「中国の挑発停止が条件」 南シナ海協議巡り比外相 2016/08/31 本日の日本経済新聞より

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 【マニラ=秋田浩之】フィリピンのヤサイ外相は、南シナ海の領有権問題をめぐる中国との2国間協議について、中国が挑発をやめることが交渉入りの条件になるとの立場を明らかにした。南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)で埋め立てをしないことも条件になるという。フィリピン政府高官が2国間協議の具体的な条件を明らかにするのは初めて。

記者の質問に応じるヤサイ外相(29日、マニラ)

 29~30日にマニラで開かれた民間対話「日本・アセアン・メディアフォーラム」(国際交流基金主催)の参加者との会見で語った。ヤサイ外相は具体的な条件として、(1)南シナ海のスカボロー礁で埋め立てをしない(2)同礁周辺でのフィリピン漁民への妨害行為をやめる――ことなどを挙げた。

 国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は7月、中国の主張を全面的に退ける判決を下したが、中国は受け入れを拒んでいる。ヤサイ外相は「フィリピンは中国に対し、判決を尊重するよう求めてきた」と指摘。協議の前提条件として中国から判決棚上げを要求されても、同意しない姿勢を示した。

 そのうえで「協議を進める前に、(中国側が)信頼醸成のための措置をとるよう望みたい。話し合いを続ける以上、挑発行為は一切、すべきではない」と主張した。

 特に、スカボロー礁の埋め立ては「米国も、越えてはならない一線だと考えている」と語り、協議の前提になるとの認識を示した。

 同岩礁周辺で中国がフィリピン漁民の活動を妨害している問題でも「信頼醸成措置の一環として、我が国の漁民が戻れるようにしてもらいたい」と求めた。

 一方で、2国間協議では「中国がメンツを保てる機会を与えることが大事だ」とも説明。そのための最善の策は、経済や貿易、観光などの分野で中国との関係強化を進めることだと強調した。

 その理由としては「中国との関係において、南シナ海紛争はごく小さな側面にすぎない。中国との関係を強めることはできるし、それが世界の平和と安定に大きく貢献する」と力説した。



米「新政権も印と協力」 戦略・商業対話、経済・安保で連携強化 2016/08/31 本日の日本経済新聞より

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 【ニューデリー=黒沼勇史】インド訪問中のケリー米国務長官とプリツカー米商務長官は30日、ニューデリーでスワラジ印外相らと会い、米印戦略・商業対話を開いた。経済・安全保障での協力や、インドの原子力供給国グループ(NSG)入りについて議論。ケリー氏は来年1月に政権交代するのを踏まえ「オバマ大統領が『21世紀を特徴付けるパートナーシップ』と呼んだ米印関係を新政権も強化する」と述べた。

 米印は2010年に「戦略対話」を始めた。経済分野の関係強化を目的に15年から「戦略・商業対話」に拡大し、今回は2回目。インド側からはスワラジ外相やシタラマン商工相が出席した。

 戦略・商業対話後の記者会見で、ケリー氏はサイバー犯罪を減らすための枠組み構築で合意したと表明した。東芝傘下の米原子力大手ウエスチングハウス(WH)が6基の原子炉をインドに納入する案件にも触れ「我々はこれを前進させることで合意した」と述べた。

 30日に別途開かれた「米印CEO(最高経営責任者)フォーラム」には米側からは米機械大手ハネウェル・インターナショナルのデーブ・コートCEOらが、インド側からは同国最大の財閥タタ・グループのサイラス・ミストリー会長らが出席。新興企業の育成やインフラ・都市整備での協力を促すという。米印は貿易額を15年比で5倍近い5千億ドル(約51兆円)に増やす目標を掲げる。

 ケリー氏とスワラジ外相は、原発関連設備の輸出を狙うインドが求めている原子力技術の輸出を管理するNSGへの参加や、インドの国連常任理事国入りについて、米国が支持することも確認した。6月のNSG総会では中国が難色を示し、インド参加の判断が見送られた経緯がある。

 一方、インドのパリカル国防相は29日、ワシントンでカーター米国防長官と会談し、4月に大筋合意していた後方支援などを含む補給支援の覚書に署名した。パリカル氏はインドが防衛分野で外資規制を緩和した点を強調し、米国による対印投資を促した。



