古民家再生、地銀が担い手担保評価難しく見極め課題 2017/10/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の金融面にある「古民家再生、地銀が担い手担保評価難しく見極め課題」です。





 地方銀行が各地の古民家再生ビジネスを本格化させている。ファンドや融資制度を設けて過疎化が進む地域にも企業や消費者を呼び込み、新たな融資先を開拓する狙いがある。ただ古民家は担保評価が難しく、収支計画に基づく将来性の見極めがより求められる。各地銀の「目利き力」が事業の成否を握りそうだ。

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横浜銀行は「富士屋旅館」の再生を進める(神奈川県湯河原町)

 「この旅館は湯河原のランドマーク。復活させて街ににぎわいを取り戻したい」。湯河原温泉旅館協同組合の山本一郎理事長は目を細める。来春、改装開業を予定する富士屋旅館(神奈川県湯河原町)。温泉街の中心にある江戸時代から続く老舗旅館だが、2002年に経営不振で廃業していた。

 この富士屋旅館再生の仕掛け人が横浜銀行。地域経済活性化支援機構(REVIC)などと組み計10億円を投入。事業者選定や計画策定に関わる。「湯河原は歴史的価値の高い建築物が多い」(河野辰巳地域戦略企画グループ長)

 全国地方銀行協会によると9月時点の古民家活用の取り組みは27行、34事例に上った。池田泉州銀行などは専門の融資制度を創設。第二地銀でも京葉銀行などが融資している。

 「日本の建物は時間が経つと不動産鑑定額が減っていく。古民家評価の仕組み作りが必要だ」。千葉銀行の植松克則法人営業部長は1月、菅義偉官房長官など約20人の要人を前にこう呼びかけた。政府が立ち上げた「歴史的資源を活用した観光まちづくり専門家会議」での一幕だ。

 各地で空き家が増え続けるなか、政府は20年までに200地域で古民家などを活用したまちづくりを目指す。ただ大抵の古民家は建物に価値が付かず、地方に行くほど地価も安くなるため担保評価が難しい。どの程度集客や売り上げが見込めるかなど、担保に依存しない融資判断が求められる。



トランプ政権と米の針路(創論)アド・マチダ氏/エミリー・サスマン氏 2017/10/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「トランプ政権と米の針路(創論)アド・マチダ氏/エミリー・サスマン氏」です。





TPP離脱やNAFTA再交渉などの経済政策には、国内からも異論が噴出している=ロイター

 トランプ米大統領が11月5日の来日を手始めにアジアを初めて歴訪する。「米国第一」を掲げ、大統領選に勝って1年。今年1月の就任後は、保護主義的な経済政策や北朝鮮、イランとの対決的姿勢で世界を揺るがせ、不規則発言が波紋を広げる。型破りな大統領は米国をどこへ導こうとしているのか。政権移行チームを担った共和党のアド・マチダ氏と、民主党系シンクタンクのエミリー・サスマン氏に聞いた。

◇  ◇

■来年夏には安定軌道に 元政権移行チーム 政策立案責任者 アド・マチダ氏

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 ――政権発足後、フリン補佐官(国家安全保障担当)、プリーバス首席補佐官、バノン首席戦略官とホワイトハウスの中枢幹部が相次ぎ辞任する異例の事態になりました。

 「新政権ができると、選挙戦スタッフの労に報いるためホワイトハウスに登用する。ただ、選挙戦の心理状態のまま、急に政権を管理する仕事は難しい。選挙戦は混乱した状況のなかで、それぞれが主体的に仕事をしてきた。それに適応した人が、管理をする側で仕事をしなければならないのは、退屈で苦しい」

 「ホワイトハウスのスタッフは本来、大統領が就任した年の8月から10月にかけて辞め、新しい顔ぶれが10月から翌年春にかけて入ってくる。これはホワイトハウスで働いた経験がある人たちが主だ。トランプ政権も来年の夏頃には安定してくるだろう」

 ――トランプ氏の長女イバンカ氏とその夫クシュナー氏が補佐官や上級顧問として政権入りしました。2人に対する周囲の遠慮が混乱の要因になったと指摘されます。

 「プリーバス氏が首席補佐官だった時は(イバンカ、クシュナー両氏を)警戒していた。そんな状態では困る。だから国土安全保障長官だったケリー氏を後任の首席補佐官に起用し、まず大統領執務室へいつでも予約なしに入れる『ウォーク・イン・ライツ(大統領との自由な面会権限)』を持つ人をなくした」

 「普通は6、7人だがプリーバス氏の時は35人もいた。これではトランプ氏が仕事をできない。執務室へのウォーク・イン・ライツを持つ人をゼロにすることについて、イバンカ氏もクシュナー氏も了解してくれた。彼らも政策について大統領と話す時には事前の予約が必要になった」

 ――外交では北朝鮮の核開発問題で、トランプ政権は過度な中国頼みという、過去の政権の失敗の轍(てつ)を踏んでいるようにみえます。

 「北朝鮮は核開発で18カ月以内に何らかの成果を出すのではないか、と指摘されている。その段階になって話し合うのでは遅い。米国が自ら動くのであれば、中国は(協力して)対応するか、批判するかの二者択一しかない」

