人口減でも増える労働力 女性の就業率、主要国水準に18年 最多へ壁は20年代 2017/12/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「人口減でも増える労働力 女性の就業率、主要国水準に18年最多へ壁は20年代」です。





 働く人の数が2018年に過去最高となりそうだ。人口が減少する中でも女性やシニアの労働参加率が上昇しているためで、就業者の数は当面、増え続ける見通し。ただいずれ臨界点が訪れ、20年代前半にも就業者の増加カーブが頭打ちになるとの観測も広がる。今後の成長には誰もが働きやすい労働慣行づくりや、人工知能(AI)などによる生産性向上が一段と重要になる。

 主な働き手となってきた15~64歳の「生産年齢人口」は現在、約7600万人。少子高齢化が進み、この20年で約1割減った。主要国の中でも突出したテンポで減少が続いている。

 にもかかわらず実際に働く就業者数は伸び続けている。17年は11月までの平均で6528万人と、前年を約1%上回った。過去2番目の水準だった98年の6514万人を超えるのが確実だ。18年も過去5年並みの伸び率が実現すれば、統計が残る53年以降で最高だった97年の6557万人を突破する可能性が高い。

シニアもけん引

 高度成長期の「いざなぎ景気」を上回る長さで12年末から続く緩やかな景気回復で労働参加が増え、働く意思のある人のうち就業している人はこの5年で急増した。生産年齢人口に対する比率で見ても13年に初めて8割を超え、足元では85%を上回る。

 けん引しているのは女性やシニアだ。15~64歳の女性で働いている人の割合は11月に68.2%と5年前に比べて6.7ポイント上昇し、過去最高水準にある。経済協力開発機構(OECD)によると、生産年齢人口に占める女性の就業率は米国を13年に抜き、主要先進国と遜色ない水準まできた。

 65歳以上の働くシニアの割合も98年以来の高さで、体力が必要で若い人を求めてきた介護現場で働く人も増えている。すでに働く意思を持つほぼ全員が職に就ける完全雇用の状態にある。

 問題は働く人をどこまで増やせるかにある。SMBC日興証券は人口の動きから判断して、最も楽観的なケースで就業者数は6950万人くらいが限界だとはじく。

 息の長い景気回復で各年齢層の労働参加率の上昇テンポが2倍に速まると仮定すると、働く人は年およそ50万人ずつ増やせる。女性の労働参加率が男性並みに高まるという前提だ。ただいずれ女性の働き手も枯渇し、25年をピークにいよいよ減少に転じる見込み。今のような景気回復が続けば「20年代前半に頭打ちになる可能性が高い」(同社の宮前耕也氏)。

 さらに厳しい見方もある。みずほ総合研究所の堀江奈保子氏は「人口減少と高齢化で労働参加率が今後上昇する余地は限られており、20年ごろには減少に転じるとみるのが現実的」とみる。失業率や各年齢層の労働参加率がほぼ変わらないと仮定して推計すると、25年に就業者数は6000万人を割るという。

 働く人の数が減少し始める中で成長し続けるには、従業員1人当たりの付加価値(労働生産性)向上が必要になる。日本生産性本部によると、16年の1人当たり労働生産性はOECD加盟35カ国の中で21位にとどまっている。

 人手不足を受けて企業は省力化の設備投資を増やしている。リクルートワークス研究所によるとAIや機械による労働の代替が進んで労働力が余り、今は24年ぶりの低水準にある失業率が25年までに再び大きく上がる可能性がある。

外国人どう活用

 多くの企業では余剰人員が生まれるため、より成長性の高い分野に人が転職しやすい市場を整備すれば、人材難を緩和できそうだ。より少ない人数で多くの付加価値を生み出せるようになれば収益力は落とさずにすむ。

 大きな課題としては、外国人労働者の受け入れもある。日本で働く外国人は16年10月時点で108万人と5年間で5割以上増えた。ただ留学生のアルバイトや、国際貢献を建前として受け入れている技能実習生が全体の4割を占める。日本総合研究所の山田久主席研究員は「意欲や能力が高い外国人を真正面から受け入れる制度にすべきだ」という。

 共働きの制約となっている配偶者控除など、税制面でも抜本的な見直しが必要との指摘は多い。働く女性を支えるため、男性が育児休業を取得しやすくするような環境も大切だ。年金制度を含む社会保障制度についても、高齢者の就労をさらに促進する方向で改革を進める。労働供給のカベとの闘いは、これからが本番となる。

(福岡幸太郎)



グローバルオピニオン 日中和解を阻む敵意の深層 リチャ ード・マクレガー氏ジャーナリスト・作家 2017/12/29 本日の日本経済新 聞より

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 中国の戦略専門家らは太平洋戦争の終結した1945年から何十年にもわたり、米国の東アジアでの支配的な役割をけん制し、突き崩そうと熟考してきた。中国はすでに多くの選択肢を実行に移している。

Richard McGregor 英フィナンシャル・タイムズで北京、ワシントン支局長。「Nikkei Asian Review」に寄稿。近著に「Asia’s Reckoning(アジアでの審判)」(未邦訳)。

 中国は海洋で、米国に挑戦するため海軍を増強し、南シナ海で軍事拠点化を進める。米国の中国沿岸での偵察飛行にも強く反発する。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国など近隣諸国を(米国陣営から)引き離し、中国中心の新しいクラブに引き込もうとしている。最近の例はフィリピンだ。

