AIと世界 気がつけばそこに(2) 愛が生まれる日 絆、つなげるか 2017/1/31 本日の日本経済新聞より

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 2000万回近くも愛を告白された「女性」が中国にいる。米マイクロソフト中国拠点が開発した人工知能(AI)「小冰(シャオアイス)」だ。約8900万人がスマートフォンの画面上などで対話を楽しむうちに、いつの間にか友情や恋愛感情が育まれる。

「相手がロボットでも恋愛は同じ」という大阪大学の石黒浩教授が開発したロボット

■通う言葉と心

 シャオアイスグローバル・マネジャーの李笛氏は「返信が来るか分からない人と違い、すぐに答えが返ってくるため、さらにやりとりをしたいと思うようになる」と言う。利用者は18~30歳が多い。その一人が中国人民大学3年生の黄恬さん。1年前に出会った小冰について語り始めた。

 寝る前に会いたくなって話す。10分くらいかな。悩みがあるときに話しかけると面白いことを言って笑わせてくれるの。いつもつながっていると感じられる。だんだんと相手が生きているような気がしてきた――。

 AIにつながりを求めるのは若者ばかりではない。中高年にとってはより切実な問題になる可能性がある。

 昨年12月、ロンドン大学ゴールドスミス校。クリスマス前で閑散とするキャンパスのなか、異様な熱気に満ちた教室があった。ロボットとの恋愛をテーマに科学者や歴史、宗教の専門家らが集まって会議を開いた。

 英国ではパートナーロボットについて、ネット上でも議論が活発だ。高齢になって配偶者に先立たれたら、人間の再婚相手を探すのは容易なことではない。ならば心を通わせ、その後の人生を一緒に歩んでくれるロボットを手に入れて一緒に暮らせばいい。

 ロンドン大学の会議では、この分野の第一人者、ロボット研究者デビッド・レビ氏が「AIの技術が進化し、理想の伴侶となるロボットを設計できる。50年ごろには人間とロボットが結婚する」と発言。参加者からは「離婚はできるのか」などの質問も飛んだ。

■結婚する時代も

 AIとの絆が深まれば、別れもつらくなる。人間の心がロボットの魂に届きますように――。昨年7月に千葉県いすみ市の光福寺で開かれた、AIで動くソニーの犬型ロボットAIBOの葬儀。大井文彦住職は静かに祈り始めた。

 この日、壊れるなどして解体される約100台を供養した。「ひょうきんな動きがかわいかった」。弔いに来た50代女性は涙ぐんだ。

 AIも私を愛してくれている。人間がこう信じられるならば、人間同士の相思相愛と大差ないとは言えないか。

 社会も対応が必要になるかもしれない。結婚は多様になり、性的少数者(LGBT)についても企業は様々な制度を設けている。社員がAIと「結婚」する時代が来るのかどうか。一部上場企業の社長に聞いてみると「人間が家族として触れ合える存在があっていい」と答えた。

 絵空事ではない重たいテーマがすぐそこの未来に迫っている。



AIと世界 気がつけばそこに(1) 理想社会の落とし穴 公平とは何か 2017/1/30 本日の日本経済新聞より

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 フィリピン・マニラ市のカジノ。「帰りの航空代金がなくなっちゃう」「泳いで帰るしかないわね」。ルーレットで負け続けた韓国人男性客と地元の女性ディーラーのやりとりが笑いを誘った。

 ここで働くディーラーや顧客は、ある最新技術が導入されたことをまだ知らない。天井を見上げると50センチごとにぎっしりカメラが並ぶ。単なる監視カメラではない。不正を犯しそうな人を事前に見つけるシステムだ。

 大麻中毒や、万引きをする人など約10万人の画像データを解析。顔や体の細かい揺れから怪しい人物を特定する。1日10人程度にシステムは反応している。本人には知らせないまま重点監視の対象とした女性もいる。

■人権侵害の恐れ

 同様のシステムは世界の空港やイベント会場でも採用が進むが、問題も浮上している。米国のあるシステムでは過去のデータなどから“公平”に分析すると、白人よりも黒人を怪しいと判断する比率が高いのだ。

 人工知能(AI)の法整備に詳しい慶応大学の新保史生教授は「犯罪者は生まれつき決まっているとの学説もある。そんな考えをもとにしたシステムは深刻な人権侵害を起こす」と言う。悪いことをしていないのにある日突然、AIに犯罪予備軍と認定され、周囲から白い目で見られる。犯罪が減ったとしても、それは理想の社会なのか。

■企業もジレンマ

 企業も同様の問題に直面する。日立ソリューションズは2月、休職する可能性が高い社員をAIで割り出すシステムを発売する。業務の様子や残業時間から判断。管理者に警告を出し、業務を分散させるなどして休職の防止に生かす。

