フィリピン、15年5.8%成長 GDP伸び堅持、サービス業がけん引 2016/01/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際1面にある「フィリピン、15年5.8%成長 GDP伸び堅持、サービス業がけん引」です。





 【マニラ=佐竹実】フィリピン統計庁は28日、2015年の実質国内総生産(GDP)伸び率が5.8%だったと発表した。中国の景気減速が輸出に影響したが、サービス産業の発展や旺盛な個人消費がそれを補った。アキノ政権下で東南アジアで屈指の高成長を達成した同国がその勢いを維持するには、5月の大統領選後も改革路線を続けることが求められる。

 10年に発足したアキノ政権は財政再建や汚職撲滅を進めた。6年間のGDP伸び率は年平均で6.2%。28日に記者会見したバリサカン国家経済開発庁長官は「政権運営の成功が投資や消費につながり、世界的な経済減速を乗り越えられた」と評価した。15年のGDPは3011億ドル(約35兆7000億円規模)。1人当たりGDPは3千ドルを超えたとみられる。

 15年は中国減速の影響で輸出が5.5%の伸びにとどまった。それを補ったのが投資とサービス業。インフラ整備など官民の投資は13.6%増加し、コールセンターなどの業務委託を目当てに外資が進出したサービス業は6.7%増だった。

 サービス業の発展で国民の所得水準が上昇。年3兆円規模の海外居住者からの送金と併せ、GDPの7割を占める個人消費を押し上げた。中国や先進国の景気減速などの影響を受けにくく、堅調な成長を維持する。

 1億人超の人口は平均年齢が23歳と若く、政治が安定すれば成長を続ける素地がある。汚職との決別で海外投資家のイメージを改善させたアキノ大統領の功績は大きい。

 それだけに「アキノ後」への不安はある。後継指名したマヌエル・ロハス前内務・自治相の支持率はいまひとつ。次期大統領が改革路線を引き継ぐ確証はない。バリサカン長官は「有権者がさらなる経済成長に導く正しい指導者を選べるかどうかが課題」と指摘する。



大機小機 EUを試す文明の融合 2016/01/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「大機小機 EUを試す文明の融合」です。





 欧州連合(EU)は戦後最大の試練に直面する。ユーロ危機が小康状態を迎えたかと思えば、パリがイスラム過激派のテロに見舞われた。シリアからの大量の難民受け入れで域内のあつれきが高まり、移動の自由という土台が揺らぐ。中東危機がEUを覆う。

 フランスでは排外主義の極右勢力が勢いを増す。英国ではEU離脱を問う国民投票が年内にも実施される。深刻なのはEUのリーダー、メルケル独首相が難民受け入れを巡って批判にさらされていることだ。

 EUは分裂し崩壊に向かうのではないかという悲観論さえある。しかし、これは間違いである。2度の世界大戦という悲惨な歴史を経て創設されたこの平和の連合は、パリ市庁舎の紋章にある通り「たゆたえども沈まず」なのである。

 EUには危機バネが作用する。ユーロ危機は深刻だったが、銀行同盟創設など再統合につながった。財政統合への論議も高まった。震源地であるギリシャを含めユーロからの離脱は最初からありえなかった。

 米国が「世界の警察官」を降りた主役なき世界で、EUはグローバル・アクターとしての役割が一段と求められる。地球環境危機からウクライナ危機など地政学リスク打開までEUの存在感は大きい。アジアインフラ投資銀行(AIIB)を巡る中国との連携はEUのしたたかさを物語る。

 もちろん英国がEUを離脱する事態になれば国際政治を揺るがすが、これは「賢い英国」の選択ではない。EU離脱はスコットランド独立に直結し「グレート・ブリテン」は「リトル・イングランド」に転落する。外資に依存した英経済は外資撤退で窮地に陥る。ロンドン・シティーは金融センターの座をフランクフルトに奪われるだろう。

 EUにとって最大の問題は、キリスト教文明を基盤に拡大してきた「大欧州」がこのまま単色の共同体として存続できるのかという点である。EUは既に域内にイスラム社会を抱えている。排外主義が激化し「文明の衝突」につながるのが最悪のシナリオである。それは何としても防がなければならないが、「文明の共存」を超えて「文明の融合」にまで深化させられるかどうかが問われている。

 それは多様な文明を抱える米国やアジアを含め世界共通の課題だ。

(無垢)



