迫真 訪日消費 第2幕(下)日本人ともっと話したい 2017/ 8/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 訪日消費 第2幕(下)日本人ともっと話したい」です。





 シンガポールから来たイズワン・ダニエル(28)は22日の夜、東京都渋谷区の焼肉店「牛門」に向かった。注文したのは3千円のセット。メニューにはイスラム教の戒律に沿った認証の表示がある。「これなら安心して食べられる」。同行した母とジュースで乾杯した。

ハラル対応のレストランが増えている(東京都渋谷区の焼肉店)

 親子では初の訪日。出発前にネットでレストランや観光地の情報を念入りに調べた。ムスリムのダニエルは豚肉や酒を口にしてはいけない。牛肉や鶏肉も調理法などに「ハラル」というルールがある。驚いたのはそのルールに対応した店が多いこと。「何年か前に仕事で来た時はこんなになかったよ」。最初の晩は「初めて見た」というハラル対応の焼肉店を選んだ。

 ムスリム向けに情報を発信するハラールメディアジャパン(東京・渋谷)によると、ハラル対応のレストランは東京など大都市中心に約800店ある。1~2年で急増した。最近はモスクをスマートフォンで探せるサービスも登場。安心して滞在を楽しめる環境が整ってきた。

 訪日客といえば中国人の印象が強いが、伸び率が高いのは東南アジアや南欧など。イスラム教徒の多いインドネシア人も今年1~7月に前年同期比35%増えた。訪日2回以上のリピーターが6割を超え、消費の主体は買い物から体験に移っている。国民性や宗教の違いに着目すれば裾野はまだ広がる。

 「日本の鉄道が本当に時間通り来るのか楽しみにしていたんだ」。スペイン人のエマ・アレッシ(29)は地下鉄の銀座線が時刻表通りに発着する場面をうれしそうに振り返った。「スペインの鉄道は頻繁に遅れるから」。台湾から来たリー・レン・チェン(42)が感銘を受けたのは道路やトイレの清潔さ。「日本は完璧すぎる」と興奮気味に話した。感動のツボは様々だ。それがネットを通じて世界に広がり訪日の連鎖を起こす。

 爆買い失速で沈滞ムードが漂った訪日消費。客数増とともに息を吹き返し、訪日消費額は1~6月に2兆円を突破した。政府は2020年、通年で8兆円の目標を掲げる。この流れを勢いづけるのに何が必要か。観光で大阪に来たプエルトリコ人のオマール・パチェコ(29)はこう言った。「英語を話せる日本人が少ないのは残念。日本人ともっと話をして、日本のことを知りたい」

(敬称略)

 中山修志、栗本優、大林広樹、花田亮輔、下野裕太、山本紗世、西岡杏、平嶋健人が担当しました。



スタートアップ大競争ここまで来た(4)国を鍛える気づけば社会イ ンフラ 2017/8/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「スタートアップ大競争ここまで来た(4)国を鍛える気づけば社会インフラ」です。





 メキシコの首都、メキシコシティ。治安も悪く、地元のタクシーでさえ近づかない区画にある公立中学校から、子どもたちの笑い声が聞こえるようになった。教室で子どもたちはパソコンで講義を視聴し、自宅ではスマートフォン(スマホ)で何度も復習できる。模擬試験の点数は以前と比べて約3割向上。多くの子どもが学ぶことの楽しさを知るようになった。

新興国の教育改革を支える(メキシコシティでクイッパーの教材を視聴する中学生)

 スマホなどで視聴できるオンライン講義システムを開発したのは、英クイッパー(ロンドン)。ディー・エヌ・エー(DeNA)創業メンバーの渡辺雅之・最高戦略責任者(CSO)が2010年に設立した。

300万人が学ぶ

 新興国では教師不足が足かせとなり、思うように教育改革が進まない。メキシコは教師不足の世界ランキングで58位。いつでもどこでも手軽に勉強できるクイッパーの講義システムは、教師不足の対策につながる。

 教育は国の成長を支える礎となる。スタートアップの発想と行動力が次代を担う若者の教育改革を支える。クイッパーの教育システムはフィリピンやインドネシアなど6カ国で、300万人以上が利用する。メキシコシティの教育委員会も4月に200校・約3万人で導入することを決めた。「教育改革を担う重責を感じる」。渡辺CSOは語る。

ドローンで薬

 21世紀は人材への投資こそが国の成長を左右し、世界各国が教育や医療などのインフラ整備を急ぐ。新しい発想で事業を生み出すスタートアップ企業こそが次世代のインフラの担い手になる可能性を秘める。

