免疫細胞 がんに密着し攻撃 阪大、遺伝子操作で能力向上 2016/02/29 本日の日本経済新聞より

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 大阪大学の岩堀幸太特任講師らは、外敵から身を守る免疫細胞にがん細胞を見分ける能力を高め、密着させて集中的に攻撃する技術を開発した。がん細胞の表面にあるたんぱく質を目印に使い遺伝子操作する。肺がんのマウスを使った実験では、余命が2倍以上延びた。識別に使うたんぱく質を変えれば、様々ながんに使えるという。

 米ベイラー医科大学との成果。新しいがん治療法として5~10年後の臨床応用を目指す。

 研究チームは免疫細胞の一種のT細胞を健康な人の血液から取り出し、がん細胞を識別するための情報が組み込まれた遺伝子を導入した。このT細胞には、がん細胞の表面に現れるたんぱく質とくっつく抗体ができた。

 体内に戻すと、遺伝子を改変したT細胞はがん細胞に密着して攻撃するようになる。このT細胞が出す物質によって、他のT細胞が呼び寄せられ、多数ががん細胞を攻撃するようになり、治療効果が高まるという。

 5匹のマウスに人間の肺がんを移植し、遺伝子を組み換えたT細胞を注射した。がんを移植したマウスは100日もたたずに死んでしまうが、注射されたマウスは最長で約200日生き続けた。

 改変する遺伝子のがん細胞を識別する情報を変えれば、肺以外のがんにも使えるという。



経営の視点イラン市場再参入の条件 「特別扱い」今は昔の覚悟を 編集委員 松尾博文 2016/02/29 本日の日本経済新聞より

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 核問題をめぐる経済制裁の解除を受けて、イラン市場への関心が高まっている。豊かな石油・ガス資源と8千万人の人口。丸紅の国分文也社長は「今年一番の注目市場はイランだ」と言い切る。日本企業が競争を勝ち抜き、足場を築く条件は何だろうか。

 首都テヘランから空路で1時間あまり。南西部のアフワズはイランの石油産業の中心都市だ。20世紀初頭、この町の北東でみつかった1本の油井から「石油の世紀」は始まった。ここはまた、日本とイランの記憶をつなぐ場所でもある。

 出光興産を興した出光佐三氏が、英国の封鎖をかいくぐり、タンカー「日章丸」を送り込んだアバダン港。革命や戦争に翻弄された悲運のプロジェクト、イラン・ジャパン石油化学(IJPC)。そして、制裁下で日本が開発権益を手放した巨大油田アザデガン。どこへ行くにもアフワズが入り口になる。

 「10年間、旧IJPCで働きました。日本が撤退した後でしたが……」。今月初旬、アザデガン油田を案内してくれた国営石油会社の関係者が笑った。油井の掘削現場には国際石油開発帝石が権益を持っていた時代に、日本で研修を受けた技術者もいた。

 第2次世界大戦後、絶えず国際政治に揺さぶられてきたイランは、愛憎入り交じる欧米との関係と異なり、アジアの一員としての日本を好意的な目で見てきた。日章丸やIJPCは両国の「特別な関係」を築く礎になってきた。足跡は今も様々な場所でみつかる。

 石油・ガス開発、プラント、自動車、航空機。制裁という長いトンネルを抜けたイラン市場はブームに沸き立つ。日本は特別な関係をどこまで強みにしていけるだろうか。

 日章丸が決死の航海を敢行したのは1953年。約40年後、テヘランを訪れた佐三氏の長男、出光昭介社長(当時)は「誰もが出光と日章丸のことを覚えてくれていた」とイラン側の歓待ぶりに感激した。

 さらに20年以上を経た現在、百田尚樹氏の小説「海賊とよばれた男」が取り上げたことで、日本では日章丸事件への関心が高まっている。だが、実際の原油売買の場で「イラン側が日章丸を話題にしたり、出光が特別扱いを受けたりすることはない」(出光興産)。

