風見鶏 小泉氏は農林族なのか 2018/4/29 本日の日本経済 新聞より

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 「族議員」という言葉がある。批判的な人は政治の利益誘導を連想し、専門家を自負する当人は言葉の響きに反発する。実態はどうなっているのか。

 4月13日朝、東京・永田町にある自民党本部で、農産物輸出に取り組む生産者や事業者を集めて会合が開かれた。「事業で日々感じていることをぜひ率直に話してほしい」。正面の「ひな壇」中央でそう話したのは小泉進次郎氏だ。

攻めの農家を応援する(福島県の内堀知事とともに福島産の桃をPRする小泉氏(右))=共同

 小泉氏が党農林部会長を退いて8カ月。引き続き農政の核にいるのは確認できたが、気がかりなこともあった。議員席に空きが目立ったのだ。2015年に部会長に就いたころは違った。環太平洋経済連携協定(TPP)対策の会合は大勢の出席者で室内は汗ばむほどで、小泉氏が促すと競い合うように発言した。

 輸出のような「攻め」に関心のある議員は少なく、市場開放におびえる農家を「守る」ことばかり考えているのか。それを小泉氏に聞くと、答えは「アンフェアだ」。「TPPのような国論を二分する問題」と輸出を同列に並べるべきではないというのがその理由。さらに農業と政治のリアルな関係を語った。

 「輸出するような農家は独立独歩で数が少なく、政治の関与はまずない。一方で多くの農家はもうかっていなくて、輸出もしていない。政治がそちらをメインにするのは当然だ」

 ここで昔の農林議員の声を紹介しよう。谷津義男元農相は1986年に初当選したとき、竹下登幹事長に「食べ物のことをT字型で勉強してほしい」と言われたという。他分野は浅くていいが、農業は深く掘り下げろという意味だ。

 谷津氏は「昔は大議論があった」と懐かしむ。党の会議で意見が対立すると、ときに灰皿が飛んだ。思わず相手の胸ぐらをつかみ、逆に背負い投げでたたきつけられた議員もいた。今はTPP関連の会合でさえ、言うだけ言うと部屋を出る議員が少なくない。

 何が変わったのか。谷津氏は「(96年の衆院選で始まった)小選挙区制で専門家が育ちにくくなった」と話す。一般論としては正しいかもしれないが、制度だけが原因だろうか。

 票を投じる側と政治との関係に目を転じてみよう。全国農業協同組合中央会(JA全中)によると、かつては議員への「突き上げ」が中心だった。市場開放への反対集会で煮え切らない態度の議員がいると、激しいヤジが飛んだ。

 今そうした迫力は影を潜めた。農家の数が大幅に減ったうえ、「いくら自由化に反対しても無駄」という諦めムードが広がっているからだ。以前は農林部会に出ない議員に対して農協の幹部たちは「出席してこう発言してほしい」と迫ったが、今は「農業に関心を持ってください」と懇願することが多くなった。

 選挙制度が変わって議員が1分野に特化するのが難しくなり、農家は政治を動かすことが難しくなるほど数が減った。小泉氏が応援する攻めの経営者もまだまだ少数派だ。だが農家が減って生産基盤が弱体化したことで、食料問題はむしろ切実になっている。

 福島大の生源寺真一教授は「国民全体が農業の生産する食と田園風景の受益者であることを、政治は訴えるべきだ」と指摘する。これに関連し小泉氏は「都会のコンクリートジャングルの真ん中で農業を語っても心に響く」と話す。

 正論だろう。だがそう言える人がもっと増えなければ、ものごとは動かない。農業が国民全体に関わるテーマであるのなら、すべての議員が「農林族」であるべきなのだ。

(編集委員 吉田忠則)



北朝鮮制裁の緩み懸念 ラッセル元米国務次官補に聞く南北首脳、 意図的に親密さ示す 2018/4/29 本日の日本経済新聞より

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 朝鮮半島の「完全な非核化」を実現することなどで合意した27日の南北首脳会談について、米国の元国務次官補(東アジア・太平洋担当)のダニエル・ラッセル氏に聞いた。

