大機小機 大相場への好機を逃すな 2016/11/30 本日の日本 経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合面にある「大機小機 大相場への好機を逃すな」です。





 世界経済は政治・外交の不透明性が増し、中長期的に混迷と不安が高まるとみている。米大統領選後はトランプ・ショックがブームに変わってきたムードにあるものの、その政策の真意はまだ見えない。

 欧州は、英国の欧州連合離脱問題が長引き、混乱が続く。中国経済は表面的な数字では堅調なものの、国有企業再編と不良債権や農民工の中都市移住問題など、社会の基本構造に触れる問題の解決策は揺れ動いている。

 経済の自由主義と市場主義がジグザグするなかで、中国などの新興経済大国と米国との対立が先鋭化する可能性は十分ある。

 1980年代の日米関係は「ロンヤス時代」と言いはやされたが、その産物は苛烈な通商交渉と円高圧力、金融市場開放要求だった。だが、これからの流動化する時代は国や産業が発展する大きなチャンスでもある。変化へのしなやかな対応力と的確な予見能力を発揮できれば、次代のリーダーになりうる。

 この点で今の日本には大きな期待が持てる。安定した政権が、なかなかに周到で、重層的な経済外交を展開しているからだ。

 米国のトランプ次期大統領、ロシアのプーチン大統領ら、あくの強いアクター(人物)には、トップ自らがいち早く対応し、外務省を慌てさせるほどだという。かじ取りの難しい中国へも、国交回復45周年を来年に控え、水面下で交流積極化の動きを進めている。インドのモディ首相とも厚く交わり、東南アジア諸国連合(ASEAN)やアフリカ諸国へも目配りする。

 「質の高いインフラ輸出」も優れた着想だ。良質な日本の技術をパッケージで輸出する戦略で、新興国のみならず先進国も有望な市場になる。

 株式市場は相変わらず円ドル相場にだけ反応し、足元では「円安・株高」のお決まりの構図だ。トランプ氏の経済政策が伝えられる通りに実施されればドル高になる筋合いだが、これが行き過ぎれば円高圧力がまた強まりかねない。ひとつ間違えれば「ロンヤス時代」の再現もありうる。

 幸いにも日本の外交は変化を先取りしている。これを盤石にするために経済成長戦略を断行してほしい。外交と内政が相まって、株式大相場を実現できるよう期待している。

(鵠洋)



俺たち「仕事かけ持ち達人」 報酬・スキル・達成感 アプリ開 発、町家改修し宿… 2016/11/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のくらし面にある「俺たち「仕事かけ持ち達人」 報酬・スキル・達成感 アプリ開発、町家改修し宿…」です。





 若い世代を中心に、いくつもの仕事をかけ持ちする「多刀流」の働き方が生まれている。生計を立てるための仕事のほかに社会貢献のための仕事、仲間と楽しむ仕事など、様々な仕事を組み合わせてキャリアの幅を広げている。柔軟な働き方の実現に向けて政府が副業を促進する姿勢を打ち出すなか、そうした二刀流のさらに先をいく「達人」を追った。

 京都市の二条城からほど近い場所に5月、築100年以上の町家(延べ床面積約80平方メートル)を改修して、小さな宿泊施設がオープンした。

 旅館業法上の許可を受けており、1日1組が泊まれる。それだけではない。京都のアーティストらが作った雑貨類が飾られていて購入できる。階段などには折々のテーマに合わせた本が置かれている。今は1960年代から時代ごとの話題本が出迎える。

 「宿泊者の部屋以外は誰でも入れる。いろんなテーマで並ぶ本などを楽しんでもらえれば」と話すのはこの施設「MAGASINN KYOTO(マガザンキョウト)」を運営する岩崎達也さん(31)だ。

 副業を認めているIT(情報技術)系企業で働きながら、朝晩や週末を利用してこの施設の実現に奔走してきた。さらにデザイン関係の別のプロジェクトを仲間と手がけており、そちらの仕事にも余念がない。

 ◇   ◇

 副業といえば、ささやかな小遣い稼ぎのイメージが強いが、多刀流の達人たちは大胆に、いくつもの本格的なプロジェクトに挑んでいる。元テレビ局社員でスマートフォン(スマホ)向け人気画像アプリ「bokete(ボケて)」の生みの親でもあるイセオサムさん(33)は現在、「4足のわらじ」をはく。

 「ボケて」を運営するローディー(東京・港)、ウェブサイト運営のオモロキ(静岡県熱海市)、バイク用品のフリマアプリを手がける狩猟社(東京・豊島)の役員を務め、このほかに個人事務所のプレイ(東京・世田谷)を営む。「今はどの仕事をしているんだっけ、と分からなくなることもある」と笑う。

 二刀流で名をはせるプロ野球の大谷翔平選手や、二刀流の名手、宮本武蔵も驚きそうな多彩な攻め口。性格の異なる仕事を組み合わせ、したたかに立ち回る様子が浮かぶ。剣術に例えるなら、3種類の「剣」を繰り出している。