 かつてイラン・ビジネスで存在感を放つ商社マンがいた。ある大手のT副社長(当時)はイラン石油関係者とパイプを築き、同国産原油の調達に大きな影響力を持ったとされる。

 強引なやり口に眉をひそめるライバル社もあったが、イランが資金繰りに窮した際には原油を担保に日本が資金を貸し付ける枠組みの実現に奔走し、イランからも頼りにされた。アザデガン油田の交渉でも橋渡しをしたといわれている。

 イラン市場の扉が開いた今、深く食い込む人材は見当たらない。長い経済制裁がもたらした何よりの損失は人脈の途絶なのだ。

 記憶は風化し、人脈は途切れる。制裁下で日米欧の企業が身動きが取れない間にイラン市場で足場を固めたのは中国。そこに欧州勢が加わる。日本は特別な関係を結び直すところから始める覚悟が要る。



月曜経済観測 原油安の行方は 持ち直しまで1年以上 出光興産社長 月岡隆氏 2016/02/29 本日の日本経済新聞より

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 原油の国際相場は一時1バレル30ドルを下回り、12年ぶりの安値を記録した。世界経済への影響も大きい原油相場の行方を、出光興産の月岡隆社長に聞いた。

現在は下げすぎ

 ――原油相場の下落が止まりません。

 「長期的に見れば現在の水準は下げすぎだろう。ただ、原油市場が供給過剰に陥り世界の在庫が積み上がった状況では短期的に下げが加速しやすい。国際的な相場形成に影響力を持つ米先物市場では投機マネーの売りも目立つ」

 ――有力産油国の間では増産に歯止めをかける動きも出てきました。

 「サウジアラビアなどがこれ以上増産しないことで合意した背景には、ベネズエラやロシアなどが経済的に追い込まれていることがある。しかし、石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC諸国が協調減産にまで踏み込む可能性は小さい」

 「現在の状況は石油危機後の1985~86年に似ている。当時も北海油田など新たな供給源が台頭し、サウジは需給の調整役をやめた。今回はロシアの増産に加え、米国を中心にシェールオイルの開発が進んだ。サウジが市場シェアを失ってまで減産に踏み切ることは考えにくい」

 ――需給調整のカギはシェールにあると?

 「開発や生産のコストが下がったとはいえ、シェール企業の採算は悪化している。今後は経営に行き詰まったシェール企業が石油メジャーの傘下に入り、メジャー主導で減産が進む展開を予想する。ただ、需給が均衡しても、これだけ在庫が積み上がると相場回復には時間がかかる。あと1年以上は必要だろう」

40~50ドル水準に

 ――原油相場はどれくらいの水準まで回復すると予想しますか。

 「油田の開発コストを踏まえれば40~50ドルあたりではないか。相場がさらに上がるかどうかは世界経済の動向にかかる。株式市場が原油相場の動きを気にするのも、その背後に中国を中心とした新興国経済の変調があるからだ」

 「原油安は日本経済にとって恩恵も大きいが、新興国経済の変調は輸出に逆風だ。こうした状況で企業は安心して投資できない。通貨安などに直面する新興国経済の混乱を収拾し、世界経済が成長への好循環を取り戻すことが重要だ」

 ――供給過剰の現状は、日本にとって海外で資源の権益を獲得する好機です。

 「米国政府による原油輸出解禁は、日本にとって調達の選択肢が増えることになる。資源を持たない日本は新たな権益確保も着実に進める必要がある。だが、資源関連企業の多くは相場急落で財務内容が悪化し、投資に踏み切る余力がなくなっている。資源の継続確保に日本全体でどう取り組むかの議論も必要だ」

 ――国内では石油業界の再編が進みます。

 「国内需要が縮小する中で石油業界が適正な利益を確保するためには過剰設備と過当競争、複雑な流通構造の問題を改善しなければならない。東京商品取引所などがけん引し、公正で透明性の高い価格指標をつくる努力も大切だ。業界全体で競争力を高める取り組みが求められる。元売りの統合はその一歩だ」