 ――経済制裁の効果が出なかった場合、次のステップは何でしょうか。

 「それはかなり難しい。日米韓はどう出るべきで、中国やロシアに何を求めるのか。トランプ氏はオバマ前政権がレッドライン(許容できない一線)を設けたことを批判している。(相手に手の内を示すのは)戦略的におかしく、意味がない。現政権はレッドラインを公表したりしない」

 ――経済政策では、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しなどの公約実行が物議を醸しています。

 「評価していい。減点部分を挙げるなら医療保険制度改革法(オバマケア)の廃止がうまくいかなかったことだ。廃止で浮く費用を税制改革の財源に充てるつもりだった」

 ――法人税は20%へ引き下げる方針を打ち出しました。

 「重要なのは連邦税の減税だ。選挙戦時に考えていたのは法人税の35%から15%への引き下げだった。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均は20%強。米国の場合は州税が加わるので、企業が支払う税を国際標準にするには連邦税を15%程度にする必要があった。その数字をもとに議会と調整したのだろう」

 ――トランプ氏は中西部などの製造業の白人労働者を念頭に、米国に雇用を取り戻すと約束しました。自動化で工場における単純労働が減る時代に逆行していませんか。

 「『仕事は創ります。でもあなた方が待つ炭坑作業はもう戻りませんよ』というメッセージを伝えなければいけない。米国も今やサービス産業が主流だ。アメリカンドリームを追うのなら、仕事がある場所へ移らないといけない」

 「トランプ氏の仕事は(労働者の)意識改革を主導することだ。大統領が国民に広く語りかける手段は、昔はラジオ放送だった。今は集会での演説とツイッターであり、トランプ氏は効果的に国民へ訴えかけている」

(聞き手は政治部次長 吉野直也)

 Ado Machida トランプ政権への移行チームで政策立案の総責任者を務めた。3月からコンサルティング会社を共同経営。53歳。

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■不信感が政治参加促す アメリカ進歩センター キャンペーンディレクター エミリー・サスマン氏

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 ――トランプ大統領の政権運営をどうみていますか。

 「成果は極めて乏しい。共和党は上下両院の多数派で、大統領は何でもできる可能性がある。だが彼は統治能力の欠如をさらけだし、いつも自ら危機を作り出している」

 ――政権運営を家族や元軍人に頼っています。

 「有権者が彼に票を投じた理由の一つは、優れたビジネスマンであり、素晴らしく能力のある人たちを政権に引き込むと信じたからだ。ところが取り巻きに置いたり、閣僚に選んだりしたのは、行政府のなんたるかを理解せず、本来の使命とまったく逆のことを信じている人たちだ。例えば環境保護局(EPA)のプルイット長官は環境保護の重要性を全く信じていない」

 「政権から次々にスタッフが去っているのは、彼の気質によるところが大きい。彼は中身の真偽はともかく、自分にとっていいことをいう人間が好きだ。耳を傾けるのは自らが信用する人間だけ。彼が聞きたくないことを報告するには、称賛も交えなければいけない。大統領と率直に話せないのは憂慮すべきことだ」

 ――トランプ氏が攻撃的な言動を繰り返す対北朝鮮政策では、オバマ前大統領にも「問題を放置した」との批判があります。

 「北朝鮮との対立をエスカレートさせている理由の一つに、戦時は大統領が高い支持率を得やすいことがある。トランプ氏はより多くの支持を得るために我々を戦争に導こうとしている。ある調査によると、米国民の72%が米国は今後4年以内に戦争するかもしれないという懸念を抱いている。それに対してオバマ氏の言動は適切だった」

 「トランプ氏はオバマ氏のレガシー(政治的遺産)を否定したいだけの理由で、イランとの核合意も認めない。多くの政権高官は合意から離脱すべきではないと主張している。彼はオバマ氏のレガシーを否定できるなら、いつもその道を選ぶ。(地球温暖化対策の国際枠組みである)パリ協定からの離脱もそうだ。合意順守を主張したマティス国防長官やティラーソン国務長官も大統領への影響力を持たない。意思決定でトランプ氏は圧倒的に強い権限がある」

 ――保険料高騰の問題を抱えるオバマケアの見直しを訴えるトランプ氏に、民主党は協力すべきではないですか。

 「民主党は見直しの余地があることは認識してきたが、廃止議論なら協力はしない」

 ――トランプ氏に流れた白人労働者の支持を、民主党はどう取り戻すつもりですか。

 「白人の単純労働者たちの仕事は、特に製造業の自動化や海外移転で消えつつある。民主党はこの問題への対応を現実的に議論しようとしている。労働者を再訓練し、給料を支払い、米国が向かう経済に沿うようにするプログラムを考えることだ。(トランプ氏が訴える雇用創出のような)10年前と変わらない経済の話をするのはたくさんだ」

 「彼らはトランプ氏が自分たちを理解し、助けてくれるかのように感じた。本当は何の提案もないし、彼がやろうとしていることは暮らしをより困難にしている。だから多くの人たちは、彼が自分たちのための政治をしていないと気づき始めるだろう」