 【稼ぐための剣】 まず経済基盤を築くため、会社勤めや利益の見込める企業運営を軸に据えていることが多い。冒頭の岩崎さんは、会社勤めで生計の基盤を固めながらマガザンキョウトの開設準備に着手。「マガザンでやっていける感触をつかんだ」ため8月に退職し、今度はマガザンキョウトを基盤に、仕事の幅を広げようとしている。

 ITエンジニアで、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(東京・台東)の代表理事を務める関治之さん(41)は、現在、IT関連のベンチャー企業を2社運営。そこで生計の基盤を固めながらコード・フォー・ジャパンを通じた社会貢献活動に打ち込む。

 【社会貢献の剣】 関さんは東日本大震災が起きた2011年3月には検索大手のヤフーに勤めていた。震災発生から4時間後、被害や避難所の状況などの情報を共有するサイト「sinsai.info」を独自に開設。ほぼ1カ月間、会社を休んでサイト運営に集中した。

 当時の経験を生かし、コード・フォー・ジャパンでは政府や自治体の公的情報を市民サービス向上に役立てる仕組みづくりを探っている。運行情報を生かしてバスの現在位置を示すアプリを開発するなどの工夫を提唱する。

 【仲間と楽しむ剣】 多刀流を選ぶ人の多くは、意気投合した仲間との仕事に生きがいを見いだしている。「ボケて」などのアプリを手がけるイセさんは「好きな仲間たちと一緒に、いろんなやりたいプロジェクトを楽しむ。それが私の働き方」と言う。もちろん楽しみながら大きな収益をあげる例も少なくない。

 ◇   ◇

 多刀流の弱点を挙げるなら、仕事時間が長くなることだ。コード・フォー・ジャパンの関さんは6歳の娘と過ごす時間が少なくなりがちだと話す。「実際の仕事は仲間に頼み、自分は運営の要所に関わることで何とかできている。だがもし自分も従業員として仕事に張りつくなら多くはできないだろう」と言う。

 それでも多刀流に興味を抱く人はじわじわ増えている。IT業界で働く人向けの情報サイト「キャリアハック」を運営するエン・ジャパンの白石勝也チーフエディターは、「若いエンジニアたちは複数の仕事に関わることに違和感がない。お金のため、スキルを磨くため、会社組織では得られにくい達成感を味わうため、優秀な人ほど挑戦している」と語る。

 厚生労働省が8月にまとめた報告書「働き方の未来2035 一人ひとりが輝くために」は今後、働き手が一つの会社の枠にとどまらず、プロジェクトごとに集まり働くことが増えると予測する。そうなれば幅広い業種で多刀流の働き方が生まれる可能性はある。

(平田浩司、田村匠)



心の健康学 冬季うつ病 活動増やし気持ち軽く 2016/11/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「心の健康学 冬季うつ病 活動増やし気持ち軽く」です。





 寒い日が多くなってきた。先日も研修で北海道に行ったときに、飛行機が雪のため危うくキャンセルになりそうで冷や汗をかいた。

 この時期には冬季うつ病が話題になることが多い。冬になるとうつ病が発症して、春の訪れとともに抑うつ症状が改善する状態を冬季うつ病と呼ぶ。

 日照時間が短くなることが原因だとされ、北欧など極端に夜が長くなる地域でしばしば報告されている。夜がそれほど長くなるわけではないわが国でどのくらい起きるのか、はっきりしたことはわかっていない。 ただ、こころの健康を考えると、寒いからといって家の中に閉じこもりがちになるのはあまり好ましくない。気分転換ができず、心身ともに元気をなくしやすい。とくに心が弱くなっているときに一人で閉じこもっていると、イヤな考えばかりが頭に浮かんできて、気持ちが沈み込んでいきやすくなる。

 人の意欲は、何か楽しいことや、やりがいのあることを知って初めて生まれてくる。やって楽しかったと思うから、そのことをまたしてみたいと考えるようになる。ある行動をしてやりがいを感じるから、それを続けたいという気持ちが出てくる。

 楽しさややりがいを感じることがなければ、こころは次第に元気を失ってくる。何かをしようという意欲が低下して活動量が減ると、楽しみややりがいを感じることも減り、ますます意欲が低下する。冬になるとこうした悪循環に陥りやすいので、少しでも気持ちが軽くなる活動を増やすように意識してみるとよい。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



創論 トランプ新政権、変わるエネルギー情勢 2016/11/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「創論 トランプ新政権、変わるエネルギー情勢」です。





 世界のエネルギーをめぐる環境が急速に変わりつつある。地球温暖化対策の道筋を定めた「パリ協定」の発効や、ドナルド・トランプ氏の米次期大統領決定で、エネルギーの未来はどのような姿になるのか。エネルギー情勢分析の第一人者であるダニエル・ヤーギン氏と、日本エネルギー経済研究所の小山堅常務理事・首席研究員に聞いた。

■シェール業界が勝者に 英IHSマークイット副会長 ダニエル・ヤーギン氏

IHSマーキット副会長 ダニエル・ヤーギン氏

 ――トランプ米次期大統領はエネルギー政策でも「米国第一主義」を掲げました。どんな変化が考えられますか。

 「新政権でエネルギー政策における『バランス』が変わるだろう。環境重視よりも開発推進、再生エネルギーよりも化石燃料といった具合だ。オバマ政権は環境汚染を懸念して原油・天然ガスのパイプライン建設になかなか認可を下ろさなかったが、トランプ政権では開発優先でエネルギーのインフラ整備が加速しそうだ。シェール掘削への厳しい規制の緩和も予想される」