(聞き手は編集委員 志田富雄)

 つきおか・たかし 昨年7月に昭和シェル石油と経営統合で基本合意。64歳



こころの健康学 「でも」の誘惑 気をつけて 相手の反応を見る 2016/02/28 本日の日本経済新聞より

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 前回、相手の気持ちに寄り添うには「大変ですね」と言い切ることが大切だと書いた。しかし、そう言い切って、読み違えていたらどうしようと心配になる人がいるかもしれない。そうしたときは、私たちが日常会話でどのようにしているか、振り返ってみるとよい。

 イラスト・大塚 いちお

 私たちは普段、無意識のうちに相手の反応を見ている。自分の言葉に相手がうなずいたり、「そうですね」「たしかに」などと返答したりすれば、互いの考えや気持ちが通じ合えたと判断し、話を次に進めていける。

 一方、相手が首を横に振ったり、「でも」「しかし」などと答えたりすれば、うまく寄り添えなかったと考えて、もう一度その人の気持ちや考えに目を向け直すことになる。相手がどんな気持ちでいるのか、直接尋ねてみるのもひとつの方法だろう。

 大切なのは、相手の反応に気を配りながら自分の対応を決めていく柔軟性だ。ただ、そうした際に自分の方が「でも」と言ってしまう場合がある。相手が「なかなかうまくいかないんです」と弱気な発言をしたときに、「でも、そんなこと言わないで頑張れ」と話しかけるケースは珍しくない。

 自分は励ますつもりでも、相手は辛さを理解してもらえなかったと思い、頑張りを否定されたように感じるだろう。相手の反応を見ないで、自分の考えのままに一方的に話を進めようとすると、話がかみ合わなくなる。

 自分の思いが強いときや立場が上のときに、こうした例が起こりやすい。職場だけでなく家庭においても、「でも」の誘惑に気をつけた方がよい。

(認知行動療法研修開発センター

大野裕)



中国、不信払拭なお課題 市場と対話意識乏しく 2016/02/28 本日の日本経済新聞より

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 【上海=大越匡洋】今回の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、世界経済のリスクとして中国の不透明な政策運営に注目が集まった。初めてG20議長国を務め、国際社会での発言力の向上に余念がない中国だが、市場と対話する意識はなお乏しく、不信払拭への道のりは遠い。

 「人民元が下落を続ける基礎(的な条件)はない」。中国の李克強首相は26日の開幕式に寄せたビデオメッセージで、昨年8月の元の切り下げ以来、何度も口にしたセリフを繰り返した。それだけ、中国当局の不透明な政策運営に対する市場の不信は根深いといえる。

 今回、中国側も信用回復に努めようとした。市場の信認が厚い中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁がG20会議前に記者会見を開き、人民銀は「外貨準備の減少について」など16の想定問答を盛った資料も配った。

 だが中国当局が市場との対話の重要性を理解しているかどうかは疑問だ。象徴的なのは、今回のG20会議の取材制限だ。

 中国当局は「受け入れ体制の限界」を理由に取材を認める海外メディアの記者数を大幅に制限し、1人も認められない報道機関も出た。国内行事で記者数を制限することは多いが、国際会議でも中国流を持ち込んだ。一方的な「宣伝」に慣れた中国当局は、自由な報道を通じて市場と対話を重ねるという発想を欠く。



中外時評 繰り返す熱狂と悲観 長期の視点で資源投資を 論説委員 志田富雄 2016/03/27 本日の日本経済新聞より

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 原油相場は一時1バレル30ドルを下回り、2008年に記録した史上最高値の5分の1に下げた。中国による「爆食」が顕著になった03年の水準だ。市場は落ち着きを取り戻しつつあるが、本格的な相場上昇はまだ描きにくい。

 相場急落が油田などの開発投資に急ブレーキをかけたのは間違いない。米石油サービス大手、ベーカー・フューズ社がまとめる米国の油田掘削リグ稼働数は14年のピークに比べ4分の1に減った。