 ――来年は中間選挙があります。トランプ氏への評価はどうなっているでしょうか。

 「彼に行動が伴っていないと感じた支持者は、失望することになるだろう。大統領選まで中立的だったり、受動的だったりした多くの人たちは自ら行動するようになっている。現政権に国のかじ取りを任せられないと考えているからだ。『トランプが大統領になれるのなら、自分もどこかの市長になれる』と考え、政治的な経験がなくても公職に意欲を持つ例が増えている」

 ――次期大統領選で再選を狙うトランプ氏への対抗馬が民主党には見当たりません。

 「まだ時間がある。昨年の大統領選で候補指名をヒラリー・クリントン元国務長官と争ったサンダース氏は党内の極端な左派を代表する。トランプ氏の主張が過激だから少し穏健な政策を訴える人物に人気が集まる可能性もある」

(聞き手はワシントン=永沢毅)

 Emily Tisch Sussman 米民主党の全国青年組織で事務局長を務め、12年大統領選で若者の政治参加に貢献。35歳。

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■<聞き手から>混迷の「出口」 いまだ見えず

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 マチダ、サスマン両氏とも言い方は違うが、トランプ政権がいまだに混乱していると指摘した。その遠因が家族の重用などトランプ氏の統治方法であるとの認識もほぼ一致している。このドタバタが支持率低迷の背景にあるのは言うまでもない。

 サスマン氏は大統領が戦時に高い支持率を得やすい特性を挙げ、現在の北朝鮮との緊迫を説明した。湾岸戦争におけるブッシュ(父)、米同時テロ後にアフガニスタンとイラクでの2つの戦争に踏みきったブッシュ(子)両大統領の支持率が90%に達したのを思い出せば、理解できるだろう。トランプ氏支持層の中核である白人労働者を念頭に置いた雇用創出も、単純労働の増加を意味するならば画餅に近い。この点もマチダ、サスマン両氏の見解は同じだ。

 その現実に気付いても、支持層はトランプ氏から離れないのか。トランプ氏が戦争の誘惑に駆られる要因は国内でも増えている。マチダ氏は「トランプ政権も来年の夏ごろには安定してくるだろう」と楽観的な見通しを示したが、混迷の「出口」はまだみえない。

(吉野直也)



真相深層 マイナンバー背水の陣 利便性とお得感、普及の カギ 2017/10/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 マイナンバー背水の陣 利便性とお得感、普及のカギ」です。





 政府がマイナンバー浸透へ捲土(けんど)重来を期す。11月から自治体との間で個人情報のやりとりを始め、いよいよ本格運用に乗り出す。12桁の個人番号で社会保障や税の行政事務を効率化する。ただ度重なるシステム障害で国民の信頼を失い、本人確認のためのカード取得は一向に進んでいない。政府は背水の陣を敷き、カードの用途拡大に突き進んでいる。

 野田聖子総務相は2日、自治体ポイント制度の省内での実演会に参加した。「マイレージがたまっているけど、飛行機に乗る機会が少ないから」。特設サイトでマイナンバーを入力し、マイレージのポイントを使い、岐阜県可児市の特産品約9千円分を購入した。

 自治体ポイントはマイナンバーカードと連動させ、クレジットカードや航空会社のマイレージなどのポイントを商店街や通販サイトで使える仕組みだ。9月に始動し、228自治体が参加する。民間が発行する年4千億円のポイントの3~4割は未使用に終わるとされ、総務省は「マイナンバーカードでお金を還流させる」と意気込む。

 政府は最近、これでもかと新手のカード活用策をひねり出している。スマートフォン(スマホ)にマイナンバー情報を記憶させ、スポーツイベント会場でチケットを発券せずに入場できる取り組みを始めたほか、銀行口座開設やコンサートなどチケットの高額転売を防ぐ仕組みを検討。統合型リゾート(IR)ではカジノ施設の入場券として使う案もある。

 マイナンバーは住民票コードや基礎年金番号などの個人番号を一本化し、複数の行政機関のやりとりを容易にするものだ。税などの納付漏れがないと確認できれば、住民も社会保険料の減免などのサービスを手間なく受けられる。2015年10月に国民に番号を通知し始め、16年1月にはカードの交付を開始した。

 ところが、個人認証の基となるカードは今年10月段階で普及率9.9%、1260万枚。16年に掲げた「17年3月末時点で3千万枚」という政府目標に遠く及ばない。カードのシステムに不具合が生じ、交付作業が滞っているうちに国民の関心が低下した。政府は焦りの色を濃くするが、自治体との連携もままならないところがある。

 7日に始まった「子育てワンストップサービス」。マイナンバーカードがあれば、自宅のパソコンやスマホで子育て関連の手続きが済むとの触れ込みだが、全15項目の手続きに対応する自治体は50程度。「本人への聞き取りが必要で、電子申請はそぐわない」(仙台市)と対面を重視する自治体は多い。

