2015/04/22 本日の日本経済新聞より「日米首脳会談の焦点(上) 「戦後70年」意義示す機会に 田中均 日本総合研究所・国際戦略研究所理事長」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「日米首脳会談の焦点(上) 「戦後70年」意義示す機会に 田中均 日本総合研究所・国際戦略研究所理事長」です。

4/28に行われる日米首脳会談に際し、外交や安全保障の専門家が会談の意義について解説する紙面、このトップバッターとして元外務官僚の田中均氏による記事です。現在の日本の置かれた状況、並びに狙うべきポジションを述べており、非常に参考になる記事です。





 今回の安倍晋三首相の訪米には多くの重要課題がある。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉、集団的自衛権と日米防衛協力ガイドライン改定、沖縄普天間基地移設問題、歴史問題、対中関係とアジアインフラ投資銀行(AIIB)加盟問題、日韓関係と北朝鮮問題、対ロ関係といった課題が山積している。

 首相訪米を通じて日米首脳が世界に対して明確にしなければならないのは、個別問題の背景にある東アジアの大きな構造変化に日米が同盟国としてどう立ち向かうのか、というメッセージであろう。そして戦後70年を期し、日本が過去をどう総括して、どういう国を目指していくのかというビジョンも問われる。安倍首相は日本の首相としては戦後初めて上下両院の合同会議で演説をする予定であり、日本のイメージが形づくられることになる。

 現在の日米関係は良好で、日米両国民の相手国に対する信頼と尊敬の念も高い。最近発表された米ピュー・リサーチ・センターの世論調査では、回答した米国人の68%、日本人の75%が相手国を信頼しているとする(表参照)。筆者は、日米関係が大きく揺れた1980年代後半の経済摩擦、90年代半ばの米兵による少女暴行事件に端を発した沖縄問題の両方に外務省の実務責任者として関わった。当時に比べ日米国民の双方への信頼度は高くなったと感じる。

 従って、かつてみられたように米国の日本に対する目が厳しい中での受け身の首相訪米ではなく、好環境の中で能動的に打って出る訪米なのだろう。ただ、米国の有識者たちと意見交換を重ねると、いくつかの点で米側の問題意識も高いことがわかる。本稿ではそのような問題意識も踏まえたうえで、首相訪米を前に日米関係を考えたい。

 急速に台頭し東アジア地域の環境を変えつつある中国とどう向き合っていくかは、日米双方が直面する最大の戦略課題である。特に尖閣諸島周辺海域への頻繁な船舶の侵入や、南シナ海での岩礁等の埋め立てなど中国の海洋での活動は攻撃的であり、関係国の警戒心は高まっている。

 日本の安保法制の拡充や日米防衛協力の新ガイドラインは特定の国を念頭に置いたものではないが、日米安保体制の強じん化につながることであり、米国にとっても歓迎すべきことであろう。ただ憲法9条は改正されたわけではないので、集団的自衛権の行使の範囲については日本が合理的に透明性を持って説明できることが重要である。

 同時に日米は北東アジア地域の信頼醸成に積極的に取り組むべきである。日米双方は既に中国と海上での連絡体制について協議してきた。できれば日米中韓といった多数国間で地域の信頼醸成措置を構築していくことが望ましい。

 沖縄普天間基地の名護市辺野古への移設問題については長い経緯をたどってここに至ったものであり、日米両国政府には他の選択肢はないのだろう。ただ、沖縄における反基地感情がさらに高まり、米軍基地が政治的に維持できなくなるような事態は避けねばならない。今後とも目に見える形での沖縄の基地負担軽減に日米双方が精力的に取り組んでいくことが重要となる。

 TPPは単なる経済協定にとどまることがない戦略的重要性がある。市場アクセスを大幅に拡大するのみならず、知的財産権や投資、国営企業などに関するルールの合意は自由市場体制の強化につながる。これは中国の国家資本主義体制とは異なるルールであり、TPP成立により、TPPのルールがアジア太平洋地域の経済体制の標準となっていくことが望ましい。そして中国自身も国内経済体制の改革を実行し、将来TPPに加入できることが日米双方にとって望ましいことであろう。

