経営書を読む 若桑みどり著「クアトロ・ラガッツィ」(4) グローバル化リーダー あなたの会社、人材いますか 2016/05/31 本日の日本経済新聞より

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 はるばる日本からきた少年使節団はローマで大歓待を受け、接見したグレゴリオ教皇は、彼らを見て感動のあまり号泣した――このドラマの脚本、演出、監督をすべて手掛けたのが類いまれなるグローバル経営者、ヴァリニャーノでした。

 グローバル化へとかじを切る戦略的な意思決定をしたのはバチカン本社(教皇庁)であったにせよ、グローバル化が成功するかどうかは、結局のところヴァリニャーノのような非連続を乗り越えることができる経営人材がいるかどうかにかかっています。

 過去の日本の企業にしてもそうです。高度成長期の日本の製造業は、猛烈な勢いで商売を世界に広げた実績があります。そこでもヴァリニャーノばりの経営者(典型例がソニーの盛田昭夫さん)が相手の市場や文化を深く理解して、率先して切り込んでいきました。

 単純にこちらのやり方を押しつけるか、あるいは単純に向こうに全部合わせるかの二者択一なら話は簡単です。しかも布教にしても経営にしても、グローバル化は二者択一ではなく、二者の融合の問題となります。その融合のインターフェースをどうとるか。そこにセンスが求められます。

 ヴァリニャーノのような本質を見抜く洞察力と相手を理解しようとする謙虚さを備えていて、しかも自分勝手に物事を解釈しないリアリズムでものを考えるリーダーが必要なのです。ただ社員全員がヴァリニャーノである必要はありません。自分の会社のヴァリニャーノを見極めるのがグローバル経営の第一歩です。

 本書を日本企業のグローバル経営に対するメッセージとして読めば、結論はこうなります。「あなたの会社にヴァリニャーノがいるか。いるとしたらそれは誰か」。この問いに対して答えがすぐに出なければ、グローバル化はかけ声倒れに終わるでしょう。グローバル化をリードできる経営人材の見極めをすべてに優先すべきです。

=この項おわり



一目均衡 中国、L字回復のジレンマ 上海支局 張 勇祥 2016/05/31 本日の日本経済新聞より

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 「大学を誘致し、快適な住宅や商業施設が集まる新しい街を造る」。一辺あたり4、5メートルもある巨大な模型には、マンションなどのミニチュアがびっしりと置かれていた。スクリーンからはドラの音とともに「モダンなアーバンライフ」のイメージ映像が流れる。

マンションなどのミニチュアがびっしりと並ぶ「双福新区」の開発計画を示す模型

 中国西部の大都市、重慶。中心部から車で30分ほど離れた新市街地「双福新区」の開発計画を説明する李勇主任の言葉には力がこもっていた。安価な住宅を多く建設した成果で農村からの移住者が相次ぎ、消費を押し上げているという。

 大規模開発の財源のカラクリを探ると「重慶市双福建設開発」という会社にたどり着く。地方政府が間接的に全株式を保有し資金調達やインフラ投資の受け皿になる「地方融資平台」と呼ばれる一社だ。

 この融資平台は今年に入り社債の発行を再開した。目論見書には保有する土地の一覧が載る。銀行融資ではない、迂回した資金調達――シャドーバンキングが息を吹き返しつつある。

 背景には景気がなかなか上向かないという現状がある。共産党の機関紙、人民日報が9日に掲載した「権威人士」へのインタビューでは「経済は(回復が緩やかな)L字」「バラマキで経済にカンフル剤を打つのは避けるべきだ」と強調した。だが、地方政府の役人にしてみれば景気が失速してしまっては出世に響く。

 構造改革は不可欠だが、景気は公共投資を積み増さなければ現状を維持できないほど弱い。政府や国有企業のバランスシートを拡大し、問題を先送りするのが最も無難だ。L字回復のジレンマと官僚の無作為が中国を覆っている。

 昨年6月の高値からの下落率が5割近い中国の株式市場でも同様だ。バブル崩壊に慌てた当局は証券会社幹部を拘束し、信用取引を規制し、公的資金を導入して相場を下支えした。株式需給の悪化を恐れ、新規株式公開(IPO)は前年の半分以下に絞り込んだ。

