建設現場に週休2日制導入、工事原価7%増も 不動産会社は反発 も 2017/11/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「建設現場に週休2日制導入、工事原価7%増も 不動産会社は反発も」です。





 総合建設会社(ゼネコン)でつくる日本建設業連合会(日建連)は2022年3月期までに、施工現場を週休2日制に移行する方針を固めた。工事原価の7%以上の増加につながると見る建設会社が多い。施主側に一定負担を求める考えだが、不動産会社は反発している。建設需要が一段落するとされる東京五輪後をにらみ、両者のさや当てが激しくなりそうだ。

 「週休2日なんて無理と認めてきたタブーに業界の命運をかけてチャレンジする」。建設業界の人手不足を受け、日建連はこのほど「週休2日実現行動計画試案」を取りまとめた。施工現場はこれまで週休1日が多かった。会員各社に週休2日制へ移行を働きかける。

 施工を担う下請け業者は日給制が多い。週休1日から2日に単純に移行すれば実質賃下げとなるが、元請けが人手を確保するには下請けへの支払賃金を維持する必要がある。単純計算で下請け業者の日給は1.2倍となり、工期も長くなる。

 建設会社の労務費は工事原価の4割前後を占めるとされる。さらに工期が延びれば建機リース費や仮設費なども膨らむ。日建連の会員企業への調査では、週休2日へ移行すると延べ52社のうち26社が工事原価で7%以上、17社が5~7%の上昇につながると答えた。

 工事原価が7%上昇すれば影響は大きい。ゼネコン売上高上位10社の2017年3月期連結決算で試算すると、売上高と販管費が変わらず工事原価が7%増えれば7社が営業減益、3社が営業赤字に転落する。日建連の山内隆司会長(大成建設会長)は「生産性向上でコストアップを吸収する努力を重ねていきたい」としつつ、「必要な経費は請負代金に反映させる」と強調する。

 建設業界の動きに発注者側の不動産業界は反発している。不動産協会の菰田正信理事長(三井不動産社長)は「建設業の働き方改革に協力する」としたうえで「生産性向上や重層の下請け構造など、建設業がきちっと取り組みを進めることが大前提」とくぎを刺す。

 建設会社と不動産会社の関係は12年頃から変わった。かつては供給過剰を背景に建設会社が不動産会社に買いたたかれるケースが目立ったが、震災復興や五輪需要などを受けて建設会社が価格交渉で優位に立つ場面が増えた。今回の週休2日制移行を建設業界が持ち出したのもその延長線にあるとの見方もある。

 大和証券の寺岡秀明シニアアナリストは「値上げが始まるのは早くて21年3月期だが、どこまでコストに影響するか不確定要素が多い」と話す。焦点は建設需要の動向だ。東京五輪後に需要をどの程度確保できるかどうかで両者の価格交渉力が変わり、業績にも影響してくる。(大西康平、和田大蔵)



頂は8兆円訪日消費倍増の道(下)「観光公害」乗り越えろ新税、使い道 見えにくく 2017/11/17 本日の日本経済新聞より

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 秋の行楽シーズンまっただ中の街角にため息が漏れた。訪日客急増を受けて、JR京都駅発の市営バスは、乗るまでに時に50人以上の列ができる。「5本見送ることもありますよ」。京都市内に住む40代の男性会社員は話す。混雑の度合いも、東京の通勤ラッシュ時に引けを取らない。

訪日客増のあおりで市営バスには長蛇の列ができる(JR京都駅前)

 京都府を訪れた外国人観光客は2016年時点で661万人となり、15年比で4割増えた。地元経済にとってうれしい悲鳴のはずなのに、日常生活を送る人からはこんなつぶやきも出始めた。「観光公害」――。

 観光地・祇園を含む東山地区で最近、ホテルや旅館、ゲストハウスなど正規の宿泊施設ではなく、ワンルームマンションに消えていく訪日客の姿が大幅に増えた。認証事業者を通さないヤミ民泊。ある旅館の関係者は「数は分からないが、おかげで稼働率が落ち始めた」と漏らす。

 京都市は来秋から宿泊税を導入する。日本人も対象にし1人1泊200~1000円を宿泊代に上乗せする。新税導入でヤミ民泊のあぶり出しや取り締まり強化の効果も狙うが、客足が伸びる中での負担増が観光需要に響きかねない。とかく「税をとって、使い道をどうする」という要の視点が見えにくい。

出国税で負担増

 日本から出国する人に課す新税「観光促進税」(出国税)の早期導入に傾く国も、スタンスは同じだ。

 19年度にも導入し、訪日客だけでなく日本人も対象とし、1人1000円を求めることで固まってきた。ではその先は。400億円ほど税収が増えた分を「地域の文化をいかした観光政策」や「出入国管理の強化」などに振り向けるというが、今のところ、これまでの関係省庁の予算の拡充にしか映らない。

 観光庁の17年度予算は200億円ほど。国全体の観光関連予算は15年度時点で3千億円を超えており、法務省、文化庁、農林水産省などがそれぞれ観光庁と似通った事業を抱える。

 例えば法務省はすでに出入国審査の充実に向けた予算がある。新税が観光を名目にした負担増やバラマキにつながりかねない。14日の自民党の観光立国調査会でも「野放図な歳出(拡大)につなげてはいけない」とクギを刺す声が出た。