ラッセル元米国務次官補

 ――南北首脳が「完全な非核化」をめざす板門店宣言に署名しました。

 「非核化については明確ではない。北朝鮮は過去にはもっと明快に核放棄を約束していた。例えば(核兵器の生産、使用などの禁止を盛った)1992年の南北非核化共同宣言がそうだ。(すべての核兵器と既存の核計画の放棄をうたった)2005年9月の6カ国協議の共同宣言もある。今回の宣言はそれほどの内容ではない」

 「確かに首脳会談が開かれたことは良いステップだ。しかし、だからといってこれまで金正恩(キム・ジョンウン)委員長が国際法や国連安全保障理事会決議に違反する脅威を高めてきたことに責任がある事実を変えることはできない」

 ――会談で両首脳の親密ぶりが印象的でした。

 「両首脳とも意図的に演出しようとしていた。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の場合、任期の早いうちの南北会談によって進歩的な政策の実現に弾みをつける。さらに米国に軍事行動をとらせない狙いがあったとみる」

 「金委員長は自らのイメージを変えようと試みた。兄を殺害し、米国人を拘束している専制主義的な独裁者像から転じ、洗練され、平和を語る分別のある首脳として印象づけようとした。両首脳にとって壮大な見せ物だった」

 ――米朝首脳会談に向けて何が課題ですか。

 「全ての核施設や核計画、核兵器の放棄を宣言するのか。それは信頼できるのか。国際原子力機関(IAEA)の査察など完全な検証を認めるのか。これらが満たされて初めて良い方向に向かっていると言える」

 ――核放棄の完了期限を示すべきでは。

 「仮に合意したとしよう。彼らの戦術は課題を細分化し、一つ一つについて交渉し、激しくやり合って時間を稼ぎ、見返りを引きだそうとするだろう。期限を設定するのはいいが、それは信頼に足るものにしないといけない」

 ――トランプ政権は完全な非核化まで圧力を維持するとしています。

 「言うのは簡単だ。ただ、米朝首脳会談でトランプ大統領が金委員長と握手している場面を世界の国々がみれば、事態が好転しているとの印象を受け、もう心配いらないとなるだろう」

 「この意味で、中朝、南北両首脳会談によって北朝鮮は大きな利益を得たといえる。『最大限の圧力』は『最低限の圧力』になった。制裁の枠組みは残ったが、その履行レベルは落ち続ける。制裁は事実上緩んだ。いったんそうなると再び締めるのは極めて難しい」

 「また、各国の首脳はもろ手を挙げて金委員長と会談したがっている。それは北朝鮮に正当性を与え、実質的に核保有国としての北朝鮮と関係を正常化することになると理解されるだろう」

(聞き手はワシントン=永沢毅)



限界都市 コンパクト化の虚実(下)和歌山市、規制強化の衝撃中 心部高騰開発難しく 2018/4/28 本日の日本経済新聞より

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 和歌山市郊外の岡崎地区。昨年11月に訪ねると、田畑が広がる中で新しい一戸建てが連なる風景に出くわした。「のどかな環境がいいなと思い、1年前に和歌山駅近くから引っ越してきた」。約10棟が立つ区画で子ども連れの主婦に聞くと「周りはみんな若い世代」という。すぐ隣でも分譲用宅地が造成中だった。

和歌山市の岡崎地区では農地転用が進んだ

 同地区の大半は本来、住宅建設が厳しく制限される市街化調整区域だが、農地から宅地への転換が急速に進んだ。決め手は2005年に市条例で導入した「50戸連たん制度」。隣接市への住民流出を食い止めるため、50戸以上が連なる地区に隣接すれば分譲住宅を建設できるようにした。

