先する。韓国の大統領も支持率をにらんで内向きになりがちだ。安倍首相にとって本来は内政のテーマである歴史認識の問題は、今年の外交の大きな変数になっている。外交と内政の連関は深まり、一体化している。

(編集委員 佐藤賢)

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