 上海総合指数は5月中旬以降、ほとんどの期間を2800台前半で推移する。時折2700台に下がると午後の取引で買いが入り、値を戻す。買われるのは時価総額が大きく指数への影響が強い銀行、保険株が多い。介入の影がちらつく。

 株価形成を市場メカニズムに委ねるのではなく安易な介入を繰り返した結果、投資家は姿を消した。27日の上海市場の売買代金は1200億元台にとどまり、2015年6月のピーク(1兆3117億元)の10分の1に落ち込んだ。実体経済と異なり、株式市場では副作用がすぐに表れる。

 「MSCIが人民元建てA株を指数に採用した際に買われるのはどこか」「海外上場の中国企業が本土市場に復帰する場合、裏口上場を目指すことが多いが、逆さ合併の対象として買われる『ハコ企業』は」。辛うじて市場に残る投資家たちの口の端に上るのはこういった話題ばかり。中国の株式市場が信頼を取り戻す道筋は見えないままだ。



決算番付2016(6)市場予想との乖離率 千代建トップ、受注残に期待 2016/05/31 本日の日本経済新聞より

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 2017年3月期の業績予想で、会社計画と株式市場の見方が分かれているのはどこか。市場予想が会社予想を大きく上回っていれば、それだけ今後の上方修正の可能性が高く、逆に下方に乖離(かいり)していれば、計画未達の懸念が高いとみることができる。

 アナリストの平均的な予想(QUICKコンセンサス)が会社見通しの2倍以上に達しているのが、千代田化工建設だ。会社側は原油安を受けた資源開発プロジェクトの需要減を警戒。今期の連結経常利益を前期比14%減の140億円と見込む。一方、アナリストが着目するのは豊富な手持ちの受注残だ。追加工事案件の上積みも勘案すると、経常利益は前期からの倍増が見込めるとする。

 3位の日本郵船も会社と市場の見方が分かれる。会社が海運市況の回復を保守的に見積もるのに対して、株式市場では同業他社に比べ市況の影響は比較的小さいとみているようだ。

 東京ガス(5位)は新事業次第で上方修正の可能性がありそうだ。会社計画は400億円と前期比8割の大幅減。液化天然ガス(LNG)価格下落によるガス料金引き下げが響く。ただ、4月からの電力自由化では東京電力系からの契約乗り換えが広がっており、利益上積みの期待が高い。

 反対に、会社計画に対して市場の見方が厳しい第1位は電子回路の接続部品を手がける日本航空電子工業。会社は経常増益を見込むが、アナリストは高価格帯向けスマートフォン部品の不振から1割減益とみる。荏原への市場の見方も厳しいが、会社の為替前提は1ドル=105円。為替次第ではアナリストの見方が上振れる余地もある。



短時間の残業代「手厚く」 ディスコ、長時間是正へ割増率上げ 2016/05/31 本日の日本経済新聞より

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 半導体製造装置メーカーのディスコは時間外労働(残業)の割増賃金について、月60時間までの場合、残業が短い方が割増率が高くなるように制度を改定した。残業を減らす社員のインセンティブを高め、長時間労働を自発的に改めるよう促す。割増率の逆転について同社は「同様の事例はないのではないか」(広報部)と見ている。

 4月の勤務分から残業が月45時間までの割増率を25%から35%に引き上げ、45時間を超え60時間までの30%より高くした。60時間を超す分は従来通り50%とする。

 労働基準法は時間外労働に対し、基準内賃金に一定の割合をかけた割増賃金を払うよう義務づけている。原則25%以上で、月60時間を超すと50%以上と規定している。会社側が命じるのが前提だが、実際には残業するかどうかを社員の判断に委ねる会社も多い。残業するほど時間給が増える割増賃金は長時間労働を助長しかねない。

 ディスコは割増率を逆転させることで月45時間を超える残業をしている社員の時短につながる効果を期待している。当面の人件費は年間で約2億円上昇する見込み。「他の施策と併せて残業を減らせば吸収できる」(人財部)とみている。

