グローバル・オピニオン BRICS、役割大きく ジム・オニール氏 元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長 2016/10/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバル・オピニオン BRICS、役割大きく ジム・オニール氏 元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長」です。





 私が新興国のブラジル、ロシア、インド、中国を指す「BRICs」という造語を生み出してから今年で15年。後に南アフリカを追加し「BRICS」となったが、これらの新興経済は期待に応えたのだろうか。

 この質問への答えは、英国のキャメロン前首相に命じられ、私が報告書作成に取り組んだ薬剤耐性(AMR)対策にみることができる。抗生物質が効かないAMRという制御不能の深刻な健康上の脅威があれば、どんな国も経済発展はできず、対策は急務だ。

 9月初めに中国・杭州で開いた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)におけるAMRの議論で、南アフリカは英国の主な支持国だった。その支持がなければ、この問題は共同声明に盛り込まれなかったかもしれない。これが重要な点だ。BRICSは現在、喫緊の国際的課題への取り組みで極めて重要な役割を果たしているといえる。

 一方で、BRICSは国際通貨基金(IMF)や世界銀行といった国際機関には代表をあまり送っていない。このままでは「グローバル統治」とは言えないだろう。

 もちろん、BRICSは最近、困難な時期にある。この10年、特に経済の実績が失望に終わったブラジルとロシアに関しては、多くの人がBRICSという名称にふさわしくないとさえ考えるようになっている。

 しかし、BRICSの重要性が誇張されているというのは単純すぎる。当初の4カ国を合わせた経済規模は当時の私の予測にほぼ沿っている。インドは成長を続けており、適切な構造改革が実施されれば、2ケタ成長を実現できるかもしれない。中国は最近の減速にもかかわらず、20年まで年率約6%の成長を続けることができれば、私の長期予測と一致する。

 中国の課題を過小評価しているわけではない。ただ、デフレリスクに対処できれば、課題になっている債務問題は管理可能だ。

 中国にとって幸いなことは他国が中国の成功を願っていることだ。中国経済の発展は他の多くの国――特に中国の消費者が必要とする製品やサービスを輸出できる国――の利益にかなう。中国消費者の台頭は現在の世界経済で最も重要な変数かもしれない。実際、欧州や日本の経済問題やインドが世界で存在感を発揮し続けることができるかという問題よりも重要だ。

 BRICSの成長や開発を阻む障害は、AMRのような健康上の脅威や教育問題、世界統治機関の代表数不足のほか、短期的な景気循環など数多い。世界の政策決定者はこれらの問題を解消し、BRICSがその潜在力を発揮できるよう支援していくべきだ。((C)Project Syndicate)

 Jim O’Neill BRICSに続き成長が期待できる国としてエジプトやインドネシアなど11カ国を「NEXT11」と名付けた。英財務省の政務次官も務めた。

◇   ◇

■秩序づくり、自覚必要

 BRICSの経済規模は世界の2割を占める。定期的に首脳会談を開き、新開発銀行を共同創設するなど具体的な協力も進めている。近年は経済困難を抱えるが、オニール氏が指摘するように重要性を過小評価すべきではない。むしろ気がかりなのは、主要7カ国(G7)主導の国際秩序に対抗する姿勢が垣間見えることだ。グローバル社会では互いの連携が欠かせない。G7が新興国の不満に耳を傾けるのは当然として、BRICSもよりよい秩序づくりを共に担う自覚が問われる。(編集委員 池田元博)



月曜経済観測 ネット経済の行方 AI活用、価値の源に ヤフー社長 宮坂学氏 2016/10/31 本日の日本経済新聞より

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 市場創出や生産性の向上に、IT(情報技術)を有効活用する視点は欠かせない。インターネット経済の最前線で、いま何が起きているのか。ヤフーの宮坂学社長に聞いた。

 ――20年前のサービス開始以来、右肩上がりの成長です。足元の状況は。

 「バーチャル空間にできたインターネットという新大陸は、人口とサイズが日々膨らんでいる。ネット広告、電子商取引(EC)、決済とも事業は堅調だ」

広告主の裾野拡大

 ――主力の広告にはどんな変化がありますか。

 「最近、広告主の裾野の広がりを感じる。かつてヤフーに広告を出すのは、数百万円払えるような大企業が中心だったが、広告を届けるターゲットを絞る技術が進化し、小さな企業でも効率よく広告を打てるようになった。広告主の数は10万に近づいてきた」