 「オバマ政権の抑制的な開発政策が変わるか見るうえで試金石となるのが、連邦政府所有の土地で原油・ガス掘削が解禁されるかどうかだ。カリフォルニアを含む米西部11州では47%もの土地が連邦政府所有地だ。そうした土地は国立公園のような美しい場所だけでなく何もないただの土地も多い。いずれにせよ、開発の障害が減るという意味で、新政権では米シェール業界が勝利者となるだろう」

 ――米国の原油生産はどうなりますか。

 「確実に言えるのは米原油生産は増え続けるということだ。一方で輸入は減少傾向が強まる。10年前、米国は消費する原油の7割弱を輸入に頼っていたが、シェール革命で約4割にまで減った。トランプ政権ではこの傾向が進み、特に中東からの原油輸入が減ることになるだろう。このため、中東諸国の間では米国がどこまで(外交や安全保障面などで)中東に関与するのか本気で心配し始めている」

 ――トランプ政権誕生で世界のエネルギー情勢にはどんな影響が出るでしょう。

 「石油輸出国機構(OPEC)が原油価格の調整役の役割を終えた今、原油市場はOPECと非OPECの構図ではもはや語れず、サウジアラビア、ロシア、米国の『ビッグスリー』の動向が何より重要になっている。米国はシェール増産で中東からの輸入依存が減る。一方、シェアから価格重視に転じたサウジは他国との生産調整を探る」

 「そこで存在感を増すのが、過去最高水準の原油生産を続けているロシアだ。欧州では天然ガス需要も低迷しており、ロシアはアジアでの輸出先の多様化を目指している。オバマ政権はロシアを一地域の勢力として退けたつもりだったが、プーチン大統領は地政学的により強い立場で世界の外交の舞台に立つだろう」

 ――トランプ氏は選挙で、温暖化対策を定めた「パリ協定」の離脱を訴えました。

 「離脱には発効から4年かかるなどパリ協定はすぐに離脱できない。問題は米国が気候変動の活動へ資金拠出を続けるかどうか。気候変動や温暖化対策の問題は感情的な対立を起こしやすい。今月、モロッコで開かれた第22回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP22)ではさまざまなやり方でトランプ氏に対し警告を発したが、これはトランプ氏の反発を招きかねず賢明ではない。米国を温暖化問題につなぎ留めるには、炭素税など個別の政策議論を進めるのが良いのではないか」

 ――トランプ氏は米国で石炭産業の優遇を進め、火力発電所の二酸化炭素排出規制の撤廃を掲げています。再生エネルギー普及には逆風です。

 「10年前まで米国で発電燃料に占める石炭の割合は約5割あったが、現在は3割を下回る。一方、天然ガスは同2割弱から35%に伸びた。米石炭産業の衰退は環境規制の影響というより、シェール革命による安い天然ガスの急増が主因だ。天然ガスのコスト競争力は高く石炭は仮に伸びたとしても小幅かもしれない」

 「再生エネもコストは下がっており需要は存在し続けるが、盛り上がりには欠けるだろう。トランプ氏は、クリントン氏が10年以内に米国の全家庭が電力を再生エネで調達するといったような大胆な振興策を強調していない」

 ――オバマ政権のエネルギー政策をどう評価しますか。

 「オバマ政権のエネルギー政策は矛盾していた。12年の一般教書演説でシェールガス・オイルを称賛したかと思えば、16年の一般教書演説では『きれいなエネルギー(主に再生エネルギー)』と『汚いエネルギー(石油や石炭などの化石燃料)』に分けるなど一貫性がなかった。次期トランプ政権では石油の支配的な地位は続くが、石炭や再生エネも含めたすべてのエネルギーに対してトランプ氏は支援的な姿勢を取るとみている」

(聞き手は ニューヨーク=稲井創一)

 Daniel Yergin 英ケンブリッジ大で博士号。「石油の世紀」でピュリツァー賞を受賞。現在は英調査会社の副会長。69歳。

◇     ◇

■温暖化対策後退を懸念 日本エネルギー経済研究所首席研究員 小山堅氏

日本エネルギー経済研究所首席研究員 小山堅氏

 ――今後エネルギー利用を左右する制約は何でしょう。

 「1つは気候変動を中心とする環境問題への対応。もう1つはエネルギー安全保障の問題だ。2つの課題に全ての国が取り組む過程でエネルギーの選択は変わっていく」

 「世界は今、石油や石炭、天然ガスなど化石燃料への依存度が8割を超えている。温暖化ガスの排出量が多い化石燃料への依存を下げることで環境対策が進み、輸入依存度を下げることはエネルギー安全保障の強化になる。これが長期的にエネルギー利用の姿を変える力になっていく」

