2015/04/20 本日の日本経済新聞より「水素社会への展望と課題(上) 官民でインフラ構築必要 佐々木一成 九州大学主幹教授 長期的な開発体制を 省エネやCO2削減に貢献」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「官民でインフラ構築必要 佐々木一成 九州大学主幹教授 長期的な開発体制を 省エネやCO2削減に貢献」です。

化石燃料をほとんど生産できない日本にとって、水素エネルギーへの期待は非常に大きく、国の安全保障にまでかかわる重要なテーマです。

この記事は、エネルギー資源として水素ガスの必要性や優位性、燃料電池との併用による普及、などを示し、水素社会の実現への道筋を示していると言えます。





 「水素社会」という言葉が広く使われるようになってきた。水素を自動車の燃料として本格的に使い始めた今年は水素元年ともいわれる。燃料電池車(FCV)が一般販売され、燃料の水素ガスを購入できる水素ステーションの整備が国のロードマップに沿って進められている。2009年から販売されている家庭用燃料電池「エネファーム」は累積販売台数が10万台を超え、電気もできる給湯器として30年には全世帯の1割に設置する国の目標も掲げられている。17年には家庭用より大型の燃料電池発電システムの市販も予定されている。

 なぜ今、水素なのか。水素社会とはどのような社会で、どのようなメリットや課題があるのだろうか。

 エネルギー資源を持たない我が国にとって、資源を安定的に入手し、電気や熱、車の燃料などをできるだけ安く確保することは、国の施策の根幹にかかわる。財務省の貿易統計によると、近年、貿易赤字が増大しており、その主たる要因はエネルギー輸入の増加といわれている。13、14年とも、天然ガス、石油、石炭などの鉱物性燃料の輸入額は約27兆円に達している。

 現在、生活や産業に欠かせない電力の約9割は火力発電でまかなわれている。当面、この状況は避けられない。

 燃料電池は、水素を含む燃料から電気を取り出す技術である。水の電気分解の逆の反応であり、燃料を燃やさずに直接、電気を取り出すことができる。この反応で使われる水素は、地球上に最も多く存在する元素であり、水素ガスはいろいろな方法で作ることができる。例えば、製油所や製鉄所、ソーダ電解事業所の副産物の水素ガスを活用して車の燃料として供給することが可能である。都市ガスやLPガスなどの既存のエネルギー供給ネットワークを活用して炭化水素燃料から水素ガスを取り出すこともできる。水素ガスが車の燃料として広く使用されるようになれば、自動車産業や日々の移動が石油という特定のエネルギー資源に依存しなくなり、エネルギーの安全保障に貢献できる。

 FCVの燃料は純水素ガスであるが、燃料電池発電には純水素ガスのみならず、都市ガスなど水素原子を多く含む炭化水素燃料も使える。エネルギー変換効率が高い燃料電池で発電することで、同じ電気を取り出すのに必要な化石燃料の量を減らせるため、省エネと二酸化炭素(CO2)排出削減になる。つまり、水素を介して発電する燃料電池の普及によって、「水素利用社会」がまず実現できる。

 高効率に電気を取り出せるメリットは家庭や車に限定されない。数キロワットから数百キロワットレベルの業務・産業用など、より規模の大きい発電用に展開できる。逆に小型の携帯機器用、宇宙航空用を想定した技術開発も進められている。

 将来、CO2排出の大幅減が国際的に求められる時代が来た時には、CO2フリーの純水素ガスをエネルギーとして本格的に使うことで、「純水素社会」に順次移行していくことになろう。下水処理場からのメタンガスや、電力系統に流せずに余剰になった再生可能電力、海外の未利用資源などから作ったCO2フリー水素などを活用することで、長期的にはCO2排出ゼロの車社会を実現することも夢ではなくなる。