 それでも米国の原油生産量の減少はわずかだ。直近の生産量は日量約900万バレル(米エネルギー省統計)と、シェールオイルの生産が拡大する前の08年を400万バレルも上回る。シェール勢の粘り腰で、サウジアラビアなどの中東産油国は想定外の持久戦に持ち込まれた。

 市場はサウジ、ロシアなど有力産油国の協調減産に相場反転への期待を寄せる。だが、4月の会合がめざすのはこれ以上増産しない生産量の凍結。サウジのヌアイミ石油鉱物資源相は2月の講演で「非効率で非経済的な生産者が退場すべきだ」と減産の可能性を切り捨てた。

 既視感のある風景だ。サウジは1985年の石油輸出国機構(OPEC)石油相会合で需給の調整役を放棄し、価格維持からシェア奪回に方針を大転換した。70年代の相場高騰でノルウェーなどの新勢力が台頭し、減産はOPECのシェア縮小を招くからだ。

 86年に一時10ドルを下回った原油相場は、90年にイラクがクウェートに侵攻した際の一時的な急騰を除き、90年代末まで低迷を続けた。

 相場が急落した場面での生産削減は、財政赤字が膨らむ産油国にとって危険な賭けだ。仮に減産が奏功し、原油相場を押し上げることに成功しても現状ではシェールオイルを勢い付かせる。

 結局は世界経済が力強く成長し、石油需要が拡大するのを待つしかない。14年後半の相場急落から一貫して減産を否定するヌアイミ氏の発言の背景には過去の教訓がある。

 企業に価格ヘッジ手法を助言するマーケット・リスク・アドバイザリー(東京・新宿)の新村直弘代表取締役は「原油の需給が均衡し始めるのは17年以降で、本格的な相場上昇はインドが人口ボーナス期に入る20年代に入ってから」と予測する。

 その間は、相場急落が「負け組」を淘汰する市場メカニズムが働く。粘り腰を見せたシェール企業も追い詰められている。資源企業が拡大する「ストリーミング」と呼ばれる取引は、将来の生産分をお金に換える売り上げの先食いだ。ベネズエラ、アゼルバイジャンなど耐久力の弱い資源国は危機的な状況にある。

 昨年9月にはスイスの資源大手、グレンコアの株価急落が世界の株価を揺さぶった。資源大手や資源国の危機が金融市場に波及する事態に警戒は怠れない。危機は往々にして市場の気の緩みを突く。

 過去10年で資源権益の獲得に動いた日本企業にも逆風は強い。ただ、そこには新たな好機もある。資源市場の熱狂が続いた5年前までは考えられなかった優良権益が市場に転がり出てくるからだ。

 住友金属鉱山は2月、米鉱山大手フリーポート・マクモランから米モレンシー銅鉱山の権益13%(年間生産量で約6万2千トン)を10億ドルで追加取得すると発表した。会見に集まった記者の多くは不思議に思ったはずだ。なぜ、こんな環境で千億円を超す資源投資に動くのかと。

 その答えも30年前にある。同社がモレンシー鉱山の権益を最初に取得したのは86年2月。住友商事と共同で15%の権益を7500万ドルで手に入れた。

 当時の非鉄金属市場はどん底だった。85年には国際すず理事会による相場買い支え資金が枯渇し、ロンドン金属取引所(LME)が取引停止に追い込まれる「すず危機」が起きた。住友鉱の中里佳明社長は「米有力誌が『鉱山の死』を特集した」と悲観論が充満した時代を振り返る。

 同社が86年に権益を買い取った時のLME銅相場は1トン1500ドル以下だ。銅相場は11年に1万ドル台の史上最高値を記録し、現在は5000ドル前後にある。市場に向き合う経験が長い人ほど相場の先行きは誰も分からないことを身にしみて知っている。