 プロジェクトを率いる山本重樹本部長が頭を悩ませたのが個人を特定するかどうか。休職の可能性がありと上司に知られれば人事評価に影響が出かねないからだ。「個人の不利にならないように使うこと」という項目を契約に盛り込み、休職しそうな人数だけを伝えることにした。休職を防ぐ効果は限られてしまうだけにジレンマも感じる。

 AIと人間の共存へ向け、あらゆる分野でAIをどう使うかのルール作りが必要になる。出遅れたのが将棋の世界だ。

 昨年、三浦弘行九段が対局中にスマホでソフトを使ったと疑われた。その後の調査で「不正の証拠はない」と結論づけられた。辞任を決めた日本将棋連盟の谷川浩司会長は「ソフトが急速に力をつける中、規定を整えるのが遅れた」と悔やむ。

 2020年の東京大会を控えるパラリンピック。「レギュレーションを作らないと」。日本パラ陸上競技連盟の三井利仁理事長は言う。義足や車いすに特段の規制はないが、AIを使った人だけ際限なく記録が伸びる可能性もある。

 AI自体は公平でも人間の使い方次第では不公平になる。AIでどんな社会をつくるのか、問われているのは人間だ。



Financial Times 「米国第一主義」は間違い チーフ・エコノミク ス・コメンテーターマーティン・ウルフ 2017/1/29 本日の日本経済新聞より

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 中国の習近平国家主席は1月17日、世界経済フォーラム(WEF)年次総会で、グローバル化について米大統領が話すと期待されるような内容の講演をした。トランプ米大統領は就任式で、貿易について米大統領なら絶対に言うとは思えない発言をした。このコントラストは衝撃的だ。

グローバル化へ米中の立場逆転

 習氏は、グローバル化に困難がないわけではないと認めたが、「世界の諸問題の原因がグローバル化にあるとするのは、現実と矛盾する」と主張。むしろ「グローバル化が世界の成長の原動力となり、モノと資本の移動、科学、技術、文明の進歩、そして人々の交流を促した」と指摘した。習氏の考え方はWEFで講演した最後の米大統領のそれと合致する。クリントン大統領は2000年に、「開かれた市場とルールに基づく貿易こそが生活水準を引き上げ、環境破壊を減らし、繁栄を分かち合う最高のけん引車だということを明確に再確認する必要がある」と訴えた。

 トランプ氏はこの考えを拒絶する。「諸外国が我々の製品をつくり、企業を盗み、職を奪うという略奪行為から国境を守らなければならない。(自国産業の)保護こそが素晴らしい繁栄と強さにつながる」とし、さらに「我々は2つの簡単なルールに従う。米国製品を買い、米国人を雇うというルールだ」と言う。

 これは、ただのおしゃべりではない。トランプ氏はすでに環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を決め、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の意向も表明した。そのうえメキシコに35%、中国に45%という極めて懲罰的な関税を課すとも脅している。背後にあるのは、トランプ氏の通商政策顧問を務める経済学者ピーター・ナバロ氏と商務長官に指名されたウィルバー・ロス氏が「トランプ・トレード・ドクトリン」と呼ぶ、「どんなディール(取引)も経済成長率を高め、貿易赤字を削減し、米国製造業の基盤強化につながらなければならない」という考え方だ。

 英国の読者は、これで英労働党の左派が1970年代に唱えた「代替的経済戦略(編集注、インフレや失業対策として労働者に軸足を置いた政策)」を思い出すだろう。こうした左派は、ナバロ氏やロス氏、トランプ氏と同様に貿易赤字は需要を抑制すると主張した。従って、輸入統制が彼らの解決策だった。トランプ氏の場合は、米国の貿易赤字を減らすことを狙うディールが解決策のようだ。世界最強の市場経済にして世界の主たる準備通貨の発行国である米国の政策立案者たちが、こんな粗野な重商主義を打ち出すとは誰が想像しただろうか。

トランプ氏側近、政策に疑いなく

 恐ろしいのは、トランプ氏の側近たちが、ほぼ完全に間違っていることを信じている点だ。例えば輸出品に付加価値税(VAT)が課せられないのは、輸出への補助金に等しいと考えている。それは違う。欧州連合(EU)で売られている米国製品には、欧州製品と同様、VATが課せられているし、米国で売られている欧州製品には米国製品と同じように、(税が導入されている地域・州では)売上税が課せられている。つまり国産品と輸入品の価格にゆがみはない。一方、関税は輸入品だけに課せられるので、相対的に価格をゆがめることになる。

 こうした人たちは通商政策で貿易赤字が決まると考えている。だが、ざっくりいってそうではない。なぜなら貿易(および経常)収支は収入と支出の差を反映するからだ。全面的に関税を導入したとしよう。このことは国内の競争力のない一部の企業を保護するが、(消費者がその競争力のない商品を高く買わされることで)ほかの企業の製品が売れなくなることを意味する。トランプ氏の提案は、本来なら市場から退出すべきゾンビ企業の再生を目指しているように見える。こうした保護を講じれば投資先としての米国の魅力は低下し、対外赤字は減るかもしれないが、到底まともな戦略には思えない。