迫真 民泊狂騒曲(2)商機か荒れ地か 2016/01/27 本日の日本経済新聞より

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 今春から東京都大田区で民泊ビジネスを計画する大京。空き家となっている戸建て住宅を購入し、内装などを改装した上で旅行者を6泊7日以上で受け入れるアイデアを温める。

大京の紹介で沖縄県のマンションをモニター利用した家族は「子供連れなので自炊が楽」と話す

 「需要は十分にある」。実動部隊となる大京穴吹不動産(東京・渋谷)の社長、海瀬和彦(59)の鼻息は荒い。自信の背景にあるのは沖縄県での予行練習だ。昨年、「旅家」という部屋の仲介サービスを始め、これまで那覇市や宜野湾市などにある17戸分を紹介している。

 部屋はオーナーが日ごろ住んでいない分譲マンションだが、家電や家具、調理器具はそろっている。管理人も常駐し滞在者の相談に乗る。大京が開設した専用サイトで予約し、クレジットカードで支払う仕組みで、大田区の民泊でも同様の決済システムを活用する予定だ。

 問題は利用客の数だ。旅家では法規制に抵触しないよう1カ月以上の長期滞在を条件とする。取り込めるパイは小さく、採算は合わない。需要を探るため、試験的に1週間の無料滞在のモニターを募集したところ約630組分もの応募が殺到した。潜在需要の大きい東京都で6泊7日以上の設定なら勝算があるとソロバンをはじく。

 「このタイミングを逃してはいけない」。東京都多摩地区を地盤とする京王電鉄は昨年末、民泊の予約仲介サイト運営の百戦錬磨(仙台市)に10%出資した。仕掛けたのは経営企画部戦略担当課長の吉田智之(40)。ベンチャー企業とのマッチングイベントで出会った百戦錬磨の担当者から第三者割当増資の打診があり、飛びついた。

 沿線にある高尾山は外国人観光客の人気スポットで、多摩ニュータウンなどで民泊が活用できるようになれば京王グループの利益は大きい。規模も数値目標も盛り込めない吉田の資料に、社内には懸念の声もあったが、最後は「我々で新しい市場を作っていこう」と社長の永田正(64)のゴーサインが下りた。

 新規参入組が動き出す一方で既存業界は身構える。「天変地異が起きたとき、お客の身分がしっかりわかることが宿泊業の前提条件。お客を管理できないものを宿泊と決して呼ばない」。日本旅行業協会会長の田川博己(68)は1月7日に都内で開いた記者会見でこう訴えた。

 商機とみて踏み込むか。末は荒れ地と距離を置くか。法制度の行方もにらみつつ、民泊ビジネスは手探りが続いている。

(敬称略)



投資の失敗に「心理のわな」 投信や保険、事前にルールを 2016/02/17 本日の日本経済新聞より

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 あのタイミングでなぜ株を買ったのか。どうして高額の生命保険を契約したのか。自分の判断を後で悔やんだ経験はないだろうか。人間の心理を経済の分析に応用した行動経済学は、お金に関する様々な失敗には「心理のわな」が影響していることを示している。

 日経平均株価が1日で900円あまり急落したかと思えば、数日後に1000円超急騰するなど株式相場は不安定な動きが続く。中国景気の減速や米国景気への懸念、円相場の乱高下などが背景だが、気を付けたいのが「相場の雰囲気に流され、慌てて売買すること」(イボットソン・アソシエイツ・ジャパンの小松原宰明最高投資責任者)。

 伝統的な経済学は市場参加者など全員が合理的に行動するのが前提だが、生身の人間は感情に左右されがちだ。冷静な判断ができず、周りに同調して動くことを行動経済学では「ハーディング(群れ)現象」と呼ぶ。

  

買いコスト上昇

 グラフBは日経平均が急落した12日終値(1万4952円61銭)とほぼ同水準だった2005年11月以降の株価と、公募投資信託への資金流出入を示す。投信は株価の高値圏で大量に買われ、安値圏では買いが細る傾向が鮮明だ。この期間はリーマン・ショックやアベノミクス期待などがあった。相場の上昇局面では楽観ムードが広がりやすく、投資家は「今買わないと乗り遅れてしまう」と一斉に買いがちだ。下落局面では逆の状態になりやすい。

 結果的に起きるのが買いコストの上昇だ。グラフBで投信の購入がすべて日経平均連動型と仮定して平均購入価格を計算すると約1万5500円(線(1))になり、同期間の株価の平均(約1万3280円)を上回る。高い時期に大量購入したため、高値づかみになっていることを示す。

