古民家再生、地銀が担い手担保評価難しく見極め課題 2017/10/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の金融面にある「古民家再生、地銀が担い手担保評価難しく見極め課題」です。





 地方銀行が各地の古民家再生ビジネスを本格化させている。ファンドや融資制度を設けて過疎化が進む地域にも企業や消費者を呼び込み、新たな融資先を開拓する狙いがある。ただ古民家は担保評価が難しく、収支計画に基づく将来性の見極めがより求められる。各地銀の「目利き力」が事業の成否を握りそうだ。

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横浜銀行は「富士屋旅館」の再生を進める(神奈川県湯河原町)

 「この旅館は湯河原のランドマーク。復活させて街ににぎわいを取り戻したい」。湯河原温泉旅館協同組合の山本一郎理事長は目を細める。来春、改装開業を予定する富士屋旅館(神奈川県湯河原町)。温泉街の中心にある江戸時代から続く老舗旅館だが、2002年に経営不振で廃業していた。

 この富士屋旅館再生の仕掛け人が横浜銀行。地域経済活性化支援機構(REVIC)などと組み計10億円を投入。事業者選定や計画策定に関わる。「湯河原は歴史的価値の高い建築物が多い」(河野辰巳地域戦略企画グループ長)

 全国地方銀行協会によると9月時点の古民家活用の取り組みは27行、34事例に上った。池田泉州銀行などは専門の融資制度を創設。第二地銀でも京葉銀行などが融資している。

 「日本の建物は時間が経つと不動産鑑定額が減っていく。古民家評価の仕組み作りが必要だ」。千葉銀行の植松克則法人営業部長は1月、菅義偉官房長官など約20人の要人を前にこう呼びかけた。政府が立ち上げた「歴史的資源を活用した観光まちづくり専門家会議」での一幕だ。

 各地で空き家が増え続けるなか、政府は20年までに200地域で古民家などを活用したまちづくりを目指す。ただ大抵の古民家は建物に価値が付かず、地方に行くほど地価も安くなるため担保評価が難しい。どの程度集客や売り上げが見込めるかなど、担保に依存しない融資判断が求められる。



トランプ政権と米の針路(創論)アド・マチダ氏/エミリー・サスマン氏 2017/10/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「トランプ政権と米の針路(創論)アド・マチダ氏/エミリー・サスマン氏」です。





TPP離脱やNAFTA再交渉などの経済政策には、国内からも異論が噴出している=ロイター

 トランプ米大統領が11月5日の来日を手始めにアジアを初めて歴訪する。「米国第一」を掲げ、大統領選に勝って1年。今年1月の就任後は、保護主義的な経済政策や北朝鮮、イランとの対決的姿勢で世界を揺るがせ、不規則発言が波紋を広げる。型破りな大統領は米国をどこへ導こうとしているのか。政権移行チームを担った共和党のアド・マチダ氏と、民主党系シンクタンクのエミリー・サスマン氏に聞いた。

◇  ◇

■来年夏には安定軌道に 元政権移行チーム 政策立案責任者 アド・マチダ氏

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 ――政権発足後、フリン補佐官(国家安全保障担当)、プリーバス首席補佐官、バノン首席戦略官とホワイトハウスの中枢幹部が相次ぎ辞任する異例の事態になりました。

 「新政権ができると、選挙戦スタッフの労に報いるためホワイトハウスに登用する。ただ、選挙戦の心理状態のまま、急に政権を管理する仕事は難しい。選挙戦は混乱した状況のなかで、それぞれが主体的に仕事をしてきた。それに適応した人が、管理をする側で仕事をしなければならないのは、退屈で苦しい」

 「ホワイトハウスのスタッフは本来、大統領が就任した年の8月から10月にかけて辞め、新しい顔ぶれが10月から翌年春にかけて入ってくる。これはホワイトハウスで働いた経験がある人たちが主だ。トランプ政権も来年の夏頃には安定してくるだろう」

 ――トランプ氏の長女イバンカ氏とその夫クシュナー氏が補佐官や上級顧問として政権入りしました。2人に対する周囲の遠慮が混乱の要因になったと指摘されます。

 「プリーバス氏が首席補佐官だった時は(イバンカ、クシュナー両氏を)警戒していた。そんな状態では困る。だから国土安全保障長官だったケリー氏を後任の首席補佐官に起用し、まず大統領執務室へいつでも予約なしに入れる『ウォーク・イン・ライツ(大統領との自由な面会権限)』を持つ人をなくした」

 「普通は6、7人だがプリーバス氏の時は35人もいた。これではトランプ氏が仕事をできない。執務室へのウォーク・イン・ライツを持つ人をゼロにすることについて、イバンカ氏もクシュナー氏も了解してくれた。彼らも政策について大統領と話す時には事前の予約が必要になった」

 ――外交では北朝鮮の核開発問題で、トランプ政権は過度な中国頼みという、過去の政権の失敗の轍(てつ)を踏んでいるようにみえます。

 「北朝鮮は核開発で18カ月以内に何らかの成果を出すのではないか、と指摘されている。その段階になって話し合うのでは遅い。米国が自ら動くのであれば、中国は(協力して)対応するか、批判するかの二者択一しかない」

 ――経済制裁の効果が出なかった場合、次のステップは何でしょうか。

 「それはかなり難しい。日米韓はどう出るべきで、中国やロシアに何を求めるのか。トランプ氏はオバマ前政権がレッドライン(許容できない一線)を設けたことを批判している。(相手に手の内を示すのは)戦略的におかしく、意味がない。現政権はレッドラインを公表したりしない」