 貧困や紛争にさいなまれてきたアフリカのルワンダ。2011年起業の米ジップライン(カリフォルニア州)が世界初とされるドローンによる商用物流の実験に乗り出した。交通が不便な離村などにある約50カ所の医院に輸血パックや医薬品をドローンが届ける。

 民族紛争や隣国の難民流入を背景にルワンダの財政は逼迫し、国民の保健衛生の向上は待ったなし。ジップラインは政府に代わるインフラ機能を担い、物流網が脆弱な新興国での事業拡大に商機を見いだす。

 インドネシアの首都ジャカルタ。ベンチャー企業で働くステファヌスさん(31)は平日の午後、欲しかった電子機器をインターネット通販で注文した。受取場所をオフィスに指定すると、約2時間半後にはバイクに乗った運転手が商品を届けた。迅速な配達を実現したのが、バイク乗りのシェアサービスを手掛けるゴジェックだ。

 インドネシアではインターネット通販の利用者が急増する一方で、慢性的な渋滞による配達の遅れが日常茶飯事。ゴジェックは町中で無数に走る個人商売のバイクタクシーの中から、最も早く荷物を届けられる運転手を手配する。

 新興国でもネット通販や宅配が生活のインフラとして定着し、サービスの品質は日本を超える。インドネシア政府は消費振興や低所得層の雇用促進策としてもゴジェックに期待する。

 気がつけばスタートアップ企業の製品やサービスが「社会インフラ」として根を張り、世界で眠っていた人材の成長力に命を吹き込む。



スタートアップ大競争ここまで来た(2)20歳、起業は2社目若さ や失敗も原動力に 2017/8/29 本日の日本経済新聞より

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 仁礼彩香さん(20)は一見、ごく普通の女子大生だが、2度の起業経験を持つ「シリアルアントレプレナー」だ。最初の起業は中学2年生だった14歳の時。大学に入った昨年夏、企業向け研修や製品開発を支援する2度目のスタートアップ企業「ハンドC」を設立した。

大学生の仁礼彩香さん(右)は14歳で起業した(都内)

教育制度に疑問

 「どうして答えはひとつなんですか」。起業したきっかけは、画一的な日本の教育制度への疑問だった。子どもが自由に表現したり、発信したりする手助けをしたい――。14歳で起業したグローパスでは、森永製菓とお菓子作りを通じて子どもの創造性を育む講座などを開いた。

 グローパスを中学生の後輩らに託して、ハンドCでは社会人などを対象にしたオンライン教育の事業計画も練る。

 世界の株式時価総額で上位5位内に入るアップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、フェイスブック。いずれも創業者が10代後半から20代前半で起業し、世界市場を切り開いてきた。

 中国のネット通販最大手のアリババ集団(浙江省)を率いるジャック・マー会長。アリババを興す前に3度、起業と失敗を繰り返した。

 大学教師から転身して1992年に翻訳会社を設立。運転資金を稼ぐため、贈答用の花や医療機器など売れる商材には何でも手をつけた。競合企業に自分の会社を買収されたこともあった。雌伏の7年を経て、アジア全域に広がる巨大な経済圏を築き上げた。

 世界では若さや失敗はスタートアップの障壁にならない。むしろ、イノベーション(革新)を生み出す原動力となる。

 日本はどうだろうか。年功序列や大企業志向が根強いが、15歳で起業したGNEX(東京・品川)の三上洋一郎社長(19)は「10代での起業は珍しくない」と語る。倒産経験をリスクとしか見なかった「日本株式会社」も変化の兆しを見せる。

倒産経験が資産

 福島銀行は2015年、過去に倒産経験がある経営者の再起を後押しする10億円規模の投資ファンド「福活(ふっかつ)ファンド」を設立した。

 8月には、倒産経験のある起業家が経営するスマートフォン向け動画配信サービス会社に4000万円を出資。訪日外国人客向け観光案内サービスを支援する。「成功や失敗を問わず、起業した経験はスタートアップで重要な資産だ」。福島銀行と組む起業家支援団体、MAKOTO(仙台市)の竹井智宏代表理事は語る。

 「自分にしかできないことを極めたい」。音声認識技術を開発するフェアリーデバイセズ(東京・文京)の藤野真人社長(35)は語る。08年に東京大学大学院医学系研究科を中退。医師になる道を捨て、フェアリーデバイセズを起業した。

 臨床研修で枕元に置いたクマのぬいぐるみに話しかける女の子の姿が、今でも忘れられない。ぬいぐるみが人間のように応答できる技術がビジネスとして花開き、シャープのロボット掃除機など数多くの家電製品に採用される。