 45時間を超える残業に対する割増率は従来と変わらず、実際に残業削減につながるかは検証が必要だ。同社では昨年度、月60時間超の残業をした社員が19%、45~60時間も16%だった。半導体製造装置事業は繁閑の差が大きく、技術者の残業が多くなりがちだという。

 国会では労働時間でなく成果に対して賃金を払う「脱時間給制度」を盛り込んだ労基法改正案が昨年4月の提出以来棚ざらしになっている。ディスコの試みは働き方と賃金を巡る議論に一石を投じることになりそうだ。



農水省、バター追加輸入へ 3年連続、脱脂粉乳も 2016/05/31 本日の日本経済新聞より

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 農林水産省は国家貿易で管理しているバターと脱脂粉乳について、3年連続で追加輸入する方針だ。酪農家の減少でバター不足が続いているうえ、売れ行き好調な高機能ヨーグルトの原料となる脱脂粉乳についても不足が見込まれるためだ。

 政府の規制改革会議は今月19日、バター不足の解消に向けて生乳の流通を「抜本的に改革する」答申を安倍晋三首相に提出したばかり。再び追加輸入が必要になったことで、現行制度の改善を求める声が強まりそうだ。

 バターや脱脂粉乳は農水省が輸入量や価格水準を厳しく管理する「国家貿易」の下にある。1993年に合意したウルグアイ・ラウンド交渉に基づき、政府が毎年一定量を輸入しているが、足りない場合は年3回のタイミングで追加輸入するかどうか判断している。

 今夏に欧州やニュージーランドなどからバターと脱脂粉乳を合計数千トン規模で輸入し、クリスマス需要が盛り上がる冬に備える。バターは年間の国内需要が7万~8万トンあるのに対し、国内生産は年6万トン台に落ち込んでいる。小売店ではバター200グラム(有塩)が430円前後と、過去最高値圏にある。

 脱脂粉乳は雪印メグミルクなど大手乳業の引き合いが強まっている。明治の「R―1」など機能性ヨーグルトの販売が伸びているためだ。国家貿易による脱脂粉乳の落札価格は上昇傾向にある。

 農水省は今年1月、2016年度は国家貿易でバター7000トン、脱脂粉乳2000トンを輸入すると決めた。ただ、現時点でバターだけで少なくとも1200トンの不足が見込まれている。

 民間による乳製品の輸入には高率の関税をかけるなど政府は国内の酪農業界を保護してきたが、バターや脱脂粉乳向けの生乳は牛乳より安く、酪農家の間で増産に転じる機運は乏しい状況が続いている。



シェアエコノミーとルール(下) 段ボールに集った知恵 独占捨て共存共栄 2016/05/31 本日の日本経済新聞より

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 東京都台東区の「ホテルグラフィー」。観葉植物が茂る雰囲気が受け、欧州からの旅行者に人気だ。ロビーにパンフレットを置いた飾り棚がある。素材は段ボールだ。

 製造したのは王子グループの王子産業資材マネジメント(王子IMM、東京・中央)。先細りする包装資材の需要を開拓するため、消費者との共同開発を支援するサイト「Wemake(ウィーメイク)」で昨年春からアイデアを募った。

ホテルに置かれた、モノ作りサイト「Wemake」を通じて作られた段ボール製の棚(東京都台東区)

 王子IMMの商品開発担当者は約40人。サイトでは数百人から意見をもらえる。「シンプルでおしゃれな棚ができた。社内にはない発想だ」と同社の山県茂・販売戦略本部長は手応えを感じる。

 あえて捨てたものもある。商品の知的財産権だ。棚は一見素朴だが、強度や量産しやすさなどを考え抜いた。開発プロセスをネットに公開しなければ特許権などを獲得できる可能性もあったが「知財を独占するより、新たなものづくりを選んだ」(山県本部長)。

 技術開発の成果や著作物は、法令に基づいて独占権を得ることに価値があった。その常識が崩れつつある。

 バンダイナムコエンターテインメントは自社ゲームの知財を開放する「カタログIPオープン化プロジェクト」を進める。審査を通った個人や企業に、ゲームのキャラクターや音楽を使ったスマートフォン(スマホ)向けゲームなどの二次創作を認める仕組みだ。