 「感情に流されない一つの方法が投資行動のルール化」と小松原氏は助言する。例えば割安な時期も買い続ける定時定額購入が有効だ。グラフBで日経平均連動型投信を毎月定額購入するケースを試算すると、平均購入価格は約1万2270円(線(2))。相場が乱高下している現在でも大幅な含み益が出ている。

 もう一つ個人投資家の悩みで多いのが「塩漬け銘柄」だろう。仮に高収益体質を評価して買った会社の収益力が低下し、今後も株価の下落が続くと予想するなら売却が選択肢だ。しかし自分が高い価格で買っていた場合は売りづらく、判断を先延ばしするうちに含み損が増えていく。

 自分の保有銘柄の買値など判断の際にこだわってしまう値を行動経済学で「参照値」と呼ぶ。立正大学の林康史教授は「買値と企業の実態価値とは関係がない。いったん売ったと仮定し、現在の業績でも買いと判断できる場合だけ持ち続けるべきだ」と話す。

 「売れ筋の新商品ならきっといい商品だろう」などと単純に判断するのを行動経済学では「ヒューリスティック(大ざっぱな判断)」と呼ぶ。これも投資で失敗につながることがある。

 

「旬」のテーマ用心

 一例として過去十数年の新規設定投信の顔ぶれをみてみよう。「IT(情報技術)」「中小型株」「新興国通貨」「海外不動産投信」「シェールガス関連」などが相次ぎ登場し、いずれも「旬のテーマ」「成長性が見込める」などとして、個人投資家の人気が盛り上がった。

 しかしこうしたテーマ株は、投信の設定時にはすでに買われて割高になっていることも多い。モーニングスターが1999年度から2010年度まで各年度の新規設定投信の販売上位を対象に調べたところ、3年後には7割弱が同じ資産クラスの市場平均を下回った。

 ヒューリスティックは投信以外でも要注意だ。例えば民間生命保険会社の個人年金保険。毎月掛け金を出して老後に受給する。掛け金の一部が所得控除され、課税所得が500万円の会社員が月2万円を出した場合は年1万800円の節税になる。14年度の新規加入は159万件と国の制度である個人型確定拠出年金(DC)の約55倍だ。

 しかし実は個人型DCの方が節税効果は大きい。掛け金が全額控除されるためだ。先のケースに当てはめると、年7万2000円の節税になる。自営業者や企業年金のない会社員など約4000万人が加入可能だ。

 経済コラムニストの大江英樹氏は年金保険の加入者が多い理由について「保険会社の営業力が強いだけではなく、ヒューリスティックも影響している」と指摘する。国の制度は頼りにならないという大ざっぱな判断に基づいて「年金の役割を果たす保険は心強いというイメージで選ばれている」(大江氏)。

 金融商品を選ぶ際は自分の持っている大まかなイメージが必ずしも正しくないという可能性も頭に入れておこう。

(編集委員 田村正之)



迫真 農業を解き放て(4)もっと上を 2016/01/15 本日の日本経済新聞より

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 冬場というのに畑の土は、毛の長いじゅうたんのようにふかふかしていた。昨年12月、熊本県東部の山都町。野生のシカがしばしば姿を現す山あいで、飯星淳一(38)がニンジンの葉を2、3本分まとめてつかむと、あっけなく抜けた。そろって太めの形状に、曲がりなどの規格外品はほとんどない。「収量はこの4年で数倍に増えた」

飯星さんの畑でできたニンジン。規格外品がほとんどない(熊本県山都町)

 生まれ変わった畑には技術の裏付けがある。飯星は農薬や化学肥料を使わない有機農産物の販売会社「くまもと有機の会」(熊本県御船町)のメンバー。そこで堆肥の方法を一から学び直した。かといって時間はかからなかった。会のノウハウをもとに「普通は数年かかる土作りはすぐに終わった」。ニンジンを抜きながら飯星は笑う。

 会の先輩農家、八反田幹人(81)のホウレンソウは1年前、地元の消費者を驚かせた。

 「生のままでどうぞ」。熊本市内の直売所で試食を勧められた客は顔を見合わせ、居合わせた農家も「これは何ですか」と首をひねった。後日、八反田の作ったホウレンソウを調べると糖度は17.5に達し、ふつうの桃を上回った。検査を受託した会社は「間違いじゃないか」と結果を疑い3回も計り直した。直売所では規格外の甘さが評判となり、三束、四束とまとめ買いする客が続出した。