 再生可能エネルギーは天候に左右され、変動が激しい。その余剰電力を使って水を電気分解して作った水素でエネルギーを蓄えるシステムの開発も進められている。水素をエネルギー貯蔵のために使いこなせるようになれば、蓄電池や揚水発電所と並ぶ、中規模の蓄エネルギー技術の柱となり、再エネを利活用する余地も広がる。各地域にあるエネルギー源から電気や水素を取り出すことが可能であるため、エネルギーの地産地消が実現できる。これまで域外に流出していたエネルギー代金がその地域にとどまることで地域の経済活性化や自立にも貢献できる。ただし、再エネを活用する際には、トータルでのコストや効率、CO2排出量の精査が必要である。

 このように燃料電池を核にした水素エネルギーのポテンシャルは極めて大きいが、エネルギー社会全体の根幹にかかわる変化でもあるため、当然、水素社会の実現には時間がかかる。多くの課題があるが、まず第一に官民を挙げた水素インフラの構築が重要である。FCVの本格普及には水素ステーションのネットワークの確立が必要である。

 国などの支援は当面欠かせない。従来のガソリンスタンド型の水素ステーションだけでなく、石油燃料や電気、熱も供給できるエネルギーのコンビニにしたり、再エネからの余剰電力で水素を製造・貯蔵して販売したり、下水処理や食品系・植物系廃棄物処理で発生するバイオガスから水素ガスを作って販売することなども検討に値する。水素ステーションの設置コストの低減も欠かせない。

 第二に、高効率発電という本質的な利点を持つ燃料電池は、電力・ガス自由化の流れの中で次世代型の発電システムとして期待される。火力発電の効率を上げていくことで国全体のエネルギー分野の無駄を減らし、CO2の排出を減らすことができる。燃料電池を核にして、天然ガスを使い、発電効率が70%を超える超高効率発電システムを構築することも原理的に可能である。資源的な制約が少ない石炭をガスに変え、燃料電池で高効率に発電することも可能である。

 本格普及には低コスト化を含めたさらなる技術革新が欠かせないが、国全体で考えると、燃料輸入低減やCO2排出削減に大きく貢献できる技術である。公的な導入補助制度はもちろん、高効率発電の技術開発や老朽火力発電所更新のコストを、将来の燃料費削減やCO2排出減で回収できるような仕組みを考えていくことも大事になろう。鉱物性燃料のごく一部を節約できるだけでも、メリットは兆円単位となる。国、自治体、エネルギー事業者や利用者、投資家が投資できるレベルにするためにも、システムコスト低減や発電効率のさらなる向上が求められる。

 水素社会がどのような社会なのか、安全性も含め、国民に広く示していくことも欠かせない。燃料電池や水素技術を多くの方々に安心して使ってもらうためには、普及啓発に向けた地道な活動が必要である。20年の東京オリンピック・パラリンピックは、日本がリードする水素技術を世界に発信する素晴らしい機会になる。各地で進められているスマートコミュニティー、再エネを使った水素技術、大型燃料電池の実証研究などで、経済性と環境優位性が示されることを期待したい。

 最後になるが、エネルギー分野の技術開発では開発期間が数十年にわたることが多い。逆に、数十年の間、メンテナンスも含めて事業が継続する分野であり、裾野も広い。製品開発しながらの次世代技術開発も欠かせず、技術を磨きながら次の世代を担う人材を育て続けていく必要がある。そのため、国の成長戦略の中に、それを支える若手人材の戦略的な養成を明確に位置付けることが重要である。特に今後の海外展開も見据えて、グローバルに活躍できる博士レベルの人材を、我が国が戦略的に育成していくことが国際競争力強化にもつながると考える。

 日本が世界をリードしている分野であるがゆえに、国際競争力を長期にわたって維持するためにも、オールジャパンでの戦略的・組織的な対応が切に望まれる。

ポイント

○水素は特定資源に依存せず、安定調達可能○再生エネを水素に貯蔵し、地産地消を実現○高効率燃料電池は次世代発電システムの核

 ささき・かずなり 65年生まれ。スイス・チューリヒ工科大工学博士。専門は電気化学

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