 「例えば、伝統工芸品や温泉旅館などが販路、客層を広げている。日本は企業の9割超が中小で、7割の雇用を占める。中小企業を活気づけることは大切で、ネットはその力になる」

 ――個人消費の低迷を指摘する声があります。

 「ネットでの消費に限れば好調だ。販売コストが低く、少しでも安く買いたい消費者のニーズを満たす。一方、人々は買い物に自分らしさも求める。ネットなら、日本中の製品を比較し最適なものを探せる。ヤフーはスマートフォンでのページ閲覧が全体の60%になった。パソコンだけの時代よりネット販売に接する機会が増え、追い風だ」

 ――日本の小売市場でECの比率は約5%です。

 「手がける店舗や企業を増やし、競争を促してユニークなサービスを生む必要がある。ヤフーも、出店に興味のある人を対象に無料セミナーを1千回以上開いている。シェアリングエコノミーのための規制緩和も要るかもしれない。女性の社会進出がさらに進めば、ECのニーズも高まる。比率は10~20%にはなるだろう」

有料サービス重要

 ――動画や電子書籍などの有料サービス会員が1710万(6月末)と1年で1割増えました。

 「課金は重要な収益源になる。様々なコンテンツの無料提供はすばらしいが、有料サービスなら『お金を払う人のため丁寧にコンテンツをつくろう』と制作者の意欲が増す。コンテンツの多様性を確保するのに役立つ」

 ――政府は人工知能(AI)などで成長する第4次産業革命を掲げます。

 「ヤフーもデータなしには価値を生めない。検索や決済などに関するビッグデータを生かし、顧客に合った情報、サービスを提案できるかどうかが競争力を決める。そこにAIを使う」

 ――社員に新幹線通勤を認め、週休3日制も検討中です。なぜですか。

 「めざすのは社員の幸福度を上げる経営だ。経済的な充足に加え、自由な時間の増加がないと豊かとはいえない。満員電車で通勤し、一日の初めと終わりが最悪というのでいいのか。ITによる在宅勤務や、楽な通勤を推進したい。日本の就業率(15歳以上)は6割におよぶ。仕事が楽しくなければ、世の中は明るくならず、元気が出ない」

(聞き手は編集委員 村山恵一)

 みやさか・まなぶ 積極的な企業買収などスピード経営を重視する。48歳。



エコノフォーカス インフレ知らず悲観的…ゆとり世代、物価2%の壁に 2016/10/31 本日の日本経済新聞より

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 1990年代後半以降のデフレ下で育ってきた若者の消費がさえない。収入があっても貯蓄にお金を回しがちで、中高年が夢中になった自動車やステレオなど見向きもしない。日銀の物価2%目標のメドがいっこうに立たないのは、そんな「ゆとり世代」の冷めた物価観や消費行動が一因かもしれない。(生田弦己)

 記者は1993年生まれの23歳。バブル経済もインフレも経験したことがない。物心ついたころには街中に100円ショップが立ち並び、軒先に「飲み放題」を掲げた居酒屋にサラリーマンが吸い込まれていく姿はありふれた光景だった。

 確かに物欲は乏しい。夕食もコンビニ弁当が多い。ただ日本の消費に占める30歳未満の比率は1割強程度とされる。若者だけがお金を使わないと決めつけるのは、少し無理がある。

 総務省によると1999年から2014年にかけて30歳未満の消費支出は14.6%減少した。ほかの年代も似たり寄ったりで支出の減少幅は平均で約12%。30~39歳に限れば25.8%も減った。

 若者が消費低迷のやり玉にあがるのは、稼いだ額に見合うお金を使っていない面があるからだ。可処分所得は多くの年代で減少したが、30歳未満では99年から14年の間に逆に2%増えた。一方で消費が減った結果、貯蓄率は15.7%から30.9%へとほぼ2倍に高まった。全年齢平均の貯蓄率の上昇幅は5.8ポイントなので、若者がお金をため込んでいるように映る。

