シンゾウとの距離準同盟国(上) ターンブル豪首相 親 日・親中 揺れる振り子 2018/2/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の政治面にある「シンゾウとの距離準同盟国(上) ターンブル豪首相 親日・親中 揺れる振り子」です。





 1月18日、陸上自衛隊の習志野演習場(千葉県船橋市)に首相、安倍晋三(63)と来日中のオーストラリア首相のマルコム・ターンブル(63)の姿があった。2人で頑強な装甲車に乗り込み、安倍が運転席に、ターンブルが助手席に座ると記者団に笑顔で手を振り和やかな雰囲気に包まれた。

安倍・ターンブル関係はまだ構築途上だ=ロイター

 2人が乗り込んだのは陸上自衛隊が2015年に導入した豪州製の輸送防護車「ブッシュマスター」。両国の防衛協力を内外に印象付けるにはうってつけの材料だ。

潜水艦選定で溝

 防衛省は当初、ターンブル単独で視察する日程を組んでいた。直前になって安倍が「自分が案内する」と加わった。前日夕方にバルト3国など欧州歴訪から帰国したばかり。防衛省内には「安倍はターンブルとの関係を重視している」との受け止めが広がった。

 安倍が提唱する「自由で開かれたインド太平洋戦略」は中国を意識したものだ。戦略の推進には、太平洋とインド洋に面し米国とも同盟関係がある豪州は欠かせない存在だ。

 「マルコムを招くことができてうれしい」。安倍は視察後、国家安全保障会議(NSC)の特別会合に参加したターンブルをファーストネームで呼んだ。

 前任のアボット(60)と安倍は互いに保守政治家として相性が合った。アボットは安倍を「最高の友人」と称し、安倍は豪州と「特別な関係」を築いたと誇った。日本の政府高官は、安倍とターンブルの関係を「アボットとの個人的な信頼関係と比べると、まだ及ばない」とみる。

 16年4月の次期潜水艦の選定は両者の関係にさざ波を立てた。アボットは日本の最新鋭潜水艦「そうりゅう」に関心を示し導入が有力視された。ところがターンブルは突如「国内雇用重視」の方針を打ち出しフランスを開発相手に選んだ。

 前政権で通信相だったターンブルは「指導力を発揮できていない」とアボットを追い落とし15年9月に首相に就任した経緯がある。

 ターンブルの中国との間合いも懸念材料だ。実業家時代に中国で鉱山開発に関わり、流ちょうな中国語を操る。就任当初は「親中派」と目された。息子の妻も中国出身だ。

 豪州にとって中国は輸出額の3割弱を占める最大の貿易相手国。経済界を中心に「中国との経済関係を抜きに国は成り立たない」との声もある。

 アボットは親日とされ、その前任のラッド(60)は中国通として知られた。政権によって日本、中国との距離は揺れ動く。

TPPで足並み

 ターンブルは中国への警戒を鮮明にしつつある。17年6月、シンガポールでのアジア安全保障会議。基調講演で「中国は自らのやり方に従う国に経済的に寛大にふるまう一方で、自らの国益に異を唱える相手を孤立させるかもしれない」と中国を名指しで批判した。

 同じ米国の同盟国で、民主主義や国際法に基づく秩序を重んじる日本への信頼は増す。

 「安倍首相と私は米国が環太平洋経済連携協定(TPP)の離脱を表明した時、交渉を頓挫させないよう決意した」。ワシントンで米大統領のトランプ(71)とTPP交渉への復帰を巡って協議。帰国したターンブルは25日、記者団に語った。国内で「TPPは死んだも同然」(豪州の野党党首)と冷ややかな視線にさらされてきた。米国を除く11カ国での署名が決まり、足並みをそろえてきた安倍との距離は近づいた。

 豪州は近年、短命政権が続く。ターンブルは第2次安倍政権が発足してから4人目の豪首相だ。政権が変われば、築き上げてきた準同盟国としての関係が揺らぐリスクはある。

 それでも日豪の連携は加速する。ターンブルとの接近がインド太平洋戦略を進める近道――。これは安倍の確信でもある。=敬称略(シドニー=高橋香織、政治部 加藤晶也)

 国際社会での米国の求心力低下は同盟国、日本に新たな外交戦略を迫る。中国を見据えたインド太平洋戦略の成否は日本が準同盟国と位置付ける豪印英3カ国首脳との関係と連動する。3カ国首脳と安倍晋三首相の距離を探る。