 民泊の世界最大手であるエアビーアンドビーは、観光とは無縁の20代のデザイナーたちが起業した。情熱やアイデアがあれば、誰でも起業家になれる。答えは、ひとつではない。



飲食店や観光地 SNS映えよりまずはマナー 撮影時に一 声 他の客に配慮 2017/8/28 本日の日本経済新聞より

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 スマートフォン(スマホ)の進化と交流サイト(SNS)の普及で、個人が気軽に飲食店の料理や観光スポットの写真を撮りネットに投稿することが広がっている。撮影に熱中するあまり、マナー違反も目立つようになってきた。一方、店側もセンスの良い映像が広がればPRにつながるだけに、撮影禁止に踏み切りにくい。撮ってもいいのか基準が曖昧になるなか、どんな配慮が求められるのか。

渋谷ヒカリエでは「インスタグラム」に食事の写真を投稿すると特典が得られるキャンペーンを実施(東京都渋谷区)

「渋谷 水刺斎(スランジェ)」の「インスタ映え」を意識した限定メニューの冷やし麺

 東京・四谷の日本酒専門の飲食店「鎮守の森」。酒の銘柄や料理名が並ぶメニューの中には「撮影時には一声掛ける」「他の来店客を映さない」など注意喚起の一文がついている。酒や料理を撮影する客が増えるに従い「実際に他のお客さんが映ってしまってインターネットに載せられて困ったという事例もあった」と代表の竹口敏樹さん。

 動画を撮りながら来店したり、三脚を設置して撮影したりといった行為もあるという。テーブルの上に置かれた一眼レフカメラに万が一お酒がこぼれたら、場合によっては店側が弁償しなければならないなど、心配の種は尽きない。撮影している間に料理が冷めることもあり「お酒との相性を考えた温度で料理を出しているので、温かいうちに食べてほしい」のが本音だ。

 札幌市のジンギスカンの有名店「だるま」は店内に撮影禁止のマークを張りだしている。「自身の注文したものを撮るのはいいが、他のお客の顔が入ってしまうのはNG」と基準を設けている。クレームが来たわけではないが、プライバシーへの配慮から禁止にした。

 今ではもう「ほとんどの人が写真を撮っている」状況が続くという。背景にあるのが、写真共有アプリ「インスタグラム」の浸透。個人が写真をネットに投稿し、魅力的な写真は「インスタ映え」と言われ注目を集めるようになった。サンドイッチの断面が美しい「萌え断」など様々な流行を生んでいる。

 飲食店側も、料理をうまく撮ってもらいネットで広がれば、有力なPRにつながる。撮影禁止にしている「だるま」でも、「おいしそうに撮っていただいてネットに出るのはありがたい」と思っている。日本フードアナリスト協会食空間マナー研究会顧問の蔦洋子さんは「撮影を禁止にしていたレストランでも認めるところが出てきた」と指摘する。

 実際、飲食などサービス産業では店内で「インスタ映え」する写真を撮ってもらい話題になることが、消費者向けの戦略の重要なテーマになり始めている。東京・渋谷の商業施設、渋谷ヒカリエでは31日まで「夏のヒカリエごはん」と銘打ったキャンペーンを実施中。27店舗の飲食店がSNSに映えるよう、盛りつけや色使いを工夫した限定メニューを作成。注文して写真をインスタグラムに「#ヒカリエごはん」と投稿すると飲み物1杯無料などのサービスが受けられる。

 入居する韓国料理店「渋谷 水刺斎(スランジェ)」は小玉スイカをくりぬいた冷やし麺を用意。スイカをそのまま使ったインパクトとピンク色のスープが目を引く。「写真映えに特化してメニューを開発したのは初めて。まず料理や味というのから全く逆の発想で、見た目と色彩から考えた」と統括マネージャーの南原儀一さんは語る。

 撮影前提の飲食店が登場するに従い「当たり前の行為」と捉える個人も増えているが、本来、店舗内での撮影は周囲に迷惑をかけかねない行為だ。撮影の是非の基準が曖昧になるなか、どんなことに注意すればいいのか。

 日本フードアナリスト協会の蔦さんは「撮って良いかどうか、断りを入れる」という基本の徹底を指摘する。少しでも嫌な顔をされたり、言いよどんだりされるようなら撮影を控えるべきだという。「撮影禁止」としている店内では、撮らないことが大前提だ。

 さらに「他のお客さんを映さない」「料理が冷めないうちに食べる」などを挙げる。撮影に夢中になるあまり器を割りかねない。

 またすし店や日本料理店などではカウンターに高価な木材を使っていることがある。スマホやカメラを置くと傷がつく恐れもある。「サービスを受ける立場であっても、店や他のお客さんが気持ちよく過ごせるようにする配慮が必要」(蔦さん)ということを、改めて肝に銘じておきたい。