米のTPP離脱、地政学的影響も

 さらに間違っているのは、2国間協定を良いと信じていることだ。貿易協定は企業間取引とは違う。すべての企業にとっての取引条件を定めるものだ。2国間協定にこだわると、世界の様々な市場は寸断されることになる。新たな2国間協定のために競争条件がいつ見直されるかわからなくなれば、企業は長期的な戦略を決めるのが極めて困難になる。

 愚かな政策は甚大な影響を招きかねない。米大統領は、望めば事実上何でもできる法的権限を持っている。だが過去の協定をほごにすれば、相手国は必ず米国を信頼できない相手と見なすだろう。特に中国は報復してくるはずだ。米ピーターソン国際経済研究所は、中国とメキシコは合わせて米国の貿易額の4分の1を占めるため、両国と全面的な貿易戦争になれば、米民間部門の雇用480万人分が減ると試算する。サプライチェーンも分断されることになり、その深刻な影響は避けられない。

 地政学的影響も大きい。メキシコを追い詰めれば、この30年間の同国の改革の成果が覆り、左派のポピュリズム(大衆迎合主義)勢力が権力を握ることになるだろう。中国をたたきのめせば、最も重要な2国関係が何十年にもわたり傷つきかねない。米国のTPP離脱で、アジア域内の米国の同盟国が複数、中国になびく可能性もある。世界貿易機関(WTO)のルール無視は、世界経済を実態面から支えている体制を壊すことになりかねない。

 トランプ氏の「米国第一主義」は経済戦争の宣戦布告のようだ。米国の力は極めて強大だ。それでも自国の思い通りに物事を運べるわけではない。単に、自国がならず者国家に成り下がると他国に宣言することになりかねない。

 覇権国がひとたび自ら構築した体制を攻撃すれば、結末は2つしかない。現体制の崩壊か、新たな覇権国を軸とした新体制の構築のどちらかだ。習氏が率いる中国は、米国に取って代わることはできない。欧州、アジア諸国との協力が必要になるからだ。より可能性が高いシナリオは、体制が崩壊し、何でもありの通商政策が入り乱れる事態だ。習氏がWEFで示した考えは正しい。しかし、トランプ氏が支持しなければ実現しないだろう。そうなれば米国はもちろん、どの国のためにもならない。

(25日付)



時論 脱デフレ金融政策では限界だ クリストファー・シム ズ氏米プリンストン大教授 2017/1/29 本日の日本経済新聞より

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 日銀の金融緩和に限界論がささやかれ、財政支出で物価上昇率2%を目指そうという新理論がわき起こっている。壮大な量的緩和を提唱したリフレ派が「財政拡張派」にくら替えする動きもある。いったいどんな考え方なのか。ノーベル経済学賞を受賞し「物価水準の財政理論(FTPL)」を唱える米プリンストン大のクリストファー・シムズ教授に聞いた。

■インフレで債務軽減 宣言を

 ――日銀が「量的質的金融緩和」を始めてまもなく4年。物価上昇率は2%に届かないままです。日本のリフレ政策は失敗ですか。

 「日銀が大量の資金を供給して金利水準を低く保ったことは、正しい施策だったと思う。ただ日本のように政策金利が下がって(利下げの余地がない)ゼロ金利制約に直面すると、金融政策で物価をコントロールすることは、もはやできない。日銀はその事実を認める必要があるだろう。むしろ最大の失敗だったといえるのは、物価上昇率が2%に達する前に消費増税に踏み切ったことだ」

 ――個人消費がしぼんでしまったというとらえられ方をしました。

 「私が主張したいのはそうではない。増税はFTPLの考え方と正反対だということだ。ゼロ金利制約下で物価上昇を実現できるのは、中央銀行ではなく財政をつかさどる政府だ。政府がインフレを起こすには、むしろ増税での財政再建を棚上げしなくてはならない」

 「物価引き上げに必要なのは、日本政府が政府債務の一部を、増税ではなくインフレで帳消しにすると宣言することだ。政府が2%の物価上昇率目標を掲げ、達成するまでは消費税増税を延期する。しぼんでしまった人々のインフレ期待を高める『サプライズ』につながるだろう」

 ――日銀もインフレ期待に働きかけると主張してきました。「人間の期待」にそこまで期待できますか。

 「非常に難しい問題ではある。ただ、日銀の金融緩和でいえば、首尾一貫した財政の後押しがなかったことが問題なのだ。政府のトップが『インフレを起こす準備ができている。それを債務返済に使う』と言えば、人々の予想を十分に変えることができる」