 ――化石燃料の時代は終わるのでしょうか。

 「意識しておかねばならないのは2040年では化石燃料が依然、エネルギー供給の中心である事実だ。日本エネルギー経済研究所の分析では、技術が進展し、エネルギーの利用構造が最大限変わるケースでも、40年断面で化石燃料が約7割を占める」

 ――地球温暖化対策の道筋を定めた「パリ協定」が発効しました。この評価は。

 「重要な一歩だ。主要な国が参加し、自発的な目標に沿ってエネルギー利用の低炭素化に取り組む方向が示された。各国の自発的な目標を積み上げただけでは、40年、50年に向けて温暖化ガスは増加する。温暖化ガス半減の目標と現実に乖離(かいり)はあるが、5年ごとの目標見直しで、各国がどこまで削減を強化できるかにかかっている」

 ――パリ協定に否定的なドナルド・トランプ氏が米大統領選で勝利しました。

 「選挙中の発言がどう政策として実行されるのかがまだ見えない。だが、パリ協定の発効をリードしてきた米国が協定にマイナスの影響をもたらすならば、気候変動問題だけでなく、外交などより広い観点で米国を見る世界の目が厳しくなるのではないか」

 「米次期政権がシェールオイルやシェールガスをどう扱うかで世界の石油・ガス市場も影響を受けるだろう。米国のシェール革命はまだ進行中だ。原油価格が上がれば生産は増える。国内の油田・ガス田開発の促進やパイプライン整備を唱えるトランプ氏の政策はこれを後押しする可能性がある。開発促進で供給量が増え、国際市場でも米国の存在感が増すだろう」

 ――米新政権の外交・安全保障政策は国際エネルギー情勢にどんな変化をもたらしますか。

 「イランには厳しい立場を取るだろう。イランの国際エネルギー市場への復帰を妨げ、同国が進めようとしてきた油田開発も不透明になれば、市場の不安定要因となる。加えて、米国がイランに厳しくでれば、イランも反発する。シリアやロシアとの関係、過激派組織『イスラム国』(IS)への対応など、中東の地政学リスクを考えると、不安要素がたくさんある」

 ――アジアへの影響は。

 「国際エネルギー市場にとって、中東の安定は不可欠のピースだ。米国と中東の関係の不確実性が増すと、影響は域内にとどまらない。世界のエネルギー消費の重心はアジアに移りつつある。エネルギーの輸入依存度が高まり、最大の供給源である中東の安定や、石油や天然ガスの輸送路の安定がより重要になる」

 「アジアでは温暖化ガスの排出が増える。原因が石炭にあるのだとすれば、利用をやめさせるのでなく、依存度を下げつつ、石炭をよりクリーンに使う技術や資金をどう確保していくかが現実的な課題になる。トランプ氏が石炭を重視すると言うなら、国内だけでなくアジアの効率利用に果たすべき役割は大きい」

 ――日本はエネルギーの変化にどう対処すべきですか。

 「政策目標として打ち出した(最適な電源構成の組み合わせである)エネルギー・ミックスを実現する取り組みを進めるしかない。日本が国連に提出した温暖化対策の目標はハードルが高いのも事実だが、どう実現していくかが課題であり、政府や産業界がしっかり取り組むことだ」

 「電力・ガス自由化の影響に対する考慮も必要だ。市場原理で効率化しコストを下げる取り組みは、エネルギー・ミックスの達成を不確実にする部分がある。石炭火力発電所の計画が多数進むが、自由化の下では競争力ある電源を持たないと生き残れないという事業者の選択の結果、こうしたことが起きる。エネルギー安全保障も市場原理とは相いれないところがある。適切な政策関与がないと、ミックスの実現は難しい」

 こやま・けん 英ダンディ大博士。86年(昭61年)日本エネルギー経済研究所入所。国際エネルギー情勢の分析が専門。57歳。

◇     ◇

〈聞き手から〉環境問題・地政学で波乱も

 世界が温暖化対策への決意を示したパリ協定の発効からわずか4日、協定に否定的な発言を繰り返してきたドナルド・トランプ氏の米大統領選での勝利は、合意発効の祝福気分を吹き飛ばした。トランプ政権のエネルギー政策が、環境問題や地政学の行方も左右しかねないからだ。

 米国は世界最大の石油消費国であると同時に、近年、最大級の生産国に躍り出た。原動力は米国を起点とする「シェール革命」だ。

 ヤーギン氏は国内の石油・ガス開発の促進を唱えるトランプ政権では「シェール業界が勝者」と指摘。小山氏も米国からの原油供給量が増える結果、「国際市場での米国の存在感が増す」と言う。

 半面、「米国第一」を掲げる次期政権が中東から手を引けば、同地域の不安定度は増す。化石燃料から非化石エネルギーへの移行も足踏みしかねない。「トランプの米国」がエネルギーの未来をどう変えるのか。その動向を注視する必要がある。

  (編集委員 松尾博文)



そこが知りたい 新素材「CNF」は製紙救う? 王子ホー ルディングス社長 矢嶋進氏に聞く 日本先行、炭素繊維と競う 20 16/11/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の企業面にある「そこが知りたい 新素材「CNF」は製紙救う? 王子ホールディングス社長 矢嶋進氏に聞く 日本先行、炭素繊維と競う」です。