(関優子)



中小・個人融資、新旧手法競う AI判定や「芸者ローン」 2017/8/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の金融面にある「中小・個人融資、新旧手法競う AI判定や「芸者ローン」」です。





 信用力の見極めが難しいとされる中小企業や個人事業主への融資審査で新旧の手法が競い合っている。新興勢は人工知能(AI)によるデータ解析で信用力を判断し、地域金融機関などは「人物の見極め」といった伝統的な手法を改めて深掘りしている。

 リクルートホールディングスは9月をめどに子会社を通じて中小企業向けの融資を始める。まずはグループが運営する宿泊予約サイト「じゃらんネット」を利用している旅館などの宿泊事業者を対象にする。AIを使って宿泊施設の過去の利用状況などのデータを解析し、信用力を割り出す。

 融資を受けられず事業を拡大できない企業などを目の当たりにしてサービスを始めたという。「(企業が)いざという時に資金の手当てができるようにする」(リクルート)として申し込みから数日内での融資をめざす。

 インターネット専業のジャパンネット銀行もクラウド会計ソフトのfreee(フリー、東京・品川)と連携し、AIを使った与信審査を始めた。企業の業績や資金データなどを瞬時に把握・分析し、信用力を見極める。やはり申し込みから融資の実行までは数日しかかからない場合が多い。

 対照的に職員の「目利き力」を重視しているのが地域の金融機関だ。

 「第一勧業信用組合さんは丁寧に話を聞き、融資に応じてくれた」。東京・浅草で芸者さんとして働く鹿島菊乃さん(41)はこう語る。自分の飲食店を2015年末に開業しようとした際、大手行はまともに相手にしてくれず、知人に紹介された第一勧業信組で融資をようやく得られた。

 地域の需要に特化した「コミュニティローン」を同信組は提供している。通称「芸者ローン」もその一つ。芸者さんの着物購入や独立するための資金を融通する。昨年10月から定型化し、鹿島さんのような芸者さんに合計約5千万円を貸し出した。

 決め手の一つが「人づて」だ。事業計画を精査したり、直接の面会で人物を確認したりするのはもちろん、取引関係などを通じて信頼できる企業などからの紹介も重視する。「信頼の輪」を生かして、貸し出しを増やしている。(塩崎健太郎)



忖度しすぎ?シルバー民主主義 負担増受け入れる素地 2017/8/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のくらし面にある「忖度しすぎ?シルバー民主主義 負担増受け入れる素地」です。





 年金は少しでも多く、医療・介護や税の負担は少しでも小さく――。若者に比べて高齢者を優遇する「シルバー民主主義」政策が財政を悪化させてきた。お年寄りがこれからますます増えるなか、目先の痛みを強いる財政再建など、とても支持を得られない。だがこうした常識を覆す研究が出てきた。諦めるのはまだ早い。(木原雄士)

商店街を歩くお年寄り(東京都豊島区)

 お年寄りの政治への影響力は大きい。直近3回の衆議院選挙の平均投票率は20代が39%なのに対し、60代は75%だった。2025年には、有権者の6割が50歳以上になる。病院の窓口負担を増やしたり、年金の給付額を減らしたりするのは難しくなるというのが霞が関や永田町の常識だ。

 政治家は投票所に足を運んでくれる人の意向を気にする。それなら選挙制度を変えるしかない。そこで親が子どもの分まで投票する「ドメイン投票」や、年齢が若いほど1票の価値を高める「余命投票」などが真剣に議論されてきた。

 しかし、本当に単純な世代間対立で語れるのかと異議を唱える研究が最近、出てきた。

 鶴光太郎慶大教授らが全国の6128人に税制と社会保障に関する考え方を聞いたところ「増税をして社会保障を拡大する必要がある」とした人が20代では29%で、60代では40%だった。高齢になるほど高くなる。高齢者はすでに社会保障の恩恵を受けており、実利の面から増税と社会保障充実の組み合わせを選んだ可能性がある。

 一方、20代で最も支持を集めたのは「増税をせず社会保障を拡大する」というただ乗りで、35%を占めた。高齢者に比べてすぐに社会保障の恩恵を感じにくいため、増税への支持が少ないようだ。調査では政府やまわりの人への信頼が低く、ゴミのポイ捨てや年金の不正受給などに目をつぶる「公共心の低い人」ほどただ乗り政策を選ぶ傾向もあった。