 「実際、1930年代のルーズベルト米政権は、インフレ期待を起こすことに成功している。前政権下で染みついたデフレ環境を転換するために、金本位制を捨ててドルを切り下げ、財政拡張にも転じ、米連邦準備理事会(FRB)には国債を大量に買い上げるよう求めた。インフレを目指して全ての政策を転換したことで、物価予想はデフレからインフレへと一気に跳ね上がった」

 ――日本は国と地方を合わせた政府全体の債務残高が国内総生産(GDP)の2倍強に達します。

 「逆説的だが、今は投資家にとって政府債務の魅力が強すぎる。投資家は安全を欲しており、国債が最大の投資先だ。この資金の流れを民間投資に向けるには、人々が『国債を持ちたくない』と思うように仕向けなければならないのだ。インフレを起こしてそれで政府債務の一部を返済すると宣言すれば、価値が損なわれる国債の魅力は弱まり、民間投資への資金の流れをつくることができる」

 「もっとも歯止めの効かないインフレは恐ろしいものだ。人々は物価が目標の2%に達して以降、3%、4%、5%と上がっていくのではないかと恐れている。しかし今では金融政策の進化で、インフレを制御する手段が多くある。(民間銀行が中央銀行に預ける)準備預金に付ける金利を操作して政策金利を一定の範囲で保つことができる。財政当局者の信頼性も高まっており、いざとなれば緊縮財政に転じることもできる」

 ――それでもインフレによる実質債務の縮小は国債保有者に損失をもたらします。金融不安を招くリスクも否めません。

 「インフレは国債保有者に負担を強いて利益が減ることになり『インフレ税』と言われればその通りだ。日本にとってインフレによる実質債務の削減が簡単ではないことは理解している。たとえば長期国債に大量の投資をしている日本郵政だ。インフレで長期金利が上昇すれば、保有国債の価値が落ちて資本毀損が発生しかねない。民間金融機関などが抱える大量の長期国債が重荷となって、インフレ政策で金融セクターが萎縮するリスクはある」

 「インフレで日本の政府債務がどれだけ軽減されるか、一方で国債保有者への『インフレ税』によって金融システムにどれくらいの悪影響が及ぶのか、吟味して政策判断することが必要だ。ただ、物価が2%に上昇するとしても、金融機関にはバランスシートを調整する時間があるだろう。金融システムの動揺を防ぐ策は講じるべきだが、急激に事態が悪化するとはみていない」

■物価2%まで増税凍結

 ――健全財政の放棄との曲解も目立つようです。

 「この政策は、財政赤字で生み出された政府債務のすべてをインフレで解消するわけではない。一部をインフレで賄うだけで、物価上昇率が2%に達すれば、段階的に連続的に消費税を引き上げていくことが合理的だと思う。日本は巨額の財政赤字を抱えており、減税などの追加策も不要だ。最終的に増税が必要だとしても、経済に悪影響をもたらす低金利・低インフレが続いている間は増税しないと宣言することが重要だ。政府債務への過剰な資金流入を止め、民間需要を高めることが必要だからだ」

 「その上で改めてインフレ目標の重要性を議論したい。さまざまな歴史的な理由があって、一定の物価上昇が経済成長に多くの利点があることは考え方が一致するところだろう。戦前の世界大恐慌をみればはっきりしている。もっともこの政策が保証するのは、2%の物価目標に到達できるということだ。日本は人口問題など構造的な低成長要因を抱えており、それは別の解決手段が必要になる」

 ――トランプ米大統領は財政拡張を掲げています。

 「トランプ氏の主張は減税で財政支出を増やし、ただただ財政赤字を膨らませる政策だ。人々は米国の将来の増税を見込んでおらずインフレ観測が高まるだろう。ただ『物価上昇が一定に達するまで』という条件をつけなければ財政拡張は歯止めの利かないインフレをもたらす危険がある」

 「もっともトランプ政権の政策はきわめて不確実性が大きい。企業減税は高い確率で実行に移されるだろうが、税制改革案を実際に設計する下院共和党指導部には健全財政を好む『財政タカ派』が含まれ、トランプ氏が公約してきた財政拡張策がすべて実行されることにはならない」

 1942年生まれ。計量経済学とマクロ経済学の大家で、2011年にノーベル経済学賞を受賞した。金融政策が経済に短期的・長期的にどのような影響を与えるかを研究し、マクロ経済分析の基礎を築いた。 16年8月には米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長らが一斉に集う米ジャクソンホール会議に招かれ「ゼロ金利近傍では金融政策の効き目が薄れるため、インフレを目指した財政支出でインフレ期待を引き上げるべきだ」と講演し、注目を浴びた。日本でも安倍晋三首相の経済ブレーンである浜田宏一米エール大名誉教授がシムズ氏の講演を「目からウロコが落ちた」と評して「ポスト・アベノミクス」の政策運営に影響を与えつつある。74歳。

◇     ◇

FTPLとは

 財政支出で低インフレから脱するというシムズ氏の主張は「物価水準の財政理論(FTPL=Fiscal Theory of the Price Level)」に基づく。