坪単価1割上昇

 だが、裏目にでて「数珠つなぎのように住宅が際限なく広がってしまった」(都市計画課)。郊外に集落が散らばるとゴミ収集や道路・水道整備、福祉サービスの効率が悪化し、財政負担が増す。副作用に気付いた市は17年4月に50戸連たんの原則廃止を柱とする規制再強化に踏みきった。

 これに慌てたのが地元業者だ。規制強化前の17年1~3月は調整区域の開発申請が27件と前年同期より約4割も増加。その後は開発できる土地は大幅に減った。くだんの岡崎地区で造成が続いていたのは、駆け込み申請案件の消化だ。

 「種地が取り合いになり、仕入れにくくなった」。不動産取引を営む際(和歌山市)の中林英樹専務はこう嘆き「この1年間で坪単価が1割も上がった地区もある」と明かす。

 中心市街地では値上がりを狙う地主が土地を手放さなくなる一方、所有者不明の空き地や空き家が増えている。都市の活性化にはほど遠く、別の不動産会社の会長は「これからどうやって食っていけばいいのか」と頭を抱える。

農地の荒廃懸念

 農家も複雑だ。和歌山市農業委員会の谷河績会長は「いい農地がある調整区域は開発を規制したらいい。だが後継者がいない農家が土地を売るのもやむを得ない。そこが難しい」と語る。売り先がない農地が荒れれば、環境は悪化する。

 和歌山市はコンパクトシティー形成に向けた立地適正化計画を作り、都市機能を誘導する区域を設定済み。今年10月から居住誘導区域も運用する。この実効性を高めるために、郊外開発の規制を強める決断は理にかなったものといえる。

 だが単純に規制を強化するのではなく、その副作用を緩和する手立てが必要だ。地元の不動産業者からは「中心部の空き家を更地にすれば我々が干上がることもなく、中心市街地にもっと住民や店舗を呼び込める」との声があがる。

 多くの自治体は和歌山市のような規制強化に及び腰だ。郊外の集落から反発が起きるのを恐れている側面が強いが、意欲だけでは乗り越えられない。空き家対策や就農支援などを含めて横断的に課題を解決する必要がある。「和歌山市の衝撃」を後ろ向きに捉えるのではなく、コンパクトシティー実現に向けた糧とすべきだ。

(鷺森弘)



地域経済を「見える化」する(2)データに基づく施策可能に 中村 良平岡山大学特任教授 2018/4/27 本日の日本経済新聞より

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 情報通信技術の発達で、以前には考えられなかった様々なビッグデータの利用が可能になっています。社会科学分野では個人や事業所単位のデータであり、それらの活動に関わる、移動といった空間的側面も数値情報として利用できるようになっています。それによって当然、まちづくりや地域振興のあり方も変わってきます。

 兵庫県豊岡市はビッグデータを活用し、ターゲットを絞った観光客の誘致に取り組んでいます。インバウンドブームで同市の城崎温泉には多くの外国人観光客が訪れます。2014年に1万3877人だった外国人宿泊者数は、15年に3万1442人、そして17年には4万5107人に急増しました。

 同市がWi―Fiやスマートフォンを利用する外国人客の行動を解析した結果、京都や大阪方面から列車で訪れるだけでなく、姫路城を観光してからバスでやってくる外国人客が意外に多いことが判明しました。利便性を高めようと発車時間の見直しをバス会社に働きかけたり、国籍による宿泊日数の違いを分析してニーズに合った宿泊対策を打ち出したりするなど、従来の経験や思い込みによる施策ではなく、客観的データに基づいた施策を実施できるようになりました。

 こうした観光客の動線に関するビッグデータの一部は、国が運用している地域経済分析システム(RESAS)でも利用できるようになっています。

 ただ、ビッグデータを使って見える化しても、そこで「何をすれば、何がどうなる」という考え方(理論モデル)に基づいた分析がなければ、目標が達成できなかった場合に、その原因にまでたどり着くことができません。