 財務総合政策研究所の広光俊昭氏は仮想の国の財政政策について、負担を30年後に先送りするか、現世代と将来世代が分かち合うかを10~70代の447人に聞いた。

 先送りは、30年後に付加価値税(消費税に相当)が10%から25%に、年金給付が月10万円から5万円になる。分かち合いは付加価値税が20%、年金給付は7万円の状態がずっと続く。

 30代は67%が、60代は54%が分かち合いを支持。「将来世代」役を1人置いて討議をすると、分かち合いを選ぶ割合はさらに高まった。広光氏は「政策選択には個人的な利害と公共的な判断が併存して働く」とみる。

 「政治家が高齢者の意向を勝手に忖度(そんたく)しているだけ。きちんと説明すれば高齢者もある程度の負担増を受け入れる」。「シルバー民主主義」(中公新書)を書いた八代尚宏・昭和女子大学特命教授はいう。

 ただ、お年寄りの理解を得ても財政再建のハードルは高い。莫大な国の借金が若者の不安につながっている。鶴氏は「若い人でも目先の利益を重視する傾向がある」と話す。教育年数が短く、時間あたりの所得水準が低い人ほど、小さな負担で大きな受益を求めがちという。世界的に所得格差の不満が高まるなか、新たな人気取りは財政再建をより難しくする。

■財政再建、成長頼み限界

 日本で財政悪化に対する危機感が高まりにくいのは、日銀の金融政策によって長期金利が低く抑えられているためだ。安倍政権は消費増税を2回先送りし、経済成長による債務残高の国内総生産(GDP)比の改善を優先する。しかし痛みを避けた財政再建など、夢物語だ。

 ゴールドマン・サックス証券の試算によると、長期金利がゼロ%のまま推移しても、債務残高GDP比を改善させるのは難しい。長期金利が1.5%まで上昇するなら、債務残高GDP比を一定に保つには、常に名目2%以上の高い成長が必要だ。2000年度以降の日本の成長率は、平均0.2%。成長頼みの財政再建は無理がある。

 しかも25年には団塊の世代が75歳以上となり、社会保障費が急増しかねない。国際通貨基金(IMF)は7月末に、日本に対し消費税率を15%に引き上げることや所得税の課税ベースの拡大、年金の支給開始を67歳以上に後ろ倒しすることなどを提言。急激な増税などで不況にならないよう、0.5~1%ずつの小幅な消費税率引き上げを求めた。

 消費税率が上がるのは19年10月の予定。足元の堅調な景気を受け、エコノミストの間では「増税時期を前倒しすべきだ」(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)との声も出てきた。政界では「3度目の増税延期」がささやかれるが。



役員給与、アジア勢が上 中国4000万円・日本2700万 円 人材獲得で競り負けも 2017/8/27 本日の日本経済新聞より

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 中国やシンガポールでは部長の給料は平均2300万~2400万円、日本は2千万円に届かず、取締役はベトナムにも抜かれる――。企業が支払う給与・報酬を国別にみると、役職が高くなるほど海外が日本を上回り、格差が広がることがわかった。日本は若手から課長まではアジア各国を上回るものの、部長・取締役では抜かれる傾向にある。高度な技術や経験を持つ人材の獲得競争が世界的に激しくなるなか、「買い負け」リスクも指摘されている。

 人事コンサルティング大手の米マーサーが世界125カ国の2万5千社、1500万人以上の2016年度の報酬(予定額)を調べ、平均為替レートで日本円換算した。日本企業も自動車や家電など上場企業を中心に264社を調べた。対象の多くが大手で金額は高めに出る傾向がある。

 各国の現地企業、外資企業をあわせた部長級の年間の平均給与(額面ベース)をみると、シンガポールが2412万円、中国(上海)は2340万円となる一方、日本は1981万円にとどまる。課長の平均給与は日本(1022万円)がシンガポール(1008万円)や中国(668万円)を上回るのと対照的だ。

 日本の人件費は全体としてはなお高い。日本貿易振興機構(ジェトロ)の直近調査によると、一般的な工場労働者の賃金は東京で月額2339ドルなのに対し、上海は558ドル、ホーチミンは214ドル。日本は海外に比べ役職による格差が小さい構図が浮かぶ。

■高い役職ほど格差

 マーサージャパンの栄立土志コンサルタントは「海外は役割の大きさに応じ惜しみなく給与を配分する」と指摘する。日本は同じ部長職なら主力部門から間接部門まで給与水準をそろえる傾向があるが「海外は稼ぐ花形事業の責任者により多く払う」という。

 取締役になると差はさらに広がる。日本では低位の取締役の報酬は2713万円だが中国は4千万円を超えシンガポールも3535万円が支払われる。ベトナムの2803万円にも抜かれる結果となった。部長まで日本を下回る韓国も取締役では超えている。