 デフレ時代に育った私たちは「日本は少子高齢化で大変なことになる」と聞かされ続けた。「社会保障への不安から、将来に備えお金をためようという発想が強い」(日本総合研究所の下田裕介氏)のは否定できない。

 インフレを知らないからお金を寝かしておくリスクにも実感がわかない。野村証券の試算によると29歳以下の若者の1年後の物価上昇予想(期待インフレ率)は1.9%だ。全世代平均は2.1%で、インフレを知らない若年層の物価上昇「期待」は一貫して低めだ。

 日銀の黒田東彦総裁は21日、「デフレが長く続いたため、人々の予想物価上昇率が過去の物価上昇率に強く引きずられる傾向がある」と発言。日銀は物価目標に関し、実績ベースで「2%超を見るまで緩和を続ける」と約束して「期待」を刺激しようとしているが、“低体温”の若年層がカベになる可能性がある。

 若者がお金をためるのは魅力的な「モノ」がない裏返しではないか。

 若者の音楽離れが指摘されるが、音楽ライブの年間売上高はこの5年で2倍以上に増加した。モノから、イベントや旅行といった「コト」への消費シフトが進み、ハロウィーン市場は今やバレンタイン関連を抜いた。

 テレビなど民生用機器の出荷額は15年までの5年間で7割近く減ったが、スマートフォン(スマホ)の普及率は約7割に高まった。SNS(交流サイト)の広がりもあり、人とほどよいつながりを求めるのが若者流だ。

 人手不足もあって、モノの値段が下がり続ける中でもサービス価格は上昇中だ。若者消費が熱を帯びれば経済の体温も少しずつ上がるだろう。「デフレから脱却できるかは若者の動向が大きなカギを握る」(野村証券の木下智夫氏)。インフレを知らない世代が、インフレをもたらす日はそう遠くないかもしれない。



働く力再興 第2部 改革に足りぬ視点(5) 会社にしがみつく時代は終わった 原動力は個々の意欲に 2016/10/31 本日の日本経済新聞より

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 会社は長らく、終身雇用や年功序列で労働者に安心して働ける環境を提供してきた。日本経済が難所にさしかかり、企業と働き手は新しい関係を築く必要に迫られている。腕一本をたのみとする自立した労働者を増やさないと日本は沈む。

■社員に引導渡す

 「土日は休みたい」「残業代もほしい」。エアコン修理のKAISEIエンジニアリング(東京・港)は倒産の危機で泣き言を言う社員に引導を渡した。10人ほどの技術者を個人事業主として独立させたのだ。定時はない。客の要望があれば深夜12時でも修理に赴く。

 一方、年収が正社員時代の倍となる1千万円に届くつわものも出た。自らの働き次第。「技術者に経営意識を持ってほしい」。鈴木ひろ社長(47)の狙いは当たった。年商は5年前の1億円から6億円に伸びた。

 バブル崩壊後に破綻したレーザー機器専門商社の日本レーザー(東京・新宿)は、多様な人材を集めようと通年採用を導入した。選考基準は「社風にあうか」。能力に見合う仕事で空きがあれば採る。年齢や学歴をもとにした賃金制も廃止。課長格への昇進は「TOEIC(英語能力テスト)700点以上」など明快な基準で決める。

 橋本和世課長(43)は出産を機に、新卒入社した別のレーザー商社を退職。子育てが一段落し同業他社の日本レーザーに入った。子育て中も在宅で働いていたが、IT(情報技術)や翻訳など腕に磨きをかけた。今の会社での販促やホームページ制作に生かす。社員に力の発揮を求める会社は、パートから課長へと処遇を高めて応えた。

 戦後の雇用慣行を断ち切ったところに、企業の成長の源泉が生まれつつある。終身雇用や年功序列では働き手の力を十分引き出せない。実力があれば、随時契約を結んだり、中途で採用したりして働いてもらうのが手っ取り早い。

 ITエンジニアの浦田理絵さん(27)。バイト先のゲーム会社で開発技術者の仕事ぶりに触発された。大学まで文系だったが、独学でプログラミングを習得。ITベンチャーでの実務経験を経て独立した。「腕を磨き世の中を変えるウェブサービスを作る」