 中国がまだ試みていないが、米国の世界での地位までを破壊する選択肢が1つある。日本を長年の米国との同盟関係から引き離すことだ。日本は米国の最も重要な軍事面での同盟国といえる。トランプ米大統領は就任後、安倍晋三首相と親しい個人的関係を築き、日本と緊密な協力を続ける。中国が日本の安全を保証し、少しでも米国との距離を置かせることに成功したらどうなるか、想像してほしい。アジアにおける超大国としての米国の地位は失われてしまう。

 なぜ中国は日本を抱き込もうとせず、敵意をあらわにするのだろうか。中国があえて日本に手を差し伸べようとしないのは、日本が(37年からの日中戦争を含む)戦時中の残虐な行為について謝罪するのを拒否し、中国全体が激怒しているからだという。だが紋切り型の説明では、筋が通らない。中国と日本の和解の障害になっているのは別のものだ。アジアにおける二大大国の間の自然な対抗意識が、戦争の歴史と結びつき、国内政治に埋め込まれてしまった。

 90年代に本格的に始まった中国の容赦ない反日の動きは、中国の国内政治に大きな影響を及ぼした。中国国内が日本の政策に神経過敏になったため、政府高官が純粋に日中の緊張緩和を主張するのは、キャリアを棒に振る行為に等しくなった。

 例えば中国の王毅外相は、政府でも群を抜く日本通で、流ちょうな日本語を話す。だが中傷を避けるため、公の場で日本語を話さないようだ。中国の外交官や学者はだれもが、日本との関係改善を提唱することの危険を知っている。名門の清華大学の楚樹龍教授は「日本について何か前向きの発言をすれば、学生から必ず怒りの反応が返ってくる。ただ私は米国の研究者であるため、世間の意見を気にすることはない。ほかの人と意見が違っても、裏切り者と呼ばれることはない」と語る。

 サイバー空間では、日本に対する敵意が、中国の「裏切り者」を取り上げるサイトにあらわれている。名前があがる人物のほとんどが日本に関連しており、北京と上海の著名な学者や中国の学校で使われる教科書の著者らが含まれているようだ。

 両国の関係に過敏になるのは中国側だけではない。日本では安倍首相も含めた保守派が、戦時中の歴史について修正主義的な見解を示してきた。日本政府内の中国専門家である「チャイナスクール」は対中政策に影響力を持っていたが、中国寄りの態度を示す親中派とみられ、遠ざけられている。

 また日本はしばしば戦争について謝罪しているものの、同じくらい頻繁にベテランの政治家が逆の発言をし、日本の誠意ある姿勢を台無しにする。世界第2、第3の経済大国として世界の貿易の操縦席に座る両国は、対話による安定した一般的な関係を構築することができなくなった。

 中国と日本の長年の緊張は米国にとって大きな意味を持つ。トランプ氏は、戦後70年以上たつにもかかわらず米軍が日本に駐留を続けるのはなぜかと問いかける。もっともな問いだが、簡単に答えられる。日本は自国だけで中国を御しきれないことを知っている。北朝鮮の核を巡る動きが、日本の不安に拍車をかける。

 米国が在日米軍の規模を縮小するようなことがあれば、日本は動揺し、核保有にも動くだろう。動きをみて初めて、中国は日本に対する積年の敵意の代償に気づくのかもしれない。

限られる日本の道

 中国が、日本を長年の米国との同盟関係から引き離そうと狙っている。その懸念は今後、現実味を帯びる。中国共産党大会では、トップを走る米国を2035年に経済で抜き去り、50年には戦争でも勝てる強国になると宣言した。

 順調な成長を経て、それが本当に成功すれば、はざまに生きる日本は選択を迫られかねない。今後も米国との同盟関係を続けるのか、これを解消して中国との協商や同盟といった関係を探るのか、である。

 とはいえ戦後70年、民主主義を享受し、それが定着した日本と、一党独裁体制が続く中国では政治体制が根本的に異なる。共産党の中国と同盟を組む選択肢はない。日米同盟を維持しつつ、中国とも協調する。日本が選ぶべき道は限られる。

(編集委員 中沢克二)



真相深層 北朝鮮、狙うは仮想通貨サイバー部隊投入、25億 円奪取か 相場高騰、制裁下の資金源 2017/12/29 本日の日本経済 新聞より

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 韓国で仮想通貨取引所がハッキングされ、経営破綻した。犯人は特定されていないが、北朝鮮が関与したとの見方が強まっている。国際社会による経済制裁が強化され、北朝鮮が外貨を稼ぐ手段は細る一方だ。苦境をしのぐため、精鋭ぞろいのサイバー部隊をネット空間での窃取や恐喝に動員しているとみられる。

ハッキングに遭い、破産申請に追い込まれた仮想通貨取引所「ユービット」。事務所は施錠されていた(27日、ソウル)

「またやられた」

 韓国の仮想通貨取引所「ユービット」の運営会社ヤピアンは19日、ハッキング被害に遭った事実と破産手続きの開始を公表した。同日午前4時35分ごろ、ネットワークに常時接続された「ホットウォレット」に侵入され、ビットコインを盗まれたという。全資産の約17%、約170億ウォン(約18億円)を失った。

 同社は顧客の資産について、ハッキングされた時点の残高の約75%を支払い、未払い分は破産手続き完了後、支給するとしている。だが顧客の不安は拭えない。実は同社は4月にもハッキングされており、55億ウォン相当を盗まれた。2回目の被害でついに破綻に追い込まれた。

 韓国警察と韓国インターネット振興院(KISA)は今回の事件について現時点で「北朝鮮との関わりは確認されていない」という。しかし韓国国内では「またやられたのか」と、北朝鮮犯行説が一気に流布した。