 こんな人 弁護士を経てIT(情報技術)企業を興し事業売却で富を築いた。投資銀行幹部などを歴任し、産業界に人脈が広い。知性派として知られ、同性婚を認めるなど前任のアボットよりリベラルとされる。 シドニー生まれ。幼い頃に両親が離婚し、父親に育てられた。奨学金を得て名門私立校「シドニー・グラマー」で学んだ。最近は副首相が女性問題で辞任するなど政権が揺らいでいる。総選挙に向けて体制の立て直しを急ぐ。



とどまるために走る 新陳代謝は米に見劣り 2018/02/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「とどまるために走る 新陳代謝は米に見劣り(ニッポンの革新力 企業は変われるか(2))」です。





タイのバンコク郊外で、軽自動車より一回り小さい車が1台、池の中を進む。日本のスタートアップ企業、FOMM(川崎市)が取り組む超小型の電気自動車(EV)の実験風景だ。

(画像:FOMMはタイで水に浮かぶEVの開発を進める)

大雨で水があふれ出すことも多いタイで、非常時にも機動的に走れるEVがあれば便利。だが、前例のない技術に大手自動車メーカーは二の足を踏む。FOMMの鶴巻日出夫社長がパートナーとして出資を仰いだのはヤマダ電機と船井電機。理由は「自動車大手よりも話が早い」からだ。

「その場にとどまるためには、全力で走り続けないといけない」。米国の生物学者ヴァン・ヴェーレンは、小説「鏡の国のアリス」に登場する赤の女王の言葉を引き合いに出し、生き残りの条件を説いた。別の生物の進化を上回るペースで変化しないと、世界で存在し続けられないとする。

この仮説は企業間競争にも当てはまる。もともと自動織機を手がけていたトヨタ自動車が車産業に進出して欧米を追い抜いたように、これまで日本企業は変化に挑むことで世界に通じる力を手に入れてきた。

だが、いつしかリスクを伴う全力疾走を避ける傾向が強くなった。「大きくなりすぎて滅びた恐竜のような課題がある」。三洋電機出身の前川佳一京都大学特定准教授はこう指摘する。

企業規模が大きくなると、初めは相対的に収益が小さい新事業を立ち上げる動機が薄れる。スタートで出遅れると、気が付けば新興企業と差がついている。「あの程度の技術ならウチでも作れる」と言いながらビジネスチャンスを逃す。

デロイトトーマツコンサルティングによると、先行する製品やサービスがない新事業の売上高比率は、米国の6%に対し日本は3.5%。新たに市場を切り開いていく力で見劣りする。

大企業は総花的な経営の問題点に気づき、選択と集中を進めようとする。だが、競争力がある新事業が育たないうちに大黒柱が衰えれば収益力はしぼむ。デロイトによると多数の事業を抱える大企業(売上高2兆円以上)の営業利益率は米国が21.2%、欧州は8.6%。日本は4.3%だ。

明暗を分けるのは新陳代謝の巧拙だ。オランダのフィリップスは祖業の照明事業を切り離し医療などにシフトし成長する。一方、事務機の老舗ながら次の柱が育たなかった米ゼロックスは、富士フイルムホールディングスが買収を決めた。

日本企業にも稼ぎ方を変える企業はある。家具や日用品が主力だったアイリスオーヤマは2009年に家電に参入。今では売上高の5割を家電が占める。手で持たずに使えるドライヤーや軽くて動かしやすいスティック型掃除機など、最先端でなくても低価格で便利な機能を提供することで大手の市場に食い込む。

どの芽が「金の成る木」に育つのか。見極めは難しいが、自らを変え続ける姿勢は欠かせない。ハーバード大学のクリステンセン教授が、大企業が革新を生めない「イノベーションのジレンマ」を説いて約20年。まだ日本企業はその答えを探す途上にいる。



「後継者いない」悩む中小国や自治体、M&A促す 2018/02/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「「後継者いない」悩む中小国や自治体、M&A促す(消えるGDP22兆円 大廃業時代)」です。





日本の企業数の99%を占める中小企業の多くが廃業の危機に立たされている。中小企業の70歳以上の経営者245万人のうち、約半数の後継者が未定だ。このままでは約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる恐れがある。競争力の低下を懸念する国は自治体などと組んで動き出した。新しいビジネス機会が生まれる一方、外国企業も優良企業の買収を狙う。大廃業時代の最前線に迫る。

(画像:17年12月に廃業した菱沼製作所の菱沼繁俊元社長(19日、東京都大田区))

「機械が止まった工場は熱気がなくて底冷えする。寂しいもんだ」。中小の町工場がひしめく東京都大田区。金属加工を手がける菱沼製作所は2017年末に廃業した。元社長の菱沼繁俊さん(75)は薄暗い工場でいとおしそうに機械に触れた。エレベーター製造の関連品などを請け負い、経営は黒字。しかし後継者がなく、父の代から60年続いた会社をたたんだ。