迫真 ソフトバンク再起動(2)「歓迎されるか、拒絶か」 2016/08/31 本日の日本経済新聞より

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 7月17日、羽田空港。ソフトバンクグループ社長の孫正義(59)はプライベートジェットが飛び立つ直前、珍しく緊張した面持ちで電話を握りしめた。

チェンバース会長(右)は過去にも英社を売却した=AFP時事

 受話器の向こうは数日前に英国の財務相に就任したばかりのフィリップ・ハモンド(60)。「我々は英国に歓迎されるのか拒絶されるのか、お聞きしたい」と詰め寄るとハモンドは「歓迎する」と返した。孫はほっと一息つくとロンドンに向かう機体に乗り込んだ。翌日には英アーム・ホールディングス買収の発表記者会見を控えていた。

 アームの買収交渉で孫が契約書でこだわった文言がある。「5年で英国の従業員を2倍にする」だ。アームは世界の秀才が集うケンブリッジ大学の近くに本社を構えるが、半導体技術者は世界的な争奪戦。アームの担当者は「大幅に増やす」にとどめるよう提案したが、孫は2倍を譲らなかった。しかも英裁判所に提出し、法的拘束力を持つ公約にするとまで言い出した。

 なぜか。アームは「英国の比類なき資産」(英フィナンシャル・タイムズ紙)とも呼ばれる。日本企業による買収が国民や政治家の反感を買わないか……。孫が今回の買収交渉で最も神経をとがらせた部分だ。しかもアーム会長のスチュアート・チェンバース(60)には英のガラス大手ピルキントンを日本板硝子に売った「過去」がある。

 孫には世論の怖さに関して忘れられない教訓があった。

 2014年3月11日、米首都ワシントン。米商工会議所で詰めかけた関係者に孫は訴えた。「競争がないから米国の携帯電話料金は下がらない」。孫は前年に米携帯3位(当時)のスプリントを買収、当初は4位のTモバイルUSも買収してAT&T、ベライゾンの2強に対抗する計画だった。これに米当局が反対した。日本企業に通信分野の中枢を握られるとの脅威論が出たからだ。孫は講演で「アイ・ラブ・アメリカ」と叫んだが、思いは届かなかった。

 英国では神風が吹いた。欧州連合(EU)からの離脱だ。企業や投資の英国離れを懸念する声が広がるなかでの巨額買収。孫はEU離脱の影響は「0.1%も頭になかった」と話すが、今回は世論も味方につけた。

 7月25日、孫はロンドン・ダウニング街10番地の首相官邸を訪れた。入居からまだ日が浅い英首相テリーザ・メイ(59)が「(買収は)英国への信認の表明だ」と話しかけると、孫は満足そうな笑みを浮かべた。

(敬称略)



解を探しに 私の居場所(1) 「ヒルズに憧れ」今も 六本木、誇りで生きる 2016/08/30 本日の日本経済新聞より

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 「全国から外車で集まった取引先と、ヒルズのオフィスで会議をする。かっこいいでしょ?」。東京・六本木の雑居ビルの一室で、羽田野真寛さん(27)は「10年後の夢」を語り始めた。

六本木ヒルズ近くのレンタルオフィスで起業した羽田野さん(東京・六本木)

 ついたてに隔てられたわずかなスペースには机とパソコンだけ。六本木ヒルズまで徒歩10分の「1坪オフィス」には、羽田野さんの会社を含め20社ほどが入居する。「いつかはヒルズ族に」と夢見る若い起業家たちの出発地点だ。

 羽田野さんが友人と農業支援企業「Educo」(エデュコ)を立ち上げたのは今年1月。きっかけは農家だった祖父母の引退だ。「このままでは日本の農業がダメになる」と「もうかる農業」を目指し起業した。「六本木のことなら日本中の農家が知っている。大金を稼ぎ、若い人から憧れられる農業の象徴にこれ以上の場所はない」。銀行からは「レンタルオフィスでの開業は印象が良くない」と言われ、8行に口座開設を断られたが、六本木にこだわった。

 いまの月商は数十万円。家賃4万5千円と諸経費を除くと給料は出ない。それでも「ヒルズを見上げたり、若い起業家をみかけたりすると、『絶対に成功してやる』と元気が湧いてくる」。