 ――経済政策では、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しなどの公約実行が物議を醸しています。

 「評価していい。減点部分を挙げるなら医療保険制度改革法(オバマケア)の廃止がうまくいかなかったことだ。廃止で浮く費用を税制改革の財源に充てるつもりだった」

 ――法人税は20%へ引き下げる方針を打ち出しました。

 「重要なのは連邦税の減税だ。選挙戦時に考えていたのは法人税の35%から15%への引き下げだった。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均は20%強。米国の場合は州税が加わるので、企業が支払う税を国際標準にするには連邦税を15%程度にする必要があった。その数字をもとに議会と調整したのだろう」

 ――トランプ氏は中西部などの製造業の白人労働者を念頭に、米国に雇用を取り戻すと約束しました。自動化で工場における単純労働が減る時代に逆行していませんか。

 「『仕事は創ります。でもあなた方が待つ炭坑作業はもう戻りませんよ』というメッセージを伝えなければいけない。米国も今やサービス産業が主流だ。アメリカンドリームを追うのなら、仕事がある場所へ移らないといけない」

 「トランプ氏の仕事は(労働者の)意識改革を主導することだ。大統領が国民に広く語りかける手段は、昔はラジオ放送だった。今は集会での演説とツイッターであり、トランプ氏は効果的に国民へ訴えかけている」

(聞き手は政治部次長 吉野直也)

 Ado Machida トランプ政権への移行チームで政策立案の総責任者を務めた。3月からコンサルティング会社を共同経営。53歳。

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■不信感が政治参加促す アメリカ進歩センター キャンペーンディレクター エミリー・サスマン氏

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 ――トランプ大統領の政権運営をどうみていますか。

 「成果は極めて乏しい。共和党は上下両院の多数派で、大統領は何でもできる可能性がある。だが彼は統治能力の欠如をさらけだし、いつも自ら危機を作り出している」

 ――政権運営を家族や元軍人に頼っています。

 「有権者が彼に票を投じた理由の一つは、優れたビジネスマンであり、素晴らしく能力のある人たちを政権に引き込むと信じたからだ。ところが取り巻きに置いたり、閣僚に選んだりしたのは、行政府のなんたるかを理解せず、本来の使命とまったく逆のことを信じている人たちだ。例えば環境保護局(EPA)のプルイット長官は環境保護の重要性を全く信じていない」

 「政権から次々にスタッフが去っているのは、彼の気質によるところが大きい。彼は中身の真偽はともかく、自分にとっていいことをいう人間が好きだ。耳を傾けるのは自らが信用する人間だけ。彼が聞きたくないことを報告するには、称賛も交えなければいけない。大統領と率直に話せないのは憂慮すべきことだ」

 ――トランプ氏が攻撃的な言動を繰り返す対北朝鮮政策では、オバマ前大統領にも「問題を放置した」との批判があります。

 「北朝鮮との対立をエスカレートさせている理由の一つに、戦時は大統領が高い支持率を得やすいことがある。トランプ氏はより多くの支持を得るために我々を戦争に導こうとしている。ある調査によると、米国民の72%が米国は今後4年以内に戦争するかもしれないという懸念を抱いている。それに対してオバマ氏の言動は適切だった」

 「トランプ氏はオバマ氏のレガシー(政治的遺産)を否定したいだけの理由で、イランとの核合意も認めない。多くの政権高官は合意から離脱すべきではないと主張している。彼はオバマ氏のレガシーを否定できるなら、いつもその道を選ぶ。(地球温暖化対策の国際枠組みである)パリ協定からの離脱もそうだ。合意順守を主張したマティス国防長官やティラーソン国務長官も大統領への影響力を持たない。意思決定でトランプ氏は圧倒的に強い権限がある」

 ――保険料高騰の問題を抱えるオバマケアの見直しを訴えるトランプ氏に、民主党は協力すべきではないですか。

 「民主党は見直しの余地があることは認識してきたが、廃止議論なら協力はしない」

 ――トランプ氏に流れた白人労働者の支持を、民主党はどう取り戻すつもりですか。

 「白人の単純労働者たちの仕事は、特に製造業の自動化や海外移転で消えつつある。民主党はこの問題への対応を現実的に議論しようとしている。労働者を再訓練し、給料を支払い、米国が向かう経済に沿うようにするプログラムを考えることだ。(トランプ氏が訴える雇用創出のような)10年前と変わらない経済の話をするのはたくさんだ」

 「彼らはトランプ氏が自分たちを理解し、助けてくれるかのように感じた。本当は何の提案もないし、彼がやろうとしていることは暮らしをより困難にしている。だから多くの人たちは、彼が自分たちのための政治をしていないと気づき始めるだろう」

 ――来年は中間選挙があります。トランプ氏への評価はどうなっているでしょうか。

 「彼に行動が伴っていないと感じた支持者は、失望することになるだろう。大統領選まで中立的だったり、受動的だったりした多くの人たちは自ら行動するようになっている。現政権に国のかじ取りを任せられないと考えているからだ。『トランプが大統領になれるのなら、自分もどこかの市長になれる』と考え、政治的な経験がなくても公職に意欲を持つ例が増えている」

 ――次期大統領選で再選を狙うトランプ氏への対抗馬が民主党には見当たりません。

 「まだ時間がある。昨年の大統領選で候補指名をヒラリー・クリントン元国務長官と争ったサンダース氏は党内の極端な左派を代表する。トランプ氏の主張が過激だから少し穏健な政策を訴える人物に人気が集まる可能性もある」

