2015/04/12 本日の日本経済新聞より「がん社会を診る 本能との闘いが必要 中川恵一」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の健康面にある「本能との闘いが必要 中川恵一」です。

がんと言いますか、病気は本能との闘いのはざまにある、このような話です。人体の社会への適応よりも速いスピードで、社会が変化しています。本能をうまく制御することが病気の制御にもつながることを筆者は説こうとしているように思います。





 日本人の肥満率は4%に過ぎませんが、米国では34%と世界一です。この傾向は、外食産業の拡大で安くて高カロリーの食物が米国中にあふれるようになった1980年代以降に顕著になりました。貧富の格差が拡大するなか、低所得層は日々の食事を安価なジャンクフードに頼るようになり、米国では所得の低い層ほど肥満が多いという現象が起きています。

 こうした傾向は相対的貧困率が16%にも達した日本社会でも見られるようです。本来、生存にとっては不利になるはずのジャンクフードを私たちはなぜ食べすぎてしまうのでしょうか。

 脂肪も糖も塩分も、生存に必要な栄養素ですから、私たちがおいしいと感じ、欲しいと思うのは進化における必然です。しかし、過剰な摂取は健康を害し、発がんの増加にもつながるため、適量で満足する遺伝子があってもよいはずです。

 しかし、適量で満足する遺伝子など人類は持ち合わせていないようです。もともと不足していた脂肪や砂糖や塩を有り余るほど口にできるようになったのはごく最近のことです。それらに対する歯止めを進化させるだけの十分な時間などありません。

 逆に、食物不足が日常的だった太古からの人類の生活は、飢餓のなかでも生き残る仕組みを進化させてきました。たとえば、空腹状態でも活動して生存できるように、アドレナリンやステロイドホルモンをはじめ、血糖値を上げるためのホルモンを私たちは多数持っています。

 一方、上がった血糖値を抑えるホルモンはインスリン1つだけです。空腹でも血糖値を上げなくてはならない場面が多く、十分な食料を取った後に血糖値を下げる必要はほとんどなかったのです。栄養不足が長く続いた日本人は、インスリンの分泌も欧米人の半分程度にとどまります。

 戦後、栄養不足から栄養過多の社会に一変しましたが、人類が飢餓と隣り合わせで過ごした200万年といった時間からすれば、この数十年など一瞬に過ぎません。飽食化など社会環境の変化の速さは生き物が進化で適応できるレベルをはるかに超えています。私たちは進化の過程で自らが作り上げた本能と闘いながら生きていくしかないのです。(東京大学病院准教授)

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