 ライブドアや楽天、ヤフー。勢いのあるIT企業が入居し、成功した起業家らが競って居を構えた「六本木ヒルズ」。今年開業13年を迎えた。

入居率ほぼ100%

 運営する森ビルによると、地上54階、地下6階の超高層オフィスビル「森タワー」の入居率は現在もほぼ100%。オフィス事業担当部長の小柴正徳さんは「空きフロアの問い合わせは今も多い。旬の企業に入居してもらっている」と胸を張る。ITや投資ファンド中心だった入居企業は製造業やコンサルなど裾野が広がっている。

 「旧財閥系企業などが入る丸の内や銀座とは違う、六本木が持つ『遊び場』としてのカジュアルさがIT起業家をひき付けた」。東京の街に詳しいコラムニストの泉麻人さんの分析だ。さらに入居する企業による経済事件が注目を浴びたことで「『成功=六本木ヒルズ』というブランドイメージが逆に広まった」とみる。

 栄光と挫折に彩られた時代のシンボルは、今も成功を夢見る若者にとってあこがれの場所だ。

 六本木周辺には数多くのレンタルオフィスが点在する。「20代の学生起業家から50代の脱サラ組まで幅広いニーズがある」(運営会社)。「どうしても六本木で」というニーズが高いという。事業を軌道に乗せ広いオフィスに移る経営者がいる一方、「家賃を滞納し、夜逃げ同然で行方をくらます人もいる」。

ふるさとで思う

 「今の自分があるのは東京で上司にしかられながら学んだ経験のおかげ」。真鍋邦大さん(37)は東京大大学院を修了後、米証券大手リーマン・ブラザーズに入社した。ヒルズの32階で3年間、無我夢中で過ごした日々を今も思い出す。

 朝6時から深夜まで働き、仕事が終わると先輩と夜の街へ。電話1本で100億円単位の金を動かし、年収は1千万円を超えた。充実感はあったが、「窓の外に見える富士山を眺める余裕はなかった」。そして2008年9月、会社が破綻した。

 いま、真鍋さんはふるさとの香川県に戻り、四国の食材の通信販売会社「四国食べる通信」を営む。生産者の思いを取材した情報誌を食材と一緒に届ける。会員は全国で450人を超えた。

 「東京の最前線で働くことに誇りもあった」と懐かしく思う一方、こうも考える。「あそこに『暮らし』はなかった」

 再び六本木。営業を終えた羽田野さんが帰路を急ぐ。夕日を浴びたヒルズの足元で夢を追う若者たちの人生が交錯する。

 価値観や時代の変化とともに、人々が暮らしや仕事のよりどころとする場所もうつろう。変わるもの、不変なもの。「正解」を求めて模索する人々とともに現場を歩いた。



経営書を読む 倫理の死角(3) 倫理的な行動 自分本位の判断が妨げに 2016/08/30 本日の日本経済新聞より

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 本書の立場に立てば、人は悪意を持つから倫理に反する行動を取るのではありません。問題をすり替えるのです。

 1986年1月、米ケネディ宇宙センターから打ち上げられたスペースシャトル「チャレンジャー号」は爆発事故を起こし、7人の宇宙飛行士が命を失いました。その前日、爆発の原因となったOリングの製造会社の技術者たちは、米航空宇宙局(NASA)のマネジャーらに超低温下での打ち上げを見送るべきだと主張したといいます。

 しかし、NASAの面々は「安全でないことを立証できない限り、打ち上げは実行する」という本末転倒な決断を下しました。彼らは宇宙飛行士を死なせようとしたわけではありません。スケジュールの遅れが自分たちの責任になることを恐れただけです。彼らだけを責めるつもりはありません。人間は誰しも時間に追われると本末転倒な判断をしてしまうのです。

 時間に迫られていなくても自分本位の行動を取ってしまうことがあります。未来の世代のために地球環境を守ろうとか、財政赤字を減らそうという議論は、一般論としては誰もが賛成します。ところが、いざそのために税金を引き上げよう、行政サービスを削減しようという話になると、途端に多くの人が反対に回ります。「まだしばらく大丈夫」というわけです。

 その結果、地球は温暖化を続け、財政赤字は拡大の一途をたどっています。我々は、いま投票権を持たない未来の世代に対して倫理的といえるでしょうか。

 それでいながら、自分が倫理的に行動しているかどうかを問われると、93%の人がイエスと回答するといいます。つまり、自分が倫理的であると認識していても、その行動が子や孫の世代から見て倫理的である保証はどこにもないのです。