 根拠のない噂話ではない。韓国では今年、仮想通貨取引所へのハッキングが相次いだ。6月には韓国最大の「ビットサム」で約3万人の顧客情報が流出。9月には「コインイズ」でも口座からコインが盗まれた。韓国の情報機関、国家情報院は一連の事件について、北朝鮮のハッカー集団の犯行だとする証拠を確保し、検察当局に提供したと明らかにしている。

 国情院によると、北朝鮮は4、9月の2回の事件で76億ウォン分の仮想通貨を奪取した。その後の相場高騰で価値は一時、900億ウォンまで上昇した。多額の売却益を得ている可能性がある。ユービットの今回の被害も含めれば、奪取額は日本円で25億円を超える。さらに、犯行集団は盗んだ個人情報を削除する見返りに60億ウォンを要求した。

 11月初め、北朝鮮は韓国に10カ所ある仮想取引所の関係者に、顧客の口座の暗証番号を盗み取るウイルスを組み込んだ電子メールを一斉に送信。国情院がKISAを通じてウイルスを緊急除去し、間一髪で大規模被害を食い止めたという。

 北朝鮮犯行説は、国情院がウイルスを分析した結果、米政府が北朝鮮のハッカー集団だと断定した「ラザルス」がソニー米映画子会社やバングラデシュ中央銀行に攻撃を仕掛けた際と、同様の手法でつくられていたことが確認されたためだ。

「世界で5指に」

 北朝鮮のIT(情報技術)事情に詳しい脱北者の金興光(キム・フングァン)NK知識人連帯代表は、北朝鮮のハッカー集団の背後に「121部隊」がいると指摘する。1998年に設立されたサイバー部隊は6千人を抱え、「世界でも5指に入る実力」という。

 韓国では昨年9月、韓国軍・国防省がハッキングされた。韓国野党議員はその際、金正恩(キム・ジョンウン)委員長ら首脳部の暗殺作戦を含む米韓両軍の作戦計画が流出したと指摘する。サイバー部隊はこうした「本業」の傍ら、資金稼ぎにも手を染めている。

 米国は国連安全保障理事会による制裁強化をはじめ、北朝鮮への圧力を強め続けている。経済封鎖に近い苦境に立つ北朝鮮が活路を探るため、精鋭を投入するのがサイバー空間だ。かつての精巧なドル札偽造からハッキングへと手法を進化させ、金正恩氏の統治資金を荒稼ぎしている。

 ユービットの破綻を受け、韓国政府は20日、仮想通貨取引所のセキュリティー強化対策を発表した。「大部分の取引所で情報保護が不十分」と指摘。2018年1月から違反した事業者への行政処分を厳しくする。28日には仮想通貨取引に実名制を導入すると発表。仮想通貨取引所の閉鎖も検討するとした。

 投機資金も流入し、世界で急膨張する仮想通貨経済に、官も民もシステムや制度の整備が追いついていない。北朝鮮はその間隙を突いている。

(釜山=鈴木壮太郎)



2018年 世界の行方(5) 日中改善、本気でやる 内閣官房 長官・菅義偉氏 2017/12/29 本日の日本経済新聞より

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 ――朝鮮半島情勢は緊張感が高まりますか。

 「北朝鮮への経済制裁が徐々に効き始めている。非常に大きな問題になってくると思う。北朝鮮の出方を最大限注視し、日米安全保障条約を基軸に対応していく。米国内には早ければ2018年中にも大陸間弾道ミサイル(ICBM)に(核弾頭を)搭載できるようになるとの見方がある」

 「彼らは爆発するぞ、爆発するぞというのが外交戦術の1つだ。過敏に反応すると彼らの思うつぼになる。屈服することなく、冷静に対応することが大事だ」

 ――在韓邦人や企業に被害が及ぶ可能性は。

 「常に最悪のことを想定して国民の安全を確保する。米軍と協力して対応することになっており、韓国政府とも平素から緊密に連携している」

 ――日中は平和友好条約締結40周年の節目を迎えます。

 「関係が改善されつつある中、来年は最高の機会だ。日中韓首脳会談を春をめどに開き、安倍晋三首相の訪中、習近平(シー・ジンピン)国家主席の来日が実現できれば関係は安定的に発展していく。経済関係の強化や国民交流の促進で双方の信頼感が高まればいい」

 ――日中共同声明など日中には4つの政治文書があります。第5の政治文書づくりの見通しは。

 「ようやく関係を改善しようというところで、そこにいくまでは時間がかかるだろう。相互訪問すれば自然とそういう流れになる可能性があるだろう」

 ――中国の広域経済圏構想「一帯一路」への協力姿勢を強めますか。

 「インフラの開放性や透明性など国際社会共通の考え方を十分に取り入れて地域と世界の平和、繁栄に貢献していくなら日本としても協力する」

 ――日中関係改善の本気度はどの程度ですか。

 「本気でやる。しかし、日本として容認できないことを(中国が)言ってきたら、主張すべきことは主張する」

 ――トランプ米大統領と接近するあまり、米国の行動に巻き込まれるとの指摘もあります。

 「安全保障関連法なしに日米同盟は機能しなかった。トランプ氏は(有事の際に)『シンゾウ、何をしてくれる』と必ず言う。最低限やることをやらないと、米国が日本の言うことを全てやってくれるなどあり得ない」