高度成長期に活況を呈した町工場が続々と姿を消す大田区。かつて1万近くあった工場数も最近では3千程度に激減した。製造業の技術革新による需要縮小もあるが、後継者不足も大きな理由のひとつだ。

製造業だけではない。3月末、京都市内にある老舗和菓子店が店を閉める。1825年創業の「源水」は色彩豊かな菓子でファンを魅了してきた。7代目店主の井上清文さん(72)は「跡継ぎもいないし、立って仕事をするのが難しくなった」と廃業を決めた。

■10年で3割増

10年で3割増

経済産業省によると、中小企業の経営者で最も多い年齢層は65~69歳。平均引退年齢は70歳だ。経営者の高齢化に伴い、廃業する企業は急増。東京商工リサーチの調査では17年の休廃業・解散企業数は約2万8千件と、この10年で3割増えた。

経産省の試算ではこの問題を放置すれば、25年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある。深刻なのは休廃業する企業のうち約半数が黒字なことだ。会社を残したくても、後継者を見つけられず、廃業せざるを得ない厳しい現実がある。

「条件は大丈夫。あと1~2カ月でまとまりそうですね」。2月半ば、埼玉県北部。埼玉県事業引継ぎ支援センターの石川峰生統括責任者は自動車整備業を営む男性社長(69)に説明した。栃木県の自動車組み立て企業に売却する交渉が進む。

後継者のいない男性社長は廃業は惜しいと思い、センターに相談。センターが県内や隣県で買収を検討している企業を探し、買い手が見つかった。男性社長は当面は同じ職場で仕事を続けるといい、「会社の今後を考える不安がなくなった。一人では何もできなかったと思う」と話す。

■事業承継を診断

事業承継を診断

持続可能な企業の廃業を避けようと国や自治体、商工会議所、金融機関などはタッグを組んだ。政府は6日に閣議決定した実行計画で今後10年を事業承継の集中実施期間と定め、年間5万件の事業承継診断の実施やM&A(合併・買収)などの成約の年間2千件の目標を掲げた。承継しやすいように税制も大幅拡充する。

中心的な役割を担うのが全国にある事業引継ぎ支援センターだ。税理士や弁護士など専門家を交え、経営者の相談に乗る。東京では東京商工会議所を中心に60歳になった経営者を訪問して後継者問題を考えてもらう取り組みも始まった。

「いい企業に巡り合えた」。医療機器製造・卸売りのメディカル・パイン(東京・千代田)の松村謙一社長(60)はこう振り返る。17年に株式を埼玉県の電線・ケーブル企業に売却。センターに買い手企業を探すよう依頼し、詳細はM&A仲介会社を通して条件を詰めた。松村さんは今も社長として海外進出を進める一方、「買収企業から後継者をじっくり育ててほしいと言われた」。

ただ事業承継に成功したのは、関心が高い経営者だったからでもある。東京商工リサーチが中小企業の増減収率を社長の年齢ごとに調べたところ、社長が30~50代の企業は増収が多く、60、70代では減収が多かった。商工リサーチの友田信男・情報本部長は「事業承継は50代の働き盛りの時期から考え始めるべきだ」と訴える。国を挙げての取り組みは緒に就いたばかり。刻一刻と時間切れが迫り、日本経済は大廃業時代に足を踏み入れつつある。



こころの健康学 自分らしく生きる大切さ 2018/2/26 本日 の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の健康面にある「こころの健康学 自分らしく生きる大切さ」です。





 平昌オリンピックが終わった。超人的なパフォーマンスに感動した人は多いだろう。私もその一人だが、その一方で、超一流の選手でもプレッシャーのために思い通りの結果を出せないことがあるという報道に接すると、人間のこころと体の複雑さを感じる。それに、ある競技に突出した才能があっても、全く別の競技で選手になれるわけではない。当たり前のことだが、人にはそれぞれ持ち味がある。

 最近、精神医療の分野でリカバリーという言葉を聞く機会が多い。この言葉は、精神疾患を抱えながらも自分らしく生きていけるようになる状態を意味する。精神症状の有無にかかわらず、それぞれの人の生き方を大切にしようという深い内容の言葉だ。精神疾患を持つ人だけでなく、私たち誰もが自分の生き方を考えるきっかけを与えてくれると、私は考えている。

 精神疾患の病態や治療に関する研究は進んできたが、原因を特定するにはまだいたっていない。完全に症状が消えないまま生活しなくてはならない人も少なくない。しかし、症状が残っていても、精神的な悩みを抱えていても、自分らしい生活を送ることはできる。

