2015/04/13 本日の日本経済新聞より「経済教室 「英語公用語」で企業に変化 エコノミクストレンド グローバル化に寄与 若林直樹 京都大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「「英語公用語」で企業に変化 エコノミクストレンド グローバル化に寄与 若林直樹 京都大学教授」です。

日本企業での英語公用化がもたらす側面を分かりやすく書いてあり、そこで何が起こっているか、とらえやすい記事です。





 日本企業のグローバル化が進むとともに、英語を公用語にすることで会社の国際競争力を高めようとする動きがある。楽天やファーストリテイリングの急ピッチな取り組みはその典型である。特に楽天は、米ハーバード・ビジネススクールにおける日本企業のケーススタディーで近年最もよく取り上げられている。国際事業比率の低い段階でも三木谷浩史社長が急激に進めた取り組みは国際的に高い関心を集めた。

 英ミドルセックス大学のアン・ハージング教授らの研究によれば、海外でもフィンランドのノキア、韓国サムスン電子、中国のレノボや欧州エアバスなど多くの非英語圏のグローバル企業が積極的に英語公用語化を進めている。

 日本経済新聞社などによる2013年「仕事に役立つ資格」調査でも77%の社会人が英語試験「TOEIC」を重視している。TOEICを主催する国際ビジネスコミュニケーション協会によれば、現在700以上の企業が新入社員にTOEIC受験を求めている。興味深いことに、新入社員の平均点は毎年上昇しているが、勤続年数が長い古手社員ほど平均点が低下する傾向がある。

 英語公用語化を進めると会社の組織は変わるのだろうか。英語能力の高低によって社内の権力構造は変わるのだろうか。

 実際、英語公用語化を進める企業は明らかに英語能力の違いによって「グローバル社員」「ローカル社員」を区別するなど、従業員への機会やポジション、キャリアの与え方に違いを出している。こうした傾向があるならば、年功序列の日本企業でも英語ができない古手社員は徐々に地位や権力を失うのだろうか。

 英語公用語化はグローバル企業に多くのメリットを与える。楽天やアシックスでは、社員の共有する情報が変わり視野が国際的になるとか、海外人材が東京勤務でも気安く入社するようになるなどの変化があったという。

 ハージング教授らは社内の言語の壁がなくなることでグローバルな社内連携が高まると指摘する。そして外注企業の選択肢拡大、海外市場への参入、国際M&A(合併・買収)の展開、海外支店と本社の連携が進み、グローバル採用に広がりが出る。

 しかし、楽天のケースを研究したハーバード・ビジネススクールのセダール・ニーリー准教授を中心とするグループは、数多くの非英語圏グローバル企業の事例も分析しており、英語公用語化が会社組織に問題を生み出す興味深い傾向を指摘している。例えば、急速な英語公用語化を進めた結果、英語が不得意な社員には会社への貢献意欲の減退や疑念、警戒心、英語ができる社員に対する不信感で社内での協働がうまく進まない問題なども見られた。

 さらにニーリー氏は、英語公用語化が進むと英語が不得手な社員は、仕事を進めるにあたり、うまくコミュニケーションをとれないことによって自分の権力が喪失する感覚を持つことも指摘する。そしてフランス系グローバル企業の事例を詳細に分析し、英語を母語としない社員は英語の能力の水準によって3つの行動傾向に分かれるとした。

 まず英語が不得手な社員は英語でのコミュニケーションに加わらない。中間水準の能力を持つ社員は、流ちょうな社員の発言に口を挟みスローダウンさせて自分のペースに入れる戦術をとる傾向がある。そして英語の流ちょうな社員だけが、英語を母語とする社員と交流を進めてスキルアップする傾向が見られた。

 グローバル企業は英語能力だけでグローバル人材を評価するのか。米サンノゼ州立大学のジョイス・オスランド教授らの研究グループは、企業が評価するグローバルリーダーの能力として代表的な特徴をまとめている。それらは、異文化を理解し関係を発展できる能力、知的好奇心、明確なビジョンを構築し戦略変化を仕掛ける能力、グローバルでオープンな考え方、グローバルな技術理解能力、チーム構築能力などである。

 こうした特徴は、従来の異文化経営論で重視されてきた能力、すなわち多様な文化を尊重し、異文化を持つビジネスパートナーを理解し、協力関係を構築し、事業を共同で運営する能力と重なる。

 だが、オーストリアのウィーン経済経営大学教授のギュンター・シュタール氏は、文化的な多様性が常に良い会社の成果につながるとは限らないと指摘する。文化的な多様性は、建設的なチームワークで展開すると全く新たなものを生み出す創造的な成果につながるが、ばらばらのチームワークは単なる混乱につながる。企業にとって重要なのは、個々の能力あるグローバル人材だけではなく、異なる文化を理解しつつ共有できる一つのグローバルな企業文化を創り出し共有させることで、チームワークを活性化することである。

 ハーバード・ビジネススクールのクリストファー・バートレット教授と英ロンドン・ビジネススクール教授だった故スマトラ・ゴシャール氏のグローバル人材論に立ち戻る必要がある。彼らは、グローバル人材は4タイプあり、求められるコミュニケーション能力が異なるので資質も育成法も異なるだろうとしている。そのタイプとは、事業マネジャー、地域マネジャー、専門マネジャー、そしてグローバルな法人経営者である。

 事業マネジャーは、個々の事業プロジェクトの効率的な運営を目指して、グローバルに資源を融通し、事業関係者を調整し、事業プロセスを推進するコミュニケーション能力が必要である。地域マネジャーは、本社の上司の意図を理解し、それぞれの地域ごとの状況を現地固有の事情分析を含めて本社と相談して、グローバル企業の活動の現地化を促進する。

 専門マネジャーは、グローバルな技術動向を分析して企業の情報処理能力を高める。そして法人経営者は、先の3つのタイプの人材の求められる資質を理解し、彼らを国際的にリクルートし、そして組織化できるコミュニケーション能力である。

 国際コミュニケーション能力の低い社員への人事部による異文化訓練の支援は重要である。IHIのインドでの異文化英語研修などは一例である。オーストラリア・メルボルン大学講師の山尾佐智子氏と大阪大学教授の関口倫紀氏らの研究でも、そうした訓練支援による日本人社員のグローバル化へのコミットメント上昇が認められている。ニーリー准教授は、英語能力と共に同僚の考え方を共感できる能力の開発が重要とする。

 そして何のための英語公用語化であるかという視点が大切である。事業の海外展開促進か、現地化推進か、国際的な技術開発能力高度化か。国際戦略の内容に応じて、ビジネス言語の共通化と情報流通のメカニズムのデザインは異なる。ビジネス言語戦略という考え方もある。京都のニチコンは日本技術の現地普及事業分野だけはむしろ日本語を重視する。また市場の大きさを考えると英語だけでなく、ニーリー氏の示唆するように中国語、スペイン語も選択肢となる。

〈ポイント〉○楽天の英語公用語化が国際的に高い関心○英語が不得手な社員に問題生じる傾向も○何のための英語公用語化かという視点を

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