 マイナンバーは何のためにあり、カードは何に役立つのか。日本では国民がそのイメージを描けずにいる。

 番号制が浸透する国もある。電子行政先進国とされる欧州・エストニアの事情を探ってみた。同国の国民も最初は「車のフロントガラスの雪かきにしか使えない」とカードを皮肉ったが、銀行振り込みの手数料を抑えるなどのサービスを手厚くしたら、取得が進んだという。結婚・離婚や不動産取引などを除き、ほぼ全ての行政手続きがネットで完了する。

 野村総合研究所の梅屋真一郎・制度戦略研究室長は「日本はカードを持たなければいけない理由が見当たらない。使えば税額控除されるなど、利便性だけでなく得をする動機づけが必要」とみる。カードを持ちたいと思わせる動機が必要だ。

 政府が音頭をとるカード普及策も自治体ごとに対応が異なり、利便性を感じにくい。小規模町村では役場職員が高齢者宅に出向いて交付手続きを手伝うというが、保有者ばかり増やしても肝心の使い勝手は後回しだ。

 先行した住民基本台帳カードは、個人情報漏洩への懸念から、交付率は5%で終わった。政府はその二の舞いを避けようと、国民の利便性向上とお得感という味付けで浸透を図る。役所のシステムを変えただけで宝の持ち腐れに終わるか、電子行政に欠かせないインフラとなって最先端のIT国家への扉を開くか。マイナンバーは今、剣が峰に立っている。

(秋山文人、桜井佑介)



月曜経済観測 米経済の実力は 3%成長、維持は困難米ノ ースウェスタン大教授 ロバート・ゴードン氏 2017/10/30 本日の 日本経済新聞より

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 米経済の底堅い回復が続いている。トランプ政権は税制改革などを実行に移し、目標の年3%成長を達成できるのか。米ノースウェスタン大学のロバート・ゴードン教授に聞いた。

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景気に好循環

 ――米経済の現状をどう診断していますか。

 「安定成長の軌道に乗っている。雇用や所得の伸びが個人消費を下支えし、景気の回復を引っ張るという好循環がみられる。強い衝撃を受けない限り、失速することはあるまい。2009年7月からの景気回復局面は、戦後最長の10年間を超える公算が大きい」

 ――物価が思うように上がらないのが悩みです。

 「インフレ加速の分岐点となる失業率(NAIRU)が、4%程度に下がっているのだろう。労働組合の影響力の低下や非正規雇用の拡大といった複合要因がある。だが賃金の上昇に拍車がかかり、インフレを誘発する可能性は残る」

 ――米連邦準備理事会(FRB)は、金融政策の正常化を急ぐ構えです。

 「金融危機後の量的緩和で膨らんだ保有資産(約4.5兆ドル)の圧縮に着手したのは妥当だ。10年以上の長い時間をかけ、適正な規模を目指して緩やかに減らしていくだろう。今後2年程度にわたり、政策金利(現行年1.00~1.25%)を3%近辺まで引き上げるのも理解できる」

生産性伸び悩み

 ――足元の米経済は堅調でも、中長期の成長力に対する不安が拭えません。

 「問題は生産性の伸び悩みだ。過去7年間の伸びは年平均0.6%止まりで、1920~70年の2.8%、70~2006年の1.8%を大幅に下回った。技術革新の効果が薄れてきたのが主因だと私は思う」

 「IT(情報技術)の発展に、電気や上下水道の普及に匹敵するほどのインパクトはなく、その効果もいよいよ一巡しつつある。米経済の回復などを追い風に、今後25年間の生産性の伸びは1.2%まで高まるとみているが、かつての水準には戻れない」

 「これに労働力の伸びを加味すると、米経済の実力を示す潜在成長率は1.7%程度になる。トランプ政権の税制改革などで実質成長率を押し上げても、3%の水準を維持するのは困難と言わざるを得ない」

 ――米経済の底上げに必要な政策は何ですか。

 「成長の起爆剤は3つある。第1は教育の拡充だ。多くの子供が適切な教育を受け、より良い職を得られるようになれば、各層に恩恵が行き渡る『包摂的な成長』の一助にもなる」

 「第2は設備投資の喚起だ。余剰資金をため込んだり、配当や自社株買いに回したりする企業の行動をすべて変えられるとは思わないが、税制優遇で一定の投資を引き出すことはできる。第3は技術革新の促進で、こちらはむしろ政府の介入を抑えた方がいい」

 ――トランプ政権の政策で問題を解決できますか。

 「多くの面で方針を誤っている。移民の制限や保護貿易は、成長力の強化にとって明らかにマイナスだろう。税制改革も強者と弱者の格差を広げる結果に終わりそうだ。無理な財政出動で景気が過熱し、FRBが想定以上の急激な利上げを迫られる恐れもある」

(聞き手はワシントン支局長 小竹洋之)

 Robert Gordon 著書「米国の成長の盛衰」で技術革新の停滞を憂慮。77歳。



エコノフォーカス 保育無償化誰のため? 所得水準で恩恵 に差 自治体負担、国が肩代わり 2017/10/30 本日の日本経済新聞より

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 安倍晋三首相が表明した3~5歳の保育所の無償化の意味を巡って、波紋が広がり始めている。保育料の負担額は親の年収などに応じて異なるため、今回の無償化の恩恵を所得の高い世帯ほど得ることになる。これまで保育サービスを利用していなかった家庭が利用し始め、保育所がさらに不足しかねない。12月にまとめる制度設計が注目される。