 私たちは、多かれ少なかれ、何らかのハンディキャップを抱えている。病気の治療を続けている人は少なくない。医療機関で治療するほどではなくても、何らかの配慮が必要な人は多い。経済面や年齢面など、私たちは何らかの問題に囲まれて生きている。そのときに、問題だけではなく、自分の力にも目を向けて自分らしく生きていく大切さを、リカバリーという言葉は教えてくれる。

(認知行動療法研修開発センター 大野裕)



量子コンピューターでも解けない新暗号技術、米選定急ぐKDDI総研な ど候補、数学難問使う 2018/2/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の科学技術面にある「量子コンピューターでも解けない新暗号技術、米選定急ぐKDDI総研など候補、数学難問使う」です。





 量子コンピューターでも解読が困難な新しい暗号技術の選定を米政府が進めている。2017年12月に69の候補を公表し、KDDI総合研究所など日本で開発された技術が残った。量子コンピューターの実用化が近づき、現在の暗号技術では安全性を保てなくなりかねない。3~5年かけて検証する方針で、残った暗号は「国際標準」として影響力を増しそうだ。

 電子商取引や仮想通貨などで使う公開鍵暗号は「解くのに膨大な計算が必要な数学の問題」を利用している。例えば、現在主流のRSA暗号は整数を素数の積で表す「素因数分解」を利用する。数百ケタという大きな数の素因数分解は困難で、スーパーコンピューターでも膨大な時間がかかるため、安全が守られる。

 しかし、量子コンピューターは膨大な量の計算を並列して処理でき、素因数分解が得意だ。RSA暗号は数時間で解読される可能性がある。2030年ごろには量子コンピューターが普及し始めると予想され、現在使われている他の方式の暗号も同様の危険をはらむ。

 そこで、素因数分解よりも複雑で難しい数学の問題をもとにした新しい暗号技術が相次いで開発された。いずれも原理的には解読可能だが、量子コンピューターでも解を求めるのに膨大な計算が必要な難問を使う。既存のシステムのソフトウエアを変えるだけで、そのまま使える。

 米国の技術標準を決める国立標準技術研究所(NIST)は新しい暗号を公募し、候補を絞り込んだ。IT大国、米国の標準は世界標準となる。

 KDDI総研のほか、情報通信研究機構(NICT)、東芝が提案した暗号が残った。KDDIの技術は「線形符号の復号」、情通機構は「格子点探索」、東芝は「非線形不定方程式の求解」という数学の難問を下敷きにしている。いずれも計算量を減らすなどの工夫で解くことは困難だとわかっている。

 米標準技術研究所は新しい暗号の条件として、しらみつぶしに解を調べるには10の80乗回以上の計算が必要なことを挙げた。現在の最高性能のスーパーコンピューターでも少なくとも10の50乗年以上かかり、量子コンピューターでも相当な時間がかかるとみられる。

 候補に残った新しい暗号技術は公開され、世界中の研究者に攻撃してもらうことで安全性を確かめる方針だ。東芝の秋山浩一郎研究主幹は「暗号の研究者は色々な攻撃法を知っている」と話す。

 ただ、新しい暗号技術も万全ではない。「量子コンピューターでも解くのに膨大な計算が必要な数学の問題」に頼っている。検証後も新たなアイデアが生まれ、安全性の大前提が崩れる可能性がある。常に改良を施して進歩させる必要がある。

(大越優樹)



風見鶏 登記が阻む日本の成長 2018/2/25 本日の日本経済 新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 登記が阻む日本の成長」です。





 衆院当選16回の野田毅元建設相は、いま自民党で「所有者不明土地等に関する特命委員会」の委員長を務めている。

 若い頃から災害対策や農業の基盤整備で土地の所有者が分からず、予算が執行できないケースを多く見てきた。近年になって「もう限界だ」と感じたのが、東京・六本木での大規模な都市再開発の例だという。

 計画から完成まで実に17年。超高層ビルや商業施設の建設工事は最後の3年だけで、大半の時間は土地所有者の探索と権利関係の調整にかかった。

 野田氏は「シンガポールなら計画が決まれば翌年にはもう工事している。スピードが命なのに、このままでは日本は世界の成長から取り残される」と語り、政府に対応を促してきた。

 全国で所有者不明の土地は九州より広く、放置すれば2040年に北海道本島の面積に迫る――。増田寛也元総務相らの民間研究会が昨年10月に発表した試算は衝撃的だった。土地が有効活用できない経済損失は累計で6兆円にのぼる。