■やる気をそぐな

 米国には個人の才覚で働くフリーランサーが5500万人いる。労働人口の3分の1を占める。自己研さんに励み、企業に寄りかからない。将来の技術革新やサービス開発の土壌と期待される。日本も増えたとはいえ、健康保険など社会保障面の後押しも足りない。その厚みは見劣りする。

 企業が労働者に多様な働き方を認め、労働者はそれを生かして成果を出す。そうした好循環を生むのが働き方改革の主眼だ。政府も個人の選択を尊重し、やる気をそがない税制や社会保障制度を整えねばならない。

 従来の労働政策を見直すぐらいなら日本経済を押し上げはしまい。企業と働き手の双方の働き方の常識が変わりつつある今、国の制度もまた一から作り直すときだ。

=この項おわり



こころの健康学 普段は自動操縦 困った時は手動モード 2016/10/30 本日の日本経済新聞より

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 先週、「自動操縦」という表現を使った。私たちは、いろいろと考えて行動しているようでいて、じつはほとんど考えないで行動していることが多い。

 毎日の生活のなかでいろいろな出来事に出合ったときに、ひとつひとつその意味や手順を考えていたのでは、いくら時間があっても足りない。だから、多くの出来事は瞬間的に判断して行動する。自動操縦的な判断はこころの省エネモードということができる。

 こころの省エネモードはそれだけではない。いろいろな出来事を、ざっくりと判断している。良いか悪いか、できるかできないかを二者択一する。現実を細かく調べてひとつひとつ判断していると時間がかかりすぎる。そうした作業は、おおざっぱな判断をした後にした方が効率的だ。

 それは、原始時代、猛獣などの危険にさらされていたときのなごりだろう。茂みのなかに何か動くものが見えたときには、その意味を瞬間的に判断して、逃げるかどうか決めなくてはならない。近づいて確認しようとすると、突然猛獣に襲われないとも限らない。

 最近読んだ本に、私たちの脳の働きは人類が生まれて以来数十万年、バージョンアップされないままだと書かれていた。たしかに、日常のこころの動きを見ていると、原始時代と変わっていないように思える。

 ほとんどの局面ではそれで問題ないが、何か問題が起きたときには時代遅れの反応になっている可能性がある。そうしたときには、ちょっと立ち止まって手動モードに切り替え、今の時代にあった対応ができるようにする必要がある。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



羽ばたくかインドネシア(下) ジョコ外交、経済偏重 内政重視、盟主の顔見えず 2016/10/30 本日の日本経済新聞より

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 9月、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は20カ国・地域(G20)首脳会議や東アジア首脳会議などに相次いで参加し、日米中ロなど世界のリーダーと肩を並べた。

 こうしたイベントでは通常、並行して2国間会談が開かれ、むしろそちらの重要度が高いことも多い。しかしジョコ氏が会ったのはオーストラリアなどわずか3カ国の首脳。主要紙コンパスは「存在感を示せなかった」と酷評した。

 「各国で約200億ドル(約2兆1000億円)の契約を勝ち取った」。ジョコ氏は4月に欧州諸国を訪れ帰国すると開口一番こう話した。同氏が外交で重視するのは経済だ。各国に駐在するインドネシア大使には赴任国から自国企業が獲得すべき契約額のノルマを課しているという。

 短期的な数値にこだわるのは、ビジネスマン出身で地方首長として成果を出し、瞬く間に大統領に上り詰めたジョコ氏ならでは。だが、ベテラン外交官は「外交にはデータで見えないものもある」と嘆く。

 インドネシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の域内総生産(GDP)の4割を占め、人口も同じように4割に及ぶ地域大国だ。

 建国の父、スカルノ元大統領は1955年にバンドンでアジア・アフリカ会議を開き、非同盟諸国のリーダーとなった。後継のスハルト氏はASEAN結成に深く関わり、東南アジアの安定と成長に力を注いだ。

 そのASEANは2015年に経済共同体の設立を宣言。しかし次の目標を失い統合の勢いは衰えている。南シナ海での中国の海洋進出問題でもまとまれないでいる。

 タイやマレーシアは内政の混乱に悩み、フィリピンは不規則発言を連発する新大統領が就任。かつてのリー・クアンユー氏やマハティール氏のような巨星もいない。ASEAN域内で金融事業を展開するマレーシアのCIMBグループ、ナジル・ラザク会長は「インドネシアにもっと地域のリーダーシップをとってほしい」と注文を付ける。