 それでは、性善説や倫理教育が通用しない「倫理の死角」を克服するにはどうすればいいのでしょうか。次回はそこに迫ることにしましょう。



仏潜水艦機密漏洩が波紋 豪「採用中止を」 インドも調査 2016/08/30 本日の日本経済新聞より

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 【シドニー=高橋香織】フランス政府系造船会社DCNSから潜水艦の機密情報が漏洩し、同社潜水艦の採用を決めたばかりのオーストラリア国内では計画の中止を求める声が出始めた。技術供与を受けているインドなどにも波紋が広がる。同社は事態の収拾を急ぐため、容疑者不詳のまま背任の容疑で仏検察に告訴した。仏検察は予備的な捜査に入る見通しだ。

DCNSがインドなどに供与したスコルペヌ型潜水艦(同社提供)

 豪州紙オーストラリアンが先週、情報流出の事実を報じた。漏れたのは同社製のスコルペヌ型潜水艦に関する内部文書で、ステルス性能や通信システム、潜水能力などが記されているという。

 DCNSは漏洩を認め「仏政府当局が調査し、顧客に与える損害などを明らかにする」との声明を出した。仏政府筋はAFP通信に「何者かが情報を盗んだ」との見方を示した。サイバー攻撃で情報が盗まれた可能性が取り沙汰されている。

 DCNSは仏政府が60%超の株式を持ち、仏防衛システム大手タレスも出資する事実上の国有企業。潜水艦からフリゲート艦、空母の建造まで手掛ける。売上高の3分の1が海外向けだという。軍事分野は主要産業の一つなだけに、仏政府は「今後の輸出戦略に影響が出るのを懸念している」(仏国防省関係者)。

 インド海軍は今後10年で潜水艦の保有数を4~5割増やす方針で、DCNSから技術供与を受けてムンバイの造船所で6隻を建造している。うち1隻が9月に進水する予定。政府は今回の問題を巡る調査を始めた。

 インドは戦闘能力に関わる情報が仮想敵国とみる中国やパキスタンに渡る事態に神経をとがらせる。インドの安全保障体制が大きく揺らぎかねない。パリカル国防相は26日、調査に当たり「最悪シナリオを想定して動いている」と述べた。

 豪州は4月、スコルペヌ型よりも大型のDCNS製バラクーダ型潜水艦12隻の採用を決めた。日本の三菱重工業や独防衛大手ティッセンクルップ・マリン・システムズなどと争った末、DCNSが約4兆3000億円規模の豪州との潜水艦共同開発事業を受注した。

 オーストラリアン紙は「米国は独仏の機密情報保持に懸念を抱き、日本を選ぶよう豪州に求めていた。心配が的中した」と指摘した。「情報漏洩は重大な問題だ。解決するまで仏との交渉中止を検討すべきだ」(無所属のゼノフォン上院議員)などと、政府に再考を促す声も出始めている。

 ただ採用計画が振り出しに戻れば、海洋進出を急ぐ中国を意識した次期潜水艦の導入時期が大幅に遅れかねない。ターンブル首相は「豪州が建造するのは全く別の型だ。サイバー攻撃対策は取っている」と、火消しに追われている。



マイナス金利 物価下押し? 貸家に投資マネー流入→需給悪化で家賃下落も 2016/08/30 本日の日本経済新聞より

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 相続税対策や日銀のマイナス金利政策で、不動産に向かう投資マネーが勢いづいている。賃貸アパートの建設ラッシュで、資産バブルにつながりかねないとの指摘が出てきた。需給が悪化して家賃の下落が広がれば、物価全体を押し下げる恐れがある。経済の活性化で物価押し上げを狙う日銀の大規模緩和にとって、もろ刃の剣という側面もある。

 総務省が26日公表した消費者物価指数(CPI)によると、8月の東京都区部の家賃は前年同月比0.4%下落した。3月には2008年11月以来のプラスに浮上したが、再びマイナスに沈み、その幅をじわり広げた。7月が最新データとなる中規模都市は0.6%低下し、09年3月以来のマイナス幅を記録した。