 TPP交渉に勢いを与えるため、日米の2国間合意が首相訪米時に達成されることが望ましい。そのためにも、米大統領に強力な通商協定の交渉権限を与える貿易促進権限(TPA)法案に関して、米国議会で夏前の成立見通しがつくことが重要である。

 AIIBにどう向き合うかも重要な戦略課題となっている。アジアには2010年からの10年間で8兆ドルといわれる膨大なインフラ整備のニーズがあるとされており、これに応える国際開発金融機関の設置は歓迎されるべきことである。ただ、銀行の運営は透明性を持たなければならないし、国際基準に合致した銀行でなければならない。

 このためにも日本は銀行の外で批判するよりも、欧州などの先進国とともに参加して、中で影響力を行使していくべきだろう。他方、米国については米国議会が設立協定に同意する見込みはないとみられるので参加の可能性は薄いが、日米間で十分な協議を尽くさなければならない。

 北朝鮮問題については核弾頭の小型化、ミサイル搭載の可能性も含め核開発が相当進んだのではないかと推測される。一方、関係国との対話は停滞している。日本についても行方不明日本人の調査報告はいまだなされておらず、拉致問題打開の道も閉ざされたままである。

 イランの核問題についての枠組み合意は、核不拡散問題取り組みに向けての一歩であると評価されるが、北朝鮮がこれをどうとらえるのだろうか。いずれにせよ、日米韓が連携し中国の北朝鮮への影響力行使を後押ししていくということだろう。米国はそれにつけても日韓関係の改善を強く求めている。今年は日韓国交正常化50周年であり、日本は日韓関係の将来ビジョンを示すべきであろう。

 ロシアとの関係はオバマ米大統領にとって深刻な関心事である。ウクライナ問題が解決していく見通しが明らかでない中で、ロシアに対する西側の圧力を緩めたくないオバマ大統領は、プーチン・ロシア大統領の年内訪日が想定されている日ロ関係の展開を注意深く見守っている。対ロ関係についても日本の考え方を明確に示すべきだろう。

 戦後初めてとなる上下両院合同会議での日本の首相による演説は、戦後70年を期し日本の過去を総括して、どういう国として将来に向かうかを示す大きな機会である。

 米国は、現在の日本の政権がこれまでタブーとされてきたことにも果敢に取り組み、結果を出していると評価し、経済運営でもアベノミクスの成功を高く評価している。他方、安倍首相の靖国参拝や歴史認識に関する発言に当惑し、かつ、歴史問題により日中・日韓関係が悪化していくことへの懸念を隠さない。

 尖閣問題をはじめ日中が対決したときには米国も巻きこまれざるを得ない。歴史問題は近隣諸国との関係だけではなく米国の関心事でもある。米国人の一部には、安倍首相が「戦後レジームからの脱却」を言うとき、米国の占領政策に対する懐疑と映る。また、南京虐殺問題や慰安婦問題については、米国内でも政治的影響力を持つようになった中国系や韓国系米国人が対日批判の先頭に立っていることを過小評価してはならない。

 こうした背景の中で議会演説は細心の注意を要するが、発信の大きな機会ととらえ、米国や日本の近隣諸国でもたれている警戒心を払拭してもらいたい。歴史認識については、植民地支配と侵略の反省と謝罪を旨とする村山談話の基本をはずすべきではない。

 日本は短期間に世界で2番目の経済大国となり、相対的には所得格差が少ない国であり、環境問題を短期間で克服し、平和的国際貢献に徹してきた国として戦後日本に対する評価は高い。大きく変化しつつある環境にあわせ安保政策を強化しているが、基本的な平和主義には揺るぎがないことを明確にしてほしい。

 今後ロシアや中国あるいは国連での戦後70周年記念行事が数多く企画されている。首相訪米はそれらに先立って日米で戦後70年の基調を設定する重要な意味合いを持っている。大いなる成功を願いたい。

ポイント○東アジアの構造変化に日米で共通戦略を○訪米時にTPP交渉の2国間合意目指せ○米国は歴史問題で日中韓関係の悪化懸念

 たなか・ひとし 47年生まれ。京都大法卒。元外務審議官

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