 常識を覆す野菜づくりは2003年に始動した。有機の会の専務、田中誠(45)は居酒屋で知人の卸会社のバイヤーに悩みを打ち明けた。「有機栽培は本当にいいんだろうか」。安心を売り物にする半面、勘や経験が頼りで品質が安定しない印象が強かった。知人がその場で電話したのが、栽培コンサルタントの小祝政明(56)だった。

 不安げな田中に小祝が告げた答えは「科学的にやるなら」。小祝は畑のホウレンソウを見て「根が張ってないですね」。抜いてみるとその通り。「土中の鉄分が足りません」。これも的中し、理由を一つ一つ説明してみせた。田中は「頭をガツンとやられた」。オーストラリアの研究所で科学的な栽培を身につけた小祝の勉強会が始まった。化学記号が飛び交い、時に難解な“授業”に辛抱強くついてきたのが八反田らだった。

 1月12日、有機の会の事務所を訪れたニンジン農家の飯星に田中が語った。「もっと上を目指そう」。飯星は収量と糖度のアップを誓った。

(敬称略)

 編集委員の吉田忠則が担当しました。



ポジション 米利上げ1カ月、「ドル高」に勝った「円高圧力」 リスク回避ムードが拡大 2016/01/14 本日の日本経済新聞より

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 昨年12月16日に米連邦準備理事会(FRB)が事実上のゼロ金利政策を解除してから、まもなく1カ月となる。FRBの利上げは新興国通貨などに対するドル買いを生んだものの、円買い圧力はそれを上回り、ドルは円に対しては大幅に下落した。特に今年に入ってから市場にリスク回避的なムードが拡大。「逃避通貨」と目される円が、ドルを含む様々な通貨に対して買われた。

 米利上げ後に円買い圧力がドル買い圧力に勝った様子は、多数の通貨に対する平均的な相場変動を示す日経通貨インデックスを見るとわかる。

 昨年12月15日から今年1月12日にかけてドルのインデックスは約2%上昇した。米利上げによる海外からの資金回帰などでドルが上がったことを示すが、円は約4%の上昇とドルを上回る。両者の差がドル安・円高進行の裏側にある。利上げ前に1ドル=121円前後だった円は一時116円台に上昇した。

 「米利上げ局面開始後にむしろ円高圧力がかかるのはこれまでにも見られた現象」とJPモルガン・チェース銀行の棚瀬順哉氏は言う。過去4回(1994、97、99、2004の各年)の米利上げ開始前後のドル・円相場を平均した指数を見ると、ドル安・円高方向への振れが確認できる。利上げを織り込んで買われたドルが、利上げの少し前から売られるパターンだ。利上げが確実視されるようになったことによる材料出尽くし感がありそうだ。

 もっとも過去4回では利上げ1カ月後のドルの対円下落率が平均1%程度だったのに今回は3%程度と大きい。その要因は市場のリスク回避ムードの高まりだろう。

 一般に市場がリスクをとることに積極的になると、円のような超低金利通貨を借りて相対的に高金利の通貨を買う取引が出やすい。リスク回避の空気が広がるとこの取引が巻き戻され、円買い戻しが起きる。円が「逃避通貨」とされるゆえんだ。「リスク回避ムードなら円買い」という条件反射的な反応により、単なる巻き戻し以上の円買いが起きることもある。

 12日の米、13日の日本と株価は上昇したものの、年明け以降の内外の株式市場は不安定な動きを続けてきた。リスク回避ムードの背景にある要因として、ドイツ証券の大西知生氏は(1)減速する中国経済(2)米利上げに伴って資金流出に見舞われる新興国(3)過激派組織「イスラム国」(IS)や北朝鮮を巡る地政学リスク――の3つを挙げる。

 特に中国に関しては「ドルに事実上ペッグ(固定)している人民元の上昇が中国景気の足を引っ張ってきたため、大幅な切り下げの可能性が高まっている」(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)との警戒論が聞かれる。昨年夏の「人民元切り下げ」による市場混乱の再来が懸念されるわけだ。

 昨年12月の利上げ決定時には、FRBは2016年に0.25%ずつ4回の利上げを進めるとの解釈が聞かれた。しかし、市場混乱を受け、このシナリオに懐疑的な空気がさらに広がっている。日米の金利差(期間2年)も年明け以降縮小。思い切ったドル買いは進めにくくなった。