 だがジョコ氏が関心を示すのは国内問題だ。発足当初こそ少数与党だったジョコ政権は、5月にゴルカル党を与党に取り込み、7月の内閣改造でも政敵やライバルを巧みに退けて安定した。

 ジョコ氏は就任早々「海洋国家の再興」という大方針を掲げたが、地方の港湾整備など内政課題にとどまっている。ジョコ氏のASEAN政策はみえないままだ。

 東南アジアが不安定になれば、インドネシアの成長もおぼつかない。「ASEANのリーダーという自負は多少なりともある」。日本経済新聞のインタビューでそう答えたジョコ氏。長期的な視野で地域をまとめ上げようと動き出すのか。近隣国は目をこらしている。



風見鶏 「熊」が牙むく地にて 2016/10/30 本日の日本経済新聞より

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 暴れている熊がいるとしよう。正面に立たされる人は、牙が迫り、命の危険を感じる。ところが後方から見れば、お尻しか見えず、さほど怖くはない。ロシアを熊にたとえれば、前者の視線が欧州、後者がアジアといえるだろう。

 一方、中国を龍に見立てると、日欧の立場は入れ替わる。日本は龍の牙と向き合っているが、欧州は尻尾しか見ていないため、危機感が乏しい。欧州のベテラン外交官は打ち明ける。

 「我々は中国から遠く離れており、物理的な脅威は及ばない。日米ほどには東・南シナ海問題を深刻には受け止めていない」

 見える光景が違うのだから認識に大きな差が生じるのも当然だ。それにしてもロシアをめぐる日欧の脅威観の溝は、日本が思っている以上にずっと深いようだ。いま滞在しているロンドンで外交や安全保障専門家と話して痛感するのは、冷戦再来を思わせるほどのロシアへの警戒感だ。

 「彼らは今や戦略敵対国になった。しかも対立は長年にわたり続く」。対ロ強硬派と呼ばれる識者だけでなく中道派もこう話す。大きな原因はロシアが軍事挑発を強めていることにある。

 テムズ川にたたずむ大きな石造りの英国防省。10月21日朝、省内の空気が張りつめた。シリア沖に向かうとみられるロシアの空母機動部隊が最短で幅約34キロメートルしかない英仏のドーバー海峡に現れたからだ。「冷戦中にソ連の空母は出没したが近年はなかった。挑発的だ」。英国防省に近い安保専門家は語る。

 これは氷山の一角にすぎない。10月上旬、ロシアは東欧にある飛び地の自国領カリーニングラードに、核弾頭を搭載できるミサイルを配備した。欧州各国へのサイバースパイやデモをあおる情報工作も激しいらしい。

 英国のロシア専門家によると、英外務省と国防省は最近、ロシアのスパイ活動やサイバー工作に対処する専門部局をひそかに立ち上げたという。

 それだけに、12月にプーチン大統領を招き、経済協力を大盤振る舞いしようとする日本をみる英国の視線は冷ややかだ。「ドイツ政府内でも同様の空気が漂っている」(欧州外交筋)

 対中戦略上、日ロ関係を強めたいという安倍晋三首相の発想は、欧州でもそれなりに理解されてはいる。それでも日ロ接近に批判がくすぶるのは、シリア・アレッポへの空爆問題などが重なり、プーチン政権への不信感が臨界点に達しつつあるからだ。

 英国王立防衛安全保障研究所のジョナサン・アイル国際戦略部長はこう指摘する。「安倍氏が中国に対抗するため対ロ関係を強めようとしているのはわかる。だが日本は動くのが遅すぎた。10年前ならよかったが、ロシアがここまで強硬になってしまった以上、タイミングが悪い」

 ロシアへの米国のまなざしは、欧州よりも険しい。米大統領選のかく乱を狙ったロシアのサイバー攻撃が指摘されるなか、ワシントンの警戒感は一段と強まっている。

 「来年1月に『クリントン政権』が生まれれば、米国の対ロ政策はもっと強硬になる」。米民主党関係者からはこんな観測が流れる。

 ロシアと交渉し、領土問題を解決しようとする安倍氏の姿勢自体がいけないというわけではない。

 ただ、米欧との不協和音が広がれば、プーチン氏から足元を見透かされやすくなる危険があることも念頭に、外交を進めるべきだ。立地条件の違いから生まれる対ロ観の溝を、決して侮るべきではない。(ロンドンで、編集委員 秋田浩之)