 セルロースナノファイバー(CNF)という新素材への注目が高まっている。木材パルプなど植物からつくる次世代素材で、鉄より軽く強く「ポスト炭素繊維」とも呼ばれる。最も熱心に取り組むのが日本の製紙業界で、国内最大手の王子ホールディングス(HD)の矢嶋進社長に勝算や課題を聞いた。

 ――CNFは炭素繊維に対抗できますか。

 「木材パルプを化学的、物理的に処理したナノ(ナノは10億分の1)メートル単位の繊維がCNFで、解きほぐしたり砕いたりできる。強さは鉄の3~5倍、重さは鉄の5分の1だ。CNFで強化した樹脂は鉄の代わりに自動車や家電部品に採用されるだろう。透明なシートではガラス代替として曲げられるディスプレー部材に使える」

 「軽くて強い繊維素材の代表である炭素繊維との違いは持続可能な天然素材であること。原料の枯渇は基本的にない。製造工程をみても長期的にコスト競争力で徹底的に差が出せる」

 ――紙業界の救世主になりますか。

 「紙の業界は年々内需が減っていくなかでCNFは販売面で期待ができる。当社は2017年後半から透明シートを生産する。ジェルや粉末状でも既にサンプル供給している。自動車や航空機、電機など200社程度と秘密保持契約を結んで新しい製品をつくろうとしている」

 「経済産業省は自動車部品への普及を想定して30年ごろには関連市場を1兆円とする構想を掲げる。用途の広さを考えればそれくらい可能だろう。素材供給で3割程度のシェアはとりたい。ガラス並みの透明度でシートを作れるのは当社だけで、ガラス代替の市場を開拓したい」

 ――機械メーカーも開発しています。国内外の競争環境はどうですか。

 「パルプから紙をつくる製紙業界には間違いなく木の繊維と格闘してきた歴史がある。化学処理など蓄積した技術が強みだ。設備的にいち早くCNFを作り出したのは北欧の製紙会社だが、物理的な処理だけでパルプの域から抜けてない。色々な分野に使えるように化学的な処理をほどこす手法を確立してきたのは間違いなく日本勢だ」

 ――課題は何ですか。

 「用途の開発に時間がかかる。2年後くらいから収益が確保できるようになるとみているが、本格的に軌道に乗るのは10年かかるかもしれない。液体に粘りけを出す添加剤として化粧品や塗料での採用は増えるが、まだ稼げるレベルにはいかない。一方でCNFが水に弱いという現状で最大の技術的な課題は解決の道筋が見えている」

 やじま・すすむ 75年(昭50年)慶大経卒、本州製紙(現王子ホールディングス)入社。管理や企画が長く、09年取締役常務執行役員、12年副社長。15年から現職。東京都出身。65歳

<聞き手から一言>

車・電機向け開拓 低コスト化課題

 海外メーカーやベンチャー企業の進出がほとんどなかった日本の製紙業界。だがセルロースナノファイバー(CNF)のような新素材は競争環境が一変する。顧客となる自動車や電機の業界動向に即応できる経営体制が必要だ。価格もCNFは足元では炭素繊維の2~3倍で低コスト化も課題となる。

 王子ホールディングスは「研究開発でのなまぬるい体質を変える」(矢嶋進社長)ため、外部人材を積極的に登用する。研究所のトップにはパナソニック電工(現パナソニック)出身者を置き、ぬるま湯体質の改革を急ぐ。

(湯沢維久)



けいざい解読 所有者は誰?増える「迷子の土地」 農地集 約・活用を阻害 2016/11/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「けいざい解読 所有者は誰?増える「迷子の土地」 農地集約・活用を阻害」です。





 所有者がわからない「迷子の土地」が目立ち始めている。所有権が移っても登記や届け出をしない人が増えているためだ。災害復旧やまちづくり、農地の集約などで障害になっている。

 「所有者の把握が難しい土地は私有地の約2割になる」。9月半ばに初会合を開いた国土審議会の専門委員会で国土交通省はこう書かれた資料を提示した。全国の4市町村から100地点ずつを選び、登記簿を調べた結果だ。

 最後に所有権の登記がされた時期をみると、全体の19.8%が1964年より古かった。半世紀以上前ということは所有者は変わった可能性が高く、それを「把握が難しい土地」とみなしたのだ。明治時代に登記されたままの土地もあった。

 「迷子の土地」が話題になったきっかけは東日本大震災だった。高台に被災者の移転用地を整える際に所有者が不明な土地が障害になったためだ。各地の公共事業でも事業を中止するような事例が相次いでいる。

 今後の成長戦略に欠かせない農地の集約も阻害している。「農地バンク(農地中間管理機構)」などが2015年度に大規模農家などに貸し付けた面積をみると、政府目標の6割にとどまる。

 遊休農地を有効活用しようと思っても所有者が特定できない場合が多いためだ。独自に実態を調べた鹿児島県では所有者が死亡しても未登記のままの農地が全体の2割に上った。なぜ、こうした事態になったのか。