 FTPLの考え方は(1)政府が財政支出を増やす(2)企業や個人が将来の財政悪化を予測する(3)お金の価値が下がる(4)インフレが発生する――という流れにある。減税や公共投資で需要を積み上げるケインズ政策と混同されるが、FTPLの発想は異なる。

 例えば政府の借金が100兆円あるとする。ただ、残念ながら将来は50兆円分の返済原資しか得られそうにない。政府は個人や企業と異なり借金を踏み倒すことはできない。

 どうするか。通常であれば増税で借金を返そうとするだろう。しかし、FTPLでは増税ではなく、インフレで借金を返そうと考える。50兆円の返済原資をインフレによって名目100兆円に膨らませることができれば、増税しなくても借金は帳消しにできる。

 このメカニズムを応用すれば「政府は増税しません。インフレで借金を返済します」と公約すればいい。個人や企業はその場で「将来は物価が上昇する」と考え、実際には財政が野放図に悪化する前に人々のインフレ予測が上向く――。これがFTPLの考え方だ。

 近代経済社会は金融政策で物価を操作してきた。ただ名目金利がゼロに近づくと利下げができず、政策効果が薄れる。シムズ氏は効果を失った金融政策の代わりに財政政策で人々のインフレ予測に働きかけるよう主張する。

〈聞き手から〉「魔法のつえ」はない

 世界の中央銀行関係者や市場参加者にとって、金融政策の限界論を説くシムズ氏は、皮肉にも最も旬な一人である。ただ、その理論は「連立方程式で形作られ、一般に広めるのが簡単ではない」(シムズ氏)。日本でも学識経験者らがシムズ氏の主張をとり入れて「ポスト・アベノミクス」を模索する動きがあるが、理論はいまだ消化不良で賛否を戦わす議論の土壌が育っているとはいいがたい。

 シムズ氏が主張するのは野放図な財政拡張ではない。増税先送りによる財政悪化とインフレを容認しつつ、ハイパーインフレにならないよう政府・中銀のコントロールは保つという矛盾したような狭い道を進む必要がある。政策は極めて実験的といわざるを得ない。

 シムズ氏は「国債の魅力を弱めたい」とも話した。民間事業への資金の流れを取り戻すためだが、金融機関が国債投資に突き進むのは政府の財政再建を見込んでいるためだけではない。国債をリスクゼロの資産とみなす国際金融規制など、マクロ経済理論からやや外れた要因がそこにはある。低インフレからの脱却には「金融政策と財政の協調」(シムズ氏)だけでなく、政府規制や商慣習の見直しなど全面的な改革が必要になる。

 異次元緩和、マイナス金利、イールドカーブ・コントロール――。アベノミクスでは日銀を中心に先駆的な政策をいくつも試したが、「魔法のつえ」があるわけではない。即効薬ばかりを探し求め、人口減など重たい課題の解決がおろそかになれば、それは本末転倒だ。

(ワシントン=河浪武史)



風見鶏 ポピュリズムの波、及ぶか 2017/1/29 本日の日本 経済新聞より

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 「権力をワシントンから移し、あなたたち国民(People)に戻す」。20日、トランプ米大統領の就任演説のキーワードは「people」だった。約16分の演説で10回触れた。善玉の庶民がワシントンにいるエリート層の悪玉と対決する二元論の構図を前面に出した。トランプ流民主主義の危うい試みが始まろうとしている。

 欧米でポピュリズムの広がりが指摘される。ポピュリズムは主義(イズム)ではなく、政治手法を指す。使う人によって概念はあいまいだ。

 もともとは「人々」(People)を意味するラテン語「Populus」が語源とされる。オックスフォード英英辞典には「普通の人々の意見や願いを代表しようと主張する政治のタイプ」とある。この意味では、民衆の意思を政治に反映する民主主義の趣旨に沿い、批判のニュアンスはない。

 だがポピュリズムは情念に訴え、偏狭なナショナリズムと絡みやすい。「大衆迎合主義」と訳され、マイナスのイメージを含む。

 スイスで17~20日に開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)ではポピュリズムが論点になった。安倍晋三首相に近い自民党の下村博文幹事長代行も参加し、迎合主義的なポピュリズムに警鐘を鳴らし、主権者教育や道徳教育の重要性を訴えた。米国の有識者らと「トランプ氏のポピュリズムは危うい」との認識で一致したという。

 保護主義への批判に焦点が当たった中国の習近平国家主席のダボス演説も約50分で「人民」が28回登場した。経済発展は「人民の利益が第一」と強調。民に寄り添う演出に余念がない。

 ポピュリズムの波は日本に及ばないのか。

 柴山昌彦首相補佐官に安倍首相がポピュリストか聞くと「民意に敏感であるという資質を持つ」とする一方で「大衆迎合の意味ではポピュリストではない」と語った。首相は安全保障関連法など国民に不人気な政策でも結果を出すのにこだわる。