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 「3歳から5歳児の幼稚園、保育所について全面無償化します」。安倍首相は9月末、衆院解散にともなう記者会見でこう表明した。0~2歳は低所得世帯に限って、3~5歳については全ての世帯で保育料をタダにするという。ただ、無償化の意味を巡っては詳細な説明はなかった。

 現在の3~5歳の保育料の負担は世帯収入が高いほど大きい。生活保護世帯はゼロ、年収約260万円未満の住民税非課税世帯の場合の保育料は年7万2千円だが、年収約1130万円以上の世帯では最大年121万2千円を支払っている。

 無償化が全額補填を意味するなら、高額所得世帯は年間100万円以上もの負担減になる。金額にして、年収約1130万円以上の世帯は年収約260万円未満の世帯の実に17倍の恩恵を受ける。一方、生活保護世帯では今回の恩恵はゼロだ。

 3~5歳の子どもが通う幼稚園の無償化は一律で、月の平均保育料(2万5700円)が補助される見通しだ。

 当面の保育料がタダになれば若い世代が子どもを産み育てる経済的な負担感を減らせる。消費増税のタイミングで家計負担を軽くし、消費低迷を抑える思惑もある。

 SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、仮に19年度に無償化で家計負担が約1兆円軽くなり半分が消費に回るなら、実質国内総生産(GDP)を0.1%押し上げる効果があるという。ただ、安倍首相の表明以降、与党内からも「年収が高い世帯の負担が減っても貯蓄に回るだけ。所得再分配にも逆行する」との批判も相次ぐ。

 実は無償化の恩恵の4~5割は自治体が受ける。既に子育て世代を呼び込もうと保育料を補助する地方自治体は多い。大阪府守口市は今年4月、全国の市で初めて0~5歳児の幼稚園と保育所を全額タダにした。この負担を国が肩代わりする。20年度の基礎的財政収支は高い経済成長が続いた場合でも国は13.6兆円の赤字が残るが地方は5.5兆円の黒字を保つ。

 無償化に伴って国が拠出する金額は12月にならないと確定しない。仮に5千億円を保育所整備に回すと50万人分の保育の受け皿をつくることができる。限られた財源だからこそ、子育て世代が本当に必要とするサービスが行き渡るような施策が求められる。

 

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送迎ステーションを使えば、親は送り迎えができない郊外の施設にも子どもを預けられるようになる

■待機児童どう減らす

 待機児童は2017年4月時点で2万6081人と、前年から約1割増えた。無償化で保育所の利用者が増える可能性は高い。

 10月上旬の朝7時ごろ。小田急線町田駅近くの保育ステーション「つながり送迎保育園」に子どもをつれたママやパパが集まってきた。東京都町田市が待機児童を解消すべく、10月に設けた保育所の出張所だ。施設と利用希望者の所在地のミスマッチで利用されない保育枠を余す所なく使う。

 朝夕は働く親と子を結ぶ中継点となり、親から預かった子どもを遠方の保育所にバスで送迎する。「これで一時預かりなどを含め、合計40人分の定員枠を用意できた」(町田市役所の押切健二さん)

 国も手をこまぬいているわけではない。17年度は1兆5千億円の公費を投じ、11万人分の施設を増やした。それでも待機児童は増える一方だ。

 利用者が求めているのは、無償化より保育サービスの受け皿だ。いまあえて「保育料の適正化」を唱える声もある。認可保育所の親の保育料負担は0歳児で費用全体の2割弱、全体でも3割程度。昭和女子大学の八代尚宏氏は「サービスに見合った適正な保育料を考えるべきだ」と指摘する。

 低所得者層は別として、例えば0歳児の個人負担分を増やし、育児休業や保育ママをうまく活用する人を増やせば、その財源を待機が多い1~2歳児に向けることも可能だ。

(矢崎日子)



習近平の支配 大いなる賭け(下) ライバルは米だけ 中国空母ハワイに迫る日 2017/10/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「習近平の支配 大いなる賭け(下) ライバルは米だけ 中国空母ハワイに迫る日」です。





 本来、公の場に登場しない人物だ。中国空軍パイロット、劉鋭(38)。劉の操る戦略爆撃機「轟6K」は日本列島近くで何度も航空自衛隊機と対峙している。「2年前に年4回だった遠洋訓練。今では1カ月に何度も実施している」。中国共産党大会に合わせて党の宣伝部門が催した22日の記者会見で、劉は軍の拡大路線を誇らしげに語った。

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中国の習近平国家主席は11月、トランプ米大統領と首脳会談に臨む(4月、フロリダ)=ロイター

 10月上旬には、海軍を巡る衝撃が世界を駆け巡った。中国の空母「遼寧」が母港とする山東省青島の海軍基地に、最新鋭の大型補給船「呼倫湖」の姿が確認されたのだ。2カ月以上にわたる航海の給油ができる同艦は、空母が遠からず遠洋航海に出るサインだ。