 一般に土地を取得したり、相続したりすると新たに登記するが、義務ではなく当事者の判断に委ねるのが民法の原則だ。相続を放棄する人も増えている。

 背景にあるのは国民の意識の変化だ。国交省の調査によると、かつては6割超の人が「土地は預貯金や株式より有利な資産」とみていたが、現在は3割に減った。地価下落で土地の魅力が薄れ、管理する手間を避ける傾向が強まっている。

 民法に詳しい山野目章夫・早大教授は「登記制度の信頼性を維持するためにも手続きの支援や税負担の軽減策などの検討が必要だ」と話す。

 法務省は来年度に「法定相続情報証明制度(仮称)」を始める方針だ。書類一式を集めて法務局に提出すると、法定相続人であることを示す証明書を発行する仕組みだ。現在は相続する不動産や預金ごとに大量の書類を個別に登記所や金融機関に出す必要があるが、今後は証明書1枚で済む。

 自治体の対応も重要になる。京都府精華町では死亡届が提出された段階で、戸籍から税務、登記まで総合窓口で対応している。その結果、農地の所有者の変更届け件数が大幅に増えている。

 公益上、必要ならば所有者がわからなくても利用を認める手もある。森林の間伐事業では一定の手続きの後、第三者が使用権や所有権を設定できる仕組みがある。

 今後、日本は「多死社会」に突入する。国土を有効に活用するためにも「迷子の土地」を抑える工夫が欠かせない。

(編集委員 谷隆徳)



内向く世界(3) 「短期主義」の限界 突破口は技術革新 2016/11/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「内向く世界(3) 「短期主義」の限界 突破口は技術革新」です。





 「反グローバル、米国第一主義と気になる問題は多い」。トヨタ自動車の幹部は米大統領選後の世界をこう話す。

 もう一つ注視するのは資本市場だ。資本主義はもうけ優先主義に陥り、格差を広げた。英EU(欧州連合)離脱や米国のポピュリズムにも影響したとされるそうした市場の短期主義は今後、別の国にも波及するのか。

 幹部は「(ドナルド・トランプ氏の勝利は)反グローバルより本音を語ったことへの支持」とみる。節度のない物言いがマネーと結びつけば、短期主義に一段と拍車がかかる可能性はある。

 だが、大きな流れとして資本主義が短期主義、長期主義のどちらに振れるかと言えば、「長期だ」と強調する。

 根拠はここ4、5年の技術の進歩だ。コンピューターの情報処理能力が飛躍的に向上し、人工知能(AI)を載せた自動運転車やそれを使ったまだ見ぬ高付加価値なサービス産業が今後5~20年の間に多数出現する。

 一方、AIが加速するのは「物理や化学分野の研究開発」とも言う。従来はできなかった解析がディープラーニング(深層学習)を使い、短時間で可能になりつつあり、両分野では「20世紀の発明、発見が陳腐化するような技術革新、新産業の誕生が相次ぐ。一番近くにいるのは自動車を含む日本企業だ」と言う。

 トヨタは2014年以降、「年輪経営」の呼称で長期経営を前面に打ち出してきた。厳しくなる環境規制対応、20~30年代に花開くとみられるAIなどに年間1兆円の研究開発費を充てる。

 一方で、同社の未来観と市場の理解には、ズレも生じている。例えば、「AA型種類株式」という新型株を昨年売り出した時だ。

 新株は、5年間売却できない、などを条件に元本保証や有利な配当を約束した。「ディスラプティブ」と呼ばれる破壊的創造型技術の「今後20、30年を見据えた研究開発費に充てる資本に」と考えたが、短期売買の多い米欧投資家などからは「おとなしい日本人個人投資家を優遇し、選別している」と指摘が出た。

 ただ、変化の兆しはある。AA株には約1千件の質問が寄せられた。一つ一つ丁寧に対話をした結果、約3分の2は「長期」に理解を示したとトヨタは言う。

 米国では、年輪経営が始まった14年に米コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーのトップ、ドミニク・バートン・マネジング・ディレクターが「長期に照準を」との論文を執筆。「情報革命で予想される雇用の喪失・流動化に備えるため、人の再教育に時間をかけよう」と企業の取締役会や機関投資家回りを始めた。

 短期主義には経営にスピードを与え、産業の新陳代謝を促す効果もある。しかし、時間をかけて技術革新を生み出す長期の視点がなければ、資本主義は持続しない。そう確信する企業、個人が増えているのは確かだ。(編集委員 中山淳史)



大機小機 ぬるま湯経済の危うさ 2016/11/25 本日の日本経 済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合面にある「大機小機 ぬるま湯経済の危うさ」です。





 来年度の予算や税制改正を巡る攻防が大詰めを迎える季節だが、今年ほど争点の少ない年は記憶にない。本来なら2017年4月に消費税率が10%に引き上げられ、税制の細目や経済対策に関心が集まっていたはず。安倍晋三首相が6月に増税の延期を決め、ぽっかりと穴があいている。

 安倍氏は巡り合わせに恵まれる宰相だ。20年の東京五輪開催を勝ち取り、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でやや強引に世界経済のリスクを警告すると英国が欧州連合(EU)離脱を決めた。トランプ米次期大統領の当選は懸念から期待に転じ、円安・株高が経済の追い風になりそうだ。