 アジアの企業は厚待遇を用意して人材を引き付ける。八木一之さん(59)は16年10月に三井物産から中国の長城汽車に転じた。今はグループ会社の董事総経理として北京で働く。「長城汽車の魏建軍董事長は日本の企業文化を学びたいという姿勢が強い」(八木さん)といい、60歳を超えても報酬は三井物産時代と遜色ない見通しという。日本企業の定年後の再雇用での給料維持は難しい。年齢に応じて報酬が決まる硬直化した制度は人材獲得の足かせになる。

 マーサーの調査は国別だが日本企業の海外法人でも役職が高くなるほど給与が伸び悩む傾向が見える。例えば上海の各社の報酬を比べると日本企業の部長給与は1853万円。中国企業(2012万円)、日系を除く外資企業(2394万円)より低い。課長になりたての頃は日本企業、中国企業、日系を除く外資ともに350万~400万円と大差はなかったが、役職の上昇とともに格差が広がる。

■賃金理由に転職

 日本の電機大手から上海の半導体メーカーに移り、転職支援も手がける男性は「日本人が海外へ転職すると年収が2千万~3千万円になることも多く、3倍に増えることもある」と話す。給与水準の差が日本企業の人材獲得の妨げになることもあるという。ただ短期間に技術やノウハウを得た後に退社を迫る「使い捨て」の事例もある。

 英人材大手ヘイズによると賃金を理由に転職を考える人は増加傾向にある。台湾の人工知能ベンチャーに勤める30代男性の年収は1千万円を超えた。3年前まで勤めた楽天時代の1.5倍以上で「裁量が大きく成果を残した分だけ個人に還元される」と話す。

 人口減少で日本国内の市場が縮む中、日本企業のグローバル化は加速する。製造業だけでなく金融やサービス業でも世界各地で競争は激しくなり、企業の盛衰を分けるようなマネジメント層となる人材の需要は高まる見通しだ。

 しかし、十分な報酬を示さずに人材獲得競争で勝ち抜くのは難しい。成果主義を徹底するだけでなく、上に厚い制度への見直しも必要になってくる。

(安西明秀)



202X年、人余り再び? AI導入で省力化進む 1000の業務 、ロボに/社内にも余剰人員 2017/8/26 本日の日本経済新聞より

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人手不足の風景もあと数年?

 人手不足でほぼ完全雇用の状態とされる日本経済。だが企業が一斉に人工知能(AI)導入などの省力化投資に動き始めたことで次第に余剰人員が膨らみ、2020年代には完全失業率が再び上昇に転じるとの観測も出ている。人余りへの逆戻りを防ぐには、省力化で生産性が高まった社会に対応できるよう人材投資を積極化し、技能を高める環境づくりが必要だ。

 「将来的に300億台のロボットが人間と同じように働くと、天文学的な産業になる」。日本電産の永守重信会長兼社長はロボット産業の将来性をこう語る。企業の省力化投資ブームを追い風に、自動化ロボットに周辺部品を組み合わせたシステムを外販する新事業に乗り出す。

 人口減に景気回復が重なり、働き手不足は深刻化の一途をたどる。6月の完全失業率は3%を割り込み、有効求人倍率は1.51倍に達した。一般事務職に限ると0.31倍にとどまるなど職種別にばらつきはあるが、担い手確保のカベに直面する多くの企業は、ロボットなどで労働力を置き換える動きを強めている。

 内閣府によると、機械メーカーが今年4~6月に受注した産業用ロボットの金額は1717億円と、前年同期より49%増えた。特需で生産が追い付かないところも多く、6月末の受注残高も1年前より32%増えて3843億円となった。

 IT(情報技術)投資も旺盛だ。日本政策投資銀行の調査によると、大企業の今年度の情報化投資は5582億円と、前年度比28%増を見込む。設備投資全体の8.2%を占める。

 京セラやKDDIは11月に、インターネットを使った水道の自動検針の商用利用を兵庫県姫路市の家島諸島で始める。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を業務の効率化に役立てる。検針が難しい地域での作業を無人化し、人手不足の解消にもつなげる狙いだ。

 企業の収益拡大と設備投資増などの好循環も始まりつつあるものの、労働の担い手がいなければ事業拡大やサービス維持に支障を来しかねない。企業がロボットやAIで徹底した効率化に取り組むのは必然の流れとはいえ、この動きが加速すると長期的には余剰人員が膨らむ可能性もある。