予算配分明確に

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの塚田裕昭氏は「20年の旅客目標は射程圏内でも8兆円目標は厳しい」と話し、少なくとも政府は「いろいろな国の人が長く滞在できるような環境整備に予算を回すべきだ」と続ける。厳しい財政事情に考慮しつつ、いまある3千億円ほどのお金に新税の分を加え、目標達成に向けた「最適な配分」の絵を示す必要がある。

 観光業は人口減に直面する日本にあって、数少ない成長産業といえる。国際観光収入が世界で最も多い米国は年間20兆円を稼ぎ、日本の目標の約3倍を手にした。フランスも体験を楽しむ「コト消費」のメニューを充実させ、年8千万人を超える観光客が訪れる。5合目の今、明快で具体的な戦略をもう一度練り上げる時期が来た。

 馬場燃が担当しました。



第1部 異次元の領域(4)やまぬ「利回り狩り」逃げ水の果実、 揺らぐ年金 2017/11/17 本日の日本経済新聞より

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 「ゼロでも御の字」。大手銀行幹部は独立行政法人、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が9月に実施した資金調達の入札を振り返る。落札した金融機関は金利「ゼロ%」で札を入れた。

バンクーバーの高層マンションは住人のいない部屋が多い

 日銀がマイナス金利を導入して2年近くがたつ“緩和先進国”の日本。日銀に預けていては損になる銀行にとり、政府保証がつくJOGMECへの融資はだぶつくマネーの置き場としてもってこいというわけだ。

債務不履行でも

 プラスの利回り消滅は欧州でも鮮明だ。スイス、ドイツなど信用力の高い国のほかスペイン、アイルランドなどかつて債務危機にあえいだ国も期間の短い国債の利回りはマイナスだ。

 米国も長期金利は2%半ばで低いまま。景気拡大の持続力は不透明な上、米連邦準備理事会(FRB)議長に来春就くパウエル氏は利上げを急ぎそうにない。10年物米国債と2年物の利回り差は1%もない。横に寝た利回り曲線が右肩上がりに起きる兆しはない。

 イールド・ハンター。カネ余りは世界中で少しでも高い利回りを求める「狩人」を生んだ。アルゼンチンが6月に出した100年国債は募集の3.5倍の応募を集め瞬間蒸発した。過去200年で8回の債務不履行との不名誉な歴史も、7%超の「高利回り」を前には顧みられなかった。落札者には世界最大の運用会社米ブラックロックなどの名がささやかれる。

「4.5京円が不足」

 「この2棟は48時間で完売した」。カナダ、バンクーバー。タクシー運転手のファザーリさんは高層棟を指して話す。主な買い手は中国など海外勢で、住民不在の物件は治安に影を落とす。州は外国人の取得に上乗せ課税するようにしたが相場の騰勢は止まらない。

 2016年末の世界の資産運用残高は70兆ドル(約7900兆円)。年金資産増や新興国の所得増で、残高は金融危機前の07年から5割増えた。世界の国内総生産(GDP)とほぼ同規模に膨らんだ資産残高は、金融のプロの手に余る奔流となって市場にのしかかる。

 50年には日米中など8カ国で退職後に必要な貯蓄が400兆ドル(4.5京円)不足する――。世界経済フォーラムは一段の長寿や今の60~70歳の退職年齢を前提にこうはじく。米国では債券の運用利回りが過去平均の実質3.6%からこの先は同0.15%に下がる見通しで、こうした利回り低下が貯蓄不足を膨らませる。年金や雇用の制度見直しは全世界で待ったなしだ。

 「将来への備え」と消費を抑え資産運用にお金を注げば注ぐほど利回りは下がり、見込める果実は細る。未曽有の規模の年金マネーが逃げ水を追い続ける。



頂は8兆円 訪日消費、倍増への道(上) 実るか「超 オモテナシ」 2017/11/16 本日の日本経済新聞より

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 訪日外国人の消費額が今年初めて4兆円を超えそうだ。中国人観光客らによる爆買いは一服したが、足元では堅調だ。政府の最終目標は2020年に今の2倍の8兆円だ。夢物語にさえ映るこの目標に向けて、現在地と課題を探った。

 11月上旬、東京・渋谷の料理教室に笑顔がはじけた。「マユコズリトルキッチン」は訪日客向けの料理教室で、オーナーの岡田真由子さんの自宅で一緒に日本食を作る。

■見え始めた天井

 この日のメインは巻きずしと豚のしょうが焼き、初めてダシからとった味噌汁に「自分で作るととてもおいしい」との声があがる。カナダから親子3人で参加したエイプリール・ヘネガーさんは、日本流のおもてなしに感心しきりだった。

 

日常生活の再現が「コト消費」につながる(東京都渋谷区のマユコズリトルキッチン)

費用は1人あたり1万1千円で、参加者は日本の料理や観光の話題で盛り上がる。人気はスシ、ギョーザ、お好み焼き。口コミ旅行サイト「トリップアドバイザー」ではおよそ500人が最高評価の5点を投じ、欧米からの予約が相次ぐ。岡田さんは料理を通じて「普通の日常生活を体験してもらいたい」と語る。

 訪日客の動向はその数も消費額も見かけのうえでは好調だ。客数は11月4日で16年の2403万人を突破した。消費も1~9月で3兆円を超え、16年の同じ時期より15%伸びた。