 市場は熱狂と悲観を繰り返す。それに惑わされず、長期的な視点で将来に備えた投資が必要になる。資源を持たない日本はなおさらだ。

 30年前に権益取得を決めた先輩に感謝したい――中里社長に大型投資の決断させたのも市場の教訓に違いない。



スクランブル 荒れる株価は宿命か マイナス金利下の「新常態」 2016/02/27 本日の日本経済新聞より

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 26日の日経平均株価は続伸し、年初から荒れに荒れた日本株市場はひとまず安定を取り戻したようにみえる。だが市場が予想する将来の株価変動率は高止まりしたままで、それは日銀が導入したマイナス金利とも浅からぬ関係がある。相場が荒れるのは日本株の宿命――。マイナス金利下で投資家は荒れる相場を「新常態」と受け入れるしかないのかもしれない。

 「落ち着いてきたようでも、まだ警戒は解けない」年初からの荒れ相場でパフォーマンスがさえないせいなのか、ある国内大手運用会社の日本株運用担当者はさえない表情だった。

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 市場参加者たちが相場波乱が収まったとは思っていないのは、日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)がなお高水準であることからも読み取れる。

 26日終値は34.09。12日につけた50.24からは下がったとはいえ、市場は日経平均が68%の確率で毎日2.1%(26日終値からは約340円)上下に振れると予想している計算になる。

 世界の主要市場のなかで、過去30日の日本株の変動率は年率44.7%で堂々のトップだ。中国の上海・深圳やブラジルなど新興国を上回る相場の荒れぶりに「日本株はなぜこれほど変動が大きいのかという投資家からの質問が後を絶たない」(UBS証券の大川智宏氏)のも、むべなるかな。

 輸出比率が高いため世界の景気変動の影響を受けやすいうえ、海外投資家のシェアが高く海外マネーの出入りで大きく動く――。日本株の変動率が高い理由は従来こう説明されてきた。いずれも正しいのだろう。そして、さらに株価変動を増幅する新条件が加わった。それがマイナス金利だ。

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 企業の理論株価は将来利益の合計を現在価値に割り戻して求められる。企業の利益成長がないと仮定した最も単純なモデルでは、理論株価は1株利益を割引率で割った値になる。

 割引率はリスクのない投資のリターンである長期金利(国債利回り)に、投資家が株を買うリスクの見返りに要求するリターンである「リスクプレミアム」を足して求める。そこにマイナス金利が登場し、日本株の株価算定の割引率を決めるベースとなる長期金利がマイナス圏に突入した。

 理論株価の算定式で考えると、1株利益とリスクプレミアムを一定とすれば分母の割引率の水準が下がり、株価は上昇する。だがそれと共に忘れていけないのは、リスクプレミアムが猫の目のようにころころと日々変動することだ。

 「マイナス金利下では割引率の水準が下がり、市場心理で決まるリスクプレミアムの振れが株価に大きな影響を与える」。大和証券の吉野貴晶氏はこう説明する。これは割引率と理論株価の反比例の関係を描いたグラフからも一目瞭然だ。

 世界景気という外部環境が落ち着いてくれば、相場もおのずと安定する――。この市場の経験則は正しい。ただマイナス金利下では理論上、株価の動きも変わってくるため、荒れる相場はそう簡単には元に戻らないかもしれない。マイナス金利は投資家にそんなうんざりする事実に向き合うことも迫っている。

(証券部次長 川崎健)



市場激動 識者に聞く 日銀限界、企業挑戦を KKRジャパン会長 斉藤惇氏 2016/02/27 本日の日本経済新聞より

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 ――金融市場は依然、不安定です。

 「昨年後半から、海外の一部で通貨安を狙った(日欧などの)金融緩和競争の限界論がささやかれていた。それでも多くの市場関係者が株高の楽観を崩さなかったので危うさを感じていた。年明けから中国景気の鈍化や原油価格の急落が重なり、投資家が一気にリスク回避に動いた」