 日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズ(FT)による共同の調査研究では、人が携わる約2千種類の仕事(業務)のうち3割はロボットへの置き換えが可能という結果が出た。日本に絞ると5割強の業務を自動化できるという。

 リクルートワークス研究所(東京・中央)は機械による代替などで離職や失職が増えると完全失業率が上昇に転じ、25年に最大5.8%まで上がるとはじいた。09年7月などに記録した過去最高を上回る。

 失業者だけでなく、技術の高度化などへの対応が遅れ、企業が社内に抱える潜在的な余剰人員も増える恐れがある。同研究所の試算では25年時点で最大497万人。15年の401万人から100万人近くも増える。みずほ証券の上野泰也氏は「AIの発達が速いため、新たな雇用の受け皿が整う前にホワイトカラーを中心に余剰人員があふれ、失業率も上昇に転じる」と懸念する。

 第一生命経済研究所の永浜利広氏は「AIなどで効率化に成功した企業は社員に一段と高い水準の能力を求める。失業者が増える一方、企業の人手不足感も和らがない」とみる。勝ち組人材がはっきりしてくるに従って賃金格差も広がりやすくなり「所得の再分配機能がより重要になってくる」。

 経済界からも「徹底した効率化に伴う技術革新は、余剰人員を生み出すリスクもある」(丸紅の国分文也社長)といった懸念が上がる。



閑古鳥鳴く官民ファンド 巨額資金、活用1割未満も 2017/8/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「閑古鳥鳴く官民ファンド 巨額資金、活用1割未満も 」です。





 安倍政権下で2013年以降に設立した官民ファンドが投資先探しに苦慮している。農産物の加工・販売を支援するファンドは投資枠319億円に対し、実際の投資は7月末までの4年半で59億円。総額1千億円強の大学発ベンチャーファンドも利用は1割未満だ。成長戦略で設立を競った各省庁の需要見通しは甘く、国が投じた巨額資金が無駄に眠っている。

 5月、飲食店検索大手のぐるなびの決算短信に簡潔な一文が載った。「ぐるなび6次産業化パートナーズ投資事業有限責任組合は清算結了しています」。農林漁業成長産業化支援機構(A―FIVE)と組んだ地域ファンドのことだ。できて3年半、出資ゼロのまま解散した。

 13年1月発足のA―FIVEは農林漁業の生産者による加工・販売事業を支援するため、各地の地銀や企業とファンドをつくった。ぐるなびは「飲食店など本業の顧客と競合する」と手を引いた理由を明かすが、特殊事例ではない。群馬や大分などのファンドも実績を残さずに消え、その数は53から48に減った。

 元手は財政投融資300億円と民間出資19億円だが、投資先はどこも小粒だ。7月末までの114件を足しても59億円。なぜお金の巡りが悪いのか。

■資本を食いつぶす

 官民の思惑にズレがあるのだ。事業リスクを分離するため、生産者に別会社をつくらせ、そこにファンドが出資する仕組みにした。だが補助金に慣れた生産者の反応は薄い。平岩裕規常務は「自ら出資することに予想以上に慎重だった」と釈明する。

 A―FIVEは役職員数が50人を超し、16年度までの経費は累計40億円強。最終赤字額は同45億円に達した。このままでは資本を食いつぶすだけだ。国に資金を返すには22年度までに総額280億円の投資をこなし、存続期限の32年度末までに1.9倍のリターンを得る必要があるという。農林水産省は5月、農林漁業者に直接出資できるようルールを緩和したが、その効果はまだ見えない。

 文部科学省主導でつくった大学直営ベンチャーキャピタル(VC)にはさらに巨額の資金が眠る。原資は国費1千億円。東北、東京、京都、大阪の国立4大学に割り振ったが、7月末時点の投資実行額は合計54億円。5%しか使っていない。

 予算は13年2月に成立したが、準備に手間取り、運用開始は阪大が15年7月、東大は16年12月だ。政府は法制度で13~17年度を投資の「集中実施期間」としたが、もくろみは外れた。各大学には2号ファンド用で計450億円が残るが、集中実施期間を過ぎれば使えなくなる。



ドルむしばむトランプ氏米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授ベンジ ャミン・コーヘン氏 2017/8/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「ドルむしばむトランプ氏米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授ベンジャミン・コーヘン氏」です。





 米国のドルは1世紀近くにわたり、究極の安全な通貨とみなされてきた。米ドルほど蓄積された富の安全と流動性を約束する通貨はほかになかった。いままでは問題が生じると、臆病な投資家や慎重な中央銀行はいずれもドル建て資産、とりわけ米国債に資金を移してきた。しかしもはや、そうはならないかもしれない。