 ただ内実には壁と天井がちらつく。

 8割強のアジア勢のほとんどが団体客で、個人客よりお金が落ちにくいとされいずれ伸びは陰る。実際に何に使ったかも依然買い物が最も多く、「娯楽・サービス」は全体の3%どまりだ。岡田さんのような「コト消費」を喚起する取り組みは広がっていない。

■動き出す「1泊100万円」構想

 

「従来の観光では問題解決にならない」。観光庁が10月末に開いた訪日消費に関する検討会で、田村明比古長官はこのままでは目標の8兆円達成は難しいとの認識をにじませた。

 訪日消費は現在1人あたり約15万円で、目標にはさらに消費を積み上げて、20万円に引き上げないと届かない。国に妙案は乏しいが、地方には「超」がつく独自のおもてなしに動く企業もある。

 鹿児島県霧島市の温泉リゾート施設「天空の森」。JR九州の豪華周遊列車「ななつ星」が立ち寄ることでも人気を集める。東京ドーム13個分に相当する60ヘクタールの敷地にある宿泊施設は3棟しかない。料金は1泊で1人15万~25万円だ。

 オーナーの田島建夫さんは10億円弱を投じ、25年をかけて今のリゾート施設に仕立てた。昨年、海外の富裕層が3泊で400万円を使い、大自然の中でゆっくりと過ごした。

 田島さんは「地域の個性を最大限にいかし新たな観光のスタイルを打ちだす」と意気込む。来春、プライベート機による送迎や有名シェフの料理なども加えた「究極の貸し切りサービス」を始める予定だ。「1人1泊で最低100万円」の構想が動き出した。

 消費8兆円へ種はある。あとは芽吹き実るか。官と民の知恵と工夫で、金額と客層の裾野を広げなければ頂にはたどりつけない。時間はあと3年しかない。



一目均衡 「灰色のサイ」を手なずけよ 証券部 土居 倫之 2017/11/14 本日の日本経済新聞より

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 2008年のリーマン・ショック後、「ブラックスワン(黒い白鳥)」という例えが金融・資本市場で盛んに言われた。成長と金融緩和が併存する「ゴルディロックス(適温)相場」が広がる今、市場では「灰色のサイ」が意識されている。

 ブラックスワンは確率は低いが、起きたときには市場に甚大な影響を及ぼすリスクのこと。黒い白鳥はめったに現れないことに由来する。

 一方、灰色のサイは、高い確率で存在し、大きな問題を引き起こすにもかかわらず軽視されがちな問題を指す。サイは灰色が普通で、普段はおとなしい。だが暴走し始めると誰も手を付けられなくなる。米国の作家、ミシェル・ワッカー氏が著書「グレー・リノ(灰色のサイ)」で示した。

 世界の金融当局者で灰色のサイに触れたのは、おそらく中国が初めてだろう。「ブラックスワンの出現だけではなく、灰色のサイのリスクも防がなければならない」。中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は4日、こんなメッセージを出した。

 周氏が考える中国の灰色のサイは、高成長の代償として積み上がった膨大な民間債務だ。国際通貨基金によると、金融を除いた中国の民間債務の国内総生産比率は2016年に235%、22年には290%に達する見通し。その水準の高さは中国経済崩壊論の論拠のひとつとされ、当事者で退任を間近に控える周氏も強い警告を発する。

 灰色のサイは世界のあちこちにいる。日本の場合は人口減少・少子高齢化だ。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、40年の日本の総人口は1億1000万人、65年には8800万人となる。うち38%に当たる3380万人が65歳以上の高齢者だ。医療費や年金など社会保障費用の急増や経済成長率の一段の低下は免れない。人口減社会は静かに訪れるが、ひずみは一気に噴き出す。

 欧米では、所得格差の拡大や固定に対する国民の反感がポピュリズム(大衆迎合主義)を招いた。

 中国の習近平(シー・ジンピン)総書記は党大会で確固たる権力基盤を確立した。日本では安倍晋三首相が10月22日の衆院選で圧勝し、政治基盤を固めた。

 安倍氏を「先進国で最も強い政治リーダー」と評価する米ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長は、「安倍首相は人口減少に対処するために移民の受け入れという政策を決断すべきだ」と提言する。

 日経平均株価は約26年ぶりの高値水準に上昇してきた。世界の投資マネーが業績が好調な日本株になだれ込んでいる。突発的なリスクとして考えられるのは北朝鮮問題ぐらいだろう。

 だが適温相場は「ぬるま湯」と同義だ。せっかく強い権限を持ったリーダーが現れても、その心地よさが灰色のサイという構造問題の解決を先送りさせるインセンティブ(誘因)になりかねない。



モネータ 女神の警告 空前のカネ余り、世界翻弄 2017/11/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「モネータ 女神の警告 空前のカネ余り、世界翻弄」です。





 「100年に1度」といわれた2008年のリーマン危機。中央銀行の大胆な金融緩和や財政出動で世界は危機を脱し、震源だった米国は今や戦後最長となる10年の景気回復も視野に入れる。一方で出回るお金の量が未曽有の規模に膨らんでも、日米欧は物価の足取りが鈍い。世界経済は空前の低金利とカネ余りに向き合う未知の局面を迎えた。

 歴史上で最も低い長期金利とされてきたのは、1619年にイタリアの都市国家ジェノバで付けた1.125%だった。1990年代後半、デフレに突入した日本が379年ぶりに最低記録を更新。そこから世界は低金利時代に突入した。今や日銀は長期金利を「ゼロ」に誘導している。