 不動産調査会社タス(東京・中央)の藤井和之主任研究員は「賃貸物件の契約更新時に、借り手にとどまってほしい貸し手が家賃を引き下げる動きが出てきた」と読む。

空室率が最高に

 物価下押しの懸念材料として家賃が浮上してきた一因は賃貸マンションやアパートの空室率上昇だ。タスによると、首都圏でも神奈川、埼玉、千葉の3県は上昇し、3県の空室率は調査を始めた04年以降の最高を更新している。東京都もアパートに限れば、上昇が続いている。

 その背景にあるのは貸家建設の急増だ。4~6月の貸家の着工戸数は年率換算で42.8万戸。リーマン・ショック直後の08年10~12月平均(43.5万戸)以来の水準に増えた。

 非課税枠だった基礎控除の引き下げなど相続税が見直され、節税を狙った富裕層の投資マネーが賃貸に流れ込んだ。これに日銀のマイナス金利政策が弾みをつけた。銀行が不動産融資に傾斜し、アパートを中心に賃貸物件の建設に過熱感が出始めている。

 企業が大卒の正社員採用を増やすなど賃貸物件の実需を押し上げる動きもある。しかし供給増の勢いは衰えず「首都圏の1都3県でも中心部から外れるほど家賃相場の下げ圧力は強まっている」(不動産情報会社)。藤井氏は「都心部でも、単身世帯向けの物件は過当競争になっている」と需給バランスが悪化しつつあると指摘する。

 ただでさえ、家賃には下落圧力が働いている。国立社会保障人口問題研究所によると、20年の将来推計人口は、埼玉県が15年比1.0%減、東京都と神奈川県はそれぞれ0.3%減となる。人口が減るなかでの賃貸物件の急増は需給を悪化させている。将来、家賃下落が勢いづく可能性も否定できない。

CPIに影響

 モノやサービスの価格の動きを示すCPIにおいて、家賃の影響は小さくない。家賃そのものの比重は公営住宅を含めても3%弱にすぎないが、持ち家でも家賃に相当する額を毎月支払っているとみなす「帰属家賃」も含めるとCPI全体の18%を占める。

 第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストは「節税ニーズがけん引する実需に基づかない貸家着工の増加は市場のゆがみを生み、中長期的なリスク要因になる」と指摘。マイナス金利政策が背中を押す賃貸建設バブルが、物価の押し下げ圧力を強めるという皮肉な結果になりかねないと警鐘を鳴らす。

 一方、CPIでみた家賃には統計的な課題もある。同じ物件でも年月がたつと品質が落ちて家賃も下がる。「物価で需給バランスを測るなら、経年劣化の影響を取り除くべきだ」との声は多い。日銀も総務省に考慮するよう申し入れてきたが、実現していない。

 日銀の石田浩二・前審議委員は昨年7月の講演で「日本の家賃などの価格は粘着的で、米国と比べて景気との連動性が低い」と指摘した。賃貸物件の家賃や持ち家の帰属家賃も含めた指数に着目して、物価の基調を分析することがふさわしいのかという疑問は残る。

 日銀は9月20~21日の金融政策決定会合で、これまでの大規模な金融緩和を総括的に検証する。そもそも物価押し上げ効果をどう評価するのか。家賃の現状と先行き、経済全体との関係をどうみるかも隠れた焦点となりそうだ。

(川手伊織)



迫真 ソフトバンク再起動(1)「これがラストチャンス」 2016/08/30 本日の日本経済新聞より

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 その時、ソフトバンクグループ社長の孫正義(59)は思わず口に含んだワインをごくりと飲み込み、内心でつぶやいた。「これは行けるぞ」

アームは10年来の「片思い」の相手だった(7月、決算説明をする孫社長)

 「利益率が少しでも下がると株価が下がる。なかなか理解してもらえないものだな」

 そう嘆いたのはテーブルを挟んで座るサイモン・シガース(48)。英半導体設計アーム・ホールディングスの最高経営責任者(CEO)だ。英国人だが、米シリコンバレーに自宅を持つ。車で数分の距離に別邸を構える孫が、6月末に夕食に招いていた。

 「アームは今こそ攻める時だ」。3時間ほど経営哲学を語り合い、孫がけしかけるとシガースが思わぬ弱音を漏らした。あらゆるモノがネットにつながるIoT時代に備え、開発投資を増やすべきだと思うが、投資家の理解が得られないと言うのだ。その表情を見た孫は決意を固めた。

