2015/04/23 本日の日本経済新聞より「日米首脳会談の焦点(中) 同盟の絆再確認の好機 ケント・カルダー ジョンズ・ホプキンス大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の面にある「日米首脳会談の焦点(中) 同盟の絆再確認の好機 ケント・カルダー ジョンズ・ホプキンス大学教授」です。





 最近日本では米国の首都ワシントンについて改めて真剣に考えるような傾向がある。それはホワイトハウス、ペンタゴン(国防総省)、国務省などの領域を飛び越えて、日本が複雑な世界への関心を深めていることを示している。

 経団連、県庁、そして政党といった多様な日本の団体がワシントンに事務所を設置することを決めたり、真剣に考慮したりしている。日本がワシントンへの理解を深めたことで、日本と、ワシントンにおける主要な意思決定グループとの関係、特に米議会との関係は劇的に改善した。

 思い起こせば2006年、小泉純一郎首相(当時)が靖国神社を参拝したことで米議会は大いに失望し、上下両院合同会議における演説は実現しなかった。07年には従軍慰安婦問題に関する安倍晋三首相の発言が批判を浴び、日本を非難する下院決議が現実のものとなった。そして13年12月、安倍首相自身が靖国神社を参拝し、日本とワシントンとの関係、特にキャピトル・ヒル(米議会)との関係はぎくしゃくしたものとなった。

 今回、安倍首相のワシントン訪問時、米議会上下両院合同会議で演説する機会を得たことは、まさに時運の著しい転換といえよう。安倍首相は初めて同会議で演説する日本の首相となる。この歴史的な機会をとらえて、技術や文化の側面、そして21世紀のグローバルな日米同盟のあり方についてダイナミックなビジョンを世界に示してほしい。

 ちなみに、韓国では1987年の民主化以降これまで一例を除き、すべての大統領が同会議において演説する機会を与えられている(図参照)。

 日本を取り巻く状況が劇的に好転した理由は何か。今般の安倍首相の訪米は成功を収めるのか。そして、米国首都において日本のグローバルな関心を深めるべく、この機会を最大限活用するには安倍首相は何をすべきなのか。この3つの質問への答えは互いに緊密に関係している。最も重要なキーワードは「グローバル意識」である。たとえ2国間の結びつきに関連するものであっても、そういえる。

 安倍首相の議会演説実現の裏には2つの理由があると思う。一つはオバマ政権、特にキャロライン・ケネディ駐日米大使からの支持である。

 もちろん、歴史的な演説の機会を与えるのだから、安倍首相が融和的な意見を述べることが暗黙の前提であり、共和党優位の議会との静かな調整が必要であった。さらに、オランダの「アンネ・フランクの家」訪問、その後のエルサレム訪問などにより、安倍首相がイスラエルに対し融和的な姿勢を示したことは非常に賢明なことであった。

 これらに触発されて米議会は安倍首相に演説の機会を与えるに至った。現駐米イスラエル大使のロン・ダーマー氏自身に米上院共和党スタッフとしての勤務経験があったことや、共和党が外交政策に影響を及ぼすのに熱心なことも影響があったと思う。安倍首相の演説が実現したことで米議会の外交的役割が一層高まったことは疑う余地がない。

 地政学的にも歴史的にも日米関係は重要な時期にあり、首相官邸・外務省が効果的に下地を整えたことなどから、安倍首相の米国訪問の見通しは比較的明るいといえる。

 中国は南シナ海における領土問題で攻撃的な姿勢をとっているし、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を通じ、国際的なプロジェクトファイナンス(事業融資)の枠組みの再構築を強引に推し進めている。ワシントンでは中国の行動に危機感が募り、日本との関係を良好にしておくことがより重要であるとの機運が醸成されている。

 そしてこうした新しい意識はカレンダーを見ているとますます募ってくる。来る5月9日にはロシアで、9月3日には中国で「ビクトリー・サミット」が開催される。これら一連の戦勝記念式典では、日本は強烈に批判されるだろう。日米同盟の絆の強化のためにも、歴史を盾にとって「敵対者」があら探しを始める前に、ワシントンは象徴的にも本質的にもこの主要な2国間関係を改めて強化しておきたいと強く考えているのだ。