 そこそこ居心地の悪くない機運が広がっている。7~9月期の国内総生産(GDP)も実質2%成長というアベノミクスの目標ペースに乗せた。6日続伸の日経平均株価は投資家と企業の「ほどほどの楽観論」を映したものだろう。

 本当に注意しなければならないのは、この微温的な環境に甘えて、先々に解決しなければならない懸案から目をそらすことだ。ぬるま湯と思ってつかっていたら、徐々に温度が上がって最後は動けなくなる「ゆでガエル」となる危うさが、いまの日本にはある。

 無風の予算編成が象徴するのは、国民に評判が悪い改革を軒並み先送りする安倍政権の短期志向である。

 所得税の配偶者控除を「夫婦控除」に切り替えて女性の多様な働き方を支える案は、増税になる世帯から選挙で嫌われたくないとの思惑から、あっさり葬られた。10年後には今をはるかに上回る超高齢化時代が到来するのに、社会保障の支出急増を抑える抜本策は手つかずのままだ。

 日銀のマイナス金利で目下、最も恩恵を受けるのは政府部門だ。GDPの2倍もの長期債務を抱えながら利払い費の負担が浮き、財政を立て直そうとする切迫感も緩んでいる。

 国民の側にも長期政権への慣れができつつある。政治の側が痛みを伴う政策や改革を避けるので、現状維持でも何とかなるという感覚が染みついてきたのではないか。

 こうした「ぬるま湯経済」に警鐘を鳴らす対抗勢力が見当たらないのが日本の不幸である。トランプ相場で一息ついても懸案は何ら解決しない。ツケを払うのは将来世代だ。

(仙境)



対中貿易摩擦、激化の兆し 過剰な鉄鋼が焦点 2016/11/25 本 日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「対中貿易摩擦、激化の兆し 過剰な鉄鋼が焦点」です。





 【北京=原田逸策】中国と欧米などの経済摩擦が激化する兆しが出てきた。米政府は23日、中国を世界貿易機関(WTO)協定上の「市場経済国」に認定しない方針を表明。欧州連合(EU)も同様で、日本も追随する公算が大だ。鉄鋼製品など中国の安値輸出に歯止めをかける狙いだが、米国は中国企業による自国企業買収にも警戒感を強める。反発する中国は対抗措置を視野に入れる。

 「中国が市場経済を発展させた成果は世界が認めている」。中国外務省の耿爽副報道局長は24日の記者会見で強調した。プリツカー米商務長官が「市場経済国への移行は機が熟していない」と発言したことへの反論だ。

 中国が2001年のWTO加盟時に受け入れた15年間の「非市場経済国」の期限は12月11日。日本は外交関係も考慮して市場経済国か否かを明確にせず、事実上は非市場経済国としての対応を取るものとみられる。

 非市場経済国の場合、第三国の価格を基準にしてダンピング(不当廉売)かどうか判断し、高関税で防御できる。市場経済国なら輸出価格が中国国内に比べ不当に安い場合しか課税できない。

 問題は中国製品の国内価格が国際価格よりも大幅に安いことだ。焦点の鉄鋼製品は、鉄筋が日本より1~2割安。原因は国内の設備過剰だ。15年の粗鋼生産量8億トンに対し能力は11億トン強あり、日本の3倍弱が余剰だ。

 中国は輸出拡大で解決しようとした。09年に2400万トンだった鋼材輸出は、15年には4倍強の1億1200万トンに急増した。日米欧の鉄鋼メーカーは業績が悪化し、人員削減に追い込まれた。

 1~8月に中国が受けた反ダンピングなどの調査85件のうち、国別は米国の18件が最も多い。米の市場経済国の認定見送りは当然の帰結だった。中国は市場経済国と認定しなかった国をWTOに提訴するなどの対抗措置を検討するとみられる。

 米中摩擦はダンピング問題だけではない。05年に中国国有石油による米石油大手買収を阻止したのを皮切りに米政府は自国企業買収にたびたび待ったをかけてきた。今年2月には中国半導体大手の紫光集団が米当局の調査開始を理由に米ハードディスク駆動装置大手への資本参加を断念した。

 米議会の諮問機関は今月16日、中国が安全保障上の目的に自国企業を利用していると懸念を表明し、米企業買収を阻止するよう議会に求めた。

中国の鉄鋼過剰生産は国際市況を冷え込ませている(浙江省の鉄鋼工場)=ロイター

 一方、中国もグーグルやツイッターなどの米企業を自国市場から事実上締め出す動きが目立つ。

 グローバル化の進展で世界経済は中国と相互依存が深まった。米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲン(VW)が最も車を売っているのは巨大な中国市場だ。中国は国営メディアを動員した不買運動で対抗することもできる。

 「米国第一」を掲げるトランプ次期米政権の誕生も経済摩擦の深刻化への波乱要因だ。トランプ氏は大統領選中、「為替操作国である中国からの輸入品に45%の関税を課す」と主張してきた。当選後はこの件に触れていないが、中国には危機感が強い。WTO協定上、米国は特定国に対する関税を一方的に上げることはできないが、中国社会科学院の倪月菊研究員は「関税引き上げに向けた調査を進めるだけでも、中国経済には大きな影響がある」と懸念する。