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 トランプ政権の混乱で、米ドルに対する信頼は大幅に損なわれた。トランプ大統領は本人が百数十万人と主張する、存在しない群衆の前で就任して以来、オーストラリアやドイツのような同盟国を含む各国の政府にけんかを売ってきた。最近では、北朝鮮の独裁者、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と対峙し、世界を核戦争の危機にさらしている。

 米ドルは深刻な試練に直面しようとしている。世界の投資家は、指導者が「炎と怒り」という表現を使い、内向きの北朝鮮を威嚇・挑発する国に資金を流入させるだろうか。それとも、ほかの場所に資金を避難させるだろうか。

 第2次大戦以降、ドルの安全性が今ほど疑問視されたことはない。戦後、桁外れに大きく発達した米国の金融市場が比類のない流動性を約束してきた。米国は軍事大国だったため、地政学的な安全保障も確保できた。金融システムがグローバル化する中、安全で柔軟な投資先を提供するのに米国ほどふさわしい国はなかった。

 2007年の米住宅バブル崩壊が良い例だ。米国発の金融危機と景気後退が、世界経済を破綻寸前に追い込んだことは誰もが知っていた。それでも米国市場に資金が流入し、米連邦準備理事会(FRB)と財務省は対応策をとることが可能になった。ドルは下落するどころか強含み、米国債の市場は円滑な運営の続く際立った存在だった。

 10年前のドル需要の高まりの大半は、純粋な恐れのせいだということもできる。だれ一人として、事態がどのくらい悪化するかわからなかった。同じことが今の米国と北朝鮮の応酬についてもいえる。歴史は繰り返され、投資家はドルに群がるのだろうか。

 それは、あてにしないほうがいいだろう。市場は何カ月も前から、トランプ氏に対する不信感を示している。新たな危機の恐れはドル資産からの資金流出を加速しかねない。そうなれば米国は軍事衝突の可能性に加え、ドル危機に対応する必要が生じる。

 昨年11月の大統領選がトランプ氏の予想外の勝利で終わった直後は、ドル危機のリスクは極めて小さいと思われた。資本が流入し、ドルは10年以上ぶりの高い水準に上昇した。投資家は大規模な規制緩和や減税、インフラ投資などによる経済成長を期待した。

 しかしトランプ政権の相次ぐトラブルで、「トランプ相場」はドルに対する信頼感とともに反転した。政権発足から200日で、ドルは価値を10%近く失った。トランプ氏がツイッターにナンセンスな投稿をしている間に、投資家はスイスから日本まで代わりとなる市場を探す。この傾向は最近の米国と北朝鮮の対立の前から始まっていたが、当時は小幅な下落にすぎなかった。いまや資金流出が洪水に変わり、ドルが恒久的なダメージを受ける可能性もある。

 トランプ政権は実際にはドル安を望み、世界の資金の逃避先としての役割を他国に期待するかもしれない。しかし王権の放棄は危険で、歴史上に例をみないほど近視眼的といえる。米国にとって、価値をためる手段としてのドルの人気は極めて大きい。投資家や中央銀行が富を米国債など米資産に投資すると、米政府は世界の安全保障への関与に必要な支出を続け、貿易・財政赤字を穴埋めできる。

 トランプ氏は世界の準備通貨を持つ利点よりも、コストに注目しているようだ。しかし、資本流出を心配しなければならなくなったら「米国を再び偉大にする」どころではない。世界の金融システムでの支配的な立場を犠牲にした米国は偉大とはいえない。トランプ氏はドルを試練にさらし続けるなら、後悔することになるだろう。

((C)Project Syndicate)

 Benjamin Cohen 米コロンビア大博士。専門は国際金融、国際政治経済学。同タフツ大教授などを経て現職。著書に「通貨の地理学」。80歳。

有事の円高避けよ

 米政権の混乱でドルの信頼低下が進むなか、コーヘン氏が指摘する通り「投資家はスイスから日本まで代わりとなる市場を探す」。その結果起きるのが、円がマネーの逃避先になるという現象だ。

 マーケットの混乱や軍事情勢の緊張など逆風が日本を襲うとき、同時に円相場も上昇し、輸出面から日本経済にさらなる下押し圧力をかける。やっかいな話だ。

 「有事の円買い」が起きてしまう理由はいくつかあるが、ひとつは日本のデフレだ。物価上昇率が低い国の通貨は、相対的に価値が下がりにくい。となると危機時に投資家が円保有に安心感を見いだしても不思議はない。米国がドル安を放置するのなら、脱デフレを実現して「有事の円高」を避ける自衛措置が日本には必要だろう。

(編集委員 清水功哉)