 ――内政では為替リスクが高まりそうです。

 「中東で何かあると一挙に円高になることもある。グローバル市場の動きはきっちり監視する」

 ――米国は円高圧力を高めませんか。

 「(日米で)関係ができている。首脳会談も自由貿易協定(FTA)の話は何もしなかった」

 ――来年4月に日銀総裁人事を控えています。

 「首相も黒田東彦総裁の政策を評価している。(金融緩和の)出口戦略と言うが、まだ入ったばかりで早いのではないか」

 ――消費増税はやむを得ませんか。

 「増税は本来ならしたくないが、今回(消費税の使途変更を)ここまで踏み込んだということは増税するということだ」

 ――社会保障の抜本改革に取り組みますか。

 「取り組む。ただし、景気を冷やしたら元も子もない。経済に影響を与えないようにする」(聞き手は重田俊介)

=おわり



ポスト平成の未来学 第2部 健康イノベーション 遺 伝子・菌…「長寿薬」探せ みんな100歳現役 2017/12/28 本日の日本経済新聞より

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 ハンマーに両腕を引っ張られながら回転し、3キロの鉄球を力いっぱい放り投げる。その軽やかな身のこなしはとても94歳には見えない。スーパー高齢者がいると知り、僕(25)は静岡市に足を運んだ。

 60歳からハンマー投げを本格的に始めた元印刷会社経営者、遠藤隆さん(94)は2016年、全日本マスターズ陸上競技選手権大会のM90(90~94歳)でハンマー投げと砲丸投げで優勝した。ほぼ毎日、トレーニングに励む。野菜サラダを毎日食べ、好物は魚。次の目標は「M95(95~99歳)、M100(100~104歳)の世界記録を出したい」という。

ハンマー投げのM90のアジア記録を持つ94歳の遠藤隆さんは、日々のトレーニングを欠かさない(静岡市)=三村幸作撮影

 もはや「生涯現役の100歳」は夢物語ではない。7月に105歳で亡くなった聖路加国際病院の名誉院長、日野原重明さんが提唱していた「豊かな老い」を思い出す。遠藤さんはまれな例だが、今後、元気なまま年を重ねる健康長寿者は増えていく。

■  □

 紀元前から長寿に対する憧憬は強い。中国を初めて統一した始皇帝は「不老不死」の秘薬を求め、海外まで人を派遣したが失敗に終わった。2千年以上がたった今、健康長寿はバランスの良い食事や適度な運動などで実現できると考えられている。

 さらに解明を進めようと、京都府立医科大は今夏、京都府・丹後地域で研究を始めた。同地域の人口あたりの100歳以上の割合は全国平均の約3倍。また高齢化率(65歳以上)は33~44%。日本全体は27%で、35年には33%に達すると推計されており、20~30年後の日本の縮図といえる。

 研究拠点となる弥栄病院(京丹後市)で佐々木ふみ子さん(76)は採血や検尿などのほか、カセットテープから流れる話を数分後に要約する記憶力も調べた。「あんまり覚えていない」と謙遜しながらほぼ完璧に話をまとめると、検査担当の足立淳郎・循環器内科部長は「信じられませんね」と感心した。

 同大の研究は健康に長生きする人が他の人と比べて体の構造がどう違うのか明らかにするのが狙いだ。32年までの長期計画で丹後地域の65歳以上の1千人を健康調査し経過観察する。家族構成や生活習慣から血液の分析、骨密度まで約2千項目を調べる。

 医師が注目するのは、誰もが持っているとされる「長寿遺伝子」だ。例えば、健康的な食生活などによって眠っている長寿遺伝子を刺激し、健康寿命を延ばすというような理論が考えられる。同大の的場聖明教授は「どういう働きをしているのか不明な遺伝子の中に誰もが健康長寿になれる遺伝子がある可能性はある」と強調する。長寿遺伝子を目覚めさせる要素が分かれば、「長生きの攻略本」につながる。

 腸内細菌も長寿要素の一つと考えられている。人の腸内には百兆個を超える細菌がすみついており、その多様性から「腸内フローラ」と呼ばれる。健康な高齢者は20代や30代の腸内フローラと似ているという調査報告もある。長寿が多い地域では魚を食べる習慣が根付いており「食生活に腸内細菌を若く保ち、長生きのヒントとなる要素があるかもしれない」(的場教授)。

 腸内環境を良好に保つと免疫力の向上にもつながる。100歳以上の「百寿者」の「菌」の特徴が見つかれば、気軽に服用できる「長寿薬」の開発も夢ではないのか、と想像が膨らむ。的場教授は「遺伝子やたんぱく質、腸内細菌など未知の長寿要素が判明すれば、将来は他の地域にも応用したい」と研究結果に期待を寄せる。

■  □

 07年の厚生労働省研究班の調査によると、百寿者の多くの性格は開放性や誠実性などを示す数値が高かった。血液型でもB型が多いことが確認された。

 歴史を振り返れば人類は常に「死」を恐れ、「不老不死」を究極の目標として追い求めてきた。様々なデータの分析や研究成果で健康長寿が当たり前になり、その社会では「生」のあり方が改めて課題として浮上する。長い間、健康に生き続けられることは、病気や老衰を原因とする死が先に延びることになる。

 静岡市の遠藤さんはハンマー投げで記録を樹立するという目標を掲げる。人は充足感を得られれば幸せに生きていけるが、高齢になっても生きがいを持てるかどうかは人それぞれだ。「死」が先に延びたときに、どう健全さを保つか――。そんな考えが頭をよぎった。