 希望的な目標値を掲げれば良い、というのは大きな誤りです。定量的な分析をする際、利用できるのは個別のデータではなく、市町村単位に集計されたデータという場合も多いでしょう。それでも、データに基づく分析をベースにした政策や個別の施策であれば、必ずその結果について検証から施策の見直しというフィードバックをすることができ、次の施策へとつなげられるはずです。



パンゲアの扉 つながる世界 覆る常識(5)情報の鎖がお 墨付き崩れ始めた中央集権 2018/4/27 本日の日本経済新聞より

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 「このワインはブロックチェーンで本物と証明されます」。イタリアの高級メーカー、キャンティーナ・ボルポネ。ラベルに刷られたQRコードをスマートフォン(スマホ)で読むと、こんなメッセージが表れる。

ラベルのQRコードとブロックチェーンが紐付けされたワイン

流通過程透明に

 ブドウの栽培地や醸造履歴、温度管理……。製造から小売りまでの過程でボトル一本一本に関し真正品や品質の証しとなる情報を改ざんが困難な基盤の上でつなぎ合わせ、消費者に透明に示す。

 世界に流通するワインは高級品から廉価品まで2割が偽造品といわれる。本物なのか、味は良いのか悪いのか。目利きを担ってきたのは有名販売店やソムリエといった知識と経験で信用を得た一握りのプロだけだったが、信頼に足る情報の鎖が「お墨付き」を与える。

 海外にいる出稼ぎ労働者から年280億ドル(約3兆円)が流れ込むフィリピン。平均6%だった国際送金コストが1~2%になる新サービスが広がる。ブロックチェーンを基盤とする仮想通貨を活用し、世界中とお金を瞬時にやりとりして手数料を抑える。規制や銀行を経由するといった法定通貨の権威を守る仕組みに支配されない自由なマネーの流通が、巨大市場に効率をもたらす。

 ネットワーク参加者の間で、取引などの内容を暗号データで記録する「台帳」を分散して共有するブロックチェーン。活用対象を広げながら、価値に「太鼓判」を押すのは特定の誰かや権力者だけという20世紀までの当たり前を崩してゆく。

 21世紀に押し寄せるのは、値打ちを担保する力の源が無数の個に分散する非・中央集権の奔流だ。お金を保証する中央銀行の意義を仮想通貨が問うように、世界を行き交うヒト・モノ・カネを統治してきた国家の機能も揺さぶっている。

ネット上に戸籍

 アフリカ各地では昨年から、国連の後押しで身分証のない人に「電子ID」を発行するプロジェクトが始まった。指紋や虹彩の生体認証を用い、二重登録を防げるブロックチェーン上で一人ひとりの「戸籍」を作成。銀行口座開設や医療機関などで使えるようにする。

 世界では11億もの人が法的な身分証を持たない。国家に属さないと存在の裏付けさえなく、生活に必要なサービスを受けられないが、行き届かぬ行政を肩代わりする。

 欧州ではもっと先の動きがある。デジタル空間での仮想国家「ビットネーション」の樹立だ。ブロックチェーンをもとに同性愛者の婚姻届を認めたり、難民に身分証明書を発行したりする。実社会での法的効力はまだないが、既存国家が受け付けないアイデンティティーを持つ人々の受け皿を目指す。中央政府は置かず、統治に国民が自主参加する分権を提唱する。

 ビットネーションに共鳴し「市民権」を得た人は1万5000超。出生地や居住地といった制約に縛られず、自分の国は理想に合う国を自由に選ぶ。デジタル技術の進歩に伴い新たな価値観が広く浸透していくと、そんな時代が当たり前になっても不思議ではない。

(この項おわり)

 竹内康雄、植松正史、柴田奈々、遠藤淳、堤正治、黄田和宏が担当しました。



やさしい経済学 地域経済を「見える化」する(1)データを 基に域内循環把握 中村良平岡山大学特任教授 2018/4/26 本日の 日本経済新聞より

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 安倍内閣が2014年に「地方創生」という言葉を使い始めてから4年近くになります。その中心課題は地方の人口減を食い止めることと持続可能な地域経済の形成です。そのために、ほとんどの地方自治体が将来人口を展望した「地方人口ビジョン」と、それを土台にした「地方版総合戦略」を作成してきました。