 鄧小平時代の中国は「韜光養晦(能力を隠して力を蓄える)」と称し、抑制的な外交姿勢を心がけた。2期目を迎えた国家主席、習近平(64)はもはや爪を隠そうともしない。党機関紙の人民日報は1月、空母はいずれ東太平洋にも展開すべきだと主張した。北京の外交筋の間では「空母がハワイまで迫る日は遠くない」との声さえあがる。

■軍から圧力強く

 習の表現を借りれば、1949年の建国から100年の21世紀半ばまでに「世界一流の軍隊を築く」という。国際協力を名目に米軍と肩を並べて世界に部隊を派遣し、同時に自国の権益を追求する未来図だ。列強に侵略された19世紀以降の「暗黒状態」を脱し、大国の誇りを取り戻すことを「中国の夢」だと訴える。

 「習が受ける圧力はすさまじい」と党関係者はいう。「台湾統一を実現できるのか」「南シナ海で米軍を自由に動き回らせていいのか」。軍内では領土や権益の「回復」を必達の目標とする声が強い。その実現を阻むライバルとみているのは、超大国・米国だけだ。

 自由、民主、人権といった価値観を世界戦略の表看板とする米国と、共産党による一党支配を最優先する中国は根っこの部分で相いれない。習が「他国の内政干渉に反対する」と繰り返すのも、中国のやり方に米国は口を挟むな、という願望の裏返しにすぎない。

■トランプ氏訪中

 米軍制服組トップのジョセフ・ダンフォード(61)は9月、米上院で「25年には中国が最大の脅威となる」と述べた。2年前は第1の脅威にロシアを挙げたが、米中間では北朝鮮、台湾、南・東シナ海問題など火種が広がる。両国が互いに威圧や譲歩を繰り返し、協調を探る構図が深まった。

 習は25日、2期目の治世に入った。最高指導部に次世代の後継候補を入れず、長期政権への意欲もにじむ。習1強に花を添えるのは11月8日から北京を訪れる米大統領、ドナルド・トランプ(71)だ。訪中を控え、強権を手にした習を「『中国の王』と呼ぶ人もいるだろう」と持ち上げた。

 一党支配を死守するため、米国に並ぶ強国をめざすとうたい、権威を欲し、政敵を追い落とし、言論を封じ込める。だが習の独裁に近づくほど、体制内の少数の取り巻きだけに頼るもろさが増す。習の支配には、14億人の中国の民の知恵や活力を生かし切れない弱さが潜む。(敬称略)

=おわり

 大越匡洋、高橋哲史、原田逸策、永井央紀が担当しました。



集団的自衛権 同盟に不可欠自民党副総裁 高村正彦氏講演 2017/10/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「集団的自衛権 同盟に不可欠自民党副総裁 高村正彦氏講演」です。





 国の存立を全うするための必要な自衛措置は当然許されるべきだ。朝鮮半島有事の時に、この近辺で米軍の艦船が攻撃された場合、日本が守らなければ日米同盟は瞬時に効力を失う。これは集団的自衛権になるが、必要な自衛の措置であることは当然だ。その範囲で限定的に容認できる。

 安倍政権のもとで(限定的な集団的自衛権の行使が可能な)平和安全法制が2年前に成立した。日本は米国の一部を守れるようになった。トランプ米大統領は米国が日本を守るのに日本が米国を守らないのは不公平だと言っていた。トランプ氏が大統領に当選し、平和安全法制ができていてよかったと思う。日米同盟は良い状況にある。

 いま憲法改正が話題になっている。安倍首相は憲法9条の(戦争放棄を目的とした)1項と、(恒久的武装解除条項である)2項をそのままにして、自衛隊を明記することを提起する。9条2項は特殊な規定で、戦力放棄という世界に例を見ない規定だ。交戦権を認めず、戦力を持つことは許されず、抑止力を持ってはいけない。これで日本の平和をどうやって守るのか。

 私は37年前、憲法9条について聞かれ、1項は堅持するが、2項は削除すると答えた。2項の削除は理論的に正しいが、残念ながら国民投票で2分の1の支持を得るのは難しいだろう。政治家は実現することが重要で、自衛隊の合憲性を紛れのないものにしたい。

 9条2項を維持しても、(連立を組む)公明党が賛成するかどうかはわからない。公明党は自民党の論理を見守るとの立場で、フルスペックの集団的自衛権が認められるような書き方ではだめだと見ているようだ。希望の党の立場はよく分からないが、できれば希望も立憲民主党も入れて(憲法改正を)できればいいと思っている。

 憲法学者の4割は自衛隊が違憲だと断言する。こうした内容が子供たちの教科書にも出てくる。憲法学者に従えば、自衛隊もなく国連平和維持活動(PKO)もなかった。憲法学者の言うことをうのみにする政治家は情けなく、残念なことだ。こういう状況は自衛隊の憲法明記で直せる。命を懸けてくれる自衛隊の皆さんに対して政治家の矜持(きょうじ)として一点の曇りもなくしたい。