 孫にはこの会食に秘めた狙いがあった。アームを買収できないか。シガースの言葉から可能性を探っていた。潤沢な開発資金を提供して上場を廃止すれば悩みは解消できる。「これがラストチャンスだ」

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 孫にとってアームは10年来の「片思い」の相手だった。2006年に英ボーダフォンから1兆7500億円で日本法人を買収して携帯電話に参入。誰もがネットに身近に触れる「モバイルインターネットの時代が来る」と読んだからだ。その直前、孫はある男を訪ねシリコンバレーに飛んでいた。米アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ(故人)だ。

 「マサ、そんな醜いスケッチを俺に見せるなよ」。ジョブズは孫が描いた「未来の携帯」の絵を酷評したが、こう付け加えた。「でも君の考えは正しい」。モバイルインターネットを実現する端末を開発中だったのだ。翌年、ジョブズはiPhoneを手に宣言した。「電話を再発明する」

 孫の予感は当たり携帯はソフトバンクの屋台骨となる。同時に孫の胸中で存在感が膨らんでいったのがアームだ。独自の省電力技術の実力は小さな端末で大量のデータを扱うスマホでこそ発揮されると見たからだ。

 それから10年。時代はスマホからIoTに移り始めた。ネットにつながるモノの頭脳にあたる半導体の需要は爆発的に増える。アームを手に入れるなら今しかない。

 「私は反対です」。常務執行役員で金庫番の後藤芳光(53)は今から1年ほど前、孫に直言した。ロンドンで初めてシガースと会った孫が帰国後に買収を検討するよう側近に命じたが、後藤は首を縦に振らなかった。13年に買収した米携帯大手スプリントが赤字を垂れ流していたからだ。

 しかし孫が陣頭指揮を取り再建の道筋が見えると再び買収への執念が燃え始めた。ただ孫には宿題があった。後継者と見込み米グーグルからスカウトしたニケシュ・アローラ(48)の処遇だ。

 6月半ば、孫はアローラに告げた。「俺はあと10年は船長として走り続けたい」。アローラは「そんなには待てない」と正直に返した。「悪いがそれなら君は自分の船を見つけてくれ」と孫。10年来の片思いに決着をつける時が来た。

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 7月4日、トルコ南部のマルマリス。港を見下ろすレストランの2階を借り切った孫の前にシガースが現れた。隣には会長のスチュアート・チェンバース(60)。地中海を家族とヨットで航海中、孫から「すぐに会いたい」と電話を受け急行したため半ズボン姿だ。

 「アームを買収したい」。名物のイカ料理もほどほどに孫が切り出すと、2人は大口を開けて驚いた。従業員は倍増させブランドや経営陣はそのまま。孫に言わせれば「断れない提案」。その後、買収額もつり上げ3兆3000億円超に。交渉は2週間で終わった。

 7月18日に買収を発表。日本企業で最大の買収劇だが、孫はゴルフなら「ピッチングウエッジで刻んだようなものかな」と余裕をみせる。周到な短期決戦は過去の大型買収と比べ資金集めが首尾良く進んだからだ。買収に反対だった後藤が水面下で動いていた。

 8月3日、孫は久々にゴルフ場に出た。スコアは自己最高の68。満足げな表情を浮かべたが、遠くの空では雷鳴が響いていた。これから始まる挑戦の厳しさを暗示しているように。

 業界秩序を破る反逆児を演じながら、近年は既得権益者的な振る舞いも目立ったソフトバンクが再起動した。巨額買収の舞台裏と勝算に迫る。

(敬称略)



働く力 再興安住の根を絶つ(1)生産性競争 独・仏・韓の改革 優しさだけでは負ける 2016/08/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「働く力 再興安住の根を絶つ(1)生産性競争 独・仏・韓の改革 優しさだけでは負ける」です。





 今秋、政府の「働き方改革」が始動する。人口減が進む中、有能な人材を成長分野に集め、人も企業も生産性を高めないと国力は衰えてしまう。雇用を流動化し、残された非効率な慣行を刷新できるのか。改革に臨む政官民の本気度を問う。