働く力再興 改革に足りぬ視点(4)「モーレツ社員」がいてもいい 時間の管理、私に任せて 2016/10/30 本日の日本経済新聞より

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 現有戦力が今まで以上に力を出すしか日本経済が伸びる道はない。といって無軌道に働き続ければ、貴重な働き手にダメージを与える。時間の使い方を変えれば生産性は上がる。こなすべき仕事にどう取り組むか。働き手の判断ひとつだ。

 サイバーエージェントの山内隆裕取締役(33)は時間を気にせずバリバリ働く新人時代を過ごし「筋肉営業」とやゆされた。今は平日午後8時に帰る。子会社社長も兼務する慌ただしい日々で、「1時間あたりの価値の最大化」を意識する。

 60分の会議は50分に短縮。浮いた時間で社員と意見を交わし、企画を練る。定例会議はやめた。昼食も打ち合わせに使う。子育て中の女性や束縛を嫌う技術者も、会社にいる時間は短いほうが力が出る。そう考えた。

6時間で同成果

 楽天を辞めフリーで働く日下朋子さん(36)。市場調査や広報支援など常時5つほどの仕事をこなす。ベンチャー経営者とは二人三脚で事業開発を進める。さぞモーレツな働きと思いきや、1日を仕事、遊び、勉強、睡眠に分け、働く時間は「6時間」に限定。2年前の病気が転機になった。

 基本原則がある。1つは働く場所を選ばない。東京の自宅、福島の実家、貸しオフィスを活用する。2つ目は得意な仕事だけやる。苦手な作業は他人に任せる。3つ目は1日1分でも前進する。「毎日がオーディション。1回のメールや提出物に魂を込める」。収入は正社員時代と比べても満足のいく水準という。

 2人の共通点は、時間を自分の判断で使うところだ。働く時間を抑えても成果は落とさない。安倍晋三首相(62)は働き方改革を巡り「モーレツ社員の考え方が否定される日本にしたい」と宣言した。長時間働きづめは時代遅れだが、成果が出なくては元も子もない。

全員が「二刀流」

 金属加工のオーザック(広島県福山市)は社員に1日8時間以上働かせない。仕事量も減らさない。社員は工夫した。1人が複数の機械を扱う「多能工」という仕組みを取り入れた。今は機械部門の7割にあたる11人が多能工。残業は6年で3分の1に減った。

 社内に休みやすい空気が生まれ、仕事と家庭の両立が進んだ。必要な仕事を短時間で終え、早帰りする人もいる。岡崎瑞穂専務(62)は「労働時間を減らして生産性を落とすわけにはいかない。社員が何をすべきか考えてくれた」と話す。

 時間の縛りをかけずとも労働者は賢く働く。成果に応じて賃金を払う脱時間給制度はいまの労働実態に即している。国が一律に労働時間や残業時間を決めれば、むしろ働く自由度が減る。寝食忘れて夢中に働くのもいい。1時間でやるべきことをやり、職場を離れてもいい。「9時~5時」で会社にいる必要はない。

 一方で、たとえ本人にやる気があり、長時間働く理由があっても、過重労働にはブレーキをかける必要がある。過労死や精神的ストレスの発症は防ぐ。時間管理の規制を緩めつつ、無理を強いる職場の監視は強める。そこは行政の出番だ。



羽ばたくか インドネシア (上) 大国への脱皮足踏み 経済成長に地域格差 2016/10/29 本日の日本経済新聞より

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 世界第4位、2億5千万の人口を抱え豊富な資源も生かして高い成長率を実現してきたインドネシアが大国への脱皮に向け苦悩している。資源価格の下落で地域間格差が広がった。外交面では2年前に鳴り物入りで就任したジョコ・ウィドド大統領(55)の下、東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主と期待されながら調整力を発揮しきれない。インドネシアは羽ばたけるのか。