真相深層 サウジ、ロシア接近の思惑 サルマン国王、初の 訪ロ米、石油の中東依存急低下 2017/10/28 本日の日本経済新聞より

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 長く親米路線を貫いてきたサウジアラビア。そのサウジが急速にロシアに近づいている。サルマン国王が初めてロシアを訪れ、プーチン大統領と会談した。歴史的な対ロ接近に潜む思惑は何か。

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4日、モスクワ郊外の空港で側近に支えられながらタラップを降りるサウジのサルマン国王=ロイター

 サルマン国王のロシア初訪問という歴史的イベントは、不吉なハプニングから始まった。

 4日、モスクワの空港。専用機に接続された特製のエスカレーター式タラップがいきなり停止し、高齢のサルマン国王が階段をこわごわ歩いて降りるはめになった。肝を冷やした側近が国王が転倒しないよう、あわてて手を伸ばす姿がテレビカメラにとらえられた。

 「多くの問題で立場は一致している」。国王とプーチン大統領は関係改善を演出し、エネルギーや経済協力を打ち出した。両首脳はロシアの最新鋭地対空ミサイルシステム「S―400」の購入で仮契約をかわした。

 両国はロシアがソ連の時代から対立してきた。ソ連の崩壊は国内の経済が破綻して自滅したことが原因だが、決定的な一撃は米国とサウジが1980年代に戦略的に進めた原油安政策だった。

 サウジが外交政策の柱としてきたのは米国との「特別な同盟関係」だ。45年、ルーズベルト米大統領はヤルタ会談からの帰路を変更してスエズ運河に立ち寄り、アブドルアジズ初代国王と会談。「サウジが石油を安定供給する代わりに米は体制を守る」と約束した。

 なぜ、サウジとロシアは急接近しているのか。すぐに頭に浮かぶ現実的な理由がふたつある。

価格底割れ防ぐ

 第1は石油の価格を下支えしたいという一致した利害関係だ。サウジではサルマン国王の息子のムハンマド皇太子が、石油に頼らない経済をめざす大がかりな改革を進めている。その目玉は来年の国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)で、成功の条件は石油価格の安定だ。

 ロシアは来年3月に大統領選がある。出馬して再選を目指すとみられるプーチン氏にとっても価格の底割れは避けなければならないシナリオだ。

敵情報を共有

 第2はイスラム過激主義という共通の敵の存在だ。プーチン政権やサウジ王室を敵視する過激組織についての情報を共有したいねらいがある。

 しかし、もっと本質的な理由は別のところにある。イラク戦争のトラウマを引きずり、内向き姿勢を強める米国の「中東離れ」という現実だ。

 トランプ大統領が初の外遊先に選ぶなど米サウジ関係は蜜月に映るが、実は相互の不信感は根深い。2001年の米同時テロの遺族がサウジ政府を訴えることができる法律が昨年、米国で成立し、両国間に時限爆弾のように突き刺さっている。

 トランプ氏は医療保険制度からイラン核合意、温暖化対策に至るまで前任のオバマ氏のレガシー(遺産)を否定することに躍起だ。ところが、できるだけ中東との関わりを減らしたいという外交姿勢では一致する。

 トランプ氏は就任した直後こそシリアのアサド政権をミサイル攻撃したものの、和平や復興で指導力を発揮しようという姿勢はみえない。米がいない空白を着々と埋めているのがロシアだ。

 米が中東への関心を失うのも無理はない。03年のピーク時に日量230万バレルあったサウジからの石油輸入は直近の7月に80万バレルまで減った。技術革新で自国の生産が増えた米国は近い将来、中東からまったく石油を輸入しなくても済むようになるかもしれない。

 大きなリスクを抱えるのはアジアだ。中国を中心とする製造業のサプライチェーン(部品供給網)は中東の石油・天然ガスに大きく依存している。その安全を守ることに責任を果たしてきた米国の撤退は、世界の経済にとってのリスクだ。

 サウジとロシア首脳による「S―400」の商談が持ち上がった直後、米国務省は、サウジが切望していた地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の売却をあわてて発表した。中東での影響力低下はめぐりめぐって米国に跳ね返ってくる。そんな懸念は少なくともいまのところ、なんとかぎりぎりの水準で共有されているようだ。

(リヤド=岐部秀光)



私見卓見 日本の観光モデル 五輪までに確立観光庁長官 田村明比古 2017/10/27 本日の日本経済新聞より

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 2020年の東京五輪・パラリンピックまで28日であと千日となる。政府は20年に4千万人の訪日外国人客を誘致し、旅行消費額も現在の約2倍の8兆円に増やす目標を掲げた。達成できれば日本経済に60兆円の波及効果があり、550万人の雇用創出を見込める。官民あげて取り組めば不可能な目標ではないが、それには日本の観光業のビジネスモデルをしっかりと確立することが喫緊の課題である。

 国内の観光産業は主に日本人を対象にし、世界のなかで競争してこなかった歴史がある。政府がアジア諸国を対象に戦略的なビザ緩和を順次実施したことでここに来て訪日客数が高い伸びを示しているものの、まだ産業自体が未成熟で、ようやく国際競争のスタート地点に立った状況だ。従来の観光の中心だった宿泊業と観光地全体が変わらないといけない。