厳格な規制壊す

 今年、フランスと韓国は労働関連法案の扱いを巡り、世論が割れた。

 仏政府は今春、企業の業績が悪化した場合に従業員を解雇しやすくしたり、労使で合意すれば週35時間労働制を46時間に延ばせたりする法案をまとめた。頻発するデモで「経営者寄り」との非難が渦巻く中、政府は7月、反対派の主張も取り入れ成立にこぎ着けた。

 韓国の朴槿恵(パク・クネ=64)政権も解雇要件の緩和に手を付けた。一定のルールの下で人の移動を活発にすれば、新規採用の余力が増し、高止まりする若者の失業率が下がると踏んだ。ところが、4月の総選挙で与党は敗北。改革論議は再起動のメドが立たない。

 両国の狙いは同じだ。雇用を流動化し、企業の活力を引き出す。企業の自由度を高め、成長分野に導く改革に労働者は不安を抱きがちだが、強い企業が増えれば雇用も増える。そうなると労働者のやる気も所得水準も高まり、経済の長期停滞を回避しやすくなる。

 労働力が右肩上がりで増えた時代は過ぎ、成長の伸びしろがなくなりつつある。先進国共通の構図だ。人数が増えないなら1人当たりの労働生産性を高めるしかない。企業を強くし、技術革新を大胆に取り込む策を練る。職業訓練などで労働者を支えることも忘れてはならない。

 とはいえ、シリコンバレーなどで成長産業を生み続ける米国ですら、足元で労働生産性はマイナス基調にある。一橋大の深尾京司教授(60)は「世界中が労働生産性を上げる解を見つけようとしている」と話す。主要7カ国(G7)で生産性が最低の日本は急ぎ解を探り当てねばならない。

 政府は9月以降、有識者と具体策を練り始める。長時間労働の是正、同じ仕事に同じ賃金を払う「同一労働同一賃金」の実現、高齢者の就労促進……。メニューはそろうが、格差解消や労働時間の削減などに重きが置かれているようにみえる。

自立促すドイツ

 弱者に配慮した優しい分配政策に焦点を当てるだけで人口減のハンディを跳ね返せるか。

 ドイツは2000年代前半から、国の給付による手厚い保護を改め、労働者の就労意欲を高める改革を進めてきた。格差拡大などの課題も残すが、見込み通り、自立した働き手を増やした。試行錯誤しながら成長の源泉を刺激するドイツは世界の先を行く。日本は周回遅れにならないよう改革に挑む必要がある。

 必要なのは、国、企業、個人がそろって働き方を見直すことだ。企業は働き手の能力を引き出す場と柔軟な働き方を提供しつつ、厳しく成果を求める。労働者も自ら活躍の場を広げる。国は企業や労働者が働きやすいルールを整え、成長分野への移動を促す。

 目の前のあつれきを避ける優しさでは国の力も民の力も強まらない。



こころの健康学スポーツ選手 瞬時に動ける自由な心 2016/08/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「こころの健康学スポーツ選手 瞬時に動ける自由な心」です。





 リオデジャネイロでのオリンピックが終わった。昼夜を問わず時間を割いて声援を送った人は多かっただろう。テレビを見ていると、不思議なことに自分が競技に参加しているような思いにとらわれ、応援にも熱がこもる。しかし、緊迫した場面になると、競技を見続けるのが苦しくなってつい目をそらしたりもする。

 応援をする方はそれですむが、実際に競技に参加している選手は、どんなにつらくなっても投げ出したり目をそらしたりはできない。その場にとどまって競技を続ける精神力は、さぞ強いものがあるのだろう。

 以前、スポーツ医学の専門家から、一流のスポーツ選手は常識はずれの発想をする人が多いという話を聞いたことがある。競技の大切な局面で普通であれば多くの人がしないような動きをすることがあるそうだ。

 格闘技であれば、考えもしない技を繰り出す。瞬間的な判断が働いてのことだろうが、意表を突かれた相手は対応ができない。逆に、相手が思いがけない動きをすることもあるが、一流の選手はそれにも瞬間的に対応して、自分を守る動きを取れる。

 瞬間的な反応ができるのは、自分の思い込みに縛られないで、自由な心で現実に目を向けることができているからなのだろう。このような場面ではこのようにしなくてはならないと考えていると、刻々と変化する現実についていけなくなる。目の前にある現実は変化し続けているのだから、それにあわせて判断できるこころの柔軟さがあるからこそ、その場に適した瞬時の動きが可能になるのだと思う。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)