 金利は今と将来の価値をつなぐ「お金の値段」だ。経済活動が温まると借り手が増え、借り賃にあたる金利も通常は上がる。15~17世紀の大航海時代や18世紀の産業革命期、第2次大戦後の高度成長期には、経済の急激な伸びにつれて金利が高まる場面がみられた。

 今起きているのは経済の成長規模をはるか上回るペースのマネー増殖だ。企業の資金余剰が進み、中銀が金利を引き下げても設備投資など実需が十分に喚起されない。

 16~17世紀ジェノバで金利低下が進んだのは「山の頂まで耕作され投資先が消滅したことが一因」(水野和夫法大教授)だった。1.125%を付けた金利はその後短期間に6%程度まで急騰した。低金利に我慢できなくなった投資家が他に逃げ出したためとされる。

 米欧が金融緩和の修正に動くなか、足元の低金利がこのまま続く保証はない。SMBCフレンド証券の岩下真理氏は「バブルと戦ってきた歴史を振り返れば壮大な実験が進んでいる」と話す。そのさなかに、トランプ米大統領はリーマン危機の反省から導入した金融規制の緩和を検討中だ。膨張マネーとどう向き合うのか、危機10年を前に問われようとしている。

日米欧企業、貯蓄年50兆円

 企業は稼いだ現金を機械や設備といった実物資産に投じ、足りなければ借金をする。残った資金を将来のために預金や有価証券として貯蓄したり、借金返済に充てたりする場合もある。1990年代までは投資が優先され、貯蓄水準を上回るのが常だった。

 90年の後半以降、まず日本企業に変化が起きた。人口減少による国内市場の縮小を見据えて投資を抑制した。輸出で潤い利益が増えたドイツ企業でも貯蓄が目立つ。近年では米国企業も貯蓄超過になり、日米欧の企業の貯蓄を合計すると、2010~15年の平均で年50兆円にのぼる。

 世界的な企業の貯蓄増加の原因について、米ミネアポリス連邦準備銀行は3月公表のリポートで「グローバルに活動する多国籍企業の利益が膨らみ貯蓄が増えた」と指摘した。低賃金国での生産などで人件費が下がった分、貯蓄に回っているという。

 米アップルやアルファベットのような莫大な利益を生む世界的な寡占企業の誕生や、設備に必要な金額の低下、研究開発費への備えを原因とする分析もある。

 本来は銀行を通じて家計からお金を借りる主体だった企業まで貸す側に回っている。金融市場にカネ余りをもたらし、お金の価値である金利の低下につながっている。

「緩和→物価高」崩れた図式

 中央銀行が緩和マネーを市場に流し込んでも物価の上昇につながらない――。景気が上向く中でも、日米欧の期待インフレ率は伸び悩んでいる。カネ余りがインフレ圧力を高めるという一般的な図式があてはまらない。

 インフレ期待をみる指標の一つに債券市場のブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)がある。国債の利回り(名目金利)から、消費者物価指数(CPI)に応じて元本が増減する物価連動国債の利回り(実質金利)を引いて求める。物価の先高観が強まるとBEIは上がる。

 日本のBEIは日銀の異次元緩和後の2013年5月に2%近くまで浮上したが、その後は低下基調をたどり、今は0%台半ば。米国のBEIも13年以降は上値が重い。ユーロ圏も期待インフレ率の代表的な指標が停滞している。

 みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長は「循環的なインフレ圧力と構造的なデフレ圧力がせめぎ合っている」と話す。ネットで価格を比べやすくなり、値上げのハードルは上がった。機械化や人工知能(AI)の普及は賃金の上昇力をそいでいる。

 中銀がマネーを供給すれば物価は上がるという単純な議論は、金融危機後の大規模緩和という壮大な「社会実験」に否定されつつある。

不動産ファンド巨大化

 鈍い物価上昇の下でよどむマネーは投資の「水たまり」を生んでいる。一つが不動産市場だ。債券で運用利回りを稼げなくなった年金や機関投資家が不動産に目を向け、資金を預かるファンドは巨大化している。

 米フォートレス・インベストメント・グループが雇用促進住宅を政府から600億円で取得するなど、日本でもファンドの購入が活発になっている。米指数算出会社MSCIによると、ファンドなど運用のプロが抱える不動産の価値総額は2016年末で7兆4413億ドル(約800兆円)と、直近で最少の09年末より21%増えた。

 不動産サービス大手のジョーンズラングラサールによると、主要都市の優良不動産の利回り(賃料収入を取得価格で割った値)は2.9~3.5%。取得価格が上がった結果、リーマン危機前に投資が活発だった07年の3.2~5.1%を下回った。利回りを求めて膨れあがった投資が、利回りを押し下げた形だ。

 世界的な低金利で、投資のための借金の利払い負担は軽い。そのため、投資利回りから利払いを引いた最終利回りは、まだ投資魅力があると考える投資家が多い。リーマン危機前に比べ、低い利回りを許容する長期マネーの割合が高まっている側面もある。



複眼 捨てられる不動産どう解決 2017/11/14 本日の日本 経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「複眼 捨てられる不動産どう解決 」です。





 持ち主が分からない土地、増え続ける空き家、再開発が思うに任せないまま進行する「都市のスポンジ化」……。かつての「土地神話」が崩れた日本では、有効利用されない資産が経済成長の足かせになりつつある。人口減少時代の「捨てられる不動産」に、我々はどう向き合うべきか。