 政府もようやく重い腰を上げつつある。菅義偉官房長官は1月に開いた関係閣僚会議の初会合で「今後、大量の相続の発生に伴い登記名義と所有者のズレが拡大すれば経済活動にも悪影響が出る」と強調した。

 政府は今国会に、土地所有者が不明でも公益性の高い事業に利用権を与える新たな法案を提出予定だ。だが、それだけでは根本的な解決にはならない。

 そもそも「迷子の土地」がここまで増えた原因は今の登記制度にある。

 東京都に住む谷口紀子さん(57、仮名)は年明けに亡き父の実家を相続しようとして驚いた。遺産分割の協議はすぐ終わったのに、所有権移転には膨大な書類が必要だと分かった。

 父母それぞれの戸籍(除籍)を祖先の地にさかのぼって集めないといけない。最後の本籍地の茨城県に出向き、長野、高知両県の自治体には手紙を送った。両親に「隠し子」などの他の相続人がいない事実を証明するため、電子化前の原簿(改製原戸籍)の写しもすべて手に入れた。

 書類集めに1カ月半を要し、ようやく21日に遠方にある法務局を訪れた。窓口で提出物に漏れがないか聞くと「事前の相談予約がないと必要書類のチェックはできません。問題があれば連絡するので、出し直してください」と言われた。

 法制審議会は16日、民法の相続分野を見直す改正要綱を上川陽子法相に答申した。「残された配偶者の居住権」や「子の配偶者らによる献身的介護の報酬分」を新設するのが柱だ。

 改正の方向性は妥当だが、遺産の分割方法はさらに複雑になる。このままなら弁護士や司法書士に高い報酬を払うか、相続自体を塩漬けにするかの二者択一になりかねない。

 自民党幹部は「長男による家督相続を戦後に均等相続に見直した時に登記を義務化し、使い勝手もよくすべきだった。法務省は改革に及び腰で、選挙の票にならないからと放置してきた政治家の責任も大きい」と反省を口にする。

 戸籍や住民票、印鑑証明はいまだに「紙頼み」だ。行政オンライン化やマイナンバー制度の旗を振っても情報の一元化は遅れ、様々な手続きが便利になった実感はまだ乏しい。

 明治150年の今年は、政府や自治体の関連行事が目白押しだ。日本の発展はめざましいが、すでに「多死社会」が到来している。せっかくなら150年をただ奉祝するのではなく、遺産相続すら簡単にできない現状を少しは近代化したらどうだろうか。

(編集委員 坂本英二)



税や社会保険料、負担増は会社員に偏る 2018/2/24 本日の日本経 済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「税や社会保険料、負担増は会社員に偏る」です。





 会社員の給与所得控除縮小などを柱とする2018年度税制改正関連法案の国会審議が始まった。子育て世帯でない高額所得者の税負担はさらに増すが、じつは相次ぐ社会保険料引き上げなどで会社員の可処分所得はこの10年、増えるどころか減少している。日本経済の活力を保つには、消費の担い手でもある会社員への過度な負担のしわ寄せを避け、稼ぐ意欲を高めることが欠かせない。

 「過去20年間の日本の可処分所得の伸びはほぼゼロ」。前日銀副総裁の山口広秀・日興リサーチセンター理事長らが公表したリポートが話題だ。1990年代後半から企業の賃金カットが続きデフレを引き起こす一因になったという。

 可処分所得は個人の家計収入から税金や医療・年金といった社会保険料などの義務的費用を差し引いたもので、教育費や普段の生活費などをはかる重要な目安だ。賃金デフレが続いた一方で、高齢化に伴う保険料負担の伸びが長期にわたってこの可処分所得を圧迫し続けている。

 税理士の伊藤謙信氏が夫婦で子どもが1人いる世帯を対象に、2017年の可処分所得が07年からどう変わったかを当時の様々な制度をもとに試算したところ、年収500万円世帯では約12万円減、年収1500万円世帯で約33万円減という結果が出た。いずれもこの10年で3%前後減った。

 背景にあるのは厚生年金保険料や健康保険組合に支払う医療保険料の上昇だ。例えば、年収1000万円世帯の社会保険料は約27万円増えた。

 個人所得税は社会保険料が増えた分、所得から控除して税負担を軽減する仕組みがある。このため年収500万円と1000万円の世帯では実質的な負担がやや減ったが、社会保険料の増加がはるかに大きい。年収1500万円となると税金と社会保険料の増加がダブルパンチで効いている。