 「1980年代後半の日本や2000年代後半の米国で不動産バブルが崩壊した時は、中銀の金融緩和策が最後の救済者の役割を果たした。だが今回は中銀自身がバランスシートを膨らませ、未曽有のカネ余りを生んだ。最後のとりでのいないバブルの後始末をどうするのか、まだ誰にも分からない」

 ――日銀のマイナス金利政策をどうみますか。

 「なぜ日銀はここまで踏み込まざるを得なかったのか。根底には深刻な需要不足がある。黒田東彦総裁も、これで金融機関が融資にお金を振り向けると楽観してはいないと思う。金融政策は潤滑油にすぎないという原則に立ち返るべきだ。アベノミクスの第3の矢である成長戦略が十分な成果を生んでこなかったという現実を直視する必要があるだろう」

 ――何が問題ですか。

 「自動車や鉄鋼といった既存の基幹産業に頼っても解決にならない。政府には環太平洋経済連携協定(TPP)をテコに、日本を農業の輸出大国に変貌させてほしい。医療など有望分野にもっと資金を投じるべきだ。ノーベル賞を受賞した山中伸弥京都大教授ほどの人が、マラソンで研究への寄付を募るというのはおかしい」

 「米国ではフェイスブックやグーグルの持ち株会社アルファベットなどの新興企業が時価総額の上位に食い込んでいる。日本はトヨタ自動車、NTTと顔ぶれがほとんど変わらない。これで本当にやっていけるのかということだ」

 ――となると日本株の上昇余地はあまりないのでしょうか。

 「いや、そうは思わない。1バレル30ドル前後の原油安は、輸入国の日本に大きな『減税効果』をもたらす。悲観に傾く今の市場で、そのプラス効果が正当に評価されているとはいえない」

 「構造改革などを通じて収益力の向上に取り組む企業が増えてきた。円相場が1ドル=115円程度で推移したとしても、原料安の恩恵で来期も増益を確保できるのではないか。今の日本株は良い買い場だと思う」

 ――企業に求められる成長戦略とは。

 「技術革新は当然のことだが、消費者の需要をくみ取ったマーケティングも改善の余地が大きい。経営者には前任者を否定し、新しい次元の成長を目指す挑戦をしてほしい。先進的な企業統治も欠かせない。ブリヂストン、HOYA、オムロンなどお手本になる企業はいろいろある」

 「活発なM&A(合併・買収)は評価できる。同時に外資を受け入れる覚悟も持つべきだろう。技術移転が怖いというが日本はそもそも海外の技術をうまく活用して成長してきた。日本は聖域だといって『閉じた経営』をしていては、その先の成長はない」

(聞き手は川上穣)

=随時掲載

 野村証券副社長、産業再生機構社長を経て、15年6月まで日本取引所グループCEO。76歳。



英ポンド7年ぶり安値 対ドル、EU離脱懸念で 2016/02/26 本日の日本経済新聞より

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 外国為替市場で英ポンドが大幅に下落している。先週、英国で欧州連合(EU)残留の是非を問う国民投票が6月23日に実施されることが決まったことをきっかけに、市場で英国のEU離脱への懸念が広がってきたためだ。ポンドの対ドル相場は24日に一時1ポンド=1.38ドル後半となり、2009年3月以来、約7年ぶりの安値水準を付けた。

 25日の東京市場ではポンドの対円相場も1ポンド=155円前後と13年10月以来、2年4カ月ぶりの安値圏で推移した。対円相場の下落率は月初比で10%と、対ドル以上に急ピッチだ。世界的なリスク回避の流れを背景に、主要通貨で円高が進んでいることが一因となっている。

 残留か離脱かで英世論は二分している。キャメロン英首相はEUにとどまるために「全力で国民を説得する」と表明している。一方、有力な政治家であるジョンソン・ロンドン市長はEU離脱を支持した。

 市場の懸念は強まっている。ゴールドマン・サックス・グループは今月上旬公表したリポートで、仮に英国の離脱が現実となった場合にポンドの対ドル相場は「1.15~1.20ドル前後」と、現在の水準から16%程度下落する可能性があると予想した。