◇  ◇

■登記の義務化 罰則も 元総務相 増田寛也氏

 誰の所有かわからない土地があり、道路建設などの支障になっていることは、岩手県知事の頃から認識していた。問題が顕在化したのは東日本大震災後だ。高台に移転用の宅地を整備しようと思っても土地所有者がわからず、進まなかった。こんな状態で万一、首都直下型地震が発生したら東京はどうなるのか。そんな問題意識があり、民間有識者で研究会を立ち上げた。

 地籍調査などのデータをもとに地目ごとに分類・推計したところ、所有者が不明な土地は2016年時点で九州の面積を上回る410万ヘクタール程度あるとわかった。40年には約720万ヘクタールと北海道本島に近い面積まで増えかねない。

 人口減少と少子化で使い道のない土地が増えたうえ、地価は上がるという土地神話が崩れたことが問題を深刻にした一因だ。土地を持っていると税金がかかるし、維持管理するように求められるから、相続時に登記しない人が増えた。世代交代する度に相続人が枝分かれし、誰か1人でも行方不明になると、その土地全体が利用できなくなる。

 所有者を把握する手段として不動産登記があるが、民法学者によると、登記は第三者に対して所有権を示す制度で現時点での所有者を表す台帳ではないという。登記簿には2億3千万筆の土地が記載されているそうだが、所有者が死亡している場合がかなりある。自治体が固定資産税を課税する際に使う台帳も、小さな土地は対象にしていない。

 対策としてまず考えられるのは不動産登記を義務化し、罰則も設けることだ。それが難しいなら、フランスのように土地取引をする際に必ず資格者を通す仕組みにすれば、登記が今よりも進む。代わりに登録免許税は下げ、手続きに必要な手数料も安くする。相続放棄された土地を預かる受け皿も考えるべきだろう。

 所有権と切り離して、利用権を設定することも考えられる。農地や山林ではすでにそうした仕組みがあり、宅地にも広げる。後日、所有者が名乗り出た場合は金銭の支払いで解決する。そのためにも新法をつくって、土地所有者には管理する義務があることを明記すべきだろう。義務を果たしていないから、所有権を制限したと整理すればいい。

 利用権を設定できる対象は国や自治体の事業に限定せず、民間の事業にも広げるべきだ。公共性があるかどうかで判断すればいい。首都直下型地震の後に素早い復興に取り組むためにも、あらかじめ要件を広げた方がいい。

 最終的には土地情報を一元化した新たなデジタル台帳を整備すべきではないか。登記簿の情報のほか、不動産鑑定士や司法書士の協力も得て、「地理空間情報」に所有者を書いていく。それをマイナンバー制度とも結びつける。

 空き家では、利用可能な物件は例えばシェアハウスや外国人向けの宿泊施設などに活用する。老朽化が著しく、所有者がわからない物件は土地と一体で考えることになる。

 これから多死社会に入り、相続放棄が増えれば手遅れになる。残された時間はせいぜい十数年。今ならまだ間に合う。

(聞き手は谷隆徳)

 ますだ・ひろや 77年東大法卒。旧建設省を経て95年から岩手県知事を12年務めた。自民党政権で総務相。現在は野村総合研究所顧問のほか、東大客員教授などを務めている。65歳

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■機能集約で地価向上を 三菱地所執行役専務 谷沢淳一氏

 不動産事業で土地の所有者が分からず隣地との境界を画定できない問題は、現実に起きている。現在の案件はたまたま地方が中心だが、今後は東京や大阪などの都市圏でも発生しうる。最近では再開発事業が活発だが、権利変換の際に土地の特定ができないという事態から開発スケジュールが滞るケースもある。

 相続を繰り返したことで所有者が分からない土地はねずみ算的に増えている。最近は先祖伝来の土地という意識も薄くなった。解決策としての登記の義務化は中長期的には必要だと思うが、所有者は資産価値が無い土地に費用をかけてまで登記はしたくない。自治体による地籍調査にしても膨大な労力と費用がかかるため難しい。まずは不明土地をこれ以上増やさないという視点で、できる部分から手をつけることが大事だ。

 仲介手数料の見直しはその一つになる。現在は一定の範囲で決められているが、仲介者は資産価値の低い不動産については動いてくれない。手数料を多くして諸経費に上乗せできるなど、そういう制度変更があればいいと思う。

 また閲覧制限がある固定資産課税台帳について一定のルールに基づき情報開示できる仕組みを考えてはどうか。当社の地方での再開発案件で所有者が分からない雑草が生い茂った土地があり、自治体に台帳を調べてほしいと頼んだが、個人情報の関係で断られたケースもあった。台帳を見ればかなりの確率で所有者が判明する場合がある。管轄権が異なる農地基本台帳などを含めて縦割りをなくし、連携できればかなり解決する。

 不在者財産管理制度でも実際に使えるケースは限られているうえ、いざ制度を利用しても裁判所が入ると半年も時間がかかる場合がある。そんな時間的な問題を解消する取り組みも必要かもしれない。

 民間企業としては市場性がある不動産については様々な面で貢献できる。問題が顕在化している空き家についてもリフォームをすることで、物件そのものだけでなく、空き家がないことで周辺の資産価値を高められる。資産価値の向上につながる住宅や商業施設、病院や大学などを集積したエリアマネジメント、コンパクトシティ化の取り組みについても民間デベロッパーはノウハウを持つ。様々な機能を集約して街のダウンサイジング化を進め、地価を高めれば、結果的に不明土地が増えないということになる。