(聞き手はワシントン=永沢毅)

 Emily Tisch Sussman 米民主党の全国青年組織で事務局長を務め、12年大統領選で若者の政治参加に貢献。35歳。

◇  ◇

■<聞き手から>混迷の「出口」 いまだ見えず

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 マチダ、サスマン両氏とも言い方は違うが、トランプ政権がいまだに混乱していると指摘した。その遠因が家族の重用などトランプ氏の統治方法であるとの認識もほぼ一致している。このドタバタが支持率低迷の背景にあるのは言うまでもない。

 サスマン氏は大統領が戦時に高い支持率を得やすい特性を挙げ、現在の北朝鮮との緊迫を説明した。湾岸戦争におけるブッシュ(父)、米同時テロ後にアフガニスタンとイラクでの2つの戦争に踏みきったブッシュ(子)両大統領の支持率が90%に達したのを思い出せば、理解できるだろう。トランプ氏支持層の中核である白人労働者を念頭に置いた雇用創出も、単純労働の増加を意味するならば画餅に近い。この点もマチダ、サスマン両氏の見解は同じだ。

 その現実に気付いても、支持層はトランプ氏から離れないのか。トランプ氏が戦争の誘惑に駆られる要因は国内でも増えている。マチダ氏は「トランプ政権も来年の夏ごろには安定してくるだろう」と楽観的な見通しを示したが、混迷の「出口」はまだみえない。

(吉野直也)



真相深層 マイナンバー背水の陣 利便性とお得感、普及の カギ 2017/10/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 マイナンバー背水の陣 利便性とお得感、普及のカギ」です。





 政府がマイナンバー浸透へ捲土(けんど)重来を期す。11月から自治体との間で個人情報のやりとりを始め、いよいよ本格運用に乗り出す。12桁の個人番号で社会保障や税の行政事務を効率化する。ただ度重なるシステム障害で国民の信頼を失い、本人確認のためのカード取得は一向に進んでいない。政府は背水の陣を敷き、カードの用途拡大に突き進んでいる。

 野田聖子総務相は2日、自治体ポイント制度の省内での実演会に参加した。「マイレージがたまっているけど、飛行機に乗る機会が少ないから」。特設サイトでマイナンバーを入力し、マイレージのポイントを使い、岐阜県可児市の特産品約9千円分を購入した。

 自治体ポイントはマイナンバーカードと連動させ、クレジットカードや航空会社のマイレージなどのポイントを商店街や通販サイトで使える仕組みだ。9月に始動し、228自治体が参加する。民間が発行する年4千億円のポイントの3~4割は未使用に終わるとされ、総務省は「マイナンバーカードでお金を還流させる」と意気込む。

 政府は最近、これでもかと新手のカード活用策をひねり出している。スマートフォン(スマホ)にマイナンバー情報を記憶させ、スポーツイベント会場でチケットを発券せずに入場できる取り組みを始めたほか、銀行口座開設やコンサートなどチケットの高額転売を防ぐ仕組みを検討。統合型リゾート(IR)ではカジノ施設の入場券として使う案もある。

 マイナンバーは住民票コードや基礎年金番号などの個人番号を一本化し、複数の行政機関のやりとりを容易にするものだ。税などの納付漏れがないと確認できれば、住民も社会保険料の減免などのサービスを手間なく受けられる。2015年10月に国民に番号を通知し始め、16年1月にはカードの交付を開始した。

 ところが、個人認証の基となるカードは今年10月段階で普及率9.9%、1260万枚。16年に掲げた「17年3月末時点で3千万枚」という政府目標に遠く及ばない。カードのシステムに不具合が生じ、交付作業が滞っているうちに国民の関心が低下した。政府は焦りの色を濃くするが、自治体との連携もままならないところがある。

 7日に始まった「子育てワンストップサービス」。マイナンバーカードがあれば、自宅のパソコンやスマホで子育て関連の手続きが済むとの触れ込みだが、全15項目の手続きに対応する自治体は50程度。「本人への聞き取りが必要で、電子申請はそぐわない」(仙台市)と対面を重視する自治体は多い。

 マイナンバーは何のためにあり、カードは何に役立つのか。日本では国民がそのイメージを描けずにいる。

 番号制が浸透する国もある。電子行政先進国とされる欧州・エストニアの事情を探ってみた。同国の国民も最初は「車のフロントガラスの雪かきにしか使えない」とカードを皮肉ったが、銀行振り込みの手数料を抑えるなどのサービスを手厚くしたら、取得が進んだという。結婚・離婚や不動産取引などを除き、ほぼ全ての行政手続きがネットで完了する。

 野村総合研究所の梅屋真一郎・制度戦略研究室長は「日本はカードを持たなければいけない理由が見当たらない。使えば税額控除されるなど、利便性だけでなく得をする動機づけが必要」とみる。カードを持ちたいと思わせる動機が必要だ。

 政府が音頭をとるカード普及策も自治体ごとに対応が異なり、利便性を感じにくい。小規模町村では役場職員が高齢者宅に出向いて交付手続きを手伝うというが、保有者ばかり増やしても肝心の使い勝手は後回しだ。

 先行した住民基本台帳カードは、個人情報漏洩への懸念から、交付率は5%で終わった。政府はその二の舞いを避けようと、国民の利便性向上とお得感という味付けで浸透を図る。役所のシステムを変えただけで宝の持ち腐れに終わるか、電子行政に欠かせないインフラとなって最先端のIT国家への扉を開くか。マイナンバーは今、剣が峰に立っている。