 対象は、2000年代までに発売した「パックマン」「ゼビウス」といった計21のゲーム。バンダイナムコは、二次創作されたゲームに付ける広告収入の一部などを受け取る。できるだけ多く使ってもらい、広く薄く対価を得る狙いだ。

 ネットで知恵を募る「ユーザー・イノベーション」の手法に詳しい神戸大学大学院経営学研究科の小川進教授は「大量生産・販売に向かずに企業が製品化しづらかった商品やサービスを開発できる」と話す。

 シェアリングエコノミーの存在感は高まっているが、先行きはバラ色なのだろうか。

■米で社会問題に

 月20万円以上稼げる人は、約80万人の利用者のうち、たった111人――。ネットで個人に仕事を外注するクラウドソーシング大手のクラウドワークス(東京・渋谷)が今年2月に公表した。同社は「発注者に適正な報酬金額を促している」というが、サイトには「時給200円」などの発注も見られる。

 米国では請負労働者の低賃金などが社会問題になり、この1~2年、訴訟が頻発。ネットで仕事を請け負った労働者側は「正規の従業員と同等の働きなのだから、給与や労災補償なども平等に」と訴える。訴訟対応で資金が回らなくなり破綻した家事代行サービスもある。「日本も二の舞いの恐れがある」。山崎憲・労働政策研究・研修機構主任調査員は警告する。

 ネットを駆使したシェアエコノミーは、世界中から最適な知恵や労働力を調達できる魔法の道具にも思える。だからこそ国境を越えた法的リスクの管理に知恵を出し合わねばならない。



起業の軌跡 全国50万店で覆面調査 セブンイレブンで起業のヒント メディアフラッグ社長 福井 康夫氏 2016/05/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の中小企業面にある「起業の軌跡 全国50万店で覆面調査 セブンイレブンで起業のヒント メディアフラッグ社長 福井 康夫氏」です。





 メディアフラッグはお客を装った調査員が小売り・外食業の店舗を調べる覆面調査を行い、小売店やメーカーに販売促進策を提案する。年間のべ21万人の調査員を約50万店舗に派遣し、顧客企業の売り場再生を支援する。福井康夫社長はセブン―イレブン・ジャパンでのスーパーバイザーとしての勤務を通じて起業のきっかけをつかんだ。

 祖父も父も事業家だったことから自らも起業を志した。まず営業や金融を学ぶため当時の三和銀行に入行した。配属先の支店はスーパーや衣料品店との取引が中心だったことから小売業への関心が芽生えた。5年目の1995年に転職したセブンイレブンでの仕事で起業のヒントを得た。

 同社は当時6000程度の店を展開していたが、フェアや新商品の発売に合わせて全店舗で店づくりを意識的に統一し、集客力を高めていた。他社のコンビニはフェア初日はこれだけ統一されていない。自らも神奈川県内で本部とオーナーをつなぐスーパーバイザーとして早朝でも深夜でも担当する店に出向いて、レイアウト変更などの作業に従事し、集客力の高さを肌で感じた。

 売り場再生で試行錯誤する店は多い。福井氏はセブンイレブンで習得したノウハウをベースに売り場活性化や販売促進の支援会社であるメディアフラッグを2004年2月に設立した。

 小売店側が店頭の状況をいち早く把握し、改善につなげられるようにする覆面調査と、メーカーが大規模な販売促進策を打ち出す際に営業担当者が回りきれない店舗支援の両方を手がけることにした。調査員を募り、依頼を受けた店の近くに住む登録者を派遣。携帯メールで簡便、迅速に報告もできるようにした。

 12年に東証マザーズに上場。現在は21万人の派遣人員を抱え、年間50万店舗を手がける規模に成長した。「中途半端なベンチャーで終わりたくない」と国内で培ったノウハウをインドネシアでの市場調査やインドでの宅配便関連サービスなど海外事業に広げている。

(川崎なつ美)