寿命つかさどる染色体に脚光

 日本人の平均寿命は第2次世界大戦後の約70年で30年以上延び、2016年には男性が80.98歳、女性が87.14歳になった。国立社会保障・人口問題研究所は17年に発表した将来推計人口で、65年には男性が84.95歳、女性が91.35歳まで延びる可能性を示している。また寿命の延びに伴い、100歳以上の「百寿者」になるのも現実味を帯びつつある。17年には全国で6万7千人を超えた。9割近くが女性だ。医療技術の進歩などが大きく影響している。

 人は何歳まで生きられるのだろうか。早稲田大学の創設者で元首相の大隈重信は「人生125歳説」を唱えた。摂生すれば、この天寿を全うできると説いた。一方、米国のアルバート・アインシュタイン医科大学などが16年に英科学誌ネイチャーに発表したのが「人の寿命の限界は約115歳。世界最高齢の人が125歳を超えるのは1万分の1未満の確率」という論文だ。各国の統計データなどをもとに数字を割り出した。

 人は老化する。年を重ねるとシワが増え、けがが治りにくくなり、病気になりやすくなる。体全体の老化は様々な要因が複雑に絡み合っているが、細胞レベルでの老化研究は着実に進んでいる。その一つが体をつくる細胞の染色体の端にある「テロメア」だ。

 染色体を守るテロメアは細胞が分裂するたびに少しずつ短くなる。それに伴い細胞分裂の回数が減り、やがて分裂しなくなる。これが細胞の老化で、テロメアが「命の回数券」といわれるゆえんだ。京都大学の石川冬木教授は「テロメアの状態が動脈硬化やがんなどと関連することも分かってきた」と話す。注目の研究分野だ。

 テロメアを長く保つことができれば寿命は延びるかもしれない。そう考えて国内外の研究者が実験を重ねている。例えば、遺伝子を操作してマウスの体中の細胞でテロメアを長く保つ研究だ。結果は細胞ががん化して短命になった。不自然にテロメアを伸ばしても逆に寿命を縮めてしまうようだが、失敗を糧に新たな研究も進む。

 期待を持たせる研究成果もある。マウスやサルなどを使った実験で、摂取するカロリーを制限すると長生きすることが分かった。長寿に関連する遺伝子の働きが活性化された結果と考えられている。この長寿遺伝子に焦点をあて、人への応用を目指した研究も始まっている。

 国は健康上の問題がない状態で日常生活を送ることができる「健康寿命」を重視している。平均寿命の延びを超える健康寿命の延伸が目標で、地方自治体と協力しながら高齢者の食生活の改善や運動促進、禁煙活動などに取り組んでいる。

 健康な高齢者が増えれば、働き手の確保につながる一方、年金給付額も膨らむ。医療、介護の受け皿づくりも変更を余儀なくされる。健康長寿者が安心して年を重ねられる制度づくりが課題となるだろう。

(石原潤、岩井淳哉)



ビジネスTODAY 不正な転売なくせるかミクシィ、チケット売買サイ ト終了へ抜け穴多くいたちごっこ 2017/12/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の企業面にある「ビジネスTODAY 不正な転売なくせるかミクシィ、チケット売買サイト終了へ抜け穴多くいたちごっこ」です。





 ミクシィは27日、音楽チケットなどの個人間売買サイト「チケットキャンプ」を2018年5月末で終了すると発表した。運営子会社が商標法違反などの容疑で捜査を受け、継続は難しいと判断した。同サイトは不当な高額でのチケット転売の温床になっていた。ただその温床がなくなっても取引の場が他のサイトに移るだけ。不正な転売はなくせるのか。

ミクシィは「チケキャン」終了で特損77億円を計上

 「チケットキャンプのサービス終了につきまして」。27日夕、チケキャンのトップ画面にいきなり告知が表示された。ツイッターでは「チケキャン閉鎖、素晴らしい」「急きょ行けなくなったらどうしたら?」といったつぶやきが相次いだ。

 サイト終了に伴いミクシィはのれん代償却費など計77億円の特別損失を計上。18年3月期の連結純利益予想を前期比33%減の402億円に下方修正した。森田仁基社長は6カ月間の月額報酬を自主返納する。

 チケキャンを巡っては、ジャニーズ事務所関連のコンサート情報をまとめたサイトを独自に運営し、同事務所の商標を不正使用した疑いなどがもたれている。だが、多くの利用者が抱いていたのは「ネットダフ屋」のイメージだ。

 公共の場でのダフ屋行為は地方自治体の迷惑防止条例などで禁止されているが、ネット上には明確なルールがない。ヤフーの「ヤフオク」やメルカリも以前は不正転売の場になっていた。プラットフォーマーを自認する両社が自主規制に動き、不当な高額での出品を排除するなど対策を実施。チケット専門のチケキャンに客が流れ込んだ。

 やがて数千円のチケットが数万~十数万円で取引されることが常態化し、興行側からも批判が噴出した。それでも規制に踏み切れなかった背景にあるのは、様々な品目を扱うヤフオクなどとチケット専業の違いだろう。自主規制に動けば手数料収入が大きく減る可能性があった。音楽業界の関係者は「上場企業として対策をしてこなかった責任は大きい」と憤る。

 正規のチケット販売のオンライン化が進み、転売目的のプロの間で、大量のメールアドレスを自動作成してファンクラブに入会しチケットを入手する手法などが横行。データの自動入力プログラムを使い、1秒間に数十件の抽選申し込みや予約を入れ、チケットを買い占める手口もある。

 こうしたチケットが高額で転売されるのを防ぐため、音楽業界も対策を打ち始めている。17年6月には音楽関連の4団体が購入後のチケットを売買する公式サイトを開設。アミューズは18年にも対話アプリのIDを本人確認に活用し不正転売を防ぐ仕組みを始める。