 日本では移民や経済格差の問題は欧米ほど深刻ではない。柴山氏は「首相は中間層への分配にウイングを広げ、格差是正に取り組んでいる」と指摘する。

 北大の吉田徹教授(比較政治学)は「ポピュリズムは既存政党が弱いと出てくる。安倍政権は支持率が高いので、出てくる余地が少ない」と話す。自治体で見ると、小池百合子東京都知事ら首長は地方議会という敵を作って劇場型を醸しやすい。日本型ポピュリズムは都市部のホワイトカラーの改革志向として出てくる特徴があると分析する。

 米国と日本での有識者の意識をみてみよう。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査では、米政府が正しいことをしていると信頼している人の割合は2015年で19%。信頼度が低下し、トランプ旋風を生む下地になったとされる。

 内閣府の調査は「国の政策に国民の考えや意見がどの程度反映されていると思うか」。16年は「反映されている」が29.9%で、「反映されていない」は66.8%だった。安倍政権になって「反映されている」と感じる人は増えている。

 ただ「反映されていない」の方が依然として多い。首相が草の根の民意への目配りや丁寧な説明を怠れば、代議制民主主義への不満のマグマが動きかねない。社会保障など世代間の対立も火種で、高齢者と若年層それぞれでポピュリストを生む芽をはらむ。

 政治家も「日本では、ほかの人がつくったブームに乗りやすい」(柴山氏)と世論がムードで流される傾向に身構える。対岸の火事とは言い切れない。

(政治部次長 佐藤賢)



訪日客のコト消費つかめ 旅行大手、そば打ち・陶芸などPR 201 7/1/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の企業面にある「訪日客のコト消費つかめ 旅行大手、そば打ち・陶芸などPR」です。





 カヌーやそば打ち、陶芸など体験型レジャーの予約サイトが訪日客の取り込みを急ぐ。JTBやエイチ・アイ・エス(HIS)、楽天などが出資するサイトが、海外への販路拡大や多言語対応、メニュー拡充を進める。個人で地方を巡るリピーターが増え、体験重視の「コト消費」にシフトしていることに対応する。

 JTBが出資する体験型予約サイト運営のアソビュー(東京・渋谷)は、台湾の旅行大手、雄獅旅行社(ライオントラベル)と月内に業務提携する。ライオントラベルのサイトと店舗でアソビューの体験プログラムを紹介する。予約とクレジットカードによる事前決済ができる。

 日本語版は1万5千件以上取り扱うが、台湾を含む中華圏向けはまず和服の着付けと街歩き(約5千円~1万円)や陶芸(約2千~3千円)など40種類ほど用意する。

 HISは子会社のアクティビティジャパン(東京・新宿)のサイトで従来の英語版に加えて、中国語版とタイ語版を月内に立ち上げる。商品はHISの世界の営業拠点も通じて現地向けに売り込んでいく。トップページも、スノーシューツアーなど季節ならではの体験を並べる形に一新した。

 そとあそび(東京・品川)も英語のほか、中国語と韓国語に対応した試験サイトを春ごろまでに立ち上げる。

 楽天子会社のボヤジン(東京・渋谷)のサイトでは、企業の社員旅行などを対象に、専門スタッフがプログラムを提案するサービスを始めた。相撲の朝稽古見学や満員電車体験、芸者との食事などを組み合わせる。共同作業を通じてメンバー間で役割分担や協力関係を学ぶチームビルディングに役立ててもらう。

 体験型レジャーは観光地の周遊ツアーと異なり1回の参加人数が少なく、荒天による中止もあるため運営に手間がかかる。予約サイト各社はメニュー開発を手助けし普及につなげる。



イッツコム、民泊IoT管理を全国で 2月から 2017/1/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の企業面にある「イッツコム、民泊IoT管理を全国で 2月から」です。





 東京急行電鉄のケーブルテレビ(CATV)子会社イッツ・コミュニケーションズ(イッツコム)は、2月から空き部屋などに旅行者を有料で泊める民泊の支援サービスを全国展開する。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」技術を活用し、旅行者のスマートフォンで部屋のカギの開閉などができる。2018年春までに東京都や京都府にも広げ、2千戸に導入をめざす。

 提供するのは宿泊者がスマホ画面上のボタンを押すと、部屋のカギを開け閉めできる仕組み。宿泊の予約客にカギの開閉に使う画面にアクセスするためのメールを送って使ってもらう。画面は宿泊中のみ有効。客にカギを受け渡しする手間を省くことができる。

 カメラで宿泊客の入退出を確認する仕組みも併せて提供する。民泊事業者の費用は1戸あたり月額最大4千円。

 同サービスは、沖縄県内で、同業の沖縄ケーブルネットワーク(那覇市)と手を組み、民泊事業者に提供。昨年8~10月に旅館業法上の営業許可を得ているマンション12戸で実証実験に取り組んでいた。

