2015/03/30 本日の日本経済新聞より「検証・異次元緩和2年(上) 円安・株高定着 大きな成果 企業収益・雇用が改善 北坂真一 同志社大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「検証・異次元緩和2年(上) 円安・株高定着 大きな成果 企業収益・雇用が改善 北坂真一 同志社大学教授」です。





 黒田東彦氏が日銀総裁に就任し、量的・質的金融緩和が導入されて約2年が経過した。政策効果を検証し、今後の課題を明らかにしたい。

 緩和策は(1)2%の消費者物価上昇率の2年程度での実現(2)マネタリーベース(資金供給量)や長期国債、株価指数連動型上場投資信託(ETF)の保有額を2年で2倍に拡大(3)長期国債買い入れの平均残存期間を2倍以上の7年程度へ延長――からなる。昨年10月には追加緩和策として資金供給増額と国債やETFなどの保有残高増加ペースの3倍への拡大や国債残存期間の10年程度への延長が示された。

 この間、日本経済に生じた顕著な特徴として円安と株高がある。一般には金融緩和で資産価格が刺激されたとみられているが、図は円安・株高が緩和導入前の2012年秋、衆院解散前後から始まっていたことを示す。緩和が2年以上にわたる円安・株高の契機になったとはいえない。

 12年秋の円安と株高はヘッジファンドに代表される投機的な海外投資家が、金融緩和によるデフレ解消を主張する安倍晋三政権の誕生と、その後の大規模緩和を見越し、円売りと株買いに動いた結果とみられている。

 理論的には、ゼロ金利下で金融緩和が円安をもたらすとは限らず、実際に過去には量的緩和でも円安とならない期間があった。しかし、安倍政権誕生の前後から市場は大胆な緩和と円安を見越して行動するようになった。ここで国内投資家と異なりデフレマインドの弱い海外投資家の行動がてこになり、日本の資産市場が動いたことは興味深い。

 このことは、円安・株高は日銀の金融政策の結果というよりも、緩和を強硬に求める政権の姿勢が市場参加者の期待を動かしたことを示唆する。もともと多くの研究により、金融政策の効果には非対称性があり、金融引き締めは景気過熱やインフレの抑制に効果的だが、金融緩和単独の景気刺激効果は不確実で弱いことが指摘されている。

 しかし、こうした見方は量的・質的金融緩和の価値を減じるものではない。安倍政権が誕生しても、物価安定目標や大規模な緩和がなかったとすればどうだろうか。投資家の期待は裏切られ、円安・株高が一時的な現象に終わったことは容易に想像できる。すなわち、過去2年以上にわたる大幅な円安・株高は政権主導であり、金融緩和は後追い的であったものの、資産価格の適切な水準への調整に必須の政策だったと評価できる。

 具体的に緩和の中身をみると、物価目標への2年程度での実現という期限の明示やマネタリーベースの2倍増という目標設定は、強いコミットメント(約束)で人々の期待に働きかける効果を持ち、ETFなどの買い入れや長期国債の残存期間の延長は、株式や国債市場の需給に直接介入し、下支えする実体的な効果を発揮したと考えられる。

 政権主導の円安・株高政策を象徴するように、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的資金が株式の投資比率を高め、並行して生命保険会社などの機関投資家が国債投資を削減し、外債や社債の投資比率を高めるようなポートフォリオリバランス(資産組み替え)効果もみられるようになった。

 また、昨年10月の追加緩和によって、図が示すように円安と株高は加速している。当時は消費税率の再引き上げ論議とともに原油価格も急落しており、インフレ期待低下のリスクに加えて消費増税後の景気回復の遅れもあわせて考慮すれば、追加緩和が必要な情勢だった。

 金融緩和に支援された円安・株高、それに緩和が直接もたらす低金利は、実体経済に良い影響を及ぼした。まず円安による企業利益の好転である。自動車や電子部品といった輸出型企業を中心に、企業収益の改善が続いている。次に、株高による一部富裕層の消費や低金利による住宅投資である。消費増税の悪影響は大きかったが、都心のマンションなどの需要は活発で地価の回復傾向も続いている。

 さらに、雇用関連の指標の改善である。失業率は3%台に低下し、昨年春以降一部企業で賃上げが行われ、今春は賃上げの動きが一層強く、また、裾野を広げる勢いである。さらに米国経済の順調な回復や昨夏以降の原油価格の大幅な下落が追い風となっており、2年前と比較して経済の好転は明らかである。

 このように日本経済の基調的な改善に貢献した日銀の量的・質的金融緩和について、今後の課題を指摘したい。

 第一は、日銀が自らこの2年間を総括し、政策の枠組みや方法について問題がなかったかを率直に点検して公表し、あわせて今後に向けて内容を調整することが望ましい。具体的には物価安定の目標について、「2年程度」という文言を削除し、「中長期的に」と変更すべきだ。

 世界的にみれば、中央銀行が物価目標の数値を示すことは標準的だが、期限を区切るのは異例である。2年前の導入時、わが国は深刻なデフレ状態にあり、年限を示すことで政策効果を高める必要があった。しかし、現在ではその必要性は薄れている。

 第二は、第一と関連するが、原油価格の下落効果の一巡や今春の賃上げにもかかわらずインフレ期待が低迷するようであれば、マネタリーベースの増加や国債の大量購入という従来の枠組みにとらわれず、超過準備に対する付利の撤廃や、欧州で行われているマイナス金利の導入など、新しい金融緩和を試みるべきだ。国債市場の流動性の問題や緩和効果の観点から、必要に応じて新しい方法を採用する時期に来ている。

 第三は、株価が急騰しバブルの様相を示した場合の対応である。資産価格は往々にしてファンダメンタルズから乖離(かいり)する。現在の株価は企業収益の増加に沿ったものであるが、すでにその水準は高く、さらに上方に乖離する可能性もある。

 株価バブルに対しては、規制や監督によって金融機関の健全性を確保し、バブルが崩壊しても経済全体に悪影響が及ばないようにすることが基本である。しかし、それでも金融政策の予防的対応が不要というわけではない。

 円相場についても同様である。過去2年間の円安は日本経済に総じてプラスと評価できる。しかし、この先1ドル=120円を大きく超えて円安が進むようであれば、輸入企業や家計に与えるマイナス面が大きくなる。今後の日銀には、物価だけにとらわれない柔軟な姿勢が求められる。

 第四の課題は、金利が上昇する場合である。現在は日銀が期間の長い国債を購入することで基本的に金利は低位に抑えられている。しかし、国債の信認が低下し金利が上昇するような局面になれば、日銀による国債の購入は金融政策という本来の役割から逸脱し、正真正銘の「財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)」に追い込まれてしまう。そうした事態を防ぐために、政府には歳出削減による財政健全化の道筋を示し、着実に実行することが求められる。

 いずれの課題も、日銀にとって最大の焦点は政府との距離感である。この2年間、日銀は安倍政権が推し進める「デフレからの脱却」という枠組みのなかで忠実にその役割を担ってきた。しかし、今後の経済情勢によっては立ち位置の調整が必要になる場面があるだろう。

 政府と中銀は潜在的には常に緊張関係にあって、歴史を振り返ると対立から協調まで大きく変化してきた。そうした関係が変化する局面においては、日銀総裁の力量が問われることになる。

〈ポイント〉○日銀緩和は市場や投資家行動の変化促す○物価目標年限は2年に区切る必要薄れる○マイナス金利追求や政府との距離が焦点

 きたさか・しんいち 60年生まれ。神戸大経済学博士。専門はマクロ経済学

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