(秋山文人、桜井佑介)



月曜経済観測 米経済の実力は 3%成長、維持は困難米ノ ースウェスタン大教授 ロバート・ゴードン氏 2017/10/30 本日の 日本経済新聞より

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 米経済の底堅い回復が続いている。トランプ政権は税制改革などを実行に移し、目標の年3%成長を達成できるのか。米ノースウェスタン大学のロバート・ゴードン教授に聞いた。

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景気に好循環

 ――米経済の現状をどう診断していますか。

 「安定成長の軌道に乗っている。雇用や所得の伸びが個人消費を下支えし、景気の回復を引っ張るという好循環がみられる。強い衝撃を受けない限り、失速することはあるまい。2009年7月からの景気回復局面は、戦後最長の10年間を超える公算が大きい」

 ――物価が思うように上がらないのが悩みです。

 「インフレ加速の分岐点となる失業率(NAIRU)が、4%程度に下がっているのだろう。労働組合の影響力の低下や非正規雇用の拡大といった複合要因がある。だが賃金の上昇に拍車がかかり、インフレを誘発する可能性は残る」

 ――米連邦準備理事会(FRB)は、金融政策の正常化を急ぐ構えです。

 「金融危機後の量的緩和で膨らんだ保有資産(約4.5兆ドル)の圧縮に着手したのは妥当だ。10年以上の長い時間をかけ、適正な規模を目指して緩やかに減らしていくだろう。今後2年程度にわたり、政策金利(現行年1.00~1.25%)を3%近辺まで引き上げるのも理解できる」

生産性伸び悩み

 ――足元の米経済は堅調でも、中長期の成長力に対する不安が拭えません。

 「問題は生産性の伸び悩みだ。過去7年間の伸びは年平均0.6%止まりで、1920~70年の2.8%、70~2006年の1.8%を大幅に下回った。技術革新の効果が薄れてきたのが主因だと私は思う」

 「IT(情報技術)の発展に、電気や上下水道の普及に匹敵するほどのインパクトはなく、その効果もいよいよ一巡しつつある。米経済の回復などを追い風に、今後25年間の生産性の伸びは1.2%まで高まるとみているが、かつての水準には戻れない」

 「これに労働力の伸びを加味すると、米経済の実力を示す潜在成長率は1.7%程度になる。トランプ政権の税制改革などで実質成長率を押し上げても、3%の水準を維持するのは困難と言わざるを得ない」

 ――米経済の底上げに必要な政策は何ですか。

 「成長の起爆剤は3つある。第1は教育の拡充だ。多くの子供が適切な教育を受け、より良い職を得られるようになれば、各層に恩恵が行き渡る『包摂的な成長』の一助にもなる」

 「第2は設備投資の喚起だ。余剰資金をため込んだり、配当や自社株買いに回したりする企業の行動をすべて変えられるとは思わないが、税制優遇で一定の投資を引き出すことはできる。第3は技術革新の促進で、こちらはむしろ政府の介入を抑えた方がいい」

 ――トランプ政権の政策で問題を解決できますか。

 「多くの面で方針を誤っている。移民の制限や保護貿易は、成長力の強化にとって明らかにマイナスだろう。税制改革も強者と弱者の格差を広げる結果に終わりそうだ。無理な財政出動で景気が過熱し、FRBが想定以上の急激な利上げを迫られる恐れもある」

(聞き手はワシントン支局長 小竹洋之)

 Robert Gordon 著書「米国の成長の盛衰」で技術革新の停滞を憂慮。77歳。



エコノフォーカス 保育無償化誰のため? 所得水準で恩恵 に差 自治体負担、国が肩代わり 2017/10/30 本日の日本経済新聞より

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 安倍晋三首相が表明した3~5歳の保育所の無償化の意味を巡って、波紋が広がり始めている。保育料の負担額は親の年収などに応じて異なるため、今回の無償化の恩恵を所得の高い世帯ほど得ることになる。これまで保育サービスを利用していなかった家庭が利用し始め、保育所がさらに不足しかねない。12月にまとめる制度設計が注目される。

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 「3歳から5歳児の幼稚園、保育所について全面無償化します」。安倍首相は9月末、衆院解散にともなう記者会見でこう表明した。0~2歳は低所得世帯に限って、3~5歳については全ての世帯で保育料をタダにするという。ただ、無償化の意味を巡っては詳細な説明はなかった。

 現在の3~5歳の保育料の負担は世帯収入が高いほど大きい。生活保護世帯はゼロ、年収約260万円未満の住民税非課税世帯の場合の保育料は年7万2千円だが、年収約1130万円以上の世帯では最大年121万2千円を支払っている。

 無償化が全額補填を意味するなら、高額所得世帯は年間100万円以上もの負担減になる。金額にして、年収約1130万円以上の世帯は年収約260万円未満の世帯の実に17倍の恩恵を受ける。一方、生活保護世帯では今回の恩恵はゼロだ。

 3~5歳の子どもが通う幼稚園の無償化は一律で、月の平均保育料(2万5700円)が補助される見通しだ。

 当面の保育料がタダになれば若い世代が子どもを産み育てる経済的な負担感を減らせる。消費増税のタイミングで家計負担を軽くし、消費低迷を抑える思惑もある。

 SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、仮に19年度に無償化で家計負担が約1兆円軽くなり半分が消費に回るなら、実質国内総生産(GDP)を0.1%押し上げる効果があるという。ただ、安倍首相の表明以降、与党内からも「年収が高い世帯の負担が減っても貯蓄に回るだけ。所得再分配にも逆行する」との批判も相次ぐ。

