2015/04/27 本日の日本経済新聞より「経済教室 日経平均2万円は実力か(上) 「出遅れ」解消、割安感薄まる 川北英隆 京都大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「日経平均2万円は実力か(上) 「出遅れ」解消、割安感薄まる 川北英隆 京都大学教授」です。





 日経平均株価が2万円を回復した。2000年4月以来15年ぶりである。とはいえ、日経平均の史上最高値は1989年末の3万8915円である。一方で米国やドイツは史上最高値水準にある。80年代後半の日本がバブルの状況にあったとはいえ、日本の株価水準は取り残されている。この意味で、日経平均2万円は株価上昇過程の一里塚でしかない。

 本稿では、2万円回復をどう評価すべきなのか、株価上昇が続くには企業経営に何が求められるのかを検討する。

 中長期的な株価水準は企業の収益力に左右される。では、何をもって企業の収益力を測ればよいのか。筆者は営業利益が最も適当だと考える。経常利益や税引き後利益の場合、負債に対する利払いが短中期的には固定費として働くので、好況と不況の波を増幅してしまう。いわゆる財務レバレッジ(テコの原理)効果が生じるため、あまり適切な指標ではない。これに対して、営業利益は企業の財務体質に左右されず、企業の収益力を端的に表す。

 図は、各年度の営業利益ベースでの増減益率と、各年度末時点において営業利益(確定値)の何倍まで上場企業が買われたのかを示す値について推移を示している。図から判明するのは、12年度以降の増益基調が株価上昇を支えてきたことである。増益基調を背景に、時価総額・営業利益倍率も高まってきた。

 増益基調が株価水準を高めたことは、中長期的な株価水準が企業実態を反映していることを意味する。「株価とは、将来において企業が株主のために生み出すであろうキャッシュフロー額を、現時点での価値(現在価値)に換算したものである」との理論に則している。日本の株式市場が中長期的には正常に機能してきたことにほかならない。

 一方、増益基調にともなって時価総額・営業利益倍率が高まっていることは、利益に対する投資家の期待の高まりでもある。この投資家の期待に反して利益水準が落ち込めば、08年度や11年度のようにこの倍率が低下し、株価が下落してしまう。

 もう一点、図からいえることがある。現時点での時価総額・営業利益倍率が13倍台にあり、06年度ごろの水準にまで高まっていることである。当時を思い起こすと、07年の半ばにサブプライムローン問題が表面化したことから日本の株価は下落基調に転じ、翌08年のリーマン・ショックが追い打ちをかけた。

 株式市場の代表的な指標であるPER(株価収益率=株価/1株あたり当期純利益、利益は確定値)も20倍近くにあり、07年当時の水準が射程に入っている。また、米国やドイツに比べて日本のPERが低かったことから「日本の株価は出遅れており、買い余地がある」とされてきたわけだが、現状の日本はドイツとほぼ並び、米国にも接近してきている。「出遅れ状態」もほぼ解消されたことになる。

 以上から、日経平均2万円回復は経済の実態を反映したものである一方、株価の割安感は消えつつあるのではなかろうか。今後の株価は企業の収益力の高まり次第である。

 企業の収益力に対する投資家の期待の高まりを象徴するのが公的年金の動きだろう。昨秋から今春にかけて、公的年金は資金運用の指針である基本ポートフォリオ(資産構成割合)を見直した。国債の比率を引き下げ、代わりに日本株を含むリスク資産の組み入れ比率を大幅に引き上げたのである。この動きを決定づけたのが、137兆円もの年金資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)である。

 GPIFは昨年10月末、基本ポートフォリオにおける日本株の組み入れ比率を12%から25%へと引き上げた。これに追随するように、国家公務員共済と地方公務員共済も日本株組み入れ比率をGPIFと同じ水準に引き上げた。

 公的年金が日本株の組み入れ比率を引き上げた背景には日本企業への期待がある。

 公的年金が基本ポートフォリオを見直す契機となった「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」報告書(13年11月)には以下の記述がある。「公的年金の運用については……日本経済に貢献することになり……経済成長と資金運用との好循環が期待される」「国内債券を中心とする現在の各資金のポートフォリオについては……見直しが必要である」「海外資産運用比率を高めることは……国内運用資産の減少が国内経済に影響を与える可能性がある」などと、日本株での運用に対して高い期待を表明している。

 いずれにせよ公的年金が日本株式の組み入れ比率を引き上げたことは、他の投資家にとっての安心材料である。新たな組み入れ比率に近づけるため、公的年金が日本株の追加購入を続ければ、需給が引き締まる。加えて、日銀が上場投資信託(ETF)の購入を通じて株式の購入を継続している。これらの動きが止まらない限り、下値を切り下げないという安心感がある。

 懸念があるとすれば、企業の収益力が期待に反して向上せず、需給要因だけで株価が上がることだ。図でいえば、時価総額・営業利益倍率が一段と高まることになる。そうした状況は、日本の株価がバブルの領域に一歩足を踏み入れてしまうことに等しい。

 日経平均が2万円を超えた後も上昇を続ける条件は、企業の収益力が今以上に高まることである。「欧米に出遅れた日本」という追い風は2万円までだろう。ここから先は日本企業の真価が問われる。

 日本企業の収益力はどの程度にまで高まったのか。筆者が注目するのは、売上高に占める付加価値の比率である。ここでの付加価値とは、営業利益、人件費、減価償却費の合計としている。日本企業の売上高付加価値率を観察すると、低下傾向がうかがえる。12年以降、景気の自律的回復とアベノミクス効果により、この比率は若干上昇した。しかし、足元では再び頭打ちとなっている。日本企業の収益力の回復が弱いといえる。

 こうした状態の中で経営努力は人件費の抑制に向けられてきた。また、古い設備を使い続け、減価償却費の負担軽減効果も得てきた。デフレが完全に払拭されずに売上高の伸び率が低く、また売上高付加価値率がさえないにもかかわらず、営業利益だけが堅調なのは、これらの経費抑制が大きい。見方を変えると、これまでの方針を転換し、賃上げを実施しつつ増益基調を維持していくには、経営の重点を見直す必要がある。すなわち、国内で積極的に高付加価値製品・サービスを生産するための仕組みづくりである。

 日本経済の低成長は企業間格差を拡大させた。経済全体の成長率が高いと、どのような経営でも一定の成果が出せるのに対して、低成長では経営陣の目の付け所や統率力が収益力を左右してしまう。守りの経営だけでは彼我の差が拡大する。守りは適切なガバナンス(統治)体制に委ねたうえで、執行そのものは収益力の向上に向けてかじを切ることが望まれる。

 経営として、もう一つ工夫が必要なのは海外での事業展開である。日本の高齢化と人口減少に直面し、従来型の国内需要に多くを期待できず、人手に頼る生産にも限界があるため、企業の目は海外に向いている。すでに東証1部の製造業の海外での売上高比率は50%に達している。しかしながら、海外事業が成功するかは経営手腕に依存する部分が大きく、これが新たな企業間格差の要因となるだろう。

 実際、企業間格差は株価の差を生み出している。日経平均と東証株価指数を比較すれば一目瞭然だが、日経平均の上昇率が継続的に高い。経営力のある企業が日経平均に多い証拠である。優れた企業が高い株価をもたらす典型だろう。これが日本企業と市場が目指す方向である。

〈ポイント〉○期待に反して利益落ち込めば株価下落も○需給要因だけで株価上がる状況は危うい○国内で高付加価値製品を生産する体制を

 かわきた・ひでたか 50年生まれ。京都大経済学博士。専門は証券投資論、証券市場論

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です