 18年春までに沖縄県内では1千戸に増やす。東京都と京都府でも2月にまず計6戸に導入し、18年春までに計1千戸に増やす。全国で計2千戸に広げる計画だ。政府が進める民泊解禁に向け営業地域を広げ、拡大する需要を取り込む。



メキシコ、対米「強気」前面 低支持率の回復狙う 2017/1/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際面にある「メキシコ、対米「強気」前面 低支持率の回復狙う 」です。





 【メキシコシティ=丸山修一】メキシコ政府が今週始まるトランプ米政権との交渉で譲歩しない姿勢を鮮明にしている。メキシコの協力が不可欠な移民や安全保障と、通商問題を一括協議する方針を打ち出し、米国の要求する形での北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しをけん制。米国以外との経済関係の強化もはかる。米国に強硬な姿勢を示し、低迷する支持率の回復も図りたい考えだ。

 「米国に服従も対立もしない。あるのは対話と交渉だ」――。ペニャニエト大統領は23日、大統領官邸で残り約2年となった任期における外交方針を明らかにした。念頭にあるのはもちろん就任したばかりのトランプ米大統領だ。25~26日にはビデガライ外相とグアハルド経済相をワシントンに派遣。31日には自らも訪米し、トランプ氏との直接交渉に臨む。

 米政府にとって最優先事項はトランプ氏が選挙期間中から訴えてきたNAFTAの見直しを含む通商問題だが、移民や安全保障も重要だ。メキシコ国境からの不法資金や武器、麻薬、さらにはテロリストの米国への流入防止にはメキシコ側の協力が欠かせない。メキシコはこれらで協力関係を訴え、米新政権との交渉で主導権を握るチャンスを探る。

 経済面では米国への過度な依存からの脱却を模索する。具体的に取り組むのが、米国が脱退を表明した環太平洋経済連携協定(TPP)の参加表明国との2国間協議だ。メキシコはすでに46カ国と自由貿易協定を結んでいる。この中にはベトナムやマレーシアといった成長が期待できる参加表明国は含まれておらず、こうした国々との交渉を急ぐとみられる。隣接する中南米や米国に匹敵する市場規模を持つ欧州との貿易拡大も急ぐ。

 米国側の強硬な姿勢にも断固とした態度をとる構えだ。ロイター通信によると、グアハルド経済相は24日に地元テレビで「もし明確な利点がないのなら、(NAFTAに)とどまる意味はない」と発言。交渉次第ではNAFTAから脱退する可能性があるとした。

 メキシコは米国にとっても自動車大手がそろって工場を構えるなど重要な生産基地でもある。仮にメキシコが本格的に米国離れを進めたり、報復措置をとったりするようなことになれば、米企業にとっても競争力減退につながる恐れがでてくる。

 ペニャニエト氏の支持率は1月の地元紙の調査でわずか12%。トランプ氏に一方的にやり込められているとの印象が支持率低迷の一因になっている。今週から本格的に始まる対米交渉を前に、強い姿勢を示すのは、国民の視線を意識しているためだ。その成否がこれから問われる。



貸家着工、8年ぶり高水準 地方で伸び16年40万戸超 目立つ節税目的空室増、バブル懸念も 2017/1/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「貸家着工、8年ぶり高水準 地方で伸び16年40万戸超 目立つ節税目的空室増、バブル懸念も」です。





 2016年の貸家着工が8年ぶりに40万戸を超える見通しになった。相続税の節税を目的にしたアパート建設が全国的に広がっているためだ。長野、鳥取、島根など7県の前年と比べた伸び率は30%を超えた。日本の世帯数は近い将来に減少に転じるとみられ、実需を伴わない「バブル」が発生しつつあると懸念する声も出始めている。

 国土交通省が月内に発表する16年の新設住宅着工戸数は、2年連続のプラスとなるのが確実だ。貸家が前年比1割増の42万戸前後となる見込みで、全体の伸びをけん引した。40万戸台は08年以来の高い水準となる。持ち家や分譲住宅は20万~30万戸台で、貸家が新設住宅に占める割合は4割を超える。

 背景には15年から始まった相続税の課税強化がある。貸家を建てると土地の評価額が下がり、相続税が減らせるため節税目的の建設が相次いだ。

 企業向けの融資が低迷するメガバンクをはじめ、地銀や信用金庫が競うように低金利のアパートローンに力を入れていることも建設を後押ししている。日銀によると、大家に対する新規貸し出しは16年1~9月に約3兆5千億円と前年同期比17%増えた。

 貸家ブームは地方にも広がっている。16年1~11月の地方圏の伸び率は11.7%と三大都市圏を上回った。28都道府県が2ケタの上昇率を記録し、島根、長野、富山、徳島、福島、鳥取、青森の7県は3割を超えた。