 海外では良い席の価格を最初から高く設定し、差益を得られにくくするのが一般的。ただ、日本の音楽業界はファン層の厚みを重視し、人気イベントでも価格の引き上げには慎重だ。

 チケキャン終了で不正な転売を撲滅できるのではとの期待もある。だが、類似のサービスは多く、音楽業界の対策もまだ始まったばかり。いたちごっこはしばらく続きそうだ。

(桜井芳野)



FT民主主義脅かす格差拡大 是正する意志 重要に 2017/12/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「[FT]民主主義脅かす格差拡大 是正する意志 重要に」です。





 米国、カナダ、西欧では1980~2016年の実質所得の増加分のうち、上位1%の高所得層の増加分が全体の28%を占めた一方で、下位50%の増加分は9%にとどまったという。ただ、このデータは各国間の違いについては何も示していない。上位1%の増加分は、西欧では下位の51%と同じだったが、北米では下位88%と同じだった。この信じがたい数字が示すのは、経済成長率そのものは国民全体の経済的福祉の改善度とはあまり関係ないということだ。特に米国の場合は、ほぼ無関係だといっていい。

 以上の驚くべき数字は、フランスの大学、パリ経済学校の世界不平等研究所がこのほど発表した「世界不平等報告書2018」で明らかにしたものだ。全体像として浮かび上がってきたのは、世界の国家間の格差は縮まる傾向にある一方で、各国内における格差は拡大しているという現実だ。もっとも各国内での格差の拡大は、国によって度合いが異なる。「1980年以降、北米とアジアでは所得格差が急拡大し、欧州でもそれなりに広がったが、中東とアフリカのサハラ砂漠以南、およびブラジルでは格差の拡大が激しく進み、そのひどい状況が固定化してしまっている」という。

イラスト James Ferguson/Financial Times

 同報告書は第2次世界大戦直後の欧米は、少なくとも戦前に比べると、上位1%が所得全体のそれほど大きな割合を占めていなかったと指摘している。だが、格差はその後、上位1%の占める割合が英語圏、特に米国で急拡大したものの、フランスやドイツ、イタリアではほとんど変わらなかったという。

■人類を破滅させる4つの悲劇

 古代社会を専門とし、「The Great Leveler(万人を平等にするもの)」(未邦訳)を著したオーストリア出身で現在、米スタンフォード大学教授を務める歴史家ウォルター・シャイデル氏は、今後も格差は拡大していくと指摘する。同氏はこのすばらしい著書の中で、農業(および農業国)の始まりによって余剰の富が生まれると、エリート層は見事なまでにそれを徹底的に収奪してきたと論じている。

 収奪行為が限界に達するのは、これ以上収奪すると生産者が生存できなくなるという段階にまで至ったときだ。意外にも多くの貧困にあえぐ農業社会においても、この限界に達した。その中には、ローマ帝国やビザンチン帝国も含まれる。シャイデル氏によると、平和と安寧の時代には、強者は自分たちや子孫の取り分を増大させようと社会を巧みに操ったという。権力は富を生み、富は権力を生む、というわけだ。では、この連鎖を止める方法はあるのだろうか。可能だ、と本書は指摘する。つまり、聖書に出てくる人類に破滅をもたらす4つの悲劇である戦争、革命、疫病、飢饉(ききん)が歴史的には格差の拡大に歯止めをかけてきたという。

 過去の社会は、本書が指摘するほど残酷ではなかったと反論する人もいるだろう。例えば、兵力の動員を必要とする国家は、ある程度は国民が繁栄するよう配慮しなければならなかった。だが、総じて近代以前の社会では、信じがたいほどの不平等がみられた。

■楽観できる理由は3つ

 以上のことは、当時よりずっと豊かになった今の脱工業化社会とどう関係があるのか。昔も格差が存在したという事実は、実は想像する以上に今の私たちに関係している。20世紀には、ソ連や中国など各地の革命と2度の大戦により格差は劇的に縮小した。だが、革命政権がその過激さを失う、あるいは崩壊すると、または戦時中の緊急事態が記憶から消えると、かつての農業社会と似た連鎖が復活した。つまり、圧倒的な富を握る新エリート層が台頭し、政治権力をも手にし、それを自分たちに都合良く利用した。信じられないという人は、このほど米議会で可決された税制改革法案を巡る政治的、経済的議論(編集注、主に中間層より富裕層が恩恵を得るとされている指摘)をよくみたらいい。



もがく野党(上) 遠のく二大政党 元民進勢力、描け ぬ道筋 2017/12/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の政治面にある「もがく野党(上) 遠のく二大政党 元民進勢力、描けぬ道筋」です。





 二大政党制の到来が叫ばれた政治改革から約20年が過ぎた。一時は民主党による政権交代も経験したが、第2次安倍政権の発足以降は、55年体制をはるかにしのぐ「自民1強」の構図が強まるばかりだ。離合集散を繰り返しながら多弱への一途をたどる野党。混迷を脱する道はあるのか。

 26日に国会内で開いた民進党両院議員総会。立憲民主党と希望の党に統一会派結成を申し入れる案が示された。

 「執行部の提案通り進めてよろしい方は拍手を」。司会役の柳田稔両院議員総会長が方針の了承を求めたが拍手はまばら。会場が失笑に包まれるなか柳田氏が「では反対の方」と続けると拍手は賛成とほぼ同数だった。

 想定とは違う展開に柳田氏は困惑の表情を浮かべたが「拍手の方が多いので執行部の提案を確認します」と押し切った。しらけた空気のなかで出席していた地方議員からヤジが飛んだ。「だから笑われるんだよ」