 一方、JPモルガン・チェース銀行の棚瀬順哉チーフFXストラテジストは「国民投票では英国の残留が決まるだろう」と予想し、「ポンド相場に織り込まれた離脱リスクが剥落することで、最終的には反発に向かう」と見込む。

 EU離脱を巡る英国の不透明感は国民投票後もくすぶりそうだ。今後の世論調査の結果などを材料に海外投資家の間で離脱への懸念が強まれば、英国への資本の流入が止まり、ポンドがさらに押し下げられる懸念もある。みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジストは「当面ポンドは買いにくい通貨になった」と指摘する。



市場激動 識者に聞く 不安増幅 世界脅かす 国際通貨研究所理事長 行天豊雄氏 2016/02/26 本日の日本経済新聞より

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 ――市場波乱の原因をどうみるか。

 「世界の金融市場には2007~08年の危機からまだ回復し切れていないのだという不安感、自信のなさがある。米利上げや原油安、中国経済の減速などで市場が大きく揺れたが、世界が危機的な状況だとの確信ある悲観論が広がったわけではない。どうしたらよいか分からないという途方に暮れた状態ではないか」

 ――経済にはどのような影響があるのか。

 「世界経済がまた景気後退に陥るという恐怖感が非常に強い。そう思って行動すると、投資も消費も進まず実際に景気後退に陥ってしまう。著名投資家のジョージ・ソロス氏がいうリフレキシビティー(再帰性)といえる状況で、行動と結果が増幅しあっている」

 「ただ、私自身は世界が景気後退に陥ることはないとみている。世界経済の成長鈍化への不安を唱える向きもあるが、理論的に解明されたものではない。米景気も腰折れしていない。心理の問題という面が強い」

 ――20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議も近い。

 「主要国がどのような政策を進めていくのか、世界的な規模で透明性の向上に取り組むべきだ。透明性には国によってだいぶ差がある」

 ――中国の構造改革が大きな焦点だ。

 「中国は過剰投資、過剰融資を解消して内需主導の経済にするという構造改革の渦中にある。人民元は安くなって当然だ。当局も緩やかな元安を望んでおり、ドルだけでなく円やユーロも含めた通貨バスケットに対する安定を重視する方向に制度を変えた。だが、制度変更の説明が不十分だったため、市場の混乱を招いた。中国当局もそこから教訓を得たはずだ」

 「SDR(国際通貨基金の特別引き出し権)の構成通貨に採用されて(世界が)人民元を見る目が厳しくなった。身から出たサビだが、まだ途上国で、国家資本主義を進めてきた国だということは忘れてはならない」

 ――日本はマイナス金利政策など日銀の金融緩和だけが目立つ。

 「できることはすべてやっている。世界の金融史でも特筆すべきものだ。ただ、金融緩和の効果を実体経済にどう伝達していくかという問題があり、期待通りの結果にはなっていない」

 「確かに円安・株高が進んだが、将来への期待や安心がなければ、企業や家計は投資や消費に動けない。人口減対策や社会保障制度の安定、財政再建などの中長期的に解決しなくてはいけない課題に対し、最初の一歩を踏み出すことが重要だ」

 ――マイナス金利政策自体への評価は。

 「効果としてはマイナス金利で投資が積極化することだろうが実際にどうなるかは分からない。副作用では住宅バブルが懸念されるが、1980年代後半に1度経験した日本では考えにくい」

 「中央銀行が金融政策を考えられる手段、規模に広げていくというのは正しい。効果はマイナスではなさそうだが、プラスかどうかは分からない。金融政策の手段は無限ではなく、先々の選択肢は減っていく。金融政策だけで事態は解決しないというのが、日本が過去20年で得た教訓だ」

(聞き手は石川潤)

=随時掲載

 元財務官。1970年代以降の金融と世界経済の軌跡に詳しい。85歳。