 16年の全国の旅館稼働率は平均37%にすぎない。世界的に見ると日本の旅館は特殊なサービス形態にあたるためだ。今までは団体客に目を向け、週末に1泊で過ごす需要を取り込んできたが、世界の市場では連泊でゆっくりとくつろぎ、ファミリーでも楽しめる観光が重要だ。サービスを定義し直す必要がある。最近は中国からの訪日客も半数以上を個人客が占める。自分にしかできない体験を求めて旅行に来ており、そのニーズに対応しなければならない。

 長く心地よく過ごしてもらうためには、超高級からマス(大衆)まで幅広い品ぞろえが大切になる。日本は価格をあげる技術に乏しく、現在は高価格帯の観光商品が少ない。例えば、ヨーロッパではワインを1つとっても、1本数百円から数十万円までのおいしいものがたくさんある。日本も宿泊施設、食、工芸品、体験メニューなどで多様性を高めるべきだ。

 今の訪日客の1人あたり消費額は約15万円だが、長く過ごしてもらうことが目標の20万円達成に必要だ。1つの市町村や県単位でビジネスを考えがちだったが、行政区域の壁を取り払い広域的に目的地をとらえることも重要だ。今年度から日本に無関心な層を対象にした欧米向け観光キャンペーンも予定している。

 大切なのは20年の五輪後だ。30年には日本の人口が6%減る。一定の経済成長力を確保するには、伸長している観光業が担う役割がより大きくなる。30年を見据える上でも、20年の五輪を機に観光先進国の基盤をつくりたい。



風見鶏 危機下で迎える衆院選 2017/10/27 本日の日本経済 新聞より

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 電撃的な衆院解散で日本にはいま衆院議員が誰もいない。北朝鮮との緊張が高まる中の解散は「党利党略で政治空白を招いた」との批判がつきまとう。それでもあえて衆院選に臨む以上は、わが国の安全保障のあり方を正面から議論する機会にしてもらいたい。

 いま政府は準「戦時」とも言うべき体制下にある。例を2つ挙げる。

 小野寺五典防衛相は8月23日午前、日本海に展開する海上自衛隊のイージス艦に降り立った。ミサイルの警戒監視中の視察は歴代の閣僚で初めて。安全を考慮して日程を事前に一切明かさないサプライズ訪問は、米国大統領らが前線部隊の激励で使う手法だ。

 「防衛大臣の小野寺五典です。任務にあたっている乗組員は手を休めずに聞いてください」。突然の艦内放送に驚いた隊員も多かったようだ。小野寺氏が自ら希望した視察で、防衛省幹部は「長期の洋上活動を強いられている隊員の士気が高まった」と喜んだ。

 麻生太郎副総理・財務相は9月初旬の訪米を急きょ取りやめた。安倍晋三首相と河野太郎外相のロシアでの国際会議出席と重なったため、危機管理の観点から国内に残った。

 麻生氏は北朝鮮が9月15日朝に日本上空を通過するミサイルを発射した際は、インド訪問から帰国途中だった首相に代わって国家安全保障会議(NSC)を実際に主宰した。首相が選挙で地方に行く際は、小野寺氏と菅義偉官房長官が都内で待機するという。

 これだけ緊張感がある中で、なぜいま解散なのか。首相は28日夜の街頭演説で「北朝鮮の脅威と少子化という大きな国難を国民の力と理解を得て乗り切る」と訴えた。野党は「今回の解散には大義がない」と一斉に批判している。

 選挙を急いだ理由は「野党の選挙態勢が整わないうちに」というのが本音だろう。首相は周囲に「解散を来年に先送りしても選挙中にミサイルが発射される可能性はある」と語った。

 自民党幹部が補足する。「トランプ米大統領が11月のベトナムでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて日本、韓国、中国を歴訪した後は、北朝鮮との軍事衝突の危険がさらに増す」。この説明が電撃解散への風当たりをかわすための方便にすぎないのかどうかは、事態の推移を見ないと分からない。

 衆院選の構図は民進党が「希望の党」への合流方針を決めて一変した。同党代表の小池百合子東京都知事は「安保法制に賛成しない方は申し込みをしないのではないか」と語り、候補者を選別して受け入れる考えを示している。

 だが安保論議の焦点が2年前に成立した法律の評価だけでいいはずがない。安倍政権は北朝鮮の脅威を受けてミサイル防衛の拡充を進めている。自民党は敵基地攻撃能力の保有を検討中だ。防衛費の扱いや憲法9条に自衛隊をどう位置づけるのかも、各党が明確な立場を示す必要がある。

 日本の政治をみていて不思議なのは「保守」を自任する自民党が消費増税も安保政策の強化も積極派で、「革新」系の野党が現状維持を訴える場面が多いことだ。野党がリスクを取って具体的な対案を示せば、必要な改革をスピード感をもって実現できる。

 「北朝鮮の暴挙は断じて容認できません」。政府高官が壊れたレコーダーのように同じ文句を繰り返しても残念ながら効果は薄かった。北朝鮮による核ミサイルの実戦配備を止めるため、日本や米国は何をすべきなのか。衆院選では今度こそ現実の危機を直視した安保論争が聞きたい。

(編集委員 坂本英二)