 野党が再起の糸口をつかめずにいる。10月の衆院選を前に民進党は立憲民主党と希望の党、無所属を含む民進勢力へと3分裂した。野党第1党の立憲民主党でも衆院議席数は55にすぎず、284議席を擁する自民党には太刀打ちできない状態だ。

 巨大与党に対峙するための手っ取り早い方法は元民進党勢力の再結集だ。だが、政策の違いや感情のしこりが大きな壁として立ちふさがる。

 「希望の党とは理念政策が異なる。希望の党とは組まない」。立憲民主党の福山哲郎幹事長は26日、統一会派を申し入れるために訪れた民進党の増子輝彦幹事長の提案を即座に拒否した。

 立憲民主党は、衆院選前に希望の党の小池百合子氏が政策や理念が違う議員を合流から「排除」したことから新党を旗揚げした。少なくとも希望の党の結党メンバーを含めた統一会派の結成には乗らないとの見方が強い。

 希望の党も揺れている。民進党は統一会派の基本方針案に「安保法制の違憲部分を削り、国の安全を確たるものにする議論を進める」と盛りこんだ。結党メンバーの一人は「安保法反対にカジを切るなら何のために党を立ち上げたのか」と反発を強める。一方、民進党からの合流組の多くは安保法に反対だ。統一会派に前向きな党幹部は「党が割れるなら割ってしまえばいい」と漏らす。

 野党が抱える悩みの深さは、仮に野党勢力の再結集を果たしたところで政権交代への道筋がみえてこない点にある。

 日本経済新聞社による12月中旬の世論調査では安倍内閣の支持率は50%。一方、立憲民主、希望、民進の3党を合計しても12%にすぎない。有権者の多くは民主党政権時代から続く内部対立や離合集散にうんざりしており、同じ顔ぶれでの再結集で支持率が急速に高まる可能性は少ない。

 新たな機運をつかもうとする動きもある。

 「永田町の数合わせにはくみしない」。立憲民主党の枝野幸男代表は衆院選後、こう繰り返す。捨て身で立ち上げた党は予想外の支持を得て、街頭演説には1000人を超える聴衆が集まった。その熱気から、永田町の論理に飽きた有権者の思いを実感した。

 枝野氏は「草の根からの政治」という新たな党の形を模索していく考え。まずは政治資金。ネットを通じて献金を募ったところ「すでに1億円近く集まった」(党関係者)。企業・団体献金を受け取る自民党との違いを打ち出したい考えだ。

 有権者が交流サイト(SNS)を通じて政策論議に参加する「ネットシンクタンク」をつくる構想も浮上する。衆院選を機にSNSで自らの考えや政策を頻繁に発信するようになった。支持者からの質問や反論も多い。枝野氏はこれからは「右か左かではなく、上からか草の根からか、だ」と強調する。ただ日本でこうした活動の裾野がどこまで広がるかについては懐疑的な見方も多い。

 昭和から平成に変わろうとする1980年代後半。国内にはリクルート問題に端を発する政治不信が満ちていた。政党が緊張感を保ちながらカネがかからない政治の姿はないか――。新しい風を求め小選挙区制の導入など政治改革に奔走したのが故羽田孜首相や自由党の小沢一郎共同代表だ。

 11月中旬、都内ホテルの日本料理店。その小沢氏は熱かんを傾けながら民進党前代表の前原誠司氏にこう漏らした。「このままでは死んでも死にきれない」

 有権者に「1強」以外の選択肢を提示できない野党の責任は重い。



真相深層 中国外交、爆買いも武器に 海外旅行1.3億 人、陰で渡航制限 相手国の経済左右 2017/12/28 本日の日本経済 新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 中国外交、爆買いも武器に 海外旅行1.3億人、陰で渡航制限 相手国の経済左右」です。





 「爆買い」で注目される中国人観光客。世界最大の観光客の送り出し国で、年間約1億3千万人と日本の人口にも匹敵する規模に膨らむ。中国にとっていまや、団体客の渡航禁止は外交問題などで相手国をけん制する手段となった。各国が経済振興のために中国人観光客を奪い合っているからだ。手法も巧妙で、相手国からの批判をかわすために行政文書を使わない口頭指導により旅行会社を縛ることで、相手国への最大限の効果を狙う。

文書で通知せず

 「上司が20日に地元の観光局から呼び出しを受け、韓国への団体旅行の販売を禁止する指導を受けた」。山東省青島市の旅行会社の従業員は明かす。観光局とは地方政府で旅行行政を担当する部門だが、文書での通知は一切なかった。

 青島など山東省の都市に加え、北京市の旅行会社も韓国への団体旅行の販売を停止した。一方、中国外務省の華春瑩副報道局長は20日の記者会見で「(団体旅行禁止は)聞いていない。中国は中韓交流に開放的だ」と否定した。実態と外務省コメントの差はなぜ生まれるのか。

 「特定国への報復的な禁止措置は国際規範に反するため中国政府は公表しない。しかし、相手国に対し不満があるから水面下での指導に走る」。中国の旅行会社元幹部は解説する。「観光局の判断ではなく、より高い立場の共産党組織による指導だろう」と指摘する。

 今回の韓国への団体旅行の禁止についても「個別の理由は分からない」としたうえで、「中韓首脳会談の直後に起きたことから考えると、中国側に首脳会談または直後で、なんらかの不満が出たと考えるのが自然だ」との見方を示す。