 この地方創生という言葉は「新たな地方を生み、創る」と読み取れ、クリエイティブな響きがあります。しかし、つまりは地域振興のことであり、地方活性化策として過去に何度も講じられてきました。例えば、竹下内閣は「ふるさと創生事業」を打ち出し、1988、89年度に全国の市区町村が自由に使える交付金1億円を配分しました。自治体のユニークな使い方が話題になりましたが、その経済活性化効果が検証されたという記憶はありません。

 また小渕内閣は99年に1人2万円分の「地域振興券」を配りましたが、対象を高齢者や子育て世帯に限ったこともあって家計消費支出に目立った増加はなく、景気回復に結びついたとの評価もありません。その後も、福田内閣の時には「地方再生」がありました。

 今回の地方創生についても、自治体が取り組むにあたって同様の課題があります。外国人観光客の増加を地域の活性化につなげたいと考える自治体は多いですが、どのように検証すればいいでしょうか。あるいは地域に立地する製造業の受注が増えたとして、それがどの程度、地域に還元されるのでしょうか。イベントを開催しても、その効果は実際には、どこ(誰)に波及しているのでしょうか。

 これらはいずれも地域内の経済のつながりを数字で把握する、つまりは地域の「経済循環」のあり方を把握することが必要だということを示しています。そのためには、データを基に地域経済を「見える化」することが重要になります。この連載では、データに基づいて地域経済を「見える化」し、地域の経済構造を把握する意義やその方法、課題などについて実例を交えて解説していきます。

 なかむら・りょうへい 京都大卒、筑波大博士。専門は都市経済、地域経済



中外時評 中国で進化する「真昼の暗黒」上級論説委員 飯 野克彦 2018/4/26 本日の日本経済新聞より

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 「電視認罪」という中国語がある。直訳すれば「テレビ自白」。より正確に意味をくみとるなら「テレビを通じて罪を自白すること」といったところか。

 具体例をあげてみたい。2016年7月6日、中国国営の中央テレビ(CCTV)は、中国大陸の禁書を主に扱う香港の銅鑼湾書店の店長だった林栄基氏が「私は中国の法律の条文に違反した」と語る様子を放映した。

 映像は、禁書を持ち込み販売した疑いで林氏が当局の取り調べを受けていたときのもの。CCTVが流したのは、刑事事件の容疑者が裁判を受ける前の段階で「自白」する映像だった。「電視認罪」の典型的なパターンである。

 被告が公判のなかで罪を認める様子を、有罪判決が出たあとにテレビで放映するのは、中国では珍しくない。いわば見せしめとして、あるいは政治宣伝として。ただ、容疑者の段階での放映は最近になって目立ってきた現象だ。

 林氏と同じく銅鑼湾書店の幹部だった桂民海氏。人権派の女性弁護士として知られた王宇氏。人権擁護のためのNPOを運営していたスウェーデン人のピーター・ダーリン氏。世界的な関心を集めた彼らは、いずれも15年以降にカメラの前で「自白」する様子が放映されている。

 実際には、もっと早い段階から「電視認罪」があった。国際的な人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」が今月はじめに出した報告によれば、遅くとも13年には確認でき、これまでに少なくとも45件あったという。

 「自白」の背後には当局による強制と誘導がある。林氏や王氏、ダーリン氏らは後に、記者会見などを通じて「強制があった」と表明した。セーフガード・ディフェンダーズの報告では、ほかにも多くの人が証言している。身の安全のため公然とぬれぎぬを晴らせないだけだと。

 強制の手口はさまざまだ。王氏の場合、子どもが拘束されていわば人質にされ「電視認罪」に追い込まれた。睡眠を妨げたりなぐったり、拷問も珍しくないようだ。

 「自白」の内容もおぞましい。強制や拷問を受けたことを否定し、中国の司法は公正だとたたえる。共産党や中国政府に感謝を表明する。一方で友人や仕事仲間を批判し、自らの拘束に関心を示した海外の人権団体や外国政府について「中国の印象を悪くする下心がある」と非難する。