 不明土地を増やさない取り組みに加え、土地を所有するのではなく利用するという観点も大事だ。民間企業が市場性がないと判断しても、地元の人が使いたがる土地というのは必ずある。イベントを開催する広場として暫定的に活用するなどの使い方もあるかもしれない。地方自治体がNPO法人などを活用しながら利活用を進められればいい。

 米国では公共団体が使われていない土地の利用権を付与する「ランドバンク」という制度がある。管理放棄された土地を公共団体が希望者に売却したり、リースしたりする仕組みだ。日本では難しい面もあるだろうが、一考する価値はあるかと思う。

(聞き手は加藤宏一)

 たにさわ・じゅんいち 81年東京都立大(現首都大学東京)経卒、三菱地所入社。ビルアセット開発部長や経営企画部長、常務執行役員などを経て17年4月から現職。59歳

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■人口減の直視 なお不足日本大学教授 中川雅之氏

 日本の都市政策や住宅政策は大きな転換点にある。日本の空き家率は13.5%にのぼるという調査が2014年に発表された。それ以来、まず空き家問題がクローズアップされるようになってきた。

 空き家が増えると、草木が繁茂して景観を損なったり、治安が悪くなったりするという直接的な問題が出てくる。だが、それ以上に「人口減少社会の中で都市がうまく縮小できていないのではないか」という問題意識で注目されるようになっていると思う。

 日本の新築住宅着工数は1980年代には年間170万戸にのぼった。今は年間90万戸とほぼ半分になったが、人口1万人当たりの住宅数でみると日本は欧米よりはるかに多い。人が減っているのに、住宅が過剰に供給され空き家を発生させている。日本の不動産市場が、縮小社会に対応できていないことの表れだ。

 都市の縮小に向かい合うのは日本が初めてではない。旧東ドイツはベルリンの壁が崩壊した後、急激な人口流出に見舞われた。空き家が大量に発生したことを受けて、街の縮小政策を進めた。自治体と開発事業者、市民らが協定を結び、家を計画的に壊したり、空き地を緑地やコミュニティー拠点に活用したりした。

 日本もそんな縮小政策が必要になってきたが、成果を上げられていないのが現状だ。

 危険な空き家を自治体が取り壊せるとか、将来の人口減を見据えて病院や学校などの公共施設を再配置するといった政策はそれなりに出そろいつつある。だが、分権化の流れもあり、すべてのトリガー(引き金)をひくのは市町村だ。彼らがそれを使いかねていることに問題がある。

 例えば、コンパクトシティーを目指すための「立地適正化計画」。「ここは住宅地として位置づけるけれども、その他のところは移転してください」とお願いするような仕組みだ。しかし住民や開発事業者が反発すれば、市町村側はちゅうちょしてしまう。住民との距離が近い市町村には痛みを伴う改革は難しい。

 今ある様々な政策メニューを、いつどうやってどの自治体が使うべきなのか。国や都道府県など市町村より上のレベルで、人口推計などをもとに客観的な基準を定めるほうがいいのではないだろうか。

 もう一つ重要なのは、国も自治体も、これからの人口減少に正面から向き合えていないという事実だ。

 政府が掲げる「地方創生」は「地方の消滅を防げ」という掛け声から始まった。地域を活性化しなければいけないという問題意識はわかるが、地域活性化という一発逆転ホームランを打てれば、人口減少に向かい合わなくていいとの意識が潜んでいると思う。自治体ごとの地方創生戦略をみても、高めの出生率を想定しているところが多い。

 だが今後すべての地域で人口が増えていく状態は考えにくい。それなのに自分の街の人口が減ることに、市町村はいまひとつ向き合えていない。国は地方創生という名の下にバラマキを続けている。こんな意識では都市を縮めることはとうていできない。

(聞き手は福山絵里子)

 なかがわ・まさゆき 京大経卒。旧建設省、国交省まちづくり推進課都市開発融資推進官などを経て04年から現職。空き家問題や都市政策が専門で国の審議会委員も歴任する。56歳

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〈アンカー〉今こそ現代版「検地」の時

 全国の住宅の8戸に1戸は空き家で、空き地は香川県の面積の8割に相当する。九州の広さに相当する土地は所有者すらわからない。日本の様々な制度や政策がいい加減だったとしか言いようがない。

 地方は中心部すら駐車場だらけなのに郊外開発が止まらない。都市部でも老朽化した家屋を放置し、周辺農地に住宅が建っている。海外では土地取引要件に登記を義務付けている国が少なくないが、日本の登記制度は穴だらけだ。

 日本のように国土の半分程度しか地籍調査が終わっていない国は先進国では少数派。谷沢氏や中川氏が指摘する街の「縮小政策」を進めるためにも、増田氏が言う土地情報を一元化したデジタル台帳が必要だ。できない理由を並べるのはやめ、戦国時代の豊臣秀吉ではないが、現代版の「検地」に今すぐ取り組むべきだ。

(編集委員 谷隆徳)



迫真 安倍1強再び(1)不満のマグマ圧勝に死角 2017/11/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 安倍1強再び(1)不満のマグマ圧勝に死角」です。