 韓国への旅行禁止は、相手に最大限の効果を与えるために練られた戦略に基づいている。

 3月に在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備問題が引き金となって中国全土で禁止された。その後、両国関係の改善で11月に北京市と山東省に限り解禁され、12月になって再度禁止となったのには理由がある。

 山東省は海を挟んで韓国と近く企業や個人の往来が盛んだ。北京市は韓国企業の進出が多く、次々回の冬季五輪の開催地であり、冬季五輪つながりで団体旅行を含めた韓国観光が伸びる見通しだったという。旅行禁止の効果が出やすいとして両地域を選んだとの見立てだ。

 実は、日本への団体旅行も9月から遼寧省や山東省、重慶市などで人数制限などを受けている。偽造パスポートで入国した中国人の行方不明や外貨制限が理由に挙がったが、ある関係者は「日中政府間で夏に行われた非公式な話し合いで、中国側に不満が生じたことが引き金になったようだ」との見方を示す。

 地域によって対応が異なったのは、実効性の観点から説明できる。関係者は「上海、広東省などは個人旅行が多いため効果が薄いうえ、団体旅行のチェックに手間がかかることから見送られた。制限した地域は団体旅行の比率が高く、中国側のチェックもしやすい」と打ち明ける。

旅行強国に転換

 中国の団体旅行禁止という手法が目立つようになったのは、海外旅行客が1億人に近づいた2012年から。南シナ海や東シナ海の領有を巡り対立したフィリピンや日本向けを禁止しプレッシャーをかけた。16年は台湾の蔡英文政権の誕生に伴い、台湾旅行が事実上の制限を受けた。

 「中国を旅行大国から旅行強国に転換する」。中国が主導して今年9月に立ち上げた観光業の世界組織「世界観光連盟(WTA)」の発足時、主席となった段強氏はあいさつで強調した。

 旅行強国とは何を意味するのか。1億3千万人近い中国人観光客の消費額は約30兆円に膨らみ、世界の海外旅行消費に対する寄与度は2割に達するとの試算もある。WTAの理念は「観光で世界をよりよくする」とある。旅行強国とは、相手国の観光に打撃を与え、外交上優位に立つ手段にすることではないはずだ。

(北京=多部田俊輔)



2018年の世界(3)成長のカギ、企業投資に米KKR創業者ヘンリー・ク ラビス氏 2017/12/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「2018年の世界(3)成長のカギ、企業投資に米KKR創業者ヘンリー・クラビス氏」です。





 ――2018年の世界はどう変わりますか。

 「世界はかつてないほどの速さで変化している。絵画の高騰を見れば分かるだろうが、世の中にはお金があふれかえり、企業も銀行も十分なお金を持つ。売上高を伸ばすには企業はもっと投資しなければならない」

 ――投資をためらうのは成長余地が限られているからでしょうか。

 「そうではない。隣の中国を見てほしい。電子商取引最大手のアリババ集団や騰訊控股(テンセント)が著しい成長を遂げている。イノベーション(技術革新)が次々と生まれているからだ。お金は大切だが、それをいかす成長の原動力は失敗を恐れぬ経営と多様性だ。リスクをとる経営が奨励され、失敗を次につなげる企業文化がある」

 ――日本企業の競争力はどう評価しますか。

 「低下しているのは間違いない。まずは『ものづくり』への依存から脱却すべきだ。従来型の製造業は人口の多い中国やマレーシアに任せればいい。日本は付加価値の高い産業に注力する必要がある。内向きの考え方から抜け出して生産性を向上させるしかない」

 ――日本企業に悲観的ですね。

 「違う。日本は世界でも突出して教育水準が高く優秀な人材も多い。非中核事業を手放して本業のイノベーションに経営資源を集中すれば競争力は高まる。最近は大企業の経営者の意識も変わってきた。事業が切り出されれば我々のようなファンドの出番だ。世界に持つ情報網を通じて新たな成長機会を提供する」

 ――17年は世界景気が緩やかに拡大しました。18年の見通しは。

 「世界景気をけん引する米国経済は3~3.5%の成長に回帰していくのではないか。トランプ政権が実施した大型減税や規制緩和が企業活動を刺激し投資マインドも高まっていくだろう。新興国の景気は安定的に拡大しており、これが米企業の業績を一段と押し上げる好循環になる」

 ――最高値を更新し続ける米国株は「バブル」との見方もあります。

 「投資指標が割高なのは否定しない。だがそれが株価の調整に直結するわけではない。長期金利は米国で2.5%に届かずドイツで1%を下回る。機関投資家は少しでも高い利回りを求めて株式市場に資金を振り向けざるを得ない」

 ――米連邦準備理事会(FRB)の金融政策は変わるのでしょうか。

 「2月にFRB議長に就任するパウエル氏は『イエレン氏2.0』といった趣だ。何も心配していない。ハト派寄りの姿勢で慎重に利上げを進めていくはずだ。18年も2、3回の利上げを予測する。長期金利は3%を超えてくるかもしれないが歴史的に見れば低い」

 ――今後のリスクは何でしょうか。

 「景気の循環論を踏まえれば米国景気は19年から減速局面に入るのではないか。(中央銀行による)人工的な低金利が永遠に続くわけではない」

 ――トランプ政権は世界を変えますか。

 「彼とは30年来の友人だ。もともと賢い男だ。大統領はタフな仕事だが彼は日々学び、米国と世界に刺激を与え続けるだろう。不規則発言への批判も多いが、変化を求めたのは米国民自身だ」

(聞き手は川上穣)

 1976年に世界有数の投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)を共同で創業した。世界で110社超に投資し運用資産は約17兆円。73歳