 これからも会社員の負担増は目白押しだ。まず社会保険料。政府は18年度予算案に医師らの報酬引き上げを盛り込み、このコストをまかなうため個人の負担は増える。

 税制も同じだ。今年から専業主婦世帯に適用する配偶者控除は一部の世帯で縮小・廃止になる。年収1500万円の専業主婦世帯では負担が約15万円増える。

 さらに18年度税制改正も高所得者の増税案が入る。給与所得控除の縮小などに伴い、子育てや介護の必要がない年収1000万円世帯では20年から約4.5万円の増税だ。

 超高齢化社会では社会保障費の負担を分かち合うのは避けられないが、政策立案で肝心なのは所得階層ごとに負担の公平性と納得感があるかだ。

 たとえば日本の税制では、所得が1億円を超えると実質的な所得税の負担率が落ちていく。給与よりも株式売却益や配当収入などの金融所得が大きな比重を占めるためだ。フランスでは金融所得の税率は15.5%から60.5%と大きな幅があるが、日本はこの税率が一律20%と先進国ではやや低めだ。

 一方で低所得者の保障も手厚い。夫婦子2人の場合、年収350万円程度までは、働いても働かなくても可処分所得に大きな変動がない仕組みになっている。生活保護制度から、給与収入が基準に満たない分のお金は補填されるからだ。

 その手厚さゆえに、働ける人の就労意欲をそいでいる可能性もある。「日本の社会保障は就労のインセンティブ誘因が効かない」(日本総合研究所の湯元健治副理事長)

 フランスでも「連帯手当」と呼ばれる生活保護制度に近い制度があるが、給与収入が増えれば増えるほど可処分所得も上昇し、個人の就労を後押しする仕組みだ。

 低所得者の税率も低い。日本では所得税がかかる最低金額(課税最低限)が夫婦と子ども2人で285万円と、欧米とそれほど大きな差はない。だが、適用税率をみると日本は5%の人が納税者全体の6割に上る。英国では税率10%超から20%以下の人が8割だ。

 「とりやすいところからとる」という小手先の税制改正に陥りがちな日本。2018年春季労使交渉が本格化し企業の賃上げが焦点になっているが、保険料や増税で会社員の実質的な所得はますます伸びづらくなっている。国会論戦では保険料や税も含む全体の負担構造を見据えた改革議論が必要だ。(飛田臨太郎)



中国、海洋強国へ着々 海外港湾30カ所に 4空母群 運用の観測 2018/2/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「中国、海洋強国へ着々 海外港湾30カ所に 4空母群運用の観測」です。





 中国が強い海洋国家を意味する「海洋強国」への布石を着々と打っている。産油国の中東と中国大陸をむすぶシーレーン(海上交通路)上の要衝に港湾の利用権を相次いで獲得、将来は軍事転用する可能性が指摘される。海軍力を拡充し、世界最強の米海軍に対抗する力も蓄えつつある。大陸国家の中国には、エネルギーや物資を安定調達できる海路の確保が国家経営の優先課題の一つだ。海洋での勢力拡大はとどまらない。

 「我が国がレールガンを搭載した軍艦を世界で初めて建造か」。2月上旬、巨大な砲塔を載せた中国海軍の揚陸艦の写真が中国のSNSで一斉に広まり、話題をさらった。

■国防費17兆円超

 レールガンとは大電流で砲弾を加速させる大砲。射程は200キロメートルと既存の10倍で、標的に達する速度や破壊力が格段に高い。中国当局は沈黙を守るが、米国も開発中の先端兵器で中国が先手を打ったとみる専門家もいる。

 2030年までに4つの空母打撃群を運用する――。香港紙は海軍専門家の話を伝えた。中国は12年、制海権を握るのに不可欠な空母を初就役させた。旧ソ連製の艦体を改修した。17年には初の国産空母が進水し、上海で3隻目の建造も進むとされる。

 中国の国防費は17年に、1兆元(約17兆円、国内総生産の1.3%程度)を超えた。2000年比で約10倍増。70カ国に800の基地を持ち、11の空母群を運用する米国の3割だが、世界2位として着々と追い上げる。陸軍中心だった中国は海軍力の強化を重点分野の一つとする。キヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦研究主幹は「インド洋・西太平洋や中東に展開する米艦隊に対抗できる軍事的な存在感を確立するため、質より量の方針で海軍を拡大させている」と意図を読む。

 「海洋強国の建設を加速させる」。習近平(シー・ジンピン)国家主席は2期目の指導部を決めた昨年10月の共産党大会でこう訴えた。天然資源を中国大陸に運び込むため、米国の干渉を受けない海路の確保が念頭にあるとされる。強い海軍力は海路の安全を担保できる実力を意味する。さらに庭先とする南シナ海からインド洋、中東沖にいたる海路上に港湾の利権を次々と獲得。中国船の寄港地とし、海路の安定運営をめざす。