 12日発表の昨年11月の日本の経常黒字は市場予想を大きく上回る約1兆1000億円を記録。原油安による貿易赤字縮小などで経常黒字が膨らむなら、需給面でも円が買われやすくなりそうだ。

(編集委員 清水功哉)



ニュース複眼 対立深まるサウジ・イラン 2016/01/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の視点・焦点面にある「ニュース複眼 対立深まるサウジ・イラン」です。





 宗教指導者の処刑などをきっかけに、イスラム教スンニ派の王室が実権を握るサウジアラビアとシーア派の大国イランの対立が深まっている。中東の二大国が広げた混乱はシリア内戦の収拾を遠ざけるとともに、シリアを地盤とする過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)の活動を利しかねない。不安を鎮めるカギはあるのか。

宗派戦争 誘発の可能性 明治大特任教授 山内昌之氏

 サウジアラビアがイスラム教シーア派の指導者ら47人を処刑し、イランとの国交断絶を表明したことで、中東全域での軍事衝突の危険性が高まった。サウジはイランとの正面衝突につながりかねない「パンドラの箱」を開けてしまった。それぞれスンニ派、シーア派の盟主である両国が正面から対決すれば、宗派戦争を誘発しかねない。

 通常の場合、国交断絶は大使の召還などの手続きを経て実施する。今回はサウジが一気に断交まで進めたことに、米国やイランは驚いた。次の手順と考えられるのは最後通牒(つうちょう)、ひいては戦争だからだ。

 ただサウジは「戦争する意志を固めたわけではない」ともにおわせており、西部にあるイスラム教の聖地メッカとメディナへの巡礼について引き続きイラン人を受け入れると表明した。サウジがイランとまだ「正面からことを構える」と決めてはいないメッセージとも読める。

 今回のサウジとイランの対立には、サウジの米国に対する警告の意味合いもある。米国がイランに急接近する一方、湾岸最大の同盟国であるサウジを軽視したと憤っている。サウジはこれ以上寛容ではいられず、バランスを回復せよとのメッセージを送ったのだろう。

 いくつもの国が絡む「中東複合危機」が進行している。大きな要素はシリア問題だ。イラクからISが侵入したり、それに対してイランが兵力を送り込んだりすることで外部勢力の絡んだ実質的な「戦争」に発展している。さらにロシアの介入で米欧とロシアが向かい合う「第2次冷戦」の様相を呈している。ロシアはシリアへの軍事顧問団の派遣にとどまらず、今では臆面もなく陸・海・空の兵力でアサド政権を支援している。

 「中東複合危機」が進行するなかで、さらにサウジとイランの対立がスンニ派対シーア派の宗派戦争に発展するとどうなるか。想定できる最悪のシナリオは「第3次世界大戦」の勃発につながる。こうなれば欧米やロシアも巻き込まれる。ホルムズ海峡が封鎖されれば、世界中のエネルギー・金融市場や景気動向を直撃しかねない。

 「中東複合危機」の収拾はきわめて難しいだろう。異質かつ異次元の問題が併存し、全てを解決するのは不可能だと思う。米国ができることは限られている。軍事力の担保なしに中東地域で安全保障を確保することはありえないが、米国は同地域での兵力展開に消極的だ。当面の仲介はサウジ、イラン両国に強いパイプを持つロシアに頼るしかないのではないか。

(聞き手は寺井浩介)

 やまうち・まさゆき 中東・イスラム地域研究と国際関係史の分野で日本を代表する歴史学者。2012年から現職、東大名誉教授も兼ねる。68歳。

オバマ政権、不信招いた 米ヘリテージ財団上級研究員 ジェームズ・フィリップス氏

 イランの核問題を打開するのが名目だったとはいえ、米国のオバマ政権がこれまで敵対してきたイランに接近したのは、中東地域での米軍をできるだけ削減したいという思惑があったのだろう。しかし、こうした考え方はスンニ派の流れをくむISや他のスンニ派のテロ組織との戦いを巡り、シーア派の大国イランと協力できるはずという希望的な観測に基づく甘えだ。

 その誤解は、米軍がイラクから撤退し、スンニ派を除外したうえでシーア派寄りの政権が誕生した後、イラクでISが伸長したことからもわかる。

 イランはISの掃討に欠かせない存在というより、ISの問題の一部分だと認識している。一連の米側の行動が、スンニ派の盟主を自任してきたサウジアラビア側に、米国は地域の安定を理由にサウジや他の湾岸諸国との関係を犠牲にしてまでイランとの協力の道を選んだという疑いを持たせてしまった。