 実は無償化の恩恵の4~5割は自治体が受ける。既に子育て世代を呼び込もうと保育料を補助する地方自治体は多い。大阪府守口市は今年4月、全国の市で初めて0~5歳児の幼稚園と保育所を全額タダにした。この負担を国が肩代わりする。20年度の基礎的財政収支は高い経済成長が続いた場合でも国は13.6兆円の赤字が残るが地方は5.5兆円の黒字を保つ。

 無償化に伴って国が拠出する金額は12月にならないと確定しない。仮に5千億円を保育所整備に回すと50万人分の保育の受け皿をつくることができる。限られた財源だからこそ、子育て世代が本当に必要とするサービスが行き渡るような施策が求められる。

 

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送迎ステーションを使えば、親は送り迎えができない郊外の施設にも子どもを預けられるようになる

■待機児童どう減らす

 待機児童は2017年4月時点で2万6081人と、前年から約1割増えた。無償化で保育所の利用者が増える可能性は高い。

 10月上旬の朝7時ごろ。小田急線町田駅近くの保育ステーション「つながり送迎保育園」に子どもをつれたママやパパが集まってきた。東京都町田市が待機児童を解消すべく、10月に設けた保育所の出張所だ。施設と利用希望者の所在地のミスマッチで利用されない保育枠を余す所なく使う。

 朝夕は働く親と子を結ぶ中継点となり、親から預かった子どもを遠方の保育所にバスで送迎する。「これで一時預かりなどを含め、合計40人分の定員枠を用意できた」(町田市役所の押切健二さん)

 国も手をこまぬいているわけではない。17年度は1兆5千億円の公費を投じ、11万人分の施設を増やした。それでも待機児童は増える一方だ。

 利用者が求めているのは、無償化より保育サービスの受け皿だ。いまあえて「保育料の適正化」を唱える声もある。認可保育所の親の保育料負担は0歳児で費用全体の2割弱、全体でも3割程度。昭和女子大学の八代尚宏氏は「サービスに見合った適正な保育料を考えるべきだ」と指摘する。

 低所得者層は別として、例えば0歳児の個人負担分を増やし、育児休業や保育ママをうまく活用する人を増やせば、その財源を待機が多い1~2歳児に向けることも可能だ。

(矢崎日子)



習近平の支配 大いなる賭け(下) ライバルは米だけ 中国空母ハワイに迫る日 2017/10/30 本日の日本経済新聞より

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 本来、公の場に登場しない人物だ。中国空軍パイロット、劉鋭(38)。劉の操る戦略爆撃機「轟6K」は日本列島近くで何度も航空自衛隊機と対峙している。「2年前に年4回だった遠洋訓練。今では1カ月に何度も実施している」。中国共産党大会に合わせて党の宣伝部門が催した22日の記者会見で、劉は軍の拡大路線を誇らしげに語った。

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中国の習近平国家主席は11月、トランプ米大統領と首脳会談に臨む(4月、フロリダ)=ロイター

 10月上旬には、海軍を巡る衝撃が世界を駆け巡った。中国の空母「遼寧」が母港とする山東省青島の海軍基地に、最新鋭の大型補給船「呼倫湖」の姿が確認されたのだ。2カ月以上にわたる航海の給油ができる同艦は、空母が遠からず遠洋航海に出るサインだ。

 鄧小平時代の中国は「韜光養晦(能力を隠して力を蓄える)」と称し、抑制的な外交姿勢を心がけた。2期目を迎えた国家主席、習近平(64)はもはや爪を隠そうともしない。党機関紙の人民日報は1月、空母はいずれ東太平洋にも展開すべきだと主張した。北京の外交筋の間では「空母がハワイまで迫る日は遠くない」との声さえあがる。

■軍から圧力強く

 習の表現を借りれば、1949年の建国から100年の21世紀半ばまでに「世界一流の軍隊を築く」という。国際協力を名目に米軍と肩を並べて世界に部隊を派遣し、同時に自国の権益を追求する未来図だ。列強に侵略された19世紀以降の「暗黒状態」を脱し、大国の誇りを取り戻すことを「中国の夢」だと訴える。

 「習が受ける圧力はすさまじい」と党関係者はいう。「台湾統一を実現できるのか」「南シナ海で米軍を自由に動き回らせていいのか」。軍内では領土や権益の「回復」を必達の目標とする声が強い。その実現を阻むライバルとみているのは、超大国・米国だけだ。

 自由、民主、人権といった価値観を世界戦略の表看板とする米国と、共産党による一党支配を最優先する中国は根っこの部分で相いれない。習が「他国の内政干渉に反対する」と繰り返すのも、中国のやり方に米国は口を挟むな、という願望の裏返しにすぎない。

■トランプ氏訪中

 米軍制服組トップのジョセフ・ダンフォード(61)は9月、米上院で「25年には中国が最大の脅威となる」と述べた。2年前は第1の脅威にロシアを挙げたが、米中間では北朝鮮、台湾、南・東シナ海問題など火種が広がる。両国が互いに威圧や譲歩を繰り返し、協調を探る構図が深まった。

 習は25日、2期目の治世に入った。最高指導部に次世代の後継候補を入れず、長期政権への意欲もにじむ。習1強に花を添えるのは11月8日から北京を訪れる米大統領、ドナルド・トランプ(71)だ。訪中を控え、強権を手にした習を「『中国の王』と呼ぶ人もいるだろう」と持ち上げた。