 ふくい・やすお

1991年早大法卒。セブン―イレブン・ジャパンなどを経て2004年メディアフラッグ設立。千葉県出身。48歳



グローバル・オピニオン 途上国も慢性病対策が急務 イアン・ブレマー氏 米ユーラシア・グループ社長 2016/05/30 本日の日本経済新聞より

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 糖尿病など慢性疾患の拡大は先進国、開発途上国を問わず、人々の生活ひいてはその国の経済全体の脅威となる。しかし、各国政府は迅速で有効な対策をとってはいない。

イアン・ブレマー氏

 米商工会議所が「保健と経済に関する世界イニシアチブ」の一環として発表した最近の報告書は、「非感染性疾患によって失われた生産性は調査対象国平均で国内総生産(GDP)の約6.5%と大きく、ほとんどの国でコストの増加要因となることが予想される」としている。これは、疾患による労働者の欠勤、勤務時間の短縮、早期退職で生産性がどのくらい低下したかを推定したものだ。

 政府や国際公衆衛生機関はジカ熱のような急性の感染症に注目し、資源を集中投入する傾向がある。こうした感染症は人々を不安にし、豊かな国の脅威になり始めればニュースになる。しかし実際には、糖尿病や冠動脈性疾患、高血圧、がんのような生活習慣に関連した慢性疾患の方が国民の健康やその国の経済に深く持続的な影響を及ぼす。しかも、危機にはなっていないうえメディアの関心が低いことから、これらの問題に取り組むことは難しくなっている。世界保健機関(WHO)も近年、大幅に予算を削減している。

 非感染症の増加による政治・経済的影響が最も深刻なのは発展途上国だろう。貧困削減で食事や生活習慣が変化し高齢化が進む中で、先進国のように慢性疾患が問題になるようになる。糖尿病のような疾患がマラリアにとって代わり主要な懸念事項になる。

 医療政策はコストやリスクを伴うことから、政策決定者にとってその変更は政治的に最も危険な分野の一つだ。発展途上国では、医療費の自己負担が食費に次いで高い。医療費によって毎年1億5000万人が貧困に逆戻りしていると推測されている。

 政府は直ちに行動を起こすべきだ。医療インフラの構築には時間がかかる。韓国は、国民皆保険制度の導入で史上最も迅速に成功を収めた国の一つと考えられているが、それでも構築に12年かかった。人々が貧困から脱出し、中間層が拡大し、よりよいサービスに対する国民の期待が高まる中で、医療の安全網構築が遅れた政府は向こう10年間、社会の不安定化のリスクに直面するだろう。

 トルコではエルドアン大統領と与党・公正発展党が、知的に設計され、資金も潤沢な医療制度を確立した。中国政府は長年、医療インフラの改善とより多数によりよい医療を提供することに資源を振り向けることが急務と認識してきた。習近平政権は医療改革に真剣に取り組んでいるが、その前進の大半は医療サービスの適用拡大や慢性疾患の増加への対応ではなく、医薬品へのアクセスと消費者のコスト引き下げにおけるものだ。

 医療の安全網構築の見通しに楽観的になれる理由もある。医師の教育や病院の建設、長期介護施設に十分な投資をしていない政府でさえ、大気や水、衛生の改善には投資をしている。こうした改善はたとえ間接的であっても、公衆衛生を向上させる。しかしこれだけでは、これまで確立してこなかった医療の安全網構築への需要の高まりに追いつくのには十分でない。

 政府が必要に迫られる前に大胆な行動をとることはまれだ。しかし、発展途上国における慢性的な健康問題の急増は、今からやってくることがわかりきっている嵐だ。

 Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。ユーラシア・グループは米調査会社。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。46歳。



月曜経済観測 アベノミクスと株式市場 追加政策ないと上値重く 野村ホールディングスCEO 永井浩二氏 2016/05/30 本日の日本経済新聞より

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 日経平均株価は前年比で2割ほど低い水準にとどまる。主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が27日閉幕したが、アベノミクスへの株式市場の信認が低下しているとの指摘も多い。実態はどうか。証券最大手、野村ホールディングスの永井浩二グループ最高経営責任者(CEO)に聞いた。