 オバマ政権は一貫して同盟国の国益を保護するよりも、敵対してきた国とかかわることに高い優先順位を置いているとみられる。イスラエルやサウジが抱く不平はこの点にある。オバマ政権はサウジの信頼を完全に失ってしまった。エジプトもいまだに信用していない。そしてオバマ政権の無知が、イランに対するサウジのこれまで以上の攻撃的な姿勢を生んだ。

 サウジは中国との関係を改善する方法を探るかもしれない。ロシアとの関係でも同様に模索するだろう。内戦が続くシリアに介入するロシアは、サウジにとっては問題を大きくする存在だからだ。サウジと中ロとの関係改善は、それほど遠い将来のことではないとみている。

 オバマ政権のイランへの接近は、意図せざる結果として、ロシアに中東で多くの機会を与えてしまった。政権がロシアとの関係の見直しをしようとしていることも恐ろしい。ロシアは米国との約束の多くを守ってこなかったからだ。

 次期米政権は同盟国との関係の再構築を最優先の課題として取り組むべきだ。特にサウジやイスラエル、ヨルダンとの修復だ。次期大統領選で共和党候補が勝利すると、最優先に据える可能性は高まるかもしれない。民主党の本命候補、ヒラリー・クリントン前国務長官が大統領に選ばれても、希望は持てる。

 クリントン氏はオバマ政権の1期目で国務長官に就き、多くの失敗をした。彼女は自らの経験から学べる。次期米政権と中東との関係が、オバマ政権よりも悪化するとは考えにくい。

(聞き手はワシントン=吉野直也)

 James Phillips 米タフツ大フレッチャー・スクールで修士号。中東や国際テロ情勢の専門家。ヘリテージ財団は米保守系の有力シンクタンク。63歳。

サウジ、反発読み誤る カイロ大教授 ムスタファ・サイード氏

 サウジアラビアの指導部は今回、シーア派指導者の処刑によって生じるイランの強い反発を予想せず、サウジが意図しない形で緊張が高まったと見ている。

 サウジが1月上旬に処刑した47人のうち43人はスンニ派の過激派組織「アルカイダ」に関係しているとされる。シーア派の宗教指導者ニムル師ら4人は、この43人と同列に扱われて処刑されたのであり、サウジが意図的にイランを挑発したとは思えない。

 対立の根は深く、収束させるのは難しい。米国やロシアによる仲介外交は奏功しないだろう。イランはバーレーンやイラク、レバノンなどにいるシーア派住民を事実上代表しており、外交的な立場も強い。サウジとの関係をすんなりと改善するとは思えない。

 一部で「第5次中東戦争」といわれるような直接の戦争に突入することはない。イラン、サウジ両国はともに内部に強硬派を抱えているものの、指導部は戦争になれば国家に危機が訪れることを理解している。足元の原油価格の低迷で両国の経済情勢は厳しく、戦争ができるような状況ではない。

 米ロはシリアの政権移行期間にアサド大統領が(暫定の統治者として)とどまることで合意するかもしれないが、サウジが受け入れるのは難しくなった。

 「ダーイシュ」(ISの別称)の壊滅を急ぐべきである半面、米欧もアラブ諸国も地上部隊をシリアに送れない。当面のシリア情勢はトルコがカギを握っている。国境管理を厳格にして戦闘員や資金、密輸原油の摘発など、細かい取り組みを続けるしかない。

(聞き手はカイロ=押野真也)

 79年ジュネーブ大高等国際問題研究所で博士課程を修了。中東政治や国際関係論などが専門。カイロ・アメリカン大学の教授も兼務。69歳。

背景に地域覇権争い 英セント・アンドルーズ大教授 アリ・アンサーリ氏

 サウジアラビアとイランの対立が軍事行動に発展する兆しは今のところないが、サウジの強硬な姿勢は1980年代のイラン・イラク戦争のときよりも危機が深刻化するリスクを示している。

 最大の懸念は地域の混乱を助長することだ。内戦が続くシリアやイエメンではサウジとイランがそれぞれの宗派に属する勢力を支援しており、解決は一段と遠のく。ISなど過激派組織も勢力を拡大する余地が生まれる。サウジの動向が原油価格をさらに不安定にする恐れもある。