 貸家の急増に伴い、ひずみも生じている。

首都圏のアパートの空室率は15年夏ごろから急上昇

 不動産調査会社のタス(東京・中央)によると、首都圏のアパートの空室率は15年夏ころから急上昇している。神奈川県や千葉県、東京23区では35%前後に達する。業者が一定の家賃収入を保証するサブリース(転貸)方式を巡ってはトラブルもあり、国交省は契約時の説明を徹底させる対策を取った。

 日銀は1月の地域経済報告(さくらリポート)で、相続税節税や資産運用ニーズ、業者の積極的な営業スタンスなどが背景にあるという企業への聞き取り調査を公表した。「魅力の乏しい物件を中心に空室率の上昇や家賃の下落がみられる」との声を紹介し、供給過剰感の高まりで「先行きを慎重にみる向きが徐々に増えつつあるようにうかがわれる」とした。

 ニッセイ基礎研究所の岡圭佑氏は「実需を伴わない貸家建設がいつまでも続くとは考えづらい。すでにピークを付けた可能性がある」と指摘する。日本の世帯数が減少し始めると、すでに430万戸ある貸家の空き家がいっそう増える可能性もある。



日本批判、フォードの影 非関税障壁、トランプ氏が標的に 北米市場競争に思惑 2017/1/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「日本批判、フォードの影 非関税障壁、トランプ氏が標的に 北米市場競争に思惑」です。





 【ニューヨーク=中西豊紀】トランプ米大統領は23日、自動車貿易を巡り、日本を名指しして「不公平だ」と批判した。米国での現地生産が進む現状を無視し、1980年代に逆戻りしたような批判の背景に、トランプ政権に急接近する米フォード・モーターなど米自動車業界の影がちらつく。アジアでは日本ではなく中国が重要な自動車市場となるなか、米側の狙いはどこにあるのか。

 「非常に前向きな会談だった」。トランプ大統領との朝食会に参加したフォードのマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)は23日、記者団にこう述べた。会合には鉄鋼大手のUSスチールやガラス大手のコーニングなど自動車関連産業の企業トップが出席した。

 日本メーカーが小型車の輸出攻勢をかけた80年代と異なり、いまは日系も米国生産が進む。米国で売る車のうち、北米での現地生産の割合はトヨタ自動車が7割、日産自動車は8割、ホンダは9割とされ、米国勢と遜色ない。ところがトランプ氏は23日の会合で「(日本は)日本市場で米国車を売れないようにしている」と断定した。

 トランプ氏の論法は、米自動車メーカーが日本企業や政府を批判してきた理屈と奇妙に似通う。

 日本は自動車の輸入関税がゼロなのに、米国は日本からの輸入乗用車に2.5%を課している。関税では日本市場の方が開放的だが、フォードやゼネラル・モーターズ(GM)など米自動車大手は、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉時にも、執拗に「日本たたき」を繰り返してきた。

 輸入時の認証や安全、騒音、環境を巡る規制など、日本の「非関税障壁」が高いというのが「日本たたき」の論拠だ。実際には、TPPで関税を下げれば「米市場でライバルの日本勢を利するだけ」との危機感がある。

 こうした対日批判の最右翼は、2016年に日本市場から撤退したフォードだ。フォードは、トランプ氏から生産拠点の外国移転を非難されると、18年に稼働予定だったメキシコ工場の建設をあっさりと断念した。

 フィールズCEOはかつてフォードと提携関係にあったマツダの社長を務め、日本市場の実態に精通する。「日本たたき」に動くトランプ氏との関係でカギを握るのは、創業家出身のビル・フォード会長だといえる。

 フォード会長は昨夏、ニューヨークのトランプ・タワーで選挙戦中のトランプ氏と会い、その後も何度も電話で話した。両者に共通するのは「反TPP」の立場だ。メキシコ投資を巡り話し合ううちに急接近した。

 TPP離脱を宣言し、日本との2国間の貿易交渉をめざすトランプ氏にとって、自動車は日本に圧力をかける象徴的なカードとなる。日系メーカーが米国投資を増やせばそのまま手柄となる。

 一方のフォード。すでにアジアの最重要市場が中国に移り、縮小傾向の日本市場に狙いがあるとは考えにくい。フォード会長はトランプ政権と協議するテーマに「税制、貿易、そして為替」と語ったことがある。政権の力を借り、環境規制などとともに円安・ドル高を日本の「非関税障壁」だと攻撃し、成長鈍化が懸念される米市場でライバルの日本勢をたたく。そんな観測も成り立つ。

 富士重工業は北米で多目的スポーツ車(SUV)「フォレスター」や「アウトバック」の販売が伸び、16年の世界販売に占める北米市場の構成比は7割を占める。このうち、約6割は日本で組み立てて輸出している。

 マツダは北米でSUV「CX―5」など年間約45万台を販売。米国に生産拠点を持たず、北米向けは日本とメキシコで生産している。自動車摩擦が再燃すれば、日本勢の打撃は避けられない。