 いってみれば、共産党政権の政治宣伝の道具として使われ、一方で本人が築いてきた人間関係に自ら亀裂を入れるのである。自由になったあとも心に刻まれた傷がうずき続けている人は少なくない。

 近代社会では、刑事事件の容疑者や被告は有罪判決が確定するまでは無罪だと推定されるのが、基本原則だ。自白の強制や拷問は論外だ。「電視認罪」は、二重あるいはそれ以上の意味で近代法の基本原則を踏みにじる、深刻な人権侵害といえる。

 世界人権宣言や国際人権規約はもちろん、中国の憲法や刑事訴訟法にも違反する可能性が大きい。にもかかわらず公安部門とCCTVは公然と続けている。CCTV以外のメディア、たとえば香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」や華字紙「東方日報」などが当局に協力した例もある。

 注目せざるを得ないのは、「電視認罪」を確認できるのが13年以降だという点だ。習近平国家主席が最高指導者になった翌年である。

 習主席はトップに立った直後から「法治」を強調し、司法改革に意欲を見せてきた。「すべての司法案件で公正を感じられるようにする」と述べ、人権侵害の温床だった労働教養制度を廃止したこともあって、期待は高まった。

 実態は逆流といわなくてはならない。「電視認罪」が連想させるのは毛沢東時代の「人民裁判」であり、スターリン時代のソ連の「モスクワ裁判」だ。モスクワ裁判に材をとった有名な小説の題名を借りるなら、進化した「真昼の暗黒」が21世紀に出現した印象である。

 ほかでもない、やがて世界一の経済大国になろうかという国で。



迫真 勃発貿易戦争(4)安保カードに揺れる 2018/4/26 本日の日本経済新聞より

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 「真意はなにか」。13日早朝、環太平洋経済連携協定(TPP)首席交渉官の梅本和義(66)は慌てて部下に確認を指示した。枕元の携帯電話に米国の友人から米大統領ドナルド・トランプ(71)に関するメールが届いていたためだ。「TPPへの復帰検討を指示したようだ」

トランプ米大統領は安倍首相の隣で「2国間交渉がよい」と言い切った(18日、米フロリダ州)

 米通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザー(70)は3月下旬に「日本には自由貿易協定(FTA)交渉を求めている」と明言していた。米国抜きの11カ国でまとめたTPP11の内容をトランプがのむことは考えにくい。しかし何らかの理由で翻意し、米国がTPPに戻るなら、2国間交渉への圧力は薄まるかもしれない。

 だが5日後には日本の希望はあっさり打ち砕かれた。「私はTPPには戻りたくない。2国間協定が良い」。トランプがこう言い切ったのは18日の日米首脳会談後の共同記者会見。傍らには首相の安倍晋三(63)が厳しい表情で立っていた。

 米国との2国間交渉が不利なことは歴史をみれば明らかだ。貿易赤字の是正を叫ぶトランプの姿をみるにつれ、経済産業省幹部は1970~80年代の貿易摩擦を思い出す。米国に輸入制限などの強硬策をちらつかされた日本は、まず繊維の輸出自主規制をのんだ。続いて農産物、自動車で摩擦が起き、米国で日本たたきが広がった。

 交渉で日本がどんなに経済合理性を訴えようと、「安全保障を考慮して経済で譲歩を求められるのが過去の苦い現実だった」(米国との交渉に関わってきた元経産省幹部)。いつか来た道をまたたどるのか――。

 米韓FTA再交渉で韓国に不利な条件をのませたのは在韓米軍の撤退を示唆した米国の「安保カード」だった。農林水産省幹部は「日本は北朝鮮や中国を前に丸裸になれない」と同様の展開になることを懸念する。