 17年12月、スリランカの港湾局は南部ハンバントタ港の運営権(99年間)を中国に正式に譲渡した。08年から中国資本を中心に約13億ドル(約1400億円)を投じて整備。スリランカ政府は金利の高い整備資金を返済できず、17年7月に中国への運営権譲渡で合意していた。アラビア海とインド洋の中間地点にあり、国境紛争を抱えるインドの鼻先に位置する港だ。

■政府系が先兵に

 中国は13年、独自の広域経済圏構想「一帯一路」を打ち出し、政府系金融機関や国有企業が海外で大型港湾の建設を推進。7港湾の利権をすでに握り、17年末までに整備支援などの協定を結んだ港湾を含めると計30にのぼる。

 中東から原油を運ぶ際に通る難所のマラッカ海峡を迂回するルートの確保もメドをつけつつある。同海峡はインド洋と南シナ海を結ぶ最短ルートだが、幅は70キロメートル程度、平均水深は約25メートルと浅い。有事となれば、米潜水艦などが海峡を封鎖するとの危機感が中国側に強くあるとされる。

 パキスタンのグワダル港を2億ドル弱の支援で建設し、15年に43年間の利用権を取得。同港と中国北西部をパイプラインと鉄道で結ぶ計画だ。開発を主導するミャンマー西岸のチャオピュー地区は、国境を接する雲南省まで800キロ弱のパイプラインが開通。第三国に干渉されやすいマラッカ海峡を通らず中国大陸に直送できるようにする狙いだ。

 防衛研究所の山口信治主任研究官は「民間利用を前面に港湾の管理権を取得し、非常時に中国人民軍も軍港として活用する可能性がある」と指摘。海外港湾は、軍事転用も含めて中国の中長期的な防衛戦略を補完するとみる。

 「(1840年に始まった)アヘン戦争後に列強の進出を受けた歴史のトラウマを克服したい」(宮家氏)かのように海洋の勢力拡大に突き進む中国は、戦後の国際秩序に挑んでいると米国には映る。

 「過ぎ去った世紀の現象のように片付けられるが、強国同士の競争が再来している」。海洋覇権を握る米国は昨年12月公表の国家安全保障戦略で、かつての列強による帝国主義的な領土拡張競争を念頭に中国やロシアを経済・軍事の力で封じ込めると宣言した。海洋を舞台にした米中の対峙はますます強まり、世界は無関係でいられない。

(川上尚志)



民泊、日本も欧州並みにエアビーCEOに聞く 法施行で市場拡大 に期待 2018/2/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「民泊、日本も欧州並みにエアビーCEOに聞く 法施行で市場拡大に期待」です。





 一般住宅に旅行者などを有料で泊める民泊仲介の世界最大手、米エアビーアンドビーが日本の事業を広げている。6月に迫る住宅宿泊事業法(民泊法)の施行は社会的な認知が進む一方で営業日数に制限が生じる。日本経済新聞の取材に応じたブライアン・チェスキー最高経営責任者(CEO)は登録物件が増え、欧州のように民泊が広がることへの期待を示した。

 ――日本で6月に民泊を解禁する民泊法が施行されます。

 「長い間、法的にグレーだった民泊が正当なビジネスだと認められるようになり、日本市場の成長に弾みがつくとみている。日本は人口減少で空き家が増えている。有効活用が進めば地域経済にもプラスになるだろう。今後は東京五輪も控えており、エアビーにとっても日本事業拡大の道筋になると期待している」

 「これまでも世界中の都市とパートナーシップを結んできた。登録や納税の必要性、営業日数の制限などがあっても、一度合法だと認められれば、ほとんどの場合、その都市での成長は加速している。日本でも認知されることで民泊が急速に普及するとみている」

 ――日本事業は物件数が約6万件です。今後の日本市場の成長力をどう見ていますか。

 「東京、京都、大阪は急成長している。東京と京都は以前から伸びていたが、特に大阪の成長がめざましい。フランスの登録物件数は45万件だ。日本もその規模になってもおかしくはない」

 ――2018年中には新規株式公開(IPO)をしないと表明しました。急がない理由は。

 「公開企業として市場からの圧力に直面する前に、自分たちがどんな企業でありたいかをはっきりさせて体制づくりをしないといけない。そのためには時間もかかる。例えば会社の運営方針として何に重点を置くかを完全に理解している取締役会の構築が必要だ。そうでなければ四半期ごとの業績目標達成という短期的なゴールに縛られることになる」