 「これはちょっと言い過ぎだな」。衆院選で与党3分の2を得た首相、安倍晋三(63)は第4次内閣発足の1日の記者会見を前に頭を悩ましていた。

第4次安倍内閣が発足し、記者会見に臨む安倍首相(1日、首相官邸)

 事務方が用意した原稿は野党に大差をつけた圧勝を強調する内容だった。圧勝に言及して政権の推進力とするか、謙虚な姿勢を示すか――。安倍が選んだのは、会見の冒頭で「謙虚」「真摯」に触れつつ、「これまで3回の中で最も高い得票数によって自民党は信任された」と語る案だった。

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 自民党が先の衆院選で得た得票数は小選挙区2650万票、比例代表1855万票。事前の「議席減」の予想にかかわらず衆院解散に踏み切り2012年や14年の衆院選を共に上回る票を得たことは安倍の政権基盤強化を意味する。「人間、勝負しなくちゃいけないときはいちかばちかだ。勝負してよかった」。安倍は周囲に自負する。

 「この前の選挙はすごかったな。ちょっと心配したけど、全然大丈夫だった。本当にすごい」。5日午後の埼玉県の霞ケ関カンツリー倶楽部。米大統領のトランプ(71)からゴルフプレー中にほめられると「最近は私はついているんですよ」と応じた。

 政策決定は「安倍1強」が続く。「頑張っているところにはしっかり報いますから」。安倍は9日、旧知の日本医師会会長、横倉義武(73)を首相官邸に招き、診療報酬改定について伝えた。年末に予定する診療報酬改定は社会保障費の抑制策の柱だ。しかし安倍の横倉への配慮をくみ取ったのか、財務省には医師の人件費などにあてる「本体部分」に切り込もうとする動きは乏しい。

 安倍1強に死角はないか。安倍を見る自民党の視線には厳しさも漂う。

 「副総裁は議員でなくてもできるんですよね」。安倍は解散を表明した9月25日、衆院選の不出馬を決めた副総裁の高村正彦(75)に早々に続投を要請した。11月8日には郵政民営化で自民党を除名された元参院議員の荒井広幸(59)と先の衆院選で落選した元農相、西川公也(74)を内閣官房参与に起用。安倍に協力的な元議員が次々とポストを得ることに、党幹部の一人は「やり過ぎだ」と憤る。

 9日の二階派の派閥会合。元衆院議長の伊吹文明(79)が「安倍さんの『あらゆることに謙虚』という発言はよかった。でも、謙虚というのは体を表さないといけない」と話した。安倍が衆院選で打ち出した2兆円の政策パッケージは官邸主導で進んでおり「これでは結果的に安倍さんを傷つける。謙虚さが欠けていると言われかねない」と苦言を呈した。

 安倍への不満。それは国会議員が地元で感じ取った安倍への不信から生まれる。

 「あなたに1票を入れることは安倍さんの続投を支持することになる。それはどうも釈然としない」。当選11回のベテラン議員、逢沢一郎(63)は選挙戦で有権者からこうした声を投げかけられた。

 安倍への厳しい風当たりを感じた伊藤達也(56)は街頭演説で「加計学園や森友学園の問題はもっと説明しないといけない」と安倍に注文をつける発言を繰り返した。

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 衆院選の圧勝は野党の敵失にすぎない――。こんな党内の見方を敏感に感じ取った筆頭副幹事長の小泉進次郎(36)は11月2日、党本部で衆院選の「反省会」を開催。「今回の自民党の勝利は、理屈ではないところでもたらされた産物だ」と総括してみせた。

 安倍が宿願の憲法改正に突き進めば、さらに党内の風当たりは強くなりかねない。政権内で有力視される憲法改正のシナリオは、19年夏の参院選を控えた同年1月召集の通常国会で発議する案だ。

 元幹事長の石破茂(60)は「持論を引っ込めるつもりは毛頭ない」と漏らす。安倍が提案した9条に「自衛隊」を明記する案への異論だ。石破派は20人規模にとどまるが、党内の不満の受け皿となれれば、安倍を脅かす可能性も否定できない。

 「9条以外の多くの党が賛成する所からお試しで改憲する形ならよかったが、9条を外すと安倍の支持母体が黙ってないはずだ。安倍はむしろ追い込まれた」。元自民副総裁の山崎拓(80)はこう指摘する。

 堅く見える政権基盤の底には不満のマグマも流れる。安倍1強には強さと弱さが交差する。

(敬称略)

 衆院選で自民党が圧勝し「安倍1強」の構図が続く。与野党への波紋を追う。



保護主義の防波堤に 2017/11/12 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「保護主義の防波堤に」です。





 世界経済の中心となった東アジアを舞台に、目に見えない陣取り競争が進んでいる。モノの貿易や投資だけでなく、経済価値の源泉となったデジタル情報を自国内に囲い込もうとする新たな保護主義との戦いだ。

 11カ国の環太平洋経済連携協定(TPP)の本質がここにある。焦点は自動車や農産物などの市場開放でなく、21世紀型の通商ルールだ。情報の流れは国境を越えて自由であるべきではないか。その原則を多国間協定で定めた意義は重い。

 米トランプ政権は2国間のモノの貿易赤字額をあげて、相手国に関税撤廃を迫る。20世紀型の通商政策に回帰する米国と対照的に、日本と東南アジア各国は、情報が主役のあすの通商を見据えていた。その気づきをもたらしたのは中国だ。

