2015/04/05 本日の日本経済新聞より「風見鶏 オバマ氏の「嫌軍」思想」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「オバマ氏の「嫌軍」思想」です。





 「日米同盟は鳩山問題を克服できたから、オバマ問題も克服できる」。対日政策に長く関わった元米国務省当局者の発言である。鳩山問題は鳩山由紀夫首相当時の日米関係の混乱だが、オバマ問題とは何か。

 オバマ大統領がシカゴの社会派弁護士の気分のまま進める外交・安全保障政策を指すらしい。軍事費は削る。軍事力行使の決断を避け、融和的対応をする。いわば「嫌軍」の思想だ。米国が超大国でなければ、ひとつの見識である。

 いま日米関係の雰囲気は悪くない。安保法制の与党合意を踏まえ、4月下旬の外務、防衛閣僚による安保協議委員会(2プラス2)で防衛協力のための指針(ガイドライン)が決まり、安倍晋三首相の訪米による日米首脳会談がある。

 新たな防衛協力指針の下で同盟をどう構想するかが今後の課題となる。東京のシンクタンク、日本国際フォーラムが神谷万丈防衛大教授ら日米の専門家による報告書を近くまとめるようだが、それに先だって3月に都内でシンポジウムを開いた。

 日米同盟にとっての「ベストシナリオ」と「落とし穴」が議論された。特に懸念されたのが中国をめぐる認識の差だった。

 例えば沖縄県尖閣諸島の領有権問題に「立場をとらない」とする米側の曖昧戦略が日本側に対米不信の芽を膨らませる恐れがある。米側は気づいていない。

 2014年4月の訪日時の記者会見でオバマ氏は、尖閣に日米安保条約第5条が適用されると述べた。日本は歓迎したが、心配した人もいた。

 竹内行夫元外務次官は、オバマ氏が領有権に「立場をとらない」と述べた点を「米大統領に初めて公言させてしまった」と語る。日米間の法的経緯を説明し、米側の玉虫色見解を「奇妙な論理」とする文書を関係者に伝えたという。

 オバマ政権だけでなく、歴代の米政権が尖閣領有権に関して立場をとらないのは、初めは台湾への配慮だった。1972年の沖縄返還当時、米国は中国ではなく台湾と外交関係があり、尖閣をめぐり日本と台湾の板挟みになったからだ。

 尖閣諸島の大正島、久場島には米軍射爆場がある。大正島は国有地だが、久場島は私有地であり、日本政府が地代を払っている。没論理との批判を承知で、米政府が日本の尖閣領有権を明確に認めないのは、いまは日中間の争いに巻き込まれたくないからだろう。

 基地などの地代は対象外だが、日本人従業員の労務費など駐留米軍経費を日本側が負担する特別協定が16年3月末で切れる。ことし夏から新協定をめぐる日米交渉が始まる。

 グラフが示すように、オバマ政権は国防費の対国内総生産(GDP)比率を最低水準まで下げる軍縮政権である。国防費節約のために、日本側に対し少なくとも負担の現状維持を求めるだろう。

 日本側は財務省が「削減は国民の声」と考え、防衛省は「尖閣の緊張を考えれば抑止力維持が必要」と削減に消極的のようだ。「国民の声」といえば、尖閣領有権をめぐる米政府の曖昧戦略の修正を求める声こそがそれに当たる。

 外務省はこれらを背に交渉するが、公然と領有権を絡めれば交渉はこじれる。良好な日米関係の落とし穴になり得る。ならば首脳の出番である。

 首相の説得でオバマ氏が嫌軍を卒業し、領有権をめぐる態度を明確にすれば、特別協定交渉にも好影響を与える。それは抑止力を強め、最も効果的な日米防衛協力になるのだが……。

(特別編集委員 伊奈久喜)

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