 一党支配を死守するため、米国に並ぶ強国をめざすとうたい、権威を欲し、政敵を追い落とし、言論を封じ込める。だが習の独裁に近づくほど、体制内の少数の取り巻きだけに頼るもろさが増す。習の支配には、14億人の中国の民の知恵や活力を生かし切れない弱さが潜む。(敬称略)

=おわり

 大越匡洋、高橋哲史、原田逸策、永井央紀が担当しました。



神鋼不正、米司法省が「召喚状」 刑事責任の行方は 2017/10/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「神鋼不正、米司法省が「召喚状」 刑事責任の行方は」です。





神戸製鋼所の製品データ改ざん問題を巡り、米司法省が神鋼に文書提出を要求した。さらにそれが任意ではなく、応じなければ罰則が付く「召喚状」であることが分かった。何が違うのか。今後予想される展開や専門家の見方などをまとめた。

(画像:品質データ改ざんには管理職もかかわっていたという(神戸市中央区の神戸製鋼所本社))

神鋼は17日、米子会社が16日に米司法当局からの書面を受け取ったと発表した。仕様不適合に関する書類の提出を求めており、神鋼側は調査に協力するとしている。

司法省の資料提出要求には2種類ある。一つは省内決裁で可能な任意の資料報告要請。もう一つが「サピーナ」と呼ばれる罰則付きの召喚状だ。これは検察官が連邦大陪審に申し立てて出される手続きで、従わないと法廷侮辱罪や司法妨害罪に問われる可能性もある。神鋼によると、今回の要求はサピーナだという。

要求時点では司法省は必ずしも刑事罰を科せると判断しているわけではない。蔵元左近弁護士も「早期の情報収集段階」とみる。一方、「召喚状を出す以上、5割以上の確率で起訴可能とみている」(匿名弁護士)との声もある。今井毅・米国弁護士は「刑事責任を追及する本格捜査に進む可能性が高い」とみる。

今後、司法省は書類分析や関係者への聞き取りなどを経て、神鋼の刑事責任の有無を判断するもようだ。結城大輔弁護士は「収集した証拠は重要な捜査資料になる」と解説する。問題なしとなれば、それで終了だ。

仮に問題ありとなった場合は、いくつかの展開がありうる。西理広弁護士は「米国で刑事責任ありとされた企業は、司法取引で和解を目指すのが一般的だ」と話す。

司法取引では、企業側が事実関係を認め、捜査協力や再発防止策の実施などを条件に、幹部の免責や罪の減免を求めることが多い。当局は被害の深刻さや悪質性なども総合判断し、和解内容を調整する。消費者や取引先の被害を当局が算定し、賠償金の支払いを和解内容に含めることもある。

ただし罪の減免で合意しても、責任が重い幹部を免責せずに起訴する例も多い。司法取引に決裂した場合も起訴となる。

神鋼の例については予断を許さないものの、仮に法令違反があるとすれば何がありうるのか。

多くの専門家が挙げるのは連邦法の詐欺罪だ。今井弁護士は「虚偽データの可能性を知りつつ高い安全性が必要な部品を供給した点が問題」と指摘。米国法に詳しい弁護士は「米政府や軍の車両などにも使われていれば、さらに国家への詐欺罪にも問われる可能性がある」とみる。

日本では企業不祥事への詐欺罪の適用例は少ないが、米国ではデータ不正を起こした企業がたびたび詐欺罪に問われる。エアバッグの異常破裂問題を起こしたタカタや排ガス不正があった独フォルクスワーゲン(VW)は罰金の支払いや幹部の起訴に至った。結城弁護士は「司法省は個人への訴追強化の傾向を強めている」と指摘する。

神鋼の場合、現時点で深刻な事故やリコールは起きていない。日本企業の米司法省対応を多く手掛ける別の弁護士は「仮に罰金になっても経営を揺るがすほどの巨額にはならないだろう」とみる。一方で、西弁護士は「事故が起きていなくても厳しい対応で臨む可能性がある」と話す。

(渋谷高弘、瀬川奈都子、植松正史)



神鋼不正、米司法省が「召喚状」 刑事責任の行方は 2017/10/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「神鋼不正、米司法省が「召喚状」 刑事責任の行方は(詐欺罪適用の見方も)」です。





神戸製鋼所の製品データ改ざん問題を巡り、米司法省が神鋼に文書提出を要求した。さらにそれが任意ではなく、応じなければ罰則が付く「召喚状」であることが分かった。何が違うのか。今後予想される展開や専門家の見方などをまとめた。

(画像:品質データ改ざんには管理職もかかわっていたという(神戸市中央区の神戸製鋼所本社))

神鋼は17日、米子会社が16日に米司法当局からの書面を受け取ったと発表した。仕様不適合に関する書類の提出を求めており、神鋼側は調査に協力するとしている。

司法省の資料提出要求には2種類ある。一つは省内決裁で可能な任意の資料報告要請。もう一つが「サピーナ」と呼ばれる罰則付きの召喚状だ。これは検察官が連邦大陪審に申し立てて出される手続きで、従わないと法廷侮辱罪や司法妨害罪に問われる可能性もある。神鋼によると、今回の要求はサピーナだという。