 安倍は日米首脳会談から帰国後、「あれがあったから踏みとどまった」と周辺に漏らした。「あれ」とは日本が提案した米国との新しい通商対話の枠組みのこと。従来の日米経済対話に不満を持つ米側の矛先を緩める作戦。首相周辺は「今回はなんとかしのげた」と漏らした。

 11月に米中間選挙を控えたトランプが日本から成果を得たいのは間違いない。ひたひたと近づく貿易摩擦の足音に外務省幹部は警戒感を隠さない。「日米経済対話は何もやらなかったという意味でうまくいきすぎた。新たな対話での先送りは許されないだろう」

(敬称略)



パンゲアの扉 つながる世界 覆る常識(3) 少数言 語の逆襲 画一より多様性に磁力 2018/4/25 本日の日本経済新聞より

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 旧ソ連の人口1780万人の国、カザフスタン。2月、ラテン文字をもとに新たに開発した32文字を母国語に採用した。ロシア語と同じキリル文字を捨て去る。考案に携わったシャヤフメトフ言語開発研究所のトレショフ所長は「カザフ語を生き残らせながら世界とコミュニケーションしやすくする」と語る。

■カザフ語を再生

フェデラー選手のツイート画面。ファンとの交流にEmojiを活用する

 カザフ語の文字は歴史に翻弄されてきた。19世紀以降、アラビア文字やラテン文字を経て、旧ソ連編入後の1940年からキリル文字になった。カザフは91年に独立国家となったが、街中にはいまだロシアを象徴するキリル文字の看板があふれ人口の2~3割はカザフ語を理解しない。

 新しい文字の導入で帝政復活を夢見るロシアの影響力を遮断し、42もあるキリル文字では「スマートフォンでの入力が煩雑」(ナザルバエフ大学のオラザリエワ准教授)との不便を解消。デジタルの波に乗せてカザフ語を再生させる。

 パクス・ブリタニカ、パクス・アメリカーナを経て、20世紀に最大の国際共通語になった英語。だが人工知能(AI)を駆使して進化する自動翻訳機能によって「英語は絶頂期を過ぎた」との論も台頭。消えゆく運命とされてきた少数言語にはデジタルの世紀で逆襲の機会が生まれている。

 19~20世紀、植民地政策を進めた欧米列強は支配の象徴として言語とともに自国の文化を染み渡らせた。コカ・コーラ、ハンバーガー、ジーンズ。米国はハリウッド映画に乗せて大衆文化を売り込んだ。だが、もはや世界がつながる手段も文化も大国主導のトップダウンによる一方通行ではない。

 「音や文字とは違う新しい言語手段としてパラダイムシフトを起こした」。上智大学の木村護郎クリストフ教授がこう指摘するのは万国共通語になった絵文字だ。日本発祥ながら「Emoji」として世界に広まり無数に生み出されている。

 「Chief Emoji Officer」。仏石油大手トタルのプヤンネ最高経営責任者(CEO)の別称だ。ツイッターで発信する経営情報を絵文字をちりばめて説明する。スイスの人気プロテニスプレーヤー、フェデラー選手のある日のつぶやきは40以上の絵文字だけだった。

■常備食は中東発

 中東の伝統食が欧米の食卓を変えている。ひよこ豆をすり潰した「フムス」と呼ばれるペースト状の食品で英国の家庭の4割が冷蔵庫に常備。米国では消費増でひよこ豆の作付けが急激に伸びている。野菜に付けて食べるディップとして「持たざる国」の食文化が「持てる国」の健康志向の消費者をつかんでいる。

 米国のジャーナリスト、トーマス・フリードマン氏は1999年の著書「レクサスとオリーブの木」で、強者主導で均一化が進むグローバル化は地域に根付く独自のアイデンティティーとのバランスが必要と指摘した。

 だがグローバリゼーションの舞台にあがる国や人々の幅がどんどん広がっていく21世紀では、どこからでも世界に影響を与える力が生まれ、広く深く溶け込んでいく。画一を超えて多様に彩られる世界にこそ、一つにつながる強い磁力が宿る。