 サウジとイランの対立の原因をイスラム教スンニ派とシーア派の「宗教対立」に帰結させるのは間違っている。スンニ派とシーア派が平和に共存してきた歴史はいくらでもある。一方でサウジは米国が主導した2003年のイラク戦争で、イラクではシーア派が政権を握り、イランとの関係が強くなったことにずっといらだっていた。核問題を巡る合意を受け、イランが急速に国際社会に復帰しつつあることへの危機感も強い。地域・民族の覇権を含めた非常に多層的な争いが背景にある。

 中東情勢に唯一、関与できる力を持っているのは米国だ。これまでよりも長期的で、非軍事の分野も含めた包括的な戦略を作る必要がある。過去の介入はせいぜい2~3年の期間で軍事介入し、作戦終了後の影響まで緻密に考慮したものではなく、結果的にさらなる危機を生み出した。米国が中東への興味を失いつつあるのは明らかだが、放置すれば、中東でのロシアの影響力の拡大を招き、さらに事態を複雑化させる恐れがある。(聞き手はロンドン=小滝麻理子)

 Ali Ansari 専門は歴史学。イランをはじめとして中東のイスラム諸国の国家の発展や、米英との関係などに関する著書多数。48歳。



FT特約 麻薬王逮捕後のメキシコ 司法改革 待ったなし 2016/01/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際1面にある「FT特約 麻薬王逮捕後のメキシコ 司法改革 待ったなし」です。





 どんな犯罪であれ、ならず者は愛されるらしい。アル・カポネをはじめとする米禁酒法時代のギャングたちは繰り返し本や映画に取り上げられている。そして今は「エル・チャポ(小柄なヤツ)」ことホアキン・グスマン受刑者だ。自らの半生を銀幕上に見ることを思い描き、その虚栄心があだとなって8日に逮捕された。

 メキシコ政府にとって、この逮捕は重要な成果だ。シナロア・カルテルを率いるグスマン受刑者は世界で最も悪名高い麻薬王であり、最重要指名手配犯だった。

 メキシコの麻薬戦争では過去10年間に10万人以上が殺され、2万人が行方不明になっている。グスマン受刑者のようなギャングが逮捕されることは、メキシコという国全体のためになる。

 それでも、ペニャニエト大統領がグスマン受刑者の逮捕後に「任務完了」と誇ったのは愚かだった。確かに、6カ月前にグスマン受刑者が厳重警備の刑務所から脱獄し、その痛手が尾を引いていた政権にとっては面目の回復を訴えたい成果だ。しかし、グスマン受刑者の逮捕(3度目)は麻薬取引の根絶にはほとんどつながらない。また、メキシコが直面している最大の問題である治安の改善にも役に立たないだろう。

 その治安の悪さには数々の要因がある。ただ、最大の原因はメキシコの腐敗と無法性だ。これを正すことこそが、メキシコが果たさなければならない本当の任務だ。

 大統領は今、停滞したままの司法・警察改革の断行に向かうべきだ。この改革は何年も前に公約されながら、ペニャニエト政権はそれよりも目を引きやすい施策――歴史的なエネルギー産業自由化、あるいはまさにグスマン受刑者の逮捕など――を優先してきた。

 メキシコ政府は今こそ、法治の強化に対して同等のエネルギーと決意を示さなければならない。その上で初めて、大統領は「任務完了」を確言し、逃亡と逮捕が続いたグスマン受刑者の血塗られた一代記を乗り越えることができる。

(13日付)

=英フィナンシャル・タイムズ特約



辛言直言 世界で生きるための教育を 価値観変わる体験させよ 日本電産会長兼社長 永守重信氏 2016/01/13 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の大学面にある「辛言直言 世界で生きるための教育を 価値観変わる体験させよ 日本電産会長兼社長 永守重信氏」です。





 大学の役割を巡る議論は今年も活発化しそうだ。教養教育が重要との指摘がある一方、グローバル化に対応した人材育成が不十分との意見も強い。日本電産の永守重信会長兼社長は2014年11月から京都大学の総長顧問を務めるなど、大学への発言も積極化している。自ら創業した会社をグローバル企業へ成長させた経営者の視点から、日本の大学教育への要望を聞いた。

 ――日本の大学の現状をどのようにみていますか。

 「京大で講義もしたが、質問してくるのは中国やタイからの留学生ばっかりだ。日本の学生は『単位をもらえればいい』とばかりに静かにしていて明らかに熱意が違う。アジアからの留学生は母国に帰って起業しようとか、起業できる会社に入ろうなどと考えて、何かをつかもうとしている