要求時点では司法省は必ずしも刑事罰を科せると判断しているわけではない。蔵元左近弁護士も「早期の情報収集段階」とみる。一方、「召喚状を出す以上、5割以上の確率で起訴可能とみている」(匿名弁護士)との声もある。今井毅・米国弁護士は「刑事責任を追及する本格捜査に進む可能性が高い」とみる。

今後、司法省は書類分析や関係者への聞き取りなどを経て、神鋼の刑事責任の有無を判断するもようだ。結城大輔弁護士は「収集した証拠は重要な捜査資料になる」と解説する。問題なしとなれば、それで終了だ。

仮に問題ありとなった場合は、いくつかの展開がありうる。西理広弁護士は「米国で刑事責任ありとされた企業は、司法取引で和解を目指すのが一般的だ」と話す。

司法取引では、企業側が事実関係を認め、捜査協力や再発防止策の実施などを条件に、幹部の免責や罪の減免を求めることが多い。当局は被害の深刻さや悪質性なども総合判断し、和解内容を調整する。消費者や取引先の被害を当局が算定し、賠償金の支払いを和解内容に含めることもある。

ただし罪の減免で合意しても、責任が重い幹部を免責せずに起訴する例も多い。司法取引に決裂した場合も起訴となる。

神鋼の例については予断を許さないものの、仮に法令違反があるとすれば何がありうるのか。

多くの専門家が挙げるのは連邦法の詐欺罪だ。今井弁護士は「虚偽データの可能性を知りつつ高い安全性が必要な部品を供給した点が問題」と指摘。米国法に詳しい弁護士は「米政府や軍の車両などにも使われていれば、さらに国家への詐欺罪にも問われる可能性がある」とみる。

日本では企業不祥事への詐欺罪の適用例は少ないが、米国ではデータ不正を起こした企業がたびたび詐欺罪に問われる。エアバッグの異常破裂問題を起こしたタカタや排ガス不正があった独フォルクスワーゲン(VW)は罰金の支払いや幹部の起訴に至った。結城弁護士は「司法省は個人への訴追強化の傾向を強めている」と指摘する。

神鋼の場合、現時点で深刻な事故やリコールは起きていない。日本企業の米司法省対応を多く手掛ける別の弁護士は「仮に罰金になっても経営を揺るがすほどの巨額にはならないだろう」とみる。一方で、西弁護士は「事故が起きていなくても厳しい対応で臨む可能性がある」と話す。

(渋谷高弘、瀬川奈都子、植松正史)



神鋼不正、米司法省が「召喚状」 刑事責任の行方は 2017/10/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「神鋼不正、米司法省が「召喚状」 刑事責任の行方は」です。





神戸製鋼所の製品データ改ざん問題を巡り、米司法省が神鋼に文書提出を要求した。さらにそれが任意ではなく、応じなければ罰則が付く「召喚状」であることが分かった。何が違うのか。今後予想される展開や専門家の見方などをまとめた。

(画像:品質データ改ざんには管理職もかかわっていたという(神戸市中央区の神戸製鋼所本社))

神鋼は17日、米子会社が16日に米司法当局からの書面を受け取ったと発表した。仕様不適合に関する書類の提出を求めており、神鋼側は調査に協力するとしている。

司法省の資料提出要求には2種類ある。一つは省内決裁で可能な任意の資料報告要請。もう一つが「サピーナ」と呼ばれる罰則付きの召喚状だ。これは検察官が連邦大陪審に申し立てて出される手続きで、従わないと法廷侮辱罪や司法妨害罪に問われる可能性もある。神鋼によると、今回の要求はサピーナだという。

要求時点では司法省は必ずしも刑事罰を科せると判断しているわけではない。蔵元左近弁護士も「早期の情報収集段階」とみる。一方、「召喚状を出す以上、5割以上の確率で起訴可能とみている」(匿名弁護士)との声もある。今井毅・米国弁護士は「刑事責任を追及する本格捜査に進む可能性が高い」とみる。

今後、司法省は書類分析や関係者への聞き取りなどを経て、神鋼の刑事責任の有無を判断するもようだ。結城大輔弁護士は「収集した証拠は重要な捜査資料になる」と解説する。問題なしとなれば、それで終了だ。

仮に問題ありとなった場合は、いくつかの展開がありうる。西理広弁護士は「米国で刑事責任ありとされた企業は、司法取引で和解を目指すのが一般的だ」と話す。

司法取引では、企業側が事実関係を認め、捜査協力や再発防止策の実施などを条件に、幹部の免責や罪の減免を求めることが多い。当局は被害の深刻さや悪質性なども総合判断し、和解内容を調整する。消費者や取引先の被害を当局が算定し、賠償金の支払いを和解内容に含めることもある。

ただし罪の減免で合意しても、責任が重い幹部を免責せずに起訴する例も多い。司法取引に決裂した場合も起訴となる。

神鋼の例については予断を許さないものの、仮に法令違反があるとすれば何がありうるのか。

多くの専門家が挙げるのは連邦法の詐欺罪だ。今井弁護士は「虚偽データの可能性を知りつつ高い安全性が必要な部品を供給した点が問題」と指摘。米国法に詳しい弁護士は「米政府や軍の車両などにも使われていれば、さらに国家への詐欺罪にも問われる可能性がある」とみる。

日本では企業不祥事への詐欺罪の適用例は少ないが、米国ではデータ不正を起こした企業がたびたび詐欺罪に問われる。エアバッグの異常破裂問題を起こしたタカタや排ガス不正があった独フォルクスワーゲン(VW)は罰金の支払いや幹部の起訴に至った。結城弁護士は「司法省は個人への訴追強化の傾向を強めている」と指摘する。