 「企業が株式公開する理由は4つあるだろう。第1に運転資金の調達だが、その必要は無い。第2が企業ブランディングのためのイベント、第3が企業買収のための資金調達だが、どちらも無用だ。最後が株式の流動化。これが一番重要な理由となるが、(エアビーの)投資家は長期的な投資を望んでおり、株を手放すよりもさらに購入することを希望している」

 「来年にはIPOに向けた社内の準備は整うが、必ずするとは限らない。株式の流動化に対する必要性と体制のできあがり具合とのバランスを見てタイミングを決める」

 ――民泊仲介にとどまらず事業領域を広げています。16年に始めた体験イベントの仲介サービス「エクスペリエンス」の進捗状況は。

 「急速に伸びている。民泊仲介を始めたときに比べて浸透が速い。現時点でエクスペリエンスの数は5000件しかないが、新たに5万5000件の認定作業を進めている。将来的にはエクスペリエンス事業はホーム事業と同規模の売上高になるはずだ」

(聞き手はシリコンバレー=藤田満美子)

 ブライアン・チェスキー氏 ニューヨーク州出身。名門美術大学の米ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)の工業デザイン学科を2004年に卒業。RISDで知り合ったジョー・ゲビア氏らと共にエアビーアンドビーを08年に創業した。36歳。 エアビーアンドビーは世界191カ国で事業を展開し、登録物件数が約450万件を超える世界最大の民泊仲介サイトに育った。推定企業評価額は300億ドル(約3兆2千億円)以上。日本には14年に進出し、年間580万人が利用する。



なぜホンダだったのか ジェット初の年間首位 2018/02/22 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「なぜホンダだったのか ジェット初の年間首位」です。





ホンダのビジネスジェット機「ホンダジェット」の2017年の納入機数が機種別で初の年間首位となった。機体サイズや市場は異なるものの、開発が難航する三菱重工業の小型旅客機「MRJ」と比べ躍進ぶりが際立つ。航空機参入の壁を乗り越え、ホンダが結果を出せたのはなぜなのか。

「例えるなら空飛ぶスポーツカーです」。ホンダジェットの生みの親である藤野道格氏は21日、こんなコメントで喜びを表現した。

7人乗りのホンダジェットの最大の特長はエンジンを主翼の上に置く独特の設計にある。胴体にエンジンを取り付ける競合機と比べ室内空間を広く取れ、騒音も小さい。世界の航空機メーカーでは唯一、ジェットエンジンを自社で供給し、燃費性能が競合機より最大2割、最高速度も1割ほど高いのが強みだ。

販売網も自社で展開し、実績のある米企業から営業担当を引き抜くなど体制を整えてきた。今回は北米の好調が首位奪取につながったが、藤野氏が今、足しげく通っているのがアジアだ。17年にタイで1号機を納入し、1月末には中国・広州にもディーラーを開設。「空飛ぶスポーツカー」のコンセプトを持ち込み成長市場で勝負する。

ホンダがジェット機の研究を始めたのは1986年。研究所内の一角で事業化の期限も決めず、当初は知見の蓄積に徹した。初号機を引き渡す15年末までの約30年間、売り上げはゼロだった。

資金が潤沢だったわけではない。業績が悪化した97年には、藤野氏が当時の川本信彦社長に直談判しチームを存続させたが、条件は「事業化を前提としない研究目的」。事業化を決め、初めて工場を建設するなど本格的な投資を始めたのは06年だ。この時点で開発着手から20年たっていた。

いわゆる日の丸ジェットを巡っては、08年に事業化を決めた三菱重工が5度の遅延で納入時期が当初より7年遅れ、危機に立たされている。それでも事業化決定からはまだ10年。商用化まで10年というのは航空機産業ではむしろ一般的だ。ホンダは事業化決定から9年で商用化にこぎ着けたが、それまでに20年に及ぶ助走期間があった。

現状だけを比べれば明暗が分かれているものの、ホンダも日本企業で初となる米当局からの認証取得には手を焼き、初号機納入は5年遅れた。そもそも航空機の開発遅れは日常茶飯事。米ボーイングも中型機「787」で7度も延期している。異業種が参入への高い壁を乗り越えるには我慢が欠かせない。ホンダジェット成功の背景には、技術者の「遊び」を重視した、創業世代から続くホンダ流の「我慢の新事業育成法」がある。

もっとも順調にみえるホンダジェットも収益貢献は道半ば。17年4~12月期の営業損益は300億円強の赤字だった。納入機数が増えてもサービスなどで稼ぐには時間がかかる。ビジネスとして軌道に乗せるまでの我慢はもう少し続きそうだ。

(杉本貴司、古川慶一)