 「日本の大学は世界ランキングで順位が低い。評価方法に問題があるとも聞くが、日本の学生にも、起業しようとか、海外で何かやろうといった意識をもっと持たせられないものか。海外のインターンシップにどんどん行かせるとか、価値観が変わる体験をさせてほしい

起業の意欲弱い

 ――大学もグローバル対応などの変化は掲げていますが。

 「今でも学生の就職人気ランキングには有名な大企業が、業績がよくなくても上位に並んでいる。すぐに起業しないとしても、これから伸びる会社に入って大きくしようとする学生がなぜこんなに少ないのか。大学の先生がインターンでも就職でも大企業を勧めているのではないか」

 「大学と実業界の人の行き来をもっと活発にしないといけないだろう。成績がいい学生が助手になり、そのまま教授になっていては実社会のことがわからなくなる

 ――大学には実学よりも基礎的な教養を重視すべきだとの声もあります。

 「教える順番が大事。英語の難しい文法を教える前に、しゃべれるようにするとか、まずは世界で生きていくための教育をしっかりやるべきだろう。30年くらい前と今では日本の大学の置かれた状況が違う。大学生がある程度希少だったころは一般と違う教育に意味があった。大学生が増えた今は、特に難しい学問は大学院でやる方がいい」

 「大学の中には研究が開発より格上とか、開発は生産技術より上というような意識があるようだ。一流大卒は研究か開発部門に入りたがる。仕事に順位を付けるような意識が一番の問題だろうと思っている」

 ――そうした問題は企業側でどう感じますか。

 「実は私もこの10年くらい錯覚していた。会社が大きくなったんだから立派な大学の出身者を増やそうと中途を含め積極採用してきたが、最近実績が目立っているのは、この間我慢をしていた一流大卒でない社員が多い。人生というあみだくじは1本の線を進んで失敗しても、諦めずに次に行けばもっと幸せになることもある。こんな経験をした人材の方が強い

入試で疲れ切る

 ――入学試験からもっと変えるべきだという声もあります。

 「最近の学生は入試の段階で疲れきっている。教え方のうまい塾に入ってテクニックを必死に覚え、一流大学に入っているのだろう。入った時がピークなのではなく、これから目標を持って頑張ろうとする人にチャンスを与えてほしい

 「僕は塾も行かず受験勉強もせず、学校から帰ったら家の手伝いをしていた。それでも勉強ができて、国の奨学金で職業訓練大学校(当時)に行かせてもらうことになった。亡くなった兄は『本当は京大に入れたのになあ』と後々も気にしながら、『でも入れずに頑張ったから今がある。感謝せえよ』と何度も言っていた」

 ――16年春卒の学生の就職活動の日程が混乱しましたが、どうすればいいと考えますか。

 「(15年春卒までの就活のように)4月1日の選考開始に戻すのがいいと思う。中堅企業から先に内定をもらっても(8月の)大企業の選考開始まで決めないといった状況が、非常に混乱のもとになった。新卒の一括採用には若者の雇用確保などで利点もあるとは思うが、例えば初任給については米国のように大学を卒業した時の経験などで差がつくとなれば、学生の卒業までの意識も変わるのではないか」

(大学面編集長 福田芳久、京都支社 太田順尚)

 「辛言直言」は随時掲載します。

 ながもり・しげのぶ 1944年京都府生まれ、67年職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科卒。ティアックなどを経て73年に日本電産を創業し、社長に就き急成長をけん引。2014年から会長兼務



Voice モディ改革 長い目で 2016/01/13 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際1面にある「Voice モディ改革 長い目で」です。





 「モディ改革は長い目で見るべきだ」。アジア資産運用大手、イーストスプリング・インベストメンツのインド拠点で債券を担当するマニシュ・バンシア氏は、国内外の投資家にこう呼びかける。政府が力を注ぐインフラ整備を例に挙げて、「道路や鉄道は一朝一夕に完成しない」。大国インドで成果を出すには時間がかかると強調し、一部で人気に陰りが出ているモディ首相を擁護する。

 米国の利上げや中国の経済減速など新興国は試練を迎えているが、財政や中国への輸出依存度を踏まえると「インドは他国に比べれば好ましい状況だ」。今後も高い成長率を保つためには「国内外の企業が設備投資に踏み切れるよう、改革の進み具合を丁寧に説明してほしい」と政府にも注文を付けていた。