 ▼市場経済国 世界貿易機関(WTO)協定では、政府が為替相場や生産活動を統制している国を「非市場経済国」としている。貿易相手国は厳しい反ダンピング(不当廉売)関税を課すといった対抗措置を取りやすい。市場経済国への移行が認定されれば、相手国は反ダンピング措置を発動しにくくなる。 中国の場合、2001年のWTO加盟時に、当初15年間の非市場経済国扱いを受け入れた。中国は「15年たてば自動的に市場経済国へ移行する」と主張するが、日米欧などは「個別の判断」との立場だ。韓国やオーストラリアなどは中国をすでに市場経済国と認定している。



真相深層 「トランプを操る」男 キーマンは長女の夫 2016 /11/25 本日の日本経済新聞より

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 安倍晋三首相は17日、ニューヨークでトランプ次期米大統領と初めて会談した。米大統領選で民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官に接近してきた日本。主要国のなかで先陣を切ってトランプ氏との会談にこぎつけた背後には「トランプを操る男」とささやかれる1人の若い男性の存在があった。

 「それではトランプタワーにお越しください」。首相との会談場所について日本側に伝えてきたのはトランプ氏の長女イバンカさんの夫、ジャレッド・クシュナー氏(35)だった。17日の会談の数日前のことだ。トランプ氏が8日の大統領選で勝利した直後から、日本側はトランプ氏との早期の会談を探った。

■政治の方が好き

クシュナー氏(左)は大統領選でイバンカさん(中)とともにトランプ氏を支えた(6月、ニューヨーク)=ロイター

 実現に動き出したのはクシュナー氏が間に入ってからだ。日本側は大統領選のさなかからフロリダ州など首都ワシントンからは離れた場所で、トランプ陣営と水面下の接触を続けてきた。下馬評で優位とされたクリントン陣営に漏れれば、報復されかねないためだ。

 その過程で日本側はクシュナー氏がトランプ陣営で大きな力を持っているとの感触を得た。トランプ家で「親日家」といわれるイバンカさんを通じ、クシュナー氏に秋波を送った。17日の安倍首相との会談に、トランプ氏側からはそのクシュナー氏とイバンカさん、国家安全保障担当の補佐官に内定したマイケル・フリン氏が同席した。

 「正直言ってジャレッドは不動産よりも政治の方が好きなのではないか」。共和党候補の指名を確実にした5月のインディアナ州の予備選勝利後の演説で、トランプ氏はクシュナー氏をこう紹介し「政治においても彼は非常に優れている」と持ち上げた。傍らには笑顔を浮かべたクシュナー氏の姿があった。

 米メディアによると、クシュナー氏は米ハーバード大を卒業し、ニューヨーク大で経営学修士(MBA)を取得した。ユダヤ教徒で、イバンカさんも2009年にクシュナー氏と結婚する前にユダヤ教に改宗した。

■人事にも介入?

 クシュナー氏の実家は不動産業。父の後を継いだ経歴がトランプ氏と重なる。父チャールズ氏は04年に脱税や買収、選挙資金の違法献金などで実刑判決を受けた。訴追した検察官はニュージャージー州知事で政権移行チームの委員長だったクリス・クリスティー氏だ。

 クリスティー氏は元側近がニューヨークと結ぶ橋の車線を不当に閉鎖したとして有罪判決を受け副委員長に降格された。背後にクシュナー氏との確執が噂されている。

 クシュナー氏は26歳の時にマンハッタンの5番街にある高層ビルを18億ドル(約2千億円)で買収した。単独のオフィスビル買収では米史上最高額の取引で、不動産業者として名をとどろかせた。

 昨年6月以降のトランプ氏の選挙運動でクシュナー氏は戦略策定や演説文の起草、資金集めで重責を担った。インディアナ州予備選の勝利後の演説でトランプ氏がクシュナー氏の名前を出したのは、娘婿だからという理由だけではなかった。

 「政権の意思決定に深くかかわる」。首席補佐官に指名されたラインス・プリーバス党全国委員長は14日の米NBCの番組でクシュナー氏がトランプ政権のキーパーソンになると明言した。

 かつてのケネディ大統領は弟のロバート・ケネディ氏を司法長官に起用したが、今は「反縁故法」で大統領の家族が政府の要職に就くことは禁じられている。トランプ氏は同法の抜け道を探しているフシがある。クシュナー氏は政府の機密情報に接することができるための手続きを始めた。

 米メディアは首相との会談に同席したイバンカさんを「政治の私物化」と批判し、クシュナー氏にも同様の視線が注がれる。ただし無報酬なら家族でも政府の要職に就いていいとの解釈がある。

 トランプ氏は22日の米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューで、クシュナー氏をイスラエルとパレスチナの和平に向けた「特使」に起用する可能性を示した。まだ少年の面影を残すクシュナー氏がトランプ政権でどんな役割を担うのか。注目しているのは米国民だけではない。

(ワシントン=吉野直也)