神鋼の場合、現時点で深刻な事故やリコールは起きていない。日本企業の米司法省対応を多く手掛ける別の弁護士は「仮に罰金になっても経営を揺るがすほどの巨額にはならないだろう」とみる。一方で、西弁護士は「事故が起きていなくても厳しい対応で臨む可能性がある」と話す。

(渋谷高弘、瀬川奈都子、植松正史)



世界低成長、短期か長期か 設備投資の波及効果弱く 2017/10/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「世界低成長、短期か長期か 設備投資の波及効果弱く(デジタル化で経済構造変質も)」です。





緩やかな回復が続く世界経済。だが経済の本当の実力を示す潜在成長率はいっこうに上がらず、日本や米国も景気拡大局面の割に成長の勢いが鈍い。金融危機後に企業が設備投資などを絞り込んだ後遺症だ。こうした短期のダメージに加え、世界のデジタル経済化という劇的な構造変化が長期間、潜在成長率の頭を押さえ続けるとの見方も広がってきた。

260兆円分消える

フランスかインドの経済規模に匹敵する約260兆円分の名目国内総生産(GDP)が失われた――。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮崎浩氏はリーマン危機後に潜在成長率が急降下した影響をこう試算する。2016年の経済協力開発機構(OECD)加盟国合計のGDPは53.6兆ドル。潜在成長率が07年時点の2.1%のままなら16年のGDPは55.9兆ドルになった可能性があり、2.3兆ドル(1ドル=113円換算で259兆円)下押しした。世界全体のGDPの3%相当だ。

17年のOECD加盟国平均の潜在成長率は1.5%。07年の2.1%からリーマン危機後に急低下し底ばいが続く。日本は最近5年間で女性や高齢者の就労が増えたため0.2ポイント上がったが、それでも17年は0.7%。主要7カ国(G7)では最低レベルだ。

潜在成長率が低下した最大の要因は設備(資本)投資の急減だ。リーマン危機直後の09年にOECD加盟国の設備投資は8.6兆ドルと前の年から約10%減少。12年にはリーマン前の水準を回復したものの伸びは緩やかだ。03~07年の年平均の伸びは7.5%だったのに対し、15年までの4年間は4.2%に鈍った。

危機の影響もあってイノベーションが滞り、日本企業の稼ぐ力も弱まった。日本の製造業について研究費と営業利益の関係を見ると金融危機前の05~07年度の営業利益は累計で61.8兆円。直前02~04年度の合計の研究費(30.5兆円)の2倍の果実となって帰ってきた。ところが14~16年度の営業利益は累計で51兆1千億円と、11~13年度の合計研究費(32兆7千億円)の1.5倍にとどまる。国際通貨基金(IMF)は、先進国の投資の落ち込みで技術進歩などに左右される全要素生産性の伸びが年0.2%分鈍くなったと分析した。

雇用も大きい。企業が採用を絞って若者失業者が急増したり雇用の非正規化が進んだりした。日米などは失業率が歴史的低水準とはいえ、世界全体でみれば直近16年の失業率は6.3%と危機前より高い。日本生産性本部によるとOECD加盟国平均の時間当たりのもうけ(労働生産性)の伸びは10~15年に年2.2%だった。比較可能な1970年以降では最低だ。

急激な景気後退や雇用調整が負の影響を及ぼし続けることを経済学で「履歴効果」と呼び、この後遺症で潜在成長率が恒久的に押し下げられたと分析する声が広がっている。

こうして短期に刻まれた危機の爪痕だけでなく、より長期間、潜在成長率を抑えそうな要因がある。急速なデジタル経済化だ。アップルやライドシェア(相乗り)最大手のウーバーテクノロジーズなどのようなIT(情報技術)企業はそもそも自前の工場をもたない。旧来の製造業のように設備投資による資本蓄積を必要としないため、潜在成長率を押し上げる力が弱まる。

トヨタの17年3月期の設備投資はグループ連結で1.2兆円なのに対し、アマゾン・ドット・コムの17年はおよそ半分の50億ドル(約5500億円)。米グーグルの持ち株会社アルファベットの投資額も約1兆円だ。前出の宮崎氏が産業連関表を分析したところ、自動車など輸送用機械の設備投資は16年度に2.7兆円にのぼり、関連する裾野を含め5.6兆円の波及効果を生んだ。一方、ITを含む情報サービスの設備投資は0.8兆円にすぎない。自動車も電気自動車への移行で1台あたりの部品点数が減ると恩恵を受ける産業の裾野は狭まる。

雇用失う小売り

雇用も圧迫する。インターネット通販の急拡大で米国では玩具販売大手トイザラスが経営破綻。アマゾンが年末商戦へ12万人を臨時に雇う計画を立てる一方、小売業は店舗閉鎖などで多くの雇用を失いつつある。米労働省によると17年9月の衣料品系流通業の雇用者数は約132万人と、07年のピーク時より1割超少ない。省人化で人的資本の蓄積が鈍る可能性を示している。小峰隆夫・大正大学教授は「デジタル化でサービスが安くなって付加価値が低くなる分、成長率が高まりにくい」と説明する。

デジタル化で設備投資の伸びが鈍化する結果、世界的な企業のカネ余り現象がさらに顕著になる恐れがある。問われるのは潤沢な手元資金をどのように次の成長につなげていくかだ。税制を含め、経済政策も常識にとらわれない発想で見直す時に来ているのかもしれない。

(川手伊織)