 安倍首相の米国訪問は基本的に3つの部分で構成される。その構成を見れば、ワシントンのみならず米国全体で日本の立場を強めるために、安倍首相がどのように物事を推し進めていくべきなのか、そしてどうしようとしているのか、手がかりをつかめる。

 もちろん、その中心はオバマ大統領との首脳会談であるが、それに先立ち、外務・防衛担当閣僚会議(2+2)が予定されている。その前後には、安倍首相自身がワシントン以外にもボストン、サンフランシスコ、ロサンゼルスを訪れることになっている。日本の現役首相による大掛かりな大陸横断ツアーは、1999年の小渕恵三首相以来である。当時、小渕首相を支えていた一人が現外務次官の斎木昭隆氏である。

 一連の外交日程では、日米両国は「2+2」で軍事・外交関係を再確認し、おそらく新・日米防衛協力指針を明らかにするであろうし、より実のある会談とすべくサイバーセキュリティーや海上安全保障分野での協力も話し合うだろう。それに続く安倍・オバマ首脳会談ではより幅広い事柄、例えば環太平洋経済連携協定(TPP)や気候変動問題のような非軍事的な問題を際立たせることができる。

 それが結果的に、日本が軍事国家から平和を愛する国に歴史的な転換を遂げたと示すことになるだろう。前述のように、今後ロシアや中国などが戦勝記念式典で日本の軍国主義を必ず非難するであろうが、そうした非難を軽減しうることにもつながると思う。

 拙著「ワシントンの中のアジア」と「日米同盟の静かなる危機」に記した通り、日米関係で常に繰り返し起きる問題は「一般の米国人が日米間における複雑な文化的つながりを全く理解していない」「日米間にはとても感情的なものが存在しているのだが、それを感じていない」ということである。だからこそ、日本の首相が米国の一般人に接すること、地方の政府職員やオピニオンリーダーに会うことは特に重要である。中国や韓国はこれまでもそうしたことを常々実施している。

 筆者は、安倍首相とオバマ大統領や米国のリーダーたちが、主要な安全保障に関する両国のコミットメント(約束)を再確認するだけでなく、それ以上の成果を上げて、日米同盟そのものに対する、米国民からの幅広い支持を得てほしいと心から望んでいる。

 外交面では日米両国が東南アジア、中東、そして中国との関係について議論することが不可欠である。国内問題として論点となるのは医療とエネルギー分野であろう。日本では高齢化が急速に進む一方、米国では医療保険制度改革法(オバマケア)により医療コストが急速に増大している。

 そうした国内問題でさえ日米両国はお互いに学び合うことや、語り合うことがたくさんある。同様に、福島の悲劇、シェールガス革命、そして地球温暖化などに直面し、以前にも増してエネルギー分野では論じることがある。互いに実りある対話は外交的な意見表明とは違い、「普通の人たち」に明白な結果をもたらす。

 要するに、安倍首相は非常に重要な時期にワシントンを訪れるのである。もうすぐ歴史的な記念日が次々とやってきて、様々な問題が顕在化し、太平洋間同盟に緊張をもたらすかもしれない。そんなタイミングなのである。

 こうしたデリケートな時期に、日本に融和的なアプローチをとった米国のリーダーたち、それに冷静に対応した安倍首相に拍手を送りたい。欧州各国も落ち着いて前向きに受け止めているようである。過去の大きな苦しみは太平洋の国々、そして世界を長きにわたり分断してきたが、今こそ、それが和解への触媒となるときではないだろうか。

〈ポイント〉○日本と米議会との関係は劇的に改善した○米は中国への危機感から対日関係重視に○首相が米国の一般人に接することが重要

 Kent E. Calder 48年生まれ。ハーバード大博士。ライシャワー東アジア研究所長

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