中国、インドに急接近対米けん制へ首脳会談 2018/4/24 本日の日 本経済新聞より

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 【北京=高橋哲史、ニューデリー=黒沼勇史】中国がインドに急接近している。習近平(シー・ジンピン)国家主席は27~28日に湖北省の武漢にインドのモディ首相を招き、非公式の首脳会談を開く。米国との貿易摩擦が激しくなるなかで、領土や中国の巨大経済圏構想「一帯一路」をめぐって対立してきたインドとの関係改善を急ぐねらいが透ける。

中国の習主席(右)とインドのモディ首相は緊張緩和を探る(16年10月、インド南部ゴア)=ロイター

 武漢での中印首脳会談は、22日に中国の王毅外相とインドのスワラジ外相が北京で会談し、急きょ決まった。王毅氏は記者会見で「新たなスタートラインから両国関係をより良く、より速く発展させなければならない」と語った。

 中国側が強く働きかけたとみられる今回の首脳会談は異例ずくめだ。モディ首相は昨年9月に、新興5カ国(BRICS)首脳会議に参加するために福建省のアモイを訪れたばかり。しかも、今年6月には山東省の青島で開く上海協力機構(SCO)に出席する。1年足らずの間に中国を3回も訪問することになる。

 習主席が北京でなく、わざわざ地方に出向いて外国首脳を迎えるのも、国際会議を除けばめずらしい。3回連続で訪中するモディ首相に配慮し、少しでもインドに近い武漢に自ら足を運ぶかたちをつくったとみられる。

 1962年に武力衝突し、いまなお国境紛争を抱える中印は常に緊張関係にある。特に中国が一帯一路を打ち出してからは、安全保障上の脅威になりかねないとみたインドが警戒を強めている。昨年5月に中国が世界の首脳らを集めて北京で開いた一帯一路の国際会議に、インドは代表を送らなかった。昨年6月に中国とブータンの国境で中国が道路建設を始めた際は、ブータンの要請を受けたインド軍が出動し、約2カ月半にわたって中印両軍が一触即発の状況で対峙する危機まで起きた。今年2~3月にはモルディブ近海で海軍が一時にらみ合った。

 中国が安全保障の面で対立してきたインドへの接近を急ぐ背景に、貿易戦争を仕掛けるトランプ米政権を揺さぶるねらいがあるのは明らかだ。

 米国との交渉を有利に進めるために、中国は保護主義に反対して自由貿易を守る側のリーダーとして、仲間づくりに余念がない。南アジアの大国であるインドを自陣に引き込めば、米国に対抗するうえで優位な状況をつくれる。

 習氏が3月の憲法改正で2030年代を見据えた長期政権へのレールを敷くなか、インドの側にも習政権との過度な緊張は避けた方が得策との判断がある。ネール大のコンダパリ教授は「今回の首脳会談で大きな合意はなさそうだが、昨年の中国とブータンの国境で起きたような軍事的な緊張関係に陥らない方針で一致するのではないか」と予想する。

 インドが中国との緊張緩和を探っているようすは、国内に約12万人いる亡命チベット人の扱いをみても鮮明だ。インドはチベットを中国の一部と認めず、インド北部にある亡命政府を支援する一方、昨年から亡命チベット人にインドのパスポートを取るよう促し始めた。亡命チベット人にインド人になるよう求めているに等しい。

 モディ首相はかつて国境問題の解決と引き換えに、ダライ・ラマ14世の没後にはチベットからの亡命受け入れを止める方向で習主席と非公式に協議したとされる。パスポートの問題は、モディ首相がその地ならしに動き始めた表れともとれる。

 中国の一帯一路構想はインドがパキスタンと領有権を争うカシミール地方を通過するため、インドには譲りにくい一線だ。ただ「同地方に触れない形での協力について、今回の首脳会談で話し合う可能性はある」(コンダパリ氏)との見方も出ている。