 「景気刺激策の効果が出始めた」。4~6月期の国内総生産(GDP)が前年同期に比べ5%以上伸び、ジョコ氏は2年半ぶりの高成長に胸を張った。2016年通年の成長率は5%前後の見込み。世界経済が低迷する中で低くはないが、おおむね6%以上だったユドヨノ前大統領の2期目(09~14年)に比べると足踏み感は否めない。

 海と伝統文化で人気の観光地バリ島のホテルは連日満室に近いにぎわいだ。同島の経済成長率は4~6月期に7.3%に達した。ビザ免除の拡大や原油安による航空運賃下落が追い風で、中心都市デンパサールの8月小売売上高は前年同月比で38%も増えた。

 一方最近まで資源産業で活況だった地方が景気回復の足を引っ張る。石炭が豊富なカリマンタン島の都市バリクパパン。中心部にはショッピングモールが休業のまま放置されている。運営会社は「改装中だ」と言うが、再開のめどはたたない。同島の4~6月期の成長率は1.1%に沈む。

 ビジネスマン出身のジョコ氏は、地方首長時代に徹底した現場主義と決定の早さで行政改革を断行し、14年10月に第7代大統領に選ばれた。持ち前の行動力で、外資の参入規制撤廃や燃料補助金の削減など大胆な改革を実行してきた。

 スハルト元大統領の息子で実業家のトミー・スハルト氏、大財閥のアンソニー・サリム氏……。9月に財界の大物が次々と名乗り出た。隠し財産を申告すれば多額の追徴課税や刑事訴追を免除する「租税特赦」に応じたのだ。国民のわずか1割しか納税しない現状を改め徴税強化に動く。

 陣頭指揮するのはスリ・ムルヤニ氏だ。7月の内閣改造で世界銀行専務理事から6年ぶりに財務相に復帰した。仕事が早く汚職追放でも成果を上げて一時は大統領候補とも言われたが、与党と対立して国を追われていた。ジョコ氏は同じ“におい”を持つこの剛腕女性に電話攻勢をしかけ、就任をのませた。

 ジョコ改革に課題はないのか。看板政策として50兆円の目標を立てたインフラ整備には手間取っている。

 「計画通りやらないならカネを返してもらう」。いつもにこやかなジョコ氏が5月、ジャカルタに集まった地方首長に対し珍しく声を荒らげた。官僚主義がはびこる地方政府の多くが整備計画をスケジュール通り進めない現状に業を煮やした。

 最近の口癖は「常に尻をたたき、進捗をチェックする」。スピード感を持たせるのが自分の仕事だと言い切る。

 かつて貧しいアジアの代名詞だったインドネシア。GDPを購買力平価ベースでみれば、英国やフランスを抜き、15年には世界8位に達した。人口の多さも強みで、日本企業も有力投資先として熱い視線を注ぐ。

 ただ港や発電所などインフラ整備が遅れれば、資源産業から製造業やサービス業への産業転換も進まない。今は若者であふれるインドネシアも、いずれ高齢化の時代を迎える。残された時間は限られる。



プーチン氏、北方領土交渉「期限設定は有害」 日本側をけん制 2016/10/29 本日の日本経済新聞より

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 【モスクワ=田中孝幸】ロシアのプーチン大統領は27日、北方領土問題を含む日本との平和条約交渉の見通しについて「期限を決めるのは不可能で、有害ですらある」と明言した。「解決を望み、そのために努力するが、いつどのように行われるか、今は答えられない」とも述べ、早期解決を目指す日本側をけん制した。

27日、ロシア南部ソチで、「ワルダイ会議」に出席したプーチン大統領(AP=共同)

 ロシア南部ソチで開いた有識者との会合での質問に答えた。中国との領土交渉で合意した前例にも触れ「中国とは戦略的なパートナー以上の、これまでにない協力のレベルに達した。日本との関係はそのような質に至っていない」と説明した。

 一方で「日本とロシアはすべての問題を最終解決することに関心がある。互いの国益に合致しているからだ」と強調。「将来を見据え、我々が共に取り組まなければいけない」とも述べ、領土問題の解決への意欲を改めて示した。

 一連の発言には、12月に予定する自らの訪日を前に、日本側の領土問題解決への期待の高まりを沈静化する意図があったとみられる。シリア問題で欧米との関係が悪化する中で、安倍政権に米国から独立したロシア寄りの外交政策を展開するよう促す思惑も透ける。