 モバイル決済などでグローバルなプレーヤーはアジアでアリババ集団と騰訊控股(テンセント)くらい。いずれも自由な情報流通を遮断された「万里の長城」の内側にある中国企業である。

 その中国は6月、「インターネット安全法」を施行。ネット企業に情報提供を求める権限を政府が握る。技術革新を生むビッグデータは中国内に蓄積し、政府の管理下に置かれる。ベトナムやタイなど、デジタル保護主義のドミノ現象がアジアに広がり始めている。

 中国の「一帯一路」構想は表看板こそインフラ整備だが、TPPに対抗する経済圏づくりの通商政策でもある。電子商取引などで独自ルールを築くのも狙いの一つだ。

 ルールのひな型となるTPPは、どこまで世界に共有されるか。11カ国の経済圏は元の構想の3分の1にすぎない。空席をつくり米国の復帰を待つ期待感こそが、大筋合意の原動力だった。一帯一路に引き寄せられながらも、透明な競争による市場秩序を築きたい。浮かび上がったのは、アジア各国の本音である。

(編集委員 太田泰彦)



真相深層 中韓再接近の裏に韓国「3不」原則 日米とズレ も 2017/11/11 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 中韓再接近の裏に韓国「3不」原則 日米とズレも 」です。





 米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備で関係が冷え込んでいた中韓両国による電撃合意は、北朝鮮の核・ミサイル問題で世界中の耳目が集まるトランプ米大統領のアジア歴訪直前のタイミングに合わせられた。中韓再接近の動きは、日米韓VS中国を軸とする東アジアのパワーバランスに変化を及ぼしかねない。

米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備は中韓関係を冷え込ませた=AP

 「仕掛けがあるはずだ」。10月31日、関係修復をうたった中韓の合意文を読んだ外交専門家はすぐにいぶかしんだ。「THAADは中国の安全保障を損ねない」などと盛られた内容は韓国の従来の主張にすぎない。「16カ月ぶりのトンネルからの脱出」(中央日報)にしてはあっさりしており、中国政府の突然の軟化への疑念は消えない。

 読み解くカギは前日の韓国国会の答弁にある。政府の安全保障政策をただす与党議員の質問に、康京和(カン・ギョンファ)外相は3つの原則を挙げた。▼THAADの追加配備をしない▼米国のミサイル防衛(MD)システムに参加しない▼日米韓安保協力は軍事同盟に発展しない――。「3不」原則と呼ばれる。

 3カ月に及ぶ韓国大統領府と中国外務省の折衝は文書でなく韓国外相が公開の場で口頭で説明する形で折り合った。国会で質問した与党議員は親中派で知られ、この直前に中国を訪れていた。

 10日に政権発足から半年を迎えた文在寅(ムン・ジェイン)大統領には中国との合意を急ぐ必要があった。最大の理由は、残り100日を切った平昌冬季五輪の開幕式に習近平(シー・ジンピン)国家主席を出席させること。それをテコに北朝鮮の五輪参加を引きだし「平和オリンピック」を演出する狙いがある。

 「3不」原則を受け、中国はアジア太平洋経済協力会議(APEC)での中韓首脳会談の開催に応じ、文氏による年内訪中の調整にも入った。韓国を取り込み、「日米韓」連携の結束を弱められれば外交・安全保障のメリットは小さくない。

 文氏は早速、3日のシンガポールメディアとのインタビューで中国の重要性を力説した。「米国との関係を重視しながらも中国との関係もさらに深めるバランスの取れた外交をしていく」。北朝鮮問題の平和的解決を訴える中国と足並みをそろえるとともに、安倍晋三首相が掲げる外交戦略「自由で開かれたインド太平洋戦略」にも慎重な姿勢を明らかにした。

 中韓の合意文はTHAADをめぐる中国の報復や韓国の被害には一切触れていない。韓国の保守系からは「屈辱外交」(野党第1党の自由韓国党)、「中国が示した関係改善の『踏み絵』を踏んだ康外相」(朝鮮日報)との批判が強まっている。

 日米韓の安保協力にも不穏な影を落とす。軍事専門家の間では「日米韓の軍事同盟はない」との韓国の発言を、中国が「軍事協力はない」と受けとめ、日米韓にくさびを打つと懸念する声が漏れる。米韓は中韓合意の3日前である10月28日の安保協議で「アジア太平洋地域の平和と安定に寄与するため日米韓の安保協力を強化する」と約束したばかりだった。今後、中国に配慮する韓国と、北朝鮮への強硬姿勢に傾く日米との間でズレが拡大する恐れは否めない。

 文氏は北朝鮮問題での日米韓協力が重要だとしつつ「日本が北朝鮮の核問題を理由に軍事大国化の道を歩もうとするならば望ましくない」と日本へのけん制を強める。中国との関係改善が進めば「韓国にとって対日外交の優先順位が低まり、歴史問題で日本と和解する機運が弱まる」と日韓外交の専門家は分析した。

 朝鮮半島情勢が緊張するなかでの「3不」原則の表明は、トランプ米政権を刺激しかねない。「韓国がその3つの領域で主権を放棄するとは考えていない。外相の発言は確定的なものではないと思う」。マクマスター米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は韓国メディアなどとのインタビューで「3不」原則への見解を聞かれ、こう語った。米国が同盟国などと築く東アジアの安保秩序に中国の干渉を許すことへの危機感がにじむ。

(ソウル支局長 峯岸博)