為替の前提狂う

 ――2016年の株式相場は市場関係者にとって誤算続きのようです。理由は何でしょうか。

 「最大の要因は外国為替相場だ。昨年末時点で今年は1ドル=120~130円で推移すると想定していたが、最近は1ドル=110~120円と円高・ドル安方向に修正された。米国は経済面では予想どおり利上げ基調になったが、政治的に円安・ドル高を認めない姿勢に転じた」

 「為替の前提が変わると企業業績にも影響が出る。16%程度伸びると見ていた15年度の企業の1株利益は資源安も響き、ほとんど横ばいだった。16年度は12%程度伸びそうだが、それを前提にしても年末の日経平均株価は1万9000円程度ではないか」

 ――外国人投資家も売り越しの姿勢が目立つようになりました。アベノミクスへの信認が下がっているのでしょうか。

 「今のところ大きな失望感が広がっているわけではない。アベノミクスが始まってから日本株は随分と上がった。世界経済に不透明感が強まる今、外国人投資家がとりあえず利益の確定に出るのは自然なことだ。いわば、アベノミクスの利食い売りだ」

 「外国人投資家が売却して得た現金を再び日本株に投じるかどうかが重要。安倍政権が掲げた脱デフレへの期待が従来よりも後退しつつある。政策対応が何もなければ、日本経済への悲観論が強まる。日本国債の格付けへの影響は非常に気になるが、消費税の引き上げには慎重な判断が必要だろう。財政がどこまで出動できるかについても市場の関心は高い」

 ――市場から見たグローバル経済のリスクは何でしょうか。

 「まず6月23日の英国の国民投票が挙げられる。仮に英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めれば、ポンドだけでなくユーロも売られるのではないか。これは翻って円高圧力が強まることを意味する。パナマ文書の問題もお金の流れや各国の政治への影響が読み切れない」

 「米大統領選の行方も混沌としており、市場の不確実性を高めている。米市場関係者が警戒を強めているのを感じる」

世界で流動性低下

 ――リーマン・ショックからすでに8年目です。金融機関経営にどんな変化が起きていますか。

 「規制が強化され、金融機関が市場取引に関するリスクを取りにくくなった。今後の規制がどうなるかを見通すのが難しいため、バランスシートを使って流動性を供給する業務は縮小している」

 「こうした事情から、株式、債券を問わず世界中の金融市場で流動性が低下している。ちょっとした出来事で株価などが乱高下しやすくなっているのも、背景には金融規制の影響も横たわっている」

(聞き手は編集委員 小平龍四郎)

 ながい・こうじ 2012年就任。「野村をつくりかえる」と言い続ける。57歳。



こころの健康学 思い込みの怖さ 物差しの違い気づけず 2016/05/29 本日の日本経済新聞より

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 最近、働く人のパフォーマンスの向上やメンタル不調の予防を目的に活動しているビジネストレーナーの人たちが講話のなかで、マルハナバチを引き合いに出しながら「思い込み」の力について話をすることが多いと聞いた。

 その話を聞いて知ったのだが、マルハナバチは、航空力学の理論では飛べるはずがないと考えられていたという。もしマルハナバチが、自分は空を飛べないと考えていたとすれば、とうてい飛ぶことはできなかっただろう。いや、空を飛ぼうという発想さえ出てこなかったかもしれない。

 逆にいえば、自分は空を飛ぶことができないはずだという航空力学の理論を知らなかったからこそ、マルハナバチは空を飛ぼうとしたし、実際に飛ぶことができたのだ。

 私たちは、思い込みによって、本来ならできることをできないと考え、せっかくの可能性をつぶしてしまっていることがよくある。

 同じ「飛ぶ」という現象でも、飛行機のように羽が固定されている物体が揚力を使って飛ぶ場合と、マルハナバチのような昆虫が羽を自在に動かして空中を飛ぶ場合とでは、飛ぶメカニズムが違っているという。そもそも飛行機とマルハナバチとでは大きさが全然違う。そこにも、メカニズムの違いが隠れている。

 思い込みの怖さは、すぐにわかる幾つもの違いに気がつかないままに全く違う物差しで判断して、結論を決めつけてしまっているところにある。一方的な思い込みから解放されれば、私たちは、自分本来の力を発揮できるようになる。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)